【実施例】
【0022】
続いて、本発明を実施例により具体的に説明する。
以下の実施例に係る供試体は、全て、
図1(a)のS2・S3の工程によって製造したものであり、具体的な構成は下記のとおりである。
【0023】
(実施例1)
まず、
図2〜
図5を参照し、本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体の構成、ならびにこれらを用いた各種試験の結果について説明する。
【0024】
Plain Concrete(比較例1a)は、細骨材として製鋼スラグを用いずに天然骨材のみを用いたコンクリート供試体である。Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)(比較例1b,実施例1a,実施例1b,実施例1c,実施例1d)は、細骨材として粒径n(mm)以下の製鋼スラグを配合したコンクリート供試体である。なお、これら供試体に用いた製鋼スラグはエージング処理が行われていないものである。製鋼スラグは、その水浸膨張比が1%より大きく20%以下のものが用いられる。水浸膨張比は、JIS A 5015に規定されている水浸膨張試験に基づいて求められる。
【0025】
図2の細骨材の粒径の欄において、「5.0〜」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて5.0mmのふるいを通過する、粒径が5.0mm以下の細骨材を意味する。「5.0〜2.5」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて5.0mmのふるいを通過するが2.5mmのふるいにとどまる、粒径が2.5mmよりも大きく且つ5.0mm以下の細骨材を意味する。「2.5〜1.2」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて2.5mmのふるいを通過するが1.2mmのふるいにとどまる、粒径が1.2mmよりも大きく且つ2.5mm以下の細骨材を意味する。「1.2〜0.6」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいを通過するが0.6mmのふるいにとどまる、粒径が0.6mmよりも大きく且つ1.2mm以下の細骨材を意味する。「0.6〜0.3」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過するが0.3mmのふるいにとどまる、粒径が0.3mmよりも大きく且つ0.6mm以下の細骨材を意味する。「0.3〜」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.3mmのふるいを通過する、粒径が0.3mm以下の細骨材を意味する。
これは
図6においても同様である。
【0026】
Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3)(実施例1a,実施例1b,実施例1c、実施例1d)は、粒度分布調整工程(S1)で取り除かれた天然細骨材中の粗粒分と、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて当該粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグとを混合した細骨材を配合したコンクリート供試体である。
これらのうちのGrain n (n=0.6, 0.3)(実施例1c、実施例1d)は、製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを配合したものである。
また、Grain n (n=0.6, 0.3)のうちのGrain 0.6(実施例1c)は、さらに、天然細骨材の粗粒分として、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいにとどまる粗粒分のみを配合したものである。
【0027】
圧縮強度試験の結果が、
図3に示されている。
図3に示すように、製鋼スラグを配合したコンクリート供試体であるGrain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて圧縮強度が劣ることはなく、むしろPlain Concreteよりも圧縮強度が大きい。これは材齢7日、28日、および91日のいずれにおいても言える。
【0028】
乾燥収縮試験の結果が、
図4に示されている。乾燥収縮試験は、温度20℃・湿度60%の環境下で行った。
図4に示すように、Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて、乾燥収縮ひずみが小さい。これは、水浸膨張比が比較的大きな製鋼スラグが膨張性を発揮し、乾燥収縮を抑制したものと推察される。また、水浸膨張比が3.9%の製鋼スラグを配合した場合、コンクリートの乾燥収縮量が著しく小さくなることがわかる。水浸膨張比が比較的大きな製鋼スラグを細骨材として配合することで、コンクリートの乾燥収縮量を低減できる、すなわち、ひび割れの発生を抑制でき、耐久性を向上させることができる。
