特許第6080682号(P6080682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6080682電動式直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080682
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】電動式直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/106 20060101AFI20170206BHJP
   F16H 19/02 20060101ALI20170206BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20170206BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20170206BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20170206BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   H02K7/106
   F16H19/02 L
   F16H25/20 E
   F16D65/18
   F16D66/00 Z
   B60T13/74 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-105153(P2013-105153)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-226007(P2014-226007A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−16279(JP,A)
【文献】 特開2002−104169(JP,A)
【文献】 特開平6−344875(JP,A)
【文献】 特表2003−522060(JP,A)
【文献】 特開2011−241851(JP,A)
【文献】 特開2009−220807(JP,A)
【文献】 特開2013−83550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/106
B60T 13/74
F16D 65/18
F16D 66/00
F16H 19/02
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電流に応じた大きさの回転トルクを発生する電動モータ(10)と、
その電動モータ(10)の回転トルクを直動部材(24)の直進力に変換し、その直動部材(24)で対象物(2)に押圧力を負荷する運動変換機構(11)と、
前記対象物(2)に負荷される押圧力の大きさを検出する荷重センサ(12)と、
その荷重センサ(12)で検出される押圧力の大きさに基づいて前記電動モータ(10)の駆動電流を制御するモータ制御装置(51)とを有し、
前記運動変換機構(11)は、前記電動モータ(10)の回転トルクが増加する過程(L)と前記電動モータ(10)の回転トルクが減少する過程(L)とで、前記直動部材(24)から対象物(2)に負荷する押圧力の大きさが同じでも、その押圧力を負荷するときの電動モータ(10)の回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりも大きくなるヒステリシス特性を示すものを採用し、
前記モータ制御装置(51)は、押圧力を対象物(2)に負荷して保持するときに、前記荷重センサ(12)で検出される押圧力の大きさが目標値よりも大きい所定値に到達するまで電動モータ(10)の回転トルクを増加させてから、荷重センサ(12)で検出される押圧力の大きさが目標値に到達するまで電動モータ(10)の回転トルクを減少させるように前記電動モータ(10)の駆動電流を制御する電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記目標値は、前記モータ制御装置(51)に外部(52)から入力される荷重指令値(F)であり、前記所定値は、前記荷重指令値(F)よりも所定のオフセット値(df)をもって大きく設定された値である請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記目標値は、前記モータ制御装置(51)に外部(52)から入力される荷重指令値(F)よりも所定のオフセット値(df)をもって小さく設定された値であり、前記所定値は、前記荷重指令値(F)である請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記電動モータ(10)は、回転可能に支持されたロータ(13)と、このロータ(13)に回転トルクを生じさせるステータ(14)とを有し、そのロータ(13)およびステータ(14)は、ロータ(13)がステータ(14)に対して1回転する間に、ロータ(13)に生じる回転トルクが最大となる回転位相と、ロータ(13)に生じる回転トルクが最小となる回転位相とが交互にあらわれるように構成され、
前記ロータ(13)の回転位相を検出する位相センサ(53)を設け、
