【文献】
近藤和弘,外5名,「ADPCM符号化方式に適用可能なデータ埋込方式の検討」,電子情報通信学会論文誌(J87−D−II)第5号 THE IEICE TRANSACTIONS ON INFORMATION AND SYSTEMS,PT.2 (JAPANESE EDITION),社団法人電子情報通信学会 情報・システムソサイエティ,2004年 5月 1日,pp.1043-1051
【文献】
岩切宗利,外1名,「適応差分PCM符号化における音声符号へのテキスト情報の埋込み」,情報処理学会論文誌,一般社団法人情報処理学会,1997年10月15日,第38巻,第10号,pp.2053-2061
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定のサンプリング周期でサンプル化される音声信号がADPCM符号化方式にてADPCM符号化され、かつ前記音声信号とは異なる情報である付加情報が挿入されたADPCM符号化信号を復号する際における量子化ステップ幅を算出する量子化ステップ制御部と、
前記量子化ステップ制御部が算出した量子化ステップ幅に基づいて、前記ADPCM符号化信号を復号し、音声信号を生成するADPCM復号化器と、
前記ADPCM符号化信号から適応差分変化率を示す適応差分変化率情報を取得する適応差分変化率取得部と、
前記適応差分変化率情報に基づいて、付加情報挿入量を示す付加情報挿入量指定情報を取得する付加情報挿入量判定部と、
前記付加情報挿入量指定情報に基づいて、前記ADPCM符号化信号から前記付加情報を抽出する付加情報抽出部と、
を備えることを特徴とする付加情報抽出装置。
所定のサンプリング周期でサンプル化される音声信号がADPCM符号化方式にてADPCM符号化され、かつ前記音声信号とは異なる情報である付加情報が挿入されたADPCM符号化信号を復号する際における量子化ステップ幅を算出する量子化ステップ算出ステップと、
前記算出した量子化ステップ幅に基づいて、前記ADPCM符号化信号を復号し、音声信号を生成するADPCM復号化ステップと、
前記ADPCM符号化信号から適応差分変化率を示す適応差分変化率情報を取得する適応差分変化率取得ステップと、
前記適応差分変化率情報に基づいて、付加情報挿入量を示す付加情報挿入量指定情報を取得する付加情報挿入量判定ステップと、
前記付加情報挿入量指定情報に基づいて、前記ADPCM符号化信号から前記付加情報を抽出する付加情報抽出ステップと、を備える
ことを特徴とする付加情報抽出方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を用いて本発明による付加情報挿入装置の実施の形態を説明する。
図1は発明者が検討した比較例に係るADPCM(adaptive differential pulse code modulation)符号化装置1の構成図を示したものである。
【0016】
ADPCM符号化装置1は、適応量子化器101、符号化器102、量子化ステップ制御部103、遅延器104、及び加算器105、106を有する。
【0017】
適応量子化器101は、所定のサンプリング周波数に従いサンプル化(デジタル化)された音声入力信号と、その音声入力信号に対して時間的に一つ前の音声入力信号を再現したADPCM符号化再現信号との差分値を、過去のADPCM符号化信号によって定まる量子化ステップ幅に従い量子化する。ここで、ある音声入力信号に注目した場合、その音声入力信号に対して「時間的に一つ前の音声入力信号」とは、注目した音声入力信号の一つ前にサンプル化(デジタル化)された音声入力信号となる。適応量子化器101は、差分値を量子化した量子化値を示す量子化信号を符号化器102と加算器106に送る。
【0018】
符号化器102は、適応量子化器101から送られた量子化信号をADPCM符号化信号として符号化する。符号化器102は、符号化によって生成したADPCM符号化信号を受信側に伝送し、次のADPCM符号化信号を生成する際に適用される量子化ステップ幅を算出するために量子化ステップ制御部103にも送る。量子化ステップ制御部103は、符号化器102から送られたADPCM符号化信号から得られる量子化信号が示す量子化値の増減に従い、適当なダイナミックレンジを確保するため、最適な量子化ステップ幅を選択し、次のサンプルの音声入力信号から生成した差分値の量子化で用いる量子化ステップ幅を導く。
【0019】
加算器106は、遅延器104に蓄えられたADPCM符号化再現信号と、適応量子化器101から送られた量子化信号とを加算する。ADPCM符号化再現信号は、前述の時間的に一つ前の音声入力信号を再現した信号であり、量子化信号は、ADPCM符号化再現信号と今回の音声入力信号との差分値の量子化値を示すものである。よって、加算器106がADPCM符号化再現信号と量子化信号を加算することで、今回の音声入力信号を再現したADPCM符号化再現信号が生成される。こうして得られたADPCM符号化再現信号は、加算器106から遅延器104に送られ、遅延器104で一時的に蓄積後、加算器105、106に送られる。これにより、ADPCM符号化再現信号は、次の音声入力信号の符号化時に、その音声入力信号よりも時間的に一つ前の音声入力信号を再現したADPCM符号化再現信号として、加算器105、106で利用される。
【0020】
加算器105は、遅延器104から送られたADPCM符号化再現信号を符号反転し音声入力信号と加算する。言い換えると音声入力信号から、時間的に一つ前の音声入力信号に相当するADPCM符号化再現信号を差し引くことで差分値を算出する。加算器105は、取得した差分値を示す残差信号を適応量子化器101に送る。適応量子化器101は、上述した、音声入力信号と、時間的に一つ前の音声入力信号を再現したADPCM符号化再現信号との差分値の量子化として、加算器105から送られた残差信号が示す差分値を量子化する。この一連の処理を音声入力信号が一つ入力する毎に繰り返し実行し、ADPCM符号化信号を得ることができる。
【0021】
次に
図2を用いてADPCM符号化信号を音声信号に復号するADPCM復号化装置2について説明する。ADPCM復号化装置2は、ADPCM符号化装置1から伝送されたADPCM符号化信号の受信側となる装置である。
【0022】
ADPCM復号化装置2は、復号化器401、量子化ステップ制御部402、遅延器403、及び加算器404を有する。ADPCM復号化装置2がADPCM符号化装置1から受信したADPCM符号化信号は、復号化器401及び量子化ステップ制御部402に入力される。
【0023】
復号化器401は、量子化ステップ制御部402から与えられた量子化ステップ幅に従い、ADPCM符号化信号を復号する。復号化器401の復号で得られる信号は、符号化器102で符号化される前の量子化信号と同じものである。復号化器401は、復号により得た量子化信号を復号化器401に送る。また量子化ステップ制御部402はADPCM符号化装置1における量子化ステップ制御部103と同じ働きを行い、適当なダイナミックレンジを確保するために、符号化されたADPCM符号化信号から復号に必要な量子化ステップ幅を算出する役割を担っている。加算器404は、復号化器401から送られた量子化信号と、遅延器403から送られた時間的に一つ前に復号された音声出力信号とを加算して音声出力信号を生成し、外部に送り、遅延器403に送る。遅延器403に送られた音声出力信号は遅延器403に一時的に蓄積後、加算器404に送られ、次の音声出力信号の生成時に、時間的に一つ前に復号された音声出力信号として用いられる。
