(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6079847
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】固定子、固定子を用いたモータ、および固定子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/18 20060101AFI20170206BHJP
H02K 15/095 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
H02K3/18 J
H02K15/095
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-192936(P2015-192936)
(22)【出願日】2015年9月30日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】住友 久人
(72)【発明者】
【氏名】井田 一男
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 明宣
(72)【発明者】
【氏名】丹治 英巳
(72)【発明者】
【氏名】武藤 昭雄
【審査官】
安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−189525(JP,A)
【文献】
特開平06−245442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00−3/28
H02K 15/00−15/02
H02K 15/04−15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
mを2以上の整数としたときに3×m個のティース(T1〜T9)を有するコア(20)と、
前記ティースにそれぞれ配置された、U相、V相、W相に対応する3×m個の巻線(C1〜C9)と、
前記巻線の各々から延びる、複数の第1引出線(La1〜La6)および第2引出線(Lb1〜Lb6)と、
を備える同時集中巻モータの固定子(10)であって、
3×m個の前記巻線は、
前記U相に属するU1巻線(C1)およびU2巻線(C4)、
前記V相に属するV1巻線(C2)およびV2巻線(C5)、
前記W相に属するW1巻線(C3)およびW2巻線(C6)、
を少なくとも有し、
前記U1巻線、前記V1巻線、および前記W1巻線の第1引出線が、それぞれ、前記U1巻線、前記V1巻線、および前記W1巻線が配置されている前記ティース(T1、T2、T3)から延びており、
前記U2巻線、前記V2巻線、および前記W2巻線の第1引出線が、それぞれ、前記U1巻線、前記V1巻線、および前記W1巻線が配置されている前記ティース(T1、T2、T3)から延びている、
固定子。
【請求項2】
3×m個の前記巻線は、
前記U相に属するU3巻線(C7)、
前記V相に属するV3巻線(C8)、
前記W相に属するW3巻線(C9)、
をさらに有し、
前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線の第1引出線は、それぞれ、前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線が配置されている前記ティース(T7、T8、T9)から延びている、
請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
3×m個の前記巻線は、
前記U相に属するU3巻線(C7)、
前記V相に属するV3巻線(C8)、
前記W相に属するW3巻線(C9)
をさらに有し、
前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線の第1引出線は、それぞれ、前記U1巻線、前記V1巻線、および前記W1巻線が配置されている前記ティース(T1、T2、T3)から延びている、
請求項1に記載の固定子。
【請求項4】
3×m個の前記巻線は、
前記U相に属するU3巻線(C7)およびU4巻線(C10)、
前記V相に属するV3巻線(C8)およびV4巻線(C11)、
前記W相に属するW3巻線(C9)およびW4巻線(C12)、
をさらに有し、
前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線の第1引出線が、それぞれ、前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線が配置されている前記ティース(T7、T8、T9)から延びており、
前記U4巻線、前記V4巻線、および前記W4巻線の第1引出線が、それぞれ、前記U3巻線、前記V3巻線、および前記W3巻線が配置されている前記ティース(T7、T8、T9)から延びている、
請求項1に記載の固定子。
【請求項5】
