(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6080894
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】電動モータ装置および電動式直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02P 29/64 20160101AFI20170206BHJP
H02K 11/25 20160101ALI20170206BHJP
G01K 7/00 20060101ALI20170206BHJP
H02K 7/102 20060101ALI20170206BHJP
H02P 6/16 20160101ALI20170206BHJP
【FI】
H02P29/64
H02K11/25
G01K7/00 321J
H02K7/102
H02P6/16
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-98813(P2015-98813)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-220270(P2016-220270A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年9月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】
森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−268989(JP,A)
【文献】
特開2009−89531(JP,A)
【文献】
特開2015−33995(JP,A)
【文献】
特開2006−50746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00−31/00
H02P 6/00− 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、この電動モータを制御する制御装置とを備える電動モータ装置において、 前記電動モータにおける複数の励磁コイルのうち少なくともいずれか一つの励磁コイルに、この励磁コイルの温度を検出する温度検出素子を設け、
前記制御装置は、
前記複数の励磁コイルに流す電流をそれぞれ求める電流検出手段と、
この電流検出手段で求められる前記励磁コイルの電流と、この励磁コイルにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、前記複数の励磁コイルの推定温度を算出するコイル温度推定手段と、
前記温度検出素子が設けられた前記励磁コイルについて、前記温度検出素子で検出される励磁コイルの温度と、前記コイル温度推定手段で推定された前記推定温度との比較結果に基づいて、前記コイル温度推定手段で推定される全ての励磁コイルの推定温度を補正する推定誤差補正手段と、
を有することを特徴とする電動モータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動モータ装置において、前記コイル温度推定手段は、前記電流検出手段で求められる前記励磁コイルの電流の二乗に比例する値を操作量とし、状態量及び観測量を各相の励磁コイルの推定温度とし、状態遷移行列を各相の励磁コイルの熱容量および熱伝導率とし、前記推定誤差補正手段は、前記温度検出素子で検出された励磁コイルの温度と前記観測量との偏差に定められたゲインを乗じた値のフィードバックを有し、前記制御装置は、これらコイル温度推定手段および推定誤差補正手段を含む状態推定オブザーバを含む電動モータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動モータ装置において、前記状態推定オブザーバは、前記操作量における変化に対して定められた相関をもって前記フィードバックの前記ゲインが変化する機能を有する電動モータ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電動モータ装置において、前記制御装置は、前記推定誤差補正手段で補正された全ての励磁コイルの推定温度の最大値、および、前記全ての励磁コイルの推定温度の微分値のうち少なくとも一つ以上を用いた値に対し、この値が定められた値以上となったとき、前記推定温度の最大値が推定された励磁コイルの相電流を制限する相電流制限手段を有する電動モータ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動モータ装置と、電動モータ装置の電動モータの回転運動を直進運動に変換する直動機構とを備え、前記制御装置が、前記直動機構の軸力を制御する軸力制御機能を有する電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
