特許第6080010号(P6080010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6080010ガラス繊維組成物、ガラス繊維及びガラス繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080010
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】ガラス繊維組成物、ガラス繊維及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20170206BHJP
   B28B 23/02 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C03C13/00
   B28B23/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-115098(P2013-115098)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234319(P2014-234319A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長壽 研
(72)【発明者】
【氏名】松本 稔
(72)【発明者】
【氏名】澤里 拡志
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−145814(JP,A)
【文献】 特開2007−039320(JP,A)
【文献】 特表2010−513207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
B28B 23/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の質量百分率表示でSiO 50〜60%、Al 10〜16%、B %、MgO 0.1〜5%、CaO 16〜30%、SrO 0.1〜2%、BaO 0.1〜2%、MgO+CaO+SrO+BaO 22〜30%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、LiO+NaO+K0.1〜2%、P 0〜3%含有することを特徴とするガラス繊維組成物。
【請求項2】
成形温度Txが1250℃以下であり、かつ液相温度Tyが1130℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維組成物。
【請求項3】
成形温度Txと液相温度Tyとの温度差△Txyが100℃以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかのガラス繊維組成物からなることを特徴とするガラス繊維。
【請求項5】
チョップドストランド、ヤーン、及びロービングの何れかの形態であることを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のガラス繊維を有機媒体、コンクリート又はモルタルと複合化させてなることを特徴とするガラス繊維含有複合材料。
【請求項7】
酸化物換算の質量百分率表示でSiO 50〜60%、Al 10〜16%、B %、MgO 0.1〜5%、CaO 16〜30%、SrO 0.1〜2%、BaO 0.1〜2%、MgO+CaO+SrO+BaO 22〜30%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、LiO+NaO+K0.1〜2%、P 0〜3%含有するガラスとなるようにガラス原料を調合し、溶融した後、紡糸してガラス繊維に成形することを特徴とするガラス繊維の製造方法。
【請求項8】
目標成形温度に対して±20℃の範囲で計測管理しながら紡糸することを特徴とする請求項7に記載のガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の補強材等として用いられるガラス繊維、及びその製造方法に関する。
【0002】
