(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.複合体
以下、本発明の一実施の形態について説明する。本実施の形態に係る複合体は、塗装金属素形材と、化学繊維を含み、塗装金属素形材の表面に接合されている布とを有する。以下、各構成要素について説明する。
【0012】
[塗装金属素形材]
塗装金属素形材は、金属素形材と、金属素形材の表面に形成された塗膜とを有する。また、塗装金属素形材は、金属素形材と塗膜との間に化成処理皮膜が形成されていてもよい。以下、塗装金属素形材の各要素について説明する。
【0013】
(1)金属素形材
塗装基材となる金属素形材の種類は、特に限定されない。金属素形材の例には、冷延鋼板や亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などの金属板;金属板のプレス加工品;アルミダイカストや亜鉛ダイカストなどの鋳造や、鍛造、切削加工、粉末冶金などにより成形された各種金属部材などが含まれる。金属素形材は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
【0014】
(2)化成処理皮膜
前述のように、塗装金属素形材は、金属素形材と塗膜との間に化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理皮膜は、金属素形材の表面に形成され、金属素形材に対する塗膜の密着性および金属素形材の耐食性を向上させることができる。化成処理皮膜は、金属素形材の表面のうち、少なくとも後述する布と接合する領域(接合面)に形成されていればよいが、通常は金属素形材の表面全体に形成されている。
【0015】
化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理によって形成された化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性および耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、0.1〜5g/m
2となるように付着量を調整すればよい。
【0016】
(3)塗膜
塗膜は、ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を含み、金属素形材に対する布との密着性を向上させる。後述するように、塗膜は、任意成分としてポリカーボネートユニット非含有樹脂をさらに含んでいてもよい。塗膜は、化成処理皮膜と同様に、金属素形材表面のうちの接合面に形成されていればよいが、通常は金属素形材(または化成処理皮膜)の表面全体に形成されている。
【0017】
ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂は、分子鎖中にポリカーボネートユニットを有する。「ポリカーボネートユニット」とは、ポリウレタン樹脂の分子鎖中において下記に示す構造をいう。ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂と後述の布に含まれる化学繊維とは、類似した骨格(ベンゼン環など)および官能基をそれぞれ有する。よって、塗装金属素形材に対して布を熱圧着するときに、ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂が、布に含まれる化学繊維と相溶し、強固に結合する。したがって、塗膜にポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を含ませておくことで、塗膜に対する布の密着性を向上させることができる。
【0019】
ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂は、例えば以下の工程により調製することができる。有機ポリイソシアネートと、ポリカーボネートポリオールと、三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールとを反応させてウレタンプレポリマーを生成する。なお、本発明の目的を損なわない範囲内において、ポリカーボネートポリオール化合物以外のポリオール、例えばポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールなどを併用することは可能である。
【0020】
また、製造したウレタンプレポリマーの三級アミノ基を、酸で中和するかまたは四級化剤で四級化した後、水で鎖伸長することで、カチオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を生成することができる。
【0021】
また、製造したウレタンプレポリマーのカルボキシル基を、トリエチルアミンやトリメチルアミン、ジエタノールモノメチルアミン、ジエチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリウムなどの塩基性化合物で中和してカルボン酸の塩類に変換することで、アニオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を生成することができる。
【0022】
ポリカーボネートポリオールは、カーボネート化合物と、ジオール化合物とを反応させることで得られる。カーボネート化合物の例には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、およびプロピレンカーボネートが含まれる。ジオール化合物の例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、および1,6−ヘキサンジオールが含まれる。なお、ポリカーボネートポリオールは、イソシアネート化合物によって鎖延長されたものでもよい。
【0023】
有機ポリイソシアネートの種類は、特に限定されない。有機ポリイソシアネートの例には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、および4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが含まれる。これらの有機ポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