前記モータ制御装置(51)は、前記荷重センサ(12)で検出される押圧力を目標値に保持するとき、前記ロータ(13)に生じるトルクが最大となる回転位相のうち、前記押圧力が目標値に一致するときの位相に最も近い回転位相でロータ(13)が停止するように電動モータ(10)の駆動電流を制御する請求項1から3のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記モータ制御装置(51)は、前記押圧力の目標値があらかじめ設定されたしきい値よりも大きいときにのみ請求項4に記載の制御を行なう請求項4に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記運動変換機構(11)は、前記電動モータ(10)の回転トルクが入力される回転軸(20)と、この回転軸(20)を囲むように同軸に設けられた外輪部材(24)と、前記回転軸(20)に外接すると同時に前記外輪部材(24)に内接する複数の遊星ローラ(25)と、これらの遊星ローラ(25)を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ(26)と、前記外輪部材(24)の内周に設けられた螺旋凸条(30)と、その螺旋凸条(30)と係合するように各遊星ローラ(25)の外周に設けられた螺旋溝または円周溝(31)とを有する遊星ローラ機構である請求項1から5のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記対象物が、車輪と一体に回転するブレーキディスク(2)であり、このブレーキディスク(2)に摩擦パッド(7)を押し付けるアクチュエータとして請求項1から6のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータで発生する回転トルクを運動変換機構で直進力に変換し、その直進力で対象物に押圧力を負荷する電動式直動アクチュエータ、およびこの電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ装置として、油圧シリンダで摩擦パッドをブレーキディスクに押さえ付けて制動力を発生する油圧ブレーキ装置が採用されてきたが、近年、ABS(アンチロックブレーキシステム)等のブレーキ制御の導入に伴い、油圧回路を使用しない電動ブレーキ装置が注目されている。
【0003】
電動ブレーキ装置は、電動モータを駆動源とする電動式直動アクチュエータを有し、この電動式直動アクチュエータで摩擦パッドをブレーキディスクに押し付けて制動力を発生する。
【0004】
このような電動ブレーキ装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1では、摩擦パッドをブレーキディスクに押し付ける電動式直動アクチュエータとして、電動モータと、その電動モータで発生する回転トルクを直動部材の直進力に変換し、その直動部材で摩擦パッドをブレーキディスクに押し付ける運動変換機構と、ブレーキディスクに負荷される押圧力の大きさを検出する荷重センサとを有するものが採用されている。電動モータの回転トルクは、荷重センサで検出した押圧力の大きさに基づいて制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−241851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電動式直動アクチュエータを使用する場合、電動モータに一定の電流を印加し続けることで、直動部材からブレーキディスクに負荷する押圧力を保持することができる。このときの電動モータの駆動電流の大きさを低減することができれば、電動モータの消費電力を効果的に抑えることが可能となる。
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、消費電力が低い電動式直動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電動モータの回転トルクを直動部材の直進力に変換し、その直動部材で対象物に押圧力を負荷する運動変換機構においては、対象物から直動部材に作用する反力によって運動変換機構の内部に大きい摩擦力が生じる。この摩擦力はエネルギーロスの原因となり、一般には好ましくないものである。
【0009】
本願の発明者は、電動式直動アクチュエータの消費電力を低減するために、一般には好ましくないとされる上記摩擦力を押圧力の保持に利用できる可能性に着眼した。すなわち、電動モータの回転トルクを直動部材の直進力に変換し、その直動部材で対象物に押圧力を負荷する運動変換機構は、直動部材から対象物に負荷する押圧力の大きさを変化させたときにヒステリシス特性を示す場合が多い。ヒステリシス特性は、電動モータの回転トルクが増加する過程と電動モータの回転トルクが減少する過程とで、直動部材から対象物に負荷する押圧力の大きさが同じでも、その押圧力を負荷するときの電動モータの回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりも大きくなる特性である。この特性は、主に、運動変換機構の内部の摩擦力に起因して生じる。そして、本願の発明者は、この運動変換機構のヒステリシス特性を考慮して電動モータの駆動電流を制御することにより、電動モータの消費電力を低減できる可能性に気付いた。
【0010】
この着眼に基づき、本願の発明者は、以下の構成を電動式直動アクチュエータに採用したのである。
駆動電流に応じた大きさの回転トルクを発生する電動モータと、
その電動モータの回転トルクを直動部材の直進力に変換し、その直動部材で対象物に押圧力を負荷する運動変換機構と、
