(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ロータの内部に永久磁石を埋め込んだ構造からなるモータ(Interior Permanent Magnet Motor、IPMモータ)が知られている。このIPMモータに用いられるロータとしては、特許文献1に記載のロータがある。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に記載のロータ6は、その軸方向に複数枚の電磁鋼板を積層した構造からなる円筒状のロータコア60を備えている。ロータコア60の外周側には、ブリッジ部63を介して隔てられた一対の磁石挿入孔61,62が等角度間隔で複数形成されている。そして、複数対の磁石挿入孔61,62には一対の永久磁石70,71がそれぞれ挿入されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、
図8に示したロータコア60のように、一対の磁石挿入孔61,62間にブリッジ部63が存在する場合、一対の永久磁石70,71においてブリッジ部63の近傍から発せられる磁束が、図中に矢印で示すようにロータコア60の外周側、すなわちステータ側に向かわずにブリッジ部63を通ってしまう。すなわち、ブリッジ部63に漏れ磁束が生じるため、ロータコア60の外周面における磁束密度が減少してしまう。これによりステータコイルと鎖交する有効磁束量が減少し、これがモータの高出力化を阻害する要因となっている。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータの出力トルクを高めることのできる磁石埋込型ロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ブリッジ部を介して隔てられた一対の磁石挿入孔が周方向に複数形成されるロータコアと、各磁石挿入孔に挿入される永久磁石と、を備え、複数対の磁石挿入孔にそれぞれ挿入される一対の永久磁石が前記ロータコアの外周部分に一磁極を形成する磁石埋込型ロータにおいて、前記ロータコアには、前記一対の永久磁石の間であって前記ブリッジ部よりも前記ロータコアの外周側に補助永久磁石が設けられ、前記補助永久磁石には、前記ロータコアの周方向の幅が前記ブリッジ部に向かって徐々に細くなるテーパ部が形成され、前記補助永久磁石の前記ロータコアの外周側の磁極を、前記補助永久磁石と対向する前記一対の永久磁石が前記ロータコアの外周側に形成する磁極と同一とするとともに、前記補助永久磁石の前記テーパ部の磁極を、前記補助永久磁石と対向する前記一対の永久磁石が前記ロータコアの外周側に形成する磁極と異な
り、前記一対の永久磁石は、前記ブリッジ部を中心に前記ロータコアの外周側に向けて開くV字をなすように配置され、前記テーパ部は、そのテーパ角を「θ1」、前記一対の永久磁石が前記ロータコアの外周側でなす角を「θ2」とするとき、「θ1<θ2」なる関係を満たすように形成することとした。
【0008】
この構成によれば、一対の永久磁石においてブリッジ部の近傍から発せられる磁束は、補助永久磁石のテーパ部により吸収されるため、ブリッジ部を通る漏れ磁束を低減できる。そして補助永久磁石で吸収された磁束は補助永久磁石を介してロータコアの外周側に放射されるため、ロータコアの外周面における磁束密度が増加する。これによりステータコイルと鎖交する有効磁束量が増加するため、モータの出力トルクを高めることができる。
また、一対の永久磁石においてブリッジ部側に位置する部分ほど補助永久磁石のテーパ部との距離が近くなるため、ブリッジ部を通る磁束を効果的に吸収できる。これにより漏れ磁束の低減効果を高めることができる。
【0011】
上記磁石埋込型ロータについて、前記補助永久磁石がボンド磁石からなることが好ましい。
この構成によれば、補助永久磁石の製造の際に、その形状的な制約を受け難くなるため、上記のような形状からなる補助永久磁石を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0012】
この磁石埋込型ロータによれば、モータの出力トルクを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】磁石埋込型ロータの一実施形態について同ロータを用いたIPMモータの断面構造を示す断面図。
【
図2】実施形態の磁石埋込型ロータの断面構造を示す断面図。
【
図3】実施形態の磁石埋込型ロータについてその外周部分の断面構造を示す断面図。
【
図5】磁石埋込型ロータの変形例についてその外周部分の断面構造を示す断面図。
【
図6】磁石埋込型ロータの他の変形例についてその外周部分の断面構造を示す断面図。
【
図7】磁石埋込型ロータの他の変形例についてその外周部分の断面構造を示す断面図。
【
図8】従来の磁石埋込型ロータの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、磁石埋込型ロータの一実施形態について説明する。はじめに、
図1及び
