特許第6080083号(P6080083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6080083
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】触覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20170206BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20170206BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20170206BHJP
   G01B 17/08 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   G01L5/00 Z
   G01N29/24
   G01L1/00 C
   G01B17/08
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-14614(P2016-14614)
(22)【出願日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彰敏
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5750745(JP,B2)
【文献】 特開2015−117942(JP,A)
【文献】 特開平8−90458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B17
G01N29
G01L1
G01L5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の高い樹脂を素材Saとし、指の爪甲部に相当する板状体と、
内部に指の皮下組織と同質の素材Sbが封じられ、その一部において該板状体が当接するように形成された指状基部と、
前記板状体よりも柔軟性が高い素材Scからなり、該指状基部を内封するように装着された隔壁部と、
前記板状体の上面に装着され、前記指状基部において該板状体と対向する方向に向けて所定の周波数の超音波を発信する超音波探触子と、
指の皮下組織と同質の素材Sdからなり、前記超音波探触子から発信された超音波の1/4波長以下の膜厚を有し、前記隔壁部を被覆するように装着される真皮部と、
前記隔壁部よりも柔軟性が高く、薄膜の形成が可能な素材Seからなり、前記真皮部を内封するように装着され、対象物に接触させる表皮部と、を有し、
該対象物に対して表皮部を接触させたときに、
前記指状基部を通過して前記隔壁部において反射する反射波(反射波Rb)を受信し、受信された該反射波Rbの位相から指荷重の大きさを推定し、
前記隔壁部からの反射波Rbの波高の変動から前記対象物の表面性状Aを推定し、
前記隔壁部からの反射波Rbまたは隔壁部を通過して前記真皮部において反射する反射波(反射波Rc)と、前記真皮部を通過して前記表皮部において反射する反射波(反射波Rd)との干渉波の波高の変動から前記対象物の表面性状Bを推定する、
ことを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
前記真皮部の素材として、前記素材Sdに代え、前記隔壁部の素材Scよりも音響インピーダンスの高い素材Sfを用いることを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【請求項3】
前記隔壁部からの反射波Rbの波高と前記表皮部からの反射波Rdの波高が、ほぼ等しいことを特徴とする請求項1記載の触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子を用いて対象物の表面状態を計測する触覚センサに関し、特に対象物の表面状態を人間の触覚に近い情報として計測が可能な触覚センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば,人間の指腹やゲル状の柔軟物と相手面の接触評価のように,移動物体裏面の接触情報が必要な場合が多くあり、人間の触覚を代用する種々の触覚センサの開発が盛んに行われている。