(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1孔部が前記圧力室に開口している第1孔部入口(411)の径は、前記第1孔部出口(412)の径と同じ大きさであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載された燃料噴射弁。
前記第1孔部が前記圧力室に開口している第1孔部入口(411)の径は、前記第1孔部出口(412)の径よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載された燃料噴射弁。
前記第2孔部の軸中心線(Ax2)は、前記第1孔部の前記軸中心線に対して径方向にオフセットされていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の燃料噴射弁。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンなどには、シリンダと気筒内に囲まれた燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁が設けられている。かかる燃料噴射弁は、ノズルボディと、該ノズルボディの内部に設けられているノズルニードルとを備えており、ノズルボディの燃
焼室側には、ノズルボディの内部と燃焼室とを連通する孔である通路孔が形成されている。また、燃料噴射弁には高圧に蓄圧した燃料を保持するコモンレールが接続されている。そして、コモンレールから燃料噴射弁に高圧に圧縮された燃料が供給され、供給された燃料が、通路孔から燃焼室に放出されることによって、燃料の噴射が実現される。
【0003】
このような燃料噴射弁において、燃
焼室とノズルボディ
の内部との通路孔に、燃料が通過する噴孔と、噴孔の燃
焼室側に形成された座ぐりとを有したものが知られている。すなわち、通路孔内において、噴孔と、噴孔よりも径の大きい座ぐり部とが連通するように形成されており、噴孔と座ぐり部とが通路孔の途中で段形状になるように形成されている。例えば、特許文献1には、座ぐり部を有する
通路孔を備えた燃料噴射弁が開示されている。このような通路孔において座ぐり部の各種寸法を規定することによって、燃料が通路孔内にてコーキングすることを抑制している。コーキングとは、内燃機関の燃焼分野において、噴孔から燃料を噴射する際に、一部の燃料が、燃焼熱などにより炭化し通路孔内に付着することを指す。特に、通路孔出口が広がっている座ぐりを有している場合には、座ぐりの空間内において、残留燃料が燃焼熱にさらされやすくなり、かつ噴射される燃料の流れによるコーキング除去が促進されないため、コーキングが促進されやすい。そして、コーキングが促進されることで座ぐりの空間を占領し、噴孔から流出する噴霧の流路を阻害する可能性があった。
【0004】
このコーキングに対して、特許文献の発明では、各種寸法を規定することにより、座ぐり部の壁面と噴霧との間に周辺空気の渦流を生じさせている。これにより、残留燃料除去を実現し、コーキングを抑制するのである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、実施形態において対応する構成要素には、同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。また、実施形態の説明において、明示している構成の組み合わせだけでなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、実施形態及び変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0013】
なお、特に文章内にて言及がない場合には、燃料噴射弁の燃焼室側を「先端側」、該先端側とは反対側を「基端側」とする。
【0014】
(第1実施形態)
以下、
図1乃至
図4を用いて、第1実施形態の燃料噴射弁1について詳述する。
【0015】
図1、及び
