(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒ素濃度が質量比で2.0ppm以上の第1の石炭と、前記第1の石炭以外の1種又は2種以上のその他の石炭とを含む、複数種類の石炭を混合して燃焼させることで、石炭の燃焼残渣からのヒ素の溶出を抑制するヒ素溶出抑制方法であって、
混合後の全石炭中における、全ヒ素量に対する、酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P0が2000以上となるように混合するヒ素溶出抑制方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:石炭火力発電プラントにおける微粉炭燃焼施設の構成>
以下、本発明の一例を示す実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明が適用される石炭火力発電プラントにおける微粉炭燃焼施設1を示すブロック図である。ここで、
図1に示すように、微粉炭燃焼施設1は、石炭を供給する石炭供給部12と、供給された石炭を微粉炭にする微粉炭生成部14と、微粉炭を燃焼する微粉炭燃焼部16と、微粉炭の燃焼により生成された石炭灰を処理する石炭灰処理部18と、を備える。
【0015】
<A−1:石炭供給部>
石炭供給部12は、石炭を貯蔵する石炭バンカ121と、この石炭バンカ121に貯蔵された石炭を供給する給炭機122と、を備える。石炭バンカ121は、給炭機122へ供給する石炭を貯蔵する。この石炭バンカ121は、例えば、互いに区画された複数の貯炭槽を備えて構成され、複数の貯炭槽には、それぞれ、異なる炭種の石炭を貯蔵して管理できる。給炭機122は、石炭バンカ121から供給された石炭を連続して石炭微粉炭機123へ供給する。また、この給炭機122は、石炭の供給量を調整する装置を備えており、これにより、石炭微粉炭機123に供給される石炭量が調整される。また、これら石炭バンカ121と給炭機122との境界には石炭ゲートが設けられており、これにより、給炭機からの空気が石炭バンカへ流入するのを防いでいる。
【0016】
<A−2:微粉炭生成部>
微粉炭生成部14は、石炭を微粉炭燃焼が可能な微粉炭にする石炭微粉炭機(ミル)141と、この石炭微粉炭機141に空気を供給する空気供給機142と、を備える。
【0017】
石炭微粉炭機141は、給炭機122から給炭管を介して供給された石炭を、微細な粒度に粉砕して微粉炭を形成するとともに、この微粉炭と、空気供給機142から供給された空気とを混合する。このように、微粉炭と空気とを混合することにより、微粉炭を予熱及び乾燥させ、燃焼を容易にする。形成された微粉炭には、エアーが吹きつけられて、これにより、微粉炭燃焼部16に微粉炭を供給する。
【0018】
石炭微粉炭機141の種類としては、ローラミル、チューブミル、ボールミル、ビータミル、インペラーミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく微粉炭燃焼で用いられるミルであればよい。
【0019】
<A−3:微粉炭燃焼部>
微粉炭燃焼部16は、微粉炭生成部14で生成された微粉炭を燃焼する火炉161と、この火炉161を加熱する加熱機162と、火炉161に空気を供給する空気供給機163と、を備える。
【0020】
火炉161は、加熱機162により加熱されて、石炭微粉炭機141から微粉炭管を介して供給された微粉炭を、空気供給機163から供給された空気とともに燃焼する。火炉161において、微粉炭が燃焼されることにより石炭灰が生成される。火炉161において生成される石炭灰は、排ガスとともに浮遊粒子として石炭灰処理部18側に移動するフライアッシュと、複数の粒子が相互に凝集することで火炉161の底部に落下堆積するクリンカアッシュとに大別される。
【0021】
図2を参照して、火炉161について詳しく説明すると、
図2において、火炉161は全体として略逆U字状をなしており、図中矢印に沿って燃焼ガスが逆U字状に移動した後、再度小さくU字状に反転し、火炉161の出口(
図2における矢印の最後)は、
図1における脱硝装置181、集塵機182に接続されている。本実施形態に係る微粉炭燃焼施設1においては、火炉161の高さは30mから70mであり、排ガスの流路の全長は300mから1000mに及ぶ。
【0022】
