(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大気導入口に空気導入通路の上流側を接続し、空気導入通路の途中にコンプレッサーを設け、空気を冷却して空気中に含まれる水分を霧状のごく細かい水滴として現出させ且つ体積に比べて表面積が格段に広くなった霧状のごく細かい水滴に空気中の酸素を接触させて溶解させる空気冷却水滴現出酸素溶解装置を設け、年間を通じて一定の常温に維持される地中の熱を利用すべく側周面及び底面が地中に囲まれその内部に淡水又は海水からなる循環水が流入及び排出される恒温水槽を構築し、上記空気導入通路の下流側を恒温水槽内の循環水中を往復させてその下流端側を上記空気冷却水滴現出酸素溶解装置に接続し、底部側の循環水を気泡による内外の密度差を作り出して汲み上げるエアーリフトポンプを恒温水槽内部に上下向きに配置し、エアーリフトポンプの下端側に吸入口を設け、その上端側に気泡除去部を設け、上記空気冷却水滴現出酸素溶解装置に上流端側が接続された気液混合流体導入通路の上向きの排出口を、恒温水槽内のエアーリフトポンプ下端の下向きの吸入口に臨ませ、魚の養殖のための養殖水槽を設置し、養殖水槽の水槽排出口と恒温水槽の上部との間に途中に濾過器が設けられた水槽循環通路を配設した魚の養殖システムであって、
養殖水槽から循環排出され途中で濾過された淡水又は海水からなる循環水をその上部から恒温水槽の内部に流入させ、恒温水槽の周囲の地中の熱を利用して、恒温水槽内の循環水を夏場は冷却し冬場は暖め、コンプレッサーの駆動により大気導入口を通じて導入した加温された空気を空気導入通路を流下中に恒温水槽内の循環水で冷却し、冷却後の空気を空気冷却水滴現出酸素溶解装置で、空気を冷却して空気中に含まれる水分を霧状のごく細かい多数の水滴として現出させ、各水滴に空気中の酸素を接触させて溶解させ、酸素が溶解した霧状のごく細かい多数の水滴及び残りの窒素と空気からなる気液混合流体を、気液混合流体導入通路の排出口から吸入口を通じて恒温水槽底部の循環水と共にエアーリフトポンプの内部に流入させ、エアーリフトポンプ内を上昇中の循環水に、酸素が溶解した霧状のごく細かい水滴を混入させて酸素を付与し且つ窒素と空気からなる気泡を混在させて、内部の気泡によりエアーリフトポンプの内外の循環水に密度差を作り出し、エアーリフトポンプ内部の酸素が付与され密度の小さい循環水を汲み上げて、養殖水槽に循環供給して水槽内の淡水又は海水に酸素を供給することを特徴とする魚の養殖システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の大気中の空気又は酸素をホースなどを通じて水槽底部にポンプを使って強制的に送り込む場合、送り込まれた空気又は酸素は、ホースの先端から気泡となって水槽底部から淡水中又は海水中を上昇中に、気泡の一部が淡水中又は海水中に溶解するのみで、殆どは気泡となって淡水又は海水の表面から外部に無駄に放出されている。しかも、淡水中又は海水中に発生する気泡は、養殖されている魚に多大のストレスを与えることが知られている。特に、空気又は酸素の淡水中又は海水中への溶解率を高めるために、気泡を微細にすると、淡水又は海水が白濁色となって、さらに魚にストレスを与えるという問題をはらんでいる。
また、養殖水槽の水温を一定に維持する場合、冷却装置や暖房装置を使用することは、多大のエネルギーコストがかかり、養殖魚のコスト増に直結する。地中に恒温水槽を掘り、これを利用する場合には、恒温水槽を深く掘らないと、大気温の影響を受けやすい。ただ、その一方で、恒温水槽を深く掘ると、底部から淡水又は海水をくみ上げるために大型のポンプが必要となる。大型のポンプは高価であり、エネルギーコストも高くなり、使用時の騒音も大きくなり、養殖されている魚に多大のストレスを与える。これを回避するには養殖水槽から離れて設置することが必要となる等の別の問題をはらんでいる。
