(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁性体の走行面に対して磁気吸着力を生じさせる磁石と、磁気吸着力を検出する磁力検出部と、磁力検出部によって検出された磁気吸着力に基づいて走行面からの磁石の位置を決定する磁石位置決定部と、磁石位置決定部によって決定された位置に磁石を移動させる磁石位置調整部と、を備えた磁気吸着ユニットを有する少なくとも2つの磁気吸着車両と、
該少なくとも2つの磁気吸着車両を互いに連結し、該少なくとも2つの磁気吸着車両の一方を他方に対して、少なくとも平面上の相対的な位置及び姿勢の3自由度を制御可能な駆動機構を有する多関節アームと、を具備し、
前記多関節アームが、前記少なくとも2つの磁気吸着車両の一方と着脱可能であり、前記少なくとも2つの磁気吸着車両の各々は独立して制御可能であり、その独立した制御下において協働した動作が可能である磁気吸着車両の群移動体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。なお、本明細書において、磁気吸着車両が垂直な壁面や天井を走行する場合であっても、走行面に垂直な方向を上下方向とし、走行面側を下方向、その反対側を上方向とし、走行面からの距離を高さとする。
【0013】
図1は、本発明の一態様による群移動体を構成する磁気吸着車両1の概略を示すブロック図である。磁気吸着車両1は、少なくとも1つの磁気吸着ユニット2を有し、磁気吸着ユニット2は、永久磁石又は電磁石からなる磁石Aと、磁力検出部Bと、磁石位置決定部Cと、磁石位置調整部Dとを有する。
【0014】
磁気吸着車両1は、磁石Aと磁性体の走行面Sとの間に作用する磁気吸着力Fによって、垂直な壁面や天井であっても吸着しながら落下することなく走行が可能となっている。その際、磁気吸着力Fは、磁力検出部Bによってリアルタイム又は一定間隔毎に検出され、検出値は、磁石位置決定部Cへ送られる。なお、磁石位置決定部Cは、双方向性バスによって互いに接続されたCPU(中央演算処理装置)とROM(リードオンリメモリ)とRAM(ランダムアクセスメモリ)とを備えている。
【0015】
磁気吸着力Fは、上述のように、磁石Aと磁性体の走行面Sとの間の距離、すなわち高さに応じて変化する。磁石位置決定部Cは、磁力検出部Bによって検出された磁気吸着力Fに基づき、磁気吸着車両1が現在走行中の走行面Sから離れないだけの磁気吸着力Fであって、それが走行のための過度な抵抗にならない必要十分な磁気吸着力Fを生じさせるような磁石Aの高さ方向の位置を決定する。
【0016】
その決定の際には、磁気吸着力F以外に、磁気吸着車両1の重量及び重心、磁気吸着車両1の走行速度、垂直な壁面や天井も含む走行面の斜度、磁気吸着車両1の中の磁石Aの相対的な位置、磁気吸着ユニット2が複数ある場合には磁気吸着力Fの合力の大きさと合力の作用点の位置等、様々な要素を考慮してもよく、必要なセンサ類を有してもよい。磁気吸着車両1が複数の磁気吸着ユニット2を有する場合、磁石位置決定部Cは、互いに連携して動作してもよく、独立で動作してもよく、車両全体で共通に1つだけでもよい。磁気吸着車両1が、水平面上を走行する場合等、磁気吸着力が不要な場合には、磁気吸着ユニット2の磁石Aを走行面から遠ざけ、磁気吸着力がほとんど働かないようにしてもよい。
【0017】
図2は、本発明の一態様による群移動体を構成する磁気吸着車両1の斜視図である。
図2を参照すると、磁気吸着車両1は、1つの磁気吸着ユニット2と、磁気吸着ユニット2を収容する車両本体3と、車両本体3の左右に配置された2つの主スプロケット4と、主スプロケット4の各々と協働する大小4つの従スプロケット5、6と、主スプロケット4の各々を駆動する2つの駆動モータ7と、主スプロケット4及び従スプロケット5、6を包囲する2つのクローラベルト8と、車両本体3内に収容された車両制御装置(図示せず)とを有している。車両制御装置が、駆動モータ7を制御し、それによって主スプロケット4を回転させる。主スプロケット4が回転すると、クローラベルト8が回転し、従スプロケット5、6を回転させる。クローラベルト8が回転することによって、磁気吸着車両1が走行する。
【0018】
図3は、本発明の一態様による磁気吸着ユニット2の上方向からの斜視図であり、