請求項5に記載の電動式直動アクチュエータにおいて、前記電動式直動アクチュエータは、ブレーキロータと、このブレーキロータに接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記ブレーキロータに接触させる前記直動機構と、この直動機構を駆動する前記電動モータとを備え、前記制御装置は、前記電動モータを制御することにより前記直動機構の軸力であるブレーキ力を制御する電動式直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータ装置および電動式直動アクチュエータに関し、一部のコイルに温度センサを設け、この温度センサの検出結果等から他のコイルの温度推定結果を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータを用いた電動アクチュエータとして、以下の技術が提案されている。
1.ブレーキペダルを踏み込むことで、電動モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押圧接触させて制動力を付加する電動アクチュエータ(特許文献1)。
2.遊星ローラねじ機構を使用した電動式直動アクチュエータ(特許文献2)。
3.電動モータにおける各相コイルの中性点ターミナルにサーミスタを設け、このサーミスタにより、各相コイルの平均温度を測定する技術(特許文献3)。
4.電動モータが停止状態にある際の、電圧と電流および銅抵抗の温度特性から、コイル温度を推定する技術(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2006−194356号公報
【特許文献3】特開平11−234964号公報
【特許文献4】特開2004−208453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のような電動アクチュエータにおいて、電動モータのコイルに異常が発生するとブレーキ機能が低下する等の恐れがある。この電動モータは車両に対する搭載スペースが非常に限られており、また電動モータのサイズが増加することによる車両のバネ下重量の増加が乗員の乗り心地の悪化を招く問題がある。このため、モータコイルの銅損を下げて発熱量を下げる設計は困難となる場合がある。
【0005】
上記の事態を回避するために、モータコイルの温度管理が求められ、そのためにモータコイル温度を精度良く推定する必要がある。例えば、特許文献4に示されるような、銅の抵抗値の温度依存特性を用いてモータコイル温度を推定する手法がある。
しかしながら、上記の場合において、抵抗値はコイルだけでなく接点抵抗やFET等の制御素子を含むため、温度依存性の厳密なモデル化は困難な場合がある。また、例えば、電動ブレーキのように、任意の入力に対しての追従動作が求められるとき、インダクタンス等の過渡応答に影響を受けない静的な条件を確実に設けられる保証が困難な場合がある。
【0006】
上記の過渡応答に影響を受けない手法として、例えば、特許文献3に示すような、モータコイルにサーミスタ等の感温素子を配置する対策が一般的に用いられる。
しかしながら、例えば、ブレーキに用いる電動式アクチュエータのようなシステムのサーボモータにおいては、電流が所定のコイルに集中して発熱に偏りが生じる場合がある。このとき、特許文献3のように各コイルの平均温度を測定する対策では、未だ熱負荷に余裕のある状態でシステムが停止してしまう可能性がある。
前記の対策として、全てのコイルにそれぞれサーミスタを設けることは、コスト、配線や組立の工数、および実装スペースの面で問題が発生する可能性がある。
【0007】
この発明の目的は、コスト低減および工数低減を図ると共に、一部のモータコイル温度等から全てのモータコイル温度を精度良く求めることができる電動モータ装置および電動式直動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電動モータ装置は、電動モータ4と、この電動モータ4を制御する制御装置2とを備える電動モータ装置DBにおいて、
前記電動モータ4における複数の励磁コイル4aのうち少なくともいずれか一つの励磁コイル4aに、この励磁コイル4aの温度を検出する温度検出素子26を設け、