3×m個の前記巻線の第2引出線(Lb)はいずれも、それぞれ、当該巻線が配置されている前記ティースから延びている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の固定子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の前記固定子と、
前記固定子と磁気的に相互作用する永久磁石を有する回転子と、
を備える、モータ。
【請求項7】
mを2以上の整数としたときに、コア(20)が有する3×m個のティース(T1〜T9)に、3×m本の導線をそれぞれ巻きつけ、それによって前記ティースを囲む3×m個の巻線(C1〜C9)およびそれぞれの前記巻線の両端から延びる6×m本の引出線(La1〜La6、Lb1〜Lb6)を形成することで、固定子(10)を製造する方法であって、
3×m本の前記導線を放射状に排出しつつ、前記ティースの周囲を移動できる3×m個のノズル(N1〜N9)を有する巻線装置を準備するステップと、
前記巻線装置と前記コアとに第1の相対角度を形成させるステップと、
3×m本の前記導線のうち一部が固定具(H4〜H6)で固定され、残りは固定されない状態にするステップと、
3×m個の前記ノズルが、それぞれ、3×m個のうちの1つの前記ティースの周囲を移動するステップと、
前記巻線装置を前記コアの中心軸(A)の周りに相対的に回転させることによって、前記巻線装置と前記コアとに第2の相対角度を形成させるステップと、
3×m本の前記導線のうち全部を固定具(H1〜H9)で固定するステップと、
3×m個の前記ノズルが、それぞれ、3×m個のうちの1つの前記ティースの周囲を移動するステップと、
を有する、方法。
【請求項8】
前記コアと前記巻線装置との相対回転は、3の整数倍個の前記ティースに相当する中心角だけ行われる、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
3×m個の前記巻線の形成は、前記巻線装置と前記コアとが前記第2の相対角度を形成している状態において行われる、
請求項7または請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子、固定子を用いたモータ、および固定子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに用いられる固定子は、ティースと呼ばれる突出部を有する円筒状のコアと、各々のティースに巻きつけられた導線からなる複数の巻線を備える。固定子の製造において、ティースに対して導線を巻きつける工程は、特許文献1(特開2004−274878号公報)に示されるような巻線装置によって行われる。巻線装置は、放射状に設けられた複数のノズルを有する。各々のノズルは同時に導線を排出しながら、ティースの周りを公転することよって導線をティースに巻きつけ、巻線を作る。この手法は、同時集中巻と呼ばれる。巻きつけ工程が終わると、完成した複数の巻線からは、それぞれ導線の両端に相当する2本の引出線が延びる状態になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
巻きつけ工程の後には、組立作業者により、多数の引出線の一部を接続して電源線および中性線を作る結線工程が行われる。しかし、接続すべき引出線をその他の多数の引出線の中から適切に識別することは困難である。この困難性は、組立作業者が誤った引出線どうしを接続してしまう事態を誘発し、ひいては固定子またはモータの製造効率を低下させる。
【0004】
本発明の課題は、不良品の発生確率が少なく、効率的に製造可能なモータの固定子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1観点に係る同時集中巻モータの固定子は、コアと、複数の巻線と、複数の第1引出線および第2引出線と、を備える。mは2以上の整数である。コアは、3×m個のティースを有する。複数の巻線の個数は3×m個である。複数の巻線は、ティースにそれぞれ配置される。複数の第1引出線および第2引出線は、巻線の各々から延びる。複数の巻線は、それぞれ、U相、V相、W相のいずれかに対応する。3×m個の巻線は、U相に属するU1巻線およびU2巻線、V相に属するV1巻線およびV2巻線、W相に属するW1巻線およびW2巻線、を少なくとも有する。U1巻線、V1巻線、およびW1巻線の第1引出線は、それぞれ、U1巻線、V1巻線、およびW1巻線が配置されているティースから延びている。U2巻線、V2巻線、およびW2巻線の第1引出線は、それぞれ、U1巻線、V1巻線、およびW1巻線が配置されているティースから延びている。
【0006】
この構成によれば、U1巻線およびU2巻線の2つの第1引出線は、同じティースから延びる。V1巻線およびV2巻線の2つの第1引出線、および、W1巻線およびW2巻線の2つの第1引出線についても同様である。したがって、接続すべき複数の引出線がまとまっているので、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子の製造効率が改善される。
【0007】
