特許第6080399号(P6080399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080399
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】透明導電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20170206BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20170206BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   C23C14/08 D
   B32B9/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-143161(P2012-143161)
(22)【出願日】2012年6月26日
(65)【公開番号】特開2014-7100(P2014-7100A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】伊東 孝洋
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−138266(JP,A)
【文献】 特開平04−308612(JP,A)
【文献】 特開2000−113732(JP,A)
【文献】 特開2007−200823(JP,A)
【文献】 特開平04−206403(JP,A)
【文献】 特開平06−293957(JP,A)
【文献】 特開平06−349338(JP,A)
【文献】 特開平06−157036(JP,A)
【文献】 特開昭62−202415(JP,A)
【文献】 特開2003−277921(JP,A)
【文献】 特開2005−135649(JP,A)
【文献】 特開2003−105532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
H05B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板に形成された透明導電膜であって、
酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、窒素とケイ素酸化物が添加されており、シート抵抗が1480Ω/sq以上、30000Ω/sq以下であり、波長550nmにおける透過率が96%以上であり、透明発熱体用であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
透明基板に形成された透明導電膜であって、
酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、窒素とケイ素酸化物が添加されており、シート抵抗が1950Ω/sq以上、30000Ω/sq以下であり、波長550nmにおける透過率が96%以上であり、透明発熱体用であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項3】
波長550nmにおける前記透過率が、98%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の透明導電膜。
【請求項4】
前記窒素を、2.0〜5.0at%含み、
ケイ素を、3.0〜9.0at%含み、
該3.0〜9.0at%のケイ素は、前記ケイ素酸化物として含まれていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の透明導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板上に設けられる発熱体用の透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地や冬場において道路表示灯,屋外表示装置,屋外照明装置,車両窓などの融雪,結露防止や曇り止めを行うために、透明導電膜を透明発熱体として用いるニーズがある。特に近年、熱を放出しにくいLEDを用いた信号や電球等が多く用いられるようになったことで、信号や電球の融雪や結露防止を行う透明発熱体からなるデフロスターのニーズが高まっている。
【0003】
透明導電膜からなる透明発熱体には、1000〜10000Ω/sq程度のシート抵抗が求められ、このシート抵抗は、デジタルタッチパネル用電極として用いられる透明導電膜で150Ω/sq程度以下、アナログタッチパネル用電極として用いられる透明導電膜で400〜800Ω/sq程度の低抵抗が求められるのに対し、比較的高い値である。
そこで、透明導電膜を高抵抗側にシフトさせるために、ITOにSiOを添加して透明導電膜を得る技術が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、SnO,SiO,Inを含む成形体を焼成・焼結させて得たターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタによりガラス基板上に厚さ1200Åの透明導電膜を成膜したところ、0.78〜22×10−3Ω・cmの範囲の抵抗率で、透過率88%以上の透明導電膜が得られることが開示されている。抵抗率をシート抵抗に換算すると、65〜1833Ω/sqの範囲となり、特に、ターゲット中のSiO濃度が10wt%のときに、1750又は1833Ω/sqの高抵抗膜が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138266号公報(段落0064〜0135,表1の参考例1〜5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、ITOにSiOを添加して得た透明導電膜では、高いシート抵抗は得られるものの、シート抵抗を細かく調整することが難しく、各製品に求められるシート抵抗の値に設定しにくかった。