火炉161の下方には、火炉161内のバーナーゾーン161a’付近で微粉炭を燃焼するためのバーナ161aが配置されている。また、火炉161内のU字頂部付近には、火炉上部分割壁161b、最終過熱器161b’、第1の再熱器161f(いずれも熱交換ユニット)が配置されており、更にそこから横置き1次過熱器161c(熱交換ユニット)が続いて配置されている。更に、横置き1次過熱器161cと平行して第2の再熱器161f’が設けられており、横置き1次過熱器161cの終端付近からは、1次節炭器161d(熱交換ユニット)、2次節炭器161e(熱交換ユニット)が2段階に設けられている。ここで、節炭器(ECOとも呼ばれる)は、燃焼ガスの保有する熱を利用してボイラ給水を予熱するために設けられた伝熱面群である。なお、本実施形態においては、火炉161中、1次節炭器161dと2次節炭器161eとは、2段階に分離して設置されているが、このような形態に限定されない。即ち、火炉161は単一の節炭器のみを有するものであってもよい。
【0023】
<A−4:石炭灰処理部>
石炭灰処理部18は、微粉炭燃焼部16から排出された排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置181と、排ガス中の煤塵(石炭灰)を除去する集塵機182と、この集塵機182で収集された石炭灰を一次貯蔵する石炭灰回収サイロ183と、を備える。
【0024】
脱硝装置181は、排ガス中の窒素酸化物を除去する。即ち、比較的高温(300〜400度)の排ガス中に還元剤としてアンモニアガスを注入し、脱硝触媒との作用により排ガス中の窒素酸化物を無害な窒素と水蒸気に分解する、いわゆる乾式アンモニア接触還元法が好適に用いられる。
【0025】
集塵機182は、排ガス中の石炭灰を電極で収集する装置である。この集塵機182により収集された石炭灰は、石炭灰回収サイロ183に搬送される。また、石炭灰が除去された排ガスは、図示しない脱硫装置を介した後に煙突から排出される。
【0026】
石炭灰回収サイロ183は、集塵機182により収集された石炭灰を一次貯蔵する。
【0028】
燃料として用いられる石炭は、主成分である炭素の他、灰分としてケイ素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等を含む。また、石炭には、セレン、フッ素、ホウ素、ヒ素等の有害な元素が微量ながら含まれる。
ここで、石炭に含まれる各種成分は、炭種によって大きく異なる。そのため、燃料として用いる石炭の種類によっては、燃焼残渣である石炭灰から溶出する有害な元素の濃度が上昇し、環境に影響を与えてしまうおそれがある。
【0029】
これに対して、石灰石等のカルシウム含有物質を添加剤として添加することで、石炭に含まれるヒ素等の微量物質を、燃焼残渣である石炭灰から溶出しにくくする微量物質の溶出抑制方法が提案されている。しかしながら、石炭に添加剤を添加して燃焼させる場合、石炭の量に比して添加剤の量が少ないため、石炭と添加剤とを均一に混合した状態で燃焼させることが困難となる場合が生じ、燃焼残渣からの有害な元素の溶出抑制効果が安定しないおそれがある。
【0030】
本発明者らは、石炭の炭種によって各種成分の含有率が大きく異なることに着目するとともに、燃焼させる石炭に含まれる全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比が所定の範囲内である場合に石炭灰からのヒ素の溶出が抑制されることを見出し、ヒ素濃度の高い石炭を用いた場合であっても、この石炭を特定の成分組成を満たす他の石炭と混合して燃焼させることで、安定的に燃焼残渣からのヒ素の溶出を抑制できる本発明に到達した。
【0031】
より具体的には、本発明のヒ素溶出抑制方法は、ヒ素濃度が質量比で2.0ppm以上の第1の石炭と、前記第1の石炭以外の1種又は2種以上のその他の石炭とを含む、複数種類の石炭を混合して燃焼させることで、石炭の燃焼残渣(石炭灰)からのヒ素の溶出を抑制するヒ素溶出抑制方法であって、混合後の全石炭中における、全ヒ素量に対する、酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0(P
0=酸化物換算の全アルカリ土類金属量/全ヒ素量)が2000以上となるように混合するものである。以下、本発明を上記の微粉炭燃焼施設1を用いて説明する。
【0032】
本発明のヒ素溶出抑制方法は、石炭を供給する石炭供給工程S10と、供給された石炭を粉砕して微粉炭を生成する微粉炭生成工程S20と、この微粉炭を燃焼して石炭灰を生成する微粉炭燃焼工程S30と、この石炭灰を集塵しこれを収容する石炭灰処理工程S40とを含み、これら各工程は、それぞれ、上述の微粉炭燃焼施設1の石炭供給部12、微粉炭生成部14、微粉炭燃焼部16、及び石炭灰処理部18、において行われる。
そして、本発明の特徴である複数種類の石炭の混合は、好ましくは上記の石炭供給工程S10において行われる。
【0033】
<石炭供給工程S10>
