(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の溶射補修においては、被補修面の状態によって溶射材の吐出量を調整することで作業効率が格段に高まることがある。例えば、煉瓦の目地や亀裂などの小さい範囲を高い精度で補修する場合、吐出量を少なくすることで作業効率を高めることが可能になる。一方、比較的広範囲の摩耗や剥離を補修する場合、吐出量を多くすることで短時間での溶射補修が可能になる。
【0008】
溶射材等の粉粒体を搬送する粉粒体輸送装置における粉粒体の吐出量の制御方法として、定量切り出し装置などを用いてエジェクターへの粉粒体の供給量を制御する手法が考えられる。しかしながら、溶射の場合、エジェクターの能力に対して粉粒体である溶射材の供給量が極端に低下すると溶射材の流れが不安定になり、摩擦等による発火を生じやすくなる。また、定量切り出し機構の設置により粉粒体輸送装置自体の構造が複雑になるという問題もある。
【0009】
また、定量切り出し装置等を用いない吐出量の制御方法としては、例えば、エジェクターノズルからデフューザーに向かって噴出される搬送用ガスの流速を変化させる方法、エジェクターノズル径を変化させたり、デフューザー径を変化させたりする方法、エジェクターより下流における配管の径や長さを変化させる方法等が考えられる。
【0010】
エジェクターノズルからデフューザーに向かって噴出される搬送用ガスの流速を変化させる手法では、例えば、搬送用ガス流速を高めることで粉粒体の吐出量を増大させることができる。このような搬送用ガス流速の調整は、搬送用ガス流量の調整で実現可能である。しかしながら、エジェクター方式の場合、粉粒体の吐出量の変化は搬送用ガス量の変化に比較して小さい。すなわち、搬送用ガス流量を増やして粉粒体の吐出量を増加させた場合、搬送用ガス量に対する粉粒体の量の比(粉粒体量/搬送用ガス量)が低下する。これに対し、溶射の場合、適正な溶射施工体を得るための、搬送用ガス量に対する溶射材の量の比は溶射材吐出量が多くなる程大きくなる。したがって、搬送用ガス量を変化させて溶射材の吐出量を変化させる場合、好適な溶射条件を満足させることができなくなる。
【0011】
一方、エジェクターノズル径を変化させる手法では、搬送用ガスの流速を変化させることができ、デフューザー径を変化させる手法では、エジェクター効果の作用量に影響を与えることができる。そのため、粉粒体の吐出量を制御することができる。しかしながら、この手法により粉粒体の吐出量を変えるためには、一旦粉粒体の搬送(すなわち、溶射作業)を停止し、エジェクター部を分解して部品を交換する必要があり、煩雑な作業となる。また、目的の粉粒体吐出量に応じたエジェクターノズルやデフューザーをあらかじめ用意する必要があり、非効率的であった。
【0012】
さらに、エジェクターより下流における配管の径や長さを変化させる手法では、例えば、エジェクターに接続されるホースの長さや、ホースに接続するランスの長さを長くしたり、ホースの内径や、ランスの粉粒体吐出孔の内径を細くしたりすることで吐出量を低下させることができる。また、エジェクターより下流側の粉粒体搬送経路に接続できる内径の異なるいくつかの抵抗部材を準備し、目的に応じて適正な径の抵抗部材を選択して配管に配置することで吐出量を低下させることもできる。しかしながら、この手法であっても、粉粒体の吐出量を変えるためには、一旦粉粒体の搬送を停止し、ホースやランス等の配管を交換する必要があり、煩雑な作業となる。また、目的の粉粒体吐出量に応じた部材をあらかじめ用意するが必要があり、非効率的であった。加えて、溶射では、配管部材の径や長さは作業上の取り扱いから制約があり、大幅に変更することは困難である。
【0013】
以上のように、エジェクター方式による粉粒体輸送において、粉粒体吐出量の制御を簡便に行える方法は存在しなかった。