複合材料に用いられるガラス繊維(ガラスファイバーともいう)は、一般に略矩形状の外観を有するブッシング(白金加熱容器ともいう)と称される成形装置を使用して連続的に成形、紡糸することで製造されている。ブッシング装置は、溶融ガラスを一時滞留させることができるポット形状容器であり、白金等の耐熱性金属材料により構成されている。またその底部には、多数のノズル(ブッシングノズル)を備えている。このブッシング装置によって、ブッシングノズル先端で溶融ガラスが最適な温度、具体的には10dPa・sに相当する温度(成形温度Tx)近傍の値となるように温度管理を行い、溶融ガラスをブッシングノズルから連続的に引き出し、フィラメント状に成形する。このようにして成形されたモノフィラメントを所定本数毎に集束し、ガラス繊維(ガラス長繊維)を得る。
【0003】
このようなガラス繊維の成形を行う場合、溶融ガラスの液相温度Tyが成形温度Txで以上になると、ブッシングノズル近傍部で失透の原因となる結晶が溶融ガラス中に析出し易くなり、その結果、ブッシングノズルが詰まり、ブレークと称される糸切れの原因となる。このため、溶融ガラスの液相温度Tyと紡糸温度の温度差△Txyが大きいほど、また失透温度Tyが低いほど好ましい。
【0004】
一方、ガラス繊維の製造では、環境汚染の問題に対する配慮から、ガラス組成物中のホウ素(B)の含有量を低減する試みが行われてきている。さらに、ホウ素の供給源となる原料が高価であることから、ガラス繊維原価の低減を達成するためにもガラス組成中のホウ素含有量を減少させることは重要となっている。このような観点から特許文献1、特許文献2あるいは特許文献3は、いずれもガラス組成の限定を行うことで、この目的の達成を試みている。
【0005】
また、微細な構造制御を要する機能部材に利用される用途では、細番手のガラス繊維製品への要望が強くなっている。例えば、プリント配線基板等では、絶縁基材を介して設けられた任意の導体層間を連結する0.1mm以下の導通孔(ビアホールあるいはビア、スルーホール、インナビアホール、ブラインドビアホール、バイアホール等と呼称される)をドリル加工やレーザー加工する必要があり、そのような高精度の加工を基板に施すためには基材を構成するガラス繊維として細番手のガラス繊維を使用することが好ましいことが判明している。
【0006】
細番手のガラス繊維を紡糸するためには、ブッシングのノズル径を細くすればよいが、細くすればするほど、ノズルのクリープ変形等の問題が発生し易くなり、ブッシングのベースプレートの耐用時間が短くなるという問題がある。このような問題を回避するため、特許文献4や特許文献5などでは、ブッシングやノズルの形状を限定する発明が行われている。また、上記したようなブッシングによるガラス繊維の成形では、ノズルの詰まりは繊維の切断につながり、製品歩留まりを低下させることになるため、それを防止することが重要である。そこで、特許文献6では、ノズルに不均質な異物などが流れてこないようにするための堰を設けるという発明が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−247684号公報
【特許文献2】特開2005−29465号公報
【特許文献3】特表2003−500330号公報
【特許文献4】特開平5−279072号公報
【特許文献5】特開平7−215729号公報
【特許文献6】特開平9−142871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまでに行われた各種の改善だけでは充分に高い効果を実現することは困難であり、さらなる改善の余地があった。例えば、ガラス製造業は非常に多くのエネルギーを消費する産業であり、ガラスの高温粘度を低下させる必要がある。また、ガラスの高温粘度が高いと溶融温度が高くなり、溶融窯の耐火物侵食が大きくなることで窯の寿命が短くなるという問題がある。窯の改修で発生する廃耐火物は埋め立て処理されるため、いずれにしても環境に負荷を与えるものである。溶融性を改善するためには、製造設備の能力を大幅に向上させる等の対応を要する場合も多く、その結果、トータルの製造原価を高額なものとしてしまうという問題がある。また、細番手に対応するために行われる設備の変更にも、ブッシングのベースプレート等の設備寿命を短くする要因もあることから、限界がある。また、このような設備の変更は従来想定されていなかった以下のような製造上の問題を新たに発生させる。例えば、ブッシングノズル径を細くすると、従来問題とされなかった微細な寸法の異物や溶融ガラスの失透までもが糸切れの原因となる。そして、このような問題を解決できるガラス組成物を実現するという取り組みに関しても、従来の繊維径に加えて、より細番手のガラスモノフィラメントの成形を、容易に製造できるものにはなっていない。