前記制御装置2は、
前記複数の励磁コイル4aに流す電流をそれぞれ求める電流検出手段22と、
この電流検出手段22で求められる前記励磁コイル4aの電流と、この励磁コイル4aにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、前記複数の励磁コイル4aの推定温度を算出するコイル温度推定手段19と、
前記温度検出素子26が設けられた前記励磁コイル4aについて、前記温度検出素子26で検出される励磁コイル4aの温度と、前記コイル温度推定手段19で推定された前記推定温度との比較結果に基づいて、前記コイル温度推定手段19で推定される全ての励磁コイル4aの推定温度を補正する推定誤差補正手段20とを有することを特徴とする。
前記励磁コイル4aは、電動モータ4において回転のための磁極を構成するコイルである。
【0009】
この構成によると、電流検出手段22は、複数の励磁コイル4aに流す電流をそれぞれ求める。この場合に電流検出手段22は、三相電流を検出する上で、例えば、二相のみ電流を検出し、残り一相は三相電流の総和は零となる特性を用いて求めても良い。コイル温度推定手段19は、求められる励磁コイル4aの電流と、この励磁コイル4aにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、複数の励磁コイル4aの推定温度を算出する。
【0010】
推定誤差補正手段20は、温度検出素子26が設けられた励磁コイル4aについて、温度検出素子26で検出される励磁コイル4aの温度と、コイル温度推定手段19で推定された前記推定温度とを比較する。推定誤差補正手段20は、この比較結果に基づいて、コイル温度推定手段19で推定される全ての励磁コイル4aの推定温度を補正する。温度検出素子26で検出されない励磁コイル4aの推定温度についても、前記比較結果に基づく補正を行うことで、従来技術よりもコイル温度を精度良く求めることができる。
【0011】
このようにコイル温度を直接測定しなくても、他点のコイル温度と電流等から間接的にコイル温度を精度良く求め得る。また、例えば全てのコイルに温度検出素子を設けた従来技術に対し、この構成は温度検出素子26を少なくともいずれか一つの励磁コイル4aに設ければ足りるため、電動モータ自体のコスト低減および組立工数の低減を図ることができるうえ、温度検出素子26の電動モータ4への実装スペースの面で問題が発生することを回避することができる。また全ての励磁コイル4aの温度を推定することで、所定の励磁コイル4aに負荷が集中した際の温度検出精度を向上することができる。
【0012】
前記コイル温度推定手段19は、前記電流検出手段22で求められる前記励磁コイル4aの電流の二乗に比例する値を操作量とし、状態量及び観測量を各相の励磁コイル4aの推定温度とし、状態遷移行列27を各相の励磁コイル4aの熱容量および熱伝導率とし、前記推定誤差補正手段20は、前記温度検出素子26で検出された励磁コイル4aの温度と前記観測量との偏差に定められたゲインLを乗じた値のフィードバックを有し、前記制御装置2は、これらコイル温度推定手段19および推定誤差補正手段20を含む状態推定オブザーバを含むものとしても良い。
前記定められたゲインLは、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。このゲインLは、固定の値としても良く可変の値としても良い。
【0013】
前記状態推定オブザーバは、前記操作量における変化に対して定められた相関をもって前記フィードバックの前記ゲインが変化する機能を有するものとしても良い。
前記定められた相関は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
一般にゲインLが大きい方が収束速度に優れるため、例えば、コイル温度が急峻に変化しやすい大電流印加時にゲインLを大きくするような処理を入れても良い。このようにゲインLを変化させることで、励磁コイル4aの推定温度を木目細かく早期に補正することができる。
【0014】
前記制御装置2は、前記推定誤差補正手段20で補正された全ての励磁コイル4aの推定温度の最大値、および、前記全ての励磁コイル4aの推定温度の微分値のうち少なくとも一つ以上を用いた値に対し、この値が定められた値以上となったとき、前記推定温度の最大値が推定された励磁コイル4aの相電流を制限する相電流制限手段24を有するものとしても良い。
前記定められた値は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0015】
