【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2010, Vol.107, No.45, pp.19326-19331
【文献】
J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci., 2007, Vol.62, No.12, pp.1337-1345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジアミノジフェニルスルホン(Diaminodiphenylsulfone)またはその薬学的に許容可能な塩を含む筋肉消耗性疾患の予防または治療用の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ジアミノジフェニルスルホンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む筋肉消耗性疾患の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明において用いられる用語「ジアミノジフェニルスルホン」とは、下記式1で表され、一般名であるダプソン(Dapsone)または別名DDSと呼ばれる化合物を意味する。前記ジアミノジフェニルスルホンは 白色・無臭の結晶性粉末で、水不溶性の化合物である。一般に、ジアミノジフェニルスルホンはハンセン病治療剤として1日100 mg服用し、この他に皮膚炎、リウマチ性関節炎またはマラリアの治療にも用いられている。
【0012】
前記DDSは、商業的に販売されるものを購入したり、直接合成または天然物などから抽出されたものが用いられるが、これに限定されない。好ましくは、本発明のDDSは、水不溶性の特性をさらに改善するために、水と混合した後、高圧滅菌処理して用いることができる。前記高圧滅菌処理は、一般に用いられる方法で行うことができ、好ましくは、121℃、151 psiで15〜20分間行うことができる。
【0013】
具体的な一実施例によれば、DDSを水と混合して高圧滅菌処理をした場合、DDSの水不溶性の特性にもかかわらず、必要な濃度に溶解することができ、マウスに投与時に適切な範囲の有効血中濃度を示すことを確認した。また、高圧滅菌処理によりDDSの活性が保存される点を抗菌活性試験を通じて確認した。
【0014】
本発明において用いられる用語「薬学的に許容可能な塩」とは、化合物が投与される有機体に深刻な刺激を誘発せず、化合物の生物学的活性と物性を損傷させない化合物の剤形を意味する。前記薬学的な塩は、薬学的に許容可能なアニオンを含有する無毒性の酸付加塩を形成する酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などのような無機酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸などのような有機カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのようなスルホン酸などにより形成された酸付加塩が含まれる。例えば、薬学的に許容可能なカルボン酸塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどにより形成された金属塩またはアルカリ土類金属塩、リシン、アルギニン、グアニジンなどのアミノ酸塩、ジシクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリンおよびトリエチルアミンなどのような有機塩などが含まれる。
【0015】
本発明において用いられる用語「筋肉消耗性疾患」とは、筋肉量の漸進的損失などの症状を伴う疾患または状態を意味する。前記筋肉消耗は、遺伝的素因;高血圧、耐糖能障害、糖尿病、肥満、異脂肪血症、アテローム性硬化症および心血管疾患のような年齢関連疾患 ; 癌、自己免疫疾患、感染性疾患、AIDS、慢性炎症疾患、関節炎、栄養失調、腎臓疾患、慢性閉鎖性肺疾患、肺気腫、クル病、慢性下部脊椎疼痛、末梢神経損傷、中枢神経損傷および化学的損傷などの慢性疾患; 臓器固定のような状態、骨折または外傷のような無力感のような状態、手術後の寝たきりでの療養 ; ならびに老化過程に伴う骨格筋肉量の減少および強度の進行性減少などの様々な原因に起因し得る。筋肉消耗に関連する疾患は、身体の弱化を誘発し、健康の悪化や身体の運動遂行能力を持たない健康状態をもたらすことがある 。
【0016】
好ましくは、本発明の組成物は筋肉減少症の予防または治療用として用いることができる。具体的に、本発明の筋肉減少症とは、老化による漸進的な骨格筋肉量の減少を意味するものであり、直接的な筋力の低下を誘発し、その結果、各種身体機能の減少および障害を引き起こす状態を意味する。
【0017】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、筋肉量を増加させたり、筋肉損失を防止することを特徴とする。
【0018】
