【文献】
H.L.COHEN,The Preparation and Reactions of Polymeric Azides. II. The Preparation and Reactions of Various Polymeric Azides,Journal of Polymer Science: Polymer Chemistry Edition,1981年 1月 1日,Vol.19,pp.3269-3284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリマー誘導体は、下記一般式(1)で表される。
【0015】
式中、Rは、アルキル基、ハロゲン基、水酸基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、チオール基、ビニル基又は炭素数3〜30の環式有機化合物から選ばれる置換基であって、トリアゾール基に直接結合するか、又は、エステル結合、アミド結合、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素鎖、炭素数3〜30の環式有機化合物、繰り返し数2〜10のオリゴエチレングリコール鎖又はアルキルエーテル鎖から選ばれる1種類以上のスペーサーユニットを介して結合している。
【0016】
アルキル基は、直鎖又は分岐の低級アルキル基であり、具体的には、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基である。
エステル結合又はアミド結合を介して結合するとは、以下の式(19)又は(20)を意味する。
【0019】
炭素数3〜30の環式有機化合物は、単環化合物又は縮合環化合物であってもよい。単環化合物には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサンのようなシクロアルカン、ベンゼンのような芳香
族環が含まれる。縮合環化合物は、複数の単環化合物が縮合したもので、2〜5個の単環化合物が含まれる。具体的には、アセン、フェナントレン、クリセン、ピレン等の化合物が含まれる。環式有機化合物にはチオフェンやテトラヒドロフランのような複素環式化合物も含む。
【0020】
脂肪族炭化水素鎖は、直鎖又は分岐の飽和炭化水素鎖であってもよく、又は直鎖又は分岐の不飽和炭化水素鎖であってもよい。好ましくは炭素数1〜12の直鎖又は分岐の飽和炭化水素鎖である。
【0021】
オリゴエチレングリコール鎖とは、−O−(C
2H
4)−が繰り返し結合する構造を意味する。繰り返し数は、2〜10である。
【0022】
アルキルエーテル鎖とは−C
mH
2m−O−又は−CH
2−O−C
mH
2m−O−の構造を有するユニットで、mは1〜18の自然数である。
【0023】
式中のnは、繰り返し数であり、本発明のポリマー誘導体の分子量が2,000〜800万の範囲に入るように選択される。
【0024】
式中の置換基Rは、トリアゾール環の第4位を化学修飾する置換基であり、ポリマー中で全てが同じであってもよく、あるいは複数の異なるものであってもよい。置換基Rが全て同じ場合は、1種類のモノマーを構成単位とするグリシジル-4位修飾-1,2,3−トリアゾール誘導体ポリマーであり、異なる場合は、2種類以上のモノマーを構成単位とするグリシジル-4位修飾-1,2,3−トリアゾール誘導体ポリマーである。例えば、Rが異なる2つ又は3つの置換基である場合には、本発明のポリマー誘導体は式(2)又は(3)で表される。なお、前述したように、置換基Rは、スペーサー分子を介してトリアゾール基に結合してもよい。置換基Rは、実施例に示すように、スペーサー分子の末端の炭素に結合していてもよいが、結合位置は特に限定されるものではない。
【0027】
式(2)及び(3)中のa、bの合計又はa、b、cの合計は、nであり、nは、本発明のポリマー誘導体の分子量が2,000〜800万の範囲に入るように選択される。
【0028】
本発明のポリマー誘導体を構成するモノマーは、式(15)に示すように3種類以上であってもよい。
【0030】
式(15)中のa、b、...、zの合計はnであり、nは、本発明のポリマー誘導体の分子量が2,000〜800万の範囲に入るように選択される
【0031】
式中のトリアゾール環の第4位に結合する置換基R, R
1, R
2, R
3, R
a, R
b...又はR
zは、具体的には以下に示す式(4)〜(14)で表される置換基である。
【0043】
本発明のポリマー誘導体は、アジド基を全く含まないので爆発の心配はなく、熱安定性に優れている。また、主鎖がポリエチレンのポリオレフィン系ポリマーとは異なり、ポリエーテルであるため、高分子主鎖の屈曲性が高く、ガラス転移温度が低いため、ソフトマテリアルとして利用することができる。
【0044】
本発明のポリマー誘導体は、グリシジルアジドポリマー(式(16)で表される)と式(17)で表される少なくとも1種類のアルキン化合物とを触媒の存在下、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はテトラヒドロフラン(THF)のような有機溶媒中で反応させる方法であって、アルキン化合物/アジド基のモル比を1以上とし、未反応のアジド基を残さないことを特徴とする。反応スキームを
図1に示す。
