【文献】
Toru ISHII et al.,The relationship between the optical property and physical property of dispersed SWNTs under various pH conditions,フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集,日本,2007年 2月13日,Vol.32,p.101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では導電性材料としてカーボンナノチューブを用いる。カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ分散液およびそれによって得られる透明導電性フィルムには、求められる用途特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのカーボンナノチューブも用いることができる。単層〜5層と層数の少ないカーボンナノチューブを用いれば導電性がより高く、光透過性も高い透明導電フィルムを得ることができ、2層以上のカーボンナノチューブを用いれば光学特性において、光波長依存性の少ない透明導電フィルムを得ることができる。光透過性の高い透明導電フィルムを得るには、好ましくは、層数が単層から5層であるカーボンナノチューブが100本中50本以上含まれることが好ましく、2〜5層カーボンナノチューブが100本中50本以上含まれることがさらに好ましく、特に2層カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ100本中50本以上であると導電性ならびに分散性が極めて高く好ましい。6層以上の多層カーボンナノチューブは一般に結晶化度が低く導電性が低いうえ、直径が太く導電層中のカーボンナノチューブ単位量あたりの接点数が小さくなり透明導電性が低くなる。
【0012】
カーボンナノチューブの層数は、例えば以下のようにサンプルを作成し測定できる。カーボンナノチューブが液などの媒体中に分散した組成物である場合、溶媒が水系の場合は組成物を水で見えやすい濃度に適宜希釈しコロジオン膜上に数μL滴下し風乾させた後、直接透過型電子顕微鏡でコロジオン膜上のカーボンナノチューブを調べる。溶媒が非水系の場合は、一度乾燥により溶媒を除去した後、再度水中で分散させてから適宜希釈してコロジオン膜上に数μL滴下し風乾させた後、透過型電子顕微鏡で観察する。透明導電フィルム中のカーボンナノチューブの層数は、塗布前の組成物を同様にして観察することができる。透明導電フィルムからカーボンナノチューブを採取する際は、エポキシ樹脂で包埋した後、ミクロトームなどを用いて0.1μm以下に薄く切断した切片を観察することによって、透明導電フィルムを透過型電子顕微鏡で調べることができる。また、溶媒でカーボンナノチューブを抽出し、組成物の場合と同様にして高分解能透過型電子顕微鏡で観察することによって調べることもできる。コロジオン膜上に滴下する液のカーボンナノチューブ濃度は、カーボンナノチューブを一本一本観察できる濃度であればよいが、例えば0.001重量%である。
【0013】
上記カーボンナノチューブの層数の測定は、例えば、次のようにして行う。透過型電子顕微鏡を用いて40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で、視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を測定する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。このとき、カーボンナノチューブ1本とは、視野中で一部カーボンナノチューブが見えていれば1本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
【0014】
カーボンナノチューブの直径は、特に限定はないが,上記好ましい範囲の層数のカーボンナノチューブの直径は1nm〜10nmであり、特に1〜3nmの範囲内であるものが好ましく用いられる。
【0015】
カーボンナノチューブは表面や末端が官能基やアルキル基で修飾されていてもよく、またアルカリ金属やハロゲンでドーピングされていてもよい。例えば酸中で加熱することにより、カルボキシル基、水酸基で官能基化させてもよい。ドーピングすることによりカーボンナノチューブの導電性が向上し好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブの長さは特に限定はないが、短すぎると効率的に導電性パスを形成できないため0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。上限は長すぎると分散性が低下する傾向にあるため10μm以下であることが好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブの長さは、後述するように電界放射走査型電子顕微鏡を用いて調べることができる。組成物の場合には、マイカ基板上に数μL滴下し風乾させた後、電界放射走査型電子顕微鏡で調べることができる。必要により、溶媒やイオンスパッタリングを用いて、あるいは350℃、30分大気雰囲気下で焼成してカーボンナノチューブを露出してから観察することができる。
【0018】
透明導電フィルム中のカーボンナノチューブの長さは、塗布前の組成物を上記の組成物の場合と同様にして観察することができる。滴下するカーボンナノチューブ濃度はカーボンナノチューブが一本一本観察できる濃度が好ましく適宜希釈すれば良いが、例えば0.01重量%である。
【0019】
透明導電フィルムからカーボンナノチューブを採取する際は、透明導電フィルムから溶媒を用いてカーボンナノチューブを抽出してから組成物と同様の方法で観察することができる。
【0020】
