(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080829
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】エチレン炉輻射コイルのデコーキング法
(51)【国際特許分類】
C10G 9/16 20060101AFI20170206BHJP
C10G 9/36 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
C10G9/16
C10G9/36
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-222978(P2014-222978)
(22)【出願日】2014年10月31日
(62)【分割の表示】特願2010-507621(P2010-507621)の分割
【原出願日】2008年5月7日
(65)【公開番号】特開2015-83677(P2015-83677A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2014年12月1日
(31)【優先権主張番号】60/928,093
(32)【優先日】2007年5月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509307439
【氏名又は名称】ルムス テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】デ ハーン,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】スタンカト,バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ブライアン,ケイス
(72)【発明者】
【氏名】ナジー,チャールズ,エメリー
(72)【発明者】
【氏名】マッカシー,フランク
【審査官】
澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−79182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−201/10
C07C 4/00− 4/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
(d)コイル出口温度の第2の所定の変化により、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的な最小量を決定するステップと、
(e)コイル出口温度の第2の所定の変化により、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量を、実際の空気流量と比較して、コークス燃焼の速度を決定するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所定の平均コイル出口温度が約830℃であり、コイル出口温度の第1の所定の変化が約20℃であり、かつコイル出口温度の第2の所定の変化が約20℃であり、最終デコーキング温度が約870℃になる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(g)コークス燃焼速度を決定した後、さらにコイルへの空気流及びバーナー燃焼速度を調節してコークス燃焼速度を調節するステップ
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
輻射コイルの蒸気と空気の混合流の速度が約75〜175m/秒の間であるような速度で蒸気の流量が維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)の後に、
(i)コイルのコイル出口温度の所定の変化を実現するための実際の空気流量を、計算された理論最小値と比較して、剥離したコークスがコイル中に存在するかどうかを判定するステップと、
(ii)剥離したコークスが存在すると判定される場合、実際の空気流量が理論最小値の約200%〜400%の間に達するまで、空気流を調節してコイルのコイル出口温度を維持するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の所定の平均コイル出口温度が、約1時間の期間維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現し、輻射コイルを所定の期間、所定の平均コイル出口温度で維持するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)輻射コイルを所定の期間、ステップ(b)で実現したコイル出口温度で維持するステップと、
(d)デコーキング温度が、ステップ(a)で実現した輻射コイルの平均コイル出口温度よりも約20℃〜80℃高くなるように、蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、輻射コイルのコイル出口温度が、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してデコーキング温度となるまで、空気流量を調節するステップと
を含む、前記方法。
【請求項9】
