特許第6079644号(P6079644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6079644香気及び/又は風味付与組成物、飲食品並びに該飲食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079644
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】香気及び/又は風味付与組成物、飲食品並びに該飲食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20170206BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20170206BHJP
【FI】
   A23L27/00 Z
   A23L29/00
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-557531(P2013-557531)
(86)(22)【出願日】2013年2月6日
(86)【国際出願番号】JP2013052667
(87)【国際公開番号】WO2013118741
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-23550(P2012-23550)
(32)【優先日】2012年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】麻生 唯白
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−506266(JP,A)
【文献】 特開2005−015683(JP,A)
【文献】 特開2003−079336(JP,A)
【文献】 特許第5954176(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L27/00
A23L29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの添加濃度が0.00006重量ppm以上且つ0.065重量ppm以下となり、
低級脂肪酸類の添加濃度が0.0006重量ppm以上且つ0.7重量ppm以下となり、且つ
メチオナールの添加濃度が0.2重量ppm以上且つ230重量ppm以下となるように、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びにメチオナールを飲食品に添加する工程を含む飲食品の製造方法。
【請求項2】
低級脂肪酸類が、イソ吉草酸である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
飲食品が、魚介類由来の飲食品素材、魚介類由来の飲食品素材を原料として加工される飲食品、醸造発酵食品、調味料からなる群より選択されるいずれか1種である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンを0.12重量ppm以上且つ130重量ppm以下含有し、
低級脂肪酸類を1.2重量ppm以上且つ1400重量ppm以下含有し、且つ、
メチオナールを400重量ppm以上且つ460000重量ppm以下含有する、香気及び/又は風味付与組成物。
【請求項5】
低級脂肪酸類が、イソ吉草酸である、請求項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
飲食品に醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与することができる組成物に関する。
また、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を有する飲食品、並びに、該飲食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造発酵食品及び魚介系エキスは、かつおだしを初めとして、醤油、味噌、魚醤、オイスターエキス等、世界各国において調理に使用され、食のベースとなるものである。しかし、天然系調味料の代表とされている酵母エキスは、添加すると異風味が生じやすいという問題点があり、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ香気及び/又は風味を飲食品に付与し得る組成物、並びに、該香気及び/又は風味の付与方法の開発が待たれている。
【0003】
一方、魚醤や醤油に含まれる風味成分を分析し、これらの成分のうち好ましくない成分を低減処理すること等により、魚醤や醤油の風味の改善を試みた報告は見受けられるが(特許文献1〜3)、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を飲食品に付与する方法については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−123064号公報
【特許文献2】特開2004−187561号公報
【特許文献3】特開2008−212051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景下において、本発明の目的は、飲食品に醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与することができる組成物を提供することにある。
また、本発明の目的は、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を有する飲食品、並びに、該飲食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討した結果、驚くべき事に、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールを特定の濃度で飲食品に添加することにより、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を、異風味無く、飲食品に対して付与できることを見出した。また、当該香気及び/又は風味と併せて、だし感や熟成感も付与できることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1] 1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの添加濃度が0.00006重量ppm以上且つ0.065重量ppm以下となり、