【0005】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、気泡などによらずに酸素を溶解した霧状のごく細かい多数の水滴を淡水又は海水に直接混入させてその溶存酸素量を高め、地中の熱を利用した恒温水槽を用いて養殖水槽内の淡水又は海水を低コストで冷却及び暖房し、その底部から騒音の生じない気泡を利用するエアーリフトポンプを使って淡水又は海水を容易にしかも低コストで汲み上げて養殖水槽に循環供給することのできる魚の養殖システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を達成するために、この発明は、大気導入口に空気導入通路の上流側を接続し、空気導入通路の途中にコンプレッサーを設け、空気を冷却して空気中に含まれる水分を霧状のごく細かい水滴として現出させ且つ体積に比べて表面積が格段に広くなった霧状のごく細かい水滴に空気中の酸素を接触させて溶解させる空気冷却水滴現出酸素溶解装置を設け、年間を通じて一定の常温に維持される地中の熱を利用すべく側周面及び底面が地中に囲まれその内部に淡水又は海水からなる循環水が流入及び排出される恒温水槽を構築し、上記空気導入通路の下流側を恒温水槽内の循環水中を往復させてその下流端側を上記空気冷却水滴現出酸素溶解装置に接続し、底部側の循環水を気泡による内外の密度差を作り出して汲み上げるエアーリフトポンプを恒温水槽内部に上下向きに配置し、エアーリフトポンプの下端側に吸入口を設け、その上端側に気泡除去部を設け、上記空気冷却水滴現出酸素溶解装置に上流端側が接続された気液混合流体導入通路の上向きの排出口を、恒温水槽内のエアーリフトポンプ下端の下向きの吸入口に臨ませ、魚の養殖のための養殖水槽を設置し、養殖水槽の水槽排出口と恒温水槽の上部との間に途中に濾過器が設けられた水槽循環通路を配設した
魚の養殖システムであって、養殖水槽から循環排出され途中で濾過された淡水又は海水からなる循環水をその上部から恒温水槽の内部に流入させ、恒温水槽の周囲の地中の熱を利用して、恒温水槽内の循環水を夏場は冷却し冬場は暖め、コンプレッサーの駆動により大気導入口を通じて導入した加温された空気を空気導入通路を流下中に恒温水槽内の循環水で冷却し、冷却後の空気を空気冷却水滴現出酸素溶解装置で、空気を冷却して空気中に含まれる水分を霧状のごく細かい多数の水滴として現出させ、各水滴に空気中の酸素を接触させて溶解させ、酸素が溶解した霧状のごく細かい多数の水滴及び残りの窒素と空気からなる気液混合流体を、気液混合流体導入通路の排出口から吸入口を通じて恒温水槽底部の循環水と共にエアーリフトポンプの内部に流入させ、エアーリフトポンプ内を上昇中の循環水に、酸素が溶解した霧状のごく細かい水滴を混入させて酸素を付与し且つ窒素と空気からなる気泡を混在させて、内部の気泡によりエアーリフトポンプの内外の循環水に密度差を作り出し、エアーリフトポンプ内部の酸素が付与され密度の小さい循環水を汲み上げて、養殖水槽に循環供給して水槽内の淡水又は海水に酸素を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
課題を解決するための手段よりなるこの発明に係る魚の養殖システムによれば、次のような優れた効果を奏することができる。
大気中の空気を冷却する場合、年間を通じて一定に保たれる地中温度によって水温を一定温度に保つ恒温水槽を直前に利用して、取り入れる空気をある程度既に冷やしているため、空気冷却装置で冷却するときの冷却エネルギーコストを抑えることができる。また、養殖水槽内の淡水中又は海水中に酸素を溶解させる場合、空気を冷却すると、空気中に含まれる水分が霧状のごく細かい水滴となって現出するが、この霧状のごく細かい水滴中に空気中の酸素の一部が溶解することを利用して、酸素が溶存する霧状のごく細かい水滴を生成することができる。
この霧状のごく細かい水滴は恒温水槽内に排出された後、恒温水槽内の循環水に混じってエアーリフトポンプを経て、養殖水槽内に供給されて、酸素の供給源となるため、養殖水槽内の淡水中又は海水中に、強制的に酸素又は空気を送り込むための装置を省略することができると共に、酸素を淡水又は海水に溶解させる際に霧状のごく細かい水滴の状態で混入させるので、魚にとってストレスとなる気泡の発生も全くない。
しかも、空気を冷却する際に、霧状のごく細かい水滴中に溶解した酸素と異なり、霧状のごく細かい水滴中に溶解しなかった空気中の窒素は、恒温水槽内に設置されたエアーリフトポンプ内の淡水又は海水と共に気泡となって上昇し、エアーリフトポンプの開口する上端側から大気中に放出される。この放出される窒素は魚の養殖においては問題となる気体であるが、養殖水槽に送られる直前に気泡となってエアーリフトポンプから大気中に放出され、養殖水槽内に供給されるのを防ぐことができる。さらに、エアーリフトポンプは、モーター音などの駆動音が一切生じないので、騒音による養殖魚へのストレスを生じさせることもない。