本発明の第2観点に係る固定子は、第1観点に係る固定子において、3×m個の巻線が、U相に属するU3巻線、V相に属するV3巻線、W相に属するW3巻線、をさらに有する。U3巻線、V3巻線、およびW3巻線の第1引出線は、それぞれ、U3巻線、V3巻線、およびW3巻線が配置されているティースから延びている。
【0008】
この構成によれば、9以上の巻線を有するモータにおいて、同じ相に属する第1引出線の一部がまとまって配置される。したがって、引出線の接続作業が容易になる。
【0009】
本発明の第3観点に係る固定子は、第1観点に係る固定子において、3×m個の巻線が、U相に属するU3巻線、V相に属するV3巻線、W相に属するW3巻線、をさらに有する。U3巻線、V3巻線、およびW3巻線の第1引出線は、それぞれ、U1巻線、V1巻線、およびW1巻線が配置されているティースから延びている。
【0010】
この構成によれば、9以上の巻線を有するモータにおいて、同じ相に属する3つの第1引出線がまとまって配置される。したがって、引出線の接続作業がより容易になる。
【0011】
本発明の第4観点に係る固定子は、第1観点に係る固定子において、3×m個の巻線が、U相に属するU3巻線およびU4巻線、V相に属するV3巻線およびV4巻線、W相に属するW3巻線およびW4巻線、をさらに有する。U3巻線、V3巻線、およびW3巻線の第1引出線が、それぞれ、U3巻線、V3巻線、およびW3巻線が配置されているティースから延びている。U4巻線、V4巻線、およびW4巻線の第1引出線が、それぞれ、U3巻線、V3巻線、およびW3巻線が配置されているティースから延びている。
【0012】
この構成によれば、12以上の巻線を有するモータにおいて、同じ相に属する第1引出線がまとまって配置される。したがって、引出線の接続作業がより容易になる。
【0013】
本発明の第5観点に係る固定子は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係る固定子において、3×m個の巻線の第2引出線がいずれも、それぞれ、その巻線が配置されているティースから延びている。
【0014】
この構成によれば、第2引出線はそれぞれのティースから延びる。したがって、組立作業者は、まとまって配置されている引出線が第1引出線であることを容易に知ることができる。
【0015】
本発明の第6観点に係るモータは、固定子と、回転子と、を備える。固定子は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るものである。回転子は、永久磁石を有する。永久磁石は、固定子と磁気的に相互作用する。
【0016】
この構成によれば、U1巻線およびU2巻線の2つの第1引出線は、同じティースから延びる。V1巻線およびV2巻線の2つの第1引出線、および、W1巻線およびW2巻線の2つの第1引出線についても同様である。したがって、接続すべき引出線がまとまっているので、誤った引出線の接続を抑制できるとともに、モータの製造効率が改善される。
【0017】
本発明の第7観点に係る固定子製造方法は、mを2以上の整数としたときに、コアが有する3×m個のティースに、3×m本の導線をそれぞれ巻きつけ、それによってティースを囲む3×m個の巻線およびそれぞれの巻線の両端から延びる6×m本の引出線を形成することで、固定子を製造する。方法は、3×m本の導線を放射状に排出しつつ、ティースの周囲を移動できる3×m個のノズルを有する巻線装置を準備するステップを有する。方法は、巻線装置とコアとに第1の相対角度を形成させるステップを有する。方法は、3×m本の導線のうち一部が固定具で固定され、残りは固定されない状態にするステップを有する。方法は、3×m個のノズルが、それぞれ、3×m個のうちの1つのティースの周囲を移動するステップを有する。方法は、巻線装置をコアの中心軸の周りに相対的に回転させることによって、巻線装置とコアとに第2の相対角度を形成させるステップを有する。方法は、3×m本の導線のうち全部を固定具で固定するステップを有する。方法は、3×m個のノズルが、それぞれ、3×m個のうちの1つのティースの周囲を移動するステップを有する。
【0018】
この方法によれば、ティース間を渡る渡り線が形成される。したがって、渡り線の存在により、接続すべき引出線の一部がまとまって配置されるので、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子の製造効率が改善される。
【0019】
本発明の第8観点に係る固定子製造方法は、第7観点に係る方法において、コアと巻線装置との相対回転が、3の整数倍個のティースに相当する中心角だけ行われる。
【0020】
この構成によれば、コアと3×m個のノズルとの相対回転は、3の整数倍個のティースに相当する中心角だけ行われる。したがって、3相モータ用の固定子の製造において、製造効率が改善される。
【0021】
本発明の第9観点に係る固定子製造方法は、第7観点または第8観点に係る方法において、3×m個の巻線の形成は、巻線装置とコアとが第2の相対角度を形成している状態において行われる。