例えば、感圧導電ゴムの利用、電極間の容量変化の検知、巧妙な音響共鳴触覚素子、そして、透明なゴム製半球でのレーザー光の反射を利用するもの等多くのセンサが挙げられる。例えば、下記特許文献1は、光学式触覚センサであり、透明弾性体で構成された入力デバイスとカメラ部から構成され、弾性体に加えられた3次元の力ベクトルの分布を実時間で計測するものである。これにより、人間の触覚情報とほぼ同様な情報を計測しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−288033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の触覚センサは、指その物や表皮・感覚受容器を模倣したセンサであって、特定方向の圧力や温度等の情報を基に計測するものである。表面の凹凸や柔軟度については、精度良く測定することが可能であるが、実際の指のように、圧感,触感(粗さやうねりを含む),振動,伸縮および緊張といった機械的な要素を正確に検知し、対象物との接触を評価するものではない。また、ざらつきといった複合的な感触を検知することは、さらに難しい。
【0005】
仮に、人間の指そのものを利用したセンサ技術ができたとすると、個人の実際の触動作過程における、その場での官能的な評価との一対一の対応も可能であり、例えば、化粧用のクリームを肌に延ばす際の指荷重のかかり具合と使用感の関係を従来にない正確さで評価できる。また、製品表面の触り心地の官能評価結果とセンサで計測される触動作時の接触状態の対比から、触り心地の良い表面の創出に寄与できる可能性も高い。しかし、従前のセンサ技術では、官能評価結果と触り心地とのよい相関を得ることは非常に困難であった。
【0006】
また、歪センサや圧力センサ等複数の機能センサを配置し、これらの情報を基に人間の触覚に近い情報として処理することは理論的には可能であるが、例えば人間の指の機能を補完するロボット等に適用する場合にあっては、操作部を含む大掛かりな触覚センサとならざるをえない。装置や機能が煩雑であり、コスト面を含め実用化は甚だ困難であるといえる。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一の単機能の超音波探触子を用いた簡易な構成で、例えば人間の指腹部と対象物との接触状態を,対象物の表面状態を人間の触覚に近い情報として計測が可能な触覚センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す触覚センサによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、触覚センサであって、剛性の高い樹脂を素材Saとし、指の爪甲部に相当する板状体と、
内部に指の皮下組織と同質の素材Sbが封じられ、その一部において該板状体が当接するように形成された指状基部と、
前記板状体よりも柔軟性が高い素材Scからなり、該指状基部を内封するように装着された隔壁部と、
前記板状体の上面に装着され、前記指状基部において該板状体と対向する方向に向けて所定の周波数の超音波を発信する超音波探触子と、
指の皮下組織と同質の素材Sdからなり、前記超音波探触子から発信された超音波の1/4波長以下の膜厚を有し、前記隔壁部を被覆するように装着される真皮部と、
前記隔壁部よりも柔軟性が高く、薄膜の形成が可能な素材Seからなり、前記真皮部を内封するように装着され、対象物に接触させる表皮部と、を有し、
該対象物に対して表皮部を接触させたときに、
前記指状基部を通過して前記隔壁部において反射する反射波(反射波Rb)を受信し、受信された該反射波Rbの位相から指荷重の大きさを推定し、
前記隔壁部からの反射波Rbの波高の変動から前記対象物の表面性状Aを推定し、
前記隔壁部からの反射波Rbまたは隔壁部を通過して前記真皮部において反射する反射波(反射波Rc)と、前記真皮部を通過して前記表皮部において反射する反射波(反射波Rd)との干渉波の波高の変動から前記対象物の表面性状Bを推定する、
ことを特徴とする。
【0010】
上記のように、対象物の表面性状に対して人間の指先と同様の触覚機能を有する触覚センサを実現することは非常に難しい。本発明者は、超音波を用いた触覚センサの研究過程における種々の検証の結果、人間の表皮部と対象物との接触状態は、主として