カーボンナノチューブの長さについては、上記方法で試料を作成し電界放射走査型電子顕微鏡で観察し、15μm四方の視野の中で10本以上のカーボンナノチューブが含まれるところで写真を撮り、各カーボンナノチューブの長さを測定する。視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブの長さを長さ方向に沿って測定する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。合計100本のカーボンナノチューブについて長さを測定することによって100本中に含まれるカーボンナノチューブの長さとその本数を確認することができる。本発明においては、長さが0.5μm以下の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であれば、接点抵抗を低減でき、光透過率を向上することができ好ましく、さらに1μm以下の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であるとより好ましい。さらに、本発明においては、長さが10μm以上の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であると分散性が向上でき好ましい。カーボンナノチューブの長さが長く、視野内で全体の長さが見えていない場合は、視野内のカーボンナノチューブの長さを測定し、10μm以内であれば測定値の長さと見なし、10μmより大きければ10μm超の長さと見なして0.5〜10μmの範囲にあるカーボンナノチューブの本数を数えることとする。
【0021】
また、透明導電性に優れた透明導電フィルムを得るには、結晶化度の高い高品質のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。結晶化度の高いカーボンナノチューブは、それ自体電気伝導性に優れる。しかし、このような高品質のカーボンナノチューブは、結晶化度の低いカーボンナノチューブと比べより強固にバンドルや凝集体を形成しているため、一本一本を解し安定に高分散させるのは非常に困難である。そのため、結晶化度の高いカーボンナノチューブを用いて、より導電性の高い透明導電フィルムを得るには、カーボンナノチューブの分散技術が非常に重要である。
【0022】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、特に限定されないが、直線性があり結晶化度が高いカーボンナノチューブであることが導電性が高く好ましい。直線性のよいカーボンナノチューブとは、欠陥が少なくカーボンナノチューブ結晶化度が高いカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの結晶化度は、ラマン分光分析法により評価が可能である。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、ここでは532nm、633nmを利用する。ラマンスペクトルにおいて1590cm
−1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm
−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。すなわち、GバンドとDバンドのピーク高さの比であるG/D比が高いカーボンナノチューブほど、直線性、かつ結晶化度が高く、高品質である。
【0023】
本発明で用いるカーボンナノチューブにおいて、ラマンG/D比を評価するときは波長633nmを用いる。G/D比は高いほど良いが、30以上であれば高品質カーボンナノチューブと言うことができる。好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。上限は特にないが、通常200以下である。またカーボンナノチューブのような固体のラマン分光分析法はサンプリングによってばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、別の場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。
【0024】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。
【0025】
マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと上記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより得られる。すなわち上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。
【0026】
カーボンナノチューブの酸化処理は、例えば焼成処理する方法により行われる。焼成処理の温度は本発明で用いるカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、300〜1000℃の範囲で選択される。酸化温度は雰囲気ガスに影響されるため、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で焼成処理することが好ましい。カーボンナノチューブの焼成処理としては、例えば大気下、カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成処理をする方法が挙げられるが、酸素濃度が大気よりも高い場合はこれよりも低目の温度範囲、低い場合には高めの温度範囲が選択されるのが通常である。特に大気下で焼成処理を行う場合は燃焼ピーク温度±15℃の範囲で行うことが好ましい。
【0027】
