特許第6080123号(P6080123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080123
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】モルタルまたはコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20170206BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20170206BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20170206BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/14 F
   C04B14/06 Z
   C04B20/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-22478(P2013-22478)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-152067(P2014-152067A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100145942
【弁理士】
【氏名又は名称】一角 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 浩章
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−290049(JP,A)
【文献】 特開2001−019529(JP,A)
【文献】 特開2008−266114(JP,A)
【文献】 特開平10−338557(JP,A)
【文献】 國府 勝郎,5.骨材,コンクリート総覧 THE CONCRETE,飯田 眞理 技術書院,第1版,P.221
【文献】 第2編 コンクリート材料,コンクリート便覧(第二版),長 祥隆 技報堂出版株式会社,第2版,P.66
【文献】 Mun-Hwan Lee,Study on the cause of pop-out defects on the concrete wall and repair method,construction and building materials,2009年,Vol.23,P.482-490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然細骨材中の一部の粗粒分と製鋼スラグとを混合した細骨材を第1の細骨材として用い
一部の前記粗粒分が除かれた前記天然細骨材を前記第1の細骨材とは別の第2の細骨材として用い、
前記製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて前記粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグであって、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを用い、
JIS A 5015に規定されている水浸膨張試験に基づいて求められる前記製鋼スラグの水浸膨張比が1%より大きく20%以下であり、
前記第1の細骨材を含むモルタルまたはコンクリートを製造するとともに、前記第2の細骨材を含むモルタルまたはコンクリートを製造することを特徴とする、モルタルまたはコンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記粗粒分として、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいにとどまる粗粒分のみを用いることを特徴とする、請求項1に記載のモルタルまたはコンクリートの製造方法。
【請求項3】
天然細骨材中の一部の粗粒分と製鋼スラグとを混合した細骨材を第1の細骨材として用い
一部の前記粗粒分が除かれた前記天然細骨材を前記第1の細骨材とは別の第2の細骨材として用い、
前記製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて前記粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグであって、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを用い、
JIS A 5015に規定されている水浸膨張試験に基づいて求められる前記製鋼スラグの水浸膨張比が1%以下であり、
前記第1の細骨材を含むモルタルまたはコンクリートを製造するとともに、前記第2の細骨材を含むモルタルまたはコンクリートを製造することを特徴とする、モルタルまたはコンクリートの製造方法。
【請求項4】
前記粗粒分として、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいにとどまる粗粒分のみを用いることを特徴とする、請求項3に記載のモルタルまたはコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグを細骨材として利用したモルタルまたはコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルは、セメントと細骨材とを混合して水で練ったものである。コンクリートは、セメントと細骨材と粗骨材とを混合して水で練ったものである。モルタル・コンクリートの材料となる細骨材として、川砂、海砂、山砂、砕砂などの天然細骨材が用いられている。
【0003】