循環水に含まれる気泡は、エアーリフトポンプを上昇通過した際に、窒素と同様に上端から外気に放出されて除去されるので、再び、養殖水槽に循環して戻された循環水には気泡が含まれてなく、気泡による養殖魚へのストレスを生じさせることもない。
エアーリフトポンプ内を上昇する循環水に含まれる微細な不純物は、循環水に含まれて同様に上昇する気泡による曝気効果で、その気泡の表面に付着させて除去でき、濾過機能を高めることができ、不純物を含んだ汚れた水が再循環しないことによって、養殖水槽内の水を浄化する機能を高めて、魚の養殖環境を高めることができる。
養殖水槽に再循環して供給される淡水又は海水からなる循環水は、騒音のしないエアーリフトポンプの内部を上昇する間に酸素を溶解した霧状のごく細かい水滴が均一に溶け込んでいて、溶存酸素量が豊富な循環水が養殖水槽に循環供給されるので、魚にストレスを与えることもない。しかも、循環水に酸素を溶解させる際に、ポンプなどを使って酸素や空気を強制的に送り込むものでないので、気泡の発生もなく、又騒音の発生もないため、気泡及び騒音によるストレスを魚に与えることもない。さらに豊富な溶存酸素がバクテリアの繁殖を抑えるために養殖水槽が汚れず、魚臭さが生じるのを防ぐこともできる。
従来の養殖水槽では、水温を一定に維持するために別個に冷却装置を必要とするが、本願発明では、年間を通じて一定に保たれる地中温度によって水温を一定温度に保つ恒温水槽を利用するため、冷却装置を不要することができる。また、エアーリフトポンプは、酸素が溶存する霧状のごく細かい水滴を生成する際の温度の低い水及び気泡を利用することで深いところから水を引き上げることができ、しかもその際に温度の低い水を利用しているので、水温を下げる効果もあり、恒温水槽との協動効果を高めて冷却装置を不要にするのにさらに寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、この発明をより具体的に説明する。
【0010】
図において、魚の養殖システム1は、大気導入口2、コンプレッサー3、空気導入通路4、空気冷却水滴現出酸素溶解装置5、恒温水槽6、エアーリフトポンプ7、気液混合流体導入通路8、養殖水槽9などから主に構成され、気泡などによらずに酸素を溶解した霧状のごく細かい多数の水滴dを淡水又は海水に直接混入させてその溶存酸素量を高め、地中の熱を利用した恒温水槽6を用いて養殖水槽9内の淡水又は海水を低コストで冷却及び暖房し、その底部から騒音の生じない気泡を利用するエアーリフトポンプ7を使って淡水又は海水を容易にしかも低コストで汲み上げて養殖水槽に循環供給できる特徴を備えている。
【0011】
大気導入口2は、大気つまり空気aを取り込む吸入口である。空気中には酸素が含まれ、また、空気中には水分が含まれており、冷却すると霧状のごく細かい水滴になる性質がある。さらに酸素は霧状のごく細かい水滴に溶解する性質がある。大気導入口2は、開口部は広く、奥側の中央には空気導入通路4の先端が接続されている。大気導入口2は夏場などに地面の熱で熱せられた空気aが流入するのを避けるために、地面より少し高い位置に取り付けられている。
【0012】
この大気導入口2の入り口の下部には、必要に応じて水分蒸発器21が取り付けられていて、水分蒸発器21には水が入れられている。水分蒸発器21は、霧状のごく細かい水滴を多く得たいときや冬場などの空気aが乾燥して湿度が低い場合などに使用される。これは空気冷却水滴現出酸素溶解装置5で空気a中から霧状のごく細かい水滴を現出させる際に、多くの霧状のごく細かい水滴を得たい場合や、湿度が低く必要な量の霧状のごく細かい水滴が確保できない場合などに使用される。
【0013】
コンプレッサー3は、上記の大気導入口2から空気aを強制吸引するときの動力として使用される。コンプレッサー3の出力を高めると、大気導入口2からの空気aの流入量が増加する。このコンプレッサー3は、大気導入口2の直ぐ下流側の空気導入通路4の途中に設けられている。コンプレッサー3は騒音が発生するので、養殖水槽9から少し離れた場所に設置される。
【0014】