ステップ(a)の最初の所定の平均コイル出口温度が約830℃であり、ステップ(b)の後のコイル出口温度が約850℃であり、デコーキング温度が約870℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(e)ステップ(d)の完了及びデコーキング温度の実現後、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量と、実際に必要な空気速度を伴うデコーキング温度を比較してコークス燃焼速度を決定するステップと、
(f)コークス燃焼速度を決定した後、さらにコイルへの空気流及びバーナー燃焼速度を調節してコークス燃焼速度を調節するステップと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
輻射コイルの蒸気と空気の混合流の速度が約75〜175m/秒の間であるような速度で蒸気流量が維持される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(d)の後に、
(i)コイルの所定のコイル出口温度を実現するための実際の空気流量を、計算された理論最小値と比較して、剥離したコークスがコイル中に存在するかどうかを判定するステップと、
(ii)剥離したコークスが存在すると判定される場合、空気流量が理論最小値の200%〜400%に達するまで、空気流を調節してコイルのコイル出口温度を維持するステップと
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)の所定の平均コイル温度が、約1時間の期間維持される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して約830℃の平均コイル出口温度を実現し、輻射コイルを約830℃の平均コイル温度で約1時間維持するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、約850℃の輻射コイルのコイル出口温度を実現するステップと、
(c)輻射コイルのコイル出口温度を約850℃で約1時間の期間維持するステップと、
(d)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、輻射コイルのコイル出口温度が約870℃に上昇するまでこの空気流量を調節するステップと、
(e)コイル出口温度を870℃まで上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量を決定し、この速度を実際の空気流量と比較して剥離したコークスが存在するかどうかを決定するステップと、
(f)この比較を用いて、空気速度とバーナー燃焼速度をさらに調節するステップと
を含む、前記方法。
【請求項15】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと
を含む、前記方法。
【請求項16】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(a’)輻射コイルを、ステップ(a)で実現される所定の平均コイル出口温度において、第1の所定の期間、維持するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(b’)輻射コイルを、ステップ(b)で実現されるコイル出口温度において、第2の所定の期間、維持するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと、
(c’)輻射コイルを、ステップ(c)で実現されるデコーキング温度において、第3の所定の期間、維持するステップと、
を含む、前記方法。
【請求項17】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して平均コイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、平均コイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと
を含む、前記方法。
【請求項18】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと、
コークスの燃焼により放出される熱を計算してデコーキング温度におけるコークス燃焼速度を決定するステップと、
コークス燃焼速度を決定した後、さらにコイルへの空気流及びバーナー燃焼速度を調節してコークス燃焼速度を調節するステップと
を含む、前記方法。
【請求項19】
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)蒸気の流れを輻射コイルに提供し、炉内に燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に10℃〜30℃の第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してステップ(a)の平均コイル出口温度よりも20℃〜80℃高いデコーキング温度とするステップと
剥離したコークスが輻射コイル中に存在するかどうかを決定するステップと