【0014】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、エジェクター方式による粉粒体輸送において、簡便な制御により、広い範囲で粉粒体の輸送量を変更でき、流体/粉粒体比も広範囲で調整できる、粉粒体輸送装置及び粉粒体輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らはエジェクター方式における粉粒体輸送量の制御方法について検討し、エジェクターノズルに供給する搬送用流体に加えてエジェクターより下流の配管から調整用流体を導入することで粉粒体吐出量が減少し、また、それぞれの流体の流量比を調整することで粉粒体輸送量を制御できること見いだした。エジェクター方式を使用して粉粒体輸送を行う際、一般的には、搬送用流体の量を小さく抑えるとともに、搬送される粉粒体を多くする方法が検討されてきた。これに対し、本発明は、このような一般常識とは逆の発想で、あえて粉粒体輸送量を小さくしようとするものである。
【0016】
すなわち、本発明に係る粉粒体輸送装置は、粉粒体を搬送用流体とともに搬送する粉粒体輸送装置であって、エジェクター及び複数の調整用流体導入部を備える。エジェクターはエジェクターノズルを備え、エジェクターノズルから搬送用流体を高速で噴出して、エジェクター効果により搬送用流体と粉粒体とを混合して下流側へ送出する。複数の調整用流体導入部は、エジェクターの下流側に設けられ、搬送用流体に混合される
流体であって搬送用流体との混合により粉粒体の輸送量を制御する調整用流体を導入する。
【0017】
この粉粒体輸送装置では、調整用流体導入部から調整用流体を導入することで、粉粒体輸送量を制御することができる。そのため、目的の輸送量に合わせた調整用配管部材等の変更を実施する必要がなく、これらの部材をあらかじめ用意する必要もない。また、粉粒体の輸送を中断することなく輸送量を制御することが可能である。
【0018】
上記粉粒体輸送装置では、エジェクターの上方に、搬送用流体に混合される粉粒体が収容されるホッパーを設けることができる。また、
1又は複数の調整用流体導入部へ調整用流体を供給する
複数の調整用流体導入管
のそれぞれには、
調整用流体の導入及び導入停止を切り替える開閉弁を備えることが好ましい。
【0019】
一方、他の観点では、本発明は、粉粒体を搬送用流体とともに搬送する粉粒体輸送方法を提供することもできる。すなわち、本発明に係る粉粒体輸送方法では、まず、エジェクターノズルを備えるエジェクターにおいて、エジェクターノズルから搬送用流体が高速で噴出され、エジェクター効果により混合された搬送用流体と粉粒体とが下流側へ送出される。そして、エジェクターの下流側に
設けられた複数の調整用流体導入管を通じて、搬送用流体に混合される調整用流体を導入され、粉粒体の輸送量が制御される。
【0020】
この粉粒体輸送方法において、搬送用流体の流量に対する
、複数の調整用流体導入管から導入される調整用流体の総流量の比Rは、例えば、0<R≦1.5の範囲とすることができる。より好ましくは、0<R≦1.0の範囲である。このような範囲とすることで、粉粒体輸送量が著しく減少して、輸送が不可能になることを避けることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エジェクター方式による粉粒体輸送において、簡便な制御により、広い範囲で粉粒体の輸送量を変更することができ、また、流体/粉粒体比も広範囲で調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下の実施形態では、金属シリコン粉末及び耐火性の粉粒体の混合物で構成された溶射材(粉粒体)を酸素ガス(搬送用流体)とともに搬送し、各種工業炉等の被施工体に吹き付けて溶射体を得る粉粒体輸送装置により本発明を具体化している。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態における粉粒体輸送装置を示す概略図である。
図1に示すように本実施形態の粉粒体輸送装置100は、固気混合部としてエジェクター3を備えるエジェクター式輸送機構により構成されている。
【0025】