特に、500Ω/sqより高いシート抵抗の範囲では、シート抵抗が高くなるにつれて当然膜厚を薄く設定する必要があるが、成膜中の酸素濃度の変動や装置内の残留水分の影響が相対的に大きくなり膜性能に敏感に表れる結果、成膜そのものが徐々に難しくなり、歩留まりが低下していく。特許文献1ではシート抵抗1800Ω/sqの膜が得られてはいるが、この1800Ω/sq程度のシート抵抗では、薄膜として形成はされるものの抵抗値が不安定であり、さらに透過率をも考慮して双方を一定の値に安定させることは困難で、歩留まりが低くなることが分かっている。
【0007】
更に高い数千Ω/sq以上のシート抵抗の実現を図っても、ITOにSiOを添加して成膜する方法では、安定的に成膜することが事実上不可能で、実用化が困難であった。
また、例えば、窓の曇り止め、寒冷地での信号のデフロスターなどの用途では、電気コネクタの取付け等のためにリフローハンダ付け等の工程が必要となることがあり、300℃程度までの加熱に対する耐熱性が求められるものの、ITOにSiOを添加して得た透明導電膜では、耐熱性が不十分であった。この点は、後述の本発明における対比例のデータにも示されている。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、透明発熱体に用いることが可能で、比較的高いシート抵抗を備え、安定的に供給可能で透過率の高い透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、請求項1の透明導電膜によれば、透明基板に形成された透明導電膜であって、酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、窒素とケイ素酸化物が添加されており、シート抵抗が1480Ω/sq以上、30000Ω/sq以下であり、波長550nmにおける透過率が96%以上であり、透明発熱体用であることにより解決される。
このように、ITOを主材料とし、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜時における透明導電膜のシート抵抗の制御幅が広くなり、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗に設定することが可能となる。また、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜後に熱が掛かったときのシート抵抗の変化が小さくなり、透明導電膜の耐熱性を向上できる。
その結果、比較的高抵抗で、かつ、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗を備えた透明発熱体用の透明導電膜を、安定的に供給可能となる。
このように、シート抵抗が、30000Ω/sq以下であるため、透明発熱体として実用的な発熱量を確保できる。また、シート抵抗を、1480Ω/sq以上としているため、従来の酸化インジウムスズ(ITO)からなる透明導電膜では、所望のシート抵抗に制御することが難しかった1480Ω/sq以上のシート抵抗の領域において、所望のシート抵抗に容易に制御することができる。
波長550nmにおける透過率が、96%以上であるため、透過性が要求される窓の曇り止め等の用途に、好適に用いることができ、発熱量と透過率のバランスの点から最も必要とされる透明発熱体を安定供給するというニーズに応えることが可能となる。
【0010】
前記課題は、請求項2の透明導電膜によれば、透明基板に形成された透明導電膜であって、酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、窒素とケイ素酸化物が添加されており、シート抵抗が1950Ω/sq以上、30000Ω/sq以下であり、波長550nmにおける透過率が96%以上であり、透明発熱体用であることにより解決される。
このように、ITOを主材料とし、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜時における透明導電膜のシート抵抗の制御幅が広くなり、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗に設定することが可能となる。また、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜後に熱が掛かったときのシート抵抗の変化が小さくなり、透明導電膜の耐熱性を向上できる。
その結果、比較的高抵抗で、かつ、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗を備えた透明発熱体用の透明導電膜を、安定的に供給可能となる。
このように、シート抵抗が、30000Ω/sq以下であるため、透明発熱体として実用的な発熱量を確保できる。また、シート抵抗を、1950Ω/sq以上としているため、従来の酸化インジウムスズ(ITO)からなる透明導電膜では、所望のシート抵抗に制御することが難しかった1950Ω/sq以上のシート抵抗の領域において、所望のシート抵抗に容易に制御することができる。
波長550nmにおける透過率が、96%以上であるため、透過性が要求される窓の曇り止め等の用途に、好適に用いることができ、発熱量と透過率のバランスの点から最も必要とされる透明発熱体を安定供給するというニーズに応えることが可能となる。
【0011】
このとき、請求項3のように、波長550nmにおける透過率が、98%以上であると好適である。
波長550nmにおける透過率が、98%以上であるため、透過性が要求される窓の曇り止め等の用途に、好適に用いることができる。
【0013】
このとき、請求項4のように、前記窒素を、2.0〜5.0at%含み、ケイ素を、3.0〜9.0at%含み、該3.0〜9.0at%のケイ素は、前記ケイ素酸化物として含まれていると好適である。