塗膜は、任意成分としてポリカーボネートユニット非含有樹脂をさらに含んでいてもよい。ポリカーボネートユニット非含有樹脂は、金属素形材に対する塗膜の密着性をさらに向上させる。ポリカーボネートユニット非含有樹脂の種類は、分子鎖中にポリカーボネートユニットを含んでいないものであれば特に限定されないが、金属素形材に対する塗膜密着性を向上させる観点からは、極性基を含むものが好ましい。ポリカーボネートユニット非含有樹脂の種類の例には、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネートユニット非含有ポリウレタン系樹脂が含まれる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
エポキシ系樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびビスフェノールAD型エポキシ樹脂が含まれる。オレフィン系樹脂の例には、ポリエチレン樹脂、およびポリプロピレン樹脂が含まれる。フェノール系樹脂の例には、ノボラック型樹脂、およびレゾール型樹脂が含まれる。
【0026】
ポリカーボネートユニット非含有ポリウレタン系樹脂は、ジオールとジイソシアネートとが共重合することで得られる。ジオールの例には、ポリカーボネートジオール以外であって、ビスフェノールA、1,6−ヘキサンジオール、および1,5−ペンタンジオールが含まれる。イソシアネートの例には、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環族ジイソシアネートが含まれる。
【0027】
樹脂合計質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合は、15〜80質量%である。ポリカーボネートユニットの質量の割合が15質量%未満である場合、塗膜に対する布の密着性が十分に得られないおそれがある。一方、ポリカーボネートユニットの質量の割合が80質量%超である場合、金属素形材に対する塗膜の密着性が十分に得られないおそれがある。樹脂合計質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合は、塗膜をクロロホルムに溶解させたサンプルを用いて、核磁気共鳴分光法(NMR分析)により求めることができる。
【0028】
塗膜は、さらに、Ti、Zr、V、MoおよびWからなる群から選択される金属(バルブメタル)の酸化物、水酸化物またはフッ化物、あるいはこれらの組み合わせを含むことが好ましい。これらの金属化合物を化成処理皮膜中に分散させることで、金属素形材の耐食性をより向上させることができる。特に、これらの金属のフッ化物は、自己修復作用により、皮膜欠陥部における腐食を抑制することも期待できる。
【0029】
塗膜は、さらに、可溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩、または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩をさらに含んでいてもよい。可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩は、上記金属のフッ化物の自己修復作用を補完することで、金属素形材の耐食性をより向上させる。また、難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩は、塗膜中に分散して皮膜強度を向上させる。たとえば、可溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩、または難溶性の金属リン酸塩もしくは複合リン酸塩は、AlやTi、Zr、Hf、Znなどの塩である。
【0030】
塗膜の膜厚は、0.2μm以上であれば特に限定されない。塗膜の膜厚が0.2μm未満である場合、金属素形材に対する布の密着性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、塗膜の膜厚の上限値は、特に限定されないが、20μm程度である。塗膜の膜厚を20μm超としても、それ以上の密着性の向上を期待することができない。
【0031】
塗膜には、前述の樹脂の他に、エッチング剤や無機化合物、潤滑剤、着色顔料、染料などがさらに配合されていてもよい。
【0032】
エッチング剤は、金属素形材の表面を活性化することで、金属素形材に対する塗膜の密着性を向上させる。エッチング剤の例には、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、ジルコンフッ化水素、およびチタンフッ化水素が含まれる。
【0033】
無機化合物は、塗膜を緻密化して耐水性を向上させる。無機化合物の例には、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機系酸化物ゾル;リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マンガン、リン酸マグネシウムなどのリン酸塩などが含まれる。
【0034】
潤滑剤の例には、フッ素系やポリエチレン系、スチレン系などの有機潤滑剤、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤などが含まれる。
【0035】
さらに、無機顔料や有機顔料、有機染料などを配合することで、塗膜に所定の色調を付与してもよい。
【0036】
[布]
布は、化学繊維を含み、塗装金属素形材の塗膜の表面に接合されている。
【0037】
布の種類、および布に含まれる化学繊維の種類は、特に限定されず、所望の意匠に応じて適宜選択されうる。布の種類の例には、織物、編み物、レース、フェルト、不織布、およびこれらの組み合わせが含まれる。布に含まれる化学繊維の例には、ポリウレタン系繊維、ナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、およびこれらの組み合わせが含まれる。化学繊維は、ポリカーボネートユニット(具体的には、ベンゼン環)を有することが好ましく、例えば、ポリウレタン系繊維またはポリエステル系繊維であることが特に好ましい。