コンプレッサー3によって吸引される空気aの流入量は、エアーリフトポンプ7による恒温水槽6の底部からの循環水eの汲み上げ能力に、また養殖水槽9内への酸素の供給量に、それぞれ影響を与える。空気aの流入量が増加すると、汲み上げ能力が高まり、また酸素の供給量が増える。つまりコンプレッサー3の出力を制御することで、恒温水槽6の底部からの循環水eの汲み上げ能力、及び養殖水槽9内への酸素の供給量をコントロールすることができる。
【0015】
空気導入通路4は上記の大気導入口2から流入した空気aを空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に送るための通路で、空気aはこの内部を流下して空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に圧送される。空気導入通路4の上流側は上記したように大気導入口2に接続され、大気導入口2の直ぐ近くの空気導入通路4の途中にはコンプレッサー3が取り付けられている。
【0016】
空気導入通路4の下流端側は空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に接続されている。コンプレッサー3の下流側の空気導入通路4は、恒温水槽6の内部の淡水中又は海水中を通ってから、空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に接続されている。この空気導入通路4には、例えばプラスチック製パイプが使用されている。
【0017】
空気冷却水滴現出酸素溶解装置5は、大気導入口2から強制吸引された空気aを冷却することにより、空気中に含まれる水分は霧状のごく細かい多数の水滴として現出し、現出した霧状のごく細かい多数の水滴に空気中の酸素を溶解させる装置である。酸素は霧状のごく細かい水滴dに溶解する性質がある。霧状のごく細かい水滴dは体積が小さいので相対的に表面積が広くなって、酸素を含む空気との接触面積が大きくなり、酸素がその表面から溶解し易くなる。霧状の水滴dの大きさは、大きくても100μm以下、一般的には20μm前後と云われている。
【0018】
酸素が溶解した霧状のごく細かい多数の水滴dはエアーリフトポンプ7内に窒素及び空気cと共に送り込まれ、エアーリフトポンプ7内を上昇中に淡水又は海水からなる循環水eに混入されて、養殖水槽9内に供給されることになる。なお、魚の生育に悪影響を与える窒素は霧状のごく細かい水滴に容易には溶解しないので、養殖水槽9内に窒素を含んだ淡水又は海水からなる循環水eが供給される恐れはない。
【0019】
空気冷却水滴現出酸素溶解装置5はその内部が冷却される構造になっていて、冷却される内部には冷却熱を伝えやすい例えば金属製の空気冷却管51がその距離が長くなるように例えば波形状に配置されている。この金属製の空気冷却管51の内部を大気導入口2から流入した空気aがその内部を通る。
【0020】
この空気冷却水滴現出酸素溶解装置5には例えば冷却装置が使用される。空気冷却水滴現出酸素溶解装置5は、空気冷却管51を流れる空気aから現出した酸素を溶解した霧状のごく細かい多数の水滴dが凍らない温度、例えば1〜5度C前後に温度が設定されている。
【0021】
空気冷却水滴現出酸素溶解装置5の空気冷却管51の内部を流れる空気aは、流下している間に、空気aに含まれる水分が霧状のごく細かい多数の水滴となって現出し、空気a中の酸素の一部は霧状のごく細かい多数の水滴d中に溶解する。このようにして、流入した空気aは、その間を流下する間に、窒素及び空気cと、酸素が溶解した霧状のごく細かい多数の水滴dからなる気液混合流体に変化して、恒温水槽6内のエアーリフトポンプ7に送り出される。
【0022】
恒温水槽6は、地中に掘られた縦穴で、側周面及び底面が地中に囲まれて直に接しており、その内部に入れられた淡水又は海水からなる循環水eを地中の熱を利用して年間を通じて18〜20度C前後に維持する機能を果たす。この恒温水槽6を利用することにより、循環水eの水温を18〜20度C前後に維持できるので、水温が高い夏場にあっては冷却装置を使用して水温を冷やす必要がなく、逆に水温が低い冬場にあっては暖房装置を使用して水温を暖める必要がなく、水温の温度調節に使用するエネルギーコストを限りなく抑えることができる利点がある。
【0023】