図2を用いて燃料噴射弁1の構成及び作動を説明する。燃料噴射弁1は、ノズルボディ2、ノズルニードル3、圧力制御部10などからなる。圧力制御部10により、ノズルボディ2とノズルニードル3との間に設けられる圧力室5内の圧力が制御されることによってノズルニードル3が上下動する。
【0016】
ノズルボディ2は、鉄鋼材料などからなる円筒状の部材である。ノズルボディ2は、内部に空間を有しており、該空間にノズルニードル3が設けられている。そして、該空間に設けられたノズルニードル3と、ノズルボディ2との間の隙間には、燃料が流入する圧力室5が形成される。また、ノズルボディ2の内部の基端側には、該圧力室5の圧力を制御する圧力制御部10が設けられている。またさらに、ノズルボディ2の先端側には、燃焼室側へ向けて圧力室5を突出させたサック部21が形成されている。加えて、ノズルボディ2の先端側には、該サック部21内の圧力室5と図示しない内燃機関の燃焼室とを連通するように、通路孔4が形成されている。また、ノズルボディ2の先端側の内壁には、ノズルニードル3と当接するシート部21が形成されている。
【0017】
ノズルニードル3は、円柱状の部材であり、軸方向中間部には、切欠き部31が形成されている。また、ノズルニードル3は、ノズルボディ2の先端側に向けて、それぞれ径の異なる円柱状の部材が複数組み合わされて構成されている。このうち、切欠き部31は、ノズルニードル3の径の大きい中央付近に設けられており、圧力室5内の燃料を基端側から先端側に流入させるべく、ノズルニードル3の外周面を軸方向に切欠くように三箇所形成されている。また、ノズルニードル3の基端側の外周には、ノズルニードル3の外周に沿って径方向へ突出した突起に係止される円環形状のシム6が設けられている。さらに、ノズルニードル3の基端側の端部は、先端側に向けて凹んでおり、ノズルニードル3の基端側端部の外周には、後述する圧力制御部10のシリンダ部11が設けられている。そして、シム6とシリンダ部11との間には、ノズルニードル3を常時先端側に付勢する第1スプリング71が挟まれるように設けられている。すなわち、ノズルニードル3の基端側は、端部をシリンダ部11に覆われるともに、シリンダ部11からシム6までの外周を第1スプリング71に覆われている。
【0018】
圧力制御部10は、シリンダ部11、オリフィスプレート8、及び第2スプリング72からなる。シリンダ部11は、円筒状の部材であり、シリンダ部11の先端側が、ノズルニードル3の基端側を覆うように設けられ、シリンダ部11の基端側がオリフィスプレート8を覆うように設けられている。オリフィスプレート8は、径を絞るオリフィス81が軸方向に連通するように形成された板状の部材である。オリフィス81は、図示しないコモンレールからの燃料通路と連通している。そして、該燃料通路に設けられている電磁弁によって、オリフィス81に流れる燃料の量が調整される。
【0019】
オリフィスプレート8と、ノズルニードル3との間には、第2スプリング72が設けられている。該第2スプリング72は、第1スプリング71よりも径が小さい弾性部材であり、オリフィスプレート8を軸方向基端側に付勢している。また、シリンダ部11、オリフィスプレート8、及びノズルニードル3の基端側の凹み部に囲まれた空間には、燃料がオリフィス81から流入する制御室9が形成されている。制御室9へは、電磁弁によって調量された燃料が、オリフィス81を通って流入する。すなわち、該電磁弁により、コモンレールから制御室9に流入する燃料の量が調整されて、制御室9内の圧力は制御される。
【0020】
電磁弁の調量により、制御室9内に燃料を流入させない場合には、制御室9内の圧力は低圧になる。この場合には、圧力室5内の燃料の圧力により、ノズルニードル3は開弁方向に力を受けてシート部21から離座する。一方で、制御室9内に燃料が流入し、制御室9内の圧力が高圧になる場合には、圧力室5内においてノズルニードル3に負荷される圧力と制御室9内の圧力とが釣り合い、第1スプリング71、及び第2スプリング72によって、ノズルニードル3は閉弁方向に力を受けてシート部21に着座する。このように、圧力制御部10によって、ノズルニードル3の上下動が制御され、ノズルニードル3の先端側は、シート部21に離着する。このようにノズルニードル3が離着することによって、圧力室5と通路孔4と間の経路を形成、または封止することができる。