図4は、本発明の一態様による磁気吸着ユニット2の下方向からの斜視図であり、
図5は、
図3及び
図4に示された磁気吸着ユニット2の磁石が磁石カバーに当接した状態を示す縦断面図であり、
図6は、
図3及び
図4に示された磁気吸着ユニット2の磁石が磁石カバーから離間した状態を示す縦断面図である。
【0019】
図3乃至
図6を参照すると、磁気吸着ユニット2は、走行面に対して平行に配置される上部プレート9及び下部プレート10を有し、上部プレート9及び下部プレート10は、表面が平滑な円柱状の4つのガイドロッド11によって連結されている。上部プレート9及び下部プレート10とガイドロッド11とは、ボルト12によって固定されているが、ピン、接着又は溶接等のその他の手段によって固定してもよい。上部プレート9及び下部プレート10間には、これらプレートと平行にメインプレート13が配置されている。メインプレート13は、ガイドロッド11の外面と嵌合する平滑な内面を有する円筒状の4つのガイド14の中央のフランジ部と連結し、ガイド14と共にガイドロッド11に沿って摺動することができる。
【0020】
上部プレート9の下方側表面中央には、上部ベアリング15が配置されている。また、下部プレート10上には、4つの脚部を有し且つ下部プレート10及びメインプレート13間で脚部によって支持された保持面を形成するベアリングホルダ16が配置されている。下部プレート10の上記保持面には、上部ベアリング15に対向する位置に下部ベアリング17が配置されている。さらに、メインプレート13の中央には開口が設けられており、開口内にはボールねじ18に係合するナット19がメインプレート13に対して固定して配置されている。従って、ボールねじ18はメインプレート13を貫通し、ガイドロッド11と平行に配置されている。また、ボールねじ18の両端は、上部ベアリング15及び下部ベアリング17によって上部プレート9及び下部プレート10に対して、回転自在に支持されている。
【0021】
ボールねじ18上部には、ボールねじプーリ20が、ボールねじ18と共に回転するように固定して配置されている。駆動モータ21によって伝動ベルト22を介してボールねじプーリ20を回転させると、ボールねじ18が回転し、回転方向に応じてナット19が上下に移動する。その結果、メインプレート13を、ガイド14と共にガイドロッド11に沿って上下に摺動させることができる。
【0022】
下部プレート10には、より大きな開口23が設けられ、内部に磁石を収容する非磁性体からなる磁石ケース24が開口23を通って、ベアリングホルダ16内に収容される。磁石ケース24の下方部分は、同じく非磁性体からなる磁石カバー25によって覆われており、磁石カバー25は、フランジ部25aを有している。磁石ケース24内には、永久磁石である磁石26を環状に保持した磁性体からなる環状のヨーク27が収容されている。メインプレート13及びヨーク27は、ベアリングホルダ16及び磁石ケース24を貫通する4つの連結ロッド28によって連結されている。メインプレート13とヨーク27とは、ボルト29によって固定されているが、ピン、接着又は溶接等のその他の手段によって固定してもよい。磁石ケース24は、2つのばね30によって上部プレート9に連結され、ばね30によって上部プレート9方向へ付勢されている。
【0023】
メインプレート13の表面には、ボールねじ18を包囲するように環状の切り込み部13aが形成されている。さらに、メインプレート13の表面には、この環状の内側にボルト31によって支持され、環状の内側に対する外側の微小な変位を検出する変位センサ32が配置されている。また、下方に磁石26が保持された連結ロッド28は、環状の切り込み部13aの外側でメインプレート13と連結している。従って、磁石26がその近傍に配置された磁性体を吸引すると、連結ロッド28を介してその磁気吸着力がメインプレート13に伝達される。切り込み部13aの内側にあるメインプレート13の部分は、ボールねじ18との嵌合によって上下方向の動きが規制されたナット19によって支持されていることから、磁石26の磁気吸着力に起因する変位が小さい。一方、切り込み部13aの外側にあるメインプレート13の部分は、ガイド14によって上下に摺動可能であることから、磁石26の磁気吸着力に起因する変位が大きい。すなわち、変位センサ32によって検出された変位量は、磁石26の磁気吸着力に比例することとなり、これらの関係を予め実験等によって求めておくことによって、変位センサ32は磁力検出部Bとして機能する磁力センサとして利用することができる。なお、磁石26の磁気吸着力を測定する手段として他の手段を用いてもよい。
