特許第6079658号(P6079658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079658
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】酸洗槽内鋼板搬送用ロール
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/00 20060101AFI20170206BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C23G3/00 Z
   F16C13/00 A
   F16C13/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-16302(P2014-16302)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-143371(P2015-143371A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】森下 正士
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−179416(JP,A)
【文献】 特開平11−277130(JP,A)
【文献】 特開平04−073128(JP,A)
【文献】 実開昭59−145558(JP,U)
【文献】 特開昭63−130913(JP,A)
【文献】 特開2012−224937(JP,A)
【文献】 特開2010−069461(JP,A)
【文献】 特開2007−138371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00− 5/06
C23F 1/00− 4/04
C23C 22/00−22/86
F16C 13/00−15/00
B65H 23/00,27/00
B21B 41/00−41/12,
45/00−45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて、酸洗槽内で鋼板を支持、搬送するために用いる酸洗槽内鋼板搬送用ロールであって、ポリフェニレンサルファイドに、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選択される1種類以上の充填材を0.1〜30体積%充填し、溶融成形して加工したリング状で外周縁に鋼板の衝撃を緩和するためのテーパーを設けた樹脂ロールを金属軸に外挿してなる酸洗槽内鋼板搬送用ロール。
【請求項2】
前記充填材を2〜10体積%充填してなる請求項1記載の酸洗槽内鋼板搬送用ロール。
【請求項3】
前記樹脂ロールの軸方向の長さ(寸法a)が10mm以上であり、且つ鋼板の衝撃を緩和するために設けた外周縁のテーパーを除いた寸法bが寸法aの3分の1以上である請求項1又は2記載の酸洗槽内鋼板搬送用ロール。
【請求項4】
前記樹脂ロールの径方向の肉厚が10mm以上である請求項3記載の酸洗槽内鋼板搬送用ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗槽内鋼板搬送用ロールに係わり、更に詳しくは金属ストリップを酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて、酸洗槽内で鋼板を支持、搬送するために用いる搬送用ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板を酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて使用する搬送用ロールとして、不飽和ポリエステル樹脂を、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維に含浸して作製した布と、アルミナやカーボン繊維等の充填材を混合した筒状の樹脂ロールを金属棒に外挿した構造のものが提供されている。
【0003】
酸洗ラインの酸洗槽は、例えば塩酸濃度10%、温度90℃で運用され、殆どの樹脂が侵される過酷な環境である。また、端部に鋭利なエッジがついた鋼板が通過するので、ロール表面の激しい摩耗が生じる。従って、従来の樹脂製搬送ロールでは、耐酸性が足りず、約1ヶ月程度で材料劣化が生じ、鋼板のエッジの衝撃により摩耗量が増加するため交換時期が早い。前記搬送ロールを交換する場合、酸洗ラインを停止しなければならないので、稼働効率が低下する原因となる。
【0004】
また、特許文献1には、軸心にスリーブを嵌合した、金属ストリップ酸洗槽用サポートロールであって、前記スリーブが、熱変形温度100℃以上の特性を有する樹脂からなる金属ストリップ酸洗槽用サポートロールが開示されている。ここで、前記スリーブを構成する樹脂が、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリアミドイミド(PAI)のいずれかを用いる点も開示されている。ここで、PPS以外は分子量が高く、溶融粘度が高いので、成形性は悪いことが知られている。