特許第6079830号(P6079830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6079830-タイヤトレッド用ゴム組成物 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079830
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20170206BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170206BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20170206BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L83/04
   C08K3/04
   C08K3/36
   C08J3/22CFH
   C08K7/22
   B60C1/00 A
   C08K9/10
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-133729(P2015-133729)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-14422(P2017-14422A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2016年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】三原 諭
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105848(JP,A)
【文献】 特開2000−026656(JP,A)
【文献】 特開2004−035725(JP,A)
【文献】 特開2004−210931(JP,A)
【文献】 特開平09−241427(JP,A)
【文献】 特開2014−185339(JP,A)
【文献】 特開2002−114869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
B60C 1/00
C08J 3/00−3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを1質量部以上20質量部未満配合したゴム組成物であって、前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが、シリカおよび/またはカーボンブラックを1〜50質量%含有し、前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの110℃、せん断歪450%における貯蔵弾性率が0.3〜10kPaであり、かつ前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのガラス転移温度(℃)をTg、23℃の可塑度をPnとするとき、14000<(273+Tg)×Pn<82000であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
触針式表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)が、1〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
熱膨張性マイクロカプセルを、前記ジエン系ゴム100質量部に0.2〜20質量部配合したことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルを混合しマスターバッチを含むことを特徴とする請求項3に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
さらに、パーオキサイド系架橋剤を配合することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷上摩擦性能を従来レベルよりも向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路用空気入りタイヤ(スタッドレスタイヤ)において、氷上性能を優れたものにするため、低温でのゴム硬度を低くして氷雪路面との接地面積を確保したり、接地面に気泡を形成することにより氷雪路面上の水膜を除去したりすることが知られている。例えばトレッドゴム中に多数の気泡を形成し、トレッドが氷面に踏み込むときにこれら気泡が氷表面の水膜を吸収し、トレッドが氷面から離れるときに吸収した水を遠心力で離脱させることを繰り返して氷上性能を向上することが行われている。
【0003】
特許文献1は、このような気泡の形成手段として、タイヤトレッド用ゴム組成物に熱膨張性マイクロカプセルを配合することを提案している。この熱膨張性マイクロカプセルは空気入りタイヤの加硫工程での加熱によって膨張し、加硫したタイヤのトレッドゴム中に膨張したマイクロカプセルの殻に被覆された気泡(中空粒子)を多数形成する。
【0004】
しかし近年、需要者がスタッドレスタイヤの氷上性能に求めるレベルはより高くなり、氷上摩擦性能をより一層高くすることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第4046678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、氷上摩擦性能を従来レベルよりも向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを1質量部以上20質量部未満配合したゴム組成物であって、前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが、シリカおよび/またはカーボンブラックを1〜50質量%含有し、前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの110℃、せん断歪450%における貯蔵弾性率が0.3〜10kPaであり、かつ前記ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのガラス転移温度(℃)をTg、23℃の可塑度をPnとするとき、14000<(273+Tg)×Pn<82000であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、温度110℃、せん断歪450%における貯蔵弾性率が0.3〜10kPaであり、かつガラス転移温度(℃)をTg、23℃の可塑度をPnとするとき、14000<(273+Tg)×Pn<82000であり、シリカおよび/またはカーボンブラックを1〜50質量%含有するミラブル型シリコーンゴムコンパウンドをジエン系ゴムに配合するようにしたので、ジエン系ゴム中に分散するミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの大きさを適正化し、氷上摩擦性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0009】
