特許第6079888号(P6079888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079888
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20170206BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170206BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20170206BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20170206BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B1/00 F
   C09D11/52
   C09D11/02
   H01L31/04 264
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-535628(P2015-535628)
(86)(22)【出願日】2015年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2015068985
(87)【国際公開番号】WO2016006513
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2015年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141174(P2014-141174)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 豪太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 康博
(72)【発明者】
【氏名】木南 万紀
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−174797(JP,A)
【文献】 特開平08−148787(JP,A)
【文献】 特開平08−162762(JP,A)
【文献】 特開2005−290153(JP,A)
【文献】 特開2012−028689(JP,A)
【文献】 特開2004−200450(JP,A)
【文献】 特開2011−144077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
C09D 11/02
C09D 11/52
H01B 1/00
H01L 31/0224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、それぞれ異なる樹脂である樹脂バインダー(A)ならびに樹脂バインダー(B)と、導電性粉末(C)、無機バインダー(D)、および有機溶剤(E)を含む導電性ペースト組成物であって、樹脂バインダー(A)が重量平均分子量が10,000〜500,000であるエチルセルロースからなり、樹脂バインダー(B)が重量平均分子量が10,000〜60,000であるポリビニルブチラールからなり、かつ、該樹脂バインダー(A)と該樹脂バインダー(B)の重量比が2:8〜8:2であることを特徴とする導電性ペースト組成物。
【請求項2】
樹脂バインダー(A)の重量平均分子量(Mw(A))と樹脂バインダー(B)の重量平均分子量(Mw(B))の比Mw(A)/Mw(B)が1以上10以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項3】
有機溶剤(E)の沸点が200℃以上300℃以下であり、かつ溶解度パラメータ(SP値)が8以上、11以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項4】
導電性粉末(C)が、平均粒子径D50が0.05μm以上10.0μm以下、タップ密度2.0g/cm3以上7.0g/cm3以下の銀及び/または銅であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペースト組成物。
【請求項5】
導電性粉末(C)と無機バインダー(D)の総重量部100に対し、樹脂バインダー(A)と樹脂バインダー(B)の総重量部が1.0以上8.0以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペースト組成物。
【請求項6】
無機バインダー(D)が、平均粒子径D50が0.1μm以上〜10.0μm以下の無機粒子であり、軟化点が350℃以上600℃以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペースト組成物。
【請求項7】
さらにAl、Zn、Pb、Bi、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属粉を導電性粉末(C)の総重量部100に対して10以下を含むことを特徴とする請求項に記載の導電性ペースト組成物。
【請求項8】
凹版オフセット印刷で電極を形成する工程に用いられることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペースト組成物。
【請求項9】
太陽電池セル電極形成に用いられることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の導電性ペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特にオフセット印刷法によって微細なパターンを印刷するのに適した新規な導電性ペーストと、この導電性ペーストを用いた微細な導電性パターンの形成方法とに関するものである。更に好適には、太陽電池セルの表面に形成される集電極を凹版オフセット印刷により形成するための太陽電池セル電極形成ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への高まりから、太陽電池が注目されているが、この太陽電池の受光面側には、線状の集電極が設けられている。この集電極は、太陽電池内部で発生した電流を外部へ送電する役割を有することから電気抵抗が低いことが望ましく、また、太陽電池の内部に太陽光をできる限り多く取り込めるように、電極幅は細いことが望ましい。そのため集電極は、幅を狭くするとともに、高さを高くして断面積を大きくすることが求められる。このような集電極は、従来ではスクリーン印刷法などの方法によって形成されてきたが、近年では、電極幅が80μm以下の集電極の形成が求められており、このような幅の集電極をスクリーン印刷法で形成することは困難である。そのため、より電極幅の細い集電極を形成する方法としてオフセット印刷が検討されており、中でも特に凹版オフセット印刷が検討されている。