エジェクター3は、エジェクターノズル4と、当該エジェクターノズル4に対向して配置された、下流方向に向かって拡開するデフューザー(混合管)5とを備える。エジェクターノズル4は、その先端からデフューザー5に向けて高速で流体を噴射する。当該噴射流体による吸引作用(エジェクタ効果)により、流体噴射方向と交差する方向(ここでは上方)に配置された吸引口6から粉粒体を吸引する。エジェクターノズル4から噴射された流体と吸引された粉粒体はデフューザー5において混合され、下流側へ送出される。
【0026】
本実施形態では、吸引口6には、ホッパー1が接続されており、当該ホッパー1内に金属シリコン粉末及び耐火性の粉粒体の混合物で構成された溶射材(粉粒体)が収容される。溶射材の供給と停止はホッパー1の下端に設けられたシャッター2の開閉により切り替えることができる。
【0027】
デフューザー5の下流側に配置されたエジェクター3の吐出口にはホース7aが接続され、当該ホース7aの他端に第1調整用流体導入部8が接続されている。また、第1調整用流体導入部8の下流側端部にはホース7bが接続され、当該ホース7bの他端に第2調整用流体導入部9が接続されている。さらに、第2調整用流体導入部9の下流側端部にはホース7cが接続され、当該ホース7cの他端に、先端にT字型のランスチップ10aを備える溶射ランス10が接続されている。なお、
図1では、説明のため、エジェクター3、ホース7a、第1調整用流体導入部8、ホース7b、第2調整用流体導入部9及びホース7cは、断面図として表示している。なお、ホース7a、ホース7b及びホース7cには、粉粒体輸送装置に使用される公知の任意のホースを使用することができる。
【0028】
エジェクターノズル4には、エジェクター3から溶射ランス10へ溶射材を搬送する搬送用流体を構成する支燃性ガスをエジェクターノズル4へ供給する搬送用流体供給系が接続されている。特に限定されないが、本実施形態では、搬送用流体として酸素(純酸素)ガスを使用している。そのため、搬送用流体供給系は、酸素ガスを収容するタンク17及び当該タンク17内の酸素ガスをエジェクターノズル4へ供給する搬送用流体導入管11を備える。搬送用流体導入管11には、上流側から順に、圧力計16、圧力調整器15、流量調整器付流量計14、圧力計13及び開閉弁12が設けられている。これにより、所定流量(所定圧力)の酸素ガスをタンク17からエジェクターノズル4に供給することができる。なお、開閉弁12を設けることなく、例えば、流量調整器付流量計14の流量を低下させることにより、搬送用酸素ガスの導入及び導入停止を切り替えることも可能であるが、応答性の観点から開閉弁12を設けることが好ましい。
【0029】
一方、第1調整用流体導入部8には、上述の搬送用流体に混合される調整用流体を第1調整用流体導入部8へ供給する調整流体供給系が接続されている。調整用流体は、搬送用流体に混合されることで搬送用流体と一体となって、溶射材を下流側へ搬送する。特に限定されないが、本実施形態では、搬送用流体として酸素(純酸素)ガスを使用している。また、本実施形態では、当該酸素ガスを上述のタンク17から供給する構成になっている。すなわち、第1調整用流体導入部8の分岐端(調整用流体が導入される端部)には、上述の圧力調整器15と流量調整器付流量計14との間に他端が接続された第1調整用流体導入管21が接続されている。当該第1調整用流体導入管21には、上流側から順に、流量調整器付流量計24、圧力計23及び開閉弁22が設けられている。これにより、所定流量(所定圧力)の酸素ガスを、タンク17から第1調整用流体導入部8に供給することができる。
【0030】
同様に、第2調整用流体導入部9には、上述の搬送用流体に混合される調整用流体を第2調整用流体導入部9へ供給する調整流体供給系が接続されている。特に限定されないが、本実施形態では、搬送用流体として上述のタンク17から供給される酸素(純酸素)ガスを使用している。すなわち、第2調整用流体導入部9の分岐端(調整用流体が導入される端部)には、上述の圧力調整器15と流量調整器付流量計14との間に他端が接続された第2調整用流体導入管31が接続されている。当該第2調整用流体導入管31には、上流側から順に、流量調整器付流量計34、圧力計33及び開閉弁32が設けられている。これにより、所定流量(所定圧力)の酸素ガスを、タンク17から第2調整用流体導入部9に供給することができる。