また、カーボンナノチューブの酸化処理として過酸化水素や混酸、硝酸で処理することが挙げられる。カーボンナノチューブを過酸化水素で処理するとは、上記カーボンナノチューブを例えば市販の34.5%過酸化水素水中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、0〜100℃の温度にて0.5〜48時間反応させることを意味する。またカーボンナノチューブを混酸で処理するとは、上記カーボンナノチューブを例えば濃硫酸/濃硝酸(3/1)混合溶液中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、0〜100℃の温度にて0.5〜48時間反応させることを意味する。混酸の混合比としては生成したカーボンナノチューブ中の単層カーボンナノチューブの量に応じて濃硫酸/濃硝酸の比を1/10〜10/1とすることも可能である。カーボンナノチューブを硝酸で処理するとは、上記カーボンナノチューブを例えば市販の硝酸40〜80重量%中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、60〜150℃の温度にて0.5〜48時間反応させることを意味する。
【0028】
このような酸化処理を行うことで、生成物中のアモルファスカーボンなどの不純物および耐熱性の低い単層CNTを選択的に除去することが可能となり、単層から5層、特に2層〜5層カーボンナノチューブの純度を向上することができる。それと同時にカーボンナノチューブの表面が官能基化されることにより、分散媒および添加剤との親和性が向上するため分散性が向上する。これらの酸化処理のなかでも、硝酸を用いて処理することが特に好ましい。
【0029】
これら酸化処理はカーボンナノチューブ合成直後に行っても良いし、別の精製処理後に行っても良い。例えば触媒として鉄/マグネシアを用いる場合、先に塩酸等の酸により触媒除去のための精製処理を行った後に酸化処理してもよいし、酸化処理を行った後にさらに触媒除去のための精製処理を行っても良い。
【0030】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブが溶液中で高度に分散しているのみならず、高剪断力を与えても安定であることが特徴である。高剪断力に対する安定性の評価方法として、例えばレオメーターを用い、継続的に高剪断をかけた場合の分散液の安定性を評価する方法がある。本発明における高剪断力に対する安定性の判定方法としては、以下に述べる方法が好適である。まず装置としてレオメーター(アントンパール社製MCR501)を用い、平滑ローター(PP25)使用時のステージ/ローター間ギャップ0.01mmに設定して、分散液0.3mlをロードする。この分散液に剪断速度200000s
−1、30分間高剪断力を与えた後のローター部を目視で観察し、カーボンナノチューブ分散液に凝集が見られない場合、高剪断力を与えても凝集せず安定であると判断することができる。
【0031】
出願人らは上記の特性、すなわち高分散しており、かつ高剪断力に対して安定なカーボンナノチューブ分散液の構成を鋭意検討した結果、特定の分散剤を特定の比率で用いることにより、カーボンナノチューブが高分散しており、かつ高剪断力を与えても安定である分散液となることが分かった。すなわち、本発明で用いられる分散剤として、いわゆるポリマー系分散剤の使用が好ましい。このとき分子量が小さすぎると、分散剤とカーボンナノチューブの相互作用が弱まるためにカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すことができない。一方、分子量が大きすぎると、ポリマー鎖のカーボンナノチューブへの絡みつきが強くなりすぎることで過剰な分散剤の除去工程において分散剤が除去しきれず、導電性悪化の原因となってしまう。一般にポリマーの分子量を表す手段として数平均分子量、および重量平均分子量があるが、我々の検討では、ポリマー系分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散させた場合、カーボンナノチューブの分散性は数平均分子量と相関があることが分かった。すなわち、カーボンナノチューブとポリマー系分散剤との相互作用はポリマー自身の大きさよりも系中に存在するポリマーのモル数の影響を受けることがわかった。従って、分散剤として使用するポリマーの分子量を規定する場合の指標としては、数平均分子量を用いることが好ましい。そして、好ましい数平均分子量の範囲は1万以上15万以下であり、特に2万以上8万以下であることが好ましい。なお、上記好ましい数平均分子量を有するポリマー系分散剤の好ましい重量平均分子量の範囲は1万以上40万以下であり、特に3万以上25万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、6万を超え25万以下である。前記数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させることにより算出された分子量を指す。
【0032】
カーボンナノチューブ分散液に含まれるカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すだけではなく、高剪断力を与えても安定であるためには、カーボンナノチューブに対して過剰な量の分散剤を必要とする。この過剰な分散剤は分散液を塗布して導電層を形成したときには導電層界面で膜状に析出してしまうため、本発明のカーボンナノチューブ分散液を用いて導電性フィルムを製造する場合は、過剰な分散剤を除去する工程を有することが好ましい。しかし、分散剤が除去しきれないほど過剰である場合には過剰な分散剤による導電阻害が大きすぎ、形成されるカーボンナノチューブ導電層の表面抵抗値は悪くなってしまう。一方、分散液に含まれる分散剤量が少ない場合にはカーボンナノチューブのバンドルを完全に解すことはできない。
【0033】
すなわち、本発明のカーボンナノチューブ分散液に含まれる分散剤の量はカーボンナノチューブに吸着される以上に過剰であり、かつ導電性を阻害しない量であることが好ましく、具体的にはカーボンナノチューブ100重量部に対して分散剤が250重量部以上2000重量部以下であることが好ましく、さらに350重量部以上1000重量部以下であることが好ましい。