また、6つの供試体全てにおいて、乾燥収縮ひずみ量が材齢91日までに安定している。
Grain 0.6(実施例1c)は、Grain 0.3(実施例1d)に比べて、乾燥収縮ひずみがより小さい。
【0029】
ポップアウトの観察結果が、
図5に示されている。当該観察は、各供試体を180℃・0.9MPaの雰囲気中に8時間おいた後に行った。
図5(a),(b)に示すように、Plain ConcreteおよびGrain n (n=0.6, 0.3)にはポップアウトが生じず、Grain n(n=5.0, 2.5, 1.2)にはポップアウトが生じた。
この結果から、エージング処理が行われていない製鋼スラグを用いる場合、製鋼スラグの粒径が0.6mmを超えると(Grain n(n=5.0, 2.5, 1.2))、当該製鋼スラグが、コンクリートの表面を損傷させるだけの膨張性を発揮し、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0030】
図5(a)には、各供試体におけるAE減水剤の添加量も示されている。
AE減水剤は、一般に、コンクリートのワ−カビリティーや耐凍害性を改善するために添加される。本実験では、フレッシュコンクリートのスランプを10cmにすることを目的として、AE減水剤を各供試体に添加した。
図5(a)に示すように、AE減水剤の添加量(フレッシュコンクリートのスランプを10cmにするための必要量)は、Grain n (n=0.6, 0.3)とPlain Concreteとで略同じである。
【0031】
(実施例2)
次いで、
図6〜
図9を参照し、本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体の構成、ならびにこれらを用いた各種試験の結果について説明する。
【0032】
Plain Concrete(比較例2a)は、細骨材として製鋼スラグを用いずに天然骨材のみを用いたコンクリート供試体である。Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)(比較例2b,実施例2a,実施例2b,実施例2c,実施例2d)は、細骨材として粒径n(mm)以下の製鋼スラグを配合したコンクリート供試体である。なお、これら供試体に用いた製鋼スラグはエージング処理が行われたものである。製鋼スラグは、その水浸膨張比が1%以下のものが用いられる。
【0033】
Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3)(実施例2a,実施例2b,実施例2c、実施例2d)は、粒度分布調整工程(S1)で取り除かれた天然細骨材中の粗粒分と、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて当該粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグとを混合した細骨材を配合したコンクリート供試体である。
これらのうちのGrain n (n=1.2,0.6, 0.3)(実施例2b,実施例2c、実施例2d)は、製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを配合したものである。
【0034】
圧縮強度試験の結果が、
図7に示されている。
図7に示すように、製鋼スラグを配合したコンクリート供試体であるGrain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて圧縮強度が劣ることはなく、むしろPlain Concreteよりも圧縮強度が大きい。これは材齢7日、28日、および91日のいずれにおいても言える。
【0035】
乾燥収縮試験の結果が、
図8に示されている。乾燥収縮試験は、温度20℃・湿度60%の環境下で行った。
図8に示すように、Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて、乾燥収縮ひずみが若干小さい。すなわち、水浸膨張比が0.18%(1%以下)の製鋼スラグを配合した場合、コンクリートの乾燥収縮量は、通常のコンクリート(Plain Concrete)よりも若干小さくなる。
また、6つの供試体全てにおいて、乾燥収縮ひずみ量が材齢91日までに安定している。
【0036】
ポップアウトの観察結果が、
図9に示されている。当該観察は、各供試体を180℃・0.9MPaの雰囲気中に8時間おいた後に、行った。
図9(a),(b)に示すように、Plain ConcreteおよびGrain n (n=1.2, 0.6, 0.3)にはポップアウトが生じず、Grain n(n=5.0, 2.5)にはポップアウトが生じた。
この結果から、エージング処理が行われた製鋼スラグを用いる場合、製鋼スラグの粒径が1.2mmを超えると(Grain n(n=5.0, 2.5))、当該製鋼スラグが、コンクリートの表面を損傷させるだけの膨張性を発揮し、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0037】
ポップアウトの試験結果が
図2の供試体と
図6の供試体とで異なった理由としては、