【0022】
この構成によれば、ティース間を渡る渡り線およびその渡り線を含む引出線は、導線の巻き始めの段階において這いまわされ、のちに形成される巻線とコアとの間に把持される。したがって、渡り線および引出線の位置がずれるおそれを低減できる。
【発明の効果】
【0023】
第1観点に係る同時集中巻モータの固定子によれば、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子の製造効率が改善される。
【0024】
第2観点から第4観点に係る固定子によれば、引出線の接続作業が容易になる。
【0025】
第5観点に係る固定子によれば、組立作業者が、まとまって配置されている引出線が第1引出線であることを容易に知ることができる。
【0026】
第6観点に係るモータによれば、誤った引出線の接続を抑制できるとともに、モータの製造効率が改善される。
【0027】
第7観点および第8観点に係る固定子製造方法によれば、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子の製造効率が改善される。
【0028】
第9観点に係る固定子製造方法によれば、渡り線および引出線の位置がずれるおそれを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ90の断面図を示す。
【
図2】固定子10を構成する固定子コア20の平面図を示す。
【
図3】固定子10を構成する上側インシュレータ30Aの平面図を示す。
【
図5】巻線装置100を用いた従来の巻線の形成の初期工程を示す平面図である。
【
図6】巻線装置100を用いた従来の巻線の形成における、固定子の下側を示す底面図である。
【
図7】巻線装置100を用いた従来の巻線の形成の終盤工程を示す平面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る固定子10を示す平面図である。
【
図10】本発明に係る固定子10の製造における第1工程を示す模式図である。
【
図11】本発明に係る固定子10の製造における第2工程を示す模式図である。
【
図12】本発明に係る固定子10の製造における第3工程を示す模式図である。
【
図13】本発明に係る固定子10の製造における第4工程を示す模式図である。
【
図14】本発明に係る固定子10の製造における第5工程を示す模式図である。
【
図15】本発明に係る固定子10の製造における第6工程を示す模式図である。
【
図16】本発明に係る固定子10の製造における第7工程を示す模式図である。
【
図17】本発明に係る固定子10の製造における第8工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る固定子およびモータの一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本発明の具体的な構成は下記の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0031】
(1)全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ90を示す。モータ90は、構成部品を収容する筐体80、筐体80に固定された固定子10、固定子10の空洞に配置された回転子50、回転子50に固定されたシャフト70を備える。回転子50は、固定子10と磁気的に相互作用することによって、シャフト70とともに中心軸Aの周りに回転する。磁気的な相互作用を行うために、固定子10は巻線Cを有し、回転子50は永久磁石52を有している。
【0032】
固定子10は、巻線Cの他に、積層鋼板からなる固定子コア20、および固定子コア20の上面20aおよび下面20bにそれぞれ設置された上側インシュレータ30Aおよび下側インシュレータ30Bを有する。巻線Cは、固定子コア20および2つのインシュレータ30A、30Bに同時に巻きつけられた導線からなる。
【0033】
回転子50は、永久磁石52の他に、積層鋼板からなる回転子コア51、および回転子コア51の上面および下面に設置された2枚の端板53を有する。永久磁石52は、回転子コア51に形成された貫通孔に挿入されており、端板53によって拘束されている。
【0034】
(2)固定子10の詳細構成
(2−1)固定子コア20
図2は本発明に係る固定子コア20の平面図である。固定子コア20は、3相のモータ90の固定子10に、9個の極を形成する。
【0035】
固定子コア20は、全体として、回転子50を設置するための空洞Vを有する円筒形状である。固定子コア20は、外縁をなす円環部21と、円環部21から中心軸Aに向かって突出する9個のティースT1〜T9と、各ティースT1〜T9の先端に位置する係合部22を有する。ティースT1〜T9は、導線を巻きつけることによって巻線Cを形成するためのものである。
【0036】
(2−2)インシュレータ30A、30B