前記対象物に負荷される押圧力の大きさを検出する荷重センサと、
その荷重センサで検出される押圧力の大きさに基づいて前記電動モータの駆動電流を制御するモータ制御装置とを有し、
前記運動変換機構は、前記電動モータの回転トルクが増加する過程と前記電動モータの回転トルクが減少する過程とで、前記直動部材から対象物に負荷する押圧力の大きさが同じでも、その押圧力を負荷するときの電動モータの回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりも大きくなるヒステリシス特性を示すものを採用し、
前記モータ制御装置は、押圧力を対象物に負荷して保持するときに、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが目標値よりも大きい所定値に到達するまで電動モータの回転トルクを増加させてから、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが目標値に到達するまで電動モータの回転トルクを減少させるように前記電動モータの駆動電流を制御する。
【0011】
このようにすると、運動変換機構のヒステリシス特性によって、電動モータの回転トルクが減少する過程で押圧力が目標値に到達したときと、電動モータの回転トルクが増加する過程で押圧力が目標値に到達したときとで、目標値の大きさが同じでも、押圧力が目標値に到達したときの電動モータの回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりも小さくなる。そして、上記モータ制御装置は、押圧力を対象物に負荷して保持するときに、電動モータの回転トルクが減少する過程で押圧力が目標値に到達するように制御を行なう。そのため、押圧力が目標値に到達したときの電動モータの回転トルクが抑えられ、その後、押圧力を目標値に保持するために要する電動モータの消費電力を低減することができる。
【0012】
前記目標値は、前記モータ制御装置に外部から入力される荷重指令値とし、前記所定値は、前記荷重指令値よりも所定のオフセット値をもって大きく設定された値とすることができる。すなわち、前記モータ制御装置は、外部から荷重指令値が入力されたときに、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが荷重指令値よりも所定のオフセット値をもって大きく設定された値に到達するまで電動モータの回転トルクを増加させてから、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが荷重指令値に到達するまで電動モータの回転トルクを減少させ、その後、電動モータの回転トルクを保持するように電動モータの駆動電流を制御するものを採用することができる。
【0013】
また、前記目標値は、前記モータ制御装置に入力される荷重指令値よりも所定のオフセット値をもって小さく設定された値とし、前記所定値は、前記荷重指令値とすることもできる。すなわち、前記モータ制御装置は、外部から荷重指令値が入力されたときに、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが荷重指令値に到達するまで電動モータの回転トルクを増加させてから、前記荷重センサで検出される押圧力の大きさが荷重指令値よりも所定のオフセット値をもって小さく設定された値に到達するまで電動モータの回転トルクを減少させ、その後、押圧力を保持するように前記電動モータの駆動電流を制御するものを採用することができる。
【0014】
前記電動モータは、回転可能に支持されたロータと、このロータにトルクを生じさせるステータとを有し、そのロータおよびステータは、ロータがステータに対して1回転する間に、ロータに生じるトルクが最大となる回転位相と、ロータに生じるトルクが最小となる回転位相とが交互にあらわれるように構成したものを採用することができる。さらに、前記ロータの回転位相を検出する位相センサを設けることができる。このとき、前記モータ制御装置は、前記荷重センサで検出される押圧力を目標値に保持するとき、前記ロータに生じるトルクが最大となる回転位相のうち、前記押圧力が目標値に一致するときの位相に最も近い回転位相でロータが停止するように電動モータの駆動電流を制御するように構成すると好ましい。このようにすると、対象物に押圧力を負荷したときに、その押圧力の大きさを安定して保持することが可能となる。
【0015】
トルクが最大となる回転位相でロータを停止させる上記制御は、前記押圧力の目標値があらかじめ設定されたしきい値よりも大きいときにのみ行なうようにすることができる。これにより、前記押圧力の目標値が比較的小さいときにも、安定した押圧力を得ることができる。
【0016】
前記運動変換機構としては、前記電動モータの回転トルクが入力される回転軸と、この回転軸の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラと、これらの複数の遊星ローラを囲むように配置された外輪部材と、その外輪部材の内周に設けられた螺旋凸条と、その螺旋凸条と係合するように各遊星ローラの外周に設けられた螺旋溝または円周溝とを有する遊星ローラ機構を採用することができる。このようにすると、遊星ローラ機構は減速機構の機能を有するため、運動変換機構としての遊星ローラ機構が、上記ヒステリシス特性を顕著に示す。そのため、遊星ローラ機構を用いた電動式直動アクチュエータに上記制御を適用することにより、電動モータの消費電力を効果的に低減することができる。