現在、良質な砂の入手が困難になってきているため、天然細骨材として、海砂、中国産の川砂が用いられている。これらの天然細骨材は、細粒分・微粒分が不足ぎみであることがある。細粒分・微粒分が不足すると、モルタル・コンクリートに、乾燥収縮によるひび割れが発生する。すなわち、モルタル・コンクリートの耐久性が低下する。
【0004】
細粒分・微粒分の不足を補うために、特許文献1では、フェロニッケルスラグを細骨材として利用することを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−52744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェロニッケルスラグを細骨材として利用することで資源を有効利用することができるが、天然細骨材の有効利用という観点からは十分なものではない。
【0007】
本発明の目的は、天然細骨材・製鋼スラグの有効利用をより図ることができるモルタルまたはコンクリートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然細骨材中の一部の粗粒分と製鋼スラグとを混合した細骨材と、一部の前記粗粒分が除かれた前記天然細骨材と、を別々に細骨材として用いることを特徴とする、モルタルまたはコンクリートの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
一部の粗粒分が除かれた天然細骨材とすることで、天然細骨材の中の細粒分・微粒分の割合を増加させることができる。これにより、天然細骨材の中の粒度分布を最適なものに近づけることができる。すなわち、良質な天然細骨材に近づけることができ、これから得られるモルタルまたはコンクリートも良質なものとなる(例えば、十分な耐久性を有するモルタルまたはコンクリートとなる)。一方、天然細骨材中の一部の粗粒分は製鋼スラグと混合されることで全体として良質な細骨材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。(b)は、天然細骨材・製鋼スラグの有効利用のイメージ部である。
図2】本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体の配合を示す表である。
図3】本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体の圧縮強度を示すグラフである。
図4】本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体の乾燥収縮ひずみ量を示すグラフである。
図5】(a)は、本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体のポップアウトの発生個数ならびにAE減水剤の添加量を示すグラフである。(b)は、本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1bに係る供試体のポップアウトの状況を示す画像である。
図6】本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体の配合を示す表である。
図7】本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体の圧縮強度を示すグラフである。
図8】本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体の乾燥収縮ひずみ量を示すグラフである。
図9】(a)は、本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体のポップアウトの発生個数ならびにAE減水剤の添加量を示すグラフである。(b)は、本発明の比較例2bに係る供試体のポップアウトの状況を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0012】
本発明に係るモルタルまたはコンクリートの製造方法の一例について図1を参照しつつ説明する。モルタルは、セメントと細骨材とを混合して水で練ったものである。コンクリートは、セメントと細骨材と粗骨材とを混合して水で練ったものである。図1(a)は、モルタル・コンクリートの製造方法のうちの本発明に係るコンクリートの製造方法を示すフローチャートである。モルタルを製造する場合は、セメントと細骨材とを混合して水で練った後、モルタル打ちを行い、養生して固化させることになる。
【0013】
細骨材として用いる天然細骨材は、川砂、海砂、山砂、砕砂などである。粗骨材として用いる天然粗骨材は、川砂利、海砂利、山砂利、砕石などである。また、細骨材として用いる製鋼スラグは、転炉スラグ、電気炉スラグ、混銑予備処理スラグ、混銑炉スラグなどの製鋼工程で生成される様々なスラグである。
【0014】
細骨材とは、例えば、その粒径が5mm以下のもののことをいう。粗骨材とは、例えば、その粒径が5mmを超え、25mm以下のもののことをいう。
【0015】
図1(a)に示したように、まず、天然細骨材の中から一部の粗粒分をふるいなどを用いて除去することで、天然細骨材中の粒度分布を最適化する(粒度分布調整工程)(S1(ステップ1))。細粒分・微粒分が不足する天然細骨材から、その中で最も少ない粒度に合わせて、最適な粒度分布の天然細骨材を取り出す、ということである。例えば、図1(b)に示したように、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいにとどまる粗粒分の一部を天然細骨材の中から取り除く。なお、原料である天然細骨材として、モルタルに乾燥収縮によるひび割れが発生しやすくなるなどの細粒分・微粒分が不足している細骨材を想定している(図1(b)参照)。例えば海砂が挙げられるが、海砂に限られるものではない。
【0016】