【0024】
ここでADPCM符号化信号の下位ビットを他のデータ列に置き換えた場合に、音声出力信号に与える影響について考える。
図3は符号化装置1で符号化されたADPCM符号化信号に、付加情報を挿入する際に考え得る符号化装置1と付加情報挿入部107との構成を示す。付加情報挿入部107は、ADPCM符号化装置1の符号化器102から送られたADPCM符号化信号に付加情報を挿入し、受信側に送る。ここで、付加情報の挿入として、例えばPHS方式に採用される4ビットのADPCM符号化信号の下位1ビットを画像データに置き換えたとする。4ビットのADPCM符号化信号は32キロビット毎秒(kbps)の時間当たりの伝送量を備えており、そのうちの1ビット分は8kbpsに当たる。これは1分間隔で60キロバイト(kbyte)の画像データを伝送可能な伝送路に値し、ある程度鮮明な静止画情報を音声データに挿入しながら伝送可能なことを意味する。
【0025】
ADPCM符号化信号の下位1ビットと画像データのビット列とは関連性がないため、ビット情報が置き換わった場合、およそ50%の確率でビット反転が起きることが予測される。
【0026】
図2を用いてADPCM復号化装置2における信号の流れを確認する。ADCPM符号化信号C(t)は量子化ステップ制御部402に送られる。量子化ステップ制御部402は、過去の複数のADPCM符号化信号C(t)からADPCM符号化信号C(t)の予測値を算出し、算出した予測値に基づいて量子化ステップ幅Δ(t)を算出する。復号化器401は、この量子化ステップ幅Δ(t)に従いADPCM符号化信号C(t)を復号し、差分値D(t)を取得する。加算器404は、差分値D(t)と遅延器403に蓄積された過去の音声出力信号Y(t-1)とを加算して、音声出力信号Y(t)を生成し出力する。
【0027】
ADPCM符号化信号の最下位1ビットを他のデータ列に置き換えることで発生する誤差量は量子化ステップ幅一個分に相当し、±Δ(t)となる。具体的には、後述するが、ADPCM符号化信号の最下位1ビットを書き換えると、量子化ステップ幅一個分の誤差が生じる。よって付加情報を挿入した場合の音声出力信号Y(t)は、付加情報が挿入されていない場合の音声出力信号をY´(t)とした場合、Y´(t)±(1/2)×Δ(t)となる。乗数(1/2)はビット変更確率50%を反映したものである。またY(t)の元になるY(t-1)にも、±Δ(t-1)なる誤差が含まれている。これらをまとめると、付加情報を挿入した音声出力信号Y(t)に含まれる誤差量Err(t)は式(1)にて求められる。ここで、tは、サンプル番号(何番目のサンプルであるか)を示す。
【0028】
Err(t) = Σ±(1/2)Δ(n) (n=1〜t) ・・・ (1)
【0029】
量子化ステップ幅Δ(t)の符号情報(±)は、音声出力信号への変換過程において量子化ステップ幅Δ(t)が飽和されることが無ければ、プラスになる場合とマイナスになる場合の発生確率は五分五分である。よって誤差量Err(t)は、0を中心としたプラス側の積算値とマイナス側の積算値を境界とする
図4のような正規分布を成すと予想される。
【0030】
ところが、誤差量Err(t) の推定に利用された量子化ステップ幅Δ(t)は、正しいADPCM符号化信号C´(t)から求めた量子化ステップ幅Δ´(t)では無い。すなわち、上記の量子化ステップ幅Δ(t)は、受信側の量子化ステップ制御部402で付加情報挿入後のADPCM符号化信号C(t)から算出した量子化ステップ幅であり、送信側の量子化ステップ制御部103で付加情報挿入前のADPCM符号化信号C´(t)から算出した量子化ステップ幅Δ´(t)とは異なる。送信側の量子化ステップ制御部103が予測値の算出に用いるADPCM符号化信号C´(t)とは異なるADPCM符号化信号C(t)を用いて、受信側の量子化ステップ制御部402が算出する予測値は、最下位1ビットの置き換えに対して実質的に量子化ステップ幅Δ(t) 一個分を超える誤差を含む可能性がある。また、量子化ステップ幅Δ(t)が送信側と異なることによる影響も音声出力信号Y(t)に反映される。すなわち、ADPCM符号化信号C´(t)の符号化に利用した量子化ステップ幅Δ´(t)とは異なる量子化ステップ幅Δ(t)を利用してADPCM符号化信号C(t)を復号化してしまうことになるため、音声出力信号Y(t)に大きな誤差を含んでしまう可能性がある。例えばG.726として規格化された4ビットで符号化されるADPCMの場合、量子化ステップ幅の最大と最小の比率は2.5倍以上になる。また、過去の複数サンプルのADPCM符号化信号を用いて量子化ステップ制御部402が算出する予測値は、誤差の触れ幅を更に拡大する危険性がある。
【0031】
以上のような理由により、付加情報を挿入した音声出力信号Y(t)に含まれる誤差量Err(t)は、送信側の量子化ステップ制御部103で算出される量子化ステップ幅Δ´(t)を利用して式(1)で算出した誤差量を下限とし、その下限値のおよそ数倍の誤差量となることが予想される。
【0032】
量子化ステップ幅Δ(t)は、音声入力信号の入力信号レベルが高く、また変化に富む場合に大きくなる。言い換えると、量子化ステップ幅Δ(t)は、前後の音声入力信号及びADPCM符号化再現信号の差分が大きい場合に大きくなる。このような音声入力信号が得られる音源では
図4に示した正規分布の幅が拡大し、音声出力信号に含まれる誤差量が大きくなることで、重大な音質劣化を引き起こす。音声入力信号が人の声に基づく場合は上記の入力信号レベルが高く変化に富んだ信号に当たる。このような音声入力信号では、下位1ビットの書き換えによる誤差は極端なSN比の悪化を伴い、通信品質として使用に耐えなくなる可能性が大きい。すなわち、
図3に示す構成では、送信側で量子化に利用される量子化ステップ幅Δ´(t)と、受信側で符号化に利用される量子化ステップ幅Δ(t)とが異なってしまうため、音声出力信号Y(t)に含まれる誤差量Err(t)が拡大してしまうという問題があった。
【0033】
<実施の形態1>
上記のような要因によって発生する品質劣化を抑えながら、付加情報を挿入する方法の実施の形態1について
図5を参照しながら説明する。
図5は、本発明の実施の形態1に係る付加情報挿入装置11の一例を示した構成図である。
【0034】
付加情報挿入装置11は、適応量子化器101、符号化器102、量子化ステップ制御部103、遅延器104、加算器105、加算器106、付加情報挿入部107、及び再符号化器108を有する。
【0035】
付加情報挿入装置11は、
図1に示したADPCM符号化装置1と、各構成要素101〜106は共通であるため説明を省略する。また、付加情報挿入装置11は、符号化器102の後段に付加情報挿入部107が配置される。付加情報挿入部107は、符号化器102から送られたADPCM符号化信号の下位ビットを更新する処理を行う。例えば付加情報挿入部107が、
図6Aに示すADPCM符号化信号を受け取ると、
図6Bに示すようにADPCM符号化信号の最下位1ビットを抜き取り、付加情報の挿入ビットがADPCM符号化信号における最下位1ビットであるとすると、挿入する付加情報を単純な1ビットのビット列としてスライス化し、