【0034】
分散剤の種類としては、カーボンナノチューブが分散できれば限定はなく、合成高分子、天然高分子などから選択できる。高分子の種類としては、カーボンナノチューブが分散できれば限定はなく、分散性の良い合成高分子、天然高分子などから選択することが好ましい。合成高分子は、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体から選択できる。天然高分子は、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体から選択できる。誘導体とはエステルやエーテル、塩などの従来公知の化合物を意味する。中でも特に多糖類を用いることが分散性向上の点から好ましい。これらは、1種または2種以上を混合して用いることができる。また、カーボンナノチューブ分散性、導電性に優れることから、イオン性高分子が好ましく用いられる。中でも、スルホン酸やカルボン酸などのイオン性官能基を持つものが分散性、導電性が高くなるため好ましい。分散性のよい分散剤を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを解して透明導電性を向上させることができる点から、ポリスチレンスルホン酸やコンドロイチン硫酸やヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体を用いることが好ましく、特にイオン性官能基を有する多糖類であるカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体の使用が最も好ましい。
【0035】
本発明ではカーボンナノチューブ、分散剤および溶媒を用いてカーボンナノチューブ分散液を調製する。この分散液はさらにその他添加剤を含むことができ、液体形状でもペーストやゲルのような半固形状でもかまわないが、液体形状が好ましい。本発明において分散液とは、得られた組成物が目視において沈降物や凝集物がなく、少なくとも24時間静置後においても目視において沈降物や凝集物がない状態の液をいう。また、分散液全体に対するカーボンナノチューブの含有量は0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、0.05〜10重量%であることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる水系溶媒は、分散剤が溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水および水と混和する溶媒類を用いることができる。溶媒としては、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0037】
これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。カーボンナノチューブ分散液のpHはアルカリ性であることが好ましく、さらにpH8〜12であることが好ましく、特にpH9〜11であることが好ましい。分散液のpHをアルカリ性にすることにより、分散剤あるいはカーボンナノチューブ間の静電反発が増大し、分散性および高剪断力に対する安定性が向上すると考えられる。pHの調整はアルカリ性溶液を添加することにより行うことができる。アルカリ性溶液はアンモニアや有機アミンの溶液を用いる。有機アミンはエタノールアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピリジン、ピペリジン、ヒドロキシピペリジンなどの窒素を含む有機化合物が好ましい。これらアンモニア、有機アミンの中で最も好ましいのはアンモニアである。これら有機アミンやアンモニアを溶解する溶媒としては、水を用いることが好ましい。pHはpHメーター(東亜電波工業社製、HM−30S)により測定される。
【0038】
カーボンナノチューブ分散液の調製方法としては、カーボンナノチューブと分散剤および溶媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、分散液を製造することができる。中でも、超音波を用いて分散することで、カーボンナノチューブの分散性が向上し好ましい。分散させるカーボンナノチューブは乾燥状態であっても、溶媒を含んだ状態でもよいが、精製後乾燥させずに溶媒を含んだ状態で分散させることが、分散性が向上するために好ましい。
【0039】
カーボンナノチューブ分散液は、上記分散剤、カーボンナノチューブ以外に、例えば界面活性剤や導電性もしくは非導電性高分子など各種高分子材料等をその他の添加剤として含んでいてもかまわない。また、添加剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲で添加できる。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブ分散液は後述の方法により塗布して導電性フィルムを形成することができる。
【0041】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を塗布して得られる透明導電性フィルムの製造に用いる基材は、カーボンナノチューブ分散液が塗布でき、得られる導電層が固定できれば形状、サイズ、および材質は特に限定されず、目的とする用途によって選択でき、例えばフィルム、シート、板、紙、繊維、粒子状であってもよい。材質は例えば、有機材料であれば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、セルロース、トリアセチルセルロース、非晶質ポリオレフィンなどの樹脂、無機材料であればステンレス、アルミ、鉄、金、銀などの金属、ガラスおよび炭素材料等から選択できる。基材に樹脂フィルムを用いた場合は、接着性、延伸追従性、柔軟性に優れた導電性フィルムを得ることができ好ましい。その際の好ましい基材の厚みは、特に限定されず中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば、前記基材は約1〜約1000μmの間の厚さとしうる。好ましい実施形態では基材の厚さは約5〜約500μmとなりうる。別の好ましい実施形態では基材の厚さは約10〜約200μmである。