この構成によると、相電流制限手段24は、前記推定温度の最大値、および、前記推定温度の微分値のうち少なくとも一つ以上を用いた値が、定められた値以上となったか否かを判定する。定められた値以上となったとの判定で、相電流制限手段24は、推定温度の最大値が推定された励磁コイル4aの相電流を制限する。したがって、所定の励磁コイル4aに負荷が集中した際にこの励磁コイル4aの相電流を制限することで、励磁コイル4aの熱劣化を確実に防止することができる。
【0016】
この発明の電動式直動アクチュエータ1は、この発明のいずれかの電動モータ装置DBと、電動モータ装置DBの電動モータ4の回転運動を直進運動に変換する直動機構6とを備え、前記制御装置2が、前記直動機構6の軸力を制御する軸力制御機能を有する。制御装置2が、直動機構6の軸力を例えば一定に保持するように制御するとき、モータ相電流は常に一定に印加され続ける。このため各励磁コイル4aの損失がばらつき、各励磁コイル4aは互いに温度差が生じる。このように各励磁コイル4aに温度差が生じる場合であっても、全ての励磁コイル4aの温度検出精度を向上していることで、励磁コイル4aの熱劣化を確実に防止する対策を講じることができる。
【0017】
前記電動式直動アクチュエータ1は、ブレーキロータ8と、このブレーキロータ8に接触させる摩擦部材9と、この摩擦部材9を前記ブレーキロータ8に接触させる前記直動機構6と、この直動機構6を駆動する前記電動モータ4とを備え、前記制御装置2は、前記電動モータ4を制御することにより前記直動機構6の軸力であるブレーキ力を制御するものであっても良い。この場合、従来技術の電動ブレーキ用アクチュエータよりも冗長性の向上を図れると共にコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の電動モータ装置は、電動モータと、この電動モータを制御する制御装置とを備える電動モータ装置において、前記電動モータにおける複数の励磁コイルのうち少なくともいずれか一つの励磁コイルに、この励磁コイルの温度を検出する温度検出素子を設ける。前記制御装置は、前記複数の励磁コイルに流す電流をそれぞれ求める電流検出手段と、この電流検出手段で求められる前記励磁コイルの電流と、この励磁コイルにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、前記複数の励磁コイルの推定温度を算出するコイル温度推定手段と、前記温度検出素子が設けられた前記励磁コイルについて、前記温度検出素子で検出される励磁コイルの温度と、前記コイル温度推定手段で推定された前記推定温度との比較結果に基づいて、前記コイル温度推定手段で推定される全ての励磁コイルの推定温度を補正する推定誤差補正手段とを有する。このため、コスト低減および工数低減を図ると共に、一部のモータコイル温度等から全てのモータコイル温度を精度良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の実施形態に係る電動サーボシステムの制御系のブロック図である。
【
図2】同電動サーボシステムの電動ブレーキ装置を概略示す図である。
【
図3】同電動モータ装置におけるコイル温度推定手段及び推定誤差補正手段の実装例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態に係る電動サーボシステムの電動ブレーキ装置を
図1ないし
図4と共に説明する。この実施形態では、電動モータ装置を、車両用の電動ブレーキシステムである電動サーボシステムに適用した例を示すが、この例に限定されるものではない。
図1に示すように、この電動サーボシステムは、複数の電動モータ装置DBと、電源装置3と、上位ECU17とを有する。各電動モータ装置DBは、電動アクチュエータ(電動式直動アクチュエータ)1と、制御装置2とを有する。先ず、電動アクチュエータ1について説明する。
【0021】
図2に示すように、電動アクチュエータ1は、電動モータ4と、この電動モータ4の回転を減速する減速機構5と、直動機構6と、駐車ブレーキであるパーキングブレーキ機構7と、ブレーキロータ8と、摩擦部材9とを有する。電動モータ4、減速機構5、および直動機構6は、例えば、図示外のハウジング等に組み込まれる。電動モータ4は3相の同期モータ等からなる。
【0022】
減速機構5は、電動モータ4の回転を、回転軸10に固定された3次歯車11に減速して伝える機構であり、1次歯車12、中間歯車13、および3次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた1次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された3次歯車11に伝達可能としている。