【0003】
凹版オフセット印刷法は、凹版に形成された溝に導電性ペーストを埋め込み、凹版からシリコーンブランケットなどの中間転写体に導電性ペーストを一旦受理し、被印刷物に転写を行って、被印刷物上に所定形状の導電性ペーストからなる電極パターンを形成する方法である。このような凹版オフセット印刷法において、凹版から中間転写体への導電性ペーストの受理性を高める技術(たとえば、特許文献1参照)や、中間転写体から被印刷物への導電性ペーストの転写性を高める技術(たとえば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
特許文献1には、第一の転写の転写率を向上させるため、導電性ペーストの溶媒として、高沸点溶媒(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)と比較的低沸点を有する低沸点溶媒(2−ブトキシエタノール)の2種類の溶媒を用いることで、凹版から中間転写体への転写率の向上を図る技術が開示されている。これは、凹版の溝内で乾燥が進み、導電性ペーストに含まれる2種類の溶媒のうちの低沸点溶媒が蒸発することで、溝内での導電性ペーストの凝集力が向上するためである。また、高沸点溶媒を低沸点溶媒に適当な分率で混合することで、中間転写体への転写後の乾燥のしすぎを防ぎ、つぎに続く被印刷物への転写時のパイリングを防ぐようにしている。
【0005】
また、特許文献2には、中間転写体からの転写率を確保するため、導電性ペーストにエチルセルロースとアクリル樹脂を重量比で1:9〜9:1としたバインダーを添加することで、パイリングを防ぐ技術が開示されている。この特許文献2では、中間転写体の導電性ペーストが転写される面を、表面エネルギの低いシリコーンゴムとし、導電性ペーストの結着樹脂として、シリコーンゴムとの親和性が高いエチルセルロースと、ガラス基板からなる被印刷物との親和性が高いアクリル樹脂とを組み合わせることによって、凹版から中間転写体への受理性、および中間転写体から被印刷物への転写性のバランスを取っている。
【0006】
また、特許文献3では、エチルセルロースなどの結着用樹脂と、アクリル樹脂からなる転写用樹脂と、20℃での蒸気圧が0.1mmHg以下である低揮発性溶媒と、20℃での蒸気圧が0.5〜5mmHgである高揮発性溶媒とを組み合わせることにより、従来よりも比して細幅で厚みもある電極を、従来に比して生産性を向上させている。
【0007】
しかしながら、体積抵抗率をできるだけ小さくする必要のある太陽電池の電極形成用導電性ペーストにおいては、良好な電気特性を持つ電極得るためには、導電性ペースト中の導体フィラーの体積分率を高め、焼結前後の膜減りを抑制する必要がある。そのため、導電性ペースト内の無機成分が多くなることから、かかる発明では、凝集力に欠け、中間転写体で造膜されず、第二の転写後も中間転写体に残留するといったパイリングが発生するという問題点があった。さらに、中間転写体から被印刷物へ良好に転写させるためには、被印刷物に対する中間転写体の圧力を高くする必要があり、太陽電池に用いられるSi基板の様な強度の低く破損しやすい被印刷物を破損してしまうといった問題点があった。これらの課題点より、凹版オフセット印刷による太陽電池基板への細線印刷は事実上不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−293904号公報
【特許文献2】特許第4801855号公報
【特許文献3】特開2011−103356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明は太陽電池の電極を凹版オフセット印刷法によって形成する場合において、従来に比して中間転写体から被印刷物への転写性が良好であり、基板表面に従来よりも比して細幅で厚みもある電極を形成することができ、さらに印刷時に基板を破損しにくい導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0011】
1.少なくとも、それぞれ異なる樹脂である樹脂バインダー(A)ならびに樹脂バインダー(B)と、導電性粉末(C)、無機バインダー(D)、および有機溶剤(E)を含む導電性ペースト組成物であって、樹脂バインダー(A)がエチルセルロースからなり、樹脂バインダー(B)がポリビニルブチラールからなり、かつ、該樹脂バインダー(A)と該樹脂バインダー(B)の重量比が2:8〜8:2であることを特徴とする導電性ペースト組成物である。
【0012】
2.樹脂バインダー(A)の重量平均分子量(Mw(A))と樹脂バインダー(B)の重量平均分子量(Mw(B))の比Mw(A)/Mw(B)が1以上10以下であることを特徴とする1に記載の導電性ペースト組成物である。
【0013】
3.樹脂バインダー(B)の重量平均分子量が10,000〜60,000であることを特徴とする1又は2に記載の導電性ペースト組成物である。
【0014】
4.樹脂バインダー(A)の重量平均分子量が10,000〜500,000であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0015】
5.有機溶剤(E)の沸点が200℃以上300℃以下であり、かつ溶解度パラメータ(SP値)が8以上、11以下であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0016】
6.導電性粉末(C)が、平均粒子径D50が0.05μm以上10.0μm以下、タップ密度2.