【0042】
基材は必要に応じ、グロー放電、コロナ放電処理やオゾン処理等の表面親水化処理を施してあってもよい。あるいはアンダーコート層を設けてあっても良い。アンダーコート層の素材としては親水性の高い素材であることが好ましい。
【0043】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布して透明導電性フィルムを形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や、移動に効果的である。また、透明導電性フィルムは、カーボンナノチューブ分散液中に有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適当に設定する。バインダーが光硬化性または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0044】
上記バインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下「有機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)または無機ポリマーまたはその前駆体(以下「無機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)が使用できる。有機ポリマー系バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6,10等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなどの有機ポリマー、ならびにこれらのポリマーの前駆体(モノマーまたはオリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により、透明被膜もしくはマトリックスを形成することができる。
【0045】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしては、スチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い被膜もしくはマトリックスを形成することができる。
【0046】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機金属化合物(有機リン化合物、有機ボロン化合物、有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物など)がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0047】
これらの無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜もしくはマトリックスを形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0048】
バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、もしくは、液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害し良くない。
【0049】
また、基材はカーボンナノチューブを塗布する反対面に耐摩耗性、高表面硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐指紋性等を付与したハードコート処理が施されているものも併せて用いることができる。
【0050】
また、基材として透明性がある基材を用いることにより透明性・導電性に優れた透明導電フィルムを得ることができ好ましい。透明性がある基材とは、550nmの光線透過率が50%以上であることを示す。
【0051】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えばスプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、ドクターナイフコーティング、キスコーティング、スリットコーティング、ダイコーティング、スリットダイコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、押出コーティングや、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、マイクログラビアコーティング、ワイヤーバーコーティングである。
【0052】
塗布厚み(ウェット厚)は塗布液の濃度にも依存するため、望む導電性が得られれば特に規定する必要はない。しかしその中でも0.01μm〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1μm〜20μmである。
【0053】
塗布厚み(ドライ厚)は透明導電フィルム断面を観察することで測定でき、例えば、透過型顕微鏡において観察でき、必要であれば染色してもよい。好ましいドライ厚は望む導電性が得られれば規定はないが、好ましくは、0.001μm〜5μmである。さらに好ましくは、0.001〜1μmである。
【0054】
カーボンナノチューブ分散液が水系分散液であるとき、基材上に塗布する時、組成物中に濡れ剤を添加しても良い。非親水性の基材へは特に界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を組成物中に添加することで、基材に組成物がはじかれることなく塗布することができる。中でもアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