図3は、上側のインシュレータ30Aの平面図である。インシュレータ30Aは樹脂製である。インシュレータ30Aは、外壁部31、内壁部32、および9個のティースカバー部33を有する。外壁部31および内壁部32は、それぞれ、固定子コア20の円環部21および係合部22と少なくとも部分的に重なり合う。各ティースカバー部33は、それぞれ、対応するティースT1〜T9を覆う。
【0037】
図1に示した下側のインシュレータ30Bの構成も、
図3の上側のインシュレータ30Aと同様である。
【0038】
(3)巻線装置100による一般的な固定子10の製造
通常、固定子10の製造における巻線Cの形成には、
図4にその断面を示した巻線装置100が用いられる。巻線装置100は、円形のボディ101、ボディ101に放射状に配置された複数のノズルN1〜N9、および、
図6を参照して後述する固定具H1〜H9を有する。
【0039】
図4に示すボディ101は、中心軸Aの周りに回転することができる。加えて、ボディ101は、中心軸Aが延びる方向、すなわち
図4の紙面に垂直な方向に移動することができる。
【0040】
各ノズルN1〜N9は、図示しない導線源から供給される導線Zを、排出口Dからボディ101の径方向外側へ排出する。さらに、各ノズルN1〜N9は、ボディ101に対して、径方向の外側および内側へ移動し、それによって排出口Dの径方向の位置を変化させることができる。
【0041】
図5は、巻線装置100を用いた従来の巻線Cの形成の初期工程を示す平面図である。この図において、固定子コア20には2つのインシュレータ30A、30Bが重ねられており、それらの空洞Vに巻線装置100が位置している。同図に見えているのは、固定子コア20の上面に設けられた上側のインシュレータ30Aのみであり、厳密な意味では固定子コアのティースT1〜T9は見えない。しかし、本図では、理解のしやすさのために、各ティースT1〜T9相当するティースカバー部33の箇所にティースの参照符号を付している。
【0042】
図5において、各ノズルN1〜N9から排出される導線Zの先端は、固定子10の下方、すなわち下側インシュレータ30Bの下方で固定されている。各ノズルN1〜N9は、導線Zを排出しながら、対応するティースT1〜T9の周囲を公転することにより、巻線Cを形成する。
図5は、ノズルN1〜N9が固定子10の下方より公転を開始し、その後
公転の半サイクルを終えた状態である。
【0043】
図6は、この時の固定子10の下面、すなわち下側インシュレータ30Bを示す底面図である。各ノズルN1〜N9に通じる導線Zの先端は、それぞれ、固定具H1〜H9によって固定されている。
【0044】
図7は、巻線装置100を用いた従来の巻線Cの形成の終盤工程を示す平面図である。ノズルN1〜N9は多数のサイクルの公転を終えており、導線ZをティースT1〜T9に巻きつけることによって巻線C1〜C9を形成している。
【0045】
巻線装置100による巻線C1〜C9の形成後には、
図8に示す配線を実現するために結線工程が行われる。結線工程では、各巻線C1〜C9からそれぞれ二本ずつ延びる引出線(outgoing lines)を接続することにより、端子PH−U、PH−V、PH−Wに接続される電源線PL、および、全ての巻線C1〜C9を接続する中性線NLが形成される。これにより、固定子10が完成する。
【0046】
(4)本発明に係る固定子10の製造
図9は、本発明に係る固定子10の上側を示す平面図である。本図から理解される通り、固定子10には、異なるティースの間を渡る3本の渡り線(travelling lines)Lt1〜Lt3が形成されている。1番目の渡り線Lt1はティースT1からティースT4へ延びている。2番目の渡り線Lt2はティースT2からティースT5へ延びている。3番目の渡り線Lt3はティースT3からティースT6へ延びている。この固定子10もまた、前述した巻線装置100を用いて製造される。
【0047】
図10〜
図17は、それぞれ、本発明に係る固定子10の製造における第1工程〜第8工程を示す。これらの図において、ティースT1〜T9とティースカバー部33とからなる積層体は、単なる長方形として模式化されている。
【0048】
図10に示す第1工程では、複数のノズルN1〜N9は、固定子10の下方に位置している。固定子10と巻線装置100とは、ティースT1がノズルN4に近接する第1の相対角度をなすように配置されている。一部のノズルN4〜N6から排出される導線Zの先端のみが、固定具H4〜H6に固定される。その他のノズルN1〜N3、N7〜N9については、導線Zは固定されない。
【0049】
図11に示す第2工程では、巻線装置100のボディ101とともに全てのノズルN1〜N9が固定子10の上方へ移動する。固定具H4〜H6に固定された一部の導線Zのみが、一部のティースT1〜T3の近接箇所を這いまわされる。
【0050】
図12に示す第3工程では、固定子10を巻線装置100に対して相対的に回転する。これにより、固定子10と巻線装置100とは、ティースT1がノズルN1に近接する第2の相対角度をなすように配置される。この回転に伴って、一部のノズルN4〜N6から導線Zが大きな長さにわたって引き出される。