0g/cm3以上7.0g/cm3以下の銀及び/または銅であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0017】
7.導電性粉末(C)と無機バインダー(D)の総重量部100に対し、樹脂バインダー(A)と
樹脂バインダー(B)の総重量部が1.0以上8.0以下であることを特徴とする1〜6のい
ずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0018】
8.無機バインダー(D)が、平均粒子径D50が0.1μm以上〜10.0μm以下の無機粒
子であり、軟化点が350℃以上600℃以下であることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0019】
9.さらにAl、Zn、Pb、Bi、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属粉を導電性粉末(C)の総重量部100に対して10以下を含むことを特徴とする6に記載の導電性ペースト組成物である。
【0020】
10.凹版オフセット印刷で電極を形成する工程に用いられることを特徴とする、1〜9のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【0021】
11.太陽電池セル電極形成に用いられることを特徴とする、1〜10のいずれかに記載の導電性ペースト組成物である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、従来に比して中間転写体から被印刷物への転写性が良好であり、基板表面に従来よりも比して細幅で厚みもある電極を形成することの出来る、すなわち太陽電池の光電変換効率を高めることの出来る導電性ペーストを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳述する。本発明の導電ペーストは、少なくとも、それぞれ異なる樹脂である樹脂バインダー(A)ならびに樹脂バインダー(B)と、導電性粉末(C)、無機バインダー(D)、および有機溶剤(E)を含む導電性ペースト組成物であって、樹脂バインダー(A)がエチルセルロースからなり、樹脂バインダー(B)がポリビニルブチラールからなり、かつ、該樹脂バインダー(A)と該樹脂バインダー(B)の重量比が2:8〜8:2であることを特徴とする導電性ペースト組成物である。
【0024】
樹脂バインダーには、印刷パターンの焼結後に焼失する必要があることと、かつ中間転写体であるシリコーンゴムへ良好に受理されることと、さらに一旦受理した印刷パターンすべてを転写できることが求められる。かかる樹脂の組み合わせとして、樹脂バインダー(A)は中間転写体への受理性や粘度調整などの観点からエチルセルロースが必要であり、中間転写体からの転写性の観点から、樹脂バインダー(B)はポリビニルブチラールである必要がある。
【0025】
樹脂バインダー(A)は、印刷パターンの、凹版から転写体への受理性を向上する効果を発現し、樹脂バインダー(B)は、印刷パターンの、転写体から被印刷物への転写性を向上する効果を発現する。樹脂バインダー(A)と樹脂バインダー(B)の重量比A:Bは2:8〜8:2である。樹脂バインダー(A)が少ない側に外れた導電性ペーストは、当該樹脂バインダー(A)による、印刷パターンの、凹版から転写体への転写性を向上する効果が得られない。また逆に、重量比A:Bが8:2よりも樹脂バインダー(B)の少ない側に外れた導電性ペーストは、当該樹脂バインダー(B)による、印刷パターンの、転写体から被印刷物への転写性を向上する効果が得られない。したがってこのいずれの場合にも、良好な導電性パターンを形成できない。
【0026】
樹脂バインダー(A)の重量平均分子量(Mw(A))と樹脂バインダー(B)の重量平均分子量(Mw(B))の比Mw(A)/Mw(B)は1以上10以下であることが好ましい。Mw(A)/Mw(B)が1未満であれば、印刷パターンの、凹版から転写体への受理性が悪化するといった問題が生じる可能性が有り、逆にMw(A)/Mw(B)が10を超えると、転写体から被印刷物への転写性が悪化するといった問題が生じる可能性が有り、いずれの場合も良好な導電性パターンを形成できない可能性がある。