【0055】
このようにしてカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な溶媒を除去し、形成される導電層を乾燥させることが好ましい。それによりカーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。中でも加熱による乾燥が好ましい。乾燥温度は溶媒が除去可能であり基材の耐熱温度以下であればよく、樹脂製基材の場合は、好ましくは0℃〜250℃であり、さらに好ましくは、15℃〜150℃である。
【0056】
上記導電層には過剰な分散剤が含まれているため、過剰な分散剤を除去することが好ましい。この操作により、電荷の分散が容易になり導電性複合体の導電性が向上する。過剰な分散剤を除去する方法としては、導電層を乾燥後、溶媒中へ浸漬させる、あるいは溶媒を導電層へ噴霧させるなどして分散剤を洗浄する方法がある。洗浄のための溶媒としては除去したい透明導電性を低下させる成分、例えば添加剤や余剰量の分散剤を溶解し、かつカーボンナノチューブを除去しないものであれば特に制限はない。具体的には水やアルコール類、アセトニトリルが挙げられる。
【0057】
その他の除去方法としては、過剰な分散剤を吸着することができる分散剤吸着層を予め基材に設けておく方法がある。分散剤吸着層としては、親水性無機酸化物を用いることが好ましい。より好ましくは、チタニア、アルミナ、シリカである。これらの物質は、表面に親水基であるヒドロキシル基を有しており、高い親水性が得られるため好ましい。さらに分散剤吸収層はこれらの無機酸化物と樹脂複合体でも良く、例えばシリカ微粒子とポリシリケートの複合物が挙げられる。分散剤吸着層によって分散剤が除去できる理由は定かではないが、以下のようなことが考えられる。すなわち、カーボンナノチューブの分散剤としてイオン性分散剤のような親水性基を有する分散剤を用いた場合、カーボンナノチューブ自身よりも分散剤の方が分散剤吸着層との親和性が高いため、カーボンナノチューブ分散液を塗布すると同時に過剰な分散剤が分散剤吸着層に選択的に移動するため、カーボンナノチューブの周囲から局所的に分散剤を除去することができるためではないかと考えられる。
【0058】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を塗布して得られる透明導電性フィルムは、導電層中のカーボンナノチューブが十分に分散されているために少量で十分な導電性を示すことから、優れた透明性を有する。透明性のある基材を用いた場合、550nmの光線透過率が少なくとも約50%である。好ましい実施形態では透明導電性フィルムの550nmの光線透過率は60%以上である。別の好ましい実施形態では、透明導電性フィルムの550nmの光線透過率は70%以上である。また、別の好ましい実施形態では透明導電性フィルムの550nmの光線透過率は80%以上である。さらに、別の好ましい実施形態では透明導電性フィルムの550nmの光線透過率は90%以上である。
【0059】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブが高分散していることから、これを塗布して得られる透明導電性フィルムは高い透明性を維持したまま優れた導電性を示す。好ましい実施形態では透明導電性フィルムの表面抵抗値は10
0〜10
4Ω/□であり、さらに好ましい実施形態では透明導電性フィルムの表面抵抗値は10
1〜10
3Ω/□を示す。
【0060】
なお、本発明において光線透過率は、透明導電性フィルムを分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光線透過率を測定して得られる値である。
【0061】
また、表面抵抗値はJIS K7194(1994年度制定)準処の4探針法を用い、
“ロレスタ
”(商標)EP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて得られる値である。
【0062】
ラマン分光分析は、共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF-300)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行う。測定に際しては3ヶ所、別の場所にて分析を行い、Gバンド、Dバンドの高さを測定し、それぞれの高さの比でG/D比を求め、その相加平均を表す。
【0063】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を基材に塗布する際の塗布量は、導電性を必要とする種々の用途を達成するために、容易に調整可能であり、例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にあるため、塗布量により透明導電性フィルムの表面抵抗値も容易に調整可能である。ただし、光線透過率と表面抵抗値は、光線透過率をあげるために塗布量を減らすと表面抵抗値が上昇し、表面抵抗値を下げるために塗布量を増やすと光線透過率が減少するといった、相反する値であるため、所望の表面抵抗値および、光線透過率を選択し塗布量を調整する。そこで本発明の分散剤の分子量および含有量を適切に調整した分散液を用い、さらに過剰な分散剤を除去することにより、カーボンナノチューブの分散性を維持しつつ、導電層の表面抵抗値を減少させることができるため、優れた導電性を達成する透明導電性フィルムが得られる。その結果表面抵抗値が10
0〜10
4Ω/□以下であり、550nmの光透過率が70%以上である透明導電性フィルムを得ることも可能であり、さらに表面抵抗値が10
1〜10
3Ω/□以下であり、550nmの光透過率が80%以上である透明導電性フィルムを得ることも可能である。