図2を参照して、本実施形態の磁石埋込型ロータを用いたIPMモータの構造について説明する。
図1に示すように、このIPMモータは、ハウジング1の内周面に固定された円筒状のステータ2、図示しない軸受けを介してハウジング1により回転可能に支持される出力軸3、及び出力軸3の外周面に一体的に取り付けられるロータ4を備えている。
【0015】
ステータ2は、その軸方向に複数枚の電磁鋼板を積層した構造からなる。ステータ2の内周面には、径方向内側に向かって延びる12個のティース20が形成されている。各ティース20にはステータコイル21が巻回されている。
【0016】
図2に示すように、ロータ4は、その軸方向に複数枚の電磁鋼板を積層した構造からなる円筒状のロータコア40を備えている。ロータコア40の外周側には、3つの永久磁石50〜52で一組をなす磁石群5が周方向に等角度間隔で10組埋め込まれている。一組の磁石群5は、ロータコア40の外周部分にN極及びS極のいずれか一方の磁極を形成する。これらN極を形成する磁石群5、及びS極を形成する磁石群5がロータコア40の周方向に沿って交互に配置されることにより、ロータ4には10極の磁極が形成される。
【0017】
このように構成されたモータでは、
図1に示すステータコイル21に三相の電流が供給されると、ステータ2により回転磁界が形成される。この回転磁界に基づいてロータ4の各磁石群5が吸引されることによりロータ4にトルクが付与され、出力軸3が回転する。
【0018】
次に、一組の磁石群5の構造について詳述する。
図3に示すように、ロータコア40の外周側には、ブリッジ部41を介して隔てられた一対の磁石挿入孔42,43が軸方向に貫通するように形成されるとともに、それらの間に磁石挿入孔44が形成されている。そして一対の磁石挿入孔42,43に挿入される一対の永久磁石50,51、及び磁石挿入孔44に挿入される補助永久磁石52により一組の磁石群5が構成されている。
【0019】
一対の永久磁石50,51は焼結磁石からなり、対応する一対の磁石挿入孔42,43に軸方向から挿入される。一対の永久磁石50,51は、ロータコア40の軸方向(紙面に垂直な方向)に直交する断面形状が矩形状をなしている。一対の永久磁石50,51は、ブリッジ部41を中心にロータコア40の外周側に向けて開くV字をなすように配置されている。一組の磁石群5によりロータコア外周部分にN極を形成する場合、一対の永久磁石50,51は、図中に示すようにロータコア外周側がN極に着磁され、ロータコア内周側がS極に着磁されている。
【0020】
補助永久磁石52も焼結磁石からなり、対応する磁石挿入孔44に軸方向から挿入される。補助永久磁石52は、一対の永久磁石50,51の間であってブリッジ部41よりもロータコア外周側に配置されている。
図4に示すように、補助永久磁石52は、ロータコア40の軸方向に直交する断面形状が五角形状をなし、そのロータコア内周側の部分に、ロータコア周方向の幅がブリッジ部41に向けて徐々に細くなるテーパ部52aを有している。テーパ部52aは、そのテーパ角を「θ1」、一対の永久磁石50,51がロータコア外周側でなす角を「θ2」とするとき、「θ1<θ2」なる関係を満たすように形成されている。なお図中の一点鎖線は一対の永久磁石50,51のそれぞれの中心線を示している。一組の磁石群5によりロータコア40の外周部分にN極を形成する場合、補助永久磁石52は、図中に示すようにテーパ部52aがS極に着磁され、ロータコア外周側がN極に着磁されている。すなわち補助永久磁石52のロータコア外周側の磁極は、補助永久磁石52と対向する一対の永久磁石50,51がロータコア外周側に形成する磁極と同一の磁極となっている。また補助永久磁石52のテーパ部52aの磁極は、補助永久磁石52と対向する一対の永久磁石50,51がロータコア外周側に形成する磁極と異なる磁極となっている。
【0021】
なお、ロータコア40の外周部分にS極を形成する一組の磁石群5は、
図3及び
図4に例示した一対の永久磁石50,51及び補助永久磁石52のそれぞれのN極及びS極をそれぞれ反転させた構成からなる。
【0022】
ロータコア40の磁石挿入孔42,43には、永久磁石50,51の短辺両側面の外側に、空隙G1,G2がそれぞれ形成されている。またロータコア40の磁石挿入孔42,43には、永久磁石50,51のロータコア内周側の長辺側面の両端部外側に、空隙G3,G4がそれぞれ形成されている。さらにロータコア40の磁石挿入孔44には、補助永久磁石52のロータコア周方向の両端部外側に、空隙G5が形成されている。これらの空隙G1〜G5は、ロータコア40の外周面での磁束密度を増加させるために、一対の永久磁石50,51及び補助永久磁石52における磁束の回り込みを防ぐ、いわゆるフラックスバリアとして機能する。
【0023】
次に、本実施形態のロータ4の作用について説明する。
図3に示すように、一対の永久磁石50,51においてブリッジ部41の近傍から発せられる磁束は、図中に矢印で示すように、補助永久磁石52のテーパ部52aにより吸収されるため、ブリッジ部41を通る漏れ磁束を低減できる。しかも本実施形態では、一対の永久磁石50,51においてブリッジ部41側に位置する部分ほど補助永久磁石52のテーパ部52aとの距離が近くなっている。ここで