【0009】
このような状況にあって、本発明者等は上記したような問題、特に細番手ガラスモノフィラメントの製造が容易なガラス繊維用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は種々の検討を行った結果、ガラス組成としてSrOとBaOを少量含有させることにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0011】
即ち、本発明のガラス繊維組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 50〜60%、Al 10〜16%、B 0〜8%、MgO 0〜5%、CaO 16〜30%、SrO 0.1〜2%、BaO 0.1〜2%、MgO+CaO+SrO+BaO 22〜30%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、LiO+NaO+KO 0〜2%、P 0〜3%含有することを特徴とする。ここで「MgO+CaO+SrO+BaO」とは、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の合量を意味する。また「LiO+NaO+KO」とは、LiO、NaO及びKOの含有量の合量を意味する。
【0012】
上記構成によれば、生産性を損なうことがなく、細番手のガラス繊維を製造する場合にも糸切れなどによって製造歩留まりの低下を効果的に抑制できる。
【0013】
本発明においては、成形温度Txが1250℃以下であり、かつ液相温度Tyが1130℃以下であることが好ましい。ここで「成形温度Tx」とは、ガラスの粘性が10dPa・sとなる温度を意味する。「液相温度Ty」とは、特定の結晶相が初相として生成する温度を意味する。
【0014】
上記構成によれば、低温で紡糸できることから、設備に対する負荷を軽減することが可能になる。またガラスモノフィラメント成形時に溶融ガラス中に結晶が析出することがない状態を維持し易くなる。
【0015】
本発明においては、成形温度Txと液相温度Tyとの温度差△Txyが100℃以上であることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、ブッシングノズル付近での失透が生じ難くなり、糸切れを効果的に抑制することができる。これにより安定したガラス繊維の成形、特に細番手のガラス繊維の連続成形を実現することが容易になる。
【0017】
本発明のガラス繊維は、上記したガラス繊維組成物からなることを特徴とする。なお本発明において「ガラス繊維」とは、複数のガラスモノフィラメントを集束したものの総称を指し、その形態は問わない。
【0018】
本発明においては、チョップドストランド、ヤーン、及びロービングの何れかの形態であることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス繊維含有複合材料は、上記したガラス繊維を有機媒体、コンクリート又はモルタルと複合化させてなることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、有機媒体やコンクリート、あるいはモルタル単独では実現できなかった長期間に亘る安定した物理的な強度を達成することが可能になる。
【0021】
本発明のガラス繊維の製造方法は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 50〜60%、Al 10〜16%、B 0〜8%、MgO 0〜5%、CaO 16〜30%、SrO 0.1〜2%、BaO 0.1〜2%、MgO+CaO+SrO+BaO 22〜30%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、LiO+NaO+KO) 0〜2%、P 0〜3%含有するガラスとなるようにガラス原料を調合し、溶融した後、紡糸してガラス繊維に成形することを特徴とする。
【0022】