低級脂肪酸類の添加濃度が0.0006重量ppm以上且つ0.7重量ppm以下となり、且つ
メチオナールの添加濃度が0.2重量ppm以上且つ230重量ppm以下となるように、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びにメチオナールを飲食品に添加する工程を含む飲食品の製造方法。
[2] 低級脂肪酸類が、イソ吉草酸である、上記[1]記載の方法。
[3] 飲食品が、魚介類由来の飲食品素材、魚介類由来の飲食品素材を原料として加工される飲食品、醸造発酵食品、調味料からなる群より選択されるいずれか1種である、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法により製造される、飲食品。
[5] 1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンを0.12重量ppm以上且つ130重量ppm以下含有し、
低級脂肪酸類を1.2重量ppm以上且つ1400重量ppm以下含有し、且つ、
メチオナールを400重量ppm以上且つ460000重量ppm以下含有する、香気及び/又は風味付与組成物。
[6] 低級脂肪酸類が、イソ吉草酸である、上記[5]記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、飲食品に醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与することができる組成物を提供し得る。また、当該組成物は、だし感及び熟成感も飲食品に付与することができる。
また、本発明によれば、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を有する飲食品、並びに、該飲食品の製造方法を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「香気」とは、飲食せずに鼻だけで感じられる香り(オルソネーザルフレーバー)を意味する。「風味」とは、飲食時の口腔内から鼻へ抜ける香り(レトロネーザルフレーバー)を意味する。
また、「醸造発酵食品」とは、微生物による発酵反応を利用した醸造工程を含む製法によって製造される加工食品を意味し、例えば、醤油、味噌、魚醤、みりん、風味調味料等が挙げられる。「魚介系エキス」とは、魚介類(例、牡蠣、鰹、鰺、鯖、鰯等)を熱水で煮込むことによって得られる煮汁を濃縮した濃縮物を意味し、例えば、オイスターエキス、鰹エキス、鰹節エキス、鰺エキス、鯖エキス、鰯エキス等が挙げられる。
「醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味」とは、濃厚な厚み(thickness)、ひろがり(growth(mouthfulness))、持続性(continuity)を有する、魚介類由来原料又は植物由来原料が本来持つ好ましい香気及び/又は風味を意味する。「だし感」を付与するとは、魚介類由来原料又は植物由来原料が本来持つ好ましい香気を付与し、併せて、甘味(sweet taste)、塩味(salty taste)、酸味(sour taste)、うま味(umami)を増強し、さらに、それらに伴う厚み、ひろがり、持続性、まとまり(harmony)などを増強することを意味する。「熟成感」とは、醸造発酵食品の所謂「熟れ」を意味し、例えば、醸造発酵食品の一種である麺つゆを例に挙げて説明すると、「かえし」と「だし」とを混合して麺つゆを調製する場合に、これを1日から3日置くことで達成される、呈味及び風味の一体感及びまとまりを意味する。
また、「醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与する」、「だし感を付与する」、「熟成感を付与する」等における「付与」とは、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味等を本来有しない飲食品に対し当該香気及び/又は風味等を新たに付与することのみならず、当該香気及び/又は風味等を有する飲食品に対し当該香気及び/又は風味等を更に付与して、当該香気及び/又は風味等を増強することも含む概念である。
【0010】
[本発明の飲食品]
本発明の飲食品は、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナール(以下、「本発明の3乃至4成分」とも称する)を特定の濃度で添加する工程を含む製造方法により製造されるものである。
【0011】
(1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン)
1−オクテン−3−オル及び1−オクテン−3−オンは、いずれか一方を用いてもよいし、両方を併用してもよいが、より自然な香気及び/又は風味を立ち上げる点で、1−オクテン−3−オルが好ましく用いられる。
【0012】
1−オクテン−3−オルには、立体異性体である(R)(−)−体、(S)(+)−体及びラセミ体が存在し、これらの少なくとも1種を用いることができるが、香気及び/又は風味の力価の点で(R)(−)−体及び/又はラセミ体を用いることが好ましく、ラセミ体を用いることが特に好ましい。
【0013】