図4に示すように、テーパ部52aの一対の永久磁石50,51側の両側面のそれぞれの長さをL1とする。また、ロータコア40の外周側から内周側に向けて補助永久磁石52を一対の永久磁石50,51に投影させた場合、永久磁石50,51の長辺側面の補助永久磁石52が投影される部分のそれぞれの長さをL2とする。すると、本実施形態では「θ1<θ2」なる関係が満たされているため、長さL1が長さL2よりも長くなっている。これにより一対の永久磁石50,51の長さL2に対応する部分から発せられる磁束の大部分は、より表面積が大きいテーパ部52aの長さL1に対応する部分に吸収されるため、漏れ磁束の低減効果を高めることができる。そして
図3に示すように、補助永久磁石52で吸収された磁束は、そこからロータコア40の外周側に放射されるため、ロータコア40の外周面での磁束密度が増加する。その結果、モータの出力トルクを高めることができる。
【0024】
またこのように、ブリッジ部41に漏れ磁束が通り難い構造であれば、
図4に示すブリッジ部41のロータコア周方向の幅Hを厚くできるため、ロータコア40の強度を確保できる。これにより、例えばロータ4の回転時にロータコア40の磁石挿入孔42,43よりも外周側の部位に遠心力が加わった場合でも、そこが外側に広がるように変形し難くなる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の磁石埋込型ロータによれば以下の効果が得られる。
(1)ロータコア40には、一対の永久磁石50,51の間であってブリッジ部41よりもロータコア外周側に補助永久磁石52を設けた。そして補助永久磁石52には、ロータコア周方向の幅がブリッジ部41に向かって徐々に細くなるテーパ部52aを設けた。また補助永久磁石52のロータコア外周側の磁極を、補助永久磁石52と対向する一対の永久磁石50,51がロータコア外周側に形成する磁極と同一の磁極とした。また補助永久磁石52のテーパ部52aの磁極を、補助永久磁石52と対向する一対の永久磁石50,51がロータコア外周側に形成する磁極と異なる磁極とした。これによりロータコア40の外周面での磁束密度が増加するため、モータの出力トルクを高めることができる。また、モータを小型化することもできる。
【0026】
(2)補助永久磁石52のテーパ部52aを、そのテーパ角を「θ1」、一対の永久磁石50,51がロータコア外周側でなす角を「θ2」とするとき、「θ1<θ2」なる関係を満たすように形成することとした。これによりブリッジ部41を通る磁束を効果的に吸収できるため、漏れ磁束の低減効果を高めることができ、ひいてはモータの出力トルクを更に高めることができる。
【0027】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、補助永久磁石52のロータコア40の軸方向に直交する断面形状を五角形状に形成したが、これに代えて、例えば
図5に示すような三角形状や、
図6に示すようなV字状に形成してもよい。補助永久磁石52が
図5及び
図6に示すような形状からなる場合でも、ブリッジ部41を通る漏れ磁束を低減できるため、その分だけステータコイル21と鎖交する有効磁束量が増加し、モータの出力トルクを高めることができる。要は、補助永久磁石52に、ロータコア40の周方向の幅がブリッジ部に向かって徐々に細くなるテーパ部52aが形成されていればよい。
【0028】
・
図7に示すように、テーパ部52aのテーパ角θ1を、一対の永久磁石50,51がロータコア外周側でなす角θ2よりも大きく設定してもよい。補助永久磁石52が
図7に示すような形状からなる場合でも、ブリッジ部41を通る漏れ磁束を低減できるため、モータの出力トルクを高めることは可能である。
【0029】
・ロータコア40の磁石挿入孔42〜44にそれぞれ形成された空隙G1〜G5の形状は適宜変更可能である。またロータコア40の磁石挿入孔42〜44に空隙G1〜G5を設けなくてもよい。
【0030】
・上記実施形態では、一対の永久磁石50,51及び補助永久磁石52のそれぞれの材質として焼結磁石を採用したが、例えばボンド磁石などを採用してもよい。これにより形状的な制約を受け難くなるため、特に上記のような形状からなる補助永久磁石52を容易に製造できる。また、例えば一対の磁石挿入孔42,43に射出成形でボンド磁石を埋め込む際に、その射出圧力によりロータコア40の磁石挿入孔42,43よりも外側の部位に応力が加わったとしても、ブリッジ部41により外側への変形が抑制される。
【0031】
・上記実施形態では、一対の永久磁石50,51をブリッジ部41を中心にV字状をなすように配置したが、これに代えて、例えばブリッジ部41を中心にU字状をなすように配置してもよい。要は、ブリッジ部を介して隔てられた一対の磁石挿入孔が周方向に複数形成されたロータコアと、各磁石挿入孔に挿入される永久磁石とを備えるロータコアであれば、本発明を適用可能である。