【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の橋桁におけるプレストレス導入用外ケーブルの定着装置は、下フランジを有するI形断面、もしくはT形断面の主桁が幅方向に並列する橋桁において、前記主桁の軸方向に沿い、前記主桁の断面外に架設される外ケーブルを前記主桁に定着させるための定着装置であり、
隣接する前記主桁間に跨り、前記
両主桁の前記下フランジの上面
上のウェブ間に配置され
て前記下フランジに支持され、少なくとも前記主桁の前記下フランジの上面から前記主桁の前記ウェブの高さ方向中間部までの高さを持つ上部材と、前記主桁の前記下フランジの下面の下に配置される下部材と、前記主桁を外した領域の、前記上部材と前記下部材との間に架設され、緊張力が与えられる緊張材とを備え、前記緊張材が緊張され、前記上部材と前記下部材に定着されて前記上部材と前記下部材が前記主桁を挟み込んだ状態で前記主桁に固定されていることを構成要件とする。
【0011】
「主桁が下フランジを有する」とは、主桁の下部にウェブの幅より幅方向外側へ張り出す部分を有することの意味であり、主桁が下フランジを有することで、上部材は単純に隣接する主桁の下フランジ上に載置されるだけで、両主桁に支持された状態になる。下フランジの上面は水平面である場合と、主桁の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブから下フランジに向かう傾斜が付いた面をなす場合がある。
【0012】
「主桁が幅方向に並列すること」には、橋桁の幅方向(橋軸直角方向)に隣接する主桁の上フランジが互いに接触した状態で並列する場合と、主桁の上フランジ間に間隔を置いて並列する場合がある。隣接する主桁の上フランジ間に間隔が空く場合、主桁間には現場打ちコンクリートの打設による床版が構築されるか、プレキャスト床版が敷設される。
【0013】
外ケーブルは主桁の軸方向に沿って架設されるが、必ずしも主桁の軸方向に平行であるとは限らない。主桁の軸方向は橋軸方向である。「外ケーブルが主桁の断面外に架設」とは、外ケーブルが主桁の断面内を挿通しないことであり、外ケーブルの架設に伴って主桁が損傷を受けることはない。橋桁は既設と新設を含む。
【0014】
上部材は隣接する主桁間に跨って両主桁の下フランジ上のウェブ間に配置され、両主桁の下フランジに支持されることから、上部材が予め製作された製品である場合には、隣接する主桁の上フランジが互いに接触するか、間隔が確保されるかを問わずに、上部材は隣接する主桁の下フランジ間の間隔より大きい幅を持つ。但し、1個の上部材の厚さが隣接する主桁の下フランジ間の間隔以下であれば、橋桁が既設の場合にも上部材を主桁の下面側から隣接する主桁のウェブ間に差し込むことは可能である。上部材の厚さは主桁の軸方向の寸法を指す。上部材は製品化される場合、鋼製とプレキャストコンクリート製があり、コンクリートには高強度のモルタルが含まれる。上部材は現場で鉄筋コンクリート造等で構築される場合もある。
【0015】
隣接する主桁の下フランジ間の間隔が製品化される場合の上部材の厚さより小さくなる場合には、上部材は隣接する主桁間のウェブ間に現場で構築される。請求項1における「上部材が主桁の下フランジの上面の上に配置される」ことには、製品化された上部材が下フランジ上に設置される場合と、現場で構築されて設置状態になる場合を含む。
【0016】
上部材が特に主桁の幅方向に、側面が隣接する主桁のウェブの幅方向の側面に接触する程度の幅を持っている場合(請求項2)には、上部材は隣接する主桁間への設置状態で両主桁に幅方向に挟まれ、拘束されるため、主桁間に設置され、緊張材から圧縮力を受けた状態で、幅方向の変位に対して安定する。また主桁下フランジの上面に、主桁の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブから下フランジに向かう傾斜が付けられている場合には、上部材は緊張材から圧縮力を受けたときに、主桁を上部材の幅方向中心側から幅方向両側へ向かって押す力が発生し、上部材が主桁から幅方向中心側へ反力を受けた状態になるため、上部材の設置状態での幅方向の安定性が向上する。
【0017】
上部材はまた、隣接する主桁間に跨って主桁の下フランジの上面上に配置されることで、主桁の下面下に配置される下部材との間に架設される緊張材に緊張力が与えられたときに、圧縮力が両側の主桁に均等に分散して作用するため、いずれかの主桁に圧縮力が集中することはない。
【0018】
緊張材は主桁を外した、主桁の断面外の領域に架設され、緊張力の導入によって上部材と下部材に主桁の下フランジを挟持させるため、緊張材は原則的に鉛直方向に向けて架設される。但し、外ケーブルの主桁に対する配置位置と傾斜角度等の関係で、鉛直に対して傾斜して架設されることもある。
【0019】