天然細骨材の中から一部の粗粒分を除くことで、天然細骨材の中の細粒分・微粒分の割合を増加させることができる。これにより、天然細骨材の中の粒度分布を最適なものに近づけることができる。すなわち、良質な天然細骨材に近づけることができる。
【0017】
一方、取り除かれた粗粒分(例えば、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいにとどまる粗粒分の一部)は製鋼スラグと混合されて製鋼スラグ含有天然細骨材としてコンクリートの原料として用いられる。残された細骨材に不足する粒度が製鋼スラグで補われることで、こちらも良質な細骨材とすることができる。製鋼スラグは、例えば図1(b)に示したように、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過する製鋼スラグが用いられる。
【0018】
図1(a)に戻り、天然細骨材の中から取り除かれた粗粒分と製鋼スラグとを混合した細骨材と、天然粗骨材と、セメント(例えばポルトランドセメント)とを混合して水で練る(混合工程、S2)。その後、コンクリート打ちを行い、養生して固化させる(固化工程、S3)。
【0019】
一部の粗粒分が除かれた(粒度調整された)天然細骨材は、上記とは別に、天然粗骨材およびセメント(例えばポルトランドセメント)と混合され水で練られる(混合工程、S4)。その後、コンクリート打ちが行われ、養生して固化される(固化工程、S5)。
【0020】
なお、S2・S3とS4・S5とは並行して行われる必要はない。図1(a)として示したフローチャートは、天然細骨材の中から除かれた天然細骨材中の一部の粗粒分と製鋼スラグとを混合した細骨材と、一部の前記粗粒分が除かれた前記天然細骨材と、を別々に細骨材として利用することを主に表している。
【0021】
また、混合工程(S2・S4)では、混和材料(AE剤、減水剤、AE減水剤など)を適宜添加してよく、骨材、セメント、水の割合も任意である。固化工程(S3・S5)における養生は、常温常圧で、湿潤養生(湛水養生、散水養生、湿砂養生、養生マットや水密シートによる被覆・被膜養生など)とされる。
【実施例】
【0022】
続いて、本発明を実施例により具体的に説明する。
以下の実施例に係る供試体は、全て、図1(a)のS2・S3の工程によって製造したものであり、具体的な構成は下記のとおりである。
【0023】
(実施例1)
まず、図2図5を参照し、本発明の実施例1a〜1dおよび比較例1a・1bに係る供試体の構成、ならびにこれらを用いた各種試験の結果について説明する。
【0024】
Plain Concrete(比較例1a)は、細骨材として製鋼スラグを用いずに天然骨材のみを用いたコンクリート供試体である。Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)(比較例1b,実施例1a,実施例1b,実施例1c,実施例1d)は、細骨材として粒径n(mm)以下の製鋼スラグを配合したコンクリート供試体である。なお、これら供試体に用いた製鋼スラグはエージング処理が行われていないものである。製鋼スラグは、その水浸膨張比が1%より大きく20%以下のものが用いられる。水浸膨張比は、JIS A 5015に規定されている水浸膨張試験に基づいて求められる。
【0025】
図2の細骨材の粒径の欄において、「5.0〜」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて5.0mmのふるいを通過する、粒径が5.0mm以下の細骨材を意味する。「5.0〜2.5」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて5.0mmのふるいを通過するが2.5mmのふるいにとどまる、粒径が2.5mmよりも大きく且つ5.0mm以下の細骨材を意味する。「2.5〜1.2」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて2.5mmのふるいを通過するが1.2mmのふるいにとどまる、粒径が1.2mmよりも大きく且つ2.5mm以下の細骨材を意味する。「1.2〜0.6」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいを通過するが0.6mmのふるいにとどまる、粒径が0.6mmよりも大きく且つ1.2mm以下の細骨材を意味する。「0.6〜0.3」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過するが0.3mmのふるいにとどまる、粒径が0.3mmよりも大きく且つ0.6mm以下の細骨材を意味する。「0.3〜」は、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.3mmのふるいを通過する、粒径が0.3mm以下の細骨材を意味する。
これは図6においても同様である。
【0026】
Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3)(実施例1a,実施例1b,実施例1c、実施例1d)は、粒度分布調整工程(S1)で取り除かれた天然細骨材中の粗粒分と、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて当該粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグとを混合した細骨材を配合したコンクリート供試体である。
これらのうちのGrain n (n=0.6, 0.3)(実施例1c、実施例1d)は、製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを配合したものである。