1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの好適な添加濃度は、通常0.00006重量ppm以上(好ましくは0.0003重量ppm以上、より好ましくは0.0006重量ppm以上、更に好ましくは0.003重量ppm以上、特に好ましくは0.006重量ppm以上)、且つ0.065重量ppm以下(好ましくは0.052重量ppm以下、より好ましくは0.035重量ppm以下、更に好ましくは0.026重量ppm以下、特に好ましくは0.013重量ppm以下)である。1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの添加濃度が0.00006重量ppm以上であると、魚介類由来原料又は植物由来原料が本来持つ好ましい香気及び/又は風味が十分に付与され、また濃厚な厚み、ひろがり、持続性も十分に付与される。逆に0.065重量ppmを超えると、草様、金属様の異風味が現れる傾向がある。
本明細書において「添加濃度」とは、飲食品の全重量に対する、該飲食品に添加される物(例えば、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナール等)の重量の割合をいう。尚、飲食品が、飲食品に添加される物と同様のものを添加前から予め含有する場合、該飲食品が予め含有するものの重量は、飲食品に添加される物の重量に含めない。
【0014】
(低級脂肪酸類)
低級脂肪酸類としては、炭素数3〜7(好ましくは、4〜6)の飽和又は不飽和のモノカルボン酸が好ましく、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、例えば、イソ吉草酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸等が挙げられるが、イソ吉草酸又は吉草酸が好ましく、特にイソ吉草酸が好ましい。
【0015】
低級脂肪酸類の添加濃度は、通常0.0006重量ppm以上(好ましくは0.0014重量ppm以上、より好ましくは0.006重量ppm以上、更に好ましくは0.03重量ppm以上、特に好ましくは0.06重量ppm以上)、且つ0.7重量ppm以下(好ましくは0.6重量ppm以下、より好ましくは0.4重量ppm以下、更に好ましくは0.3重量ppm以下、特に好ましくは0.28重量ppm以下)である。低級脂肪酸類の添加濃度が0.0006重量ppm未満であると、魚介類由来原料又は植物由来原料が本来持つ好ましい香気及び/又は風味が弱くなる傾向があり、また濃厚な厚み、ひろがり、持続性も弱くなる傾向がある。逆に0.7重量ppmを超えると、腐敗臭のような異風味を付与する傾向がある。
【0016】
(メチオナール)
メチオナールの添加濃度は、通常0.2重量ppm以上(好ましくは0.46重量ppm以上、より好ましくは2.2重量ppm以上、更に好ましくは11重量ppm以上、特に好ましくは22重量ppm以上)、且つ230重量ppm以下(好ましくは185重量ppm以下、より好ましくは115重量ppm以下、更に好ましくは95重量ppm以下、特に好ましくは91重量ppm以下)である。メチオナールの添加濃度が0.2重量ppm未満であると、魚介類由来原料又は植物由来原料が本来持つ好ましい香気及び/又は風味が弱くなる傾向があり、また濃厚な厚み、ひろがり、持続性も弱くなる傾向がある。逆に230重量ppmを超えると、腐敗臭のような異風味を付与する傾向がある。
【0017】
本発明の飲食品は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、本発明の3乃至4成分以外の他の成分を添加してなるものであってもよい。当該他の成分としては、例えば、香料、糖類、甘味料、食物繊維類、ビタミン類、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などのアミノ酸類、イノシン一リン酸(IMP)などの核酸類、塩化ナトリウムなどの無機塩類、クエン酸などの有機酸類、クレアチン、クレアチニン、マルトール、ジメチルトリスルフィド、シネオール等が挙げられる。
【0018】
本発明の飲食品は特に制限されないが、好ましい飲食品としては、例えば、魚介系エキス、かつお節等の魚介類由来の飲食品素材;オイスターソース、ロブスタービスク、カニカマ、スープ、シチュー、カレー(ルー、レトルトカレー等を含む)等の魚介類由来の飲食品素材(肉、骨等を含む)を原料として加工される飲食品;生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、クリーム、生クリーム、バター、バターオイル、チーズ(例、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、カッテージチーズ等)、濃縮ホエイ、アイスクリーム類(例、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等)、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、ホワイトソース、ヨーグルト等の乳及び乳製品;醤油(例、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油、魚醤、麺つゆ、鍋用つゆ等)、味噌(例、赤味噌、白味噌、仙台味噌、八丁味噌、麦味噌、米味噌、味噌汁、テンメンジャン、コチュジャン等)等の醸造発酵食品;ソース(例、ウスターソース、デミグラスソース、トマトソース等)、ドレッシング(例、フレンチドレッシング、イタリアンドレッシング、シーザードレッシング等)、風味調味料(例えば種類として、かつお、いわし、煮干、チキン、ポーク、ビーフ等)、天然系調味料(例、酵母エキス、チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚介エキス、野菜エキス、たんぱく加水分解物等)等の調味料;ガーリック、オニオン、生姜、ねぎ、ニラ、セリ、茗荷、セロリ、しそ、みつば、わさび等の香味野菜及び香味野菜を原料として加工される飲食品等が挙げられ、特に好ましくは魚介類由来の飲食品素材、魚介類由来の飲食品素材を原料として加工される飲食品、醸造発酵食品、調味料である。尚、「魚介類由来の飲食品素材を原料として加工される飲食品」及び「香味野菜及び香味野菜を原料として加工される飲食品」の「加工」とは、製造、調理等を含む概念である。
【0019】