図6Cに示すようにADPCM符号化信号の最下位1ビットに対し置き換えることとなる。
【0036】
付加情報が如何なる信号であるかを復号装置(後述の付加情報抽出装置21、24)側で判別可能とするために、例えば
図7に示す付加情報ビット列の構成が考えられる。付加情報ビット列は、挿入されたサイド情報及び付加情報等の抽出を開始するスタートポイントを明示する同期ワード「START_Field」を先頭に配置し、付加情報を特定するインデックス及び属性を現すサイド情報「Side_information_Field」をまとめた領域を接続後、例えば画像情報のような付加情報「Sample」そのものを挿入することで、復号時の確実な付加情報の抽出が実現できる。
図7に示す付加情報ビット列には必要に応じてバイトアライメント用のスタッフビット「stuff_bit」を追加しても良い。
【0037】
最下位1ビットが付加情報に置き換えられたADPCM符号化信号は、このまま出力信号として伝送するだけでは、受信側(後述の付加情報抽出装置21、24)にてADPCM符号化再現信号の誤差の拡大や量子化ステップ幅そのものの誤差を発生してしまう。そこで
図5に示す付加情報挿入部107から送られた置き換え後のADPCM符号化信号を、再符号化器108は受け取り、ADPCM符号化信号として定義し(再符号化)出力する。再符号化器108は、付加情報が挿入されたADPCM符号化信号を再符号化されたADPCM符号化信号として量子化ステップ制御部103に送信し、受信側にも送信する。再符号化器108から送られるADPCM符号化信号には上記の量子化ステップ幅Δ(t)に相当する誤差を含む可能性があるが、量子化ステップ制御部103にて算出される次の差分値の予測値及び量子化ステップ幅は、付加情報抽出装置21、24と同様な処理を施すことになり、誤差の蓄積及び拡大を防止することができる。
【0038】
ここで、付加情報挿入後のADPCM符号化信号は正規のADPCM符号化信号とは異なるため、厳密には量子化ステップ幅Δ(t)は、符号情報を挿入しない場合と共通にはならない。しかしながら、量子化ステップ制御部103にて実行される、付加情報挿入後のADPCM符号化信号に基づいて音声入力信号とADPCM符号化再現信号との差分を最小化する処理から、付加情報挿入によって発生した誤差も最小化される。この効果から付加情報挿入装置11におけるADPCM符号化信号に含まれる誤差量は、式(1)で求められる誤差量Err(t)を上限とする範囲に収まり、音声品質の劣化を抑制することが可能となる。
【0039】
続いて、
図8を参照して、付加情報挿入装置11の処理について説明する。
【0040】
音声入力信号が入力されると、加算器105は、音声入力信号と、遅延器104から出力されたADPCM符号化再現信号を符号反転した信号とを加算し、音声入力信号とADPCM符号化再現信号の差分値を示す残差信号を生成する(ステップS101)。加算器105は、生成した残差信号を適応量子化器101に出力する。
【0041】
適応量子化器101は、量子化ステップ制御部103から出力された量子化ステップ幅Δ(t)に基づいて、加算器105から出力された残差信号が示す差分値を量子化する(ステップS102)。適応量子化器101は、量子化後の差分値を示す量子化信号を符号化器102及び加算器106に出力する。
【0042】
加算器106は、適応量子化器101から出力された量子化信号と、遅延器104から出力された一つ前のADPCM符号化再現信号とを加算し、ADPCM符号化再現信号を生成する(ステップS103)。加算器106は、生成したADPCM符号化再現信号を遅延器104に出力する。
【0043】
遅延器104は、加算器106から出力されたADPCM符号化再現信号を一時的に保持して遅延させてから加算器105及び加算器106に出力する(ステップS104)。これにより、遅延器104から出力されたADPCM符号化再現信号は、一つ前のADPCM符号化再現信号として加算器105及び加算器106において利用される。
【0044】
一方、符号化器102は、適応量子化器101から出力された量子化信号を符号化し、量子化後の差分値を符号化したADPCM符号化信号を生成する(ステップS105)。符号化器102は、生成したADPCM符号化信号を付加情報挿入部107に出力する。
【0045】
付加情報挿入部107は、符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に付加情報を挿入する(ステップS106)。付加情報挿入部107は、付加情報を挿入したADPCM符号化信号を再符号化器108に出力する。
【0046】
再符号化器108は、付加情報挿入部107から出力された付加情報が挿入されたADPCM符号化信号をADPCM符号化信号として再定義する再符号化を実施する(ステップS107)。再符号化器108は、ADPCM符号化信号を量子化ステップ制御部103に出力し、後述する付加情報抽出装置21に送信する。付加情報抽出装置21に送信されたADPCM符号化信号は、後述するように付加情報抽出装置21によって付加情報が抽出され、音声出力信号に復号化される。
【0047】
量子化ステップ制御部103は、再符号化器108から出力されたADPCM符号化信号に基づいて量子化ステップ幅を算出する(ステップS108)。量子化ステップ制御部103は、算出した量子化ステップ幅を適応量子化器101及び符号化器102に出力する。この量子化ステップ幅は、次の差分値の量子化・符号化に利用される。
【0048】
図9は付加情報挿入装置11にて生成されたADPCM符号化信号から、付加情報を抽出する付加情報抽出装置21の一例を示した構成図である。
【0049】
付加情報抽出装置21は、ビットスライス部201、付加情報抽出部202、復号化器401、量子化ステップ制御部402、遅延器403、及び加算器404を有する。
【0050】
付加情報抽出装置21は、
図2のADPCM復号化装置2と音声復号部分である各構成要素401〜404は共通であるが、さらに、最下位ビットに挿入された付加情報ビット列をADPCM符号化信号から分離するビットスライス部201と、同期ワード及びサイド情報に基づいてADPCM符号化信号に挿入された付加情報を抽出する付加情報抽出部202とを有する。付加情報ビット列は一例として
図6に示したような配置でADPCM符号化信号中に挿入され、付加情報挿入装置11及び付加情報抽出装置21間で定めた所定の取り決めに従い抽出される。抽出された付加情報は、画像データである場合には、図示しない例えば画像復号器のような外部の処理部にて、本来の情報に復元される。
【0051】
続いて、
図10を参照して、本発明の実施の形態1に係る付加情報抽出装置21の処理について説明する。
【0052】
付加情報抽出装置21で受信されたADPCM符号化信号は、量子化ステップ制御部402、復号化器401、及びビットスライス部201に入力される。量子化ステップ制御部402は、ADPCM符号化信号に基づいて量子化ステップ幅を算出する(ステップS201)。量子化ステップ制御部402は、算出した量子化ステップ幅を復号化器401に出力する。
【0053】
復号化器401は、量子化ステップ制御部402から出力された量子化ステップ幅に基づいて、ADPCM符号化信号を復号化し、量子化後の差分値を示す量子化信号を生成する(ステップS202)。復号化器401は、生成した量子化信号を加算器404に出力する。
