(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080149
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】セシウムの選択的分離方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/10 20060101AFI20170206BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
G21F9/10 A
G21F9/28 521A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-47900(P2012-47900)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-181953(P2013-181953A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】田村 典敏
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−020074(JP,A)
【文献】
特開2005−054211(JP,A)
【文献】
特開昭61−068600(JP,A)
【文献】
特開昭58−009098(JP,A)
【文献】
特開2004−035937(JP,A)
【文献】
Laurent Nassif et.al,Pretreatment of Hanford Medium-Curie Wastes by Fractional Crystallization,[on line],米国,American Chemical Society,2008年 5月28日,Vol.42,No.13,p.4940-p.4945,Environmental Science & Technology,URL,http://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/es7031696
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/10
G21F 9/28
G21F 9/06
G21F 9/08
G21F 9/32
G21C 19/46
B01D 9/00−9/02
B09B 1/00−5/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象液が、セシウムとセシウム以外のアルカリ金属塩とを含む、セメントキルン排ガスから回収したダストを水洗して得た洗浄水であって、下記の(A)工程、(B)工程および(C)工程を含み、(B)工程および(C)工程で回収したセシウムが溶存した液分を(A)工程に戻し、(A)〜(C)工程を繰り返すことによってセシウムを濃縮して分離する、セシウムの選択的分離方法。
(A)前記処理対象液から、減圧下で加熱晶析によりセシウム以外のアルカリ金属塩を晶出させて、溶存した状態のセシウムと、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを含有するスラリーを得る、晶析工程(ただし、前記加熱晶析は、前記スラリー中の結晶の含有率が15〜25体積%を維持するように、水分の蒸発量を微調整して行う。)
(B)前記(A)工程で得たスラリーを固液分離して、セシウムが溶存した液分と、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを回収する、分離回収工程
(C)前記(B)工程で回収したセシウムが溶存した液分の一部を乾燥して、セシウムが濃縮したセシウム濃縮物を回収するとともに、残りの液分を晶析装置に戻す、セシウム濃縮物回収工程
【請求項2】
前記(A)工程を実施する前に、処理対象液から不溶物を除去する不溶物除去工程(D)を含む、請求項1に記載のセシウムの選択的分離方法。
【請求項3】
前記(D)工程で除去した不溶物をセメント原料の一部として用いる、請求項2に記載のセシウムの選択的分離方法。
【請求項4】
前記(A)工程で用いる処理対象液が放射性廃液(洗浄水)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセシウムの選択的分離方法。
【請求項5】
前記セメントキルン排ガスから回収したダストの水洗に際し、セシウムを溶出させるための酸を添加する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセシウムの選択的分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩を多く含む液から、セシウムを容易かつ選択的に分離することができる方法、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や使用済み核燃料の再処理工場等で発生する廃液は、放射性セシウム等の放射性物質のほか、これらの施設で使用する薬剤由来のアルカリ金属塩を多く含んでいる。具体的には、原子力発電所で発生する廃液は、硫酸ナトリウムやほう酸ナトリウムを含み、使用済み核燃料の再処理工場で発生する廃液は、硝酸ナトリウムを20質量%程度含んでいる。