【0017】
また、この発明では、上記電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置として、前記対象物が、車輪と一体に回転するブレーキディスクであり、このブレーキディスクに摩擦パッドを押圧するアクチュエータとして上記の電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
この発明の電動式直動アクチュエータは、押圧力を対象物に負荷して保持するときに、電動モータの回転トルクが減少する過程で押圧力が目標値に到達するように電動モータの駆動電流を制御するので、電動モータの回転トルクが増加する過程で押圧力を目標値に到達させる通常の制御と比較して、押圧力が目標値に到達したときの電動モータの回転トルクが小さい。そのため、押圧力を目標値に保持するときの電動モータの駆動電流を抑制することができ、電動モータの消費電力が低い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施形態の電動式直動アクチュエータを組み込んだ電動ブレーキ装置を示す断面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3図2のIII−III線に沿った断面図
図4図1の電動式直動アクチュエータ近傍の拡大断面図
図5図4のV−V線に沿った断面図
図6図4の荷重センサ近傍の拡大断面図
図7図1に示す電動モータの駆動電流を制御するモータ制御装置のブロック図
図8図7に示すモータ制御装置による制御例を示すフロー図
図9図7に示すモータ制御装置による他の制御例を示すフロー図
図10図8に示すに制御フローに従って電動モータの駆動電流を制御したときの電動モータの回転トルクとディスクブレーキに対する押圧力との対応関係を示す図
図11図9に示すに制御フローに従って電動モータの駆動電流を制御したときの電動モータの回転トルクとディスクブレーキに対する押圧力との対応関係を示す図
図12】運動変換機構として滑りねじ機構を採用した例を示す電動式直動アクチュエータの拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、この発明の実施形態の電動式直動アクチュエータ1を用いた車両用の電動ブレーキ装置を示す。
【0021】
電動ブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキディスク2を間に挟んで対向する対向片3,4をブリッジ5で連結した形状のキャリパボディ6と、対向片3,4とブレーキディスク2の間にそれぞれ配置された左右一対の摩擦パッド7,8と、一方の対向片3に組み付けられた電動式直動アクチュエータ1とを有する。
【0022】
キャリパボディ6は、車輪を支持する図示しないナックルに固定されたマウント9(図2参照)でブレーキディスク2の軸方向にスライド可能に支持されている。また、摩擦パッド7,8も、ブレーキディスク2の軸方向に移動可能に支持されている。
【0023】
図1に示すように、電動式直動アクチュエータ1は、電動モータ10と、電動モータ10の回転トルクを直進力に変換する運動変換機構11と、ブレーキディスク2に負荷される押圧力の大きさを検出する荷重センサ12とを有する。
【0024】
図3に示すように、電動モータ10は、ロータ13とステータ14とを有する。ロータ13は、軸受15で回転可能に支持されたモータ軸16と、モータ軸16に固定したロータコア17とで構成されている。ステータ14は、ロータコア17を囲むように周方向に等間隔に配置された複数のティース18と、各ティース18に巻回された電磁コイル19とを有する。ステータ14は、電磁コイル19に通電したときにティース18とロータコア17の間に働く電磁力によって、ロータ13に回転トルクを生じさせる。このときロータ13に生じる回転トルクは、電磁コイル19を流れる駆動電流に応じた大きさとなる。すなわち、電磁コイル19の駆動電流と電動モータ10の回転トルクは略比例の相関関係を有し、電磁コイル19に印加する電流が単調増加するに従ってロータ13に生じる回転トルクも単調増加する。
【0025】
ここで、ロータ13に生じる回転トルクの大きさは、ロータ13がステータ14に対して1回転する間において完全に一定ではなく、ロータ13の回転位相に応じてわずかに増減する。すなわち、ロータ13がステータ14に対して1回転する間に、ロータ13に生じる回転トルクが最大となる回転位相と、ロータ13に生じる回転トルクが最小となる回転位相とが、ティース18とロータコア17の位置変化に応じて交互にあらわれる。
【0026】
図2に示すように、運動変換機構11は、電動モータ10と平行に配置された回転軸20を有する。回転軸20には、歯車21が取り付けられている。歯車21は、回転可能に支持された中間歯車22を介して、電動モータ10のモータ軸16に取り付けられた歯車23に噛み合っており、電動モータ10で発生した回転トルクが、歯車23、中間歯車22、歯車21を順に伝達して回転軸20に入力されるようになっている。
【0027】
図4に示すように、運動変換機構11は、電動モータ10の回転トルクが入力される回転軸20と、この回転軸20を囲むように同軸に設けられた外輪部材24と、回転軸20に外接すると同時に外輪部材24に内接する複数の遊星ローラ25と、これらの遊星ローラ25を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ26とを有する。