(i)表皮部に対する対象物からの押圧(指荷重)に係る要素,
(ii)ウネリに相当する対象物表面の比較的荒い凹凸(表面性状A)に係る要素,および
(iii)対象物表面の微小な凹凸(表面性状B)に係る要素
によって影響されるとの知見を得た。また、後述するように、表皮部からの反射波Rdのみから同時に表面性状Aと表面性状Bに関する情報を分離して得ることは難しく、特に数10μm以下の微小な凹凸を精度よく表面性状Bの情報として取り出すことは難しかった。本発明は、指の皮下組織に相当する部分を、その内部に設けた隔壁部によって厚肉の指状基部と薄肉の真皮部に分割し、1つの超音波探触子から発信された超音波について、対象物に対して表皮部を接触させたときに大きな変化が生じる薄肉の真皮部からの反射波Rcと隔壁部からの反射波Rbとの干渉波の波高から、微小な凹凸に関する情報を入手し、比較的小さな変化が生じる隔壁部からの反射波Rbから、指荷重および比較的荒い凹凸に関する情報を入手することによって、人間の指先と同様の触覚を定量的に把握することを可能とした。特に、真皮部の膜厚を1/4波長以下とすることによって、真皮部の膜厚(微小な凹凸の状態)に対応した相関性の高い干渉波の波高を取り出すことが可能となり、微小な凹凸の状態を精度よく検知することが可能であるとの知見を得た。つまり、単一の単機能の超音波探触子を用い、隔壁部からの反射波Rbから指荷重の大きさおよび表面性状Aの情報を推定し、真皮部の膜厚を1/4波長以下とする表皮部からの反射波Rdと隔壁部からの反射波Rbとの干渉波から表面性状Bの情報を推定することによって、人間の触感(人間の指の特性は,年齢や性差,障害の有無等により異なる)にあった触覚情報を得ることが可能となり、人間の指の機能についてもロボット等に利用することが可能となった。
【0011】
本発明は、上記触覚センサであって、前記真皮部の素材として、前記素材Sdに代え、前記隔壁部の素材Scよりも音響インピーダンスの高い素材Sfを用いることを特徴とする。
上記の構成において、隔壁部は音響インピーダンスが高い素材Scから形成され、真皮部は音響インピーダンスが低い素材Sdから形成される。従って、隔壁部からの反射波と真皮部を通過した波の表皮部における反射波とは同位相での干渉波となり、指荷重のない状態において所定の波高を有し、指荷重の増加に伴い波高の増加量を検出することとなる。ただし、低インピーダンスの素材Sdの場合,真皮部での多重反射時の音波が減衰し易く、凹凸に対して十分な波高値の変化を得られない場合がある。そこで、本発明は、真皮部の素材を隔壁部よりも音響インピーダンスが高く、減衰が少ない素材とする。この場合の隔壁部からの反射波は順位相の反射波となるため、逆位相の表皮部からの反射波との干渉波の波高値は、指荷重の増加に伴い大きく低下するようになる。こうした構成によって、表皮部の変化をもたらす対象物表面の微小な凹凸に対応した情報を感度良く得ることが可能となった。
【0012】
本発明は、上記いずれかの触覚センサであって、前記隔壁部からの反射波Rbの波高と前記表皮部からの反射波Rdの波高が、ほぼ等しいことを特徴とする。
上記のように、本発明は、人間の指に単数の触覚センサを配設し、指の触覚機能を複数の要素に分けて定量的に把握し、対象物の表面に対する人間の触感にあった触覚情報を定量的に得ることができる。このとき、触覚センサの構成要素(例えば真皮部や表皮部の素材や厚み等)を、対象物によって種々調整・変更することによって最適条件での検出を行うことができる。また、隔壁部等についても、その素材や厚み等を調整・変更し、さらに最適条件として検出を行うことができる。具体的には、こうした触覚センサの構成要素を設定し、隔壁部からの反射波Rbの波高と表皮部からの反射波Rdの波高が、ほぼ等しくすることによって、表面性状Aおよび表面性状Bに対する十分な情報量を確保し、対象物の表面に対する人間の触感にあった触覚情報を定量的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る触覚センサの基本構成を例示する説明図
図2】本発明に係る触覚センサを構成する超音波探触子を用いた場合の基本的な特性を例示する模式図
図3】人間の指が対象物に接触したときのエコー高さの変動を実測した場合の特性を例示する説明図