まず、石炭供給工程S10では、石炭バンカ121に貯蔵された石炭が、給炭機122により、石炭微粉炭機141に供給される。
本発明では、石炭微粉炭機141には、混合後の全石炭中における、全ヒ素量に対する、酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0(P
0=酸化物換算の全アルカリ土類金属量/全ヒ素量)が2000以上となるように複数種類の石炭が混合されて供給される。
【0034】
石炭供給工程S10における石炭の混合は、例えば、石炭バンカ121における複数の貯炭槽に、ヒ素濃度が質量比で2.0ppm以上の第1の石炭を含む複数種の石炭を貯蔵しておき、第1の石炭を貯炭槽から払い出す場合に、他の貯炭槽に貯蔵されている石炭を、第1の石炭に対して所定の割合となるように同タイミングで払い出し、これら第1の石炭及び他の石炭をベルトコンベア上等で合流させて石炭微粉炭機141に供給することで行われる。これにより、石炭微粉炭機141には、複数種類の石炭が略均等な比率で供給される。
【0035】
第1の石炭としては、ヒ素濃度が質量比で2.0ppm以上と高く、従来、火力発電プラントにおいては、燃料として使用することが困難であった炭種を用いることができる。そのなかでも、本発明では、第1の石炭として、ヒ素量に対する、酸化物換算のアルカリ土類金属量の質量比P
1(P
1=酸化物換算のアルカリ土類金属量/ヒ素量)が2000未満である、比較的アルカリ土類金属量の少ない石炭も用いることができる。
【0036】
その他の石炭としては、第1の石炭と混合した場合に、混合後の石炭における全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0(P
0=酸化物換算の全アルカリ土類金属量/全ヒ素量)を好適な範囲に保つ観点から、全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
2(P
2=酸化物換算の全アルカリ土類金属量/全ヒ素量)が2000以上である石炭を用いることが好ましい。
【0037】
また、複数種類の石炭を均一に混合しやすくする観点から、混合後の石炭中に含まれる第1の石炭の割合は、質量比で10%以上90%以下であることが好ましい。
【0038】
また、上述の質量比P
2とP
1の差(ΔP=P
2−P
1)は、1000以上であることが好ましい。第1の石炭に対して、ΔPが100以上となるような組み合わせで他の石炭を選択することで、第1の石炭を燃料として用いた場合において、石炭灰からのヒ素の溶出を効果的に抑制できる。
【0039】
<微粉炭生成工程S20>
次に、微粉炭生成工程では、給炭機122から供給された石炭が石炭微粉炭機141により粉砕されて、これにより、微粉炭が生成される。生成された微粉炭は、火炉161に供給される。このとき、この微粉炭生成工程で粉状に形成された微粉炭の平均の粒度は、微粉炭燃焼で一般的に用いられる粒径範囲であればよく、一般的には、74μmアンダー80wt%以上の粉砕度である。
【0040】
<微粉炭燃焼工程S30>
次に、微粉炭燃焼工程では、石炭微粉炭機141で生成された微粉炭が、火炉161により燃焼される。この微粉炭燃焼工程で生成される石炭灰(フライアッシュ)は、通常、その平均の粒度が1μmから100μmの範囲内の粉末状である。
【0041】
<石炭灰処理工程S40>
その後、微粉炭を燃焼することにより生成された石炭灰は、排ガスとともに脱硝装置181に排出され、集塵機182を経て石炭灰回収サイロ183に送られる。
【0042】
以上の工程を経て石炭灰回収サイロ183に回収された石炭灰は、ヒ素の溶出量が低く抑えられたものとなる。これは、石炭中に含まれるアルカリ土類金属元素が火炉161内の高温によって石炭灰の表面を軟化させ、粘性をもった石炭灰粒子がヒ素と接触してヒ素を石炭灰の内部に取り込むことに起因すると推定される。
また、本実施形態では、炭種毎に異なるアルカリ土類金属含有量及びヒ素含有量に着目し、複数種類の石炭を混合することで、安定的にヒ素の溶出を抑制できる。これは、石灰石等を添加剤として添加する場合に比して、より均一にアルカリ土類金属を分布させられることに起因すると考えられる。この効果は、混合後の石炭中に含まれる第1の石炭の割合を質量比で10%以上90%以下とすることでより向上させられる。
なお、混合後の全石炭中における全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0(P
0=酸化物換算の全アルカリ土類金属量/全ヒ素量)を調整するために、石灰石等からなるヒ素溶出防止剤を少量添加してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。
