【実施例】
【0022】
以下、本発明の透明導電膜の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
(実施例及び対比例に係る透明導電膜の形成)
以下の条件でDCマグネトロンスパッタによってガラス基板上に実施例1〜7及び対比例1〜9に係る透明導電膜を成膜した。
スパッタ装置:カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット:角型、厚さ6mm
実施例1〜7,対比例1〜7:酸化インジウムスズ90%,二酸化ケイ素10%
実施例8〜10,対比例8,9:酸化インジウムスズ95%,二酸化ケイ素5%
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :5×10
-4Pa
基板温度 :実施例1〜9,対比例1〜8: 300℃
実施例10,対比例9: 100℃
スパッタ電力 :1.55W/cm
2
使用基板 :実施例1〜9,対比例1〜8:ガラス基板
実施例10,対比例9:PETフィルム基板
透明導電膜の膜厚:120±10Åの範囲内
【0023】
Ar流量 :450sccm
実施例1〜10,対比例1〜9の窒素,酸素流量
実施例1:窒素20sccm,酸素0sccm
実施例2:窒素20sccm,酸素5sccm
実施例3−(1)(2):窒素20sccm,酸素7sccm
実施例4:窒素20sccm,酸素9sccm
実施例5:窒素20sccm,酸素11sccm
実施例6:窒素20sccm,酸素15sccm
実施例7−(1)(2):窒素40sccm,酸素11sccm
実施例8−(1)(2):窒素40sccm,酸素0sccm
実施例9−(1)(2):窒素80sccm,酸素0sccm
実施例10:窒素50sccm,酸素0sccm
対比例1:窒素0sccm,酸素5sccm
対比例2:窒素0sccm,酸素7sccm
対比例3:窒素0sccm,酸素9sccm
対比例4−(1)(2):窒素0sccm,酸素11sccm
対比例5:窒素0sccm,酸素13sccm
対比例6−(1)(2):窒素0sccm,酸素15sccm
対比例7:窒素0sccm,酸素17sccm
対比例8−(1)(2):窒素0sccm,酸素6sccm
対比例9:窒素0sccm,酸素6sccm
なお、(1)(2)の表記はそれぞれ、同じ条件の成膜試験を2回行った場合における1バッチ目サンプル,2バッチ目サンプルを示す。
【0024】
(実施例及び対比例の膜組成)
上記方法で成膜された実施例3,5,7,8,9,10,対比例6,8,9の膜組成をXPS分析により測定した結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
(導入酸素量と透明導電膜のシート抵抗の関係)
図1は、スパッタガスに窒素を導入した実施例1,2,3−(1),4,5,6及びスパッタガスに窒素を導入しない対比例1,2,3,4−(1),5,6−(1),7における、成膜時の導入酸素量と成膜された透明導電膜のシート抵抗との関係をグラフに示したものである。
また、表2は、実施例1〜6からなる実施例群及び対比例1〜7からなる対比例群において、シート抵抗が下限の最小値であるボトム値を示した実施例5及び対比例6−(1)の膜特性を示している。
【0027】
【表2】
【0028】
図1より、対比例1〜7からなる対比例群のグラフよりも、実施例1〜6からなる実施例群のグラフの方が、導入酸素量が変化したときのシート抵抗の変化が少なかった。対比例群では、シート抵抗のグラフが平らになる領域がみられなかったのに対し、実施例群では、導入酸素量が5〜15sccmの領域において、シート抵抗の変化が少なくなっていた。
以上より、窒素ガスをスパッタガスに添加することにより、シート抵抗の安定域が広くなることが分かった。窒素ガスをスパッタガスに添加しない場合、導入酸素量の変化に対応してシート抵抗値が変化するため、製品設計に合わせた所望のシート抵抗に設定するために、導入酸素量を厳密にコントロールする必要がある。それに対し、窒素ガスをスパッタガスに添加した場合は、シート抵抗調整のためのスパッタガスの厳密なコントロールが不要となり、スパッタガス混合比率や導入量の制御が容易になることが分かった。
【0029】
また、表2より、
図1のグラフにおいてシート抵抗がボトム値を示した実施例5,対比例6−(1)では、いずれも、シート抵抗が9000〜10000程度で、550nmにおける透過率が98〜99%であり、高抵抗,高透過の透明導電膜が得られることが分かった。
【0030】
(10%のSiO
2を含有するターゲットを用いた200℃における耐熱性試験)
表3及び
図2,
図3は、それぞれ、実施例3−(1),7−(1)に係る透明導電膜付き基板と、対比例4−(1),6−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0031】
【表3】
【0032】
対比例4−(1)と実施例7−(1)を対比すると、スパッタガスに窒素を含まない対比例4−(1)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が44.3%であったのに対し、スパッタガスに40sccmの窒素を含む実施例7−(1)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が16.5%であり、スパッタガスに窒素を導入することにより、透明導電膜の200℃における耐熱性が向上することが分かった。
【0033】
(10%のSiO
2を含有するターゲットを用いた300℃における耐熱性試験)