本発明においては、目標成形温度に対して±20℃の範囲で計測管理しながら紡糸することが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、成形時の温度変動に応じた対処を行うシステムと連動させることによって高い寸法品位を達成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のガラス繊維組成物について、各成分の組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。なお以下の説明において、特に断りがない限り、%表示は質量%を意味する。
【0025】
SiOは、酸化物ガラスの骨格構造を形成し、ガラス物品の強度や基本的な化学的耐久性、そして溶融時の粘性に大きく寄与する成分である。SiOの含有量が少ないとガラス繊維の機械的な強度が低下する。また、SiOの含有量が多いと溶融ガラスの粘性が高くなりすぎるため、均質な溶融状態にし難くなり、その結果、ガラス繊維径の調整が困難となり成形し難いといった問題の発生する可能性が大きくなる。SiOの含有量の好ましい範囲は50〜57%、より好ましくは51〜55%、最も好ましくは52〜55%である。
【0026】
Alは、ガラスの初期溶解性を向上する成分であり、失透性の改善効果も有する成分である。Alの含有量が少ないとガラスの失透傾向が強くなる。また、Alの含有量が多くなると、SiOほどではないが、ガラスの粘性が高くなり、成形などでの問題発生が懸念される。Alの含有量の好ましい範囲は10〜14%、より好ましくは11〜14%、最も好ましくは12〜14%である。
【0027】
は、ガラスの粘性を低下させることによってガラスの溶融温度を低くし、ガラスの溶解性を向上させる働きを有する成分である。ただ、その原料は一般に高価であり、さらに多量に含有させると溶融ガラスからの蒸発量も多くなるので環境保護の観点からも多量に含有させるのは好ましくない。Bの含有量の好ましい範囲は1〜8%、より好ましくは2〜7%、最も好ましくは3〜6.5%である。
【0028】
MgO及びCaOは、いずれも溶解性を改善する成分である。
【0029】
MgOの含有量が多くなるとディオプサイト(Di)(CaO・MgO・2SiO)が析出し易くなり、液相温度が上昇するので好ましくない。MgOの含有量の好ましい範囲は0〜4%、より好ましくは0〜3%、最も好ましくは0.1〜3%である。
【0030】
CaOの含有量が少ないと溶融ガラスの粘性が高くなり、溶融性や紡糸性が悪くなる。一方、CaOの含有量が多くなるとウォラストナイト(Wo)(CaO・SiO)が析出し易くなるので好ましくない。CaOの含有量の好ましい範囲は16〜25%、より好ましくは20〜25%、最も好ましくは20〜24%である。
【0031】
SrO及びBaOは、溶解性や失透性の向上に寄与する成分である。また、SrOやBaOは、MgOやCaOと一部置換してこれらの成分の含有量を低減させることができるため、ディオプサイト(Di)(CaO・MgO・2SiO)やウォラストナイト(Wo)(CaO・SiO)の析出温度を下げることができる。その結果、紡糸の際に失透が生じ難くなり、生産性を向上させることができる。
【0032】
SrOが多くなると原料コストが上昇するため好ましくない。SrOの含有量の好ましい範囲は0.1〜1.8%、より好ましくは0.1〜1.6%、さらに好ましくは0.1〜1.4%、最も好ましくは0.1〜1%である。
【0033】
BaOが多くなると原料コストが上昇するため好ましくない。BaO成分の好ましい範囲は0.1〜1.8%、より好ましくは0.1〜1.5%、最も好ましくは0.2〜1%である。
【0034】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)の含有量の合量が少ないと溶融ガラスの粘性が高くなり、溶融性や紡糸性が悪くなる。一方、これらの成分の合量が多いと失透性が悪化する。アルカリ土類金属酸化物の含有量の合量は、22〜29%、特に23〜28%であることが好ましい。
【0035】
なおアルカリ土類金属酸化物の中でも、SrOやBaOの原料は比較的高価である。そこで原料として炭酸ストロンチウムや炭酸バリウムで導入する方法以外に、使用可能な範囲で液晶ディスプレイなどに用いられ、SrOやBaOを含有するシリカーアルミーホウ酸系ガラスカレットを原料として用いることも可能である。
【0036】