【0054】
加算器404は、復号化器401から出力された量子化信号と、遅延器403から出力された時間的に一つ前の音声出力信号とを加算し、音声出力信号を生成する(ステップS203)。加算器404は、生成した音声出力信号を遅延器403に出力するとともに、外部に送信する。
【0055】
遅延器403は、加算器404から出力された音声出力信号を一時的に保持して遅延させてから加算器404に出力する(ステップS204)。これにより、遅延器403から出力された音声出力信号は、一つ前の音声出力信号として加算器404において利用される。
【0056】
一方、ビットスライス部201は、ADPCM符号化信号から最下位ビットに挿入された付加情報ビット列を分離する(ステップS205)。ビットスライス部201は、分離した付加情報ビット列を付加情報抽出部202に出力する。
【0057】
付加情報抽出部202は、ビットスライス部201から出力された付加情報ビット列から付加情報を抽出する(ステップS206)。付加情報抽出部202は、抽出した付加情報を外部に出力する。例えば、付加情報が画像データである場合、上述したような画像復号器に出力される。
【0058】
以上のような構成により、付加情報挿入部107で付加情報が挿入されたADPCM符号化信号を、再符号化器108にてADPCM符号化信号として再度定義して出力、及び量子化ステップ制御部103に供給することにより、送信側においても受信側と同様に付加情報挿入後のADPCM符号化信号に基づいて算出した量子化ステップ幅を利用することができる。よって、ADPCM符号化信号に付加情報を挿入して伝送する場合であっても、受信側と送信側で利用する量子化ステップ幅を一致させることができるため、音声出力信号の誤差の低減を図ることができ、付加情報挿入に伴う音声品質の劣化を抑制することができる。これによれば、例えば、音声品質の劣化を抑制しつつ、上述したように4ビットのADPCM符号化信号に対して1ビットの画像データを付加情報として挿入して、ある程度鮮明な静止画情報を伝送するといったことも可能となる。すなわち、音声品質の劣化を抑制しつつ、十分な伝送量を確保した付加情報を受信側に送ることができる。
【0059】
<実施の形態2>
次に本発明の実施の形態2に係る付加情報挿入装置12を、
図11を参照しながら説明する。実施の形態1で説明した構成は、最下位ビット変換に伴う誤差量Err(t)である±(1/2) ×Δ(t)の影響が考えられる。ビット置き換えパターンによっては量子化ステップ幅Δ(t)が本来のステップ幅から拡大する可能性もあり、音声劣化に繋がることがある。
【0060】
そもそもADPCM符号化信号は入力された音声入力信号と、過去の音声入力信号を再現したADPCM符号化再現信号との差分値を量子化した際の量子化誤差を含んでいる。量子化誤差は、代表値として量子化値に置き換えられたADPCM符号化信号を中心に±(1/2) ×Δ(t)を上限及び下限とする範囲にある。付加情報を挿入することにより発生する誤差が、量子化誤差と相殺する方向にADPCM符号化信号を変換することで、総合的な誤差を緩和し音声品質劣化を抑制できる。
【0061】
実施の形態2に係る付加情報挿入装置12は、
図5に示す付加情報挿入装置11と比較して、さらに、適応誤差算出器109及びビット変更制御部110を有する。各構成要素101〜106、108は
図5にて既に説明した構成要素であり、共通の動作を実行するため説明を省略する。但し付加情報挿入部127は付加情報挿入部107とは異なる処理を実行する。付加情報挿入部107はADPCM符号化信号の最下位1ビットを付加情報に置き換える処理を行ったが、付加情報挿入部127はビット変更制御部110から送信されるビット変更制御情報に従い、ADPCM符号化信号を変更する。
【0062】
以下、ADPCM符号化信号が示す、量子化値を符号化した値(符号)を「ADPCM符号」と呼ぶ。例えばADPCM符号化信号が4ビットである場合は、
図12に示すADPCM符号と量子化ステップ幅を導く適応化係数との関係があるものとする。10進数表記で0及び‐1を中心に、適応化係数が1以下で量子化ステップ幅が狭くなるように更新されるADPCM符号の領域から、7や-8のように適応化係数が1より大きく量子化ステップ幅が広くなるように更新されるADPCM符号の領域まで存在する。実施の形態1で説明した最下位1ビットの置き換えの場合、上位ビットは変更されないため上位ビットが共通であるADPCM符号の組合せで変更が成されていた。表中の矢印は例えば、10進数表記で7と6では、上位3ビットが共通であるため最下位1ビットが置き換わると、7から6へ、あるいは6から7へ変更していたことを示す。ADPCM符号化信号の最下位1ビットを書き換えると、量子化ステップ幅一個分の誤差が生じるが、本実施の形態では量子化時の量子化誤差が相殺される(緩和される)方向へ変更するよう、重み付けを加える。
【0063】
図13は量子化誤差の発生を概念的に示す図である。
図13は、
図12のADPCM符号「0010」を中央とした振幅値を縦軸とする一部分を示している。ここで示す例では、本来の差分値(A)を示す残差信号は量子化され(量子化値をBとする)、ADPCM符号「0010」を示すADPCM符号化信号に変換される。ADPCM符号「0010」が付加情報により最下位1ビットが[1]に変更される場合、ADPCM符号「0011」またはADPCM符号「0001」のどちらかに変更すれば目的を達成できる。実施の形態1では最下位1ビットの変更により付加情報を挿入していたためADPCM符号「0011」(対応する量子化値をCとする)に変更されていたが、量子化誤差を考慮すると、実際の残差信号が示す差分値Aに、復号化後の差分値の量子化値Bが近くなるADPCM符号「0001」(対応する量子化値をDとする)に変更する方が総合的な誤差を少なくすることができ、変更に伴う音声劣化も最小化されることが期待できる。
【0064】
適応誤差算出器109は、本来の音声入力信号とADPCM符号化再現信号との差分値(A)と、量子化ステップ制御部103から与えられた量子化ステップ幅にて量子化した差分値の量子化値(B)との量子化誤差(E1)を導き、ビット変更制御部110に送る。ビット変更制御部110は、適応誤差算出器109から取得した量子化誤差の符号情報及び大きさから、
図12に示す情報に基づいて、付加情報挿入の際にプラス側またはマイナス側のどの方向にビット変更を実施するかを指示するビット変更制御情報を生成し、付加情報挿入部127に送信する。
【0065】
付加情報挿入部127はビット変更制御情報により、ビット変更時に隣り合う符号のどちらに変更すべきかを判断し、より総合的な誤差が小さくなるADPCM符号に置き換わるべくADPCM符号化信号を変更し、付加情報を挿入する。
【0066】
例えば、適応誤差算出器109が算出する量子化誤差が、量子化後の差分値(B)から量子化前の差分値(A)を減算した値であるものとする。例えば
図13に示す、量子化誤差の符号情報がプラスである場合、実際の差分値(A)は、量子化後の差分値(B)のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、小さい方のADPCM符号に対応する量子化値に近いことになる。また例えば、