【0027】
樹脂バインダー(B)の重量平均分子量(Mw(B))は、重量平均分子量が10,000〜60,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000未満であれば、転写体から被印刷物への転写性を向上する効果が十分に発現されない恐れがある。逆に、重量平均分子量が60,000を超えた場合には、導電性ペーストの粘度が高くなり、凹版から転写体への受理性が悪化するといった問題や、樹脂バインダー(B)が有機溶剤(E)に溶解しなくなるといった問題が生じる可能性がある。
【0028】
樹脂バインダー(A)の重量平均分子量(Mw(A))は、重量平均分子量が10,000〜500,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000未満であれば、樹脂バインダー(A)の、凹版から転写体への受理性を向上する効果が十分に発現されない恐れがある。逆に、重量平均分子量が500,000を超えた場合には、導電性ペーストの粘度が高くなり、同様に凹版から転写体への受理性が悪化するといった問題が生じる可能性や、樹脂バインダー(A)が有機溶剤(E)に溶解しなくなる問題が生じる可能性がある。
【0029】
ペーストに含有される有機溶剤(E)は、沸点が200℃以上300℃以下であり、かつSP値が8.0以上、11.0以下であることが好ましく、有機溶剤(E)の好ましい配合量は、導電性粉末(C)と無機バインダー(D)の総重量部100に対し5.0以上25.0以下である。有機溶媒(E)は1種類でもよく、2種類以上を使用してもよい。2種類以上を使用する場合、上記範囲内の沸点及びSP値を有する有機溶媒がペースト全溶剤中の70重量%以上を占めることが好ましい。有機溶剤(E)の沸点が200℃未満では印刷時に乾燥しやすくなって、導電性ペーストが経時変化を起こしやすくなるといった問題が発生する場合があり、逆に300℃を超えると導電パターンの乾燥が困難になり、ペーストを連続で重ね印刷する際の導電パターンの太りが発生する恐れがある。さらに、連続印刷時にはシリコーンブランケットに含浸された溶剤をできるだけ速やかに揮散させる必要があるため、前記溶剤としては沸点が300℃以下の溶剤を用いることが好ましい。
【0030】
凹版オフセット印刷法は、凹版に形成された溝に導電性ペーストを埋め込み、凹版からシリコーンブランケットなどの中間転写体に導電性ペーストを一旦受理し、被印刷物に転写を行って、被印刷物上に所定形状の導電性ペーストからなる電極パターンを形成する方法である。印刷初期の段階からシリコーンブランケットの使用寿命に至るまでの間、安定して良好な印刷をするためには、溶剤がシリコーンブランケットに適度に含浸される必要があり、そのためには溶剤として、溶解度パラメータ(SP値)が8.0以上11.0以下の範囲内であるものを用いる必要がある。すなわち、印刷初期の段階から溶剤をシリコーンブランケットに比較的速やかに含浸させ、それによってシリコーンブランケットの表面を適度な膨潤状態として、特に再転写の工程において転写不良を生じたりするのを防止し、予備印刷の回数をできるだけ少なくすることを考慮すると、溶剤としては、溶解度パラメータ(SP値)が11.0以下である溶剤を用いる必要がある。また、SP値が11.0を超えるとシリコーンゴムの膨潤率が小さいことから中間転写体であるシリコーンゴムからのペースト転写性が悪化し、良好な導電パターンを得られないといった問題が生じる。一方、溶剤のSP値が8.0未満では、中間転写体であるシリコーンゴムの溶媒膨潤が大きすぎ、被印刷物への転写性が悪化する問題が生じる。
【0031】