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)は、ガラスの溶解性やガラス繊維の紡糸性を顕著に向上させるという働きを有する。しかしながらアルカリ金属酸化物が多くなりすぎると複合材料とした場合に、ガラス中のこれらアルカリ金属成分が溶出することにより、経時的な強度を維持し難くなるといった問題が生じる。アルカリ金属酸化物の含有量の合量は、0〜2%、特に0〜1%、さらには0.1〜0.8%であることが好ましい。なお原料として、高純度な原料構成を採用するならば、実質上アルカリ金属酸化物を含有しない組成とすることもできるが、天然原料を使用しても含有量を管理できるのであれば、0.1%以上の含有を許容してもよい。
【0037】
LiO、NaO、KOの含有量の好ましい範囲は、何れも0〜1%である。
【0038】
は、溶融ガラス中に微細な結晶核の形成を抑止する効果を有する成分である。特に、ウォラストナイト(Wo)(CaO・SiO)、ディオプサイト(Di)(CaO・MgO・2SiO)の結晶生成温度を低下させる効果が顕著である。しかし、Pの含有量が多くなるとガラスの失透傾向が強くなるため好ましくない。Pの含有量の好ましい範囲は0〜2%、より好ましくは0〜1%、最も好ましくは0.1〜1%である。
【0039】
また、上記した以外に、TiO、ZrO、As、SnO、ZnO、Sb、SO、Cl、HO、He、Ar、Xr、H、Fe、Ni、W、Mo、Pt、Rh、Ag、Au、Cu、Hg、あるいはNbなどを必要に応じて適量含有することができる。特に、気体成分であるO、CO、CO、SO、N、Cl、HO、He、Ne、Ar、XrあるいはHについては0.01ppmから1000ppmまで含有してもよい。
【0040】
本発明のガラス繊維は、ガラス繊維の特性上あるいは用途上何ら問題が生じなければ、たとえ微細結晶が含有されるものであってもよい。
【0041】
本発明のガラス繊維は、成形温度Txが1250℃以下であり、かつ液相温度Tyが1130℃以下であるガラスからなることが好ましい。溶融紡糸(melt−spinning)工程で溶融ガラスを繊維状とするために重要なガラスについての物理因子は、溶融ガラスの表面張力と溶融ガラスの粘性であるが、溶融ガラスの表面張力は温度依存性が小さく、一般に300dyn/cm程度である。このため、溶融ガラスをモノフィラメントとするには粘性が最も重要なものとなる。本発明者は、これまでの研究から、細番手のガラス繊維であっても充分な余裕をもって成形操作を実現できる範囲として、液相温度Tyが1130℃以下、特に1100℃以下、さらには1080℃以下であり、しかも成形温度Txが1250℃以下、特に1230℃以下、さらには1200℃以下であることが望ましいことを見いだした。
【0042】
また成形温度Txと液相温度Tyの温度差が100℃以上、特に110℃以上、さらには120℃以上であれば、成形条件に幅を持たせることができ、細番手からそれよりも太い番手のガラス繊維までも対応することが可能となるため好ましい。液相温度Tyを成形温度Txから充分に低い温度とすることによって、成形温度Txでの成形条件の微妙な変動や、成形繊維径寸法の変更等によって溶融ガラスの温度が変動することがあっても、微細な結晶が溶融ガラス中に析出することがなく、安定した品位を維持することが可能となるので好ましい。
【0043】
上記した特性は、上記組成範囲内において成分割合を適切に選択すれば容易に得ることができる。
【0044】
次に本発明のガラス繊維を製造する方法を、ダイレクトメルト法(DM法)を例にして説明する。なお本発明は下記の方法に制限されるものではなく、例えばマーブル状に成形した繊維用ガラス材料をブッシング装置で再溶融し紡糸する、いわゆる間接成形法(MM法:マーブルメルト法)を採用することもできる。この方法は少量他品種生産に向いている。
【0045】
まず酸化物換算の質量百分率表示でSiO 50〜60%、Al 10〜16%、B 0〜8%、MgO 0〜5%、CaO 16〜30%、SrO 0.1〜2%、BaO 0.1〜2%、MgO+CaO+SrO+BaO 22〜30%、NaO 0〜2%、KO 0〜2%、LiO+NaO+KO 0〜2%、P 0〜3%含有するガラスとなるようにガラス原料を調合する。各成分の含有量を上記の通りとした理由は既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0046】
次いで、調合したガラス原料バッチをガラス溶融炉に投入し、ガラス化し、溶融、均質化する。溶融温度は1400〜1550℃程度が好適である。
【0047】