【0051】
図13に示す第4工程では、巻線装置100のボディ101とともに全てのノズルN1〜N9が固定子10の下方へ移動する。固定具H4〜H6に固定された一部の導線Zは、ティースT1〜T3ではなく、ティースT4〜T6の近接箇所を這いまわされる。
【0052】
図14に示す第5工程では、固定具H1〜H9のすべてを用いて、第2の相対角度における新たな導線Zの固定が行われる。固定具H1〜H9は、それぞれノズルN1〜N9から排出される導線Zを固定する。
【0053】
図15に示す第6工程では、第2の相対角度において全てのノズルN1〜N9がティースT1〜T9の周りで公転を開始する。公転の繰り返しが進むにつれて、
図4に示す排出口Dの位置が中心軸Aに徐々に近接していくように、ノズルN1〜N9はボディ101に対して徐々に径方向内側に移動する。あるいは、ノズルN1〜N9は径方向内側に移動するだけでなく、径方向に沿って往復してもよい。
【0054】
図16に示す第7工程では、ノズルN1〜N9が導線Zの巻きつけを終え、巻線C1〜C9が形成される。
【0055】
図17に示す第8工程では、固定具H1〜H9に固定されていた導線Zが解放される。固定子10の上方には、前述した3本の渡り線Lt1〜Lt3が形成されている。ティースT7〜T9からは、それぞれ、導線Zの巻き始めに相当する第1引出線La7〜La9、および導線Zの巻き終わりに相当する第2引出線Lb7〜Lb9が延びている。ティースT4〜T6からは、それぞれ第2引出線Lb4〜Lb6のみが延びている。ティースT1〜T3からは、それぞれ2本の第1引出線La1〜La6および1本の第2引出線Lb1〜Lb3が延びている。9本の第1引出線La1〜La9および9本の第2引出線Lb1〜Lb9は、結線工程において
図8の配線を実現するように接続される。配線は次の通りである。
【0056】
端子PH−Uには、U相に属する3つの巻線の第1引出線、すなわち、U1巻線C1から延びる第1引出線La1、U2巻線C4から延びる第1引出線La4、U3巻線C7から延びる第1引出線La7が接続され、それによってU相の電源線PLが構成される。
【0057】
端子PH−Vには、V相に属する3つの巻線の第1引出線、すなわち、V1巻線C2から延びる第1引出線La2、V2巻線C5から延びる第1引出線La5、V3巻線C8から延びる第1引出線La8が接続され、それによってV相の電源線PLが構成される。
【0058】
端子PH−Wには、W相に属する3つの巻線の第1引出線、すなわち、W1巻線C3から延びる第1引出線La3、W2巻線C6から延びる第1引出線La6、W3巻線C9から延びる第1引出線La9が接続され、それによってW相の電源線PLが構成される。
【0059】
全ての巻線C1〜C9からそれぞれ延びる第2引出線Lb1〜Lb9は一緒に接続され、それによって中性線NLが構成される。
【0060】
(5)特徴
(5−1)
固定子10においては、
図17に示されるように、U1巻線C1およびU2巻線C4の2つの第1引出線La1、La4は、同じティースT1から延びる。V1巻線C2およびV2巻線C5の2つの第1引出線La2、La5、および、W1巻線C3およびW2巻線C6の2つの第1引出線La3、La6についても同様である。
【0061】
この構成によれば、接続すべき複数の引出線が同じティースの近傍にまとまっているので、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子10の製造効率が改善される。
【0062】
(5−2)
9個の巻線C1〜C9を有するモータ90において、同じ相に属する3つの第1引出線のうちの2つがまとまって配置される。この構成によれば、引出線の接続作業が容易になる。
【0063】
(5−3)
第2引出線Lb1〜Lb9はそれぞれのティースT1〜T9から延びる。この構成によれば、組立作業者は、まとまって配置されている引出線が第1引出線であることを容易に知ることができる。
【0064】
(5−4)
モータ90においては、
図17に示されるように、U1巻線C1およびU2巻線C4の2つの第1引出線La1、La4は、同じティースT1から延びる。V1巻線C2およびV2巻線C5の2つの第1引出線La2、La5、および、W1巻線C3およびW2巻線C6の2つの第1引出線La3、La6についても同様である。
【0065】
この構成によれば、接続すべき複数の引出線が同じティースの近傍にまとまっているので、誤った引出線の接続を抑制できるとともに、モータ90の製造効率が改善される。
【0066】
(5−5)
固定子10の製造においては、ティース間を渡る渡り線Lt1〜Lt3が形成される。この製造方法によれば、渡り線Lt1〜Lt3の存在により、接続すべき第1引出線の一部がまとまって配置される。したがって、誤った引出線の接続が抑制されるとともに、固定子10の製造効率が改善される。
【0067】
(5−6)