【0028】
外輪部材24は、対向片3に形成された収容孔27内に収容され、この収容孔27の内面で軸方向に移動可能に支持されている。外輪部材24の軸方向前端には、係合凸部28が形成されている。摩擦パッド7の背面には、係合凸部28に係合する係合凹部29が形成されている。外輪部材24は、この係合凸部28と係合凹部29の係合によって回り止めされている。
【0029】
図5に示すように、遊星ローラ25は、周方向に一定の間隔をおいて複数配置されている。各遊星ローラ25は、回転軸20の外周および外輪部材24の内周にそれぞれ転がり接触している。回転軸20の外周は円筒面である。回転軸20が回転したとき、遊星ローラ25は回転軸20と外輪部材24の間を自転しながら公転する。すなわち、遊星ローラ25は、回転軸20の外周から受ける回転力によって自転し、これと同時に外輪部材24の内周を転がることによって公転する。
【0030】
外輪部材24の内周には、螺旋凸条30が設けられている。螺旋凸条30は、円周方向に対して斜めに延びる螺旋状の凸状である。遊星ローラ25の外周には、螺旋凸条30と係合する円周溝31が設けられている。遊星ローラ25が外輪部材24の内周を転がるとき、外輪部材24と遊星ローラ25は、螺旋凸条30と円周溝31の案内作用によって軸方向に相対移動する。この実施形態では遊星ローラ25の外周にリード角が0度の円周溝31を設けているが、円周溝31のかわりに、螺旋凸条30と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0031】
図4に示すように、キャリヤ26は、複数の遊星ローラ25の中心をそれぞれ軸方向に貫通する複数のキャリヤピン26Aと、この複数のキャリヤピン26Aのそれぞれの軸方向前端を互いに連結する環状のキャリヤプレート26Cと、複数のキャリヤピン26Aのそれぞれの軸方向後端を互いに連結する環状のキャリヤ本体26Bとからなる。各キャリヤピン26Aは、軸受32を介して遊星ローラ25を自転可能に支持している。
【0032】
各キャリヤピン26Aの両端には、それぞれ縮径リングばね33が取り付けられている。縮径リングばね33は、周方向に間隔をおいて配置されたすべてのキャリヤピン26Aに外接するように装着されている。この縮径リングばね33は、各キャリヤピン26Aを半径方向内方に付勢し、その付勢力によって遊星ローラ25を回転軸20の外周に押圧し、回転軸20と遊星ローラ25の間の滑りを防止する。
【0033】
キャリヤ本体26Bの内周には、滑り軸受34が取り付けられている。キャリヤ本体26Bは、この滑り軸受34を介して回転軸20で支持され、回転軸20に対して相対回転可能となっている。キャリヤ本体26Bと各遊星ローラ25の間には、遊星ローラ25を自転可能に支持するスラスト軸受35が組み込まれている。キャリヤプレート26Cとキャリヤ本体26Bは、隣り合う遊星ローラ25の間を軸方向に延びる連結棒36で連結され、この連結によって、キャリヤプレート26Cとキャリヤ本体26Bの両者が一体回転するようになっている。
【0034】
荷重センサ12は、軸方向に対向する円環板状のフランジ部材40および支持部材41と、磁界を発生する磁気ターゲット42と、磁界の強さを検出する磁気センサ43とを有する。磁気ターゲット42はフランジ部材40に固定され、磁気センサ43は支持部材41に固定されている。ここで、磁気ターゲット42と磁気センサ43は、フランジ部材40に軸方向荷重が入力されたときにフランジ部材40のたわみ変形によって磁気センサ43の出力が変化するように対向配置されている。図6に示すように、磁気ターゲット42は、磁気ターゲット42と磁気センサ43の相対変位方向に対して直交する方向を磁化方向とする2個の永久磁石44,44を、一方の永久磁石44のN極と他方の永久磁石44のS極とが隣接するように配置したものである。磁気センサ43は、磁気ターゲット42を構成する2個の永久磁石44の隣り合う磁極の境目の近傍に配置されている。
【0035】
キャリヤ26とフランジ部材40の間には、キャリヤ26と一体に公転する間座45と、間座45とフランジ部材40の間で軸方向荷重を伝達するスラスト軸受46とが組み込まれている。フランジ部材40の内周には、回転軸20を回転可能に支持する転がり軸受47が組み込まれている。
【0036】
図4に示すように、荷重センサ12は、フランジ部材40および支持部材41の外周縁を、収容孔27の内周に装着した止め輪48,49で係止することによって軸方向の前方および後方への移動が規制されている。そして、この荷重センサ12は、間座45とスラスト軸受46を介してキャリヤ本体26Bを軸方向に支持することで、キャリヤ26の軸方向後方への移動を規制している。また、キャリヤ26は、回転軸20の軸方向前端に装着された止め輪50で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ26は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ26に保持された遊星ローラ25も軸方向移動が規制された状態となっている。
【0037】