このタイヤトレッド用ゴム組成物は、触針式表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)が、1〜30μmであるとよい。また熱膨張性マイクロカプセルを、前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.2〜20質量部配合することができる。
【0011】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルを混合したマスターバッチを含むことができる。またパーオキサイド系架橋剤を配合することができる。
【0012】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッド部に使用した空気入りタイヤは、スタッドレスタイヤとして優れた性能を有し、とりわけ氷上摩擦性能を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、タイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤの実施形態の一例を示し、この空気入りタイヤは、トレッド部1、サイドウォール部2およびビード部3からなる。
【0015】
図1において、空気入りタイヤには、左右のビード部3間にタイヤ径方向に延在する補強コードをタイヤ周方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のカーカス層4が延設され、その両端部がビード部3に埋設したビードコア5の周りにビードフィラー6を挟み込むようにしてタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。カーカス層4の内側にはインナーライナー層7が配置されている。トレッド部1のカーカス層4の外周側には、タイヤ周方向に傾斜して延在する補強コードをタイヤ軸方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のベルト層8が配設されている。この2層のベルト層8の補強コードは層間でタイヤ周方向に対する傾斜方向を互いに逆向きにして交差している。ベルト層8の外周側には、ベルトカバー層9が配置されている。このベルトカバー層9の外周側に、トレッド部1がトレッドゴム層12により形成される。トレッドゴム層12は、本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物により構成することが好ましい。各サイドウォール部2のカーカス層4の外側にはサイドゴム層13が配置され、各ビード部3のカーカス層4の折り返し部外側にはリムクッションゴム層14が設けられている。なお、スタッドレスタイヤは、図1に例示した空気入りタイヤの実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物において、使用するジエン系ゴムは、通常スタッドレスタイヤのトレッド部を構成するジエン系ゴムであればよく、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、各種スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が例示される。なかでも天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムが好ましく、より好ましくは天然ゴム及び/又はブタジエンゴムからなるとよい。天然ゴム及び/又はブタジエンゴムを含むことにより、空気入りタイヤにしたとき氷上摩擦性能を高くすることができる。
【0017】
本発明において、上述したジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は−50℃以下であることが好ましく、更に好ましくは−60〜−100℃であると良い。ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度を−50℃以下にすることにより、低温下でのゴムコンパウンドのしなやかさを維持し、氷面に対する凝着力を高くするので、冬用タイヤのトッレド部に好適に使用することができる。なおガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とする。また、ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。また、平均ガラス転移温度とは、各ジエン系ゴムのガラス転移温度に各ジエン系ゴムの質量分率を乗じた合計(ガラス転移温度の加重平均値)である。なお、すべてのジエン系ゴムの質量分率の合計を1とする。
【0018】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、高温加硫可能な、シリカおよび/またはカーボンブラックを含むことができるシリコーンゴムのコンパウンドである。ミラブル型シリコーンゴムは、可塑性を有し、かつ架橋剤を配合して加熱硬化する、液状シリコーンゴム以外のシリコーンゴムである。
【0019】
本発明で使用するミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、温度110℃、せん断歪450%における貯蔵弾性率が0.3〜10kPaである。この条件の貯蔵弾性率を0.3〜10kPaにすることにより、タイヤトレッド用ゴム組成物の氷上性能を改良することができる。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの110℃、450%の貯蔵弾性率は、タイヤトレッド用ゴム組成物を混練するときミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの分散しやすさと相関すると考えられる。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドがジエン系ゴム中である特定の分散状態であるとき氷上性能を大きく改良することができる。本発明において、その指標が110℃、450%の貯蔵弾性率であることを特定した。110℃、450%の貯蔵弾性率は、好ましくは1.0〜9.0kPa、より好ましくは1.5〜8.0kPaにするとよい。110℃、450%の貯蔵弾性率が0.3kPa未満、或いは10kPaを超えると、氷上性能を改良する作用が得られず却って悪化することがある。110℃、450%の貯蔵弾性率は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが含有するシリカおよび/またはカーボンブラックの量を増減することにより調節することができる。本明細書において、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの貯蔵弾性率は、アルファテクノロジー社製Rubber Process Analyzer 2000を使用して、初期歪み0%、振幅歪み±450%、周波数0.1Hz、温度110℃で測定するものとする。