具体的な実施例によれば、本発明のDDSをマウスに投与した場合、様々な筋肉タイプ((ヒラメ筋(SOL)、 長指伸筋(EDL)、 腓腹筋(GA)、 前脛骨筋(TA)の筋肉重量が増加することを確認し、SOLおよびEDLに対する攣縮刺激および強縮刺激に対する反応性が増加することを確認した。また、血中クレアチンキナーゼの数値減少および握力が増加することを確認した。これにより、DDSが筋肉量を増加させ、筋肉損失を防止することにより、効果的に筋肉機能を回復、改善することを確認することができた。
【0019】
本発明において用いられる用語「予防」とは、組成物の投与により筋肉消耗性疾患を抑制したり発病を遅らせる全ての行為を意味する。
【0020】
本発明において用いられる用語「治療」とは、組成物の投与により筋肉消耗性疾患による症状が好転したり有益に変更される全ての行為を意味する。
【0021】
本発明の医薬組成物は、投与のために、前記DDSまたはその薬学的に許容可能な塩以外に薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を含んでもよい。前記担体、賦形剤および希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油を挙げることができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、それぞれ常法により散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いることができる。詳しくは、剤形化する場合、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤してもよい。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、これに限定されるものではない。このような固形製剤は、少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤してもよい。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤を用いてもよい。経口のための液状物、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加して調剤してもよい。非経口投与のための製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤および坐剤を含む。非水性溶剤および懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、エチルオレエートのような注射可能なエステルなどを用いてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを用いてもよい。
【0023】
本発明の組成物は、目的とする方法により経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および時間に応じて異なるが、当業者により適宜選択されうる。
【0024】
また、本発明は、ジアミノジフェニルスルホンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む筋肉消耗性疾患予防または改善用の健康機能食品組成物を提供する。即ち、本発明の組成物は、筋肉消耗性疾患を予防または改善するために筋肉消耗性疾患の発病段階以前若しくは発病後に、疾患治療のための薬剤と同時にまたは別個に用いることができる。
【0025】
好ましくは、本発明の組成物は、筋肉減少症の予防または改善用として用いてもよい。
【0026】
好ましくは、前記健康機能食品用の組成物は、筋肉量を増加させたり、筋肉損失を防止することを特徴とする。
【0027】
好ましくは、前記DDSは、水不溶性の特性をさらに改善するために、水と混合した後、高圧滅菌処理して用いることができる。前記高圧滅菌処理は、一般に用いられる方法で行うことができ、好ましくは、121℃、151 psiで15〜20分間行うことができる。
【0028】
本発明において用いられる用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させる全ての行為を意味する。
【0029】
また、本発明の健康機能食品組成物を食品添加物として用いる場合、前記組成物をそのまま添加したり、他の食品または食品成分とともに用いてもよく、常法により適宜用いてもよい。一般に、食品または飲料の製造時に本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかし、健康および衛生を目的としたり、または健康の調節を目的として長期間摂取する場合には、前記範囲以下であってもよく、安全性の面で何ら問題がないため、有効成分は前記の範囲以上の量で用いてもよい。
【0030】
前記食品の種類は特に限定されない。前記物質を添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲物、茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康食品をいずれも含む。
【0031】