図4】本発明に係る触覚センサを用いたときの反射波および干渉波の特性を例示する説明図
図5】本発明に係る触覚センサを用いたときの干渉波の特性を例示する説明図
図6】超音波探触子から発信される超音波としてバースト波を用いた場合の反射波の特性を例示する説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る触覚センサ(以下「本センサ」ということがある)は、剛性の高い樹脂を素材Saとし、指の爪甲部に相当する板状体と、
内部に指の皮下組織と同質の素材Sbが封じられ、その一部において該板状体が当接するように形成された指状基部と、
板状体よりも柔軟性が高い素材Scからなり、該指状基部を内封するように装着された隔壁部と、
板状体の上面に装着され、指状基部において該板状体と対向する方向に向けて超音波を発信する超音波探触子と、
指の皮下組織と同質の素材Sdからなり、1/4波長以下の膜厚を有し、隔壁部を被覆するように装着される真皮部と、
隔壁部よりも柔軟性が高く、薄膜の形成が可能な素材Seからなり、真皮部を内封するように装着され、対象物に接触させる表皮部と、を有する。
こうした構成を用いて表皮部と対象物との接触状態において、
(i)表皮部に対する対象物からの押圧(指荷重)に係る要素,
(ii)ウネリに相当する対象物表面の比較的荒い凹凸(表面性状A)に係る要素,および
(iii)対象物表面の微小な凹凸(表面性状B)に係る要素
についての情報を得ることによって、人間の指腹部と対象物との接触と同様の触覚を定量的に把握することを可能とした。以下、好適な実施形態につき図面を用いて説明する。
【0015】
<本センサの基本構成>
図1(A),(B)は、本センサ10の基本構成を例示する。指の爪甲部に相当する板状体11の上面12に超音波探触子1が装着され、その発信部1aから板状体11を介して対象物Mとの接触状態が形成される表皮部3方向に向けて超音波が発信される。発信された超音波の一部は、板状体11の下面13において反射(反射波Ra)するとともに、残りの超音波は、指の皮下組織と同質の指状基部14を通過して隔壁部15に到達する。隔壁部15の下面には、隔壁部15を被覆するように真皮部2が装着・形成され、さらに内層部を被覆するように表皮部3が装着・形成される。隔壁部15到達した超音波の一部は、隔壁部15の上面(指状基部14側)において反射(反射波Rb)し、さらに隔壁部15を通過した超音波の一部は、隔壁部15の下面(真皮部2側)において反射(反射波Rc)するとともに、残りの超音波は、真皮部2を通過して表皮部3に到達する。表皮部3(外層部)が対象物Mに接触した状態において、表皮部3に到達した超音波は、殆どが表皮部3の上面(真皮部2側)において反射(反射波Rd)する。反射波Ra〜Rdは、それぞれ爪甲部方向に反転し、順次超音波探触子1の受信部1bによって受信される。
【0016】
ここで、表皮部3(外層部)が非接触状態から対象物Mに接触した状態に変化した場合における反射波Ra〜Rdの位相および波高の変化について検証する。
(a)硬度の高い板状体11の状態は殆ど変化しないことから、対象物Mへの接触前後における反射波Raの位相および波高の変動は殆どない。
(b)反射波Rbは、対象物Mへの接触に伴い、柔軟性の高い指状基部14の厚みが短縮することから、位相および波高の変化が生じる。従って、
(i)隔壁部15に対する対象物Mからの押圧(指荷重)を位相の変化として取り出すことができ、
(ii)対象物Mの表面Maの比較的荒い凹凸(表面性状A)を波高の変化として取り出すことができ、その波高の平均からウネリに相当する情報を取り出すことができる。
(c)反射波Rcは、柔軟性の低い隔壁部15の厚みが殆ど変化しないことから、反射波Rbと同様、位相および波高の変化が生じる。
(d)反射波Rdは、柔軟性の高い真皮部2および表皮部3に対する対象物Mへの接触に伴う大きな変形が生じることから、位相および波高の変化が生じる。このとき、指荷重が小さな場合では反射波の波高の変化は小さく、反射波Rd単独では小さな凹凸の情報を取り出すことができない。本センサにおいては、真皮部の厚みや素材等を選定し反射波Rcと反射波Rdの干渉波の波高の変化を検知することによって小さな凹凸の情報を取り出すことを可能とした。つまり