【0023】
摩擦部材操作手段である直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦部材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦部材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦部材9の押圧力に変換されることにより、直動機構6の軸力であるブレーキ力を発生させる。なお複数の電動モータ装置DB(
図1)を車両に搭載した状態で、車両の外側をアウトボード側といい、車両の中央側をインボード側という。
【0024】
パーキングブレーキ機構7のアクチュエータ16として、例えば、リニアソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材(ソレノイドピン)15を進出させて中間歯車13に形成された係止孔(図示せず)に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15を前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0025】
図1に示すように、各電動モータ装置DBの制御装置2に、電源装置3と、各制御装置2の上位制御手段である上位ECU17とが接続されている。なお
図1では、一つの電動モータ装置DBにおける制御装置2および電動アクチュエータ1のみ示し、その他の電動ブレーキ装置については図示を省略している。上位ECU17として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニットが適用される。また上位ECU17は、各電動モータ装置DBの統合制御機能を有する。上位ECU17から例えばモータ角速度、モータ角度、その他所定負荷、等の目標値指令が、制御装置2の制御演算器18に入力される。
【0026】
電源装置3は、各電動モータ装置DBにおける電動モータ4および制御装置2にそれぞれ電力を供給する。
制御装置2は、制御演算器18、コイル温度推定手段19、推定誤差補正手段20、モータドライバ21、および、電流検出手段である電流センサ22等を有する。制御演算器18、コイル温度推定手段19、推定誤差補正手段20は、例えば、マイクロコンピュータ等のプロセッサ、またはASIC,FPGA,DSP等のハードウェアモジュールで実装しても良い。
【0027】
制御演算器18は、制御演算機能部23と、相電流制限手段24とを有する。制御演算機能部23は、各種センサの値から、上位ECU17からの制御目標を達成するよう、モータドライバ21の制御信号を生成する。このとき、相電流制限手段24は、コイル温度推定手段19の推定結果を参照し、この推定結果に応じて励磁コイル4aを発熱から保護する処理を実行する(後述する)。
【0028】
モータドライバ21は、電源装置3の直流電力を電動モータ4の駆動に用いる三相の交流電力に変換する。このモータドライバ21は、例えば、MOSFETのようなスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路等を構成しても良い。またモータドライバ21は、前記スイッチ素子を瞬時に駆動するようなプリドライバを含んでも良い。
【0029】
電流センサ22は、三相の励磁コイル4aに流す電流をそれぞれ求める電流検出手段である。電流センサ22は、前記各種センサの一つであって、例えば、送電経路の周囲に発生する磁界を検出する電流センサを用いても良く、シャント抵抗と作動アンプを用いて電圧降下量を検出する電流センサを用いても良い。前記磁界を検出する電流センサを用いた場合、高効率・高精度で、前記電圧降下量を検出する電流センサを用いた場合、低コストで実装できる。また、三相電流を測定するうえで、例えば、三相のうちいずれか二相のみ電流を計測し、残り一相は三相電流の総和は零となる特性を用いて求めても良い。
【0030】
電動モータ4は、励磁コイル4a、ロータ角度センサ25、温度センサ26、永久磁石を有するロータ(図示せず)を備えたブラシレスDCモータが、高速、小型、および高精度を両立する電動サーボシステムには好適である。但し、電動モータ4として、機能的にはブラシ付DCモータやステッピングモータを用いることもできる。励磁コイル4aは、一つのティースに集中して巻く集中巻でも良く、複数のティースにまたがる分布巻でも良い。両者を比較すると、集中巻は小型化が可能で、分布巻は高効率および低トルクリプルとすることが可能である。