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下、2007年5月7日出願の米国特許仮出願第60/928,093号の利益を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、エチレンプラントの炉をデコーキングするための方法に関する。デコーキングプロセスの開始は、コイル出口温度(coil outlet temperature)の変化を用いて制御される。空気流量、蒸気流量及びコイル出口温度をデコーキングプロセスの間に制御して、管の損傷を防ぎ、デコーキング時間を最小化し、コークス除去を最大化する。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
エチレンは、主に他の物質の化学的な構成要素(building block)として使用するために、世界中で大量に製造されている。エチレンは、石油及び化学物質製造会社が、エチレンを精製装置の廃ガスから分離、又は、精製装置の副生成物の流れ及び天然ガスから得たエタンからエチレンを製造し始めた1940年代に大量の中間生成物として登場した。
【0004】
大部分のエチレンは、蒸気で炭化水素を熱分解することにより製造される。典型的なエチレン分解炉の配置を
図1に示す。炭化水素分解は、一般に、炉の輻射部(radiant section)の中の燃焼管状の反応器で起こる。対流部では、炭化水素流は、炉用バーナーからの煙道ガスとの熱交換によって予熱され、蒸気を用いてさらに加熱されて、供給原料にもよるが一般に500〜680℃の初期分解温度まで温度を上昇させ得る。
【0005】
予熱の後、供給流れは、本明細書において輻射コイル(radiant coil)と呼ばれる管内の炉の輻射部に入る。記載される特許請求される本方法を、任意の種類の輻射コイルを有するエチレン分解炉の中で行うことができることは当然理解されるはずである。輻射コイルにおいて、炭化水素流は、制御された滞留時間、温度及び圧力のもとで、典型的には、短時間用には約780〜895℃の範囲の温度に加熱される。供給流れの中の炭化水素は、エチレン及び他のオレフィンを含む、より小さな分子に分解される。分解された生成物は、次に、様々な分離ステップ又は化学処理ステップを用いて所望の生成物に分離される。
【0006】
分解プロセス中、様々な副生成物が形成される。生じる副生成物の中にはコークスがあり、コークスは炉の管の表面に堆積し得る。輻射コイルのコーキングは、熱移動及び分解プロセスの効率を低下させ、また、コイル圧力の低下を増大させる。そのために、定期的に、限界に達し、炉コイルのデコーキングが必要とされる。
【0007】
エチレン炉のデコーキングは、一般に20〜70日ごとに行われる。デコーキングプロセスは一般にモニタすることが困難なので、従前のデコーキング手順は、経験に基づいて歴史的に許容される値で空気及び蒸気の流れに傾斜をつけること(ramping)により実現される。これらの手順を用いて、コークス燃焼速度を制御することは困難である場合がある。また、より遅く、より保守的なデコーキング手順(slower more conservative decoke procedure)(空気速度のより遅い傾斜)を必要とする条件を検出することも困難である。このことにより、輻射コイルに損傷がもたらされるか、又は、望ましくないほど遅いデコーキングがもたらされ、炉の停止時間を増加させ生産を減少させることが起こる場合がある。
【0008】
例えば、輻射コイルへの損傷を回避するため、一部のより保守的なデコーキング手順は、速いコークス燃焼を回避するためにデコーキング手順の最初で空気及び蒸気の流量並びに流れの傾斜率(flow ramping rates)を低くする。これらのより保守的な手順は、結果として停止時間の増加及び生産の損失をもたらす場合がある。他方、空気及び蒸気の流量並びに流れの傾斜率が速すぎると、コイル腐食又は、輻射コイルを損傷し得る局在した高速燃焼の原因になり得る。
【0009】
最初に空気を炉に導入してコークスの燃焼を開始させる場合、コイルの寿命を低下させる原因となる輻射コイルの過熱が起こる場合がある。初期空気導入ステップの制御は、コークス燃焼速度を直接測定することができないために困難である。コイル損傷を回避するため、このステップは一般に非常にゆっくり実施されて、デコーキングプロセスの時間を必要以上に引き伸ばす場合がある。
【0010】
この問題に対応する一つの取り組みは、コークス燃焼プロセスにおいてCO
2形成をモニタリングするために流出液分析器の使用を伴う。これらの分析器は、一般に、比較的少量のCO
2が存在することに起因してデコーキングプロセスの開始時にはうまく作動しない。その上、CO
2分析は、それがコークスの燃焼速度というよりも実際には消費される空気の割合の測度であるので、解釈が困難であり得る。
【0011】
デコーキングの前のコークスの剥離(spalling)も懸念される。コークスは、デコーキングの直前のプロセスのアプセット(upset)に起因してコイルから剥離し、輻射コイルに集まる可能性がある。この物質は非常に容易に燃焼し、結果として、管の範囲が過熱され得る。コークス剥離は、典型的には、目視検査か又はコイル圧力の低下を測定することによる、現在用いられている方法で検知することは困難であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、デコーキングプロセスの時間を減らし、輻射コイルへの損傷を回避又は低減する制御の改良を可能にする、エチレン炉をデコーキングするための方法が望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[発明の要旨]