反応温度が高いほど反応は短時間で終了するが、アルキン化合物の種類によっては沸点が低いため、高温で反応するとアルキン化合物が気化してしまうため、過剰のアルキン化合物を必要とする。また、溶液濃度が高いほど反応は短時間で終了するが、溶液濃度が高い場合、ポリマーが絡み合い、反応液がゲルに変化している例がみられる。一度ゲル化すると、ポリマーとアルキン化合物が撹拌混合されなくなるためトリアゾール基への変換効率が悪くなるのみでなく、再溶解が困難であるため精製に支障をきたす。ゲル化を防止するため、グリシジルアジドポリマーの溶液濃度(g/mL)を2%以下とすることが好ましい。ただし、濃度が1%より薄くなるとアジド基をトリアゾール基に変換するのに、より多くのアルキン化合物が必要になったり、反応時間を延ばさなければならなくなるため好ましくない。反応には触媒を用いることが望ましく、例えば、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェートや硫酸銅のような銅系の触媒が望ましい。
【0047】
式(17)中のRは、前述のものと同じである。
一般的にポリマーの分子量には幅があり、出発物質として用いるグリシジルアジドポリマーによって、本発明のポリマー誘導体の分子量も変わる。実施例で用いたグリシジルアジドポリマーには分子量2,000から500万のものが同時に含まれていることから、本発明のポリマー誘導体の分子量の範囲は、は2,000〜800万の範囲である。
また、2種類以上のアルキンをグリシジルアジドポリマーと反応させることにより、前述の式(2)、(3)又は(15)に示す2種類以上のモノマーを構成単位とするコポリマー型のポリマー誘導体を得ることができる。
得られた本発明のポリマー誘導体の精製手順は、以下の手順に従って行えばよい。銅触媒は、溶液中で陽イオン交換樹脂に吸着させるか、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩水溶液にキレートさせることで、除去することができる。過剰量のアルキン化合物は、ポリマーにとっては貧溶媒でアルキン化合物にとっては良溶媒となる溶媒に、ポリマー溶液を滴下することで除去することができる。本発明のポリマー誘導体は沈殿物として回収される。
【0048】
グリシジルアジドポリマーは、ポリエピクロロヒドリン(式(18)で表す)をDMF中でアジ化ナトリウムと約80℃で反応させることで得ることができる。
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
なお、実施例で用いたグリシジルアジドポリマーは、ポリエピクロロヒドリン(Sigma-Aldrich社、分子量700,000)をDMF中でアジ化ナトリウムと80℃で24時間反応させて合成したものである。ポリマーは分子量分布を持っており、出発物質として用いたグリシジルアジドポリマーのサンプルには分子量2,000から500万のものが同時に含まれている。
【実施例1】
【0051】
2−プロピニルベンゼンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)及び2−プロピニルベンゼン(0.75mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に15 mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。完全にDMFを取り除くために、10mLのジクロロメタンに溶解したポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを200mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液200mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを98%の収率で得た。合成は
1H及び
13C-NMRにより確認した。溶媒は重クロロホルムを用いた。
1H及び
13C-NMR(プロトン核磁気共鳴及びカーボンサーティン核磁気共鳴)の結果を
図2に示す。
【実施例2】
【0052】
1−tert−ブチル−4−エチニルベンゼンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、硫酸銅5水和物(20mg)、アスコルビン酸ナトリウム(30mg)、及び1−tert−ブチル−4−エチニルベンゼン(1.0 mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、50℃で20時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に6mLのDMFを投入し、250mLのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液に滴下することでポリマーを沈殿させるとともに、銅触媒、アスコルビン酸ナトリウムを取り除いた。200mLのメタノールとアセトンで順次ポリマーを洗浄後、減圧乾燥することで修飾ポリマーを87%の収率で得た。合成は
1H-NMRにより確認した。溶媒は重ジクロロメタンを用いた。結果を
図3に示す。
【実施例3】
【0053】
2−プロピニルシクロヘキサンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)及び2−プロピニルシクロヘキサン(0.86mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。完全にDMFを取り除くために、10mLのジクロロメタンに溶解したポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを200mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液200mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを84%の収率で得た。合成は
1H及び
13C-NMRにより確認した。溶媒は重クロロホルムを用いた。結果を
図4に示す。
【実施例4】
【0054】