続いて溶融ガラスを紡糸してガラス繊維に成形する。詳述すると、溶融ガラスをブッシング装置に供給する。さらにブッシング装置の底面に設けられた多数のブッシングノズルからガラスをフィラメント状に引き出し、所定本数毎に集束することによってガラス繊維に成形する。ブッシング装置を用いて製造することにより、所望の直径を有するガラス繊維を大量に連続生産することができ、得られたガラス繊維の変動直径値が所定範囲内となるように調整することが可能である。
【0048】
ブッシング装置については、どのようなものであっても、所望の耐熱性を有し、充分な強度を有する装置であって、容器の一部に溶融ガラスを流出させる所定の開口部を有する装置であるならば使用することができる。ブッシング装置の他部位の構造や、付帯された装置の有無等は問わない。また、ブッッシング装置の全体寸法や形状、さらに加熱方式や孔数、孔寸法、孔形状、ノズル形状あるいはノズル数についても特に限定されることはない。そして、所定の強度を有するならどのような材料で構成されたものであっても使用することが可能である。特に好適なものとしては、白金を含有する耐熱金属によって構成されたものである。
【0049】
なお、ブッシング装置へと流入する溶融ガラスの加熱方法、均質化方法などについては、任意の方法を採用することができ、溶融ガラスの流量や原料構成などについても限定されることはない。
【0050】
また、ブッシング装置による溶融ガラスの成形温度Txを目標成形温度に対して±20℃の範囲で計測管理しながら紡糸することが好ましい。このようにすれば、成形されるガラス繊維径の変動を抑えるためのブッシング温度の微調整が的確に行え、これによりガラス繊維の成形粘度を高度に安定化させることが可能となる。
【0051】
成形温度Txの計測管理は、どのような測定手段で温度計測を行うものであってもよい。例えば、熱電対によるものであっても、オプティカルパイロメーターのような光学的な方法によるものであってもよい。計測された結果については、随時プログラム等によって監視することが可能であり、温度の急激な上昇や下降に即応できるような加熱冷却システムをブッシング装置に付加することで、高精度な管理が可能となる。
【0052】
また各種の処理剤は、モノフィラメントを集束する際に塗布することができる。例えば、集束剤、結束剤、カップリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、乳化剤、乳化安定剤、pH調整剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、妨黴剤あるいは安定剤等を単独種あるいは複数種を任意に組み合わせて集束されたガラス繊維の表面に適量塗布し、被覆することができる。また、このような表面処理剤あるいは塗布剤は、殿粉系のものであってもプラスチック系のものであってもよい。例えば、FRP用の集束剤であれば、アクリル、エポキシ、ウレタン、ポリエステル、酢酸ビニル、酢酸ビニル・エチレン共重合体などを適宜使用することができる。
【0053】
このようにして成形された本発明のガラス繊維は、チョップドストランド、ヤーン、ロービング等に加工され、種々の用途に供される。
【0054】
なおチョップドストランドとは、ガラスモノフィラメントを集束したガラス繊維(ストランド)を所定長の長さに切断したものである。ヤーンとは、ストランドに撚りをかけたものである。ロービングとは、ストランドを複数本合糸し、円筒状に巻き取ったものである。
【0055】
チョップドストランドについては、その長さ寸法や繊維径については限定されない。繊維の長さ寸法や繊維径については、用途に適応したものを選択することができる。また、チョップドストランドの製造方法についても任意のものを採用することができる。切断方法についても任意の方法を採用することができる。例えば、外周刃切断装置や内周刃切断装置、ハンマーミル等を使用することが可能である。
【0056】
また、チョップドストランドの使用形態についても特に制限されない。すなわち、チョップドストランドを平面上、或いは三次元的に無方向に積層或いは集積させ、特定の結合剤でバルク状に一体化させることができる。
【0057】
ヤーンについては、その撚りの大きさや方向などについては特に限定されない。
【0058】
また、ロービングについては、巻き取られた繊維径やひき揃えた本数について限定されるものではない。
【0059】