【0021】
圧力室5は、ノズルボディ2と、ノズルニードル3との間に形成されている。そして、圧力室5の先端側は、サック部21の内部まで達している。圧力室5には、シリンダ部11とノズルボディ2との間に設けられた燃料経路入口51から燃料が流入する。燃料経路入口51は、図示しないコモンレールと接続されており、コモンレールから燃料が供給される。供給された燃料は、燃料経路入口51から圧力室5を先端側に流れ、切欠き部31を通過して先端側に至る。そして、ノズルニードル3がシート部21から離座した際に、燃料は、サック部21内の圧力室5に流入し、サック部21内の圧力室5から通路孔4を介して燃料室に噴射される。
【0022】
次に、
図2、及び
図3を用いて、ノズルボディ2に形成されている通路孔4について詳述する。なお、
図3は、説明のための概要図であり、図示した噴射角の大きさや通路孔4の寸法は、実際の寸法とは異なる。通路孔4は、ノズルボディ2の先端側に互いに干渉しないように周方向に複数形成されている。また、複数の通路孔4は、ノズルボディ2の径方向に水平な断面において、それぞれ等間隔に設けられている。これにより、燃料をサック部21内の圧力室5から燃焼室内に均一に噴射することが可能である。また、複数の通路孔4は、互いに独立して設けられている。すなわち、圧力室5に開口しているそれぞれの通路孔4は、燃焼室側に開口するまでの経路において、他の通路孔4と干渉しないように設けられている。
【0023】
通路孔4は、座ぐり部42と、噴孔41とから構成されている。座ぐり部42は、断面円形であり、通路孔4の燃焼室側の通路孔出口から、サック部21内の圧力室5側に向けて凹むように形成されている。また、通路孔4には、一つの座ぐり部42が形成されている。すなわち、通路孔4の軸方向断面において、通路孔4の内部に段部が一つのみ形成されるように座ぐり部42は設けられている。
噴孔41は、一方をサック部21内の圧力室5に開口し、他方を座ぐり部42に開口した孔である。すなわち、噴孔41は、座ぐり部42とサック部21内の圧力室5とを連通させている。そして、噴孔41は、座ぐり部42と同じように、断面円形である。また、座ぐり部42と噴孔41とは、座ぐり部42の軸中心線Ax1と噴孔41の軸中心線Ax2とは同じ軸中心となるように設けられている。さらに、噴孔41は、座ぐり部42よりも小さい径で形成されている。すなわち、噴孔41が第1孔部に相当し、座ぐり部42が第2孔部に相当する。
【0024】
噴孔41は、噴孔41の圧力室5側の開口である噴孔入口411の径と、噴孔41の座ぐり部42側の開口である噴孔出口412の径とが、同一の径となるように形成されている。また、噴孔41内の径は、噴孔入口411から噴孔出口412に亘って、噴孔入口411、及び噴孔出口412の径と同一の径となるように形成されている。すなわち、噴孔入口411から噴孔出口412まで同一の径で噴孔41は形成されている。このように形成することによって、径を変化させることで噴孔41の整流効果を制御することが可能となる。
【0025】
通路孔4に流入した燃料は、噴孔41から座ぐり部42に達すると、自身の圧力によって広がるように噴射される。該燃料が噴射期間中に噴射される際、自身が高圧であることにより霧状となるため、以降、噴孔出口412から噴射されて座ぐり部42を通り、燃焼室内に噴射される燃料を噴霧と呼ぶ。
【0026】
噴霧は、座ぐり部42において所定の噴射角θ1を有している。噴射角θ1は、噴孔41の軸中心に対して噴霧の外縁部Se1とで形成される角度のうち、小さい方(すなわち、鋭角の方)をさす。ここで、この噴射角θ1は、噴射圧力や、噴孔41の軸方向長さによって変化するが、該噴射角θ1が広くなるほど、噴霧の外縁部Se1は座ぐり部42の内壁面422に近接する。ここで、座ぐり部42の断面において、座ぐり部42の内壁面422と噴霧の外縁部Se1との間の距離が最も近い距離にある点を便宜上、最近接点423と呼ぶ。この最近接点423は、座ぐり部42が一つ形成されている場合においては、通路孔出口の外周部上、すなわち、座ぐり部出口