また、Grain n (n=0.6, 0.3)のうちのGrain 0.6(実施例1c)は、さらに、天然細骨材の粗粒分として、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて0.6mmのふるいにとどまる粗粒分のみを配合したものである。
【0027】
圧縮強度試験の結果が、図3に示されている。
図3に示すように、製鋼スラグを配合したコンクリート供試体であるGrain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて圧縮強度が劣ることはなく、むしろPlain Concreteよりも圧縮強度が大きい。これは材齢7日、28日、および91日のいずれにおいても言える。
【0028】
乾燥収縮試験の結果が、図4に示されている。乾燥収縮試験は、温度20℃・湿度60%の環境下で行った。
図4に示すように、Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて、乾燥収縮ひずみが小さい。これは、水浸膨張比が比較的大きな製鋼スラグが膨張性を発揮し、乾燥収縮を抑制したものと推察される。また、水浸膨張比が3.9%の製鋼スラグを配合した場合、コンクリートの乾燥収縮量が著しく小さくなることがわかる。水浸膨張比が比較的大きな製鋼スラグを細骨材として配合することで、コンクリートの乾燥収縮量を低減できる、すなわち、ひび割れの発生を抑制でき、耐久性を向上させることができる。
また、6つの供試体全てにおいて、乾燥収縮ひずみ量が材齢91日までに安定している。
Grain 0.6(実施例1c)は、Grain 0.3(実施例1d)に比べて、乾燥収縮ひずみがより小さい。
【0029】
ポップアウトの観察結果が、図5に示されている。当該観察は、各供試体を180℃・0.9MPaの雰囲気中に8時間おいた後に行った。
図5(a),(b)に示すように、Plain ConcreteおよびGrain n (n=0.6, 0.3)にはポップアウトが生じず、Grain n(n=5.0, 2.5, 1.2)にはポップアウトが生じた。
この結果から、エージング処理が行われていない製鋼スラグを用いる場合、製鋼スラグの粒径が0.6mmを超えると(Grain n(n=5.0, 2.5, 1.2))、当該製鋼スラグが、コンクリートの表面を損傷させるだけの膨張性を発揮し、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0030】
図5(a)には、各供試体におけるAE減水剤の添加量も示されている。
AE減水剤は、一般に、コンクリートのワ−カビリティーや耐凍害性を改善するために添加される。本実験では、フレッシュコンクリートのスランプを10cmにすることを目的として、AE減水剤を各供試体に添加した。
図5(a)に示すように、AE減水剤の添加量(フレッシュコンクリートのスランプを10cmにするための必要量)は、Grain n (n=0.6, 0.3)とPlain Concreteとで略同じである。
【0031】
(実施例2)
次いで、図6図9を参照し、本発明の実施例2a〜2dおよび比較例2a・2bに係る供試体の構成、ならびにこれらを用いた各種試験の結果について説明する。
【0032】
Plain Concrete(比較例2a)は、細骨材として製鋼スラグを用いずに天然骨材のみを用いたコンクリート供試体である。Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)(比較例2b,実施例2a,実施例2b,実施例2c,実施例2d)は、細骨材として粒径n(mm)以下の製鋼スラグを配合したコンクリート供試体である。なお、これら供試体に用いた製鋼スラグはエージング処理が行われたものである。製鋼スラグは、その水浸膨張比が1%以下のものが用いられる。
【0033】
Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3)(実施例2a,実施例2b,実施例2c、実施例2d)は、粒度分布調整工程(S1)で取り除かれた天然細骨材中の粗粒分と、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて当該粗粒分の粒径よりも小さい粒径の製鋼スラグとを混合した細骨材を配合したコンクリート供試体である。
これらのうちのGrain n (n=1.2,0.6, 0.3)(実施例2b,実施例2c、実施例2d)は、製鋼スラグとして、JIS A 1102に準拠したふるい分けにおいて1.2mmのふるいを通過する製鋼スラグのみを配合したものである。
【0034】
圧縮強度試験の結果が、図7に示されている。
図7に示すように、製鋼スラグを配合したコンクリート供試体であるGrain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて圧縮強度が劣ることはなく、むしろPlain Concreteよりも圧縮強度が大きい。これは材齢7日、28日、および91日のいずれにおいても言える。
【0035】
乾燥収縮試験の結果が、図8に示されている。乾燥収縮試験は、温度20℃・湿度60%の環境下で行った。
図8に示すように、Grain n (n=5.0, 2.5, 1.2, 0.6, 0.3)は全て、Plain Concreteに比べて、乾燥収縮ひずみが若干小さい。すなわち、水浸膨張比が0.18%(1%以下)の製鋼スラグを配合した場合、コンクリートの乾燥収縮量は、通常のコンクリート(Plain Concrete)よりも若干小さくなる。
また、6つの供試体全てにおいて、乾燥収縮ひずみ量が材齢91日までに安定している。
【0036】
ポップアウトの観察結果が、図9に示されている。当該観察は、各供試体を180℃・0.9MPaの雰囲気中に8時間おいた後に、行った。