上記の運動変換機構11は、電動モータ10から回転軸20に回転トルクが入力されたとき、遊星ローラ25がキャリヤピン26Aを中心に自転しながら回転軸20を中心に公転する。このとき螺旋凸条30と円周溝31の係合によって外輪部材24と遊星ローラ25が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ25はキャリヤ26と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ25は軸方向に移動せず、外輪部材24が軸方向に移動する。このように、運動変換機構11は、電動モータ10の回転トルクを外輪部材24の軸方向の直進力に変換し、その外輪部材24で摩擦パッド7をブレーキディスク2に押し付けて、ブレーキディスク2に押圧力を負荷する。このとき、外輪部材24はブレーキディスク2から摩擦パッド7を介して軸方向の反力を受け、その反力は、遊星ローラ25、キャリヤ26、間座45、スラスト軸受46を介してフランジ部材40に伝達する。そして、その反力によってフランジ部材40が軸方向後方にたわみ、磁気ターゲット42と磁気センサ43の相対位置が変化する。この相対位置の変化に応じて磁気センサ43の出力信号が変化するので、磁気センサ43の出力信号に基づいて、ブレーキディスク2に負荷される押圧力の大きさを検出することができる。
【0038】
電動モータ10は、図7に示すモータ制御装置51に接続されている。モータ制御装置51は、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさに基づいて電動モータ10の駆動電流を制御するものである。このモータ制御装置51には、ブレーキECU52から荷重指令値Fが入力され、荷重センサ12から押圧力の大きさを示す信号が入力され、位相センサ53から電動モータ10のロータ13の回転位相を示す信号が入力される。ブレーキECU52は、車両の運転者によるブレーキペダルの操作量等に基づいて各車輪の電動ブレーキ装置を制御する電子制御ユニットである。位相センサ53は、例えば、電動モータ10に電力を供給する線間電圧に基づいてロータ13の回転位相を推定する電源装置である。また、位相センサ53として、電動モータ10に組み込んだレゾルバやホール素子を採用することも可能である。
【0039】
ところで、この電動ブレーキ装置は、電動モータ10に電流を印加することで、外輪部材24からブレーキディスク2に押圧力を負荷し、その後、電動モータ10に一定の電流を印加し続けることで、ブレーキディスク2に負荷される押圧力の大きさを一定に保持することができる。このときの電動モータ10の駆動電流の大きさを低減することができれば、電動モータ10の消費電力を効果的に抑えることが可能となる。
【0040】
そこで、電動モータ10の消費電力を抑えるため、この電動ブレーキ装置では、押圧力をブレーキディスク2に負荷して保持するときに、運動変換機構11のヒステリシス特性を考慮して電動モータ10の駆動電流を制御することにより、電動モータ10の消費電力を抑えることを可能としている。以下具体的に説明する。
【0041】
運動変換機構11は、外輪部材24からブレーキディスク2に負荷する押圧力の大きさを変化させたときにヒステリシス特性を示す。ヒステリシス特性は、電動モータ10の回転トルクが増加する過程と電動モータ10の回転トルクが減少する過程とで、外輪部材24からブレーキディスク2に負荷する押圧力の大きさが同じでも、その押圧力を負荷するときの電動モータ10の回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりも大きくなる特性である。この特性は、主に、運動変換機構11の内部の摩擦力に起因して生じる。
【0042】
そして、上記のモータ制御装置51は、押圧力をブレーキディスク2に負荷して保持するときに、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが目標値よりも大きい所定値に到達するまで電動モータ10の回転トルクを増加させてから、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが目標値に到達するまで電動モータ10の回転トルクを減少させるように電動モータ10の駆動電流を制御する。
【0043】
例えば、図8に示すように、モータ制御装置51は、ブレーキECU52からモータ制御装置51に荷重指令値Fが入力されたとき(ステップS)、まず、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが荷重指令値Fよりも所定のオフセット値dfをもって大きく設定された値(F+df)に到達するまで電動モータ10の回転トルクを増加させ(ステップS、S)、続いて、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが荷重指令値Fに到達するまで電動モータ10の回転トルクを減少させ(ステップS、S)、その後、電動モータ10の回転トルクを保持するように電動モータ10の駆動電流を制御する(ステップS)。ここで、オフセット値dfは、荷重指令値Fに比べて十分に小さく設定される微小値である。
【0044】