図13のADPCM符号「0011」とADPCM符号「0010」の間に実際の差分値が存在する、量子化誤差の符号情報がマイナスである場合、実際の差分値(A)は、量子化後の差分値(B)のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、大きい方のADPCM符号に対応する量子化値に近いことになる。よって、この場合、ビット変更制御部110は、適応誤差算出器109から取得した量子化誤差の符号情報がプラスである場合、量子化後の差分値(B)のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、小さい方のADPCM符号に変更することを指示するビット変更制御情報を生成するようにすればよい。また、ビット変更制御部110は、適応誤差算出器109から取得した量子化誤差の符号情報がマイナスである場合、量子化後の差分値(B)のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、大きい方のADPCM符号に変更することを指示するビット変更制御情報を生成するようにすればよい。
【0067】
続いて、
図14を参照して、付加情報挿入装置12の処理について説明する。なお、
図8を参照して説明した実施の形態1に係る処理と同様の処理については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
実施の形態2ではステップS101後に、適応誤差算出器109が、加算器105から出力された残差信号と、量子化ステップ制御部103から出力された量子化ステップ幅とに基づいて、量子化誤差を算出する(ステップS109)。具体的には、適応誤差算出器109は、加算器105から出力された残差信号(量子化前の差分値)と、量子化ステップ制御部103から出力された量子化ステップ幅に基づいて、量子化後の差分値を算出する。そして、適応誤差算出器109は、加算器105から出力された残差信号(量子化前の差分値)と、算出した量子化後の差分値の差分として量子化誤差を算出する。適応誤差算出器109は、算出した量子化誤差をビット変更制御部110に出力する。
【0069】
ビット変更制御部110は、適応誤差算出器109から出力された量子化誤差に基づいて、ADPCM符号化信号のビット変更を指示するビット変更制御情報を生成し、付加情報挿入部127に出力する。ビット変更制御情報は、量子化後の差分値のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、量子化前の差分値と量子化値の誤差がより小さくなるADPCM符号を示すようにADPCM符号化信号を変更するよう指示する情報である(ステップS110)。
【0070】
これにより、付加情報挿入部127において、ビット変更制御情報に基づいて符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に付加情報を挿入するときに(ステップS106)、量子化誤差を低減したADPCM符号を示すようにADPCM符号化信号が変更される。
【0071】
以上のような構成により、ADPCM符号化信号に付加情報を挿入する際、
図13に示す本来の音声入力信号とADPCM符号化再現信号との差分値を量子化することで発生する量子化誤差(例えばE1)と、付加情報挿入に伴い発生する誤差(例えばE2又はE3)との和が小さくなるようなADPCM符号へ置き換わるべくADPCM符号化信号を制御するようにしている。言い換えると本実施の形態の付加情報挿入装置12は、付加情報が挿入されたADPCM符号化信号を、付加情報を変更せずに量子化前の差分値と量子化値の誤差がより小さくなるADPCM符号を示すように、ADPCM符号化信号を変更する制御を行うようにしている。この制御によれば、付加情報の挿入による誤差を低減することができる。これによれば、例えば、音声品質の劣化を抑制しつつ、上述したように4ビットのADPCM符号化信号に対して1ビットの画像データを付加情報として挿入して、ある程度鮮明な静止画情報を伝送するといったことも可能となる。すなわち、音声品質の劣化を抑制し、かつ十分な伝送量を確保した付加情報を受信側に送ることができる。
【0072】
<実施の形態3>
次に本発明の実施の形態3に係る付加情報挿入装置13を、
図15を参照しながら説明する。
【0073】
実施の形態3に係る付加情報挿入装置13は、
図5に示す付加情報挿入装置11と比較して、さらに、ビット列判別部111及びビット変更制御部120を有する。また、付加情報挿入部107に換えて、付加情報挿入部137を有する。
図5にて説明した各構成要素101〜106、108は、説明を省略する。付加情報挿入部137は実施の形態2における付加情報挿入部127と同様に、音質劣化を抑制するための新たな処理であるビット変更情報を用いた付加情報挿入処理を行う。
【0074】
実施の形態3も、実施の形態2と同じく実施の形態1に対し音声劣化を更に抑制する処理を追加したものである。そもそもADPCM符号化処理は、音声入力信号の入力信号レベルが低く、隣り合う音声入力信号同士の変化量が小さい場合、適応予測による予測精度が向上し、音声入力信号とADPCM符号化再現信号の差分値が小さくなるため、量子化ステップ幅が狭く抑えられる。この場合、符号化による誤差を少なくでき音質維持が図られる。反対に音声入力信号の入力信号レベルが高く、隣り合う音声入力信号同士の変化量が大きい場合、適応予測による予測精度にばらつきが発生するとともに、入力信号レベルの上昇に伴い音声入力信号とADPCM符号化再現信号の差分値も大きくなるため、量子化ステップ幅が拡大する。この量子化ステップ幅の拡大により、少ないビット数で差分値の量子化値をADPCM符号化信号で表現可能な範囲内に収めることができ、符号化時の源信号に対する誤差の上昇を抑えることができる。また、音圧レベル上昇による人間の聴感上のマスキング効果と合わさり、主観的な音声品質の維持が図られている。
【0075】
しかしながら、4ビット前後のADPCM符号化信号が表現できる量子化ステップ幅は、人間の聴感上の変化量検知能力と比較すると非常に粗く、特に音量が大きい場合には音質劣化が知覚されることもあった。特に、上述のように量子化ステップ幅が拡大する方向に変更されている場合には、付加情報の挿入によってADPCM符号化信号が変更されることによる音圧レベルの振れ幅が更に増加する。すなわち、付加情報の挿入は、音圧レベルが過度に上昇し、重大な音質劣化を招く危険性を伴う。使用者の身体(聴覚)の保護や機器の保全の観点からも音圧レベルの拡大(音量拡大)を防止する必要がある。
【0076】
本発明の実施の形態における付加情報挿入に伴う誤差量は量子化ステップ幅Δ(t)に依存し、誤差成分による音声信号に加わる過大なノイズ音量を抑えるためには、この量子化ステップ幅Δ(t)を抑える働きを促すことで実現できる。量子化ステップ幅Δ(t)を抑えるためには、ADPCM符号化信号を10進数で1又は‐1の方向にシフトする重み付けを与えれば良い。
図16にADPCM符号と、量子化ステップ幅を導く適応化係数と、重み付けの方向を示した。ADPCM符号が正の場合、ビット変更時に1を減算し、ADPCM符号の符号が負の場合、ビット変更時に1を加算する。つまりADPCM符号化信号の符号ビットに従って制御することになる。
