特許第6079995号(P6079995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6079995
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】熱電発電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 37/04 20060101AFI20170206BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   H01L37/04
   H02N11/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-215334(P2012-215334)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-72256(P2014-72256A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 裕弥
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩太
(72)【発明者】
【氏名】水口 将輝
(72)【発明者】
【氏名】高梨 弘毅
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−118295(JP,A)
【文献】 Masaki MIZUGUCHI et al.,Anomalous Nernst Effect in an L10-Ordered Epitaxial FePt Thin Film,Applied Physics Express,2012年 9月25日,Vol.5, No.9,pp.093002
【文献】 山口作太郎,核融合炉におけるエネルギー変換−熱電変換を中心にして−,プラズマ・核融合学会誌,1996年12月,第72巻第12号,pp.1283-1291
【文献】 Hasegawa.K et al.,Anomalous Nernst effect for thermoelectric power applications,ICAUMS 2012 Abstracts / 36th Conference on Magnetics in Japan,2012年10月 2日,p.340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 37/04
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に設けられ、所定の方向に磁化した強磁性体から成る発電体を有し、
前記発電体は、前記基板の表面に沿って互いに平行に配置された複数の細線から成り、各細線は同じ方向に磁化しており、電気的に直列に接続されており、異常ネルンスト効果により、前記磁化の方向に対して垂直の方向の温度差で発電するよう構成されていることを
特徴とする熱電発電デバイス。
【請求項2】
各細線の一端部と、各細線の一方の側で隣り合う細線の他端部とを電気的に接続するよう設けられ、非磁性体、各細線の磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体、または、各細線とは逆符号のネルンスト係数を有する強磁性体から成る接続体を有することを特徴とする請求項記載の熱電発電デバイス。
【請求項3】
各細線は幅方向または高さ方向に磁化していることを特徴とする請求項1または2記載の熱電発電デバイス。
【請求項4】
前記基板は少なくとも表層がMgOから成り、
前記発電体は高磁気異方性を有するL10型規則合金から成ることを
特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の熱電発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果を利用した熱電発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電発電(Thermo−electric power generation)は、自然界における様々な熱に加え、家庭や車、工場から生じる膨大な廃熱を利用して発電できるため、クリーンエネルギーとして注目されている。このような熱電発電を行うものとして、熱電効果のひとつのゼーベック効果(Seebeck effect)を利用して発電するものが一般的にはよく知られている。ここで、ゼーベック効果とは、金属または半導体の両端に温度差があると、温度差と同方向に電位差が生じる現象であり、キャリアが電子かホールかによってゼーベック係数の符号が異なるという特徴を有している。
【0003】
ゼーベック効果の性能指数(Figure of merit)Zは、次の(1)式で表される。
【数1】
ここで、T:温度、σ:電気導電率、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導率、E:ゼーベック電圧、∇T:温度勾配、である。
【0004】
ゼーベック効果を利用して発電を行うものとして、例えば、傾斜積層構造を用いた熱発電チューブ(例えば、非特許文献1参照)や、熱発電ユニットを備えた時計(例えば、特許文献1参照)、高効率の熱電発電モジュール(例えば、非特許文献2参照)などがある。一般的なゼーベック効果を利用した熱電発電デバイス50は、図7に示すように、電圧を増大させるために、p型熱電変換材料(p型半導体)51とn型熱電変換材料(n型半導体)52とを、電極53により上下で交互に直列接続して構成されている。
【0005】
なお、ゼーベック効果以外の熱電効果として、ネルンスト効果(Nernst effect)がある。ネルンスト効果とは、温度勾配があって熱が流れている導体(または半導体)に,熱流の方向(x)に垂直な方向(z)に磁場を作用させると,両者に垂直な方向(y)に電位差を生ずる現象である。