この制御により、電動モータ10の消費電力を低減することが可能となる。すなわち、図10に示すように、電動モータ10の回転トルクをゼロから増加させると、正効率を示す直線Lに沿って押圧力が上昇する。その後、電動モータ10の回転トルクが減少に転じると、直線Lに沿って状態が推移し、直線Lに到達するまで押圧力の大きさがほとんど変化しない非線形のヒステリシス特性を示す。更に、電動モータ10の回転トルクを減少させると、逆効率を示す直線Lに沿って押圧力が減少する。ここで、電動モータ10の回転トルクが減少する過程Lで押圧力が荷重指令値Fに到達したときと、電動モータ10の回転トルクが増加する過程Lで押圧力が荷重指令値Fに到達したときとで、荷重指令値Fの大きさが同じでも、押圧力が荷重指令値Fに到達したときの電動モータ10の回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりもΔTの分小さくなる(運動変換機構11のヒステリシス特性)。そのため、電動モータ10の回転トルクが減少する過程Lで押圧力が荷重指令値Fに到達するように制御を行なうことで、押圧力が荷重指令値F(目標値)に到達したときの電動モータ10の回転トルクが抑えられ、その後、押圧力を保持するために要する電動モータ10の消費電力を低減することができる。
【0045】
ここで、モータ制御装置51は、荷重センサ12で検出される押圧力を荷重指令値Fに保持するとき、ロータ13に生じるトルクが最大となる回転位相のうち、押圧力が荷重指令値Fに一致するときの位相に最も近い回転位相でロータ13が停止するように電動モータ10の駆動電流を制御すると好ましい。すなわち、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが荷重指令値Fに到達するまで電動モータ10の回転トルクを減少させるときに、荷重センサ12で検出される押圧力が荷重指令値Fに完全に一致するときの回転位相でロータ13を停止させるのではなく、ロータ13がステータ14に対して1回転する間にロータ13に生じるトルクが最大となる回転位相のうち、押圧力が荷重指令値Fに一致するときの位相に最も近い回転位相でロータ13が停止するように電動モータ10の駆動電流を制御する。これにより、ブレーキディスク2に押圧力を負荷した後、その押圧力の大きさを安定して保持することが可能となる。
【0046】
トルクが最大となる回転位相でロータ13を停止させる上記制御は、荷重指令値Fがあらかじめ設定されたしきい値よりも大きいときにのみ行なうようにすることができる。これにより、荷重指令値Fが比較的小さいときにも、安定した押圧力を得ることができる。
【0047】
また、例えば、図9に示すように、モータ制御装置51は、ブレーキECU52からモータ制御装置51に荷重指令値Fが入力されたとき(ステップS)、まず、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが荷重指令値Fに到達するまで電動モータ10の回転トルクを増加させ(ステップS、S)、続いて、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが荷重指令値Fよりも所定のオフセット値dfをもって小さく設定された値(F−df)に到達するまで電動モータ10の回転トルクを減少させ(ステップS、S)、その後、電動モータ10の回転トルクを保持するように電動モータ10の駆動電流を制御するようにしてもよい(ステップS)。
【0048】
このように電動モータ10の駆動電流を制御しても、図11に示すように、電動モータ10の回転トルクが減少する過程Lで押圧力が目標値(F−df)に到達したときと、電動モータ10の回転トルクが増加する過程Lで押圧力が目標値(F−df)に到達したときとで、目標値(F−df)の大きさが同じでも、押圧力が目標値(F−df)に到達したときの電動モータ10の回転トルクの大きさが同じにならず、前者が後者よりもΔTの分小さくなる(運動変換機構11のヒステリシス特性)。そのため、上述のように、電動モータ10の回転トルクが減少する過程Lで押圧力が目標値(F−df)に到達するように制御を行なうことで、押圧力が目標値(F−df)に到達したときの電動モータ10の回転トルクが抑えられ、その後、押圧力を保持するために要する電動モータ10の消費電力を低減することができる。
【0049】
ここでも、モータ制御装置51は、荷重センサ12で検出される押圧力を荷重指令値Fよりも所定のオフセット値dfをもって小さく設定された目標値に保持するとき、ロータ13に生じるトルクが最大となる回転位相のうち、押圧力が目標値(F−df)に一致するときの位相に最も近い回転位相でロータ13が停止するように電動モータ10の駆動電流を制御すると好ましい。これにより、ブレーキディスク2に押圧力を負荷した後、その押圧力の大きさを安定して保持することが可能となる。
【0050】
また、トルクが最大となる回転位相でロータ13を停止させる上記制御は、押圧力の目標値(F−df)があらかじめ設定されたしきい値よりも大きいときにのみ行なうようにすることができる。これにより、押圧力の目標値が比較的小さいときにも、安定した押圧力を得ることができる。
【0051】
上述の電動ブレーキ装置は、ブレーキディスク2に押圧力を負荷し、その押圧力を目標値に保持するときに、電動モータ10の回転トルクが減少する過程Lで押圧力が目標値に到達するように電動モータ10の駆動電流を制御するので、電動モータ10の回転トルクが増加する過程Lで押圧力を目標値に到達させる通常の制御と比較して、押圧力が目標値に到達したときの電動モータ10の回転トルクが小さい。そのため、押圧力を目標値に保持するときの電動モータ10の駆動電流を抑制することができ、電動モータ10の消費電力が低い。
【0052】