【0064】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を塗布して得られた透明導電性フィルムは高導電性であり、制電靴や、制電板などのクリーンルーム用部材や、電磁波遮蔽、近赤外カット、透明電極、タッチパネル、電波吸収などのディスプレー用、自動車用部材として使える。中でも主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として特に優れた性能を発揮する。
【0065】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例中、光線透過率、表面抵抗値、カーボンナノチューブのG/D、カーボンナノチューブの層数測定、分散剤の分子量測定は前述の方法で実施した。
【0067】
(参考例1)
以下のようにカーボンナノチューブを得た。
【0068】
(触媒調製)
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷社製MJ-30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分は篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、20〜32メッシュの範囲の粒径を回収した。左記の顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。かさ密度は0.32g/mLであった。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.39wt%であった。
【0069】
(カーボンナノチューブの製造)
上記の触媒を用い、カーボンナノチューブを合成した。固体触媒132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入することで触媒層を形成した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却して触媒付きカーボンナノチューブ組成物を得た。この触媒付きカーボンナノチューブ組成物を115g用いて4.8Nの塩酸水溶液2000mL中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液400mLに投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返し、触媒が除去されたカーボンナノチューブ組成物を得た。
【0070】
(カーボンナノチューブの酸化処理)
上記のカーボンナノチューブ組成物を約300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)に添加した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このカーボンナノチューブ組成物の平均外径を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、1.7nmであった。また2層カーボンナノチューブの割合は90%であり、波長633nmで測定したラマンG/D比は79であり、燃焼ピーク温度は725℃であった。
【0071】
(参考例2)
(オーバーコート層作製例)
100mLポリ容器中に、エタノール20gを入れ、n−ブチルシリケート40gを添加し30分間撹拌した。その後、0.1N塩酸水溶液を10g添加した後2時間撹拌を行い4℃で12時間静置した。この溶液をトルエンとイソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの混合液で固形分濃度が1質量%となるように希釈した。
【0072】
この塗液をワイヤーバー#8を用いてカーボンナノチューブ層上に塗布後、125℃乾燥機内で1分間乾燥させた。
【0073】
(参考例3)
(分散剤吸着層作製例)
以下の操作によりポリシリケートをバインダーとし、直径30nmの親水シリカ微粒子が表出する分散剤吸着層を作製した。
【0074】
約30nmの親水シリカ微粒子とポリシリケートを固形分濃度で1質量%含む
“メガアクア
”(商標)親水DMコート((株)菱和社製、DM―30―26G―N1)をシリカ膜作製用塗液として用いた。
【0075】
ワイヤーバー#4を用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(
“ルミラー
”(商標) U46)上に前記シリカ膜作製用塗液を塗布した。塗布後、120℃の乾燥機内で1分間乾燥させた。
【0076】
(実施例1)
(カーボンナノチューブとカルボキシメチルセルロースを含む透明導電フィルム)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ15mg(乾燥時換算)、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬(株)製、数平均分子量4.2万(重量平均分子量8万))90mg(分散剤/カーボンナノチューブ重量比=6)を量りとり、蒸留水を加え10gにし、アンモニアを用いてpHを10に合わせ、超音波ホモジナイザー出力20W、3分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ分散液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。上清取得後の残液にも目視で分かる大きさの沈殿は見られなかった。
【0077】