【0024】
磁気吸着ユニット2の磁石位置調整部Dとしての機能について説明すると、駆動モータ21によってボールねじ18が回転されると、その回転量及び回転方向に応じてナット19が上下に移動する。その結果、ナット19とメインプレート13とガイド14と連結ロッド28とヨーク27と磁石26とが一体となって、上部プレート9及び下部プレート10等に対して、また、磁気吸着ユニット2が取り付けられた磁気吸着車両1に対して相対的に上下に移動する。すなわち、磁石26と走行面との間の距離を調整することが可能となる。なお、この調整は、磁力センサによって検出された磁気吸着力に基づき、磁気吸着力が必要十分な最適値となるよう、図示しない磁石位置決定部Cによって、上述のように行われる。
【0025】
より大きな磁気吸着力を得るために、ナット19を下方向へ移動させると、磁石26又はヨーク27の先端は、
図5に示されるように、下部プレート10を越えて下方向へ突出する。磁石ケース24及び磁石カバー25は、ばね30によって上方向へ付勢されているため、磁石26又はヨーク27は、磁石カバー25と当接した状態を維持する。なお、磁石26の下限は、ガイド14の下端面が下部プレート10に当接することによって規定される。
【0026】
磁気吸着力を弱めたい場合、又は、ほぼゼロにしたい場合、ナット19を上方向へ移動させると、磁石26又はヨーク27の先端は、上方向へ付勢された磁石カバー25と当接した状態を維持したまま上方向へ移動する。さらに、移動を続けると、最終的には
図6に示されるように、磁石26又はヨーク27の先端が下部プレート10よりも上方向へ移動し、磁石カバー25から離間した状態となる。すなわち、磁石26又はヨーク27は、ガイド14の上端面が上部プレート9に当接するまで上方向へ移動可能であるが、それよりも先に、磁石カバー25のフランジ部25aが下部プレート10と係合し、磁石ケース24及び磁石カバー25の上昇が停止する。
【0027】
仮に、磁石カバー25が無い場合を考えると、磁気吸着車両1の走行中、磁石26は走行面にある砂鉄や金属片などを直接吸着してしまう。その状態で砂鉄等を磁石26からすべて分離させるのは困難である。本発明の一態様による磁気吸着車両1においては、磁石26の磁気吸着力によって磁石カバー25越しに砂鉄等を吸着する。しかし、
図6に示されるように磁石26を磁石カバー25から十分離間させると、吸着していた砂鉄等は、磁石26の磁気吸着力から解放され、磁石カバー25から容易に分離することが可能となる。また、この状態では、磁石26の磁気吸着力は走行面に対してもほとんど働かないため、磁気吸着車両1が、磁性体の走行面であるが通常の水平面上を走行する場合等において、少ない抵抗で走行することができる。
【0028】
ところで、より大きな磁気吸着力を得るために、磁石26を下方へ移動させた後に、磁石26を再び上方へ移動させる場合には、非常に大きな力が必要となる。それを補助するために、メインプレート13を上方へ付勢するばねを用いてもよい。すなわち、磁気吸着ユニット2は、例えば、メインプレート13とベアリングホルダ16との間や、下部プレート10とメインプレート13との間に、圧縮した状態のばねを配置してもよい。本態様では、補助ばね33を、下部ベアリング17とナット19との間で且つボールねじ18の周りに配置している。
【0029】
以上より、本発明の一態様による群移動体を構成する磁気吸着車両1によれば、走行面の状態に応じて必要十分な磁気吸着力を生成することができる。
【0030】
なお、上述の態様では、磁石として永久磁石を使用したが、電磁石を使用した場合にも、一定の電流によって一定の磁気吸着力を生成させつつ上述の態様のように位置を調整してもよい。また、電磁石の位置を固定して、電流量を調整することによって、すなわち、磁石位置調整部に代えて電流値調整部を有することによって、永久磁石の位置を調整したときと同様に磁気吸着力を変化させてもよい。