1−ヘキシンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)及び1−ヘキシン(0.69mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。完全にDMFを取り除くために、10mLのジクロロメタンに溶解したポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを200mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液200mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを87%の収率で得た。合成は
1H及び
13C-NMRにより確認した。溶媒は重クロロホルムを用いた。結果を
図5に示す。
【実施例5】
【0055】
1−ペンチンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.11g)を40℃で5mLのDMFに溶解させた後、硫酸銅5水和物(7mg)、アスコルビン酸ナトリウム(11mg)、及び1−ペンチン(0.20mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に10mLのDMFと5gの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。完全にDMFを取り除くために、5mLのジクロロメタンに溶解したポリマー溶液を100mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを100mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液100mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを84%の収率で得た。合成は
1H-NMRにより確認した。溶媒は重ジクロロメタンを用いた。結果を
図6に示す。
【実施例6】
【0056】
3,3−ジメチル−1−ブチンによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)及び3,3−ジメチル−1−ブチン(0.93mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。完全にDMFを取り除くために、10mLのジクロロメタンに溶解したポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを200mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液200mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを85%の収率で得た。合成は
1H及び
13C-NMRにより確認した。溶媒は重クロロホルムを用いた。結果を
図7に示す。
【実施例7】
【0057】
α−メチル, ω−プロパジル−トリエチレングリコールによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.27g)を40℃で15mLのTHFに溶解した後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(50mg)及びα−メチル, ω−プロパジル−トリエチレングリコール(0.70mL)を加えた。アルゴン雰囲気下、50℃で24時間撹拌しながら反応させた。反応溶液にTHFを20mL加えた後、15ggの陽イオン交換樹脂を投入し、銅イオンを吸着させた。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶液を濃縮した。ポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに滴下することでポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを88%の収率で得た。合成は
1H及び
13C-NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図8に示す。
【実施例8】
【0058】
メチルプロピオレートによる修飾
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で20mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)及びメチルプロピオレート(0.36mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。銅イオンを除くために反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入した。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶液を濃縮した。銅イオンを完全に取り除くためにポリマー溶液をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液(300mL)に滴下した。沈殿したポリマーを濾過により回収し、ヘキサンで洗浄した。減圧乾燥することで修飾ポリマーを98%の収率で得た。合成は
1H及び
13C NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図9に示す。
【実施例9】
【0059】