図9(a),(b)に示すように、Plain ConcreteおよびGrain n (n=1.2, 0.6, 0.3)にはポップアウトが生じず、Grain n(n=5.0, 2.5)にはポップアウトが生じた。
この結果から、エージング処理が行われた製鋼スラグを用いる場合、製鋼スラグの粒径が1.2mmを超えると(Grain n(n=5.0, 2.5))、当該製鋼スラグが、コンクリートの表面を損傷させるだけの膨張性を発揮し、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0037】
ポップアウトの試験結果が図2の供試体と図6の供試体とで異なった理由としては、図2の実施例1a〜1d,比較例1a・1bではエージング処理が行われていない製鋼スラグを用いたのに対し、図6の実施例2a〜2d,比較例2a・2bではエージング処理が行われた製鋼スラグを用いたことが、1つの理由として考えられる。すなわち、エージング処理によって製鋼スラグの膨張性が低減されるが、粒径が1.2mm以下の製鋼スラグは、内部にまでエージング処理効果がおよび、全体として膨張性が低減される一方、粒径が1.2mmを超える製鋼スラグは、内部にまではエージング処理効果がおよばず、内部に膨張性を発揮する部分が残留するため、ポップアウト発生の要因となると推察される。
【0038】
図9(a)には、各供試体におけるAE減水剤の添加量も示されている。
AE減水剤は、一般に、コンクリートのワ−カビリティーや耐凍害性を改善するために添加される。本実験では、フレッシュコンクリートのスランプを10cmにすることを目的として、AE減水剤を各供試体に添加した。
図9(a)に示すように、AE減水剤の添加量(フレッシュコンクリートのスランプを10cmにするための必要量)は、Grain n (n=1.2, 0.6, 0.3)とPlain Concreteとで略同じである。
【0039】
なお、水浸膨張比が0.18%の製鋼スラグは、例えば道路用路盤材向けに水浸膨張比が1.5%以下となるように蒸気エージングによって安定化処理された製鋼スラグである。これに対して、実施例1での3.9%の製鋼スラグは、その安定化処理をしなかったものである。
【0040】
製鋼スラグの水浸膨張比をサンプル調査したところ、エージング処理が行われた製鋼スラグの水浸膨張比は、0.11%、0.18%、0.22%、0.30%、0.43%、0.56%、0.75%、0.82%、0.97%であり、エージング処理が行われていない製鋼スラグの水浸膨張比は、3.3%、3.6%、3.8%、3.9%、4.4%、5.0%、11.1%、13.6%、19.4%であり、いずれも水浸膨張比の数値にバラツキがあった。
【0041】
(作用・効果)
以上の試験結果から、本発明によると、モルタルまたはコンクリートを製造するに当たり、天然細骨材の中から除かれた粗粒分を製鋼スラグと混合することで全体として良質な細骨材として利用することができることがわかった。具体的には、下記のとおりである。なお、前記実施例1、2は、いずれもコンクリートを供試体としたものであるが、細骨材を共通とするモルタルに関しても同様の効果があることは明らかである。
【0042】
まず、本発明に係る製造方法で得られた実施例1a〜1d(Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3))は、Plain Concreteよりも大きな圧縮強度が得られ(図3参照)、且つPlain Concreteよりも乾燥収縮ひずみ量が低減される(図4参照)。また、実施例1c・1d(Grain n (n=0.6, 0.3))は、Plain Concreteと同様に、ポップアウトが生じず、AE減水剤の添加量もPlain Concreteと略同じである(図5参照)。さらには、実施例1c(Grain 0.6)は、実施例1b(Grain 0.3)に比べて乾燥収縮ひずみ量がより小さい(図4参照)。
【0043】
また、本発明に係る製造方法で得られた実施例2a〜2d(Grain n (n=2.5,1.2,0.6, 0.3))においても、Plain Concreteよりも大きな圧縮強度が得られる(図7参照)。乾燥収縮ひずみ量に関しては、Plain Concreteよりも若干小さい(図8参照)。また、実施例2b〜2d(Grain n (n=1.2,0.6, 0.3))は、Plain Concreteと同様に、ポップアウトが生じず、AE減水剤の添加量もPlain Concreteと略同じである(図9参照)。
【0044】
<本発明の方法で別々に細骨材として利用してモルタルまたはコンクリートを製造することについて>
前記したように、天然細骨材の中から一部の粗粒分を除くことで、天然細骨材の中の細粒分・微粒分の割合を増加させることができる。これにより、天然細骨材の中の粒度分布を最適なものに近づけることができる。すなわち、良質な天然細骨材に近づけることができ、これから得られるモルタルまたはコンクリートも良質なものとなる(例えば、十分な耐久性を有するモルタルまたはコンクリートとなる)。一方、天然細骨材の中から除かれた粗粒分は製鋼スラグと混合されることで全体として良質な細骨材として利用することができる。
【0045】
したがって、本発明によれば、良質の天然細骨材のみによるモルタルまたはコンクリート、乾燥収縮量を低減したモルタルまたはコンクリート、というような、各種要求に応じたモルタルまたはコンクリートを、より資源を無駄にすることなく製造することができる。すなわち、天然細骨材・製鋼スラグの有効利用をより図ることができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態や実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9