また、上記実施形態では、電動モータ10の回転トルクを直動部材の直進力に変換する運動変換機構11として、電動モータ10の回転トルクが入力される回転軸20と、この回転軸20の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ25と、これらの複数の遊星ローラ25を囲むように配置された外輪部材24と、その外輪部材24の内周に設けられた螺旋凸条30と、その螺旋凸条30と係合するように各遊星ローラ25の外周に設けられた螺旋溝または円周溝31とを有する遊星ローラ機構を採用している。このようにすると、遊星ローラ機構は、回転軸20を1回転させたときに生じる直動部材(ここでは外輪部材24)の軸方向の移動量が小さく、減速機構の機能を有するため、ヒステリシス特性を顕著に示す。そのため、遊星ローラ機構を用いた電動ブレーキ装置に上記制御を適用することにより、電動モータ10の消費電力を効果的に低減することができる。
【0053】
上記モータ制御装置51は、所定の時間毎に、電動モータ10で発生する回転トルクを増加させた後に減少させる動作を実行するように電動モータ10の駆動電流を制御することができる。そして、このとき荷重センサ12で検出される押圧力の大きさと電動モータ10の駆動電流の大きさとの対応関係に基づいて、電動モータ10で発生する回転トルクが増加するときの電動モータ10の駆動電流とそのときブレーキディスク2に負荷される押圧力との対応関係(正効率)と、電動モータ10で発生する回転トルクが減少するときの電動モータ10の駆動電流とそのときブレーキディスク2に負荷される押圧力との対応関係(逆効率)とを推定し、それを記憶することができる。更に、この記憶した両対応関係に基づいて電動モータ10の駆動電流を制御するように構成することができる。正効率と逆効率を推定して記憶する動作は、モータ制御装置51に電源が投入された直後に行なってもよい。
【0054】
上記実施形態では、電動モータ10の回転トルクを直動部材(外輪部材24)の直進力に変換する運動変換機構11として、遊星ローラ機構を採用した電動式直動アクチュエータを例に挙げて説明したが、この発明は、他の構成の運動変換機構11(例えば、滑りねじ機構、ボールねじ機構、ボールランプ機構など)を採用した電動式直動アクチュエータにも同様に適用することができる。特に、運動変換機構11として、上述の遊星ローラ機構や後述の滑りねじ機構を採用すると、電動モータ10の消費電力を効果的に低減することが可能である。
【0055】
運動変換機構11として滑りねじ機構を採用した電動式直動アクチュエータの例を図12に示す。以下、上記実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
図12の電動式直動アクチュエータは、電動モータ10の回転トルクが入力される回転軸61と、回転軸61と一体に回転するねじ軸62と、ねじ軸62にねじ係合するナット63と、ナット63の軸方向後方に配置された荷重センサ12とを有する。ねじ軸62は、雄ねじ64を外周に形成した軸体であり、ナット63は、雌ねじ65を内周に形成した筒体である。雄ねじ64と雌ねじ65は互いに摩擦接触している。雄ねじ64および雌ねじ65は、例えば、ねじ山の断面形状が台形の台形ねじを採用することができる。
【0057】
ナット63は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔27内に、キャリパボディ6に対して回り止めされた状態で軸方向にスライド可能に収容されている。ねじ軸62の軸方向後端にはねじ軸62と一体に回転する間座45が設けられ、その間座45がスラスト軸受46を介して荷重センサ12で支持されている。ここで、荷重センサ12は、間座45とスラスト軸受46とねじ軸62とを介してナット63を軸方向に支持することで、ナット63の軸方向後方への移動を規制している。
【0058】
この電動式直動アクチュエータは、電動モータ10の回転トルクを回転軸61に入力することによって、ねじ軸62とナット63を相対回転させて、ナット63を軸方向前方に移動させ、そのナット63で摩擦パッド7をブレーキディスク2に押圧することで、制動力を発生させる。このとき、直動部材としてのナット63は、軸方向後方への反力を受け、その反力は、ねじ軸62、間座45、スラスト軸受46を介して荷重センサ12に伝達する。
【0059】
この滑りねじ機構を運動変換機構11として採用した電動ブレーキ装置も、押圧力をブレーキディスク2に負荷して保持するときに、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが目標値よりも大きい所定値に到達するまで電動モータ10の回転トルクを増加させてから、荷重センサ12で検出される押圧力の大きさが目標値に到達するまで電動モータ10の回転トルクを減少させるように電動モータ10の駆動電流を制御することで、押圧力を目標値に保持するときの電動モータ10の駆動電流を抑制することができ、電動モータ10の消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0060】
2 ブレーキディスク
7 摩擦パッド
10 電動モータ
11 運動変換機構
12 荷重センサ
13 ロータ
14 ステータ
20 回転軸
24 外輪部材
25 遊星ローラ
26 キャリヤ
30 螺旋凸条
31 円周溝
51 モータ制御装置
52 ブレーキECU
53 位相センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12