恒温水槽6の内周側面及び底面は、その周囲の土砂などが内部の循環水e中に入り込まないように、コンクリートや石などで構築されている。恒温水槽6の開口する上端には、異物が入らないように蓋などが適宜取り付けられている。恒温水槽6は、内部の循環水eが大気の温度の影響を出来るだけ受けないに、例えば10〜20m前後の深い穴が掘られている。
【0024】
この恒温水槽6に入っている淡水中又は海水中には、前記した空気導入通路4の途中の一部が底部近くまで延びて往復して迂回する状態で浸漬されている。空気導入通路4の内部を圧送される加温された空気bは、この恒温水槽6の内部の淡水中又は海水中を往復通過する間に適度に冷やされて、下流端側の空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に送り込まれるようになっている。空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に送り込まれる前に加温された空気bの温度を適度に冷やすことによって、冷却かかるコストや時間を節約することができる利点がある。
【0025】
エアーリフトポンプ7は、恒温水槽6の底部側から循環水eを汲み上げるポンプで、恒温水槽6の内部に上下向きに配置されている。エアーリフトポンプ7は空気冷却水滴現出酸素溶解装置5から送りだされた気液混合流体の中の窒素及び空気cによる気泡を利用して低い底部側の循環水eを汲み上げる構造になっている。エアーリフトポンプ7はモーターやプロペラなどを使用しないので、殆ど騒音が発生しない特徴を備えている。騒音に敏感に反応しストレスとなる魚が養殖されている水槽の近くでも使用できる利点がある。
【0026】
エアーリフトポンプ7の原理は、後で詳細に説明するが、気液混合流体の中の窒素及び空気cの気泡によって内部の淡水又は海水の密度をその外部の恒温水槽6内の淡水又は海水の密度より小さくすることで、恒温水槽6の底部の淡水又は海水からなる循環水eを恒温水槽6の上方まで汲み上げる構造になっている。
【0027】
即ち、エアーリフトポンプ7の下端から気液混合流体の中の窒素及び空気cの気泡が流入することで、内部の淡水又は海水の密度はその外部の恒温水槽6内の淡水又は海水の密度より小さくなり、下端から流入する恒温水槽6内の密度の高い淡水又は海水によって順次、上方に押し上げられるのである。その一方で、エアーリフトポンプ7の下端から流入した恒温水槽6内の密度の高い淡水又は海水は、同様にその下端から流入する気泡が混在することで、徐々に密度が小さくなっていくのである。
【0028】
エアーリフトポンプ7の下端には、吸入口71が下向きに開口して形成されている。この吸入口71はエアーリフトポンプ7の内部とその外部の恒温水槽6とを連通する。恒温水槽6の底部の淡水又は海水からなる循環水eは、この吸入口71から、気泡や酸素が溶解した霧状のごく細かい水滴dと混ざって吸入される。
【0029】
エアーリフトポンプ7の上端には気泡除去部72が設けられている。気泡除去部72は大気に向かって開口している。気泡除去部72は恒温水槽6の底部から汲み上げられた淡水又は海水からなる循環水eに混在する窒素及び空気cからなる気泡を大気に放出して、養殖水槽9に循環供給される循環水eに気泡が混在するのを防ぐ機能を果たす。
【0030】
エアーリフトポンプ7の上端側の側面には排出通路73が設けられている。排出通路73はエアーリフトポンプ7の内を汲み上げられた循環水eを外部に排出する通路である。排出通路73は、恒温水槽6の上方に設けられている。排出通路73はエアーリフトポンプ7の上端側の側面から横向きに延設され、その先端側は下向きに曲がって養殖水槽9内に没している。エアーリフトポンプ7内を汲み上げられている最中に酸素が溶解し、又微細な異物が気泡によって除去された循環水eは、この排出通路73を通って養殖水槽9内に戻される。
【0031】
ところで、エアーリフトポンプ7の排出通路73の先端側が養殖水槽9の淡水中又は海水中に没している場合にはサイホンの原理によって、養殖水槽9内の淡水又は海水がエアーリフトポンプ7を通じて恒温水槽6側に逆流する。エアーリフトポンプ7の上端側に設けられた大気に開口する上記気泡除去部72は、サイホンの原理によるこの逆流を防ぐ機能も果たす。
【0032】