【0038】
また、布は、綿や麻、絹、紙などの天然繊維や、ガラス繊維や炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維などの無機繊維をさらに含んでいてもよい。
【0039】
2.複合体の製造方法
次いで、複合体の製造方法について説明する。本実施の形態に係る複合体の製造方法は、1)塗装金属素形材を準備する第1工程と、2)塗装金属素形材を加熱する第2工程と、3)加熱されている塗装金属素形材の表面に化学繊維を含む布を圧着接合する第3工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0040】
1)第1工程
第1工程では、塗装金属素形材を準備する。たとえば、以下の手順により塗装金属素形材を製造する。塗装金属素形材は、プレス加工などにより所望の形状に加工されていてもよい。
【0041】
まず、塗装基材となる金属素形材を準備する。化成処理皮膜を形成する場合は、塗膜を形成する前に化成処理を行う。化成処理皮膜を形成しない場合は、このまま塗膜を形成する。
【0042】
金属素形材の表面に化成処理皮膜を形成する場合、化成処理皮膜は、金属素形材の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成することができる。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。化成処理液の塗布方法の例には、ロールコート法、カーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、および浸漬引き上げ法が含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、化成処理液を塗布した金属素形材を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、到達板温が80〜250℃の範囲内となるように加熱することで、金属素形材の表面に均一な化成処理皮膜を形成することができる。
【0043】
塗膜は、金属素形材(または化成処理皮膜)の表面に、前述のポリカーボネートユニット含有ポリウレタン樹脂を含む塗料を塗布し、焼き付けることで形成することができる。塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。塗料の塗布方法の例には、ロールコート法、カーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、および浸漬引き上げ法が含まれる。塗料の焼き付け条件は、塗料の組成などに応じて適宜設定しうる。たとえば、塗料を塗布した金属素形材を乾燥オーブン内に投入し、到達板温が110〜200℃の範囲内となるように熱風乾燥機で乾燥させることで、金属素形材(または化成処理皮膜)の表面に均一な塗膜を形成することができる。
【0044】
2)第2工程
第2工程では、第1工程で準備した塗装金属素形材を布との熱圧着に好適な温度に加熱する。塗装金属素形材の加熱温度は、塗装金属素形材の表面に布を熱圧着させることができれば特に限定されず、塗膜の組成や布に含まれる化学繊維の種類などに応じて適宜設定されうる。加熱方法の例は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択されうる。加熱方法の例には、ヒーター加熱、電磁誘導加熱、超音波加熱、および赤外線加熱が含まれる。たとえば、塗装金属素形材は、ホットプレート上で加熱される。
【0045】
3)第3工程
第3工程では、第2工程で加熱されている塗装金属素形材の塗膜の表面に化学繊維を含む布を圧着接合する。具体的には、加熱されている塗装金属素形材の表面に化学繊維を含む布を接触させ、圧力を加えて密着させる。加圧の強さおよび加圧時間は、塗装金属素形材の表面に布を熱圧着させることができれば特に限定されず、塗膜の組成や布に含まれる化学繊維の種類、加熱温度などに応じて適宜設定されうる。加圧方法の例には、人力による加圧、バイスを用いた機械式加圧、各種ロールによる加圧、および空気や窒素ガスなどの吹付による加圧が含まれる。なお、布を塗装金属素形材の表面に密着させることができれば、布の自重を利用してもよい。
【0046】
以上の手順により、塗装金属素形材の表面に化学繊維を含む布を優れた密着性で接合することができる。これにより、本実施の形態に係る複合体を製造することができる。
【0047】
以上のとおり、本実施の形態に係る塗装金属素形材の表面に化学繊維を含む布を熱圧着により接合させて、本実施の形態に係る複合体を製造することができる。本実施の形態に係る塗装金属素形材には、金属素形材および布の両方に対して密着性に優れる所定の塗膜が形成されている。このため、本実施の形態に係る複合体は、金属素形材と布との密着性に優れている。
【0048】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0049】
本実施例では、塗装金属素形材と化学繊維を含む布とを有する複合体を作製し、塗装金属素形材と布との密着性について調べた。
【0050】
1.塗装金属素形材の作製
(1)金属素形材
塗装金属素形材の塗装基材として、板状のステンレス鋼板および溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼板を準備した。
【0051】
I.ステンレス鋼板
ステンレス鋼板として、厚み0.8mm、No.2D仕上げのSUS430を準備した。
【0052】
II.溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼板
溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼板として、片面あたりのめっき付着量が45g/m
2の溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mg合金めっき鋼板を準備した。基材鋼板は、厚みが0.8mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を使用した。