(第2孔部出口)424の外周部上に現出することとなる。
【0027】
また、通路孔4の噴孔41、及び座ぐり部42は、噴孔出口412の外周部413から、最近接点423までの噴孔41の軸線に対する垂直方向においての最短距離をRとし、噴孔出口412から、最近接点423までの噴孔41の軸線に対する最短距離をLとしたときに、噴孔41、及び座ぐり部42は、R/(L×tanθ1)>6.0(以下、関係式と呼ぶ)となるように形成されている。特に、ディーゼルエンジンに用いられる燃料噴射弁1においては、燃料が、例えば25MPaから250MPaの範囲の高圧に印加されるために、噴射角θ1が大きくなりやすい。本実施形態では、そのような25MPaから250Mpaの圧力において燃料を噴射しても、上記の関係式が満たされるように、噴孔41、及び座ぐり部42が設けられている。
【0028】
次に、
図3を用いて、本実施形態の作用効果について詳述する。
【0029】
一般的に、噴射する燃料の圧力が大きくなるに従って、噴霧が広がる力も大きくなるために、噴孔41から噴射された噴霧の噴射角θ1は大きくなる。これにより、噴霧の外縁部Se1と、最近接点423との間の距離が小さくなる。この噴霧の外縁部Se1と最近接点423との間の距離が小さくなることによって、噴霧と座ぐり部の内壁面422との間には、コアンダ効果が生じる。噴霧は、コアンダ効果によって、壁面に引き寄せられ、噴霧の形状が変わる(例えば、
図3に示す噴霧の外縁部Se2)。コアンダ効果は、噴霧の外縁部Se1と、最近接点423との間の距離が小さくなるほど影響が大きくなり、噴霧が、最近接点423に対して引っ張られるようになる。特に、通路孔4の径は非常に小さいために、噴射期間中にも該コアンダ効果によって噴霧の外縁部Se1が最近接点423に引っ張られやすい傾向がある。
【0030】
これにより、以下のような現象が生じるおそれがある。第1に、コアンダ効果によって、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に引き寄せられることにより、噴霧の一部が座ぐり部42の中に残留する。また、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に引き寄せられた結果、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に接触し易くなる。このような場合、コアンダ効果によって座ぐり部42の噴霧が通らない空隙部421で生じた渦流により、残留した燃料の一部は除去される一方で、除去される残留燃料と溜まっていく残留燃料とを比較して後者が大きくなると、引き寄せられた一部の燃料、または接触している一部の燃料が、座ぐり部42の空隙部421に溜まり続けることになり、燃料が通路孔4に付着するコーキングが生じるおそれがある。第2に、コアンダ効果によって、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に引き寄せられると、通路孔4から噴射される噴霧の形状が変化する。噴霧の形状が変化することにより、燃焼室内にて、所望の箇所に燃料を噴射する際の噴霧の噴射方向の力であるペネトレーションや、拡散性が変化するため、燃料室内の噴霧を圧力などによって制御することが困難となる。
【0031】
以上の現象が生じるおそれがあるため、本出願人は、コアンダ効果により、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に引き寄せられる現象を抑制するような各種寸法で通路孔4を設けることにより、噴霧が通路孔4の影響を受けずに形状が変化せず、噴霧を効果的に制御することできるという知見を得た。すなわち、噴孔41から噴射された噴霧の外縁部Se1と最近接点423との距離と、噴孔41と最近接点423との距離との割合が所定の割合以上となった際に、コアンダ効果により座ぐり部42の内壁面422に引き寄せられる効果が生じるため、該効果を抑制するように、上記噴孔41から噴射された噴霧の外縁部Se1と最近接点423とにおいて噴孔41の軸方向に対する垂直方向の距離と、噴孔41と最近接点423との距離との割合を、所定の割合より小さくなるように通路孔4を設けている。これにより、燃料が通路孔4に詰まるコーキングを抑制することができるとともに、噴霧形状の不安定化を抑制することができる。