【0031】
なお、開閉弁22や開閉弁32を設けることなく、例えば、流量調整器付流量計24や流量調整器付流量計34の流量を低下させることにより、酸素ガスの導入及び導入停止を切り替えることも可能であるが、応答性の観点から開閉弁22及び開閉弁32を設けることが好ましい。
【0032】
図2(a)及び
図2(b)は、本実施形態における第1調整用流体導入部8の構造を示す概略図である。
図2(a)に示すA−A線に沿う断面が
図2(b)に対応し、
図2(b)に示すB−B線に沿う断面が
図2(a)に対応する。特に限定されえないが、本実施形態では、第2調整用流体導入部9も同一の構造を有している。
【0033】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、第1調整用流体導入部8は、SUS(ステンレス鋼板:Steel Use Stainless)により作製された、溶射材の搬送方向に沿う軸心を有するリング状部材41から構成される。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、リング状部材41は、その壁面を貫通する調整用流体導入口42を有している。この例では、調整用流体導入口42は溶射材搬送方向と直角に形成されており、内径は9mmになっている。なお、調整用流体導入口42はリング状部材41の壁面の、溶射材搬送方向の中央部1箇所に設けられている。上述の第1調整用流体導入管21は、調整用流体導入口42に接続されており、酸素ガス(調整用流体)は調整用流体導入口42を通じて溶射材が搬送されるリング状部材41の内部に導入される。
【0034】
なお、本実施形態では、輸送管7を構成するホース7a、ホース7b及びホース7cの長さはそれぞれ0.3m、15m、0.3mである。また、各ホース7a及びホース7cの内径はともに25mmであり、ホース7bの内径は、25mmのもの(吐出量が少ない場合)と32mmのもの(吐出量が多い場合)とを適宜使用した。ホース7cに接続する溶射ランス10の内径は18mm、長さは3mである。また、ランスチップ9aの開口径は16mmである。
【0035】
上述の構成を有する粉粒体輸送装置100では、第1調整用流体導入部8や第2調整用流体導入部9から調整用流体を導入することで、エジェクターノズル4に導入される搬送用流体の流量が同一であっても、粉粒体の輸送量を安定して低下させることが可能となる。また、搬送用流体の流量に対する調整用流体の流量の比R(=調整用流体流量/搬送用流体流量)を定義すると、粉粒体輸送量の低下量は比Rの関数となるため、比Rを増大させることで粉粒体の輸送量を連続的に低下させることができる。
【0036】
このように粉粒体輸送量が低下する原因は明らかでないが、定性的には、調整用流体を導入することで搬送用流体の流れが妨げられ、また、調整用流体導入部より下流側の流量が増すことによって、エジェクター3と調整用流体導入部8(あるいは、調整用流体導入部9)との間の圧力が増加し、その結果、エジェクター3による粉粒体吸引量が低下して粉粒体輸送量が低下するものと推測される。
【0037】
図3は、粉粒体である溶射材を、搬送用流体である酸素ガスを使用して搬送する状況下において、搬送用流体である酸素ガス(以下、搬送用酸素という。)の流量及び第1調整用流体導入部8から導入する、調整用流体である酸素ガス(以下、調整用酸素という。)の流量を変化させたときの、溶射ランス10からの溶射材の吐出量を示す図である。
図3において、横軸が搬送用酸素の流量に対応し、縦軸が溶射材の吐出量に対応する。また、
図3では、調整用酸素の流量を、0、5、10、20、40Nm
3/hとした場合のそれぞれの溶射材吐出量を示している。なお、ここでは、タンク17の圧力は1MPaであり、圧力調整器16により0.5MPaに圧力を低下させた後、流量調整器付流量計14、24、34により流量を調整している。また、溶射材は一般的なシリカ質のものであり、溶射材の組成は、SiO