本発明は、コイル出口温度(COT)の変化を用いてデコーキングプロセスを制御するための方法である。炉内の輻射コイルへ向かう蒸気及び空気の流れは、COTを所定のレベルで維持するために制御される。蒸気及び空気の流れ並びにCOTは、所定のレベルで十分な時間維持されて、輻射管のコークスを燃焼させる。平均及び個々のコイルのCOT、ならびに蒸気及び空気の流量(flow rate)をモニタすることにより、より効率的に制御されたコークス燃焼を実現することができる。気流、蒸気流及びコイル温度は、輻射コイルからの流出ガス中のCO
2レベルが0.1容積%又は分析器もしくは他の分析方法の検出下限よりも低くなるまで制御される。
【0014】
本発明の方法の利点には、より迅速なデコーキングプロセス、及び、輻射コイルの損傷を回避又は低減するデコーキングプロセスの制御の改良がある。本方法の他の利点は、下に記載される好ましい実施形態の説明によって当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、典型的なエチレン分解プラントの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
本発明は、エチレン分解炉をデコーキングするための方法に関する。本方法は、一般に、空気及び蒸気を炉内の輻射コイルに導入すること、及び、炉内のコイルのコイル出口温度(COT)をモニタしながらコイルを加熱することを伴う。デコーキングプロセスを制御するために輻射コイルのCOTの変化を用いることは、プロセスの制御を向上させ、それによりデコーキング時間を減らし、炉内のコイルに対する損傷を減少又は排除する。以下のプロセスの説明はどのようなエチレン分解炉にも使用することができる。具体的な流れ及び温度のパラメータは、特定の炉のプラント運転員が、運転経験、運転期間、供給原料の特徴、プラント運転の厳密性、及び他の要素に基づいて決定する。エチレン炉をデコーキングするための典型的なパラメータは、下の実施例1及び2に記載される。
【0017】
一般に、本発明の方法は、蒸気をエチレン炉内の輻射コイルに供給すること、及び炉用バーナーを用いて輻射コイルを加熱して所定の平均COTを実現することを含む。次に、炉への燃料の流れ及び空気ダンパ位置を、入熱制御装置を用いて固定し、平均COTを所定の温度に維持する。
【0018】
バーナーの燃焼速度を一定に及び蒸気流量を一定に保持しながら、次にデコーキング空気流れが輻射コイルに供給される。デコーキング用空気は、各コイルのCOTを観察しながら各コイルに加えられる。デコーキング空気速度を調節して、1又はそれ以上のコイルのCOTの所定の上昇を実現する。蒸気の流れ及びバーナー燃焼は一定に保持されるので、空気の流れが開始したときに観察されるCOTの上昇は、コイルのコークス燃焼の開始の結果である。
【0019】
輻射コイルの温度は、所定の温度で一定期間、典型的には約1時間維持される。空気流量は、蒸気流量及びバーナーの燃焼速度を一定に維持すると同時に、コイルを所定のCOTで維持するため、必要に応じて調節される。
【0020】
輻射コイルへの空気流量を再び増大させ、空気流量を調節して、より高い所定のCOTを輻射コイルで実現する。輻射コイルのCOTは、ほぼ所定のCOTで所定の期間、維持される。
【0021】
次に、最も熱いコイルでより高い所定のCOTを実現するために必要とされる空気流量を、上記のように計算された理論的最小値と比較して、剥離したコークスが管の中に存在するかどうかを判定する。剥離したコークスが検知されれば、炉は空気流量を保持又は増加させることによって、現行のCOTで維持される。ひとたび空気流量が理論的最小値の約300%に達したら、その次のステップが開始される。下の実施例1に記載されるように、次に、蒸気及び空気の流量を用いて、コークス燃焼により放出される熱及び単位時間あたりのコークス燃焼量を計算する。次に、コークス燃焼速度を空気速度と比較して、実際の空気速度と、その速度でコークスを燃焼させるために必要な化学量論的最小値との間の関係を判定する。
【0022】
次に、COT制御装置と熱負荷制御装置(heat duty controller)をカスケードに設置する(翼列(cascade))。次に、炉のコイルの全てのポイントで150m/秒未満の速度を維持するために必要とされる蒸気流を調節する、所定の率で空気を傾斜させる。次に、空気流量及び蒸気流量を各々調節して所定の目標を実現し、デコーキングが終了するまでその空気流量及び蒸気流量を維持する。
【0023】
下に説明される好ましい実施形態の詳細な記載に記載されるように、プロセスの時間、速度及びCOTの上昇が、本発明の方法の例となる実施形態に対して提供される。当業者であれば、本明細書に記載される好ましい実施形態の記載及びもたらされる温度変化が、同様の炉及び運転プラントについての概算値を反映することを理解するであろう。実際の運転では、運転員が流量、温度又は時間を変化させて、様々な運転パラメータ、例えば、長期の運転期間、特別の供給原料特性、運転の厳密性、又は起こり得るプロセスのアプセットなどの影響を反映する必要があり得る。当業者は、本明細書に説明される教示を用いて、COTを用いて所望の結果を得る必要に応じて、本明細書に説明される具体的なパラメータの値を調節して、デコーキングプロセスの進行をモニタすることができる。
【0024】