(iii)対象物Mの表面Maの微小な凹凸(表面性状B)を反射波の波高の変化として取り出すことができる。
【0017】
〔本センサの構成要素について〕
本センサ10の構成要素について、板状体11は、剛性の高い樹脂、例えばアクリル樹脂等を素材Saとして用いる。厚みは、超音波の波長や周波数等により適正な範囲が設定され、例えば、そこでの超音波の波長の約10倍程度が設定される。指状基部14は、内部に例えばスライムや水等、指の皮下組織と同質の素材Sbが封じられ、約10mm程度の厚みDbを有し、その一部において板状体11が当接するように形成される。隔壁部15は、例えば軟質性のプラスチック(塩化ビニルやアクリル等)やシリコンゴム等、上記板状体よりも柔軟性が高い素材Scを用い、指状基部14を内封する。厚みは使用条件によって異なるが、例えば隔壁部の上面と下面の反射波を分離する必要がある場合には超音波波長の2倍以上が好ましい。隔壁部15を被覆するように真皮部2が装着される。真皮部2は、指状基部14と同等の特性を有する素材Sd、例えば組成が同等あるいは粘弾性特性や超音波透過特性等が同等の素材が内封されることが好ましい。具体的には、水やスライム等を挙げることができる。真皮部2は、対象物Mの表面Maの微小な凹凸(表面性状B)に従って柔軟に変形可能な厚みを有することが条件となるとともに、隔壁部15の下面からの反射波Rcと表皮部3の上面からの反射波Rdとが干渉して形成される干渉波の波高を決定する条件となることから重要な要素となる。具体的には、1/4波長以下の膜厚を有することによって、真皮部2の膜厚(微小な凹凸の状態)に対応した相関性の高い干渉波の波高を取り出すことが可能となり、微小な凹凸の状態を精度よく検知することができる。また、真皮部2の素材として、隔壁部15の素材Scよりも音響インピーダンスの高い素材Sfを用いることによって、隔壁部15の下面からの反射波Rcを順位相として表皮部3の上面からの逆位相の反射波Rdと干渉させることができる。こうした素材Sfとして、具体的には、水銀やアマルガム,インジウムとスズの合金等を挙げることができる。
【0018】
さらに真皮部2を被覆するように表皮部3が装着・形成される。表皮部3は、対象物Mに接触させ、その表面Maの状態に対応して変形が可能で、隔壁部15よりも高い柔軟性を有するとともに、真皮部2を被覆し、薄膜の形成が可能な所定の強度を有する素材Sdが好ましい。具体的な素材Sdとして、例えばシリコン系ゴム等を挙げることができ、その厚みは10μm程度が好ましい。さらに、表皮部3の対象物Mと接する部分に、人間の指紋に相当する凹凸を設けることによって、対象物Mの表面Maの10μm以下の微小な凹凸に対する情報を取り出すことができる。
【0019】
<計測原理について>
次に、本センサ10を用いた表面状態の計測原理を説明する。図2は、超音波探触子1を用いた場合の基本的な特性を例示する模式図である。図2(A)において、軟質性の超音波透過性材料からなる透過体20の一端が対象物Mの表面Maに接触するように載置され、他端の位置に超音波探触子1が装着される。超音波探触子1は、駆動部(図示せず)によって駆動され、所定の周波数の超音波を発信し、接触表面21において反射された反射波を受信した超音波探触子1からの信号は、コンピュータを中核として構成される計測装置(図示せず)により計測される。対象物Mの表面Maの同一または近傍領域から反射する超音波について、超音波探触子1の受信強度から、対象物Mの表面状態に関する情報を取得し、演算することによって、対象物Mの表面状態を定量的に把握することができる。
【0020】
超音波探触子1から超音波を発信し、透過体20を対象物Mの表面Maに接触させながら移動させたときの、反射波についての反射波高成分/移動距離sの特性を、図2(B)に例示する。表面Maが粗いときには、その粗さについての平均的な変動を大きな振幅を有するウネリとして計測し、表面Maが滑らかなときには、その滑らかさを小さなウネリとして計測することができる。
【0021】