【0077】
ビット列判別部111は符号化器102で生成されたADPCM符号化信号の符号ビットを判別し、判別した符号ビット情報をビット変更制御部120に送信する。ビット変更制御部120は、ADPCM符号化信号の符号ビット情報を元に
図16に示した重み付け情報を、ビット変更制御情報として付加情報挿入部137に送信する。付加情報挿入部137はビット変更制御情報に従い、挿入する付加情報によるビット変更の際に隣り合うADPCM符号のうち、どちらのADPCM符号に変更するかを選択する。
【0078】
続いて、
図17を参照して付加情報挿入装置13の処理について説明する。なお、
図8を参照して説明した処理と同様の処理については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
実施の形態3ではステップS105の後に、ビット列判別部111が、符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に基づいて、ADPCM符号化信号の正負の符号を判別する(ステップS111)。ビット列判別部111は、判別した符号を示す符号ビット情報をビット変更制御部120に出力する。
【0080】
ビット変更制御部120は、符号ビット情報に基づいて、量子化後の差分値のADPCM符号に隣接するADPCM符号のうち、ADPCM符号化信号の絶対値がより小さくなる方向にADPCM符号を変更するように、ADPCM符号化信号のビット変更を指示するビット変更制御情報を生成し、付加情報挿入部137に出力する(ステップS112)。例えば、ビット変更制御部120は、符号ビット情報が示すADPCM符号化信号の符号が正である場合、1を減算するようにビットの変更を指示するビット変更制御情報を生成し、符号ビット情報が示すADPCM符号化信号の符号が負である場合、1を加算するようにビットの変更を指示するビット変更制御情報を生成する。
【0081】
これにより、付加情報挿入部137において、符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に付加情報を挿入するときに(ステップS113)、量子化ステップ幅を抑制する方向にADPCM符号化信号が変更される。
【0082】
以上のような構成により、ADPCM符号化信号に付加情報を挿入する際、量子化ステップ幅を抑制する方向への重み付けに従ってADPCM符号化信号が示すADPCM符号を置き換えるよう制御することができる。よって、音圧レベルが過度に上昇を抑えることができ、付加情報挿入に伴う音声品質の劣化を抑制することができる。これによれば、例えば、音声品質の劣化を抑制しつつ、上述したように4ビットのADPCM符号化信号に対して1ビットの画像データを付加情報として挿入して、ある程度鮮明な静止画情報を伝送するといったことも可能となる。すなわち、音声品質の劣化を抑制し、かつ十分な伝送量を確保した付加情報を受信機側に送ることができる。
【0083】
<実施の形態4>
次に本発明の実施の形態4に係る付加情報挿入装置14を、
図18を参照しながら説明する。
【0084】
実施の形態4に係る付加情報挿入装置14は、
図5に示す付加情報挿入装置11と比較して、さらに、適応差分変化率取得部112及び付加情報挿入量制御部113を有する。また、付加情報挿入部107に換えて、付加情報挿入部147を有する。
【0085】
上述したように、付加情報の挿入は、音圧レベルが過度に上昇し、重大な音質劣化を招く危険性を伴う。そのため、付加情報挿入装置14では、ADPCM符号化時に発生する適応差分誤差量を把握し、適応差分誤差量が拡大傾向にある場合は挿入する付加情報量を制御する手段を設置する。
【0086】
適応差分変化率取得部112は符号化器102で生成されたADPCM符号化信号から適応差分変化率情報を取得し、付加情報挿入量制御部113に送信する。ここで、適応差分誤差Δ(t)は適応差分変化率が大きいほど拡大する可能性が高く、適応差分変化率が大きい場合に挿入する付加情報量を抑えれば、過度な音質劣化を回避することができる。付加情報量を抑えるということは、個々のADPCM符号化信号に対し、付加情報を挿入する頻度を少なくすることを意味する。
【0087】
付加情報挿入量制御部113は、適応差分変化率取得部112から取得した適応差分変化率情報により、挿入する付加情報量を制御する。ADPCM符号化信号が4ビットである場合における一例を
図19に示す。
図19はADPCM符号と量子化ステップ幅Δ(t)を導く適応化係数の関係を表したものである。ADPCM符号が10進法表記で4以上、または‐5以下を示す場合、適応差分誤差量の拡大に対応し量子化ステップ幅Δ(t)を大きくする作用が働き、適応化係数が上昇する。すなわち、適応差分誤差量は、適応化係数の増加とともに拡大する傾向にある。よって、適応差分変化率取得部112では適応化係数の大きさから適応差分変化率を取得し、その適応差分変化率に応じた付加情報挿入量を付加情報挿入量制御部113で指定する。なお、適応差分変化率は、適応化係数そのものであってもよく、適応化係数の大きさに応じて設定される、適応化係数を特定可能な値としてもよい。
【0088】
例えば適応化係数に所定の閾値を用意し、閾値を超えるADPCM符号化信号が生成された場合は、付加情報を挿入しないと規定する。具体的には、例えば、付加情報挿入量制御部113は、適応化係数が2.4である時(ADPCM符号が10進法で7と−8の時)、量子化ステップ幅Δ(t)の大きさが最も大きくなることが予想されるため、付加情報を挿入しないことを指定する付加情報挿入量指定情報を付加情報挿入部147に対し伝送する。また、付加情報挿入量制御部113は、適応化係数が2.4未満である時(ADPCM符号が10進法で6〜−7のいずれかである時)、量子化ステップ幅Δ(t)の大きさが小さくなることが予想されるため、付加情報を挿入することを指定する付加情報挿入量指定情報を付加情報挿入部147に対し伝送する。ここでは、適応化係数の閾値を2.4とした場合(正の閾値を7とし、負の閾値を−8とした場合)について例示したが、閾値はこれに限られない。
【0089】
また、付加情報挿入量として、付加情報を挿入する頻度を制御することで、量子化値拡大時の更なる誤差要因の増大を抑制する方法もある。
【0090】
図20は適応化係数別に付加情報の挿入頻度を規定した一例を示したものである。音量が小さく信号の変化が少なく、適応化係数が小さい場合(
図20では0.9)は適応予測誤差が低く抑えられており、付加情報挿入による音質劣化も目立たないため、常に付加情報を挿入する。適応予測誤差は、音声入力信号とADPCM符号化再現信号の差分値である。すなわち、この適応化係数の場合、付加情報挿入量制御部113は、常に付加情報を挿入することを指定する付加情報挿入量指定情報を付加情報挿入部147に対し伝送する。適応予測誤差が増加し、適応化係数が1を超える(適応差分誤差量が拡大傾向)ADPCM符号化信号が生成された場合は、その適応化係数の値に応じて挿入頻度を設定する。例えば、