溶解度パラメータ(SP値)が8.0以上11.0以下で沸点が200℃以上300℃以下の溶剤としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3−ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール−2−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエテールアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコール-n−ブチルエーテル、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、γ−ブチロラクトン、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート、トリアセチン等が挙げられる。
【0032】
導電性粉末(C)は、凹版オフセット印刷用導電ペーストの印刷適性を向上すると共に、電極パターン中での充填率を高めて、前記電極パターンの導電性を向上すること等を考慮すると、50%平均粒径D50が0.05〜10.0μm、特に0.1〜5.0μmであることが好ましい。また、導電性粉末の形状は球状であることが焼結後に良好な電気特性を得られることから好ましい。導電性粉末の材質としては、導電性が良好であり比較的安価である銀または銅を用いることができる。タップ密度2.0g/cm3以上7.0g/cm3であり、好ましくは4.0g/cm3以上6.0g/cm3以下である。2.0g/cm3未満では、導電性粉末の密度が低下することにより電極の抵抗値が高くなる問題が発生する。逆に7.0g/cm3を超えると、導電性粉末の分散性が低下する恐れがある。また、導電性粉末は電気特性や印刷特性改善のため、複数の種類を組み合わせて用いてもよい。導電性粉末(C)としては、金属粉末が好適に使用され、なかでも銀粉末及び/または銅粉末がより好適に使用される。上記銀粉末及び/または銅粉末を使用する場合、印刷性の改善または導電パターンの電気特性改善のために、前記各成分に加えて、さらにAl、Zn、Pb、Bi、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、Crから選ばれる1種以上の金属粉を添加してもよい。その場合、金属粉の添加量は導電性を維持するために導電性粉末(C)の総重量部100に対して10.0重量部以下とすることが好ましい。
【0033】
導電性粉末(C)と無機バインダー(D)の総重量部100に対し、樹脂バインダー(A)と樹脂バインダー(B)の総重量部は1.0以上8.0以下であり、好ましくは2.0以上6.0以下である。樹脂バインダー(A)と樹脂バインダー(B)の総重量部が1.0未満であれば、導電性粉末同士を結合させるバインダーとしての結着樹脂の結合力が弱まるために凹版オフセット印刷時の印刷性が低下するおそれがある。一方、樹脂バインダー(A)と樹脂バインダー(B)の総重量部が8.0を超えた場合には、導電性粉末の充てん密度が低下して、印刷パターンのかすれや、導電性低下のおそれがある。
【0034】
無機バインダー(D)としては、粒子状のものが好ましく、焼成後に導電性粉末を焼成させ電極形状を保つと共に、電極と被印刷物との密着性を確保できる金属酸化物ガラスフリットが好適に使用される。用いるガラスフリットの軟化点は350〜600℃の範囲内である。ガラスフリットの軟化点が低すぎると、導電性ペーストを焼成するに際し、ガラスの粘度が低くなりすぎ、受光面電極−半導体基板界面に過剰なガラスが留まり、その結果、ガラスが両者の接触を著しく阻害するおそれがある。他方、ガラスフリットの軟化点が高すぎると、導電性ペーストを焼成するに際し、ガラスの粘度があまり低下しなくなる。そのため、反射防止膜が十分に除去されず、受光面電極と半導体基板との接合が不十分となり、かつ両者の接着強度が著しく低下するおそれがある。このようなガラスフリットとして、具体的には、酸化鉛、ホウケイ酸ガラス、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ビスマスなどの金属酸化物を含有するガラスから選択される1種または2種以上のガラス粉末が望ましい。ガラスフリットの平均粒径(D50)については、導電性粉末と同じ理由から、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