【0053】
(2)塗料の調製
樹脂合計質量に対するポリカーボネート(PC)ユニットの質量の割合が表1に示される所定の割合となるように、ポリカーボネートユニット含有樹脂、ポリカーボネートユニット非含有樹脂および各種添加剤を水に添加して、不揮発成分が20%の塗料を調製した(表1参照)。なお、複数種のポリカーボネートユニット非含有樹脂を用いた場合、各ポリカーボネートユニット非含有樹脂が等量となるように配合した。また、塗料には、エッチング剤としてフッ化アンモニウム(森田化学株式会社)を0.5質量%、無機系化合物としてコロダイルシリカ(日産化学工業株式会社)を2質量%、およびリン酸(キシダ化学株式会社)を0.5質量%それぞれ配合した。
【0054】
A.ポリカーボネートユニット含有樹脂
表1に示される各ポリカーボネートユニット含有樹脂について、ポリカーボネートユニットを50質量%含有するポリウレタン樹脂としては、SF−420(第一工業製薬株式会社)を使用した。ポリカーボネートユニットを70質量%含有するポリウレタン樹脂としては、SF−470(第一工業製薬株式会社)を使用した。ポリカーボネートユニットを80質量%含有するポリウレタン樹脂としては、HUX−386(株式会社ADEKA)を使用した。ポリカーボネートユニットを90質量%含有するポリウレタン樹脂としては、樹脂メーカーが調製した試験品を使用した。
【0055】
また、以下の方法により、ポリカーボネートユニットが100質量%の樹脂組成物を調製した。板厚2.0mmのポリカーボネート板(タキロン株式会社)を約5mm四方に細断して、ポリカーボネート片を得た。塩化メチレン200gに細断したポリカーボネート片30gを加え、液温が40℃となるように加熱しながら3時間攪拌して、ポリカーボネート片を塩化メチレンに溶解させた。この工程により、ポリカーボネートユニットが100質量%の樹脂組成物を調製した。
【0056】
B.ポリカーボネートユニット非含有樹脂
表1に示される各ポリカーボネートユニット非含有樹脂について、ポリカーボネートユニット非含有ポリウレタン樹脂としては、HUX−232(株式会社ADEKA)またはSF−170(第一工業製薬株式会社)を使用した。エポキシ系樹脂としては、アデカレンジEM−0461N(株式会社ADEKA)またはスーパーエステルE650(荒川化学工業株式会社)を使用した。ポリオレフィン系樹脂としては、ハードレンNZ−1005(東洋紡株式会社)を使用した。
【0057】
(3)塗膜の形成
塗装基材を液温60℃のアルカリ脱脂水溶液(pH=12)に1分間浸漬して、表面を脱脂した。次いで、脱脂した塗装基材の表面に、塗料をロールコータ−で塗布し、到達板温が150℃となるように、熱風乾燥機で乾燥させて、表1に示す膜厚の塗膜を形成した。
【0058】
【表1】
・PCユニット含有ポリウレタン樹脂
A:PCユニット50質量%含有ポリウレタン樹脂(SF−420)
B:PCユニット70質量%含有ポリウレタン樹脂(SF−470)
C:PCユニット80質量%含有ポリウレタン樹脂(HUX−386)
D:PCユニット90質量%含有ポリウレタン樹脂
E:PCユニット100質量%樹脂組成物
・PCユニット非含有樹脂
a:PCユニット非含有ポリウレタン樹脂(HUX−232)
b:PCユニット非含有ポリウレタン樹脂(SF−170)
c:エポキシ系樹脂(アデカレンジEM−0461N)
d:エポキシ系樹脂(スーパーエステルE650)
e:ポリオレフィン系樹脂(ハードレンNZ−1005)
・塗装基材
I:SUS430
II:溶融Zn−Al−Mg合金めっき鋼板
【0059】
2.複合体の作製
化学繊維を含む布として、ポリウレタン繊維とナイロン繊維とからなる経編布(ハイテンション;旭化成株式会社)を準備した。布は、幅20mm×長さ100mmの大きさにカットした。
【0060】
230℃に加熱されたホットプレート上に、50mm×50mmに切り出した塗装金属素形材を配置した。次いで、加熱されている塗装金属素形材の塗膜の表面に、布の一端の20mm×20mmの領域で塗装金属素形材と布とが接触するように、布を配置した。次いで、塗装金属素形材と布とが重なっている領域に、重量2kgのおもりを載せて10秒間加圧した。最後に、布に荷重を加えた状態のまま室温まで冷却して、塗装金属素形材と布との複合体を得た。
【0061】
3.密着性の評価
一軸引張試験機を用いて、塗装金属素形材の板面に対して常に直角の角度を保ちながら300mm/分の速度で布を引き剥がす90°ピール試験を行った。この90°ピール試験により布が剥離したときの最大強度(剥離強度)を測定した。また、このとき、破断した部分を観察して、金属素形材と塗膜との間で剥離しているのか、または塗膜と布との間で剥離しているのかを観察した。剥離強度が5N未満の場合を「×」、剥離強度が5N以上かつ10N未満の場合を「△」、剥離強度が10N以上かつ15N未満の場合を「○」、剥離強度が15N以上の場合と布の部分で破断した場合とを「◎」と評価した。剥離強度が10N未満(△)の複合体は、実用に耐えることができないため不合格と判断した。評価した複合体における剥離強度の測定結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
比較例1に係る複合体では、塗膜の膜厚が薄すぎるため、塗装金属素形材と布との密着性が不十分であった。なお、剥離位置は、塗膜が薄すぎるため確認できなかった。比較例2〜5に係る複合体では、塗膜中の樹脂合計質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合が少なすぎるため、塗膜と布との密着性が不十分であった。比較例6,7に係る複合体では、塗膜中の樹脂合計質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合が多すぎるため、金属素形材と塗膜との密着性が不十分であった。
【0064】
一方、実施例1〜11に係る複合体では、塗膜の膜厚が0.2μm以上であり、塗膜中の樹脂合計質量に対するポリカーボネートユニットの質量の割合が所定の範囲内(15〜80質量%)であるため、塗装金属素形材と布との密着性が優れていた。なお、剥離位置については、布の破断、または布の破断および塗膜と布の界面の混合破断であった。