気液混合流体導入通路8は、空気冷却水滴現出酸素溶解装置5で空気aから、窒素及び空気cと、酸素が溶解した霧状のごく細かい水滴dからなる気液混合流体に変化した流体を恒温水槽6に送る通路で、気液混合流体はこの内部を流下してエアーリフトポンプ7の吸入口71に向けて送り出される。気液混合流体導入通路8の上流端側は空気冷却水滴現出酸素溶解装置5の空気冷却管51の下流端側に接続されている。
【0033】
気液混合流体導入通路8の下流側は恒温水槽6の内部の底部側に延設され、その下流端には排出口81が設けられている。排出口81は上向きに配置されていて、気液混合流体導入通路8の上向きの排出口81は、恒温水槽6内に上下方向に配設されているエアーリフトポンプ7の下端の下向きの吸入口71に臨んでいる。排出口81から排出された気液混合流体は吸入口71からエアーリフトポンプ7内に流入する。
【0034】
この気液混合流体導入通路8は断熱材で被覆されていて、霧状のごく細かい水滴が凍らない程度の所定温度まで冷却されてその内部を通る気液混合流体が、暖められるのを防いでいる。つまり、気液混合流体が通路8内を通過中に外気及び恒温水槽6の内部の淡水又は海水で暖められることで、酸素を溶解した霧状のごく細かい水滴dが気化して、再び空気のみの状態に戻るのを防いでいる。この気液混合流体導入通路8には、例えばプラスチック製パイプが使用されている。
【0035】
養殖水槽9は、各種の魚を養殖するための水槽で、水槽内には淡水又は海水が入れられていて、その淡水中又は海水中を各種の養殖魚が飼育されている。養殖水槽9の中央底部には、古くなった淡水又は海水を循環排出するための水槽排出口91が設けられている。この水槽排出口91には排出された淡水又は海水に含まれるゴミfを取り出す水槽ゴミ取出筒92が取り付けられている。
【0036】
水槽排出口91には、水槽循環通路93の上流端が接続されている。水槽循環通路93の下流側は恒温水槽6の上部の水面の側面側に接続されている。また、水槽循環通路93の途中には、水槽排出口91から排出された淡水又は海水からなる循環水eに含まれる汚れ、不純物、異物gなどを濾過して除去する濾過器94が設けられている。
【0037】
次に、上記発明を実施するための形態の構成に基づく作用について以下説明する。
魚の養殖システム1の一部を構成するコンプレッサー3を始動すると、このコンプレッサー3の働きによって大気中から大気導入口2を通じて空気aが強制的に吸い込まれる。吸い込まれた空気aは吸引時にコンプレッサー3で加圧され、また加圧されることによって、空気の温度も加温されることになる。
【0038】
加温された空気bは、コンプレッサー3に接続された空気導入通路4の内部を通って恒温水槽6に送られる。空気導入通路4はその上流側がコンプレッサー3に接続され、下流側は空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に接続され、その中間部分は恒温水槽6内の淡水中又は海水中を循環して設けられている。このため、空気導入通路4内の加温された空気bは、恒温水槽6内を通過中に淡水又は海水によって冷却される。
【0039】
加温されていた空気bは、恒温水槽6内の淡水又は海水の温度である常温程度まで、温度が下げられる。恒温水槽6は地面から地中に向けて掘られて設けられていて、恒温水槽6の開口する上端面以外は地中に囲まれている。このため、恒温水槽6内の淡水又は海水の温度は地中の温度、つまり年間を通じて例えば18〜20度C前後の常温に維持されている。
【0040】
恒温水槽6内の淡水又は海水の常温の温度は、冬場に比べると夏場の方が少し高い。また、恒温水槽6が設置される地域などによっても若干は相違する。例えば夏場の外気温が35度Cのとき、空気冷却水滴現出酸素溶解装置5に流入する直前の空気aの温度は、恒温水槽6内の淡水又は海水で冷却されるので、20度C前後まで下がる。
【0041】
恒温水槽6内に配設された空気導入通路4を通過中に常温程度まで下げられた空気aは、その下流側に設けられている次の空気冷却水滴現出酸素溶解装置5で霧状のごく細かい水滴が凍らない程度の所定温度、例えば1〜5度C前後まで冷却される。即ち、この空気冷却水滴現出酸素溶解装置5は空気aの温度を下げて冷却するが、現れた霧状のごく細かい水滴を凍らせるまでは冷却しないように温度制御されている。外気温が高い夏場と低い冬場では空気冷却水滴現出酸素溶解装置5の温度制御は異なっている。