【0020】
本発明において、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのガラス転移温度(℃)をTg、23℃の可塑度をPnとするとき、14000<(273+Tg)×Pn<82000の関係を満たす。(273+Tg)×Pnの値を14000より大きく82000より小さくすることによりタイヤトレッド用ゴム組成物の氷上性能を改良することができる。(273+Tg)×Pnの値は、好ましくは15000〜79000、より好ましくは16000〜75000にするとよい。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの低温時におけるゴムのしなやかさの指標となる(273+Tg)と、混練時の分散しやすさの指標となる可塑度Pn(Pa・sec)の積を上述した範囲内にすることにより氷上性能を一層改良することができる。すなわち(273+Tg)×Pnの値が14000以下であるとタイヤトレッド用ゴム組成物の氷上性能を改良する作用が得られない虞がある。また(273+Tg)×Pnの値が82000以上であるとタイヤトレッド用ゴム組成物の氷上性能が却って低下する。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのガラス転移温度Tg(℃)は、上述したジエン系ゴムのTgと同様にして測定することができる。またミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの可塑度Pn(Pa・sec)は、JIS K6249に記載された平行板可塑度計(ウイリアムスプラストメータ)を使用しISO 7323に記載された試験方法により測定するものとする。
【0021】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、好ましくは40万〜90万、より好ましくは45万〜85万であるとよい。本明細書において、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの重量平均分子量は、GPCにより測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0022】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度は、好ましくは10〜50、より好ましくは15〜45であるとよい。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度が10未満であると、軟らかすぎて耐摩耗性が悪化してしまう。またミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度が50を超えると、硬さゆえに氷上性能への効果が小さくなってしまう。本明細書において、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度は、パーオキサイド系加硫剤を配合・混合して、加熱硬化させたときのゴム硬度であり、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより23℃で測定された値とする。
【0023】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度は、ゴム組成物のベースゴムのゴム硬度より低いことが好ましい。すなわち、ベースゴムは本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物からミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルを省いたゴム組成物である。このベースゴムのゴム硬度よりも、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度が低いことが好ましく、より好ましくはミラブル型シリコーンゴムコンパウンドのゴム硬度が5〜40低いことが好ましい。これにより、路面への追従性が向上し、より撥水性を発揮しやすくなる。
【0024】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、シリコーン生ゴムに、シリカやカーボンブラックなどの補強性充填剤、分散剤、安定化剤などの配合剤を配合したブレンド物である。これにより、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドに適当なゴム強度、ゴム硬度を付与することができる。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドは、シリカおよび/またはカーボンブラック1〜50質量%、好ましくは4〜45質量%含有する。シリカおよびカーボンブラックをこのような範囲内で含有することにより、貯蔵弾性率、可塑度、ゴム硬度等を好適な範囲内に調整することができる。
【0025】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの配合量はジエン系ゴム100質量部に対し1質量部以上20質量部未満、好ましくは2〜19質量部、より好ましくは3〜18質量部である。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの配合量が1質量部未満であると、タイヤトレッド用ゴム組成物に氷上性能を十分に付与することができない。またミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの配合量が20質量部以上であると、ゴム組成物のゴム強度が低下しに氷上性能を改良することができない。