【0031】
ロータ角度センサ25として、例えば、レゾルバや磁気エンコーダ等のようなセンサを電動モータ4に搭載しても良く、回転中のコイル電圧を用いてロータ角度をいわゆるセンサレスで推定しても良い。磁気エンコーダ等のセンサを用いる場合、低速〜停止状態まで高精度にロータ角度を検出することが可能であり、ロータ角度をセンサレスで推定する場合、省スペース化を図るうえで有利となる。
【0032】
温度検出素子である温度センサ26は、励磁コイル4aの温度を検出する。電動モータ4における三相の励磁コイル4aのうちいずれか一つの励磁コイル4aに、この励磁コイル4aの温度を検出する温度センサ26を設けている。温度センサ26としては、感温抵抗を用いたサーミスタ、および分圧回路を用いるとシンプルかつ低コストで好適である。温度センサ26は、単一の励磁コイル4aに接するように配置しても良く、例えば、集中巻コイルの隣り合うコイルの中間のように、複数の励磁コイル4a,4aに接するよう設置しても良い。
【0033】
この実施形態では、特に、制御装置2に、コイル温度推定手段19と、推定誤差補正手段20とを設けている。また制御演算器18に相電流制限手段24を設けている。コイル温度推定手段19は、電流センサ22で求められる励磁コイル4aの電流と、この励磁コイル4aにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、三相の励磁コイル4aの推定温度を算出する。ここで
図3はコイル温度推定手段19及び推定誤差補正手段20の実装例を示す図である。制御装置2(
図1)は、これらコイル温度推定手段19及び推定誤差補正手段20を含む線形の状態推定オブザーバを含む。同
図3中の下付文字u,v,wはそれぞれ励磁コイル4a(
図1)のu,v,w相のパラメータを示す。
【0034】
コイル温度推定手段19は、例えば、一般的な伝熱特性式として、次の発熱および放熱特性に基づいて与えられる。
[温度変化量]=[熱量]÷[熱容量]
=([周辺部との温度差]×[伝熱係数]+[発熱])÷[熱容量]
上記式において、熱容量は物質の比熱および体積からなる。伝熱係数は、物質の熱伝導率、接触部の熱伝達率、伝熱面積、および伝熱距離からなる。発熱は基本的にコイル銅損からなる。
【0036】
行列C
0は温度センサ26を設けたコイル相に合わせて所定のベクトル長となるよう設定する行列を示す。例えば、u相の励磁コイル4aに温度センサ26を設ける場合はC
0=[1 0 0]、v相の励磁コイル4aに温度センサ26を設ける場合はC
0=[0 1 0]、u,v相の励磁コイル4aの中間に温度センサ26を設ける場合はC
0=[0.5 0.5 0]とすることができる。
【0037】
このとき、上記のうち単一のコイル温度を温度センサ26にて検出している場合、温度センサ26を設けた相のコイル温度は前記温度センサ26で直接検出しているため、コイル温度を推定する必要がない。しかしながら、例えば、感温抵抗と分圧回路からなる簡素な測定系を構築する場合など、ノイズの影響を受けやすい場合がある。その際にコイル温度推定手段19がフィルタの役割を果たすため、温度センサ26が設けられていない他の励磁コイル4aと同様に、コイル温度を推定することが好ましい。
【0038】
オブザーバゲインLについて、固定の値としても良く、前記操作量q(t)における変化に対して定められた相関をもって変化する可変の値としても良い。一般にゲインが大きい方が収束速度に優れるため、例えば、コイル温度が急峻に変化しやすい大電流印加時にゲインLを大きくするような処理を入れても良い。このようにゲインLを変化させることで、励磁コイル4aの推定温度を木目細かく早期に補正し得る。
【0039】
相電流制限手段24は、判定部24aと、制限部24bとを有する。判定部24aは、推定誤差補正手段20で補正された全ての励磁コイル4aの推定温度の最大値、および、前記全ての励磁コイル4aの推定温度の微分値のうち少なくとも一つ以上を用いた値に対し、この値が定められた値以上となったか否かを判定する。制限部24bは、判定部24aで定められた値以上となったと判定されると、推定温度の最大値が推定された励磁コイル4aの相電流を制限する。
【0040】