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で2.5倍に希釈し、コロナ放電処理を施したポリエステル樹脂表面樹脂層(ドライ厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製188μm)光線透過率90.2%、15cm×10cm)上にバーコーターを用いて塗布した。このとき、波長550nmにおける光線透過率が87%となるように塗布厚みを調節した。塗布したフィルムを120℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。その後、イオン交換水1Lが入った容器に塗布フィルムを浸し、20秒後に引き上げて乾燥させた。さらにカーボンナノチューブ層の上に参考例2に従ってオーバーコート層を形成し透明導電性フィルムを得た。得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値は510Ω/□であった。
【0078】
次に塗布に用いた濃度のカーボンナノチューブ分散液を0.3ml取り、レオメーター(アントンパール社製MCR501)(平滑ローターPP25使用、剪断速度200000s
−1、ギャップ0.01mm)で30分間高剪断力を与えた。30分後の分散液の様子を観察したところ、凝集は発生していなかった。
【0079】
(比較例1、2および実施例2)
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の比率変更)
上記実施例1のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩添加量を15mg(分散剤/カーボンナノチューブ重量比=1)(比較例1)、30mg(分散剤/カーボンナノチューブ重量比=2)(比較例2)、60mg(分散剤/カーボンナノチューブ重量比=4)(実施例2)に換えた以外は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ分散液を得た。その結果、分散剤/カーボンナノチューブ重量比=1である比較例1の分散液は凝集が観察され、高速遠心分離機による遠心によって沈殿してしまったことから分散性が不十分であったと言える。一方、比較例2および実施例2の分散液については高速遠心分離機による遠心で沈殿が見られなかった。そこで、比較例2および実施例2の分散液をイオン交換水で2.5倍に希釈し、参考例3に従って分散剤吸着層を予め形成したPETフィルムに塗布し、さらに参考例2に従ってオーバーコート層を形成した。得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値はそれぞれ、650Ω/□(比較例2)、550Ω/□(実施例2)であった。
【0080】
次に比較例2および実施例2の分散液について、実施例1と同様にレオメーターを用いて高剪断力に対する安定性を評価したところ、実施例2の分散液は凝集が見られなかったが、比較例2の分散液は目視で判別できるほどの凝集が観察された。
【0081】
(実施例3)
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量変更)
上記実施例2のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に換えて数平均分子量6.8万(重量平均分子量20万)のものを用いた以外は実施例2と同様にして、カーボンナノチューブ分散液を作製した。次にこれらの分散液を用いて実施例2と同様にして透明導電フィルムを作製したところ、得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値は600Ω/□であった。また、実施例1と同様にレオメーターを用いて高剪断力に対する安定性を評価したところ、凝集は見られず安定であることが分かった。
【0082】
(実施例4)
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量変更)
上記実施例2のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に換えて数平均分子量2.7万(重量平均分子量9万)のものを用いた以外は実施例2と同様にして、カーボンナノチューブ分散液を作製した。次にこれらの分散液を用いて実施例2と同様にして透明導電フィルムを作製したところ、得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値は480Ω/□であった。また、実施例1と同様にレオメーターを用いて高剪断力に対する安定性を評価したところ、凝集は見られず安定であることが分かった。
【0083】
(比較例3)
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の分子量変更)
上記実施例2のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に換えて数平均分子量17万(重量平均分子量45万)のものを用いた以外は実施例2と同様にして、カーボンナノチューブ分散液を作製した。次にこれらの分散液を用いて実施例2と同様にして透明導電フィルムを作製したところ、得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値は6000Ω/□となった。
【0084】
(比較例4)
(分散剤のpH変更)
20mLの容器に参考例1で得られたカーボンナノチューブ15mg(乾燥時換算)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、数平均分子量11万(重量平均分子量20万))300mg(ポリスチレンスルホン酸アンモニウム量として90mg、分散剤/カーボンナノチューブ重量比=6)を量りとり、蒸留水を加え10gにした。このときのpHは3.8であった。その後、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブ分散液を作製した。次にこれらの分散液を用いて実施例2と同様にして透明導電フィルムを作製したところ、得られたフィルムの透過率90%における表面抵抗値は800Ω/□であった。また、実施例1と同様にレオメーターを用いて高剪断力に対する安定性を評価したところ、目視で判別できるほどの凝集が観察された。