2成分が80質量%、金属シリコン粉末が15質量%、燃焼助剤、結晶化促進剤等の添加物が5質量%である。
【0038】
図3に示すように、調整用酸素の流量が0Nm
3/hである場合、搬送用酸素の流量が減少するにつれて溶射材吐出量は減少し、搬送用酸素の流量が増大するにつれて溶射材吐出量は増大する。一方、調整用酸素を導入すると、導入する調整用酸素の流量が増大するにつれて、溶射材の吐出量は減少する。例えば、搬送用酸素流量が20Nm
3/h、調整用酸素流量が0Nm
3/hである場合の溶射材吐出量は100kg/hであるのに対し、調整用酸素流量を5Nm
3/hである場合の溶射材吐出量は70kg/h程度である。すなわち、少量の調整用酸素を導入するだけで、溶射材吐出量を30%程度減少させることができる。また、調整用酸素の流量を特定値に固定した状態で搬送用酸素の流量を減少させると、搬送用酸素の流量が減少するにつれて、溶射材の吐出量は減少する。
【0039】
ところで、溶射の場合、適正な溶射体(施工体)を得るためには溶射材吐出量と酸素ガス(支燃性ガス)の流量には適切な範囲がある。
図4は、溶射ランス10における酸素ガスの流量と溶射材吐出量との関係、及び溶射材吐出量に対応する好適な酸素ガス流量の範囲を示す図である。なお、
図4に示すデータは、
図3に示すデータと同一であり、横軸の記述法のみが異なっている。
【0040】
図4において、横軸は搬送用酸素の流量と調整用酸素とを合算した総酸素流量(すなわち、溶射ランス10において溶射材を搬送している酸素の総流量)に対応し、縦軸は溶射材の吐出量に対応する。また、適切な溶射体が得られる好適な溶射材吐出及び酸素流量の範囲を図中に破線で示している。なお、適切な溶射体が得られる好適な溶射材吐出及び酸素流量の範囲は、溶射材中に含まれる金属粉末の種類、量、粒度や、添加剤の種類、量により変化するものであり、図中に示す好適範囲はあくまで特定の溶射材に対するものである。しかしながら、搬送用酸素流量の調整により得られる溶射材吐出量の傾きと、好適範囲の傾きとの傾向は、他の溶射材であっても同様である。
【0041】
上述のように、コークス炉煉瓦の目地や亀裂等の小さい範囲を高い精度で溶射する場合は吐出量を少なくすることが好ましく、比較的広範囲の摩耗や剥離を補修するために溶射する場合は吐出量を多くすることが好ましい。しかしながら、
図4に示す調整用酸素流量が0Nm
3/hの場合から理解できるように、搬送用酸素流量の調整により得られる溶射材吐出量の傾きに比較して好適範囲の傾きは大きくなっており、溶射材吐出量が120kg/h、総酸素流量が30Nm
3/h付近でしか交差していない。すなわち、搬送用酸素流量を変動させるだけでは、例えば、溶射材吐出量が80kg/hのように溶射材吐出量を低下させた状態において、溶射材吐出量と総酸素流量との関係を好適範囲内に維持することはできない。これに対し、調整用酸素流量を変化させた線では、例えば、調整用酸素流量が5Nm
3/hにおいて、総酸素流量が30Nm
3/h付近で溶射材吐出量が80kg/hの場合の好適範囲内にすることができる。すなわち、搬送用酸素流量を調整し、かつ調整用酸素流量を調整することで、溶射材吐出量を低下させた場合にも、溶射材吐出量と総酸素流量との関係を好適範囲内に維持することが可能となる。
【0042】
また、
図5は、搬送用酸素流量に対する調整用酸素流量の比R(=調整用酸素流量/搬送用酸素流量)と溶射材吐出量との関係を示す図である。
図5において、横軸は比Rに対応し、縦軸は溶射材の吐出量に対応する。なお、
図5に示すデータは、
図3及び
図4に示すデータと同一であり、横軸の記述法のみが異なっている。
【0043】
図5から理解できるように、溶射材吐出量は比Rの関数となり、比Rを増大させることで溶射材吐出量を連続的に低下させることができる。この例の場合、比Rが1.5よりも大きくなると、エジェクター3における溶射材の混合が困難となり、