【0006】
ネルンスト効果の性能指数Zは、次の(2)式で表される。
【数2】
ここで、Q:ネルンスト係数、B:外部磁場、E:ネルンスト電圧、である。
一般的には、ネルンスト効果は、性能指数に対する発電効率がゼーベック効果よりも良いことが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】パナソニック株式会社、プレスリリース「世界初、傾斜積層構造を用いた熱発電チューブを開発」、[online]、2011年6月20日、インターネット〈URL :http://panasomic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn110620-2/jn110620-2.html〉
【非特許文献2】コマツ、ニュースリリース「<CO2削減に効果を発揮する再生可能エネルギー>世界最高効率の熱電発電モジュールを開発・発売」、[online]、2009年1月27日、インターネット〈URL: http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/press/2009012713421026622.html〉
【非特許文献3】中村浩章、池田一昭、山口作太郎、「強磁場中でのネルンスト素子の輸送現象とエネルギー変換」、日本金属学会誌、1997年、第61巻、第12号、p.1318-1325
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−75065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7に示すような従来のゼーベック効果を利用した熱電発電デバイスは、構造が複雑であるため、作製プロセスが煩雑であるという課題があった。このため、例えば、数平方m以上に及ぶ大面積発電デバイスを作製することは不可能である。また、電位差が温度差と同方向に発生するため、高電圧を得るためには温度差を大きくしなければならず、またモジュール化する際に電極と熱電変換材料との間に大きな熱応力が発生してしまう。このため、微細化が困難であるという課題があった。また、本格的な実用化のためには、さらに熱電変換効率を高める必要があるという課題もあった。ゼーベック効果を利用した熱電技術は、これらの課題のために、30〜40年の歴史があるにもかかわらず、社会経済の中ではいまだほとんど貢献できていない。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、比較的容易に作製することができ、微細化も容易で、優れた熱電変換効率を有する熱電発電デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者等は、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst effect)を利用した新規な熱電発電デバイスを発明した。異常ネルンスト効果とは、自発磁化を持つ金属または半導体に、自発磁化と垂直方向に温度差があると、それらの外積方向に電位差が生じる現象である。このため、異常ネルンスト効果を利用すると、例えば、x方向に磁化を持つ強磁性体に、z方向に面直熱勾配を加えるだけでy面内方向で電圧が得られ、y方向の距離を稼ぐだけで簡便に大電圧を得ることができる。また、異常ネルンスト効果は、自発磁化の向きによって電流が流れる方向が異なる、性能指数に対する発電効率はゼーベック効果よりも高い、出力電圧は温度差と直交する方向の長さに比例するため、温度差を自由に設計できる、通常のネルンスト効果と比較して、残留磁化を利用すれば磁場を印加する必要がない、という特徴を有している。
【0012】
本発明に係る熱電発電デバイスは、基板の上に設けられ、所定の方向に磁化した強磁性体から成る発電体を有し、前記発電体は、前記基板の表面に沿って互いに平行に配置された複数の細線から成り、各細線は同じ方向に磁化しており、電気的に直列に接続されており、異常ネルンスト効果により、前記磁化の方向に対して垂直の方向の温度差で発電するよう構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る熱電発電デバイスは、異常ネルンスト効果を利用することにより、電位差が温度差と垂直の方向に発生するため、温度差を自由に設計することができるとともに、モジュール化する際に界面や熱応力の影響を小さくすることができる。このため、モジュール化や微細化が容易である。また、ゼーベック効果を利用したものと比べて、単純な構造で構成することができるため、比較的容易に作製することができ、大面積を利用した発電デバイスを実現することもできる。
【0014】
ここで、(1)式および(2)式を利用して、ゼーベック素子(Seebeck element)の最大効率ζの性能指数Z依存性、および、ネルンスト素子(Nernst element)の最大効率ζの性能指数Z依存性を求め、図1に示す。このとき、高温側の温度を800K、低温側の温度を300Kとした。また、最大効率は、カルノーサイクルの効率ζで規格化している。図1に示すように、ネルンスト素子は、性能指数に対する発電効率がゼーベック素子よりも良いことが分かる。本発明に係る熱電発電デバイスは、異常ネルンスト効果を利用しており、図1に示す通常のネルンスト効果と同様に、ゼーベック効果を利用するものと比べて性能指数に対する発電効率が高くなり、熱電変換効率を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る熱電発電デバイスは、異常ネルンスト効果を利用するため、通常のネルンスト効果とは異なり、保磁力や交換バイアスを利用することにより、外部磁場を印加しなくとも発電することができる。