好ましくは、本明細書に記載される方法は、モニタすること及び炉調整の数/頻度が最も重要である、空気導入の間の初期コークス燃焼を運転員が評価できるように、運転員により手動で行われる。さらに、本方法は、非常に急速なコークス燃焼を防ぎ、回避することを目的としているが、このプロセスの間に時々運転員がコイル(高温計)を視覚によって検査してホットスポットを発見することが一般に望ましい。しかし、本発明はこの点に限定されず、所望であれば、自動シーケンス制御装置を用いて本方法を実行してよい。
【0025】
本プロセスは、典型的には、COTに基づいて燃焼を制御する一部のステップの間に、COT制御装置とカスケードの燃料熱負荷制御装置の使用を要求することにも注意されたい。当分野で公知のように、他の制御方法を用いてCOTを制御し、及び/又は燃焼を制御することもできる。
【0026】
下に提供される詳細な説明は、典型的なエチレン炉で行われるプロセスを説明する。当業者は、様々なデザインを有するエチレン炉で実行される必要に応じて本明細書に記載される方法を改変することができることを理解するであろう。
【実施例1】
【0027】
ステップ1.炉にデコーキングの準備ができているならば、燃料熱負荷制御装置を平均COT制御装置に連続して配置する(cascade)。希釈蒸気流を、管の中の流れの速度が100〜125m/秒となるような速度で炉に供給する。平均COT設定点は、最終デコーキング温度よりも約40℃〜60℃下に傾斜をつけるべきである。燃料燃焼率は、COTを所望の設定点で維持するため、必要に応じてCOT制御装置により調節する。蒸気流及び平均COT温度は、好ましくは上記のように約1時間維持される。
【0028】
ステップ2.燃料燃焼制御は、平均COT制御装置への燃料熱負荷制御装置カスケードを中断することにより熱負荷制御(すなわち、QIC)の中に置かれる。燃焼熱負荷は一定に維持される。蒸気流量はステップ1で使用されるものと同じレベルに維持される。各コイルのCOTを観察しながらデコーキング用空気を加える。空気流量が流量計から測定値を得るのに低すぎる場合は、デコーキング空気弁の位置を用いて空気流量を制御する必要がある。したがって、各デコーキング手順の前に確実に空気制御弁を較正することが望ましい。デコーキング空気流量は、約30分以内にコイルのCOTを約10〜30℃、好ましくは約20℃上昇させるように調節するべきである。このステップの間に起こるCOTの増加は、コイルでのコークス燃焼の開始に起因する。コイルCOTが約20℃増加する前に、最大空気流量(下に記載されるように決定される化学量論的最小流量の600%)に達したら、すぐにステップ4に進む。
【0029】
目標COTがコイル内で実現された後、燃料燃焼及びデコーキング蒸気流量を一定に保つと同時に、コイルで約850℃のCOTを約1時間維持するために必要な空気流量を調節する(すなわち、維持する、減らす、又は増やす)。
【0030】
ステップ3.デコーキング用空気流量を、COTが約20℃増加するまで(必要であれば再び弁の位置によって)各コイルに等しく増加させる。空気流量は、約30分以内に目標COTが実現されるように一定の割合で増加させる(ramped up)べきである。このCOTは、最終デコーキングCOTであり、対流部又は輻射部で管の冶金(tube metallurgy)の限界に達しない限り、その手順の残りに関して維持される。COTを20℃上昇させるために必要な化学量論的最小空気流量を、次に、当分野で公知のように算出する。次に最小空気速度を実際の空気速度と比較する。空気速度が化学量論的最小値の300%未満であれば、空気が最小値の300%に達するまで炉は現行のCOTで維持される。1時間の期間内のいずれかの時点で最大空気流量が化学量論的最小値の約600%に達し、COTが低下し始めるならば、すぐにステップ4に進む。
【0031】
ステップ4.この時点で、デコーキングは、十分確立された公知の(know)方法、例えば、空気及び蒸気の速度に傾斜をつけて最終目標値に到達し、デコーキングが完了するまで保持することなどを用いて、完了することができる。傾斜をつけるステップは、時間間隔に基づくか、又は当業者に公知のような流出液のCO
2分析の結果に基づいて設定することができる。
【実施例2】
【0032】
特定の4本のコイルをもつ炉についての例となる詳細なデコーキング手順は、添付の「プロセスの説明」に記載され、表1に要約される。
【0033】
当然のことながら、上記の例となるプロセスが、決して本発明を制限することを意図するものではなく、本発明の方法の具体的な実施形態を記述するためだけに提供されることは理解されるはずである。本発明の具体的な実施形態を上に記載してきたが、当業者であれば、添付される特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、上に記載されるプロセスに多数の変形又は変化が行われ得ることを理解するであろう。
【表1】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)炉内に蒸気の流れ及び燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナーの燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してデコーキング温度とするステップと
を含む、前記方法。
[2]
(d)コイル出口温度の第2の所定の変化により、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的な最小量を決定するステップと、