また、福島の原子力発電所の事故以来、東日本各地の下水汚泥処理場では、下水汚泥焼却灰から高濃度の放射性セシウムが検出されているが、この焼却灰は、ナトリウムやカリウムを酸化物換算で数質量%程度含んでいる。そして、各処理場において下水汚泥焼却灰の保管量が限界に近づいている現状では、セシウムの分離等による焼却灰の処理は、緊喫の課題であり社会的要請でもある。
【0003】
しかし、セシウムはナトリウム等と同族の元素であるため化学的性質が類似し、通常、多量のアルカリ金属塩を含む廃液や焼却灰中から、微量のセシウムを分離することは困難を伴う。例えば、セシウムの除去にゼオライト等の吸着材を用いた場合、i)大量に存在するナトリウム等との競争吸着によりセシウムの吸着量は低下するため、大過剰の吸着材を使用しなければならないこと、したがって、ii)該吸着材を収容する吸着塔などの設備が大型化すること、また、iii)吸着材の廃材が大量に発生するため処分場等の確保が困難であること、など多くの課題がある。
【0004】
これらの課題を受けて、セシウムの選択的分離方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、セシウム放射性同位体を含有する原子炉水などに、テトラフェニルほう酸ナトリウムを溶解して、難溶性のテトラフェニルほう酸セシウムを生成・沈殿させた後、濾過・分離する、セシウム放射性同位体の選択的分離方法が提案されている。しかし、該ほう酸塩の本来の用途は分析用試薬であるため、該ほう酸塩を沈殿剤として大量に用いる前記方法は相当なコスト高になり実用的ではない。
【0005】
また、特許文献2には、セシウム含有水溶液に、交換可能な遷移金属分が35%以下である遷移元素ヘキサシアノ鉄酸塩を添加して、セシウムをヘキサシアノ鉄酸塩と結合・沈殿させ、セシウム含有量が減少した水溶液をヘキサシアノ鉄酸塩から分離する、核廃液からセシウムを除去する方法が提案されている。しかし、該方法は、遷移元素ヘキサシアノ鉄酸塩を大量に調製する必要があり手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−41075号公報
【特許文献2】特表2000−512759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を多く含む液からでも、セシウムを容易かつ選択的に分離できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、セシウムとセシウム以外のアルカリ金属塩を含む処理対象液を晶析すると、i)セシウムは液分側にのみ残存し、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分側には存在しないこと、また、ii)セシウムが残存した液分を、処理対象液と混合して晶析し分離する操作を繰り返せば、セシウムが濃縮(蓄積)した液(以下「セシウム濃縮液」という。)が容易に得られ、セシウムを選択的に分離できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[
5]を提供する。
[1]
処理対象液が、セシウムとセシウム以外のアルカリ金属塩とを含む、セメントキルン排ガスから回収したダストを水洗して得た洗浄水であって、下記の(A)工程
、(B)工程
および(C)工程を含み、(B)工程
および(C)工程で回収したセシウムが溶存した液分を(A)工程に戻し、(A)
〜(C)工程を繰り返すことによってセシウムを濃縮して分離する、セシウムの選択的分離方法。
(A)
前記処理対象液から、
減圧下で加熱晶析によりセシウム以外のアルカリ金属塩を晶出させて、溶存した状態のセシウムと、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを含有するスラリーを得る、晶析工程
(ただし、前記加熱晶析は、前記スラリー中の結晶の含有率が15〜25体積%を維持するように、水分の蒸発量を微調整して行う。)
(B)前記(A)工程で得たスラリーを固液分離して、セシウムが溶存した液分と、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを回収する、分離回収工程
(C)前記(B)工程で回収したセシウムが溶存した液分の一部を乾燥して、セシウムが濃縮したセシウム濃縮物を回収するとともに、残りの液分を晶析装置に戻す、セシウム濃縮物回収工程
【0010】
[2]前記(A)工程を実施する前に、処理対象液から不溶物を除去する不溶物除去工程(
D)を含む、前記[1]に記載のセシウムの選択的分離方法。
[3]前記(
D)工程で除去した不溶物をセメント原料の一部として用いる、前
記[2]に記載のセシウムの選択的分離方法。
[4]前記(A)工程で用いる処理対象液が放射性廃液
(洗浄水)である、前記[1]〜[
3]のいずれか1項に記載のセシウムの選択的分離方法。
[5]前記
セメントキルン排ガスから回収したダストの水洗に際し、セシウムを溶出させるための酸を添加する、前記
[1]〜[4]のいずれか1項に記載のセシウムの選択的分離方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を多く含む液からでも、セシウムを容易かつ選択的に濃縮して分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のセシウムの選択的分離装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、前記のとおり、(A)晶析工程および(B)分離回収工程を少なくとも含むセシウムの選択的分離方法と、これらの工程を実施するための装置等を含むセシウムの選択的分離装置である。