しかしながら、図2に示す基本的な触覚センサを用いて、人間の指(従前の模擬指を含む)が対象物Mに接触したときのエコー高さの変動を実測すると、図3のように、20μm以下の微小な凹凸を検知することは非常に難しいことが判った。本発明は、こうした実証結果を基に、さらに微小な凹凸を検知できる触覚センサを検証したもので、図1に示す基本構成例、具体的には、隔壁部15を被覆するように装着される真皮部2と、薄膜によって真皮部2を被覆するように装着される表皮部3を有し、表皮部3の下面を対象物Mに接触させることによって、20μm以下の凹凸を検知することを可能とした。以下、その構成を模擬的に表した図4に基づき、その特性を示す。
【0022】
〔本センサを用いたときの反射波の特性と対象物の表面性状の検知について〕
図4(A)において、板状体11の上面12に装着された超音波探触子1から発信された超音波は、厚みDaの板状体11を通過し、その一部は板状体11の下面13において反射し、反射波Raを形成する。さらに、残りの超音波は、厚みDbの指状基部14を通過して隔壁部15の上面で反射し、反射波Rbを形成する。さらに厚みDcの隔壁部15を通過した超音波の一部は、隔壁部15の下面において反射し、反射波Rcを形成する。残りの超音波は、厚みDdの真皮部2を通過して表皮部3の上面において反射し、反射波Rdを形成する。
【0023】
このとき、反射波Ra〜Rdを受信した超音波探触子1における出力(反射波高)は、時間を横軸とすると、図4(B)に例示するように、最初に位相が反転した反射波Ra,次に時間t1後に順位相の反射波Rb,さらに時間t2後に反転した反射波Rc,および時間t3後に反転した反射波Rdが形成される。時間t1〜t3は、音速,入射波および反射波が通過する各層の厚み(距離)および媒体の特性に依存する。ここで、いわゆる指荷重がかかった状態において、指状基部14の厚みDbが変化し時間t1が変化する。指荷重が大きい場合には、指状基部14の厚みDbが変化し時間t1が変化するとともに、隔壁部15の上面において反射する反射波Rbにおいて、その位相の変化から指荷重の大きさを検出することができる。また、対象物Mの凹凸の変化に伴う反射波Rbの波高の変動も大きくなり、その変化から大きな凹凸に対応した表面状態(表面状態A)を検出することができる。
【0024】
指荷重が小さい場合にも、反射波Rbの位相の変化から指荷重の大きさを検出することができるが、反射波Rbの波高の変化は殆どなく、微小な凹凸の検出は難しい。本センサ10は、真皮部2の膜厚Ddを超音波探触子から発信された超音波の1/4波長以下とし、隔壁部15を通過して真皮部2との界面(隔壁部15の下面)において反射する反射波Rcと、表皮部3からの反射波Rdによって形成される干渉波について、その干渉波の波高の変化を検知することによって小さな凹凸の情報を取り出すことを可能とした。真皮部2の膜厚Ddが厚い場合の干渉波の波高の状態を図4(C)に、薄い場合の干渉波の波高の状態を、図4(D)に例示する。つまり、20μm以下の凹凸に対し、さらには数μmの微小な凹凸に対しても、その変化に対応した情報を取り出すことができ、微小な凹凸に関する表面性状Bを推定することができる。図5は、真皮部2の厚みDdと干渉波の波高情報との相関を実証した結果を示す。膜厚(Dd)が超音波探触子から発信された超音波の1/4波長以下において、膜厚に対応した相関性の高い干渉波の波高を取り出すことができ、それを超えると相関を得ることが難しいことが判る。適正な膜厚条件を設定することによって、微小な凹凸の状態を精度よく検知することができる。
【0025】
次に、真皮部2の素材として、素材Sdに代え、隔壁部15の素材Scよりも音響インピーダンスの高い素材Sfを用いる場合について述べる。図4(B)に例示するように、本センサ10は、隔壁部15が音響インピーダンスの高い素材Scから形成され、真皮部2が音響インピーダンスの低い素材Sdから形成されるため、隔壁部15からの反射波Rcと真皮部2を通過した波の表皮部3における反射波Rdとは同位相の干渉波となり、指荷重のない状態において所定の波高(例えば通常最大波高の50%程度)を有し、指荷重の増加に伴い波高の低下量を検出することとなる。ただし、低インピーダンスの素材Sdの場合,真皮部2での多重反射時の音波が減衰し易く、凹凸に対して十分な波高値の変化を得られない場合がある。そこで、本センサ10の真皮部2の素材として、素材Sdに代えて、真皮部2を隔壁部15よりも音響インピーダンスの高く減衰の少ない素材Sfによって形成する。この場合、隔壁部15からの反射波Rcは順位相の反射波となるため、逆位相の表皮部3からの反射波Rdとの干渉波の波高は、指荷重の増加に伴い大きく低下するようになる。こうした構成によって、表皮部3の変化をもたらす対象物Mの表面Maの微小な凹凸に対応した情報を得ることができる。