本発明の健康飲料組成物は、通常の飲料のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。前述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、およびデキストリン、シクロデキストリンのような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを用いることができる。前記天然炭水化物の比率は、当業者の選択により適宜決定されうる。
【0032】
前記以外に、本発明の組成物は、各種栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有することができる。その他に本発明の組成物は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料および野菜飲料の製造のための果肉を含有することができる。このような成分は、独立してまたは組み合わせて用いることができる。このような添加剤の比率も当業者により適宜選択されうる。
【0033】
また、本発明は、前記ジアミノジフェニルスルホンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む組成物を、薬学的に有効な量で筋肉消耗性疾患の発病した固体または発病可能性がある個体に投与するステップを含む筋肉消耗性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0034】
好ましくは、前記方法は、筋肉量を増加させたり、筋肉損失を防止することによって達成される。
【0035】
本発明において用いられる用語「個体」とは、筋肉消耗性疾患が既に発病しているか、または発病し得るヒトを含むあらゆる動物を意味し、本発明の組成物を個体に投与することにより、前記疾患を効果的に予防および治療することができる。
【0036】
本発明の組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において用いられる用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは個体の種類および重篤度、年齢、性別、筋肉消耗性疾患の種類、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素およびその他の医学分野においてよく知られている要素により決定されうる。本発明の組成物は、個別治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与が可能である、従来の治療剤とは同時にまたは順次に投与が可能である。また、単一もしくは多重投与が可能である。前記要素を全て考慮し、副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定されうる。
【0037】
〔発明を実施するための形態〕
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
〔実施例〕
実施例1:実験動物およびDDSの準備
1-1.実験動物
5、15、20および27月齢のC57BL/6J系雌雄マウスをそれぞれ12匹ずつ韓国生命工学研究院から購入して用いた。マウスは、食餌は自由摂食にして飼育し、温度を21±1℃、湿度は60%に維持した状態で、1週間の安定化期間を与えられた。全ての動物研究は、ソウル大学動物研究倫理委員会の承認の下で行われた。
【0039】
1-2. DDSの投与およびHPLCによるDDS分析
DDSの薬物の特質上、水に溶けにくい特性があるため、水と混合して高圧滅菌させることにより、ヒトのハンセン病の治療推奨濃度である2 mg/kgで溶かし、これを雌、雄マウスにそれぞれ投与した。投与したDDSが成功裏にマウスの血中に吸収されたかを調べるために、血液をHPLCで分析した。
【0040】
血液サンプルの準備のために、0.25 mLのEDTAプラズマに37.5μlのグルタシオン溶液(5 mg/mL、水:メタノール=1:10)を加えた。その後、1 mg/Mlのジアゾキシド溶液5.0μlを加え、0.5 mLのアセトンを入れた後、2700 gで2分間遠心分離した。蒸発過程を経て溶液を蒸発させ、60μlのHPLC溶離液とアセトン(18:5、 v/v)で溶かしてHPLCに注入するサンプルを準備した。HPLCを用いたDDSの測定は、Waters 515 HPLC ポンプ(Waters 515 HPLC pump)、Waters 717 プラスオートサンプラー(Waters 717 plus auto sampler)、および Waters 996 フォトダイオードアレイ検出器(Waters 996 Photo Diode Array Detector)を用いて、その結果は、Millenium32(version 3.05)chromatographic data system(Waters、Etten-Leur、 The Netherlands)を用いて分析した。カラムは、C18(Zwijndrecht、The Netherlands)を用いた。DDSを分離分析するために、水:アセトニトリル:氷酢酸:トリエルチアミン(80:20:1.0:0.05、 by volume)の溶離液を用い、295nmの吸光度で測定し、その結果を
図1に示した。