このように構成しているため、透明発熱体として用いるために十分な耐熱性を有すると共に、シート抵抗の制御幅が広く、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗に設定可能な透明導電膜を達成できる。
窒素が2.0at%未満となると、成膜後に、実用上十分な耐熱性が得られず、また、成膜中のシート抵抗の制御が難しくなって、実用上必要な程度のシート抵抗の再現性が得られなくなる。窒素が5.0at%より多くなると、実用上十分な膜の透過性が得られなくなる。
ケイ素が3.0at%未満となると、シート抵抗が低下し、透明発熱体として用いるために十分なシート抵抗を得ることが困難になる。ケイ素が9.0at%より多くなると、実用的な透明発熱体に要求される抵抗値から大きい方に外れてしまう。
【発明の効果】
【0015】
酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜時における透明導電膜のシート抵抗の制御幅が広くなり、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗に設定することが可能となる。また、ケイ素酸化物だけでなく窒素が添加されているため、成膜後に熱が掛かったときのシート抵抗の変化が小さくなり、透明導電膜の耐熱性を向上できる。
その結果、比較的高抵抗で、かつ、各製品の要求に応じた所定のシート抵抗を備えた透明発熱体用の透明導電膜を、安定的に供給可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スパッタガスに窒素を導入して成膜した実施例1〜6と窒素を導入せずに成膜した対比例1〜7における、成膜時の導入酸素量と成膜された透明導電膜のシート抵抗との関係を示すグラフである。
図2】実施例3−(1),7−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図3】対比例4−(1),6−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図4】実施例3−(2),7−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図5】対比例4−(2),6−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図6】実施例8−(1),9−(1),対比例8−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図7】実施例8−(2),9−(2),対比例8−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図8】実施例10,対比例9に係る透明導電膜付き基板を、120℃で加熱処理した場合における加熱処理前後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
図9】実施例3に係る透明導電膜のXPS分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(透明導電膜)
本実施の形態に係る透明導電膜は、透明基板に形成された透明発熱体用の透明導電膜であって、酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、窒素とケイ素酸化物が添加されている。
【0018】
本実施形態の透明基板は、ガラス基板又はプラスチックフィルム基板からなる。
プラスチックフィルム基板としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、ポリカーボネート、ポリアリレートからなる基板が用いられる。
本実施形態の透明導電膜は、酸化インジウムスズ(ITO)を主材料とし、3.0〜9.0at%のケイ素及び2.0〜5.0at%の窒素を含み、波長550nmにおける透過率が、96%以上、好ましくは98%以上である。また、膜厚は120±10Åの範囲にあり、シート抵抗が、1480Ω/sq以上、30000Ω/sq以下、好ましくは1950Ω/sq以上、30000Ω/sq以下である。
【0019】
本実施形態の透明導電膜は、透明基板上に成膜されており、例えば、透明導電膜の基板逆側の面に形成される一対の電極と、電極が形成される部分を除いた透明導電膜の基板逆側の面のほぼ全体を覆う絶縁膜と、絶縁膜の透明導電膜逆側の面に形成され、基板よりも赤外線の放射率が低く、透明導電膜において生じた熱が基板逆側に放射されることを抑制する低放射率膜と、が更に形成されることにより、透明導電膜発熱体を構成可能である。
本実施形態の透明導電膜を備えた透明導電膜発熱体は、例えば、寒冷地や冬場において道路表示灯,屋外表示装置,屋外照明装置,車両窓などの融雪,結露防止や曇り止めを行うために用いられる。
【0020】
(透明導電膜の製造方法)
本実施形態の透明導電膜の製造方法について説明する。
本実施形態の透明導電膜の成膜は、次のように行う。
公知のDCマグネトロンスパッタリング装置を用い、その非磁性体ターゲット用カソードに、酸化インジウムスズ(ITO)及び5〜10%のケイ素酸化物を含有するターゲットを取り付け、ターゲットと平行かつ対向してガラス基板又はプラスチックフィルム基板からなる透明基板を設置する。
アルゴンガスに、このアルゴンガスに対して約4〜18%の窒素及び約0〜4%の酸素を添加したガスをスパッタガスとして導入して、公知のDCマグネトロンスパッタにより、透明基板上に透明導電膜を成膜する。
成膜時の基板温度は、ガラス基板の場合は、300℃とする。
一方、プラスチックフィルム基板の場合の成膜時の基板温度は、100℃とする。
【0021】