本発明の飲食品は、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールを上記の添加濃度で添加する工程を含む以外は、公知の飲食品と同様の原料を用い、公知の製造方法によって製造することができる。
【0020】
本発明の飲食品に添加される各成分は、飲食品に使用できるものであれば、例えば、合成品、抽出品等であってよく、各成分を高含有する食品素材を用いてもよい。
【0021】
1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールを飲食品に添加する方法は特に制限されず、例えば、それぞれの化合物を別個に添加してもよいし、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの少なくとも1種を含有する食品素材を添加してもよい。あるいは、後掲の本発明の香気及び/又は風味付与組成物を添加してもよい。
【0022】
本発明の飲食品に、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの各化合物、あるいはこれらを含有する食品素材を添加する際の形態は特に制限されず、例えば、乾燥粉末、ペースト、溶液等が挙げられる。
【0023】
本発明の飲食品に、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールを添加する時期は特に制限されず、例えば、飲食品を製造する際に他の原料と併せて添加してもよいし、飲食品の完成後に添加してもよいし、飲食品の喫食直前及び/又は喫食中に添加してもよい。
【0024】
[本発明の香気及び/又は風味付与組成物]
本発明の香気及び/又は風味付与組成物(以下、「本発明の組成物」とも称する)は、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールを必須として含有する。
【0025】
本発明の組成物が含有する1−オクテン−3−オル及び1−オクテン−3−オンには、前掲の本発明の飲食品に用いられるものと同様のものを用いることができ、その好適な態様も同様である。
【0026】
本発明の組成物は、飲食品に対する1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの添加濃度が、0.00006重量ppm以上(より好ましくは0.0003重量ppm以上、より一層好ましくは0.0006重量ppm以上、更に好ましくは0.003重量ppm以上、特に好ましくは0.006重量ppm以上)、且つ0.065重量ppm以下(より好ましくは0.052重量ppm以下、より一層好ましくは0.035重量ppm以下、更に好ましくは0.026重量ppm以下、特に好ましくは0.013重量ppm以下)となるように飲食品に添加するためのものであることが好ましい。
また、本発明の組成物は、飲食品に対する低級脂肪酸類の添加濃度が、0.0006重量ppm以上(より好ましくは0.0014重量ppm以上、より一層好ましくは0.006重量ppm以上、更に好ましくは0.03重量ppm以上、特に好ましくは0.06重量ppm以上)、且つ0.7重量ppm以下(より好ましくは0.6重量ppm以下、より一層好ましくは0.4重量ppm以下、更に好ましくは0.3重量ppm以下、特に好ましくは0.28重量ppm以下)となるように飲食品に添加するためのものであることが好ましい。
また、本発明の組成物は、飲食品に対するメチオナールの添加濃度が、0.2重量ppm以上(より好ましくは0.46重量ppm以上、より一層好ましくは2.2重量ppm以上、更に好ましくは11重量ppm以上、特に好ましくは22重量ppm以上)、且つ230重量ppm以下(より好ましくは185重量ppm以下、より一層好ましくは115重量ppm以下、更に好ましくは95重量ppm以下、特に好ましくは91重量ppm以下)となるように飲食品に添加するためのものであることが好ましい。
【0027】
本発明の組成物における1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの含有量は、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの飲食品に対する添加濃度が、上述の範囲内となるように適宜設定すればよいが、通常0.12重量ppm以上(好ましくは0.6重量ppm以上、より好ましくは1.2重量ppm以上、更に好ましくは6重量ppm以上、特に好ましくは12重量ppm以上)、且つ130重量ppm以下(好ましくは104重量ppm以下、より好ましくは70重量ppm以下、更に好ましくは52重量ppm以下、特に好ましくは26重量ppm以下)である。1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの含有量が0.12重量ppm未満であると、賦形剤が品質に与える影響が大きくなる傾向や、また香気及び/又は風味付与組成物の添加量が多くなるため、既存製品へ添加する場合に包装サイズや使用方法に変更が生じる傾向があり、逆に130重量ppmを超えると、製品製造時の混合の際に偏析する可能性が高くなる傾向がある。
本明細書において「本発明の組成物における1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの含有量」とは、本発明の組成物の全重量(1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの重量も含む)に対する、本発明の組成物に含まれる1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンの重量の割合をいう。尚、本明細書の他の部分に記載される「含有量」も、これに準じた方法で算出される。
【0028】