図5に破線で示す範囲では溶射材を吐出することができなくなる。そのため、溶射の場合、比Rは1.5以下であることが好ましいといえる。なお、本発明を適用する場合、エジェクター3の最大能力を発揮できる状態を最大吐出量として、調整用流体を導入することで粉粒体の吐出量を当該最大吐出量から減少させる構成を採用することができる。一般に、大流量を取り扱うためには大きな部材が必要となるため、仮に、調整用流体の導入量を搬送用流体の導入量よりも大きくすると、調整用流体導入部8(あるいは、調整用流体導入部9)よりも下流側の配管を、エジェクター3の最大能力を発揮できる状態よりも、より大流量を扱うことができるように構成にする必要がある。そのため、比Rは1以下の状態で使用するようにし、さらに吐出量の低下が必要な特殊な状況では、配管材料の内径や長さの変更、配管への抵抗部材の装着等により、吐出量の低下を実現してもよい。
【0044】
次いで、調整用流体の導入位置について説明する。
図6は、第2調整用流体導入部9を使用して調整用酸素を導入した場合の溶射材吐出量を示す図である。
図6において、横軸が搬送用酸素の流量に対応し、縦軸が溶射材の吐出量に対応する。また、
図6では、調整用酸素の流量を0Nm
3/hとした場合、第1調整用流体導入部8から導入する調整用酸素の流量を5Nm
3/hとした場合、第1調整用流体導入部8及び第2調整用流体導入部9から導入する調整用酸素の流量をそれぞれ5Nm
3/hとした場合のそれぞれの溶射材吐出量を示している。
図6及び
図3から理解できるように、上述の配管構成では、いずれの調整用流体導入部を使用して調整用酸素を導入しても、ほぼ同様の作用効果を得ることができる。すなわち、調整用酸素の導入箇所は1箇所に限定されるものではなく、配管の状態や制御の簡便さに応じて、複数箇所から調整用酸素を導入してもよいといえる。なお、複数箇所から調整用酸素を導入する場合、上述の総酸素流量は各所から導入される調整用酸素流量の総和である。
【0045】
続いて、調整用流体導入部の他の構成例について説明する。ここでは、上述の調整用流体導入部8(以下、調整用流体導入部8aという。)に代えて他の構造を有する調整用流体導入部を配置し、調整用流体導入部の構造に起因する制御特性の差異の有無を評価している。
【0046】
図7(a)及び
図7(b)は、他の調整用流体導入部8bの構造を示す概略図である。
図7(a)に示すC−C線に沿う断面が
図7(b)に対応し、
図7(b)に示すD−D線に沿う断面が
図7(a)に対応する。
【0047】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、この調整用流体導入部8bは、SUSにより作成された、溶射材の搬送方向に沿う軸心を有する2つのリング状部材41、43及びこれらのリング状部材を同軸状に連結支持する連結材45から構成される。
図7(b)に示すように内側リング状部材43の外径は、外側リング状部材41の内径より小さくなっており、内側リング状部材43と外側リング状部材41との間に、全周にわたってバッファー空間46が設けられている。バッファー空間46の溶射材の搬送方向に沿う両端は連結材45により閉塞されている。
【0048】
また、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、外側リング状部材41は、その壁面を貫通する調整用流体導入口42を有している。また、内側リング状部材43は、その壁面を貫通する貫通孔44を有している。この例では、調整用流体導入口42及び貫通孔44は溶射材搬送方向と直角に形成されており、内径は、それぞれ9mmと2mmになっている。なお、調整用流体導入口42は外側リング状部材41の壁面の、溶射材搬送方向の中央部1箇所に設けられており、貫通孔44は内側リング状部材42の壁面の周方向に等間隔で、溶射材搬送方向の中央部8箇所に設けられている。この場合、上述の第1調整用流体導入管21は、調整用流体導入口42に接続され、調整用流体導入口42に導入された酸素ガス(調整用流体)はバッファー空間46及びいずれかの貫通孔44を経由して溶射材が搬送される内側リング状部材43の内部に導入される。