以下、本発明について方法と装置に分けて詳細に説明する。
【0015】
1.セシウムの選択的分離方法
(A)晶析工程
該工程は、処理対象液から晶析によりセシウム以外のアルカリ金属塩を晶出させて、溶存した状態のセシウムと、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを含有するスラリーを得る工程である。後記の実施例で示すように、該工程において得られたスラリーは、セシウムがすべて溶解した状態で存在し、固形分中には存在しないという特異性がある。
前記処理対象液は、溶液、懸濁液およびスラリーのいずれの形態も含む。本発明の方法の各工程において、常にセシウムは液分側に存在し、固形分との分離が容易なため、固形分を含む懸濁液やスラリーでも処理対象にすることができる。したがって、本発明の方法は、前記特許文献1や2に記載のセシウムを沈殿物として分離する方法と比べ、処理対象が格段に広い。
【0016】
具体的には、処理対象液として、i)下水汚泥焼却灰、都市ゴミ焼却灰等の焼却灰や、キルンダスト等の、セシウムを含むアルカリ金属含有粉体(以下「アルカリ金属含有粉体」という。)等を含む液、ii)アルカリ金属含有粉体を水洗して得た洗浄水、およびiii)原子力発電所や使用済み核燃料の再処理工場等で発生する放射性セシウム等を含む放射性廃液などが挙げられる。なお、前記アルカリ金属含有粉体中のアルカリ金属の形態は、特に限定されず、例えば、酸化物、塩、および金属単体等のいずれの形態でもよい。
【0017】
処理対象液が、鉛やクロム等のセシウム以外の重金属や、カルシウムを多量に含む場合は、必要に応じて晶析工程の前工程として、該処理対象液に塩化第一鉄および水硫化ソーダ等の重金属沈殿剤や、炭酸カリウム等の炭酸塩を添加して、それぞれ生成した重金属の沈殿物や炭酸カルシウムを固液分離して除去することが好ましい。また、セシウム等の濃度が低い場合は、必要に応じて晶析工程の前工程として、電気透析装置を用いて処理対象液を濃縮してもよい。
また、晶析方法として、例えば、冷却晶析や加熱晶析等が挙げられるが、工業的には加熱晶析により実施することが好ましい。
【0018】
(B)分離回収工程
該工程は、前記(A)工程で得たスラリーを固液分離して、セシウムが溶存した液分と、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを回収する工程である。
【0019】
前記(B)工程で回収したセシウムが溶存した液分を、処理対象液と混合して、(A)工程および(B)工程を繰り返すことにより、セシウムを濃縮する。前記したように、本発明では、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を多く含む液からでも、セシウムを容易かつ選択的に濃縮して分離できるため、かかる簡単な操作でセシウム濃縮液を得ることができる。
【0020】
次に、本発明の方法の任意的工程である、不溶物除去工程(C)と乾燥工程(D)について説明する。
不溶物除去工程(C)は、前記(A)工程を実施する前に、処理対象液から不溶物を除去する工程である。該工程は処理対象液が不溶物を多く含む場合などに、必要に応じて付加される。
(C)工程で除去した不溶物は、セメント原料の一部として利用することができる。該利用は、資源リサイクルの観点から好ましい。
また、乾燥工程(D)は、濃縮して分離したセシウム濃縮液の一部または全部を乾燥して、セシウム濃縮物を回収する工程である。該工程はセシウム濃縮液を減容化する場合などに、必要に応じて付加される。
以上の工程を含む選択的分離方法を用いれば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を多く含む液からでも、セシウムを容易かつ選択的に濃縮して分離することができる。
なお、本発明の選択的分離方法は、本発明の効果を奏する範囲で、ほかの工程を含んでもよい。
【0021】
2.セシウムの選択的分離装置
該装置は、前記のとおり、晶析装置3、固液分離装置4、および流路5を必須の装置等として含み、さらに、水洗装置1、酸添加装置(図示せず。)、不溶物除去装置2、および乾燥装置6を、必要に応じて設置する任意の装置として含む。以下、各装置等について
図1に基づき説明する。
【0022】
晶析装置3は、処理対象液から、晶析によりセシウム以外のアルカリ金属塩を晶出させて、溶存した状態のセシウムと、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを含有するスラリーを得るための装置である。該装置として、例えば、DTB型晶出機、DP型晶出機、分級層型晶析装置、およびカランドリア型結晶缶等が挙げられる。
固液分離装置4は、前記(A)工程で得たスラリーを固液分離して、セシウムが溶存した液分と、セシウム以外のアルカリ金属塩を含む固形分とを回収するための装置である。該装置として、例えば、遠心分離機、液体サイクロン、および重力沈降装置等が挙げられる。
また、流路5は、固液分離装置4で分離し回収したセシウムが溶存した液分を、晶析装置3内に戻すための部材である。該流路として、パイプ等が挙げられる。
【0023】