【0026】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを配合したタイヤトレッド用ゴム組成物は、触針式表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)が、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜25μmであるとよい。表面粗さ(Ra)が、この範囲内であるとタイヤトレッド用ゴム組成物を改良することができる。ジエン系ゴム中にミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが過度に細かく分散すると表面粗さ(Ra)が1μm未満になりトレッドゴムの表面が滑らかになる。この場合、タイヤ接地面とトレッドゴムとの間に水が介在しやすくなり、トレッドゴムが実際に接地する面積が小さくなり、優れた氷上性能を得ることができない。またジエン系ゴム中のミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの分散径が過大になると表面粗さ(Ra)が30μmより大きくなりトレッドゴムの凹凸が大きくなるが、この場合はトレッドゴムの表面がタイヤ接地面と実際に接触する面積が小さくなり優れた氷上性能を得ることができない。タイヤトレッド用ゴム組成物の表面粗さ(Ra)は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの110℃、せん断歪450%における貯蔵弾性率を0.3〜10kPaにすることにより調整することができる。また上述した(273+Tg)×Pnの値を14000を超え82000未満にすることにより好適な表面粗さ(Ra)を一層実現しやすくなる。タイヤトレッド用ゴム組成物の表面粗さ(Ra)は、キーエンス社製共焦点レーザー顕微鏡を使用し、室温にて試料表面の5箇所についてランダムに中心線平均粗さを測定し、その平均値を算術平均粗さとして求め、これを表面粗さ(Ra)とすることができる。
【0027】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを配合することにより、氷上性能を一層向上することができる。熱膨張性マイクロカプセルは、ジエン系ゴム100質量部に対し、好ましくは0.2〜20質量部、より好ましくは1.0〜18質量部配合する。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が0.2質量部未満であると加硫時に熱膨張性マイクロカプセルが膨張した中空粒子(マイクロカプセルの殻)の容積が不足し、氷上摩擦性能を十分に改良することができない虞がある。また熱膨張性マイクロカプセルの配合量が20質量部を超えると、トレッドゴムの耐摩耗性能が悪化する虞がある。
【0028】
熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため未加硫タイヤを加硫成形するとき、ゴム組成物中に分散したマイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の中空粒子を形成する。これにより、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上性能を向上させる。また、マイクロカプセルの殻材は、トレッドゴムより硬いためトレッド部の耐摩耗性を高くすることができる。熱膨張性マイクロカプセルの殻材はニトリル系重合体により形成することができる。
【0029】
またマイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化又は膨張する特性をもち、例えば、ノルマルアルカン、イソアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n−ブタン、n−プロパン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150〜190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
【0030】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、上述した熱膨張性マイクロカプセルと共に、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドが配合される。これにより、タイヤトレッドの接地面における接地形態を適正化するので、氷上摩擦性能を高くすることができる。
【0031】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、好ましくはパーオキサイド系加硫剤を配合するとよい。パーオキサイド系加硫剤を配合することにより、氷上摩擦性能を高くしながら耐摩耗性を改良することができる。パーオキサイド系加硫剤の配合量は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの質量に対し、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜4.5質量%にするとよい。パーオキサイド系加硫剤の配合量が0.5質量%未満であると、パーオキサイド系加硫剤の作用が十分に得られない。またパーオキサイド系加硫剤の配合量が5.0質量%を超えると、タイヤトレッド用ゴム組成物が脆くなり耐摩耗性が悪化してしまう。
【0032】
上述したタイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法は、熱膨張性マイクロカプセルおよび加硫系配合剤を除く他の配合剤を、ジエン系ゴムと混合・混練した混練物を調製し、この混練物を冷却し温度を下げた後に熱膨張性マイクロカプセルおよび加硫系配合剤を配合し混合することにより、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製することができる。ここで加硫系配合剤としては、加硫剤、架橋剤、加硫促進剤等が例示される。
【0033】
また本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物をより効果的に製造するには、好ましくは予めミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルを混合しマスターバッチを調製し、このマスターバッチおよびジエン系ゴムを混合するとよい。加硫系配合剤は、マスターバッチおよびジエン系ゴムと同時に混合してもよいし、さらにその後で混合してもよい。
【0034】
またこのマスターバッチにパーオキサイド系加硫剤を配合することができる。これにより、シリコーンゴムの強度が上がり、氷上摩擦性能をより高くすることができる。パーオキサイド系加硫剤の配合量は、上述した通りにすることができる。
【0035】
ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルを混合条件は、特に制限されるものではなく、熱膨張性マイクロカプセルの破壊を抑制し、かつ熱膨張を起こさない条件であればよい。ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルが略均一に混合するように、温度、回転数等を適宜、決めることができる。
【0036】
またミラブル型シリコーンゴムコンパウンドおよび熱膨張性マイクロカプセルの混合に使用する混練り機械は、特に制限されるものではなく、例えばバンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を例示することができる。