この場合において、制限部24bは、例えば、推定された相電流の数%〜数十%を低減するように制限しても良いし、モータ回転速度およびコイル推定温度のいずれか一方または両方に応じて、定められた相電流に制限しても良い。前記定められた相電流は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。したがって、所定の励磁コイル4aに負荷が集中した際に前記相電流制限手段24により前記励磁コイル4aの相電流を制限することで、励磁コイル4aの熱劣化を確実に防止し得る。
【0041】
図4は、この電動モータ装置の動作例を示す図である。この動作例として、電動ブレーキに代表される、アクチュエータ軸力(ブレーキ力)を制御する電動サーボモータシステムの動作例を示す。
図4(a)はアクチュエータ軸力、
図4(b)は、そのアクチュエータ軸力を与えたときのモータ相電流を示す。アクチュエータ軸力を
図4(a)の時間t1において一定値に保持する場合、モータ相電流は
図4(b)のように常に一定に印加され続ける。このため、各励磁コイルの損失がばらつき、各励磁コイルに温度差が生じる。そこで
図1に示すように、本実施形態では、制御装置2に、コイル温度推定手段19と、推定誤差補正手段20とを設けている。また制御演算器18に相電流制限手段24を設けている。
【0042】
以上説明した電動モータ装置DBによると、コイル温度推定手段19は、求められる励磁コイル4aの電流と、この励磁コイル4aにおける発熱および放熱特性を含む情報とから、三相の励磁コイル4aの推定温度を算出する。推定誤差補正手段20は、温度センサ26が設けられた励磁コイル4aについて、温度センサ26で検出される励磁コイル4aの温度と、コイル温度推定手段19で推定された推定温度とを比較する。推定誤差補正手段20は、この比較結果に基づいて、コイル温度推定手段19で推定される全ての励磁コイル4aの推定温度を補正する。温度センサ26で検出されない励磁コイル4aの推定温度についても、前記比較結果に基づく補正を行うことで、従来技術よりもコイル温度を精度良く求めることができる。
【0043】
このようにコイル温度を直接測定しなくても、他点のコイル温度と電流等から間接的にコイル温度を精度良く求め得る。また、例えば全ての励磁コイルに温度センサを設けた従来技術に対し、この構成は温度センサ26を少なくともいずれか一つの励磁コイル4aに設ければ足りるため、電動モータ自体のコスト低減および組立工数の低減を図ることができるうえ、温度センサ26の電動モータ4への実装スペースの面で問題が発生することを回避することができる。また全ての励磁コイル4aの温度を推定することで、所定の励磁コイル4aに負荷が集中した際の温度検出精度を向上することができる。
【0044】
制御装置2が、直動機構6の軸力を例えば一定に保持するように制御するとき、モータ相電流は常に一定に印加され続ける。このため各励磁コイル4aの損失がばらつき、各励磁コイル4aは互いに温度差が生じる。このように各励磁コイル4aに温度差が生じる場合であっても、全ての励磁コイル4aの温度検出精度を向上していることで、励磁コイル4aの熱劣化を確実に防止する対策を講じる(この実施形態では、相電流制限手段24を設けてモータ相電流を制限する)ことができる。
【0045】
相電流制限手段24は、励磁コイル4aの推定温度に応じて電流上限値を制限する処理としても良く、推定温度が所定値を超えたら動作を停止する処理としても良い。前記電流上限値を制限する処理は、制御演算器18が演算処理を実行する必要があるが電動モータ4が不所望に駆動停止することを回避できる。前記動作を停止する処理は、この処理を簡潔かつ確実に行うことができる。なお前記電流上限値を制限する処理と、前記動作を停止する処理とを併用しても良い。
【0046】
図3では簡潔な線形オブザーバの構成を示したが、例えば、VSSオブザーバに代表される非線形オブザーバを用いても良い。このような非線形オブザーバを用いることで、誤差要因の除去精度が高まる。
【0047】
本実施の電動ブレーキ装置を電動プレスに適用しても良い。この電動プレスの押圧力を一定値に保持する場合、モータ相電流は一定に印加され続けるため、各励磁コイルに温度差が生じるが、制御装置に、少なくともコイル温度推定手段と推定誤差補正手段とを設けることで、各励磁コイルのコイル温度を精度良く求めることが可能となる。
【0048】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1…電動アクチュエータ(電動式直動アクチュエータ)
2…制御装置
4…電動モータ
4a…励磁コイル
6…直動機構
8…ブレーキロータ
9…摩擦部材
19…コイル温度推定手段
20…推定誤差補正手段
22…電流センサ(電流検出手段)
24…相電流制限手段
26…温度センサ(温度検出素子)