(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流路は、前記砥石覆いの内側面における前記砥石車の外周面と対向する箇所と前記砥石覆いの外側面とにより挟まれる内部を通過するように形成されている、請求項1の研削盤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
砥石軸部材の静圧軸受に供給される油は、砥石軸部材の高速回転に伴うせん断発熱により温度上昇(10数度程度)する。この温度上昇した油は、油を排出する経路を通って油を貯留するタンクに還流される。そして、オイルクーラー等で一定温度に冷却され、再び砥石軸部材の静圧軸受に供給される。このため、油を排出する経路から研削に関わる部位に油の熱が伝達される場合があり、当該部位に熱変位が生じて研削に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、砥石軸部材の液体軸受に供給された液体を速やかに冷却することができる研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本手段に係る研削盤は、回転させながら被研削物を研削する砥石車と、前記砥石車を回転可能に支持する液体軸受と、前記液体軸受に供給する液体を貯留するタンクと、前記砥石車における前記被研削物との接触部位に向けて研削液を供給する研削液供給装置と、前記砥石車を覆い、前記液体軸受から排出される前記液体を前記タンクへ還流するための流路が内部に設けられている砥石覆いと、を備える。
【0007】
(請求項2)また、前記流路は、前記砥石覆いの内側面における前記砥石車の外周面と対向する箇所と前記砥石覆いの外側面とにより挟まれる内部を通過するように形成されているようにしてもよい。
(請求項3)また、前記砥石覆いにおける内部には、前記液体を一旦滞留させる液体溜り部が形成されているようにしてもよい。
(請求項4)また、前記液体溜り部の内周面は、前記砥石覆いにおける前記砥石車の外周面と対向する内側面に沿った形状に形成されているようにしてもよい。
【0008】
(請求項5)また、前記流路には、前記砥石車の砥石軸部材をエアーによりシールするエアーシールからのエアーが供給されるようにしてもよい。
(請求項6)また、前記砥石車が配置される砥石台には、前記流路から前記タンクへつながる経路が設けられているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1)本発明によれば、砥石覆いの内側面は、砥石車の回転に伴って砥石車の外周面に連れ回りされる研削液により十分に冷却されているので、砥石覆いに設けられた流路内を流れる液体も、速やかに冷却することができる。これにより、研削に関わる部位における液体の熱伝達による熱変位を抑制することができ、高精度な研削を行うことができる。また、液体を冷却するための装置の負担を軽減することができるので、省エネルギ効果を得ることができる。
【0010】
(請求項2)これにより、砥石覆いにおける流路に近い内側面には、砥石の外周面に連れ回りされる研削液が十分に供給されるので、流路内を流れる液体をさらに速やかに冷却することができる。
(請求項3)これにより、液体が液体溜り部に一旦滞留されることになるので、液体をより冷却することができる。
【0011】
(請求項4)これにより、液体溜り部に一旦滞留されている液体は、砥石車の外周面と対向する砥石覆いの内側面を流れる研削液により、十分に冷却されることになる。
(請求項5)これにより、流路内を流れる液体には、排出方向の力が加わるので、流路内を流れる液体をタンクへスムーズに還流することができるとともに、流路内での液体の逆流を防止することができる。
(請求項6)これにより、砥石覆いに液体の流路を設けてもコンパクトな設計が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.研削盤の機械構成)
以下、本発明の実施形態の研削盤について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の研削盤の一例として、軸状の被研削物の研削が可能な砥石台トラバース型円筒研削盤を例に挙げて説明する。なお、トラバース方向をZ軸方向、トラバース方向と直角な水平方向をX軸方向、トラバース方向と直角な鉛直方向をY軸方向とする。
【0014】
図1に示すように、研削盤1は、ベッド10と、主軸台20と、心押台30と、砥石支持装置40と、クーラント(研削液)供給装置50と、定寸装置60と、制御装置70等とから構成される。
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、砥石支持装置40を構成する砥石台トラバースベース41が摺動可能な一対の砥石台用Z軸ガイドレール11a、11bが、Z軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置固定されている。