図20に示す例では適応化係数が1.2の時(ADPCM符号化信号の値が10進法で4と‐5の時)、ADPCM符号化信号の2つに1つの割合で付加情報を挿入する。すなわち、この場合、付加情報挿入量制御部113は、2つのADPCM符号化信号のうち、1つに付加情報を挿入することを指定する付加情報挿入量指定情報を付加情報挿入部147に対し伝送する。2つのADPCM符号化信号のうち、どちらのADPCM符号化信号に挿入するかは予め定めておく。例えば、先に伝送されるADPCM符号化信号に挿入すると定めてもよく、後に伝送されるADPCM符号化信号に挿入すると定めてもよい。なお、適応化係数と付加情報挿入頻度との関係は、
図20に例示したものに限られず、任意の関係を予め定めるようにしてよい。
【0091】
続いて、
図21を参照して、本発明の実施の形態4に係る付加情報挿入装置14の処理について説明する。なお、
図8を参照して説明した処理と同様の処理については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
実施の形態4ではステップS105の後に、適応差分変化率取得部112は、符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に基づいて、適応差分変化率を算出する(ステップS114)。なお適応差分変化率取得部112は、一般的に量子化ステップ幅を算出する方法により、適応化係数を算出し、算出した適応化係数に応じた適応差分変化率を算出するようにすればよい。適応差分変化率取得部112は、算出した適応差分変化率を示す適応差分変化率情報を付加情報挿入量制御部113に出力する。
【0093】
付加情報挿入量制御部113は、適応差分変化率取得部112から出力された適応差分変化率情報が示す適応差分変化率に基づいて、付加情報挿入量を指定する付加情報挿入量指定情報を生成し、付加情報挿入部147に出力する(ステップS115)。ここで、付加情報挿入量は、適応差分変化率と、適応差分変化率に対応する付加情報挿入量を予め定めておくことで、付加情報挿入量制御部113が適応差分変化率から特定可能としておけばよい。
【0094】
付加情報挿入部147は、符号化器102から出力されたADPCM符号化信号に、付加情報挿入量制御部113から出力された付加情報挿入量指定情報で指定される付加情報挿入量で、付加情報を挿入する(ステップS116)。
【0095】
以上のような構成により、ADPCM符号化信号に付加情報を挿入する際、生成されたADPCM符号化信号が持つ適応化係数から適応差分誤差拡大状況を把握し、適応差分誤差拡大によって音質劣化が予想される場合は挿入する付加情報の量を低減するように制御することで、付加情報挿入に伴う音声品質の劣化を抑制し、かつ十分な伝送量を確保した付加情報を受信側に送ることができる。
【0096】
次にADPCM符号化信号から挿入された付加情報を抽出する付加情報抽出装置24を、
図22を参照しながら説明する。
図22は実施の形態4の付加情報挿入装置14にて生成されたADPCM符号化信号から、付加情報を抽出する付加情報抽出装置24の一例を示した構成図である。
【0097】
実施の形態4に係る付加情報抽出装置24は、
図9に示す付加情報抽出装置21と比較して、さらに、適応差分変化率取得部203及び付加情報挿入量判定部204を有する。また、付加情報抽出装置24は、付加情報抽出部202に換えて、付加情報抽出部222を有する。
図9にて説明した各構成要素201、401〜404は説明を省略する。適応差分変化率取得部203は、ADPCM符号化信号から適応差分変化率情報を取得する。付加情報挿入量判定部204は、適応差分変化率取得部203で取得された適応差分変化率情報に応じて、異なる頻度で挿入された付加情報の位置及び頻度(付加情報挿入量)を判定する。実施の形態4では、付加情報抽出部222は、再構築されたビット列から同期ワード及びサイド情報に加えて、付加情報挿入量判定部204で判定された付加情報挿入量を元に挿入された付加情報を抽出する。
【0098】
ビットスライス部201でビットスライス化された付加情報ビット列は、ADPCM符号化信号に対応する適応差分変化率に応じた挿入量に従い挿入された付加情報が存在する。例えば
図19に示す適応化係数が1を超える(つまりADPCM符号が10進法表記で4以上または‐5以下である)場合、付加情報を挿入しないとした規定に沿って付加情報挿入装置14により生成されたADPCM符号化信号が伝送されるとするならば、その規定を予め付加情報挿入装置14と付加情報抽出装置24とで共有しておく。そして、付加情報挿入量判定部204は、適応差分変化率に基づいて、適応化係数が1.2以上(ADPCM符号が10進法表記で4以上または‐5以下)のADPCM符号化信号が伝送されたと判定される際には付加情報が含まれないと判断し、そのADPCM符号化信号に対応するビットを除いた付加情報ビット列から付加情報を抽出するように、付加情報抽出部222を制御するようにすれば良い。すなわち、この場合、付加情報挿入量判定部204は、適応差分変化率情報が示す適応差分変化率によって特定される適応化係数が1.2以上である場合、付加情報が含まれないことを通知する付加情報挿入量通知情報を付加情報抽出部222に送信し、適応化係数が1.2未満である場合、付加情報が含まれることを通知する付加情報挿入量通知情報を付加情報抽出部222に送信する。
【0099】
図20の規定に従って生成されたADPCM符号化信号における挿入された付加情報の有効位置を、
図23を用いて説明する。すなわち、ここでは、
図20に示す規則を付加情報挿入装置14と付加情報抽出装置24とで共有している例について説明する。また、付加情報挿入頻度を規定する際にグループとして束ねられるADPCM符号化信号のセットの内、最後に位置するADPCM符号化信号に付加情報を挿入した例である。
図23では、1bitに1回(1bit)の付加情報が挿入される頻度を1、2bitに1回(1bit)の付加情報が挿入される頻度を1/2、4bitに1回(1bit)の付加情報が挿入される頻度を1/4として表記した。
【0100】
この場合、付加情報挿入量判定部204は、例えば、適応差分変化率取得部203で取得された適応差分変化率で特定される適応化係数が1.2である場合、付加情報挿入頻度として1/2を示す付加情報挿入量通知情報を生成し、付加情報抽出部222に送信し、適応化係数が1.6である場合、付加情報挿入頻度として1/4を示す付加情報挿入量通知情報を生成し、付加情報抽出部222に送信する。付加情報抽出部222は、付加情報挿入量判定部204からの付加情報挿入量通知情報が示す付加情報挿入頻度が1/2の場合は2組のセットの2番目をビット挿入有効位置と判定し、1/4の場合は4個のセットの4番目をビット挿入有効位置と判定する。ビット挿入位置をYで、挿入しない部分をNで明示した。付加情報抽出部222は、この規定に基づき1ビットのビット列としてスライス化された付加情報候補となるビット列から、有効な付加情報を抽出することが可能である。
【0101】
ここで、
図23に示すように、グループとして束ねられるADPCM符号化信号のセットは、複数のADPCM符号化信号をセットとする適応化係数が検出された場合に、それに対応するADPCM符号化信号を先頭として決定される。よって、例えば、付加情報挿入部147及び付加情報抽出部222は、あるADPCM符号化信号の適応化係数から付加情報挿入頻度として1/2を決定した場合、その次のADPCM符号化信号の適応化係数に関係なく、次のADPCM符号化信号を付加情報の挿入位置として特定する。
【0102】
続いて、