また、本発明のガラス繊維は、上記以外にもLFTP、コンティニュアスストランドマット、ボンデッドマット、クロス、テープ、組布、あるいはミルドファイバ等の形態として利用することもできる。また、樹脂を含浸させたプレプレグとすることもできる。そして、ガラス繊維を適用する使用法、成形法などについても、スプレーアップ、ハンドレーアップ、フィラメントワインディング、射出成型、遠心成形、ローラー成形、あるいはマッチダイを使用するBMC、SMC法などにも対応することができる。
【0060】
また本発明のガラス繊維組成物は、上記したような長繊維として使用する場合に限定されるものではなく、例えば断熱材等に使用される短繊維に成形することも可能である。この場合、ブッシング装置の使用に代えて、スピナーと呼ばれる繊維化装置により成形すればよい。
【0061】
本発明のガラス繊維は、有機媒体、コンクリート又はモルタルと複合化させることができる。
【0062】
ここで、有機媒体とは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの有機樹脂に代表されるものである。また、コンクリートはセメントと砂、砂利、水を混合したもの、モルタルはセメントと砂、水を混合したものである。
【0063】
有機媒体の種類については、用途に応じて適宜最適な樹脂を単独、あるいは複数種併用することが可能であり、他の構造補強材、例えば炭素繊維やセラミックス繊維、ビーズ材等も併用することもできる。
【0064】
また、コンクリートやモルタルを構成する各種成分の配合割合やセメントの種類についても特に限定するものではない。フライアッシュ等も添加することができる。
【0065】
本発明のガラス繊維複合材料は、具体的に次の様な用途での使用が可能である。例えば、電子機器関連用途では、プリント配線基板、絶縁板、端子板、IC用基板、電子機器ハウジング材、ギアテープリール、各種収納ケース、光部品用パッケージ、電子部品用パッケージ、スイッチボックス、絶縁支持体などがあり、車載関連用途では、車体屋根材(ルーフ材)、窓枠材、車体フロント、カーボディ、ランプハウス、エアスポイラー、フェンダーグリル、タンクトロリー、ベンチレーター、水タンク、汚物タンク、座席、ノーズコーン、フェンダーグリル、カーテン、フィルター、エアコンダクト、マフラーフィルター、ダッシュパネル、ファンブレード、ラジエータータイヤ、タイミングベルトなどがあり、航空機関連用途では、エンジンカバー、エアダクト、シートフレーム、コンテナ、カーテン、内装材、サービストレイ、タイヤ、防振材、タイミングベルトなどがあり、造船、陸運海運関連用途では、モーターボート、ヨット、漁船、ドーム、ブイ、海上コンテナ、フローター、タンク、信号機、道路標識、カーブミラー、コンテナ、パレット、ガードレール、照明灯カバー、火花保護シートなどがあり、農業関連用途では、ビニールハウス、サイロタンク、スプレーノズル、支柱、ライニング、土壌改良剤などがあり、建設・土木・建材関連では、バスタブ、バストイレユニット、便槽、浄化槽、水タンク、内装パネル、カプセル、バルブ、ノブ、壁補強材、プレキャストコンクリートボード、平板、並板、テント、シャッター、外装パネル、サッシ、配管パイプ、貯水池、プール、道路、構造物側壁、コンクリート型枠、ターポリン、防水ライニング、養生シート、防虫網などがあり、工業施設関連用途では、バグフィルター、下水道パイプ、浄水関連装置、妨振コンクリート補強材(GRC)、貯水槽、ベルト、薬品槽、反応槽、容器、ファン、ダクト、耐蝕ライニング、バルブ、冷蔵庫、トレー、冷凍庫、トラフ、機器部品、電動機カバー、絶縁ワイヤ、変圧器絶縁、ケーブルコード、作業服、カーテン、蒸発パネル、機器ハウジングなどがあり、レジャースポーツ関連用途では、釣竿、スキー、アーチェリー、ゴルフクラブ、プール、カヌー、サーフボード、カメラ筐体、ヘルメット、衝撃保護防具、植木鉢、表示ボードなどがあり、日用品関連用途では、テーブル、椅子、ベッド、ベンチ、マネキン、ゴミ箱、携帯端末保護材などがある。
【0066】
また、本発明のガラス繊維組成物は、スペーサー材料として使用することもできる。例えば、液晶テレビやパソコンの表示装置として利用される液晶表示装置において、2枚の基板ガラス間の間隔を保持するために用いられる液晶スペーサー用途として用いることができる。この用途の場合、モノフィラメントを集束させず、単体で使用する。
【0067】