【0015】
さらに、ベッド10の上面の一対の砥石台用Z軸ガイドレール11a、11bの間には、砥石台トラバースベース41をZ軸方向に駆動するための砥石台用Z軸ボールねじ11cが配置され、この砥石台用Z軸ボールねじ11cを回転駆動する砥石台用Z軸モータ11dが配置固定されている。
【0016】
主軸台20は、主軸台本体21と、主軸22と、主軸モータ23と、主軸センタ24等とを備えている。主軸台本体21には、主軸22が回転可能に挿通支持されている。主軸台本体21は、主軸22の軸方向がZ軸方向を向き、且つ一対の砥石台用Z軸ガイドレール11a、11bと平行になるようにベッド10の上面に固定されている。
【0017】
主軸22の左端には、主軸モータ23が設けられ、主軸22は、主軸モータ23により主軸台本体21に対してZ軸回りに回転駆動される。この主軸モータ23には、主軸モータ23の回転角の検出が可能なエンコーダが備えられている。また、主軸22の右端には、軸状の被研削物Wの軸方向一端を支持する主軸センタ24が取り付けられている。
【0018】
心押台30は、心押台本体31と、心押センタ32等とを備えている。心押台本体31には、心押センタ32が回転可能に挿通支持されている。心押台本体31は、心押センタ32の軸方向がZ軸方向を向くように、且つ心押センタ32の回転軸が主軸22の回転軸と同軸となるようにベッド10の上面に固定されている。
すなわち、心押センタ32は、主軸センタ24と被研削物Wの軸方向両端を支持してZ軸回りに回転可能なように配置されている。心押センタ32は、被研削物Wの長さに応じて心押台本体31の右端面からの突出量の変更が可能に構成されている。
【0019】
砥石支持装置40は、砥石台トラバースベース41と、砥石台42と、砥石車43と、砥石回転用モータ44等とを備えている。砥石台トラバースベース41は、矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面において一対の砥石台用Z軸ガイドレール11a、11b上を摺動可能に配置されている。
【0020】
砥石台トラバースベース41は、砥石台用Z軸ボールねじ11cのナット部材に連結されており、砥石台用Z軸モータ11dの駆動により一対の砥石台用Z軸ガイドレール11a、11bに沿って移動される。この砥石台用Z軸モータ11dには、砥石台用Z軸モータ11dの回転角の検出が可能なエンコーダが備えられている。
【0021】
砥石台トラバースベース41の上面には、砥石台42が摺動可能な一対の砥石台用X軸ガイドレール41a、41bが、X軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置固定されている。
さらに、砥石台トラバースベース41の上面の一対の砥石台用X軸ガイドレール41a、41bの間には、砥石台42をX軸方向に駆動するための砥石台用X軸ボールねじ41cが配置され、この砥石台用X軸ボールねじ41cを回転駆動する砥石台用X軸モータ41dが配置されている。この砥石台用X軸モータ41dには、砥石台用X軸モータ41dの回転角の検出が可能なエンコーダが備えられている。
【0022】
砥石台42は、砥石台トラバースベース41の上面の一対の砥石台用X軸ガイドレール41a、41b上を摺動可能に配置されている。砥石台42は、砥石台用X軸ボールねじ41cのナット部材に連結されており、砥石台用X軸モータ41dの駆動により一対の砥石台用X軸ガイドレール41a、41bに沿って移動される。
つまり、砥石台42は、ベッド10、主軸台20および心押台30に対して、X軸方向(プランジ送り方向)およびZ軸方向(トラバース送り方向)に相対移動可能に構成されている。
【0023】
砥石台42の上面には、砥石軸部材45が静圧軸受47(本発明の「液体軸受」に相当する)によりZ軸回りに回転可能に支持されている。静圧軸受47には、ベッド10内に収納されたタンク81に貯留されている油(本発明の「液体」に相当する)が、タンク81に取付けられたポンプ82から配管を通し、軸受ハウジング49内の上部に設けられている供給油路83a(
図2A参照)を通して供給されるようになっている。
【0024】
砥石軸部材45には、クーラント供給装置50のクーラント(研削液)の浸入防止のためのエアーシール部46(
図2A参照)が設けられている。砥石軸部材45の一端には、円盤状の砥石車43が同軸で取り付けられている。
【0025】
砥石台42の上面には、ベルト・プーリ機構46介して砥石軸部材45を砥石車43とともに回転駆動するための砥石回転用モータ44が固定されている。砥石台42のZ軸方向の側面には、クーラント供給装置50から砥石車43の外周面43aと被研削物Wの外周面Waとの接触部位に供給されるクーラントの飛散を防止するため、砥石車43を覆う砥石覆い48が取り付けられている。