また、これらの耐酸性、耐熱性の樹脂を用いても、鋼板のエッジの衝撃により摩耗量を抑制することができず、交換頻度低減の大幅な改善は見込めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−356438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、金属ストリップを酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて、酸洗槽内で鋼板を支持、搬送するために用いることが可能で、酸溶液の温度が高温であっても耐酸性に優れ、またロールに起因する鋼板の表面欠陥が発生することがない酸洗槽内鋼板搬送用ロールを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、鋼板を酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて、酸洗槽内で鋼板を支持、搬送するために用いる酸洗槽内鋼板搬送用ロールであって、ポリフェニレンサルファイドに、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選択される1種類以上の充填材を0.1〜30体積%充填し、溶融成形して加工したリング状で外周縁に鋼板の衝撃を緩和するためのテーパーを設けた樹脂ロールを金属軸に外挿してなる酸洗槽内鋼板搬送用ロールを構成した(請求項1)。
【0008】
ここで、前記充填材を2〜10体積%充填してなることが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、前記樹脂ロールの軸方向の長さ(寸法a)が10mm以上であり、且つ鋼板の衝撃を緩和するために設けた外周縁のテーパーを除いた寸法bが寸法aの3分の1以上であることがより好ましい(請求項3)。
【0010】
そして、前記樹脂ロールの径方向の肉厚が10mm以上であることも好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
以上にしてなる請求項1に係る発明の酸洗槽内鋼板搬送用ロールは、鋼板を酸洗槽で酸洗処理する酸洗ラインにおいて、酸洗槽内で鋼板を支持、搬送するために用いる酸洗槽内鋼板搬送用ロールであって、ポリフェニレンサルファイドに、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選択される1種類以上の充填材を0.1〜30体積%充填し、溶融成形して加工したリング状で外周縁に鋼板の衝撃を緩和するためのテーパーを設けた樹脂ロールを金属軸に外挿してなるので、酸洗槽内の酸溶液に対する耐酸性に優れるとともに、鋼板のエッジへの衝撃に対してテーパーの存在によりエッジが欠けるという問題の発生を回避し、耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、長期間の使用に耐えるものである。それにより、搬送用ロールの交換頻度を少なくでき、もって酸洗ラインの稼働効率を向上させることができる。特に、本発明をバッチ式酸洗ラインに適用した場合には、顕著な効果を奏する。
【0012】
請求項2によれば、前記充填材を2〜10体積%充填してなるので、成形性に支障がなく、耐衝撃性、耐摩耗性を十分に高くでき、実用的な耐久性が得られる。
【0013】
請求項3によれば、前記樹脂ロールの軸方向の長さ(寸法a)が10mm以上であり、且つ鋼板の衝撃を緩和するために設けた外周縁のテーパーを除いた寸法bが寸法aの3分の1以上であると、樹脂ロールの外周面が摩耗しにくくなり、外周縁のテーパーの消滅を防ぎ、それによりテーパーが存在しない場合のエッジが欠けるという問題の発生を回避することができる。
【0014】
請求項4によれば、前記樹脂ロールの径方向の肉厚が10mm以上であるので、摩耗量に対する許容量を多くとれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】連続酸洗ラインの概略断面図である。
図2】本発明の搬送用ロールの部分斜視図である。
図3】本発明に係る樹脂ロールを示し、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
図4】摩擦摩耗試験機の概念図である。
図5】水潤滑下での耐摩耗性の試験結果を示し、横軸は試験時間(min)、縦軸は摩耗量(mm)を示すグラフである。
図6】温水潤滑下での耐摩耗性の試験結果を示し、横軸は試験時間(min)、縦軸は摩耗量(mm)を示すグラフである。
図7】耐薬品性の試験装置を示す概略説明図である。
図8】耐薬品性の試験における温度プログラムである。
図9】物性試験のための試験片の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明に係る酸洗槽内鋼板搬送用ロールは、高い耐薬品性、高い強度・耐衝撃性、高い耐摩耗性を備えたものである。具体的には、高い耐薬品性は、90℃の10%塩酸溶液中でも物性が低下しないこと、高い強度・耐衝撃性は、酸洗槽内での使用時に割れや欠けを防止できること、更に高い耐摩耗性は、鋼板のエッジに対する摩耗に強いことである。
【0017】
本発明に係る搬送用ロール1は、図1に示すように、酸洗ラインにおいて、酸洗槽2内で鋼板3を支持、搬送するために用いるものである。前記酸洗槽2は、耐薬品性のプールに10%濃度の塩酸溶液を満たし、塩酸溶液中に複数の搬送用ロール1,…を並設したものであり、鋼板3の先端部から酸洗槽2内に導き、搬送用ロール1,…で前方へ繰り送るのである。ここで、前記搬送用ロール1は、図2に示すように、チタン等の耐薬品性の金属軸4に、複数の樹脂ロール5,…を外挿したものである。