【0037】
タイヤトレッド用ゴム組成物は、シリカ、カーボンブラック等の充填剤を配合することができる。充填剤を配合することによりゴムの強度を高くし耐摩耗性能を良好にすることができる。充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜90質量部にするとよい。充填剤の配合量が10質量部未満であるとゴム強度を高くして耐摩耗性能を向上することができない。充填剤の配合量が100質量部を超えるとタイヤトレッド用ゴム組成物の転がり抵抗が悪化する。
【0038】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物にシリカを配合するとき、シランカップリング剤を配合することができる。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上しゴムとの補強性を高めることができる。
【0039】
シランカップリング剤の配合量は、タイヤトレッド用ゴム組成物中のシリカの配合量に対し好ましくは3〜15質量%を配合すると良く、より好ましくは5〜10質量%を配合すると良い。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の3質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0040】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0041】
シリカ、カーボンブラック以外の充填剤としては、空気入りタイヤに使用することができる任意の充填剤を用いることができ、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等を挙げることができる。
【0042】
タイヤトレッド用ゴム組成物には、上述した充填剤以外にも、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤は一般的な方法で混練して未加硫のゴム組成物とし、これを加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0043】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。このように構成されたトレッド部は、氷上性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0044】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
標準例1、実施例1〜14、比較例1〜10
表4に示すジエン系ゴム、充填剤及び配合剤を共通配合とし、表1,2に示す種類および配合量のミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、熱膨張性マイクロカプセル、パーオキサイド系架橋剤を含む25種類のゴム組成物(標準例1、実施例1〜14、比較例1〜10)を調製した。先ず硫黄、加硫促進剤、熱膨張性マイクロカプセル、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、パーオキサイド系架橋剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出・冷却し、これに硫黄、加硫促進剤、熱膨張性マイクロカプセル、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、パーオキサイド系架橋剤を加えてオープンロールで混合することにより未加硫のゴム組成物を調製した。なお表1,2に記載したミラブル型シリコーンゴムコンパウンドの配合量は、表4に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で示した。
【0046】
標準例2、実施例15〜20、比較例11〜13
表3に示す9種類のマスターバッチ(MB−1〜9)を調製する。各マスターバッチ配合の内訳の欄に示した配合比になるように秤量し、これを1.8Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、2.5分間100℃以下で混合することにより、9種類のマスターバッチ(MB−1〜9)を調製した。
【0047】
表4に示すジエン系ゴム、充填剤及び配合剤を共通配合とし、表3に示す種類および配合量のマスターバッチを含む9種類のゴム組成物(標準例2、実施例15〜20、比較例11〜13)を調製した。先ずマスターバッチ、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出・冷却し、これにマスターバッチ、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混合することにより未加硫のゴム組成物を調製した。なお表3に記載した各配合剤の配合量は、表4に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で示した。
【0048】
得られた34種類のゴム組成物を所定の金型中で、170℃で10分間プレス加硫してタイヤトレッド用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成した。得られた加硫ゴム試験片の氷上摩擦性能および表面粗さ(Ra)を下記に示す方法により評価した。
【0049】
氷上摩擦性能
得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度−1.5℃、荷重5.5kg/cm2、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、表1では標準例1の値を100、表2,3では標準例2の値を100とする指数にして、表1〜3の「氷上摩擦力」の欄に示した。この指数値が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能が優れることを意味する。
【0050】
表面粗さ(Ra)
得られた加硫ゴム試験片の表面粗さをキーエンス社製共焦点レーザー顕微鏡を使用し、室温にて試料表面の5箇所についてランダムに中心線平均粗さを測定し、その平均値を算術平均粗さとして求め、表面粗さ(Ra)とした。得られた値を表1では標準例1の値を100、表2,3では標準例2の値を100とする指数にして、表1〜3の「表面粗さ(Ra)」の欄に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表1〜3において、使用した原材料の種類を下記に示す。
・SR−1:シリカを19質量%含むミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、信越化学社製KE−931−U、110℃、450%の貯蔵弾性率が2.0kPa、ガラス転移温度(Tg)が−124℃、可塑度(Pn)が162Pa・s