【0031】
続いて、
図7を参照しながら、磁気吸着車両1に搭載されている差動リンク機構50について説明する。
図8は、
図7の磁気吸着車両1の差動リンク機構50を説明する部分拡大図である。
図7において、磁気吸着ユニット2や車両本体3は省略されている。
【0032】
差動リンク機構50は、主スプロケット4と従スプロケット5とを連結し、車両本体3の左右に配置され、車両本体3に対して横方向に延びる回転軸線C1周りに回転可能に固定された連結プレート51と、左右の連結プレート51間に配置され、車両本体3の前後方向に延びる回転軸線C2周りに回転可能に固定された接続ロッド52と、連結プレート51及び接続ロッド52を連結する連結機構53とを有する。回転軸線C1は、車両本体3の前後方向中央に配置されるように構成される。また、回転軸線C2は、車両本体3の左右方向中央に配置されるように構成される。
【0033】
図8を参照しながら、連結機構53について説明する。連結プレート51と接続ロッド52との連結は、連結プレート51に設けられた短ロッド54と、接続ロッド52の端部に設けられた継ぎ手55とによって行われる。すなわち、連結プレート51には、連結プレート51の長手方向に延びる、例えば長方形断面の貫通孔51aを有している。貫通孔51a内には、長手方向に沿って微小長さで円形断面を有する短ロッド54が固定して配置される。
【0034】
他方、継ぎ手55は、接続ロッド52の端部に対して接続ロッド52の軸線周りに回転可能に取り付けられている。継ぎ手55には、接続ロッド52の軸線方向に細長い、例えば2つの等しい長さの平行線と2つの半円形からなる角丸長方形の断面形状の横孔53aが形成されている。接続ロッド52は、横孔53a内に短ロッド54が挿通されることで、連結プレート51に対して連結している。
【0035】
ここで、横孔53aの断面形状である角丸長方形の半円形部分の円形の直径、すなわち2つの平行線間の距離は、短ロッド54の直径よりも僅かばかり大きく設定される。従って、短ロッド54は、或る程度規制されつつも、横孔53a内で移動可能である。
【0036】
連結機構53における連結プレート51及び接続ロッド52間の動作について説明する。説明のために継ぎ手55に着目すると、継ぎ手55は、接続ロッド52の軸線周りに回転可能であり(矢印r1)、且つ、短ロッド54に対して接続ロッド52の軸線方向に摺動可能である(矢印m1)。また、継ぎ手55は、短ロッド54の軸線周りに回転可能であり(矢印r2)、且つ、短ロッド54の軸線に沿って摺動可能である(矢印m2)。さらに、継ぎ手55は、接続ロッド52の軸線と短ロッド54の軸線とに直交する軸線周りに回転可能である(矢印r3)。以上より、連結プレート51及び接続ロッド52間は、かなりの自由度を持って連結されている。
【0037】
上述した連結機構53を有する差動リンク機構50による磁気吸着車両1全体の効果について説明する。例えば
図8を参照して、左右一方のクローラ(図面奥側)が、障害物等に乗り上げたことによって、車両本体3に対して横方向に延びる回転軸線C1周りに矢印R1方向に回転したとする。このとき、他方のクローラ(図面手前側)は、回転軸線C1周りに矢印R1と反対の矢印R2方向に回転する。
【0038】
すなわち、一方のクローラが回転軸線C1周りにR1方向に回転すると、連結プレート51を介して連結された接続ロッド52の一端も、同じ方向、すなわち上方へ移動する。接続ロッド52の中央は、車両本体3の前後方向に延びる回転軸線C2周りに回転可能に固定されていることから、接続ロッド52の他端は、回転軸線C2周りに下方へ移動する。その結果、他方のクローラは、接続ロッド52の他端に連結された連結プレート51を介して、回転軸線C1周りに矢印R2方向に回転する。連結機構53は、連結プレート51及び接続ロッド52の上述した回転軸線C1又は回転軸線C2周りの動作が妨げられないように、
図8を参照しながら詳述したような動作を受動的に行う。なお、
図7では一方しか記載されていないが、接続ロッド52及び連結機構53は車両の前後に配置されている。
【0039】