成膜条件は、例えば、ターゲット−基板間距離:50〜200mm、到達真空度:3.0〜8.0×10-4Pa、スパッタ圧力:0.1〜1.0Pa、投入電力:直流50〜500W、基板加熱温度:室温〜300℃とする。
スパッタガスには、酸素を添加してもしなくてもよい。但し、ITOとSiOを含むターゲットを用いて成膜する場合、シート抵抗が安定しない傾向があるが、酸素を添加すると、ITOとSiOを含むターゲットを用いた場合であっても、シート抵抗が安定する。
また、酸素の代わりに、スパッタガスに二酸化炭素を添加してもよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の透明導電膜の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
(実施例及び対比例に係る透明導電膜の形成)
以下の条件でDCマグネトロンスパッタによってガラス基板上に実施例1〜7及び対比例1〜9に係る透明導電膜を成膜した。
スパッタ装置:カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット:角型、厚さ6mm
実施例1〜7,対比例1〜7:酸化インジウムスズ90%,二酸化ケイ素10%
実施例8〜10,対比例8,9:酸化インジウムスズ95%,二酸化ケイ素5%
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :5×10-4Pa
基板温度 :実施例1〜9,対比例1〜8: 300℃
実施例10,対比例9: 100℃
スパッタ電力 :1.55W/cm
使用基板 :実施例1〜9,対比例1〜8:ガラス基板
実施例10,対比例9:PETフィルム基板
透明導電膜の膜厚:120±10Åの範囲内
【0023】
Ar流量 :450sccm
実施例1〜10,対比例1〜9の窒素,酸素流量
実施例1:窒素20sccm,酸素0sccm
実施例2:窒素20sccm,酸素5sccm
実施例3−(1)(2):窒素20sccm,酸素7sccm
実施例4:窒素20sccm,酸素9sccm
実施例5:窒素20sccm,酸素11sccm
実施例6:窒素20sccm,酸素15sccm
実施例7−(1)(2):窒素40sccm,酸素11sccm
実施例8−(1)(2):窒素40sccm,酸素0sccm
実施例9−(1)(2):窒素80sccm,酸素0sccm
実施例10:窒素50sccm,酸素0sccm
対比例1:窒素0sccm,酸素5sccm
対比例2:窒素0sccm,酸素7sccm
対比例3:窒素0sccm,酸素9sccm
対比例4−(1)(2):窒素0sccm,酸素11sccm
対比例5:窒素0sccm,酸素13sccm
対比例6−(1)(2):窒素0sccm,酸素15sccm
対比例7:窒素0sccm,酸素17sccm
対比例8−(1)(2):窒素0sccm,酸素6sccm
対比例9:窒素0sccm,酸素6sccm
なお、(1)(2)の表記はそれぞれ、同じ条件の成膜試験を2回行った場合における1バッチ目サンプル,2バッチ目サンプルを示す。
【0024】
(実施例及び対比例の膜組成)
上記方法で成膜された実施例3,5,7,8,9,10,対比例6,8,9の膜組成をXPS分析により測定した結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
(導入酸素量と透明導電膜のシート抵抗の関係)
図1は、スパッタガスに窒素を導入した実施例1,2,3−(1),4,5,6及びスパッタガスに窒素を導入しない対比例1,2,3,4−(1),5,6−(1),7における、成膜時の導入酸素量と成膜された透明導電膜のシート抵抗との関係をグラフに示したものである。
また、表2は、実施例1〜6からなる実施例群及び対比例1〜7からなる対比例群において、シート抵抗が下限の最小値であるボトム値を示した実施例5及び対比例6−(1)の膜特性を示している。
【0027】
【表2】
【0028】
図1より、対比例1〜7からなる対比例群のグラフよりも、実施例1〜6からなる実施例群のグラフの方が、導入酸素量が変化したときのシート抵抗の変化が少なかった。対比例群では、シート抵抗のグラフが平らになる領域がみられなかったのに対し、実施例群では、導入酸素量が5〜15sccmの領域において、シート抵抗の変化が少なくなっていた。
以上より、窒素ガスをスパッタガスに添加することにより、シート抵抗の安定域が広くなることが分かった。窒素ガスをスパッタガスに添加しない場合、導入酸素量の変化に対応してシート抵抗値が変化するため、製品設計に合わせた所望のシート抵抗に設定するために、導入酸素量を厳密にコントロールする必要がある。それに対し、窒素ガスをスパッタガスに添加した場合は、シート抵抗調整のためのスパッタガスの厳密なコントロールが不要となり、スパッタガス混合比率や導入量の制御が容易になることが分かった。
【0029】
また、表2より、図1のグラフにおいてシート抵抗がボトム値を示した実施例5,対比例6−(1)では、いずれも、シート抵抗が9000〜10000程度で、550nmにおける透過率が98〜99%であり、高抵抗,高透過の透明導電膜が得られることが分かった。
【0030】
(10%のSiOを含有するターゲットを用いた200℃における耐熱性試験)
表3及び図2図3は、それぞれ、実施例3−(1),7−(1)に係る透明導電膜付き基板と、対比例4−(1),6−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0031】
【表3】
【0032】
対比例4−(1)と実施例7−(1)を対比すると、スパッタガスに窒素を含まない対比例4−(1)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が44.3%であったのに対し、スパッタガスに40sccmの窒素を含む実施例7−(1)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が16.5%であり、スパッタガスに窒素を導入することにより、透明導電膜の200℃における耐熱性が向上することが分かった。