本発明の組成物における低級脂肪酸類の含有量は、低級脂肪酸類の飲食品に対する添加濃度が、上述の範囲内となるように適宜設定すればよいが、通常1.2重量ppm以上(好ましくは2.8重量ppm以上、より好ましくは12重量ppm以上、更に好ましくは60重量ppm以上、特に好ましくは120重量ppm以上)、且つ1400重量ppm以下(好ましくは1200重量ppm以下、より好ましくは800重量ppm以下、更に好ましくは600重量ppm以下、特に好ましくは560重量ppm以下)である。低級脂肪酸類の含有量が1.2重量ppm未満であると、賦形剤が品質に与える影響が大きくなる傾向や、また香気及び/又は風味付与組成物の添加量が多くなるため、既存製品へ添加する場合に包装サイズや使用方法に変更が生じる傾向があり、逆に1400重量ppmを超えると、製品製造時の混合の際に偏析する可能性が高くなる傾向がある。
【0029】
本発明の組成物におけるメチオナールの含有量は、メチオナールの飲食品に対する添加濃度が、上述の範囲内となるように適宜設定すればよいが、通常400重量ppm以上(好ましくは920重量ppm以上、より好ましくは4400重量ppm以上、更に好ましくは22000重量ppm以上、特に好ましくは44000重量ppm以上)、且つ460000重量ppm以下(好ましくは370000重量ppm以下、より好ましくは230000重量ppm以下、更に好ましくは190000重量ppm以下、特に好ましくは182000重量ppm以下)である。メチオナールの含有量が400重量ppm未満であると、賦形剤が品質に与える影響が大きくなる傾向や、また香気及び/又は風味付与組成物の添加量が多くなるため、既存製品へ添加する場合に包装サイズや使用方法に変更が生じる傾向があり、逆に460000重量ppmを超えると、製品製造時の混合の際に偏析する可能性が高くなる傾向がある。
【0030】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、本発明の3乃至4成分以外の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、例えば、香料、糖類、甘味料、食物繊維類、ビタミン類、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などのアミノ酸類、イノシン一リン酸(IMP)などの核酸類、塩化ナトリウムなどの無機塩類、クエン酸などの有機酸類、クレアチン、クレアチニン、マルトール、ジメチルトリスルフィド、シネオールが挙げられる。
【0031】
本発明の組成物の各成分は、飲食品に使用できるものであれば、例えば、合成品、抽出品等であってよく、各成分を高含有する食品素材を用いてもよい。
【0032】
本発明の組成物の形態は、特に制限されないが、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物の製造方法は、既知の手法により行い得る。例えば、(1)1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの各化合物、あるいはこれらの少なくとも1種を含有する食品素材を混合した後、乳鉢やミキサーを用いて粉砕及び混合する方法、(2)1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの各化合物、あるいはこれらの少なくとも1種を含有する食品素材をそれぞれ、例えば、水、エタノール、食用油脂、プロピレングリコール等に溶解したもの、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの各化合物、あるいはこれらの少なくとも1種を含有する食品素材をそれぞれ各種賦形剤等と混合したもの等を、液体、固体を問わず混合する方法等が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物を添加する飲食品は特に制限されないが、具体例としては、前掲の本発明の飲食品において例示した飲食品と同様のものが挙げられ、その好適な飲食品も同様である。
【0035】
本発明の組成物の、飲食品に対する添加濃度は、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オン、低級脂肪酸類、並びに、メチオナールの飲食品に対する各添加濃度が、上述の範囲内となるように適宜設定すればよいが、通常400重量ppm以上(好ましくは920重量ppm以上、より好ましくは4400重量ppm以上、更に好ましくは22000重量ppm以上、特に好ましくは44000重量ppm以上)、且つ470000重量ppm以下(好ましくは380000重量ppm以下、より好ましくは240000重量ppm以下、更に好ましくは200000重量ppm以下、特に好ましくは182000重量ppm以下)である。
【0036】
本発明の組成物を飲食品に対して添加する時期は特に制限されず、例えば、飲食品を調理、製造する際に他の原料と併せて添加してもよいし、飲食品の完成後に添加してもよいし、飲食品の喫食直前及び/又は喫食中に添加してもよい。
【0037】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例で使用した1−オクテン−3−オル、1−オクテン−3−オン、イソ吉草酸及びメチオナールは、いずれもシグマアルドリッチジャパン(株)製のものを用いた。1−オクテン−3−オルは、ラセミ体を用いた。
【0039】
実施例で使用した飲食品を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示す飲食品は、市販品をそのまま使用するか、又は商品パッケージ等に記載された所定の調製方法に従って調製した。
【0042】
(実施例1〜21、比較例1〜77の調製)
表1に示す飲食品をそれぞれ100mlずつ計量し、計量した各飲食品に1−オクテン−3−オル、1−オクテン−3−オン、イソ吉草酸及びメチオナールを、表2−1〜表2−18に示す添加濃度(単位:重量ppm)となるように添加した。
【0043】
【表2-1】
【0044】
【表2-2】
【0045】
【表2-3】
【0046】
【表2-4】
【0047】
【表2-5】
【0048】
【表2-6】
【0049】
【表2-7】
【0050】
【表2-8】
【0051】
【表2-9】
【0052】
【表2-10】
【0053】
【表2-11】