【0026】
詳細は後述するが、
図2Aに示すように、砥石覆い48の内部には、静圧軸受47から軸受ハウジング49内の下部に設けられている排出油路83bを通して排出される温度上昇した油を、冷却してタンク81へ還流するための流路84が設けられている。また、排出油路83bには、静圧軸受47に設けられているエアーシール部46のエアーを導入するエアー導入管部46aが連通されている。
【0027】
さらに、
図2Bに示すように、砥石覆い48の背面48a(X軸方向の被研削物W側とは逆側の面)には、流路84からタンク81へつながる経路85が設けられている。このように、砥石覆い48の背面48aに油の経路85を設けることにより、砥石覆い48内に油の流路84を設けてもコンパクトな設計が可能となる。
【0028】
クーラント供給装置50は、クーラント貯留槽51、ポンプ52およびクーラント供給ノズル53等を備えている。クーラント貯留槽51およびポンプ52は、ベッド10の脇に設置されている。クーラント供給ノズル53は、砥石車43の上方の砥石覆い48に取付けられ、ポンプ52と配管接続されている。
【0029】
定寸装置60は、研削部位における被研削物Wの外径を計測して計測信号を制御装置70へ出力するための装置である。
制御装置70は、各モータを制御して、被研削物Wおよび砥石車43をZ軸回りに回転させ、且つ、被研削物Wに対する砥石車43のZ軸方向およびX軸方向の相対的な位置を変更することにより、被研削物Wの外周面の研削を行う装置である。
【0030】
(2.油の流路および経路)
次に、静圧軸受47から排出される油を、冷却してタンク81へ還流するための流路84および経路85の詳細構造について説明する。
【0031】
図2A、Bに示すように、流路84は、砥石覆い48の側面48b(軸受ハウジング49側の面)から砥石覆い48内部をZ軸方向に延びる管状に形成された導入管部84aと、導入管部84aから砥石覆い48内部を下方に向かってZ軸方向の側面視が略三角形状に拡がる油溜り部84b(本発明の「液体溜り部」に相当する)と、油溜り部84bの下部において砥石覆い48の背面48aに貫通する管状に形成された導出管部84cとで構成される。
【0032】
流路84の導入管部84aは、軸受ハウジング49内の下部に設けられている排出油路83bに連通され、排出油路83bから流れ込む油を油溜り部84bに導入する。流路84の油溜り部84bには、導入管部84aから導入される油が一旦滞留される。流路84の導出管部84cは、タンク81へつながる経路85に連通され、油溜り部84bで一旦滞留された油を経路85に導出する。
【0033】
流路84は、砥石覆い48の内側面48dにおける砥石車43の外周面43aと対向する箇所と砥石覆い48の外側面(背面48a、底面48cおよび上面48e)とにより挟まれる内部48A(
図2Bに示す斜線部)を通過するように形成されている。すなわち、上記内部48Aには、導入管部84a、油溜り部84bおよび導出管部84cが形成されている。この油溜り部84bの内周面のうち砥石車43の外周面43a側の内周面84baは、砥石覆い48における砥石車43の外周面43aと対向する内側面48dに沿った円弧形状に形成されている。
【0034】
図3に示すように、経路85は、流路84の導出管部84cに接続され、砥石覆い48の背面48aに固定されたX軸方向に延びる管状のドレインパイプ85aと、ドレインパイプ85aに対し軸線方向に摺動可能に嵌合され、
図1に示すように、砥石台トラバースベース41の側面に固定されたX軸方向に延びる管状のトイ85bとで構成される。
【0035】
砥石台42がX軸方向に移動した場合、ドレインパイプ85aはトイ85bに対し伸縮して砥石台42のX軸方向の移動を吸収するようになっている。ドレインパイプ85aとトイ85bとの嵌合部は、油の漏出および外部からのゴミ等の侵入を防止するため、メカシール85cによりシールされている。加工精度を重視し、摺動抵抗を極力低減したい場合はドレインパイプ85aとトイ85bとが非接触となるエアーシールを用いても良い。
【0036】
次に、流路84を砥石覆い48の内部に設けた理由について説明する。ここで、研削盤1における研削においては、被研削物Wの研削焼け等の研削面品質の劣化を防止するため、クーラント供給装置50から大量のクーラントが供給されるようになっている。
【0037】
すなわち、
図4に示すように、クーラント貯留槽51内のクーラントCは、ポンプ52からクーラント供給ノズル53に給送され、クーラント供給ノズル53の供給口53aから砥石車43の外周面43aと被研削物Wの外周面Waとの接触部位Tに向けて供給される。
【0038】
供給されたクーラントCの一部は、接触部位Tにかかって接触部位Tを冷却し、残りのクーラントCは、砥石車43の外周面43aに連れ回り、砥石覆い48の内面にかかる。そして、クーラントCは、ベッド10下方に流れ落ち、図略のマグネットセパレータ等により切粉が分離された後に、クーラント貯留槽51へ戻される。