表4及び
図4,
図5は、それぞれ、実施例3−(2),7−(2)に係る透明導電膜付き基板と、対比例4−(2),6−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0034】
【表4】
【0035】
対比例4−(2)と実施例7−(2)を対比すると、スパッタガスに酸素のみが導入され窒素を含まない対比例4−(2)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が4502.9%であったのに対し、スパッタガスに40sccmの窒素を含み、対比例4−(2)と同量の酸素が導入された実施例7−(2)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率は605.8%であり、スパッタガスに窒素を導入することにより、透明導電膜の300℃における耐熱性が向上することが分かった。
200℃における耐熱性試験結果である表3及び
図2,
図3と対比すると、200℃の熱処理を経た場合よりも300℃の熱処理を経た場合の方が、窒素ガスを導入したことによる透明導電膜の耐熱性向上効果が顕著にみられることが分かった。
【0036】
(5%のSiO
2を含有するターゲットを用いた耐熱性試験)
次いで、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用いてスパッタした実施例8−(1),実施例9−(1),対比例8−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃及び300度の高温下に暴露した場合の耐熱性を対比した。
表5,
図6は、実施例8−(1),実施例9−(1),対比例8−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0037】
【表5】
【0038】
また、表6,
図7は、実施例8−(2),実施例9−(2),対比例8−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0039】
【表6】
【0040】
表5,
図6の結果より、二酸化ケイ素を5%含有するターゲットを用いてスパッタして得たシート抵抗1〜2×10
3Ω/sq台の膜において、温度200℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性は、窒素ガスを含み、酸素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た実施例8−(1),9−(1)と、窒素ガスを含まず、酸素ガスを含むスパッタガスを導入して得た対比例8−(1)との間で、差がなかった。
また、表6,
図7の結果より、二酸化ケイ素を5%含有するターゲットを用いてスパッタして得た膜において、温度300℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性は、窒素ガスを含み、酸素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た実施例8−(2),9−(2)が、窒素ガスを含まず、酸素ガスを含むスパッタガスを導入して得た対比例8−(2)に対比して、高くなっていた。
従って、表5,
図6及び表6,
図7の結果より、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用い、スパッタガスに窒素ガスを混合して成膜した場合、200℃に1〜3時間暴露したときの耐熱性に向上は見られなかったが、300℃に1〜3時間暴露したときの耐熱性が大幅に向上することが分かった。
【0041】
(PETフィルム基板に成膜した場合の耐熱性試験)
表7及び
図8は、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用いてPETフィルム基板上に100℃で成膜して得た実施例10,対比例9に係る透明導電膜付き基板を、120℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0042】
【表7】
【0043】
表7,
図8の結果より、酸素ガスを含まず窒素ガスを含むスパッタガスを導入して得た実施例10が、酸素ガスを含み窒素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た対比例9に対比して、温度120℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性が高くなっていた。
従って、100℃という比較的低温で成膜する場合でも、スパッタ時に窒素ガスを導入することにより、成膜後の120℃における耐熱性が向上することが分かった。
【0044】
本発明の実施形態に係る透明導電膜に含まれるケイ素の状態を調べるため、実施例の幾つかの膜をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)の高分解能測定を行って分析した。ほぼ同様の結果が得られており、代表例として実施例3のグラフを
図9に示す。強度のピークは、結合エネルギー103eV付近に現れている。
Siのピークは99eV付近、SiO
2のピークは103eV付近、SiO
xN
yのピークは102eV付近、Si
3N
4のピークは101eV付近であることが知られていること(出展:SCAS Technical News XPSによるシリコンウェーハの分析)から、本発明の実施形態に係る透明導電膜に含まれるケイ素は、ほぼSiO
2の状態であると判定された。