【0049】
また、
図8(a)及び
図8(b)は、さらに他の調整用流体導入部8cの構造を示す概略図である。
図8(a)に示すE−E線に沿う断面が
図8(b)に対応し、
図8(b)に示すF−F線に沿う断面が
図8(a)に対応する。
【0050】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、この調整用流体導入部8cは、内側リング状部材43が、その壁面を溶射材搬送方向と45度の角度で貫通する貫通孔47を有している点で上述の調整用流体導入部8bと相違する。他の構造は調整用流体導入部8bと同一である。貫通孔47は、内側リング状部材43の外周面における開口位置が溶射材搬送方向の中央部となる状態で、内側リング状部材43の壁面の周方向に等間隔で8箇所に設けられている。
【0051】
図9は、各調整用流体導入部8a、8b、8cを
図1における調整用流体導入部9として使用し、当該調整用流体導入部9から調整用酸素を導入した場合の溶射材吐出量を示す図である。ここでは、搬送用酸素の流量は28Nm
3/hであり、調整用酸素の流量は5Nm
3/hである。なお、調整用流体導入部8cについては、貫通孔47の傾きが溶射材搬送方向と順行する方向(貫通孔47の内側開口が上流側で外側開口が下流側)と、逆行する方向についても評価した。順行する方向が
図9に示す8c1であり、逆行する方向が
図9に示す8c2である。
【0052】
図9に示すように、各構造における明確な差異は確認できない。しかしながら、搬送用流体流量と調整用流体流量の状態によっては、調整用流体の導入によって粉粒体輸送の流れに乱れが生じ、吐出が不安定になる場合もあると考えられる。この場合、調整用流体の導入態様を工夫することによって安定化させる対応が考えられるが、
図9によれば、当該導入態様の変更により、吐出量が影響を受ける可能性は小さいといえる。
【0053】
以上説明したように、粉粒体輸送装置100によれば、エジェクター方式による粉粒体輸送において、エジェクターの下流側に調整用流体導入部を設け、当該調整用流体導入部から調整用流体を導入するという簡便な構成により、広い範囲で粉粒体の輸送量を変更することができ、また、流体/粉粒体比も広範囲で調整することができる。
【0054】
また、粉粒体輸送装置100では、粉粒体吐出量が低下しても粉粒体の流れが不安定になることがないため、例えば、溶射に適用した場合に溶射材の流れが不安定になることで発生する摩擦に起因する発火が生じ難くなる。
【0055】
さらに、輸送量の制御が流体流量の調整のみで実施できるため、調整用流体導入管に流量調整器を設けることで、無段階、かつ広範囲の輸送量調整が可能となる。そのため、従来のように、溶射作業途中での配管変更や配管内への調整用部材導入が不要となり、作業性を飛躍的に向上させることができる。
【0056】
ところで、上記実施形態では、搬送用流体導入系を搬送用流体導入管11の1系統で構成したが、複数系統で構成することも可能である。
図10は、搬送用流体導入系を複数の搬送用流体導入管で構成した例を示す図である。
【0057】
この例では、搬送用流体導入系は、搬送用流体導入管Td、Te、Tfの3系統で構成されている。当該搬送用流体導入系は、上述のタンク17、圧力計16、圧力調整器15を備え、当該圧力調整器15の下流側で搬送用流体導入管Td、Te、Tfの3系統に分岐している。搬送用流体導入管Td、Te、Tfは、それぞれ、上流側から、流量調整器付流量計54、64、74、圧力計53、63、73及び開閉弁52、62、72を備える。また、搬送用流体導入管Td、Te、Tfの開閉弁52、62、72の下流側は、
図1に示すエジェクターノズル4へ搬送用流体を供給する。
【0058】
また、この例では、調整用流体導入系も、調整用流体導入管Ce、Cfの2系統で構成されている。この調整用流体導入系は、上述の圧力調整器15の下流側で調整用流体導入管Ce、Cfの2系統に分岐している。調整用流体導入管Ce、Cfは、それぞれ、上流側から、流量調整器付流量計84、94、圧力計83、93及び開閉弁82、92を備える。また、調整用流体導入管Ce、Cfの開閉弁82、92の下流側は、例えば、