【0032】
次に、本実施形態の効果を検証するべく、対象A乃至対象Hの座ぐり部42を設けた通路孔4を用意し、噴射圧力Prを25Mpaから250Mpaの範囲内において、一つの対象につきTest1乃至Test4まで計測した。本実験結果について、
図4及び
図5を用いて説明する。本実験では、各対象A乃至対象Hの寸法R、及び寸法Lを変化させ、各々に対して噴射角θを計測し、該結果に対してR/L×tanθ(以下、特性値Xと呼ぶ)を算出している。なお、Test1乃至Test4は、それぞれ計測する順番を示しており、Test1が最も圧力が小さく、その値からTest2、Test3、Test4と実験を重ねる毎に、噴射圧力Prを上昇させている。すなわち、Test1乃至Test4の中では、Test4が最も高い圧力である。
【0033】
図4に示されるように、噴射角θは、噴射圧力Prを大きくするほど、大きくなる傾向があるが、Test2とTest3とを比較して分かるように、高い圧力の場合でも噴射角θが小さくなる場合がある。しかし、対象A、対象C、及び対象Dについては、Test1乃至Test4のいずれも、コーキングが生じていなかった。これに対して、対象G、Hでは、Test1乃至Test4の全てにおいて、コーキングが生じていた。また、対象Bについては、Test3、Test4の高圧側ではコーキングが生じておらず、Test1、Test2の噴射圧力Prが低圧側では、コーキングが生じていた。また、対象E、Fにおいては、Test1及びTest2では、噴射圧力Prが低圧側ではコーキングが生じていなかったが、Test3ではコーキングが生じていた。
【0034】
ここで、
図4の実験結果を用いて、
図5に示すように、噴射角θと特性値Xとの相関を求め、近似線Nrを作成した。これによれば、特性値Xが所定の値よりも小さい範囲では噴射角θが大きくなっており、特性値Xが所定の値よりも大きい範囲であれば、特性値Xを大きくしても噴射角θが大きくなっていない。これは、座ぐり部42の内壁面422に噴霧が引き寄せられておらず、コアンダ効果が抑制されているからであると考えられる。そして、実験結果によれば、コアンダ効果が抑制されている点は、近似線Nrの傾きが小さくなる点であり、閾線Thで示した対象AのTest1の特性値Xである6.0であると考えられる。すなわち、特性値Xが6.0以上であれば、コアンダ効果を抑制し、噴射角θが大きくならずに、コーキングを抑制できることが分かった。そして、コアンダ効果が抑制されていることによって、噴射角θが特性値Xが6.0以上の範囲で大きくなることなく所定の噴射角θに収束していき、噴霧形状の不安定化が抑制されていることが分かる。
【0035】
このように、
図5によれば、特性値Xを6.0以上の範囲となるように、各種寸法を設けることで、25Mpaから250Mpaの範囲内の圧力においては、特性値Xを緩やかに上昇側に推移させても、噴射角θが大きくならずにコアンダ効果を抑制することができる。すなわち、特性値Xが6.0以上であれば、コアンダ効果によって引き寄せられる現象を抑制した噴霧を形成することができ、燃料が座ぐり部42の内壁面422に付着することを抑制することができる。また、このような特性値Xを有していることによって、噴射角が大きくばらつくことがない。したがって、燃料が通路孔に詰まるコーキングを抑制することができるとともに、噴霧形状の不安定化を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態では、圧力室5に流入し、通路孔4から噴射される燃料の圧力が25MPaから250MPaであるような燃料噴射弁1に上述した関係式を満たすように形成した通路孔4を設けている。