次に、本発明の装置の任意的構成である、水洗装置1、酸添加装置(図示せず。)、および不溶物除去装置2、および乾燥装置6について説明する。
水洗装置1は、アルカリ金属含有粉体を水洗するための装置である。水洗装置1として、フィルタープレス、シャワー洗浄装置、ジェット洗浄装置、超音波洗浄装置、およびベルトフィルター等が挙げられる。該水洗装置により水洗して得た洗浄水は、処理対象液として用いることができる。
また、酸添加装置は前記水洗装置内に酸を添加するための装置である。酸はアルカリ金属含有粉体中のセシウムの溶解を促進する効果がある。酸の添加量はセシウムの含有量等に応じて決定すればよい。添加する酸は、塩酸、硫酸、硝酸などの各種の酸が使用できるが、特に塩酸が好ましい。また、酸添加装置として定量ポンプやスクリューフィーダー等が挙げられる。
【0024】
乾燥装置6は、固液分離装置4で分離し回収したセシウム濃縮液の一部または全部を乾燥して、セシウム濃縮物を回収するための装置である。該装置として、例えば、コンパクトディスクドライヤー、ドラム乾燥機、コンベア乾燥機、スプレードライヤー、流動層乾燥機、赤外線乾燥機等が挙げられる。
また、不溶物除去装置2は、前記(A)工程を実施する前に処理対象液から不溶物を除去するための装置である。不溶物除去装置として、例えば、砂ろ過機、精密ろ過機、および遠心分離機等が使用できる。
以上の構成の選択的分離装置を用いれば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を多く含む液からでも、セシウムを容易かつ選択的に濃縮して分離することができる。
なお、本発明の選択的分離装置は、本発明の効果を奏する範囲で、ほかの装置等を含んでもよい。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[セシウムの選択的分離試験]
セシウムの選択的分離試験は、以下の手順に従い行った。
(1)スラリーの調製
水洗装置1において、表1に示す組成のアルカリ金属等を含むキルンダストに対し、質量比で3倍量の温水(50℃)を添加して撹拌し25質量%のスラリーを調製した。
(2)スラリーのろ過
不溶分除去装置2(フィルタープレス)を用いて、該スラリーをろ過(1回目)して不溶物を除去した後、得られたろ液に塩酸、水硫化ソーダ、塩化第一鉄、および石灰乳を添加して、溶存する鉛等の重金属を沈殿させて2回目のろ過を行い、さらに得られたろ液に炭酸カリウム水溶液を添加して、溶存するカルシウムを炭酸カルシウムにして沈殿させて3回目のろ過を行った。
【0026】
(3)ろ液の濃縮と塩の晶析
3回目のろ過で得たろ液中のセシウムやナトリウム等の塩類の濃度が、塩素濃度として約90000mg/リットルになるまで、電気透析装置(図示せず。)を用いて該ろ液を濃縮した後に、該濃縮液を晶析装置3(カランドリア型結晶缶)に投入して塩を結晶化させ、該結晶を含むスラリーの一部を抜き出して固液分離装置4(遠心分離機)で固液分離して結晶分と液分を得た。次に、該結晶分と、該液分の一部を、別々に乾燥するとともに、残りの液分は晶析装置3内に戻した。以上の操作は連続して行った。
【0027】
前記晶析の具体的な手順は、以下の(i)〜(iv)に示すとおりである。
(i)容量が約5m
3の晶析装置3に、前記濃縮液を1.2m
3/hの流量で注入した。
(ii)晶析装置3が満杯になったとき、晶析装置3の内部を9.2kPaに減圧し、間接過熱方式によって熱を晶析装置3に供給した。ろ液の水温が57℃に達したとき水の蒸発が始まり、やがてろ液中で塩類の結晶化が始まった。
(iii)生成した結晶を含むろ液(スラリー)中の結晶の含有率が5容積%になったとき、晶析装置3から該スラリーを1m
3/hの流量で抜き出して固液分離装置4(遠心分離機)にかけ結晶と液分を分離した。分離した結晶は乾燥するとともに、液分のうち0.07m
3/hの量は乾燥し、残りの0.93m
3/hの量は晶析装置3に戻した。
(iv)次に、前記スラリー中の結晶の含有率が15〜25容積%を維持するように、(ii)における水の蒸発量を微調整して運転を安定させたところ、水分の蒸発量は約1.0m
3/h、前記分離した結晶の乾燥物(A)の量は約0.2t/h、および前記液分由来の結晶の乾燥部(B)の量は約0.03t/hとなり、バランスが取れて恒常運転が可能になった。
また、前記乾燥物(A)および(B)の化学組成を、蛍光X線オーダー分析により測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から分かるように、乾燥物(A)ではセシウムは検出されなかった。また、乾燥物(B)中のセシウムは、処理対象物であるキルンダスト中のセシウムと比べ、約20倍に濃縮されていた。また、これと比較するため、前記(2)の1回目のろ過で得たろ液を、晶析工程を経ることなく単に蒸発乾固して乾燥物を調製し、該乾燥物中のセシウムの含有率を測定した。その結果、該含有率は0.097質量%であり、セシウムの濃縮倍率はキルンダスト中のセシウムと比べ、せいぜい2倍未満に過ぎなかった。
したがって、本発明のセシウムの選択的分離方法によれば、前記の簡単な操作により、容易かつ選択的にセシウムを濃縮して分離することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 水洗装置
2 不溶物除去装置
3 晶析装置
4 固液分離装置
5 流路
6 乾燥装置