実施例8で合成したポリマー(0.30g)をDMFと水の混合溶媒(15mL/1.5mL)に溶解した。0.90gの水酸化カリウムを加えた後、反応溶液をアルゴン雰囲気下、60℃で16時間撹拌しながら反応させた。エバポレーターにより溶媒を取り除いた後、ポリマーを100mLの蒸留水に溶解させた。濾過により不溶成分を取り除いた後、1モル濃度の塩酸を加えて溶液のpHを1にした。ポリマーが沈殿したことを確認し、溶媒をデカンテーションにより廃棄した。ポリマーを少量の水とヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥することで脱エステル化したポリマーを収率100%で得た。合成は
1H及び
13C NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図10に示す。
【実施例10】
【0060】
2種類のアルキン(メチルプロピオレート、ヘキシン)とグリシジルアジドポリマーとを反応させた。
グリシジルアジドポリマー(0.30gg)を40℃で20mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)、メチルプロピオレート(0.18mL)及び1−ヘキシン(0.23mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。銅イオンを除くために反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入した。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶液を濃縮した。銅イオンを完全に取り除くためにポリマー溶液をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液(300mL)に滴下した。沈殿したポリマーを濾過により回収し、ヘキサンで洗浄した。減圧乾燥することでコポリマーを97%の収率で得た。合成は
1H及び
13C NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図11に示す。
【実施例11】
【0061】
実施例10で得たポリマー(0.30g)をDMFと水の混合溶媒(15mL/1.5mL)に溶解した。0.90gの水酸化カリウムを加えた後、反応溶液をアルゴン雰囲気下、60℃で16時間撹拌しながら反応させた。エバポレーターにより溶媒を取り除いた後、ポリマーを100mLの蒸留水に溶解させた。濾過により不溶成分を取り除いた後、1モル濃度の塩酸を加えて溶液のpHを1にした。ポリマーが沈殿したことを確認し、溶媒をデカンテーションにより廃棄した。ポリマーを少量の水で洗った後、20mLのDMFに溶解させた。高分子溶液を硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターにより濃縮した。ポリマー溶液を300mLのジクロロメタンに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを濾過により回収し、水とヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥することでコポリマーを収率90%で得た。合成は
1H及び
13C NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図12に示す。
【実施例12】
【0062】
2種類のアルキン(ヘキシンとα−メチル,ω−プロパジル−テトラエチレングリコール)とグリシジルアジドポリマーとを反応させた。
グリシジルアジドポリマー(0.30gg)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(50mg)、1−ヘキシン(0.34mL)及びα−メチル,ω−プロパジル−テトラエチレングリコール(0.67mL)を添加した。アルゴン雰囲気下、50℃で24時間撹拌しながら反応させた。銅イオンを除くために反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入した。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶液を濃縮した。ポリマー溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。沈殿したポリマーを200mLのジクロロメタンに溶解し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液200mLで洗浄することにより銅イオンを完全に除いた。ジクロロメタン層を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、エバポレーターで濃縮した後、再びジエチルエーテルに摘下してポリマーを沈殿させた。濾過によりポリマーを回収し、減圧乾燥することで修飾ポリマーを89%の収率で得た。合成は
1H-NMRにより確認した。溶媒は重クロロホルムを用いた。結果を
図13に示す。
また、NMRスペクトルのピーク面積からコポリマー中のアルキル鎖とエチレングリコール鎖の存在比は2:1であることを確認した。
【実施例13】
【0063】
3種類のアルキン(メチルプロピオレート、ヘキシン及び1−エチニルピレン)とグリシジルアジドポリマーとを反応させた。
グリシジルアジドポリマー(0.30g)を40℃で15mLのDMFに溶解させた後、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロフォスフェート(56mg)と1−エチニルピレン(0.36MのDMF溶液から8μLをとって添加)を加えた。アルゴン雰囲気下、40℃で2時間撹拌しながら反応させた。さらにメチルプロピオレート(0.13mL)と1−ヘキシン(0.46mL)を添加した後、アルゴン雰囲気下、40℃で24時間撹拌しながら反応させた。銅イオンを除くために反応溶液に15mLのDMFと15gの陽イオン交換樹脂を投入した。濾過により陽イオン交換樹脂を除いた後、エバポレーターにより溶液を濃縮した。銅イオンを完全に取り除くためにポリマー溶液をエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水溶液(200mL)に滴下した。沈殿したポリマーを濾過により回収し、ヘキサンで洗浄した。減圧乾燥することで0.56gの修飾ポリマーを得た。合成は