これによれば、燃料の圧力が高い場合であっても、噴霧が座ぐり部42の内壁面422に対して引き寄せられる現象を抑制することができ、効果的にコーキングを抑制することができる。さらに、特にディーゼルエンジンなどの自然着火型の内燃機関では、燃料室内にどのように燃料を噴射するかにより、燃焼特性が変化するため、該燃焼特性を効果的に制御するべく、噴霧形状が意図せず変化することを抑制することが望まれる。このため、噴霧の形状が不安定化することを抑制することによって、効率的な燃焼を実現することができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、通路孔4はノズルボディ2の周方向に複数形成されており、通路孔4の座ぐり部42は、ノズルボディ2に形成された複数の通路孔4同士が互いに通路孔4出口にて接続されないように形成されている。すなわち、通路孔4は、燃焼室側に開口するまでの経路において、他の通路孔4と干渉しないように設けられている。これにより、ノズルボディ2に座ぐり部42を設けたことによって、ノズルボディ2の強度が低下することを抑制することができる。また、通路孔4を干渉しないように設けることによって、噴霧同士が衝突して噴霧形状が不安定化することを抑制することができる。
【0038】
またさらに、本実施形態では、噴孔41が圧力室5に開口している噴孔入口411の径は、噴孔出口412の径と同じ大きさで形成されている。圧力室5を通過して通路孔4に流入した燃料は、流路径が小さくなるために流速が早くなる。このために、通路孔4に流入する燃料の流れは、大きく乱れて乱流となる。これに対して、本実施形態のように、噴孔41が圧力室5に開口している噴孔入口411の径が、噴孔出口412の径と同じ大きさで形成されていることにより、噴孔41で燃料が層流に整流されて乱流を抑制し、径を変化させることで噴孔41の整流効果を制御することが可能となる。これにより噴霧の変化を抑え、噴霧の形状の不安定化を抑制することができる。
【0039】
加えて、本実施形態において、座ぐり部42の内壁面422は、噴孔41の軸中心線Ax1と平行に形成された壁面であり、通路孔4は、一つの座ぐり部42を有するとともに最近接点423が通路孔出口の外周部に設けられるように形成されている。これによれば、通路孔4出口に設けられる一つの座ぐり部42の凹みの深さと径とを定めることによって、容易に関係式を満たすような座ぐり部42を設けることができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、説明する。第2実施形態では、
図6に示されているように、第1実施形態と比較して、噴孔43の構造が異なる。なお、
図6は、第1実施形態と同様に説明のための概要図であり、図示した噴射角の大きさや通路孔4の寸法は、実際の寸法とは異なる。
【0041】
第2実施形態の噴孔43は、噴孔入口411の径が、噴孔出口412の径よりも大きく形成されており、噴孔41の内壁面は、噴孔入口411から噴孔出口412にかけて傾くように設けられている。このように噴孔43を設けても、噴孔出口412の外周部413から、最近接点423までの噴孔43の軸線に対する垂直方向においての最短距離をRとし、噴孔出口412から、最近接点423までの軸方向の軸線上の最短距離をL、噴射角θ2としたときに、噴孔43、及び座ぐり部42のR/(L×tanθ2)の値が6.0より大きい値となるように通路孔4を設けることにより、燃料が通路孔4に詰まるコーキングを抑制することができるとともに、噴霧形状の不安定化を抑制することができる。
【0042】
また、噴孔入口411の径が、噴孔出口412の径よりも大きく形成されていることにより、圧力室5から流入した燃料が噴孔出口412に向かって通過する断面積が小さくなるため、通路孔4内において流速が上昇する。これにより、噴孔出口412から座ぐり部42を通って燃料室に至る噴霧の速度と力が上昇する。故に、ペネトレーションが向上して、燃料室内において、燃料を遠くまで噴射させることができる。
【0043】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、説明する。第3実施形態では、