【0016】
本発明に係る熱電発電デバイスは、細線の太さや長さが同じであれば、細線の数を増やすに従って、得られる電圧を大きくすることができ、細線の数によって発電能力を調整することができる。また、細線の密度を大きくすることにより、単位面積あたりの発電能力を高めることができ、発電効率を高めることができる。
【0017】
本発明に係る熱電発電デバイスは、各細線の一端部と、各細線の一方の側で隣り合う細線の他端部とを電気的に接続するよう設けられ、非磁性体、各細線の磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体、または、各細線とは逆符号のネルンスト係数を有する強磁性体から成る接続体を有することが好ましい。この場合、接続体として非磁性体を使用すると、各細線で発生する電圧をそのまま加算して、デバイス全体の電圧を得ることができる。接続体として各細線の磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体、または、各細線とは逆符号のネルンスト係数を有する強磁性体を使用すると、異常ネルンスト効果により発生する電圧が、隣り合う発電体の細線と接続体とで反対になるため、各細線で発生した電圧を打ち消すことなく接続することができる。この場合、非磁性体を使用するときと比べて、同じ面積上で得られる電圧を約2倍にまで増大させることができる。なお、各細線の磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体は、発電体と同じ強磁性体から成っていても、異なる強磁性体から成っていてもよい。
【0018】
本発明に係る熱電発電デバイスで、各細線は幅方向または高さ方向に磁化していることが好ましい。この場合、各細線が幅方向に磁化しているときには、温度差が高さ方向に、各細線が高さ方向に磁化しているときには、温度差が幅方向になるよう配置することにより、各細線の長さ方向に電圧を発生させることができ、発電効率を高めることができる。
【0019】
本発明に係る熱電発電デバイスで、前記基板は少なくとも表層がMgOから成り、前記発電体は高磁気異方性を有するL10型規則合金から成ることが好ましい。この場合、高磁気異方性を有するL10型規則合金として、例えば、FePt、CoPt、FePd、CoPd、FeNi、MnAl、MnGaなどを使用することができる。発電体として高磁気異方性を有するL10型規則合金を使用し、磁化容易軸を細線の幅方向に向けることにより、例えば細線の幅を数十ナノメートルサイズまで狭小化しても自発磁化を得ることができるため、小面積であってもmVを超える大きな電圧を実現することができ、微細化に有効である。実際に取り出すことが可能な電力は、デバイス全体の抵抗値(内部抵抗)で制約されるが、強磁性の細線の膜厚を厚くすることにより内部抵抗を低下させ、電力を高めることが可能である。また、ゼーベック効果を利用したものは、熱電性能を高めるために、主たる材料としてBiTe系などの稀少元素や有毒元素を含む材料を使用しているのに対し、本発明に係る熱電発電デバイスでは、主たる材料としてFe、Co、Ni、Mn等の比較的入手しやすく安全な元素を使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的容易に作製することができ、微細化も容易で、優れた熱電変換効率を有する熱電発電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ゼーベック素子(Seebeck element)およびネルンスト素子(Nernst element)の最大効率の性能指数依存性を示すグラフである。
図2】本発明の実施の形態の熱電発電デバイスの(a)一例を示す斜視図、(b)他の例を示す平面図である。
図3】本発明の実施の形態の熱電発電デバイスの、水平方向に温度差を発生させて、異常ネルンスト効果により発生する電圧を測定するための装置を示す(a)平面図、(b)正面図である。
図4】本発明の実施の形態の熱電発電デバイスの、図3に示す装置により測定された異常ネルンスト効果による電圧を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態の熱電発電デバイスの、垂直方向に温度差を発生させて、異常ネルンスト効果により発生する電圧を測定するための装置を示す(a)平面図、(b)正面図である。
図6】本発明の実施の形態の熱電発電デバイスの、図5に示す装置により測定された異常ネルンスト効果による電圧を示すグラフである。
図7】従来のゼーベック効果を利用した熱電発電デバイスを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図6は、本発明の実施の形態の熱電発電デバイスを示している。
図2に示すように、熱電発電デバイス10は、基板11と発電体12と接続体13とを有している。
【0023】
基板11は、少なくとも表層がMgOから成っている。基板11は、例えば、MgO単層から成るものや、Au層の上にMgO層が載っているものから成っている。
発電体12は、基板11の表面に沿って互いに平行に配置された複数の細線12aから成っている。各細線12aは、高磁気異方性を有するL10型規則合金の強磁性体から成り、同じ方向に磁化している。図2(a)および(b)に示す具体的な一例では、各細線12aは、基板11上に成膜したFePt薄膜を細線化して形成され、幅方向に磁化している。発電体12は、異常ネルンスト効果により、磁化の方向に対して垂直の方向の温度差で発電するよう構成されている。
【0024】