【0026】
また、本センサ10にあって、隔壁部15からの反射波Rb(またはRc)の波高と表皮部3からの反射波Rdの波高が、ほぼ等しいことが好ましい。上記のように、前者は比較的大きな凹凸を有する表面性状Aに対する情報を得るのに好適であり、後者は微小な凹凸を有する表面性状Bに対する情報を得るのに好適である。特に後者は、両者の干渉波を利用することによって、従前検知できなかったレベルの微小領域の凹凸を有する表面性状Bまでの情報を得ることが可能となった。本センサ10は、両反射波の波高を、ほぼ等しくすることによって、単独の単機能の超音波探触子1を用いて表面性状Aから表面性状Bにまでの対象物Mの広い範囲の凹凸状態に対する十分な情報量を確保し、対象物Mの表面Maに対する人間の触感にあった触覚情報を定量的に得ることができる。具体的には、本センサ10の構成要素である隔壁部15あるいは真皮部2や表皮部3の素材や厚み等を、対象物によって種々調整・変更することによって最適条件での検出を行うことができる。
【0027】
上記のように、本センサ10において、真皮部2の膜厚を1/4波長以下に設定し、隔壁部15等構成要素を対象物によって種々調整・変更することによって最適条件での検出を行うことができる。しかし、こうした触覚センサの構成要素の調整では、真皮部の膜厚を1/4波長以下に設定することができない場合がある。そこで、本センサ10では、超音波探触子1から発信される超音波の特性を調整・変更すること、具体的には超音波探触子1から発信される超音波として高周波のバースト波を用い、多くのパルス波の変化を取り出すことによって、真皮部の膜厚が1/4波長以上の場合であっても微小な凹凸に対応した干渉波の波高を確保することを可能にした。図6のように、超音波探触子1から発信される超音波の特性を高周波のバースト波に変更することによって、反射波RbとRcが干渉し、1つの反射波(Rb+Rc)として情報を取り出すことができ、上記と同等の検知機能を発現することができる。また、各反射波Ra〜Rdの検出時間(波数)を多くすることができることから、反射波の微小変化、つまり表面性状A,Bについて微小変化(凹凸)を検知することができるとともに、高い精度で情報を取り出すことができる。
【0028】
上記のように、本センサによって対象物の表面における人間の指先と同様の触覚を定量的に把握することが可能となった。また、本センサにおける「触覚」との概念は、人間の指先に限定して捉えるだけでなく、人間の指先では触れることができない対象物(汚染物質の表面等の場合)の表面状態を定性的な評価を行う場合においても、定量的に計測された情報を基に推定することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 超音波探触子
1a (超音波探触子の)発信部
1b (超音波探触子の)受信部
2 真皮部
3 表皮部
10 指
11 板状体
12 (板状体)上面
13 (板状体の)下面
14 指状基部
15 隔壁部
M 対象物
Ma 対象物の表面
Ra,Rb,Rc,Rd 反射波
【要約】
【課題】 単一の単機能の超音波探触子を用いた簡易な構成で、対象物の表面状態を人間の触覚に近い情報として計測が可能な触覚センサを提供する。
【解決手段】 指の爪甲部に相当する板状体11と、皮下組織に相当する指状基部14と、指状基部14が内封された隔壁部15と、超音波探触子1と、隔壁部15を被覆するように装着される真皮部2と、真皮部2を内封するように装着され対象物Mに接触させる表皮部3と、を有し、対象物Mに対して表皮部3を接触させたときに、指状基部14を通過して隔壁部15において反射する反射波Rbを受信し、受信された反射波Rbの位相から指荷重の大きさを推定し、隔壁部15からの反射波Rbの波高の変動から対象物Mの表面性状Aを推定し、隔壁部15からの反射波Rbまたは隔壁部15を通過して真皮部2において反射する反射波Rcと、表皮部3からの反射波Rdとの干渉波の波高の変動から対象物Mの表面性状Bを推定する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6