【0054】
【表2-12】
【0055】
【表2-13】
【0056】
【表2-14】
【0057】
【表2-15】
【0058】
【表2-16】
【0059】
【表2-17】
【0060】
【表2-18】
【0061】
(実施例1〜21、比較例1〜77の評価)
評価は、2〜6名の専門パネルが各飲食品を食し、コントロールと比較して下記の基準に従って行った。コントロールには、1−オクテン−3−オル、1−オクテン−3−オン、イソ吉草酸及びメチオナールを添加していない各飲食品を用いた。また、下記基準の「期待される効果」とは、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与され、さらに、これらが付与されることにより、飲食品の品質が向上することである。
[評価基準]
×:コントロールに比べ、香気及び/又は風味の品質が低下した。
−:コントロールとほぼ同じ(期待される効果なし)。
△:期待される効果が弱い。
○:期待される効果が高い。
◎:期待される効果が非常に高い。
【0062】
結果を表3−1〜表3−9に示す。
【0063】
【表3-1】
【0064】
【表3-2】
【0065】
表の2−1、表2−2及び表3−1から明らかな通り、1−オクテン−3−オル、イソ吉草酸及びメチオナールを添加したとき、1−オクテン−3−オルの飲食品に対する添加濃度が0.000064重量ppmでは、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果が弱い傾向にあった。一方、0.00032重量ppm以上0.016重量ppm以下では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
イソ吉草酸の飲食品に対する添加濃度が0.00136重量ppmでは、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果は弱い傾向にあった。一方0.0068重量ppm以上0.34重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
メチオナールの飲食品に対する添加濃度が0.4546重量ppmでは、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果は弱い傾向にあった。2.273重量ppm以上113.65重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
また、表2−3、表2−4及び表3−2から明らかな通り、1−オクテン−3−オン、イソ吉草酸及びメチオナールを添加したとき、1−オクテン−3−オンの飲食品に対する添加濃度が0.000064重量ppm以上0.000128重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果が弱い傾向にあった。一方、0.00064重量ppm以上0,032重量ppm以下では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
イソ吉草酸の飲食品に対する添加濃度が0.00068重量ppm以上0.00136重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果が弱い傾向にあった。一方0.0068重量ppm以上0.34重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
メチオナールの飲食品に対する添加濃度が0.2273重量ppm以上0.4546重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感が付与される効果が弱い傾向にあった。更に2.273重量ppm以上113.65重量ppm以下の範囲では、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味が、主に厚みや広がりをもって付与され、且つ、だし感及び熟成感も十分に付与され、さらに、これらが付与されたことによって、飲食品の品質が向上した。
【0066】
【表3-3】
【0067】
【表3-4】
【0068】
【表3-5】
【0069】
【表3-6】
【0070】
【表3-7】
【0071】
【表3-8】
【0072】
【表3-9】
【0073】
表2−5〜表2−18、表3−3〜表3−9から明らかなように、1成分のみ又は2成分のみの組合せでは期待される効果が全く確認されず、また効果が確認されたものであっても、表1の一部の飲食品に対して効果が確認されるのみで、表1の全ての飲食品に対し、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与するものでなかった。
【0074】
(本発明の香気及び/又は風味付与組成物の製造例)
デキストリンをラボミキサー混合機(ホソカワミクロン株式会社製)にて、回転数10〜60rpmで攪拌した。攪拌中のデキストリン81.8g〜95.6gに対し、1−オクテン−3−オル及び/又は1−オクテン−3−オンをその含有量が12重量ppm〜26重量ppmとなるように、イソ吉草酸をその含有量が120重量ppm〜560重量ppmとなるように、メチオナールをその含有量が4.4重量%〜18.2重量%となるように、それぞれ添加して混合し、本発明の組成物を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、飲食品に醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を付与することができる組成物を提供し得る。また、当該組成物は、だし感及び熟成感も飲食品に付与することができる。
また、本発明によれば、醸造発酵食品若しくは魚介系エキスが本来持つ好ましい香気及び/又は風味を有する飲食品、並びに、該飲食品の製造方法を提供し得る。
【0076】
本出願は、日本で出願された特願2012-23550を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。