図1に示す第1調整用流体導入部8へ調整用流体を供給する。
【0059】
この構成では、例えば、3種の溶射条件d、e、fが必要であり、各溶射条件における溶射材の吐出量が条件d>条件e>条件fであるとする。この場合、搬送用流体導入管Tdの流量調整器54の流量は、溶射条件dに対応する搬送用流体流量に調整される。搬送用流体導入管Teの流量調整器64の流量、及び調整用流体導入管Ceの流量調整器84の流量は、溶射条件eに対応する搬送用流体流量及び調整用流体流量にそれぞれ調整される。搬送用流体導入管Tfの流量調整器73の流量、及び調整用流体導入管Cfの流量調整器94の流量は、溶射条件fに対応する搬送用流体流量及び調整用流体流量にそれぞれ調整される。
【0060】
以上の構成において、溶射条件dに対しては、搬送用流体導入管Tdの開閉弁52を開放して搬送用流体導入管Tdにより搬送用流体を供給し、調整用流体は導入しない。また、溶射条件eに対しては、搬送用流体導入管Teの開閉弁62及び調整用流体導入管Ceの開閉弁82を開放して搬送用流体導入管Te及び調整用流体導入管Ceにより搬送用流体及び調整用流体を供給する。同様に溶射条件fに対しては、搬送用流体導入管Tfの開閉弁72及び調整用流体導入管Cfの開閉弁92を開放して搬送用流体導入管Tf及び調整用流体導入管Cfにより搬送用流体及び調整用流体を供給する。
【0061】
以上の構成を採用することで、例えば、搬送用流体導入管と調整用流体導入管がそれぞれ1本しかなく、各導入管に配置された流量調整器を調整して吐出量に応じた最適流量範囲に適合させる構成に比べて、極めて短時間での切り替えが可能となり、作業効率を格段に高めることができる。
【0062】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記実施形態では、調整用流体導入部を2箇所に設けているが、エジェクターの下流側(すなわち、デフューザーの下流側)であれば、その配置数は限定されない。調整用流体導入部は1箇所でもよく、3箇所以上であってもよい。また、粉粒体輸送装置の用途やサイズ、輸送の規模等は適宜変更可能である。さらに、粉粒体や流体の組成は何ら限定されるものではなく、エジェクター方式の粉粒体輸送に適用可能な任意の粉粒体や流体を使用することができる。
【0063】
また、調整用流体導入部の構造も、本発明の効果を奏する範囲において適宜変更可能である。例えば、溶射材の輸送管に対する調整用流体導入部の形状やサイズは何ら限定されるものではない。すなわち、溶射材搬送方向に垂直な断面において、調整用流体を輸送管内に導入する導入口の数は任意である。また、溶射材搬送方向に平行な断面において、調整用流体は溶射材搬送方向に対して直角に導入されてもよく、90度以下の角度又は90度以上の角度で斜めに導入されてもよい。導入口の形状も円形状である必要はなく、方形状、スリット状、らせん状等の任意の形状を採用可能である。さらに、溶射材輸送管の断面積や導入口の開口面積も、溶射材や搬送用流体、調整用流体の特性を勘案して任意に決めることができ、何ら限定されるものではない。加えて、輸送管は、柔軟性を有するホースの他、金属管のような剛性を有するパイプ等、任意の材質の配管を採用できる。また、配管の断面形状は円形であることが好ましいが他の断面形状を採用してもよい。
【0064】
なお、上記実施形態では、搬送用流体導入管と調整用流体導入管のそれぞれに開閉弁を配置しているが、目的によっては調整用流体を導入せず、搬送用流体のみで粉粒体を搬送してもよい。すなわち、本発明は、配管の長さや配管径の変更、圧力抵抗部材の調整と組み合わせて用いてもよい。これにより、さらに広範囲での吐出量調整が可能となる。つまり、ラフなレベルでの吐出量調整を配管部材や抵抗部材で行い、細かくて精度の高い制御や輸送中の輸送量の連続的無段階切り替えを本発明を適用して行うことで、きめ細かい粉粒体の輸送量の制御が可能となる。