さらに、本発明のガラス繊維はリサイクルも可能である。すなわち、本発明のガラス繊維を含有する物品から再溶融工程を経て、繊維形状、あるいは球状や粒状等の繊維以外の各種形状に成形して他の用途に使用してもよい。例えば、土壌添加材、コンクリート添加材あるいは骨材、アスファルト添加材などとしても使用できる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明のガラス繊維用組成物及びガラス繊維について、実施例に基づいて具体的に説明する。
[実施例1]
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜10)及び比較例(試料No.11)を示している。
【0069】
【表1】
【0070】
試料No.1〜11の各ガラス試料は、以下の手順で調製し、各評価に供した。
【0071】
まず、それぞれのガラス組成となるようにガラス原料を所定量秤量して混合したガラスバッチ原料を、白金ロジウム坩堝に投入し、間接加熱方式の電気炉内にて大気雰囲気中で1500℃、5時間の加熱溶融を実施した。尚、均質な溶融ガラスとするために加熱溶融の途中で耐熱性撹拌棒を使用して溶融ガラスの撹拌を行った。
【0072】
その後、均質な状態となった溶融ガラスをカーボン製の鋳型に流し出して所定形状に鋳込み成形を行い、徐冷操作を行って最終的な計測用のガラス成形体を得た。
【0073】
表1に示した実施例の各ガラス組成物についての物理特性は、以下の手順で計測した。
【0074】
溶融ガラスの粘性値が10dPa・sに相当する成形温度Txについては、各ガラス成形体をアルミナ製坩堝に投入して、再加熱し、融液状態にまで加熱した後に、白金球引き上げ法に基づいて計測した各粘性値の複数の計測によって得られた粘性曲線の内挿によって算出した。
【0075】
また、液相温度Tyについては、各ガラス成形体を所定形状に切断して所定粒度に粉砕加工し、微粉砕物を除去して、所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの粒度範囲に調整し、白金製の容器に適切な嵩密度を有する状態に充填して、最高温度を1250℃に設定した間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。その後に白金製容器ごと試験体を取り出し、室温まで放冷後、偏光顕微鏡によって析出結晶の同定と析出温度である液相温度Tyの特定作業を行った。
【0076】
また成形温度Txと液相温度Tyの温度差を示すΔTxyは、上記の方法で求めた成形温度Txと液相温度Tyから算出した。
【0077】
以上の試験によって、本発明の実施例である試験No.1〜10の試料は、表1に示したようにガラス繊維の成形に適したガラス組成を有するため、成形温度Txが1174〜1194℃、液相温度Tyが1030〜1072℃、ΔTxyが110〜154℃であり、低温で成形可能であり、しかも成形時の失透が生じ難い材質であることが確認できた。
【0078】
一方、比較例である試料No.11のガラス組成物は、SrOやBaOを含んでいないため、液相温度Tyが1140℃と高く、またアルカリ土類金属酸化物の合量が22%と少ないため、成形温度Txが1270℃と高かった。
[実施例2]
次いで、本発明のガラス繊維用組成物を使用することによって実現できるガラス繊維について説明する。
【0079】
例えば、実施例1の試料No.1のガラス組成を有するガラス繊維用組成物を溶融した後、白金製のノズルを有するブッシング装置に供給し、直径3μmのモノフィラメントをブッシングノズルから引き出す。このモノフィラメントに集束剤を塗布し、複数本束ねてストランドとする。
【0080】
このブッシング装置には、熱電対計測でブッシング温度に該当するブッシング装置内の溶融ガラスの温度を常時監視できるシステムが作動するように設計されている。監視温度幅は目標とする成形温度に対して±20℃であり、成形温度が監視温度幅から外れた場合、それを是正するように温度調整が行われる。このため、安定した成形紡糸が可能となっている。
【0081】
このように本発明の組成物を使用すれば、連続成形しても糸切れが発生しにくいため、繊維径の安定したガラス繊維とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明のガラス繊維組成物を適用したガラス繊維、及びガラス繊維含有複合材は、優れた性能を発揮するものであり、産業のあらゆる分野に適用することが可能となるものである。特に細番手が要求される用途/分野において極めて有用である。