【0018】
前記樹脂ロール5は、図3に示すように、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維から選択される1種類以上の充填材を0.1〜30体積%充填し、溶融成形して加工したリング状のものである。ここで、充填材の配合率が0.1体積%より少ないと、充填材による補強効果が期待できず、また30体積%より多いと、PPSの成形が困難になる。好ましくは、PPSに対する充填材の配合率は2〜10体積%である。充填材の体積%の測定は、PPSで完全に濡れた状態、つまり最密充填状態で測定した値である。例えば、充填材としてPAN系カーボン繊維を5体積%充填した場合は、6.4重量%に相当する。
【0019】
また、本発明では、図3(b)に示すように、前記樹脂ロール5の軸方向の長さ(寸法a)が10mm以上であり、且つ鋼板の衝撃を緩和するために設けた外周縁のテーパー6を除いた寸法bが寸法aの3分の1以上であることがより好ましい。更に、前記樹脂ロール5の径方向の肉厚cが10mm以上である。
【実施例1】
【0020】
本実施形態で使用するPPSの溶融粘度は、製品規格値340〜670Pa・s(310℃、1000/sec:ISO11443)であるが、400Pa・s以上の溶融粘度のグレードのものを用いることが望ましい。
【0021】
前記樹脂ロール5の製造方法は、以下のとおりである。先ず、タンブラーにてPPSと充填材の2材料を攪拌し、一軸混練押出機にて溶融混合し、押し出してペレット化する。次に、このペレットを用いて射出成形にてボイドの発生を抑制する成形条件で円筒形状に成形する。その結果、成形サイクル約5~6分と長くなる。それから、円筒成形品のディスクゲートの除去とテーパー加工を後加工にて実施する。本実施形態の樹脂ロール5の形状は、外径φ85mm×内径φ47mm×幅50mmである。テーパー6の径方向の領域は8mm、軸方向の領域は12mmとした。
【0022】
本発明に係る樹脂ロール5の使用環境は、以下のように苛酷な環境である。前記樹脂ロール5を用いた搬送用ロール1は、製鉄所の酸洗ラインにおける90℃の10%塩酸酸洗槽内で使用する。酸洗ラインには連続式とバッチ式がある。連続式酸洗ラインは洗浄する各鋼板コイルの端面を溶接で接合してから通板するため、エッジの衝突による摩耗は少ない。そのため、一般にゴム製やPTFE製の搬送用ロールが用いられる。しかし、本発明を用いるバッチ式酸洗ラインでは、鋼板を接合することなく通板し、鋭利なエッジがついた鋼板の端面がこの搬送用ロール1に衝突してロール表面が激しく摩耗する。そのため、搬送用ロール1には耐摩耗性や強度が必要とされるのである。尚、本発明に係る搬送用ロール1は、酸性環境だけではなく、アルカリ性環境下でも物性の低下が見られないため、使用することができる。
【0023】
<耐摩耗性試験>
本発明に係る搬送用ロールの耐摩耗性を評価するために、PPS単体、PPSに充填材としてPAN系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維を各5体積%充填した成形体を作製した。図4に示したスピンデル(ブロックオンリング)摩擦摩耗試験機を使用して耐摩耗性を比較した。このスピンデル摩擦摩耗試験機は、回転体からなる相手材10に、加圧レバー11に取付けた試験片12を摺動させるものである。試験片12の面圧は、加圧レバー11に荷重13を印加して調節した。前記相手材10の外周面には、エッジ摩耗を模擬するために螺旋状に溝を付けた。試験片12の摩耗量は、加圧レバー11の変位を検出して摩耗記録機14で取得する。潤滑剤は相手材10の上方とり滴下する。
【0024】
(耐摩耗性試験条件)
試験速度は1mm/s、面圧は1MPa、試験温度はR.T.、潤滑条件は水潤滑と50℃温水潤滑である。試験片の形状は、10×10×10mm、相手材の材質は、S45C(溝付け)である。n数は2である。
【0025】
水潤滑の場合の耐摩耗性の試験結果を図5、50℃温水潤滑の場合の耐摩耗性の試験結果を図6にそれぞれ示す。これらの結果より、充填材を添加することで、エッジ摩耗に対する耐摩耗性が向上した。その中でも特にPPSにPAN系カーボン繊維を添加すると、エッジ摩耗に対する耐摩耗性が大幅に向上することが分かった。その次に好ましい充填材はガラス繊維であった。また、材料別に耐摩耗性と耐衝撃性をまとめると以下の表1ようになると考えられる。実使用時の激しい衝撃を考慮するとPPSは耐衝撃性が高いリニアタイプで、かつ高粘度タイプのものを用いることが好ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
次に、カーボン繊維充填率の効果を調べるために、充填率が3体積%、5体積%、10体積%と異なる試験片を作製し、機械的物性を測定した。その結果を次の表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
当然ではあるが、カーボン繊維の充填率が増すにつれて、曲げ強さ、曲げ弾性率は増加するが、引張強さはほぼ変わらず、引張破壊ひずみは値が低下する。シャルピー衝撃強さは、カーボン繊維の充填率が3体積%、5体積%では有意な差が見られないが、10体積%になると約2倍になる。
【0030】
コスト、耐摩耗性、相手(金属)攻撃性、成形性について調べた結果を、次の表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