【0039】
クーラント供給ノズル53に給送されるクーラントCは、静圧軸受47に供給される油Dと同様に、一定温度にコントロールされている。よって、このクーラントCがかかる砥石覆い48もクーラントCと同一の温度になっている。そして、砥石覆い48は、静圧軸受47の近傍に配置されているので、流路84を排出油路83bに連通するように砥石覆い48の内部に設けることにより、静圧軸受47から排出される油DをクーラントCで冷却することができる。
【0040】
すなわち、静圧軸受47から排出される温度上昇した油Dは、排出油路83bを通って流路84の導入管部84aに導入される。そして、導入管部84aに導入された油Dは、流路84の油溜り部84bに流れ落ちる。
【0041】
ここで、油溜り部84bの内周面84baは、砥石覆い48における砥石車43の外周面43aと対向する内側面48dに沿った円弧形状に形成されているので、油溜り部84b内を流れ落ちる油Dは、砥石覆い48の内側面48dにかかるクーラントCにより冷却されることになる。このとき、砥石車43周辺のエアーBも砥石車43の外周面43aに連れ回されて砥石覆い48の内側面48dにかかって油Dを冷却する。そして、油溜り部84b内の油Dは、油溜り部84b内で一時的に滞留されるので、さらに冷却されることになる。
【0042】
油溜り部84b内の油Dは、流路84の導出管部84cから経路85のドレインパイプ85aに導出され、さらにトイ85bから図略のホースを通ってタンク81に戻される。静圧軸受47からタンク81に至る排出油路83b、流路84および経路85には、エアー導入管部46aからエアーシール部46のエアーAが供給されているので、排出油路83b、流路84および経路85の内部を流れる油には、排出方向の力が加わる。これにより、油をタンク81へスムーズに還流することができるとともに、排出油路83b、流路84および経路85の内部での油Dの逆流を防止することができる。
【0043】
上述のように、砥石車43の外周面43aに連れ回り、砥石覆い48の内側面48dにかかるクーラントCおよびエアーBにより油溜り部84b内の油Dは冷却されるので、クーラントCおよびエアーBが大量にかかる砥石車43の中心軸より下方の砥石覆い48内に油溜り部84bを設けることにより、油溜り部84b内の油の冷却効果をさらに高めることができる。
【0044】
また、油溜り部84bの内周面84baと砥石覆い48の内側面48dとの厚さtを薄くするとともに、砥石覆い48の内側面48dと砥石車43の外周面43aとの距離dを同一距離にすることにより、油溜り部84b内の油Dの冷却効果をさらに高めることができる。
【0045】
以上のように、油溜り部84b内の油を冷却することができるので、研削に関わる部位における油の熱伝達による熱変位を抑制することができ、高精度な研削を行うことができる。また、タンク81に戻った油は冷却されているので、油を冷却するための装置の負担を軽減することができ、省エネルギ効果を得ることができる。
【0046】
(3.変形例)
図5に示すように、油溜り部84bの内周面のうち砥石車43の外周面43a側の内周面84baおよびこの内周面84baとX軸方向に対向する内周面84bbに、X軸方向に水平に延びる閾板84bc、84bdを交互に設ける。これにより、導入管部84aから導入される油は、閾板84bc、84bdに沿ってジグザグに流れるので、油溜り部84b内に長時間滞留させることが可能となり、油の冷却効果をさらに高めることができる。
【0047】
また、
図6に示すように、油溜り部84beにおける導入管部84a側の部分を、Z軸方向の側面視がジグザグ状の流路841beとなるように形成する。これにより、導入管部84aから導入される油は、流路841beに沿ってジグザグに流れるので、油溜り部84be内に長時間滞留させることが可能となり、油の冷却効果をさらに高めることができる。
【0048】
また、
図7に示すように、油溜り部84bfにおける導入管部84a側の部分を、内周面84baに沿ってZ軸方向の側面視が略V字状の流路841bfとなるように形成する。これにより、導入管部84aから導入される全ての油は、流路841bfに沿って内周面84baに近いところを通ることになるので、砥石覆い48の内側面48dにかかるクーラントによる冷却効果を十分に受けることができる。
【0049】
なお、上述した実施形態では、油溜り部84bの上部に導入管部84aを設け、油溜り部84bの下部に導出管部84cを設けた構成としたが、油溜り部84bのX軸方向の前後部に導入管部84aおよび導出管部84cを設けた構成としても良い。また、砥石覆い48の背面48a(X軸方向の被研削物W側とは逆側の面)に経路85を設けた構成としたが、砥石覆い48の側面(Z軸方向の軸受ハウジング49側とは逆側の面)に経路85を設けても良い。