【0041】
その結果、
図1に示されるように、DDSがマウスの血液に2〜3 μMの濃度で吸収されたことを確認した。
【0042】
1-3.高圧滅菌処理したDDSの活性の確認
高圧滅菌法による薬物処理方法がDDSの薬物活性抑制に影響があるかを調べるために、抗生物質として知られているDDSのバクテリア成長阻害能力を測定した。
【0043】
バクテリア培地にDDSを入れて高圧滅菌処理した後、対照群と比較した結果、
図2のようにバクテリア増殖阻害活性が維持されることを確認した。
【0044】
また、前記高圧滅菌したDDS投与時に、水分摂取の程度が増加するかを調べるために、DDSをヒトの推奨濃度である2 mg/kgになるように水に混ぜて高圧滅菌処理をした後、これを5月齢、15月齢、20月齢、27月齢の雌、雄マウスのそれぞれ12匹に対して4日に1回ずつ3ケ月間摂食させた。対照群として、クレンブテロール(Clenbuterol)を摂食させること以外は同様の条件にしてマウスの水分摂取量を測定し、その結果を
図3に示した。
【0045】
その結果、
図3で示されるように、DDSを投与した場合には、雌、雄マウスいずれも水分摂取量において対照群と比較して有意な差を示さなかった。一方、クレンブテロールの場合、雄マウスの水分摂取量が増加したことが分かった。
【0046】
実施例2:血液内クレアチンキナーゼ(Creatin Kinase、 CK)の量の測定
筋肉の収縮、損傷、そして老化による筋肉減少症において増加することが知られているクレアチンキナーゼの量が、DDSの服用により調節されるかを確認するために、マウスの血液からクレアチンキナーゼの量を測定した。
【0047】
DDSをヒトの推奨濃度である2 mg/kgになるように水に混ぜて高圧滅菌処理をした後、これを5月齢、15月齢、20月齢、27月齢の雌、雄マウスのそれぞれ12匹に4日に1回ずつ3ケ月間摂食させた。クレアチンキナーゼの量を測定するマウスの血液は溶血していないものを用い、測定は、EnzyChromTM Creatine Kinase Assay Kit(ECPK-100、 BioAssay Systems)を用い、測定法は、製品の説明書を参考にした。クレアチンキナーゼの測定は、下記式で計算し、その結果を
図4に示した。陰性対照群として処理していないマウスの血液を用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウスの血液を用いた。
【0049】
図4で示されるように、陰性対照群で18月齢のマウスから血中クレアチンキナーゼの量が有意に増加することを確認することができた。これにより、DDSを3ケ月間服用したマウスの場合、18月齢以上で、増加したクレアチンキナーゼの数値を効果的に減少させることを確認した。特に、雌マウスの場合には、陽性対照群であるクレンブテロールさえ陰性対照群と同一レベルのまたは増加したレベルのクレアチンキナーゼ数値を示している一方、DDSを投与した場合、血中クレアチンキナーゼの数値を有意に減少させることが分かった。これは、老化によるクレアチンキナーゼの増加をDDSが効果的に抑制することにより、筋肉能力の回復に役立つことを意味する。
【0050】
実施例3:握力(Grip strength)の測定
DDSによる筋肉機能に対する実質的な効果を調べるために握力を測定した。DDSをヒトの推奨濃度である2 mg/kgになるように水に混ぜて高圧滅菌処理をした後、これを5月齢、15月齢、20月齢、27月齢の雌、雄マウスのそれぞれ12匹に4日に1回ずつ3ケ月間摂食させた。マウスの握力を測定するために、Bioseb社のgrip strength meterを用いた。マウスの握力は、前足が格子板を握るようにして尾を徐々に水平に引っ張って格子から離れる時期の値を用い、各マウス当り5回の最大値を測定して平均を求め、その結果を
図5に示した。陰性対照群として何も処理していないマウスを用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウスを用いた。
【0051】
図5に示されるように、陰性対照群である一般の雌マウスの場合、老化に伴い握力が顕著に減少する傾向を示した。18月齢以下の雌マウスでは、DDSの効果が明確ではなかったが、23月齢以上の老化した雌マウスの場合、DDSを服用したマウスの握力が有意に回復した。一方、雄の場合、老化による握力の減少傾向は雌に比べて大きくなかったが、DDSの投与により握力が増加したことを確認することができた。
【0052】
実施例4:マウスの筋肉分離と筋肉重量変化の測定
DDSをヒトの推奨濃度である2 mg/kgになるように水に混ぜて高圧滅菌処理をした後、これを5月齢、15月齢、20月齢、27月齢の雌、雄マウスのそれぞれ12匹に4日に1回ずつ3ケ月間摂食させた。マウスから筋肉を分離するために、エントバル(ペントバルビタールナトリウム、100 mg/kg体重)を注射して麻酔状態にした。マウスの後足からヒラメ筋 (SOL)と 長指伸筋(EDL)をそれぞれ1個ずつ筋肉が損傷されないように注意して筋肉を分離した後、それぞれ重量を測定し、その結果を
図6に示した。陰性対照群としてDDSを処理していないマウス後足の筋肉を用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウス後足の筋肉を用いた。