まず、下記の各成分を十分にかく拌、混合したのち、3本ロールで混練して導電性ペーストを作製した。
(重量部)
銀粉末 95.0
ガラスフリット 5.0
エチルセルロース 2.0
ポリビニルブチラール 2.0
ブチルカルビトールアセテート 24.0

なおエチルセルロースとしては、ダウケミカル社製の商品名エトセルSTD10(エトキシル基の含有割合:48〜50%、重量平均分子量Mw:75,000)を用いた。またポリビニルブチラールとしては、積水化学工業(株)製の商品名エスレックBL−1(重量平均分子量Mw:19,000)を用いた。銀粉末としては、平均粒径(D50)が0.8μmで、タップ密度が5.3g/cm3で球状のものを用いた。さらにガラスフリットとしては平均粒径3.0μmで、軟化点が470℃の酸化鉛ガラスを用いた。ブチルカルビトールアセテートはキシダ化学(株)製のものを用いた。
【0037】
被印刷物として、15cm角、厚さ200μmで、テクスチャを形成、SiNx反射防止膜が製膜されたSi基板を用いた。この基板上に、下記の凹版、および中間転写体としてのシリコーンブランケットを使用した凹版オフセット印刷法によって、上記の導電性ペーストを印刷した。印刷速度は、凹版からシリコーンブランケットへの転写速度を40mm/秒、シリコーンブランケットからSi基板への転写速度を40mm/秒に設定した。印刷後、120℃で有機溶媒の乾燥を行い、電極パターンを形成した。凹版は、銅表面に幅50μm、深さ15μmの直線を、2mmのピッチでストライプ状にエッチングし、その上にクロムメッキが施されたものを用いた。シリコーンブランケットは、スプリング式硬さ(JIS A硬さ)が45°の、(株)金陽社製『(商品名)シルブラン』を用いた。
【0038】
上記各実施例、比較例の、導電性パターンの形成工程のうち凹版オフセット印刷工程において、印刷パターンの凹版からシリコーンブランケットへの受理性、印刷パターンのシリコーンブランケットから基板への転写性を目視にて検査し、下記の基準で評価した。
【0039】
(受理性)
○:全ての回で、導電パターンの受理が断線なく行われた。受理性良好。
△:シリコーンブランケットに受理された導電性パターンの一部に断線や細りが生じた。受理性やや不良。
×:導電性パターンがシリコーンブランケットに全く受理されなかった。受理性不良。
【0040】
(転写性)
◎:全ての回で、導電性パターンの転写が完全に行われた。転写性良好。
○:導電性パターンの一部が転写されなかったり、僅かにシリコーンブランケットへ導電性パターンの残留が見られる回があった。転写性やや良好。
△:導電性パターンの大半が転写されず、シリコーンブランケットへ導電性パターンの多くが残留した。転写性やや不良。
×:導電性パターンが全く転写されなかった。転写性不良。
【0041】
実施例2〜17、比較例1〜6
エチルセルロースならびにポリビニルブチラール、銀粉末とガラスフリットおよび溶剤を、表1に示した重量平均分子量、配合量(重量部)で配合したこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、導電性パターンを形成した。
以上の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表より、エチルセルロースとポリビニルブチラールの重量比が2:8よりエチルセルロース側が少ない比較例5、6では凹版からシリコーンブランケットへの転写性が悪化し、逆にエチルセルロースとポリビニルブチラールの重量比が8:2よりポリビニルブチラール側が少ない比較例2、3では、シリコーンブランケットからSi基板への転写性が悪化し、どちらも良好な転写性を得ることができなかった。銀粉末とガラスフリットとの総重量部100に対し、エチルセルロースとポリビニルブチラールとを重量比で2:8〜8:2の割合で併用した実施例1〜17はいずれも、基板への導電パターンの転写性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる導電性ペーストは、太陽電池に使用される基板への微細電極印刷が容易であり、それによる太陽電池の高効率化も可能であることから、産業界に大きく寄与することが期待される。