[炭種毎の成分組成]
以下の表1〜表4に示す36種類の石炭1〜石炭36につき、灰分中のアルカリ土類金属(酸化カルシウム及び酸化マグネシウム)量、灰分率、石炭中のヒ素量を測定した。また、全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0を求めた。表1〜表4に示すように、炭種によって、各種成分の含有量は大きく異なることが分かる。
【0044】
尚、石炭中のヒ素濃度は、前処理後、ICP質量分析法により、元素分析を行って求めた。また、石炭中のアルカリ土類金属量は、石炭中の灰分率を求めた後、灰分組成を蛍光X線分析法により分析し、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムの総量として求めた。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
[石炭灰からのヒ素の溶出試験]
<実施例1〜11、比較例1〜9>
表5、7、9、11に示すように、第1の石炭とその他の石炭とを選択した。そして、上述の石炭供給部12において、表6、8、10、12に示す混炭割合で2種類の石炭を混合し、微粉炭燃焼部16で燃焼させた。その後、石炭灰回収サイロ183で回収された石炭灰について、ヒ素の溶出濃度を測定した。結果を表6、8、10、12に示す。
【0050】
なお、以下に示す溶出濃度の測定結果は環境庁告示46号による溶出操作を行い、検液を作成し、この検液中のヒ素の濃度を測定したものである。また、ヒ素の濃度測定は、ICP質量分析法で行った。
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
【表11】
【0058】
【表12】
【0059】
表5から12に示すように、混合後の全石炭中における、全ヒ素量に対する、酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0が2000以上の実施例1〜11では、P
0が2000未満の比較例1〜9に比して、ヒ素の溶出濃度が0.020mg/l未満に抑制されていることが分かる。特に、P
0が6000以上の実施例1〜4では、ヒ素の溶出濃度が0.010mg/l未満に大きく抑制されていることが分かる。
【0060】
[石炭灰からのヒ素の溶出試験2]
石炭火力発電プラントにおける微粉炭燃焼によるフライアッシュに近い性状の石炭灰を、小型燃焼試験装置を用いて生成し、この生成された石炭灰からのヒ素の溶出につき、更に検討を行った。
【0061】
<実施例13、比較例9>
以下の表13に示す2種類の石炭37及び石炭38につき、灰分中のアルカリ土類金属(酸化カルシウム及び酸化マグネシウム)量、灰分率、石炭中のヒ素を測定した。また、全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比Pを求めた。
【0062】
【表13】
【0063】
[石炭灰の生成]
表14に示すように、石炭37を第1の石炭とし石炭38をその他の石炭として、同じく表14に示す混炭割合で2種類の石炭を混合し、小型燃焼試験装置で燃焼させ、生成された石炭灰を回収した。
【0064】
小型燃焼試験装置として、内径が50mmΦ×1200mmLのジルコニア製の燃焼管を備える縦型管状炉を使用した。
試験に用いる石炭は、まず、微粉炭の状態で規定温度(107℃±2℃)に調節してある乾燥装置に入れ、乾燥減量が1時間につき0.1%未満となるまで乾燥を続けた。その後、乾燥した微粉炭を所定の割合で混合した。次いで、燃焼管の上部に配置したステンレス製燃料ホッパーに混合した微粉炭を充填し、電動スクリューフィーダーにより1450℃に加熱した燃焼管の上部に2g/minで供給して燃焼させた。微粉炭の燃焼管への供給は窒素ガスの燃焼管への供給と共に行い、これにより、燃焼管の内部での逆火を防止した。また、燃焼用空気(大気)を燃焼管の上部及び下部の二箇所から、200cc/minで供給した。
燃焼管の内部で燃焼されて生成された石炭灰は、燃焼管の下部側面から吸引して採取した。そして、回収された石炭灰について、ホウ素の溶出濃度を測定した。結果を表14に示す。
尚、結果は、実施例12の溶出濃度を100とした場合の相対値で示す。
【0065】
【表14】
【0066】
表13及び表14の結果から、小型燃焼試験装置を用いて簡易的に生成した石炭灰においても、混合後の全石炭中における、全ヒ素量に対する酸化物換算の全アルカリ土類金属量の質量比P
0が大きい実施例12では、P
0が2000未満の比較例10に比して、ヒ素の溶出濃度が抑制されていることが確認された。