【0033】
(10%のSiOを含有するターゲットを用いた300℃における耐熱性試験)
表4及び図4図5は、それぞれ、実施例3−(2),7−(2)に係る透明導電膜付き基板と、対比例4−(2),6−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0034】
【表4】
【0035】
対比例4−(2)と実施例7−(2)を対比すると、スパッタガスに酸素のみが導入され窒素を含まない対比例4−(2)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率が4502.9%であったのに対し、スパッタガスに40sccmの窒素を含み、対比例4−(2)と同量の酸素が導入された実施例7−(2)の透明導電膜の3時間加熱後のシート抵抗の変化率は605.8%であり、スパッタガスに窒素を導入することにより、透明導電膜の300℃における耐熱性が向上することが分かった。
200℃における耐熱性試験結果である表3及び図2図3と対比すると、200℃の熱処理を経た場合よりも300℃の熱処理を経た場合の方が、窒素ガスを導入したことによる透明導電膜の耐熱性向上効果が顕著にみられることが分かった。
【0036】
(5%のSiOを含有するターゲットを用いた耐熱性試験)
次いで、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用いてスパッタした実施例8−(1),実施例9−(1),対比例8−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃及び300度の高温下に暴露した場合の耐熱性を対比した。
表5,図6は、実施例8−(1),実施例9−(1),対比例8−(1)に係る透明導電膜付き基板を、200℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0037】
【表5】
【0038】
また、表6,図7は、実施例8−(2),実施例9−(2),対比例8−(2)に係る透明導電膜付き基板を、300℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0039】
【表6】
【0040】
表5,図6の結果より、二酸化ケイ素を5%含有するターゲットを用いてスパッタして得たシート抵抗1〜2×10Ω/sq台の膜において、温度200℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性は、窒素ガスを含み、酸素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た実施例8−(1),9−(1)と、窒素ガスを含まず、酸素ガスを含むスパッタガスを導入して得た対比例8−(1)との間で、差がなかった。
また、表6,図7の結果より、二酸化ケイ素を5%含有するターゲットを用いてスパッタして得た膜において、温度300℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性は、窒素ガスを含み、酸素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た実施例8−(2),9−(2)が、窒素ガスを含まず、酸素ガスを含むスパッタガスを導入して得た対比例8−(2)に対比して、高くなっていた。
従って、表5,図6及び表6,図7の結果より、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用い、スパッタガスに窒素ガスを混合して成膜した場合、200℃に1〜3時間暴露したときの耐熱性に向上は見られなかったが、300℃に1〜3時間暴露したときの耐熱性が大幅に向上することが分かった。
【0041】
(PETフィルム基板に成膜した場合の耐熱性試験)
表7及び図8は、5%の二酸化ケイ素を含有するターゲットを用いてPETフィルム基板上に100℃で成膜して得た実施例10,対比例9に係る透明導電膜付き基板を、120℃の熱風乾燥オーブン内で1,2,3時間保持して加熱処理を行い、加熱処理前(0時間)及び1,2,3時間加熱後の透明導電膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0042】
【表7】
【0043】
表7,図8の結果より、酸素ガスを含まず窒素ガスを含むスパッタガスを導入して得た実施例10が、酸素ガスを含み窒素ガスを含まないスパッタガスを導入して得た対比例9に対比して、温度120℃に1〜3時間暴露した場合における耐熱性が高くなっていた。
従って、100℃という比較的低温で成膜する場合でも、スパッタ時に窒素ガスを導入することにより、成膜後の120℃における耐熱性が向上することが分かった。
【0044】
本発明の実施形態に係る透明導電膜に含まれるケイ素の状態を調べるため、実施例の幾つかの膜をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)の高分解能測定を行って分析した。ほぼ同様の結果が得られており、代表例として実施例3のグラフを図9に示す。強度のピークは、結合エネルギー103eV付近に現れている。
Siのピークは99eV付近、SiOのピークは103eV付近、SiOのピークは102eV付近、Siのピークは101eV付近であることが知られていること(出展:SCAS Technical News XPSによるシリコンウェーハの分析)から、本発明の実施形態に係る透明導電膜に含まれるケイ素は、ほぼSiOの状態であると判定された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9