図24を参照して、実施の形態4に係る付加情報抽出装置24の処理について説明する。なお、
図9を参照して説明した処理と同様の処理については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0103】
実施の形態4では、付加情報抽出装置21で受信されたADPCM符号化信号は、適応差分変化率取得部203にも入力される。適応差分変化率取得部203は、ADPCM符号化信号に基づいて、適応差分変化率を算出する(ステップS207)。適応差分変化率取得部112と同様の手法により、適応差分変化率を算出するようにすればよい。適応差分変化率取得部203は、算出した適応差分変化率を示す適応差分変化率情報を付加情報挿入量判定部204に出力する。
【0104】
付加情報挿入量判定部204は、適応差分変化率取得部203から出力された適応差分変化率情報が示す適応差分変化率に基づいて、付加情報挿入量を判定する(ステップS208)。付加情報挿入量判定部204は、判定した付加情報挿入量を通知する付加情報挿入量通知情報を生成し、付加情報抽出部222に出力する。ここで、付加情報挿入量は、適応差分変化率と、それに対応する付加情報挿入量を予め定めておくことで、付加情報挿入量判定部204が適応差分変化率から特定可能としておけばよい。
【0105】
これにより、付加情報抽出部222において、付加情報挿入量判定部204から出力された付加情報挿入量通知情報が示す付加情報挿入量に基づいて、ビットスライス部201によってADPCM符号化信号から分離された情報から付加情報の挿入位置を特定して付加情報を抽出することが可能となる(ステップS206)。
【0106】
以上のような構成により、ADPCM符号化信号の適応差分変化率に応じた挿入量でADPCM符号化信号に含まれる付加情報を、ADPCM符号化信号の適応差分変化率を分析してその挿入位置を特定可能とすることで正確に抽出することができる。付加情報挿入量は上記に示す例以外にも様々なパターンで規定でき、規定の内容を付加情報挿入装置14及び付加情報抽出装置24で共有することで安定的かつ音質を維持したまま付加情報の送受信を実現できる。
【0107】
<実施の形態5>
サイド情報は挿入する付加情報の挿入量を具体的に記述することもでき、付加情報抽出装置24で有効なビット列を判別する際に用いられる。サイド情報に付加情報の挿入量を具体的に記述することで、過度な音声劣化が予想される場合には、付加情報を挿入しない又は挿入量を減らすといった方法を選択でき、状況に応じた音質維持及び付加情報の可変レート制御による伝送を可能にする。具体的なサイド情報の記述については後で詳しく説明する。
【0108】
図25は本発明の実施の形態に係る付加情報を含む付加情報ビット列の構成例を示す図である。実施の形態4では予め付加情報を挿入するパターンを付加情報挿入装置14及び付加情報抽出装置24で共有する必要があったが、本実施の形態の付加情報ビット列の構成は、付加情報挿入量を付加情報ビット列を形成する付加情報の一部に記述することで、付加情報伝送中に付加情報挿入量を任意に変更可能な制御可能型可変レート伝送に対応できる。
【0109】
図25に示す付加情報ビット列の内、同期ワード及びサイド情報の領域は予め規定された挿入方式に従いADPCM符号化信号に挿入する。これは途中で付加情報の挿入量が変化しても、確実に付加情報を抽出可能にするためである。例えば送信側で、規定に基づきADPCM符号化信号に付加情報を挿入し伝送していても、受信側の付加情報抽出装置24がいつ受信を開始するかは使用状況に依存する。途中で受信が開始された際に予め同期ワードとサイド情報の領域に関し規定していれば、その規定に基づき同期ワードを検索することで挿入された付加情報を取得できる。
【0110】
図20のような付加情報挿入量を規定するインデックスを予め何種類か用意しておき、
図18の付加情報挿入量制御部113に対し、内部または図示しない外部からの付加情報挿入量に対する要求(制御信号)があった場合、その付加情報挿入量に対応するインデックスを選択する。具体的には、例えば、付加情報挿入量制御部113は、付加情報挿入装置14が有する任意の入力装置(図示せず)に対して、又は、外部の情報処理装置から任意の有線通信又は無線通信を介して、インデックス(付加情報挿入量)を指定する入力を受ける。そして、付加情報挿入量制御部113は、入力されたインデックスを付加情報挿入量指定情報として付加情報挿入部147に出力する。付加情報挿入部147は、付加情報挿入量制御部113から出力されたインデックスに対応する付加情報挿入量でADPCM符号化信号に付加情報を挿入するとともに、そのインデックスをサイド情報に設定する。そして、受信側の付加情報抽出部202では、サイド情報に設定されたインデックスに従い、インデックスに対応する付加情報挿入量に応じて付加情報の挿入位置を特定し取得することができる。付加情報挿入量を示すインデックス(付加情報挿入量Index)は付加情報ビット列のサイド情報の一部として
図25のように配置され、実際の付加情報が含まれる領域の挿入量を制御する。
【0111】
また付加情報挿入ビット幅はADPCM符号化信号の下位ビットの内、最下位ビットから何ビット目までを付加情報挿入領域として使用したかを示す情報が記載されている。ADPCM符号化方式は何種類かあり、5ビットや6ビットで符号化されるADPCM符号化方式も国際的な標準規格として採用されている。符号化ビット数が多い場合は音質劣化にも強くなるため、その分付加情報の挿入量を増加することができる。付加情報挿入ビット幅はこの際の有効なビット幅を規定するためにサイド情報に設定される情報である。例えば、付加情報挿入量制御部113は、付加情報挿入装置14が有する任意の入力装置に対して、又は、外部の情報処理装置から任意の有線通信又は無線通信を介して、最下位ビットから何ビット目までを付加情報挿入領域として使用するかを指定する入力を受ける。そして、付加情報挿入量制御部113は、入力された情報を付加情報挿入部147に出力する。付加情報挿入部147は、付加情報挿入量制御部113から出力された情報で指定される下位ビット幅にADPCM符号化信号に付加情報を挿入するとともに、そのビット幅を示す付加情報挿入ビット幅をサイド情報に設定する。そして、受信側の付加情報抽出部202では、この付加情報挿入ビット幅に従い、ADPCM符号化信号のうち、付加情報が挿入された下位ビット幅から付加情報を取得することができる。
【0112】
送受信中であるが音声信号の伝送を伴わない場合は、音声劣化を抑制する必要が無いため、その分、付加情報の挿入量を増やすことができる。また反対に重要な音声の送受信が必要な場合は付加情報の挿入量を抑制し、音質劣化が発生しない程度の付加情報の挿入を許容する。音声よりも画像情報のような視覚情報が必要であれば音質劣化をある程度許容し、付加情報を優先して伝送することにも対応できる。
【0113】
このように付加情報伝送中に挿入する付加情報の一部として付加情報挿入量を示す情報を配置することで、使用状況に応じた可変型伝送レートに対応する付加情報の送受信を実現することができる。なお、実施の形態5に係る可変レート制御は、実施の形態4に限られず、他の実施の形態1〜3に組み合わせて実施するようにしてもよい。
【0114】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。