固定子コア20と9個のノズルN1〜N9との相対回転は、ティースの3個分に相当する中心角だけ行われる。この方法によれば、3相モータ90用の固定子10の製造において、製造効率が改善される。相対回転の中心角の大きさが、例えばティース6個分またはティース9個分などの、3の整数倍個のティースに相当する中心角であっても、同様の効果を期待できる。
【0068】
(5−7)
ティース間を渡る渡り線Lt1〜Lt3およびその渡り線Lt1〜Lt3を含む第1引出線La4〜La6は、導線Zの巻き始めの段階において這いまわされ、のちに形成される巻線C1〜C9と固定子コア20との間に把持される。この方法によれば、渡り線Lt1〜Lt3および第1引出線La4〜La6の位置がずれるおそれを低減できる。
【0069】
(6)変形例
(6−1)
上述の実施形態では、同一の相に属する第1引出線の一部のみが、まとまって配置される。これに代えて、同一の相に属する第1引出線の全部がまとまって配置されてもよい。
【0070】
例えば、9個の巻線C1〜C9につき、U相に属する3つの巻線C1、C4、C7から延びる第1引出線La1、La4、La7のすべてが、同一のティースT1の近傍に配置されてもよい。V相およびW相についても同様である。
【0071】
この構成によれば、同じ相に属する3つの第1引出線が全てまとまって配置されるので、引出線の接続作業がより容易になる。
【0072】
(6−2)
上述の実施形態では、モータ90は3相9極の巻線C1〜C9を有する。これに代えて、モータはこれ以外の数の巻線を有してもよい。例えば、モータは3相12極の巻線を有してもよい。この場合、U相には、U1巻線C1、U2巻線C4、U3巻線C7、U4巻線C10が属する。V相には、V1巻線C2、V2巻線C5、V3巻線C8、V4巻線C11が属する。W相には、W1巻線C3、W2巻線C6、W3巻線C9、W4巻線C12が属する。
【0073】
この構成において、第1引出線La1〜La12は次のように配置されてよい。
【0074】
[U相]U1巻線C1およびU2巻線C4の2つの第1引出線La1、La4が、同じティースT1から延びる。U3巻線C7およびU4巻線C4の2つの第1引出線La7、La10が、同じティースT7から延びる。
【0075】
[V相]V1巻線C2およびV2巻線C5の2つの第1引出線La2、La5が、同じティースT2から延びる。V3巻線C8およびV4巻線C11の2つの第1引出線La8、La11が、同じティースT8から延びる。
【0076】
[W相]W1巻線C3およびW2巻線C6の2つの第1引出線La3、La6が、同じティースT3から延びる。W3巻線C9およびW4巻線C12の2つの第1引出線La9、La12が、同じティースT9から延びる。
【0077】
この構成によれば、12個の巻線C1〜C12を有するモータにおいて、同じ相に属する第1引出線がまとまって配置される。この構成によれば、引出線の接続作業がより容易になる。
【0078】
(6−3)
上述の実施形態では、各巻線C1〜C9の巻き始めの第1引出線La1〜La9は電源線PLに構成され、各巻線C1〜C9の巻き終わりの第2引出線Lb1〜Lb9は中性線NLに構成される。これに代えて、第1引出線La1〜La9で中性線NLを、第2引出線Lb1〜Lb9で電源線PLを構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、冷凍装置の圧縮機に搭載されるモータを含む、様々な種類のモータに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
C、C1〜C9 巻線
A 中心軸
H1〜H9 固定具
La1〜La9 第1引出線
Lb1〜Lb9 第2引出線
Lt1〜Lt3 渡り線
N1〜N9 ノズル
T、T1〜T9 ティース
V 空洞
Z 導線
10 固定子
20 固定子コア
20a 上面
20b 下面+
21 円環部
30A 上側インシュレータ
30B 下側インシュレータ
50 回転子
51 回転子コア
52 永久磁石
53 端板
70 シャフト
80 筐体
90 モータ
100 巻線装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【特許文献1】特開2004−274878号公報
【要約】
【課題】 不良品の発生確率が少なく、効率的に製造可能なモータの固定子を提供する。
【解決手段】 固定子は、3×m個のティースT1〜T9を有するコアと、3×m個の巻線C1〜C9を備える。巻線C1〜C9は、U相に属するU1巻線C1およびU2巻線C4、V相に属するV1巻線C2およびV2巻線C5、W相に属するW1巻線C3およびW2巻線C6、を少なくとも有する。U1巻線C1、V1巻線C2、およびW1巻線C3の第1引出線La1〜La3は、それぞれ、U1巻線C1、V1巻線C2、およびW1巻線C3が配置されているティースT1〜T3から延びている。U2巻線C4、V2巻線C5、およびW2巻線C6の第1引出線La4〜La6は、それぞれ、U1巻線C1、V1巻線C2、およびW1巻線C3が配置されているティースT1〜T3から延びている。
【選択図】
図17