(e)コイル出口温度の第2の所定の変化により、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量を、実際の空気流量と比較して、コークス燃焼の速度を決定するステップと
をさらに含む、上記[1]に記載の方法。
[3]
所定の平均コイル出口温度が約830℃であり、コイル出口温度の第1の所定の変化が約20℃であり、かつコイル出口温度の第2の所定の変化が約20℃であり、最終デコーキング温度が約870℃になる、上記[1]に記載の方法。
[4]
(g)コークス燃焼速度を決定した後、さらにコイルへの空気流及びバーナー燃焼速度を調節してコークス燃焼速度を調節するステップ
をさらに含む、上記[2]に記載の方法。
[5]
輻射コイルの蒸気と空気の混合流の速度が約75〜175m/秒の間であるような速度で蒸気の流量が維持される、上記[1]に記載の方法。
[6]
ステップ(c)の後に、
(i)コイルのコイル出口温度の所定の変化を実現するための実際の空気流量を、計算された理論最小値と比較して、剥離したコークスがコイル中に存在するかどうかを判定するステップと、
(ii)剥離したコークスが存在すると判定される場合、蒸気及び空気の傾斜(ramps)を開始する前に実際の空気流量が理論最小値の約200%〜400%の間に達するまで、空気流を調節してコイルのコイル出口温度を維持するステップと
をさらに含む、上記[1]に記載の方法。
[7]
ステップ(a)の所定の平均コイル出口温度が、約1時間の期間維持される、上記[1]に記載の方法。
[8]
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)炉内に蒸気の流れ及び燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して所定の平均コイル出口温度を実現し、輻射コイルを所定の期間、所定の平均コイル出口温度で維持するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して輻射コイルのコイル出口温度に第1の所定の変化を実現するステップと、
(c)輻射コイルを所定の期間、ステップ(b)で実現したコイル出口温度で維持するステップと、
(d)デコーキング温度が、ステップ(a)で実現した輻射コイルの平均コイル出口温度よりも約20℃〜80℃高くなるように、蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、輻射コイルのコイル出口温度が、輻射コイルのコイル出口温度に第2の所定の変化を実現してデコーキング温度となるまで、空気流量を調節するステップと
を含む、前記方法。
[9]
ステップ(a)の最初の所定の平均コイル出口温度が約830℃であり、ステップ(b)の後のコイル出口温度が約850℃であり、デコーキング温度が約870℃である、上記[8]に記載の方法。
[10]
(e)ステップ(d)の完了及びデコーキング温度の実現後、コイル出口温度を上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量と、実際に必要な空気速度を伴うデコーキング温度を比較してコークス燃焼速度を決定するステップと、
(f)コークス燃焼速度を決定した後、さらにコイルへの空気流及びバーナー燃焼速度を調節してコークス燃焼速度を調節するステップと
をさらに含む、上記[8]に記載の方法。
[11]
輻射コイルの蒸気と空気の混合流の速度が約75〜175m/秒の間であるような速度で蒸気流量が維持される、上記[8]に記載の方法。
[12]
ステップ(d)の後に、
(i)コイルの所定のコイル出口温度を実現するための実際の空気流量を、計算された理論最小値と比較して、剥離したコークスがコイル中に存在するかどうかを判定するステップと、
(ii)剥離したコークスが存在すると判定される場合、蒸気及び空気の傾斜を開始する前に空気流量が理論最小値の200%〜400%に達するまで、空気流を調節してコイルのコイル出口温度を維持するステップと
をさらに含む、上記[8]に記載の方法。
[13]
ステップ(a)の所定の平均コイル温度が、約1時間の期間維持される、上記[8]に記載の方法。
[14]
エチレン炉の輻射コイルをデコーキングするための方法であって、
(a)炉内に蒸気の流れ及び燃焼バーナーを提供して、輻射コイルを加熱して約830℃の平均コイル出口温度を実現し、輻射コイルを約830℃の平均コイル温度で約1時間維持するステップと、
(b)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、空気流を輻射コイルに供給し、この空気流量を調節して、約850℃の輻射コイルのコイル出口温度を実現するステップと、
(c)輻射コイルのコイル出口温度を約850℃で約1時間の期間維持するステップと、
(d)蒸気の流量及び炉のバーナー燃焼速度を一定に維持しながら、輻射コイルのコイル出口温度が約870℃に上昇するまでこの空気流量を調節するステップと、
(e)コイル出口温度を870℃まで上昇させるために必要な空気の化学量論的最小量を決定し、この速度を実際の空気流量と比較して剥離したコークスが存在するかどうかを決定するステップと、
(f)この比較を用いて、空気速度とバーナー燃焼速度をさらに調節するステップと
を含む、前記方法。