接続体13は、基板11の表面に沿って、発電体12の各細線12aに平行に、各細線12aの間に配置された複数の細線13aから成っている。接続体13の各細線13aは、発電体12の各細線12aの一端部と、各細線12aの一方の側で隣り合う細線12aの他端部とを電気的に接続している。これにより、接続体13は、発電体12の各細線12aを電気的に直列に接続している。図2(a)に示す具体的な一例では、接続体13は、各細線12aの磁化の方向とは反対方向に磁化した強磁性体から成り、図2(b)に示す具体的な一例では、接続体13は、非磁性体のCrから成っている。なお、接続体13は、各細線12aとは逆符号のネルンスト係数を有する強磁性体から成っていてもよい。
【0025】
図2(b)に示す具体的な一例では、基板の大きさは、10mm×10mmで、発電体12の細線12aの数は、60本である。
【0026】
次に、作用について説明する。
熱電発電デバイス10は、異常ネルンスト効果を利用することにより、電位差が温度差と垂直の方向に発生するため、温度差を自由に設計することができるとともに、モジュール化する際に界面や熱応力の影響を小さくすることができる。このため、モジュール化や微細化が容易である。また、ゼーベック効果を利用したものと比べて、単純な構造で構成することができるため、比較的容易に作製することができ、大面積を利用した発電デバイスを実現することもできる。
【0027】
また、熱電発電デバイス10は、異常ネルンスト効果を利用するため、ゼーベック効果を利用するものと比べて性能指数に対する発電効率が高く、熱電変換効率を高めることができる。また、通常のネルンスト効果とは異なり、保磁力や交換バイアスを利用することにより、外部磁場を印加しなくとも発電することができる。
【0028】
熱電発電デバイス10は、発電体12として高磁気異方性を有するL10型規則合金を使用し、各細線12aの幅方向に磁化しているため、例えば細線12aの幅を数十ナノメートルサイズまで狭小化しても自発磁化を得ることができる。このため、小面積であってもmVを超える大きな電圧を実現することができ、微細化に有効である。また、熱電発電デバイス10では、主たる材料としてFe、Co、Ni、Mn等の比較的入手しやすく安全な元素を使用することができる。
【0029】
熱電発電デバイス10は、温度差さえあれば様々な用途に利用することができ、例えば、体温と外界温度との差を利用して発電するスーツや鞄、時計、温泉の配管を利用した発電装置、パソコンの廃熱を利用した自発発電リサイクルシステムなどに利用することができる。
なお、熱電発電デバイス10は、接続体13を有さず、発電体12が基板11の表面に沿って設けられた薄層から成っていてもよい。
【0030】
[異常ネルンスト効果の測定]
まず、熱電発電デバイス10の試料21として、MgO基板11の上に成膜した垂直磁化FePt薄膜を細線化して発電体12を形成し、各細線12aをCrから成る接続体13の細線13aを用いて直列連結したものを用い、異常ネルンスト効果により発生する電圧の測定を行った。試料21は、発電体12の細線12aが30本のものと、60本のものを準備した。また、発電体12の細線12aの伸長方向は、試料21の幅方向とした。異常ネルンスト効果の測定は、図3に示すように、間隔をあけて配置された1対の銅板22の上に、熱電発電デバイス10の試料21を架け渡し、一方の銅板22をヒーター23で温めて、試料21の両端に20K程度の温度差をつけて行った。
【0031】
このとき、試料21の両端で直接温度差を測定すると熱流が乱れるため、各銅板22に別のMgO基板24を架け渡し、その両端の温度差を測定して試料21の両端の温度差とした。また、異常ネルンスト効果による電圧は、発電体12の磁化方向(垂直方向)と温度勾配の方向(試料の長さ方向)とに垂直な方向、すなわち試料21の幅方向で発生する。このため、試料21の両側縁にタングステン製の電極25を接続して電圧の測定を行った。
【0032】
電圧の測定結果を、図4に示す。図4に示すように、細線12aの数に比例して、電圧が増大することが確認された。このことから、細線12aの太さや長さが同じであれば、細線12aの数を増やすに従って、得られる電圧を大きくすることができ、細線12aの数によって発電能力を調整することができるといえる。また、細線12aの密度を大きくすることにより、所定の面積あたりの発電能力を高めることができ、発電効率を高めることができる。
【0033】
次に、熱電発電デバイス10の試料31として、Au層の上にMgO層を設けた基板11の上に、面内磁化FePt薄膜から成る発電体12を作製したものを用い、面直方向に温度差をつけて、異常ネルンスト効果により発生する電圧の測定を行った。試料31は、発電体12のFePt薄膜の厚さが100nmのものと、300nmのものを準備した。また、比較試料として、基板11の上に厚さ300nmのCo薄膜を作製したものを準備した。異常ネルンスト効果の測定は、図5に示すように、ペルチェ素子32の上に試料31を載せ、試料31を銅板33およびシリコンシート34で上から押さえた状態で、ペルチェ素子32により下から試料31に熱を与えて面直方向に温度差をつけて行った。
【0034】
このとき、発電体12の磁化方向を試料31の幅方向とした。異常ネルンスト効果による電圧は、発電体12の磁化方向(試料の幅方向)と温度勾配の方向(面直方向)とに垂直な方向、すなわち試料31の長さ方向で発生する。このため、試料31の両端にタングステン製の電極35を接続して電圧の測定を行った。電圧の測定結果を、図6に示す。図6に示すように、面直方向の温度差は100nm間で約0.0001Kと非常に微小であったが、FePt薄層の発電体12を有する場合には、10μV程度の電圧を生じることが確認された。なお、Co薄膜を有する場合には、ネルンスト係数が小さいため、ほとんど電圧を生じないことが確認された。
【符号の説明】
【0035】
10 熱電発電デバイス
11 基板
12 発電体
12a 細線
13 接続体
13a 細線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7