上部材と下部材を連結する緊張材は上部材の上端面と下部材の下端面との間を貫通し、緊張力を与えられた状態で、両端部において上部材と下部材に定着されることにより上部材と下部材に圧縮力を加え、上部材と下フランジ上面との間、及び下部材と下フランジ下面との間に摩擦力を生じさせる。主桁が上部材と下部材から受ける圧縮力は下フランジに作用するが、緊張材が主桁の断面外に架設されることで、主桁自体は上部材と下部材、及び緊張材の設置によって損傷を受けることはなく、断面が欠損することもないため、上部材と下部材から受ける圧縮力によって耐力が低下する等の影響はない。
【0020】
上部材2は隣接する2本の主桁5、5間に跨った状態で主桁5の下フランジ51の上面に接触(密着)するため、幅方向両側寄りの下面において主桁5の下フランジ51に接触し、幅方向中間部の下面は主桁5には接触しない。上部材2が
図1〜
図3に示すように下フランジ51の下面にまで亘る高さを持つ場合には、上部材2の幅方向中間部の下面は下部材3に接触する。この場合、上部材2は全高に亘って緊張材4の反力を負担する状態になるため、下面が下部材3に接触しない場合より圧縮力の負担能力が高くなり、それだけ大きい緊張力を緊張材4に与えることが可能になる。
【0021】
上部材2の幅方向中間部の下面が
図4〜
図7に示すように下フランジ51の上面のレベルに位置する場合には、上部材2の幅方向中間部の区間の、隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間が開放するため、
図5、
図7に示すように上部材2の下の空間が外ケーブル6の架設と定着のために使用されることがある。主桁5の下フランジ51の上面に、主桁5の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブ52から下フランジ51に向かう傾斜が付けられている場合には、上部材2の幅方向両側寄りの下面に同じ傾斜が付けられる。
【0022】
下部材3は主桁5の下フランジ51の下面下に配置され、上部材2と対になって下フランジ51を挟み込む。上部材2は下部材3との連結時に隣接する主桁5、5間に跨るが、下部材3は
図1、
図3、
図5、
図7に示すように上部材2と同様に隣接する主桁5、5間に跨って配置される場合と、
図2、
図4、
図6に示すように1本の主桁5単位で配置される場合がある。
【0023】
上部材2は隣接する主桁5、5の各下フランジ51の上面に接触した状態で、下部材3と対になって主桁5の下フランジ51を上下に挟み込むことで、下部材3との間に架設される緊張材4に与えられる緊張力の反力を圧縮力として受け、下部材3と共に主桁5に固定された状態を維持する。上部材2と下部材3は緊張材4から圧縮力を受けることで、それぞれ主桁5下フランジ51の上面と下面に密着する。上部材2と下フランジ51上面との間、及び下部材3と下フランジ51下面との間には緊張材4から与えられる圧縮力による支圧力が作用するため、主桁5の軸方向に作用する力に対しては、基本的に上部材2と下部材3の下フランジ51との間の接触面積分の、支圧力に応じた摩擦力によって抵抗する。「主桁5の軸方向に作用する力」は外ケーブル6に導入される張力(緊張力)のことを言う。
【0024】
上部材2及び下部材3と主桁5との間、すなわち上部材2の下面と下フランジ51上面の少なくともいずれか一方、または下部材3の上面と下フランジ51下面の少なくともいずれか一方には、両者間の摩擦力を稼ぐ目的で、目荒しが施されることがある。また上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間には、それぞれの面間の空隙を減少させ、接触面積を増加させるためにモルタル、接着剤等の充填材が充填されることもある。上部材2及び下部材3と下フランジ51間への充填材の充填による接触面積の増大は摩擦力の増大にもなるが、充填材は付着力を発揮し、主桁5の軸方向に作用する力に対する抵抗力になることもある。
【0025】
上部材2と下部材3が対になって主桁5を挟み込み、緊張材4から与えられる圧縮力を受けることで、上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間に生じる支圧力による摩擦力が、外ケーブル6が定着される上部材2と下部材3のいずれかが受ける主桁5の軸方向に作用する外ケーブル6の張力に抵抗する。上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間に充填材が充填され、付着力を発揮する場合には、支圧力による摩擦力に加え、充填材の付着力が、外ケーブル6の張力に対する抵抗力に加算される。
【0026】
上部材2と下部材3が負担すべき「主桁5の軸方向に作用する力」に対しては、1個の上部材2と1個(1枚)の下部材3の組み合わせ単位で、主桁5との間に生じる摩擦力等によって抵抗するか、