図2の実施例1a〜1d,比較例1a・1bではエージング処理が行われていない製鋼スラグを用いたのに対し、
図6の実施例2a〜2d,比較例2a・2bではエージング処理が行われた製鋼スラグを用いたことが、1つの理由として考えられる。すなわち、エージング処理によって製鋼スラグの膨張性が低減されるが、粒径が1.2mm以下の製鋼スラグは、内部にまでエージング処理効果がおよび、全体として膨張性が低減される一方、粒径が1.2mmを超える製鋼スラグは、内部にまではエージング処理効果がおよばず、内部に膨張性を発揮する部分が残留するため、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0038】
図9(a)には、各供試体におけるAE減水剤の添加量も示されている。
AE減水剤は、一般に、コンクリートのワ−カビリティーや耐凍害性を改善するために添加される。本実験では、フレッシュコンクリートのスランプを10cmにすることを目的として、AE減水剤を各供試体に添加した。
図9(a)に示すように、AE減水剤の添加量(フレッシュコンクリートのスランプを10cmにするための必要量)は、Grain n (n=1.2, 0.6, 0.3)とPlain Concreteとで略同じである。
【0039】
なお、水浸膨張比が0.18%の製鋼スラグは、例えば道路用路盤材向けに水浸膨張比が1.5%以下となるように蒸気エージングによって安定化処理された製鋼スラグである。これに対して、実施例1での3.9%の製鋼スラグは、その安定化処理をしなかったものである。
【0040】
製鋼スラグの水浸膨張比をサンプル調査したところ、エージング処理が行われた製鋼スラグの水浸膨張比は、0.11%、0.18%、0.22%、0.30%、0.43%、0.56%、0.75%、0.82%、0.97%であり、エージング処理が行われていない製鋼スラグの水浸膨張比は、3.3%、3.6%、3.8%、3.9%、4.4%、5.0%、11.1%、13.6%、19.4%であり、いずれも水浸膨張比の数値にバラツキがあった。
【0041】
(作用・効果)
以上の試験結果から、本発明によると、モルタルまたはコンクリートを製造するに当たり、天然細骨材の中から除かれた粗粒分を製鋼スラグと混合することで全体として良質な細骨材として利用することができることがわかった。具体的には、下記のとおりである。なお、前記実施例1、2は、いずれもコンクリートを供試体としたものであるが、細骨材を共通とするモルタルに関しても同様の効果があることは明らかである。
【0042】
まず、本発明に係る製造方法で得られた実施例1a〜1d(Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3))は、Plain Concreteよりも大きな圧縮強度が得られ(
図3参照)、且つPlain Concreteよりも乾燥収縮ひずみ量が低減される(
図4参照)。また、実施例1c・1d(Grain n (n=0.6, 0.3))は、Plain Concreteと同様に、ポップアウトが生じず、AE減水剤の添加量もPlain Concreteと略同じである(
図5参照)。さらには、実施例1c(Grain 0.6)は、実施例1b(Grain 0.3)に比べて乾燥収縮ひずみ量がより小さい(
図4参照)。
【0043】
また、本発明に係る製造方法で得られた実施例2a〜2d(Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3))においても、Plain Concreteよりも大きな圧縮強度が得られる(
図7参照)。乾燥収縮ひずみ量に関しては、Plain Concreteよりも若干小さい(
図8参照)。また、実施例2b〜2d(Grain n (n=1.2,0.6, 0.3))は、Plain Concreteと同様に、ポップアウトが生じず、AE減水剤の添加量もPlain Concreteと略同じである(
図9参照)。
【0044】
<本発明の方法で別々に細骨材として利用してモルタルまたはコンクリートを製造することについて>
前記したように、天然細骨材の中から一部の粗粒分を除くことで、天然細骨材の中の細粒分・微粒分の割合を増加させることができる。これにより、天然細骨材の中の粒度分布を最適なものに近づけることができる。すなわち、良質な天然細骨材に近づけることができ、これから得られるモルタルまたはコンクリートも良質なものとなる(例えば、十分な耐久性を有するモルタルまたはコンクリートとなる)。一方、天然細骨材の中から除かれた粗粒分は製鋼スラグと混合されることで全体として良質な細骨材として利用することができる。
【0045】
したがって、本発明によれば、良質の天然細骨材のみによるモルタルまたはコンクリート、乾燥収縮量を低減したモルタルまたはコンクリート、というような、各種要求に応じたモルタルまたはコンクリートを、より資源を無駄にすることなく製造することができる。すなわち、天然細骨材・製鋼スラグの有効利用をより図ることができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態や実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。