【0042】
空気冷却水滴現出酸素溶解装置5によって空気aが所定温度まで冷却されることにより、空気a中の水分の一部が霧状のごく細かい水滴dとなって現れる。この現出した霧状のごく細かい水滴中に空気a中の酸素の一部が溶け込む。このとき、空気a中の窒素は現出した霧状のごく細かい水滴中に溶け込まない。この空気冷却水滴現出酸素溶解装置5を通過中に空気aは、空気a中の酸素が溶解している霧状のごく細かい水滴dと窒素及び空気cの気体からなる気液混合流体に変化する。
【0043】
空気冷却水滴現出酸素溶解装置5で空気aから変化した気液混合流体は、気液混合流体導入通路8を恒温水槽6の内部の底部側に向かって送り出され、その下流端の排出口81から排出される。排出された気液混合流体は、エアーリフトポンプ7の下端の吸入口71から吸引されて、エアーリフトポンプ7内を淡水又は海水からなる循環水eに混入されて上昇する。
【0044】
エアーリフトポンプ7内を上昇する循環水eには、気液混合流体の酸素を溶解している霧状のごく細かい水滴dが混入されることで、上昇する循環水eには多量の酸素が溶解して含まれることになる。同様に、気液混合流体の中の窒素及び空気cは気泡となってエアーリフトポンプ7内を循環水eと共に上昇する。この気泡は循環水eと共に上昇中に、循環水eと酸素を溶解している霧状のごく細かい水滴dとを適度に攪拌するために、淡水又は海水からなる上昇中の循環水eに酸素が均一に溶解される。
【0045】
エアーリフトポンプ7内の循環水eの上昇圧は、コンプレッサー3による大気の吸引力によってもたらされる。コンプレッサー3の圧力が高いと、気液混合流体導入通路8の排出口81から排出される気液混合流体の中の窒素及び空気cの気泡の量が増える。この量が増えた窒素及び空気cの気泡がエアーリフトポンプ7の吸入口71から流入して、その内部を上昇して、エアーリフトポンプ7の吸引力を高めるのである。
【0046】
このエアーリフトポンプ7の吸引力の原理は次のような理由による。
エアーリフトポンプ7の内部の淡水又は海水は気泡が増えることによって、その内部の淡水又は海水の平均密度は、その外部の恒温水槽6の淡水又は海水の平均密度より小さくなる。流体は密度の大きい方から小さい方に移動する性質がある。エアーリフトポンプ7の内部とその外部は、エアーリフトポンプ7の下端の吸入口71を通じて連通している。
【0047】
このため、外部の恒温水槽6の密度の大きい淡水又は海水が、エアーリフトポンプ7の吸入口71を通じて、密度の小さいエアーリフトポンプ7の内部に流入、つまり吸引されることになる。吸引された密度の大きい淡水又は海水は、気液混合流体導入通路から連続的に排出される気泡が混入することにより、密度が小さくなる。ポンプ下端の吸入口71からは連続的に密度の大きい淡水又は海水が流入し続けるので、密度が小さくなった淡水又は海水は押し上げられるようにその内部を上昇し、上端側から排出されて魚の養殖システム1内に循環供給されるのである。
【0048】
ところで、エアーリフトポンプ7の内部の淡水又は海水の平均密度をτ
1、エアーリフトポンプ7の下端の吸入口71からエアーリフトポンプ7の内部の淡水面又は海水面までの高さをh
1とする。又エアーリフトポンプ7の外部の恒温水槽6の淡水又は海水の平均密度をτ、エアーリフトポンプ7の下端の吸入口71からエアーリフトポンプ7の外部の恒温水槽6の淡水面又は海水面までの高さをhとする。
このとき、エアーリフトポンプ7の内部とその周囲の外部とは下端の吸入口71を通じて連通しているため、
τ
1・h
1=τ・h
が成立する。この式を変形すると、
h
1=(τ/τ
1)・h
となる。
また、エアーリフトポンプ7の内部の淡水又は海水の平均密度τ
1は、エアーリフトポンプ7の外部の恒温水槽6の淡水又は海水の平均密度τより小さいから、τ
1<τとなる。つまり、(τ/τ
1)>1となるから、
h
1=(τ/τ
1)・h>1・h
つまり、h
1>h
これより、エアーリフトポンプ7の内部の密度の小さい淡水面又は海水面は、その外部の密度の大きい恒温水槽6内の淡水面又は海水面より、水位が高くなることが分かる。これは水に浮かぶ氷を思い浮かべれば、容易に理解される。氷の上面は水面よりも僅かに高いが、氷は水に比べて、その密度が小さい。このようにして、エアーリフトポンプ7は恒温水槽6の底部の淡水又は海水からなる循環水eを、恒温水槽6より上方まで汲み上げることができるのである。