耐摩耗性は、カーボン繊維の充填率が増えるほど向上するが、コストや相手攻撃性が上がるという問題がある。相手攻撃性が上がると製品となる鋼板に傷をつけてしまう恐れがある。また、充填率が増えると、成形中に未充填となる可能性が高まる、クラックが入るなどの不良の可能性が高くなる。PPS/PAN系カーボン繊維3体積%においても、ある程度の耐摩耗性を有しているが、5体積%を添加することで更に摩耗量が減少し、高い耐久性が期待できる(図6参照)。
【0033】
<耐薬品性試験>
次に、耐薬品性を従来材との比較において調べた。塩酸浸漬前後で物性の低下が見られないことを確認するために以下の条件で塩酸浸漬を行なった。評価材は、PPS/カーボン繊維5体積%と、不飽和ポリエステル系積層材(従来材)である。
【0034】
耐薬品性試験装置は図7に示している。オイルバス20に漬けたフラスコ21に10%塩酸22と試験片23を入れ、図8に示す温度プログラムで80℃に加熱、自然冷却を繰り返した。温度プログラムは、高温時浸漬時間は40hr(8hr×5日間)、総浸漬時間は168hr(7日間)である。試験片の形状は図9に示している。前述の曲げ試験、引張試験を行った試験片も同形である。
【0035】
耐薬品性試験において、塩酸浸漬を行なうことで、試料片の寸法、重量、外観に影響が見られるか確認を行なった。80℃、10%塩酸に40hr浸漬後の寸法・重量の変化率を次の表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
この結果、塩酸浸漬後も寸法及び重量はほとんど変化しないことが分かった。不飽和ポリエステル系積層材は水分の吸収により膨潤している可能性があると考えられる。また、試験片の外観について観察すると、不飽和ポリエステル系積層材は、塩酸浸漬することで試料表面の色が変色(脱色)するのに対して、PPS/PAN系カーボン繊維5体積%には変化は見られなかった。
【0038】
次に、塩酸浸漬前後における機械的物性の試験結果を次の表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
塩酸浸漬前後での材料物性の評価結果は以下の通りである。この浸漬時間では両材料とも塩酸浸漬前後で物性の低下は見られていない。また、PPS/PAN系カーボン繊維5体積%の材料は、不飽和ポリエステル系積層材よりもそれぞれ高い強度・弾性率の値を示しているため、より過酷な環境でも使用することができると考えられる。
【0041】
最後に、耐アルカリ性の評価を図7の試験装置を用いて行った。試験条件は、室温、24%水酸化ナトリウム水溶液中にてPPS/PAN系カーボン繊維5体積%の試験片を100時間浸漬した。水酸化ナトリウム浸漬前後の重量、寸法(X,Y,Z方向)、曲げ強度の変化を測定した。n数は5である。形状はISO316に準拠(X方向:10mm、Y方向:80mm、Z方向:4mm)、曲げ試験はISO178に準拠した。その結果を次の表6に示す。
【0042】
【表6】
【0043】
その結果、重量・寸法はいずれの値も0.1%以下、曲げ強度は1%以下の変化となり、水酸化ナトリウムには侵されていないことが確認できた。つまり、本発明の搬送用ロールは、アルカリ性環境においても使用に耐えることが分かった。
【実施例2】
【0044】
<実機評価結果>
軸方向の長さが8mmのPPS/PAN系カーボン繊維5体積%の材料で作製した樹脂ロールを用いて搬送用ロールを作製し、実際の酸洗ラインに設置して使用したところ、多数のサンプルに欠けが発生した。この樹脂ロールには、テーパーを設けていない単純な円筒状のものである。この欠けは、ロール側面への鋼板の衝突が原因と考えられるが、軸方向の長さ8mmでは鋼板の衝撃を受け流すためのテーパーをつけるためのスペースがなく、鋼板の衝撃を緩和することができない。また、摩耗によりテーパー部が消失することを避けるために十分な深さのテーパーを設ける必要があるため、このテーパーの角度を緩やかにするには十分な軸方向の長さが必要である。
【0045】
例えば、軸方向の長さ8mmでは軸方向に対して両側3mmずつテーパーを設けると実際に鋼板が接する箇所が2mmのみとなり、応力が集中して速やかに摩耗してしまう。そこで、軸方向の長さを8mmから50mmに変更することで、外周縁に十分大きなテーパーを設けることができるようになった。テーパー有りのロール(テーパー寸法:両側各12mm×8mm、図3参照)とテーパー無しのロールをそれぞれ実際の装置に設置して使用したところ、テーパー無しのロールでは側面から欠けが発生した。一方、テーパー有りのロールでは欠けは全く見られなかった。
【0046】
実際の酸洗ラインに本発明品(PPS/PAN系カーボン繊維5体積%)と従来品(不飽和ポリエステル系積層品)の搬送用ロールを設置して評価を行った。従来の不飽和ポリエステル系積層品は摩耗により、最低1ヶ月、最大4ヶ月に1度は交換しなければならないが、本発明品は最低でも3ヶ月、最大12ヶ月以上の使用が可能であることが確認でき、約3倍の耐久性の向上が確認できた。交換の目安は、翌月も使用できる摩耗シロを残しているかどうかである。
【符号の説明】
【0047】
1 搬送用ロール
2 酸洗槽
3 鋼板
4 金属軸
5 樹脂ロール
6 テーパー
10 相手材
11 加圧レバー
12 試験片
13 荷重
14 摩耗記録機
20 オイルバス
21 フラスコ
22 塩酸
23 試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9