・SR−2:シリカを30質量%含むミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、信越化学社製KE−951−U、110℃、450%の貯蔵弾性率が6.4kPa、ガラス転移温度(Tg)が−120℃、可塑度(Pn)が233Pa・s
・SR−3:カーボンブラックを31質量%含むミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、信越化学社製KE−3601−SBU、110℃、450%の貯蔵弾性率が4.8kPa、ガラス転移温度(Tg)が−125℃、可塑度(Pn)が484Pa・s
・SR−4:シリカを48質量%含むミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、信越化学社製KE−981−U、110℃、450%の貯蔵弾性率が12.3kPa、ガラス転移温度(Tg)が−120℃、可塑度(Pn)が470Pa・s
・SR−5:シリカを含有しないシリコーン生ゴム、信越化学社製KE−931の生ゴム、110℃、450%の貯蔵弾性率が1.0kPa、ガラス転移温度(Tg)が−123℃、可塑度(Pn)が90Pa・s
・SR−6:シリカを27質量%含むミラブル型シリコーンゴムコンパウンド、信越化学社製FE−351−U、110℃、450%の貯蔵弾性率が7.9kPa、ガラス転移温度(Tg)が−68℃、可塑度(Pn)が404Pa・s
・マイクロカプセル:松本油脂製薬社製熱膨張性マイクロカプセル(マイクロスフェアF100)
・パーオキサイド系加硫剤:信越化学社製C−8、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを約25%含有品
・MB−1〜MB−9:上記で調製したマスターバッチ
【0055】
【表4】
【0056】
なお、表4において、使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
・カーボンブラック:東海カーボン社製シースト6
・シリカ:Evonik社製Ultrasil VN3
・シランカップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、デグサ社製Si69
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤1:フレキシス社製6PPD
・老化防止剤2:大内新興化学工業社製ノクラック224
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
【0057】
表1〜3から明らかなように実施例1〜20のタイヤトレッド用ゴム組成物は、氷上摩擦性能を従来レベル以上に向上することが確認された。
【0058】
比較例1のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が1質量部未満であるので、氷上摩擦性能を十分に改良することができない。
【0059】
比較例2のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が20質量部以上であるので、氷上摩擦性能を十分に改良することができない。
【0060】
比較例3のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−4)の110℃、450%の貯蔵弾性率が10kPaを超えるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0061】
比較例4のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−5)の110℃、450%の貯蔵弾性率が0.3kPa以上、(273+Tg)×Pnが14000以下であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0062】
比較例5のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−5)の110℃、450%の貯蔵弾性率が10kPa以下、(273+Tg)×Pnが82000以上であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0063】
表2から明らかなように、比較例6のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が1質量部未満であるので、氷上摩擦性能を十分に改良することができない。
【0064】
比較例7のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が20質量部以上であるので、氷上摩擦性能を十分に改良することができない。
【0065】
比較例8のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−4)の110℃、450%の貯蔵弾性率が10kPaを超えるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0066】
比較例9のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−5)の110℃、450%の貯蔵弾性率が0.3kPa以上、(273+Tg)×Pnが14000以下であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0067】
比較例10のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−5)の110℃、450%の貯蔵弾性率が10kPa以下、(273+Tg)×Pnが82000以上であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0068】
比較例11のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が20質量部以上であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0069】
比較例12のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−1)の配合量が20質量部以上であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【0070】
比較例13のゴム組成物は、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(SR−2)の配合量が20質量部以上であるので、氷上摩擦性能が却って低下する。
【符号の説明】
【0071】
1 トレッド部
12 トレッドゴム層
図1