【0053】
図6の陰性対照群のグラフでマウスの年齢増加に伴ってSOLとEDLの量が有意に減少することを確認することができた。DDSを3ケ月間服用したマウスは、老化により減少する筋肉量の減少が抑制されることが観察された。特に、老化したマウス、即ち、23月齢および30月齢のマウスでは、雌、雄マウスがいずれもSOLとEDLの重量が回復したことを確認することができた。
【0054】
実施例5:マウスの筋肉分離と筋肉重量変化の測定
DDSをヒトの推奨濃度である2 mg/kgになるように水に混ぜて高圧滅菌処理をした後、これを5月齢、15月齢、20月齢、27月齢の雌、雄マウスのそれぞれ12匹に4日に1回ずつ3ケ月間摂食させた。マウスから筋肉を分離するために、エントバル(ペントバルビタールナトリウム、100 mg/kg 体重)を注射して麻酔状態にした。マウスの後足から腓腹筋(GA)と前脛骨筋(TA) をそれぞれ1個ずつ筋肉が損傷しないように注意して筋肉を分離した後、それぞれ重量を測定し、その結果を
図7に示した。陰性対照群としてDDSを処理していないマウス後足の筋肉を用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウス後足の筋肉を用いた。
【0055】
図7の陰性対照群のグラフからマウスの年齢増加に伴って腓腹筋(GA)と前脛骨筋(TA)の量が有意に減少することを確認することができた。一方、DDSを3ケ月間服用したマウスは、老化により減少する筋肉量の減少が抑制されることが観察された。特に、老化したマウス、即ち、23月齢および30月齢のマウスでは、雌、雄マウスがいずれも腓腹筋(GA)と前脛骨筋(TA)の重量が回復したことを確認することができた。
【0056】
実施例6:攣縮アイソメトリック・フォース(isometric force)の測定
筋肉に電場刺激を与えた時の攣縮性に対する効果があるかを調べるために、同時に4つの筋肉組織刺激システムを構築してアイソメトリック・フォースを測定した。
【0057】
実施例4と同様の方法でマウスの筋肉(SOLおよびEDL)を分離した後、酸素処理されたリンガー液(25℃、118 mM NaCl、4.75 mM KCl、2.5 mM CaCl
2、1.18 mM MgSO4、 1.18 mM NaH
2PO4、24.8 mM NaHCO
3、10 mM グルコース、0.02 g/L塩化ツボラクリン、 pH 7.4)に筋肉組織をセッティングし、安定化させた。一方の靭帯はリンガー液で満たし、酸素供給を円滑にした組織浴槽(bath)に固定し、他方は、FT03 等張力変換器 (FT03 isometric force transducer;Grass instruments、West Warwick、USA)に固定した。筋肉の攣縮と強縮は、電場刺激の強度により調節した。筋肉は、リンガー液で10分間安定化させた後、筋収縮機能実験を行った。筋肉の機能を最大化するために、攣縮刺激である0.2Hz(100V)で最大反応を示す筋肉の長さを測定、Loと指定した。その時の筋収縮力値、mNを攣縮として用い、その結果を
図8に示した。陰性対照群としてDDSを処理していないマウス後足の筋肉を用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウス後足の筋肉を用いた。
【0058】
その結果、
図8で老化により攣縮刺激に対する筋肉の反応性が減少することを確認することができ、特に、筋肉減少症が確実に生じる30月齢で、より有意に減少した。一方、DDSを摂食させたマウスでは、減少した筋肉攣縮力が効果的に回復することを観察することができた。
【0059】
実施例7:強縮アイソメトリック・フォース(isometric force)の測定
筋肉に電場刺激を与えた時の強縮性に関する効果があるかを調べるために、同時に4つの筋肉組織刺激システムを構築してアイソメトリック・フォースを測定した。
【0060】
前記筋肉収縮刺激システムでヒラメ筋(SOL)は150Hz、100V、800msの条件で最高点を形成し、即ち、筋肉収縮グラフの安定化傾向を示した。一方、長指伸筋(EDL)は、100Hz、100V、400msの条件でグラフ安定化を示した。マウスは、実施例6で用いたマウスを用い、攣縮刺激後、十分に休息時間を与えてから強縮刺激を与えた。最高値を示す安定したグラフが生成される時期の刺激として、ヒラメ筋(SOL)は150Hz(100V、刺激時間は800ms)、EDLは100Hz(100V、刺激時間は400ms)を用い、この値を各筋肉の最大等尺性筋力(peak Isometric force)といい、mN値で表して
図9に示した。陰性対照群としてDDSを処理していないマウス後足の筋肉を用い、陽性対照群としてクレンブテロールを摂食させたマウス後足の筋肉を用いた。
【0061】
その結果、
図9で老化により攣縮刺激と同様に強縮刺激に対しても筋肉の反応性が減少することが確認できた。特に、筋肉減少症が確実に生じる30月齢で、より有意に筋肉の反応性が減少した。一方、DDSを摂食させたマウスでは、減少した筋肉強縮力が効果的に回復することを観察することができた。