【0049】
そして、エアーリフトポンプ7の内部の淡水面又は海水面とその外部の恒温水槽6との水位差は、エアーリフトポンプ7の内部の淡水又は海水の平均密度τ
1を調整することでコントロールできることが分かる。つまり、気液混合流体導入通路8の排出口81から排出される気泡の量で調整できる。この気泡の排出量は前記したコンプレッサー3による大気の吸引力によってコントロールされる。
【0050】
また、気液混合流体導入通路8の排出口81から排出される気液混合流体の中の窒素及び空気cの気泡は、空気冷却水滴現出酸素溶解装置5によって、夏場と冬場で異なるが1〜10度C前後に冷やされている。これらがエアーリフトポンプ7内を上昇する間に、恒温水槽6の内部の18〜20度C前後の常温に維持されている淡水又は海水によって暖められる。暖められた窒素及び空気cの気泡は容積が膨張することで、軽くなって上昇力が高まり、又周囲の循環水eの密度を小さくしてさらに上昇圧を高めるように働く。
【0051】
これに加えて、エアーリフトポンプ7の内部を上昇する淡水又は海水からなる循環水eは、同様に上昇する窒素及び空気cの気泡によって曝気される。つまり気泡の表面に循環水eに含まれる微細な異物が付着することにより除去される。エアーリフトポンプ7は濾過機能も果たし、循環水eの濾過が高まる。
【0052】
エアーリフトポンプ7の上端側まで淡水又は海水からなる循環水eを押し上げる要因となった多量の窒素及び空気cの気泡は、エアーリフトポンプ7の上端に設けられて大気に開口する気泡除去部72から、大気に放出される。
【0053】
また、気泡除去部72の表面の淡水面又は海水面には、気泡による曝気作用によって、上昇する循環水eから除去された微細な異物が浮かんでいるので、適宜、掬い網などを使って除去される。
【0054】
さらに、エアーリフトポンプ7の上端側に設けられた大気に開口する気泡除去部72は、サイホンの原理によって、養殖水槽9内の淡水又は海水がエアーリフトポンプ7を通じて恒温水槽6内に逆流するのを防いでいる。
【0055】
エアーリフトポンプ7の上端側まで上昇し、気泡が除去された淡水又は海水からなる循環水eは、上端側の側面に設けられた排出通路73からエアーリフトポンプ7の外部に排出され、そこから養殖水槽9に再循環して供給されるが、循環する間に異物が除去濾過され、気泡が除去されているので、魚に気泡によるストレスを与えることがない。
【0056】
排出通路73から養殖水槽9に再循環して供給される淡水又は海水からなる循環水eは、恒温水槽6の内部を循環する間に、恒温水槽6内の淡水又は海水の温度は地中の温度、つまり年間を通じて例えば18〜20度C前後の常温に冷却されるため、専用の冷却装置を不要にすることができる。
【0057】
養殖水槽9に再循環して供給される淡水又は海水からなる循環水eは、エアーリフトポンプ7の内部を上昇する間に酸素を溶解した霧状のごく細かい多数の水滴dが均一に溶け込んでいて、溶存酸素量が豊富な循環水eが養殖水槽9に循環供給されるので、魚にストレスを与えることもない。
【0058】
しかも、循環水eに酸素を溶解させる際に、ポンプなどを使って酸素や空気を強制的に送り込むものでないので、気泡の発生もなく、気泡によるストレスを魚に与えることもない。さらに豊富な溶存酸素がバクテリアの繁殖を抑えるために養殖水槽9が汚れず、魚臭さが生じるのを防ぐこともできる。
【0059】
養殖水槽9では、新しい循環水eが供給される一方で、水槽内の古くなった淡水又は海水は水槽排出口91から水槽循環通路93に適宜排出され、途中の濾過器94で濾過された後に、恒温水槽6の上部側からその内部に循環排出される。上部側から恒温水槽6の内部に排出された循環水eは、恒温水槽6の底部に向かって沈降する間に冷却されて、その底部側からエアーリフトポンプ7の吸入口71から吸引されて、上昇中に酸素を溶解した霧状のごく細かい水滴dを通じて酸素が供給され、以下、前述したのと同様の循環を繰り返すことになる。
【0060】
なお、この発明は上記発明を実施するための形態に限定されるものではなく、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の改変をなし得ることは勿論である。