1H‐NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図14に示す。
【実施例14】
【0064】
実施例13で得たポリマー(0.30g)をDMFと水の混合溶媒(15mL/1.0mL)に溶解した。0.90gの水酸化カリウムを加えた後、反応溶液をアルゴン雰囲気下、40℃で16時間撹拌しながら反応させた。エバポレーターにより溶媒を取り除いた後、ポリマーを100mLの蒸留水に溶解させた。濾過により不溶成分を取り除いた後、2モル濃度の塩酸を加えて溶液のpHを1にした。ポリマーが沈殿したことを確認し、溶媒をデカンテーションにより廃棄した。ポリマーを水とヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥することで0.24gのコポリマーを得た。合成は
1H‐NMRにより確認した。溶媒は重DMSOを用いた。結果を
図15に示す。得られたコポリマーの紫外−可視吸収スペクトル、蛍光スペクトルを
図16、17に示す。ポリマーはDMSOに溶かした。これらのスペクトルに見られるピークはコポリマー中に導入されたピレンの吸収、発光に基づくものである。
【0065】
実施例1〜14から、本発明のポリマー誘導体の置換基Rは、特定の置換基に限定されるものでないことが理解できる。また、異なる複数の種類のアルキン化合物を反応に供することで異なる複数の構成モノマーからなる本発明のコポリマー誘導体を得ることができることが理解できる(実施例10−14)。
【実施例15】
【0066】
グリシジルアジドポリマーと本発明のポリマー誘導体の熱分解特性を比較した。
グリシジルアジドポリマーと実施例1,3,4,6で得られたポリマーの熱分解特性を
図18に示す。図中の符号1で示す曲線は、グリシジルアジドポリマーの分解状態を示し、符号2で示す複数の曲線は、実験例1、3、4、及び6で得られたポリマーの分解曲線を示す。グリシジルアジドポリマーは250oC付近でアジド基の分解が起こり、40%もの質量を失ってしまう。アジド基をすべて4位修飾1,2,3−トリアゾール基に変換すると400℃付近まで分解しなくなることがわかる。
【実施例16】
【0067】
置換基Rを変更することにより、ポリマーの溶解性を変えることができる。実施例1,3,4,6,8,9によって得られたポリマーに対して溶解性を確認した。その結果を表1に示す。修飾に用いるアルキン化合物の種類によって溶解性を制御できることが分かる。出発物質であるグリシジルアジドポリマーは水には不溶であるが、実施例9のポリマーは水に溶解する。アルキン化合物の種類を選ぶことでグリシジルアジドポリマーとは全く溶解性の異なるポリマーを生み出すことができる。
【0068】
本発明により、実施例11のように親水性基と疎水性基を同時に有する両親媒性をもつ機能性高分子を生み出すことができる。カルボン酸と炭化水素鎖が、それぞれ親水性部と疎水性部に対応する。
【0069】
さらに、実施例14のように両親媒性高分子にピレンのような蛍光プローブを導入することもできる。このように本発明は要求に応じて自由に機能を追加することを可能にするものである。
【0070】
【表1】
【実施例17】
【0071】
実施例1,3,4,6,8,9で得られたポリマーとグリコシジルアジドポリマーに対して示差走査熱量測定を行い、ガラス転移温度を求めた。その結果を表2に示す。修飾に用いるアルキン化合物の種類によってガラス転移温度を制御できることが分かる。本発明で得られるポリマーの主鎖は柔軟なポリエーテルであるため、ポリスチレンやポリメチルメタクリレートなどのポリオレフィン系のポリマーに比べてガラス転移温度が低い。このような特徴はソフトマテリアルとしての応用が期待できる。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1〜8のグリシジル-4位修飾-1,2,3−トリアゾール誘導体ポリマーの合成条件と回収率を表3に示す。また、表4に、うまく反応しなかった例を比較例1から6として示す。いくつかの例では、グリシジルアジドポリマーのアジド基から1,2,3−トリアゾールへの変換率が100%に達しなかった。その他の例では、反応液がゲルに変化した。なお、表中ではグリシジルアジドポリマーをGAPと表記している。
反応温度が高いほど反応は短時間で終了する。アルキン化合物の種類によっては沸点が低いため、高温で反応すると気化してしまうため、100%変換するためには過剰のアルキン化合物を必要とする(比較例2,3,4)。また、溶液濃度が高いほど反応は短時間で終了するが、溶液濃度が高い場合、ポリマーが絡み合って、反応液がゲル化している例がみられる(比較例1、5,6)。一度ゲル化すると再溶解が困難であり、精製に支障をきたす。溶媒量を多くして溶液濃度を下げることでゲル化を防ぐことができた。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表4に示すように、グリシジルアジドポリマーとアルキン化合物の反応が完全に進まないことがある。
アジド基が20%残ったグリシジル-4位部分修飾-1,2,3−トリアゾール誘導体ポリマーの熱分解特性を
図19に示す。250℃付近でアジド基の分解による重量減が生じており、アジド基の残存は、非爆発性素材としての実用上の適用に問題であることが分かる。