図7に示されているように、第1実施形態と比較して、座ぐり部44の構造が異なる。なお、
図7は、第1実施形態と同様に説明のための概要図であり、図示した噴射角の大きさや通路孔4の寸法は、実際の寸法とは異なる。
【0044】
第3実施形態の座ぐり部44は、座ぐり部44の軸中心線Ax2が、噴孔41の軸中心線Ax1に対してオフセットされるように設けられている。このように座ぐり部44を設けると、座ぐり部44の軸線Ax2を噴孔41の軸線Ax1に対してオフセットした側の座ぐり部44の内壁面422には、最近接点423が生じない。また、噴孔41の軸線Ax1と座ぐり部44の軸線Ax2とをオフセットしたことにより、噴霧の中心軸と、座ぐり部44の中心軸とも異なるために、噴霧の径と座ぐり部の径とが異なることになる。これにより、最近接点423は座ぐり部44の内壁面422において一点のみ現われることとなるために、噴孔出口412の外周部413から、最近接点423までの噴孔41の軸線に対する垂直方向においての最短距離をRとし、噴孔出口412から、最近接点423までの軸方向の軸線上の最短距離をLとしたときの特性値Xの算出が容易となる。また、座ぐり部44の径が大きいために、燃料が空隙部に溜まっても目詰まりを起こし難い。したがって、燃料が通路孔4に詰まるコーキングを抑制することができるとともに、噴霧形状の不安定化を抑制することができる。
【0045】
(その他の実施形態)
以上、本発明のそれぞれの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することができる。なお、
図8、及び
図9は説明のための概要図であり、図示した噴射角の大きさや、通路孔4の寸法は、実際の寸法とは異なる。
【0046】
例えば、
図8に示される変形例1では、座ぐり部45の内壁面422を通路孔4の出口に向けて径が大きくなるようなテーパ状に形成している。このように設けても、噴孔出口412の外周部413から最近接点423までの、噴孔41の軸線に対する垂直方向においての最短距離R、噴孔出口412から、最近接点423までの噴孔41の軸線上の最短距離L、及び噴孔41の軸中心に対して噴孔出口412から噴射される噴霧の外縁部Se1によって形成される角度のうち、小さい方の角度θ4が第1実施形態乃至第3実施形態に示されるような関係式を満たすように噴孔41、及び座ぐり部45を設けることにより、座ぐり部45の内壁面422と噴霧との間で生じるコアンダ効果のうち、噴霧が座ぐり部45の内壁面422に引き寄せられる現象を抑制することができる。
【0047】
また、例えば、
図9に示される変形例2では、径の異なる複数の座ぐり部142、242、342を一つの通路孔に設けている。このように設けた場合には、最近接点423が、最も噴孔41に近い第1座ぐり部142と、第1座ぐり部142に連通する第2座ぐり部242との間の角部に現出する。
【0048】
このように設けても、第1実施形態乃至第3実施形態のように第1実施形態乃至第3実施形態に示されるような関係式を満たすように噴射角θ5や、所定の寸法を有した噴孔41と複数の座ぐり部142、242、342とが設けられることにより、座ぐり部142、242、342の内壁面と噴霧の間で生じるコアンダ効果のうち、噴霧が座ぐり部142、242、342の内壁面422に引き寄せられる現象を抑制することができる。
【0049】
またさらに、例えば変形例3では、噴孔41及び座ぐり部42の径方向断面は、いずれかが楕円であっても良い。楕円に設けた場合でも、最近接点423は、噴霧の外縁部Se1と内壁面422との距離が最も小さい楕円の短径側内壁面上の点となり、噴孔出口412から噴孔41の軸線に対する垂直方向においての最短距離Rは、楕円の短径(すなわち、最も距離が短い)となる。そして、噴孔出口412から、最近接点423までの噴孔41の軸線上の最短距離L、及び噴孔41の軸中心に対して噴孔出口412から噴射される噴霧の外縁部Se1によって形成される角度のうち、小さい方の角度θとしたときに、その関係が第1実施形態乃至第3実施形態に示す関係式となるように噴孔41及び座ぐり部42を設ければ良い。