磁気吸着車両1が、こうした差動リンク機構50を有することにより、中央に配置された車両本体3の剛性が高まるという効果を奏する。すなわち、走行面の多少の凹凸の影響は、差動リンク機構50によって吸収されることから、車両本体3に着目すると非常に安定した姿勢を維持することが可能となる。そのため、車両本体3上にアームやカメラ等の重量物を搭載することが可能となる。それと同時に、クローラベルト8、すなわちクローラのより確実な接地が得られることから、安定した走行が可能となる。
【0040】
図9は、本発明の一態様による群移動体100を構成する磁気吸着車両1間の連結を示す略側面図である。磁気吸着車両1の車両本体3上に回転駆動機構101を搭載し、回転駆動機構101上には多関節アーム102が取り付けられている。多関節アーム102の間接部分S1、S2、S3の各々は、独立した駆動機構を有している。多関節アーム102の先端部分には、物体を把持するように動作可能な把持部103が設けられている。回転駆動機構101及び多関節アーム102の関節部分の駆動機構及び把持部103は、車両本体3内の車両制御装置によって制御される。
【0041】
車両本体3の前部又は後部には、別の磁気吸着車両1との連結の際に使用される接続部材104が設けられている。一方の磁気吸着車両1は、把持部103によって他方の磁気吸着車両1の接続部材104を把持することで、他方の磁気吸着車両1と着脱可能に連結できる。従って、複数の磁気吸着車両1を互いに連続的に接続し、2以上の磁気吸着車両1からなる群移動体100を構成することが可能となる。
【0042】
図10は、群移動体100が水平面から壁面へ移動する様子を示す略側面図である。説明の簡略化のため、群移動体100において、後続の磁気吸着車両1bに多関節アーム102が取り付けられている。この多関節アーム102の把持部が先頭の磁気吸着車両1aの接続部材を把持することで、2つの磁気吸着車両1a、1bが連結している。
【0043】
群移動体100が、まずは水平面を移動し、そのまま水平面から壁面へ移動しようとしても、先頭の磁気吸着車両1aは、上述のように磁気吸着車両の磁石間の距離が大きく変化してしまうため、移動することができない。しかしながら、一旦、先頭の磁気吸着車両1aが壁面へ移動すれば、磁気吸引力を最大限発揮することができ、多関節アーム102を介して後続の磁気吸着車両1bを牽引して、壁面へ引き上げることが可能となる。
【0044】
そこで、群移動体100は、水平面から壁面へ移動する際に、まずは後続の磁気吸着車両1bが、多関節アーム102を駆動し、先頭の磁気吸着車両1aを持ち上げる(
図10(a))。その際、後続の磁気吸着車両1bが、先頭の磁気吸着車両1aの重さで前に転倒してしまわないように、水平面との磁気吸着力を強める。後続の磁気吸着車両1bが1つではなく複数台連続しているのであれば、磁気吸着力を強めなくても、自重で転倒を防止できる場合もある。
【0045】
その後、後続の磁気吸着車両1bは、前進すると共に多関節アーム102を回転させ、先頭の磁気吸着車両1aを壁面と平行にする。次いで、先頭の磁気吸着車両1aは壁面に対して磁気吸引力を作用させ、吸着する(
図10(b))。その後、先頭の磁気吸着車両1aは、前進、すなわち上方へ進行しながら後続の磁気吸着車両1bを引き上げると共に、後続の磁気吸着車両1bは多関節アーム102を回転させながら、適切な位置で壁面に吸着する。
【0046】
なお、この移動方法は、水平面から壁面への移動のみならず、壁面から天井面への移動や、大きな障害物を乗り越える際にも応用できる。従って、少なくとも2つの磁気吸着車両1を有する群移動体100によれば、一方が他方を持ち上げるということが可能となり、その結果、これまで走行不可能であった走行面、例えば移動前後の面に大きな変化がある場合や、大きな障害物を乗り越える場合等においても、走行が可能となる。
【0047】
また、表面に塗料等が厚く塗布された垂直な磁性体の壁面等を移動する場合には、落下を防止するために尺取虫のように移動してもよい。すなわち、
図10を例にして、磁気吸着車両1a及び磁気吸着車両1bが垂直面に移動した後の移動を考える。先頭の磁気吸着車両1aが壁面を昇る間は、後続の磁気吸着車両1bは、磁気吸着ユニット2の磁石26が磁石カバー25越しに壁面に略当接するように、すなわち、磁気吸着力が最大となるように磁石26を壁面に近接させる。そして、後続の磁気吸着車両1bは、多関節アーム102によって下方から先頭の磁気吸着車両1aの移動を支持する。