図4〜
図7に示すように主桁5の軸方向に複数、配列する複数個の上部材2と1個の下部材3の組み合わせ単位で、主桁5との間に生じる摩擦力等によって抵抗する。前記のように製品化されている上部材2の厚さは隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間からの挿入上の制約から、下フランジ51、51間の間隔以下に制限されるため、1個の上部材2と主桁5との間の摩擦力等のみでは「主桁5の軸方向に作用する力」に対する抵抗力が不足する場合には、主桁5の軸方向に配列する複数個の上部材2が集合することで、十分な抵抗力を確保する。
【0027】
上部材2が隣接する主桁5、5間に跨って下フランジ51、51の上面上に配置され、下フランジ51の下面下に配置される下部材3との間に架設される緊張材4の緊張力により下部材3と共に主桁5に固定され、主桁5との間に生ずる摩擦力等によって外ケーブル6の張力に抵抗するため、幅方向に隣接する主桁5、5間にPC鋼材(緊張材4)の架設のための空間が存在しない場合にも、外ケーブル6の張力を負担できる上部材2と下部材3を主桁5の周囲に配置することが可能になる。主桁5の周囲に固定された上部材2と下部材3が外ケーブル6の張力を負担できることで、外ケーブル6が定着される定着部材9を上部材2と下部材3の少なくともいずれかに固定することができるため、主桁5の周囲に外ケーブル6を架設し、外ケーブル6に張力を導入することが可能になる。
【0028】
また上部材2と下部材3を主桁5に固定するための緊張材4は主桁5を外した領域に架設されることで、上部材2と下部材3の主桁5への固定に伴って主桁5に孔を形成することも、損傷させることもないため、主桁5の圧縮耐力を低下させることがない。
【0029】
橋桁50にプレストレスを導入するための外ケーブル6が定着される定着部材9は
図1に示すように上部材2が兼ねる場合(請求項3)と、
図2〜
図7に示すように上部材2と下部材3の少なくともいずれか一方に固定される場合(請求項4)がある。
図2〜
図7では定着部材9が下部材3に固定される場合を示しているが、
図5、
図7のように隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間の空間に定着部材9が配置される場合の定着部材9は上部材2に固定されることもある。
【0030】
上部材2が定着部材9を兼ねる
図1に示す例の場合(請求項3)、外ケーブル6の張力は上部材2に直接、負担されるため、主桁5には上部材2から、または上部材2とそれに連結された下部材3から主桁5との間の摩擦力等を通じて伝達される。定着部材9が上部材2、もしくは下部材3に固定される場合(請求項4)には、外ケーブル6の張力は定着部材9から上部材2、もしくは下部材3を経由し、主桁5との間の摩擦力等を通じて主桁5に伝達される。
【0031】
定着部材9が上部材2、もしくは下部材3に固定される場合、定着部材9は上部材2の上面か下面、または
図2〜
図7に示すように下部材3の上面か下面に固定される。定着部材9の固定位置は上部材2と下部材3との間(隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間)、または上部材2の上面、あるいは下部材3の下面の少なくともいずれかになり、その位置は主桁5の軸方向のある断面における、外ケーブル6の架設位置(主桁5との偏心距離)に応じて決められる。
【0032】
定着部材9の上部材2、もしくは下部材3への固定手段は問われないが、上部材2、もしくは下部材3の構造種別に応じて決められる。例えば上部材2、もしくは下部材3が鋼材の場合には
図2等に示すように溶接、もしくはボルト10により接合され、コンクリート製の場合にはアンカーとそれに螺合するボルト等により接合される。ボルト10を使用する場合、主桁5への損傷を回避する上で、ボルト10は主桁5には到達しない。
【0033】
定着部材9が例えば
図5、
図7に示すように下部材3の上面と下面に対になって配置されるような場合には、下部材3を厚さ方向に貫通させて上下の定着部材9、9間にボルト10を挿通することができるため、ボルト接合による場合のボルト10の螺合長さ不足による定着強度不足が生ずることは回避される。
【0034】
定着部材9が下部材3に固定される場合、定着部材9は下部材3の下面側と上面側のそれぞれに付き、
図2に示すように主桁5の幅方向に並列する場合と、
図5に示すように主桁5の軸方向にずれて配列する場合がある。定着部材9が主桁5の軸方向にずれて定着される場合は、1個の下部材3が負担する外ケーブル6の張力が主桁5の軸方向に分散されるため、1本の外ケーブル6に導入可能な緊張力を増大できる利点、あるいは1個の下部材3と主桁5との間に生じさせるべき摩擦力を低減できる利点がある。