【0048】
その後、先頭の磁気吸着車両1aは、一定距離移動すると停止し、磁気吸着力が最大となるように磁石26を壁面に近接させる。次いで、後続の磁気吸着車両1bは、磁気吸着力を最大からやや弱めてから、壁面を上昇する。そして、先頭の磁気吸着車両1aは、多関節アーム102によって上方から後続の磁気吸着車両1aの移動を支持する。後続の磁気吸着車両1bは、一定距離移動する停止し、再び磁気吸着力が最大となるように磁石26を壁面に近接させる。次いで、先頭の磁気吸着車両1aは、磁気吸着力を最大からやや弱めてから、壁面を上昇し、以後これを繰り返す。
【0049】
このように、2つの磁気吸着車両1a、1bが、磁気吸着力を最大とする停止を交互に
切り替えることで、落下の危険性の少ない移動を行うことができる。この移動の応用例として、磁気吸着車両が3つ以上連結している群移動体の場合には、1又は複数の磁気吸着車両が、最大の磁気吸着力で停止し、他の1又は複数の磁気吸着車両1の移動を補助するようにして交互に移動するようにしてもよい。
【0050】
図10に示されるように、一方の磁気吸着車両が、多関節アーム102を介した他方の磁気吸着車両に対して、少なくとも3自由度の運動の制御ができれば、多様な走行面の移動が可能となる。3自由度の運動とはすなわち、
図10において紙面と平行の面内の2次元運動と、
図10において紙面に垂直な軸線周りの磁気吸着車両の回転運動である。
【0051】
図11は、本発明の一態様による群移動体200の斜視図である。
図11の群移動体200は、
図2に示された磁気吸着車両1を多関節アーム202で回転駆動機構201を介して連結している。なお、構造の簡略化のために、群移動体200では、磁気吸着車両1間を連結する把持部及び接続部材を有していない。
【0052】
図11に示された態様では、6自由度で制御可能であることから、より自由な走行及び運動が可能となる。すなわち、多関節アーム202は第1アーム203と、第2アーム204と、第3アーム205とを有している。第1アーム203は、磁気吸着車両1に対して、磁気吸着車両1の上下方向の軸線J1周りに回転可能であり且つ軸線J1に対して垂直な軸線J2周りに回転可能である。また、第2アーム204は、第3アーム205に対して、軸線J1と平行な方向の軸線J3周りに回転可能である。また、第3アーム205は、第2アーム204に対して、第2アーム204の中心軸線J4周りに回転可能である。また、第3アーム205は、軸線J1及びJ2と同様に、それぞれJ5及びJ6周りに回転可能である。各軸線周りの回転は、多関節アーム202に内蔵された制御装置及び駆動モータによって行われる。群移動体200が、6自由度で制御可能であることから、より複雑な動作が可能となる。
【0053】
図12は、本発明の一態様による群移動体300の適用例を説明する図である。群移動体300は、4つの磁気吸着車両1からなる。各磁気吸着車両1は独立して制御可能であり、その独立した制御下において、群移動体300として協働した動作が可能である。
【0054】
例えば、
図12(a)においては、
図10を参照しながら説明したように、4つの磁気吸着車両が互いに連結し、水平面から壁面へ移動する様子を示している。先頭の磁気吸着車両が壁面に吸着して走行しており、後続の磁気吸着車両がこれに続いている。その際、後続の磁気吸着車両は、前方の磁気吸着車両の走行を補助すべく後押しするようにしてもよい。
図12(b)においては、目的地に到達したため互いに連結を解除し、協働して作業を行っている様子を示している。例えば、或る磁気吸着車両は、切断器具を用いて建造物を切断し、また或る磁気吸着車両は、切断対象物を支え、また或る磁気吸着車両は、その様子をカメラで撮影して映像を群移動体300の操作者に送信する等、様々な作業を行わせることができる。
図12(c)においては、切断した部材を協働して運搬する様子を示している。
【0055】
このように、群移動体は、互いに着脱可能であることから、単一のユニット、すなわち1つの磁気吸着車両に分けて運搬することが可能となり、現場への運搬性が高いという利点も有する。