(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
[0003]多くの電子デバイスの実装及び他の電子製造用途において、例えば純金属及び金属合金のような金属材料がハンダとして通常的に用いられている。幾つかの同位体からのα粒子の放出によって、しばしばソフトエラー又はソフトエラーアップセットと呼ばれるシングルイベントアップセット(SEU)が引き起こされる可能性があることが周知である。α粒子放出(αフラックスとも呼ばれる)は、実装された電子デバイスに損傷をもたらす可能性があり、より詳しくはソフトエラーアップセット、及び更には幾つかの場合においては電子デバイスの不具合を引き起こす可能性がある。α粒子放出の可能性に関する懸念は、電子デバイスの寸法が減少し、α粒子放出性金属材料が潜在的に感受性の位置により近く近接して配置されるにつれて大きくなる。
【0004】
[0004]金属材料からのα粒子放出に関係する最初の研究は、電子デバイスの実装において用いる鉛ベースのハンダ、並びにこれに引き続く複数のかかる鉛ベースのハンダを改良する努力に集中していた。より最近では、銀、スズ、銅、ビスマス、アルミニウム、及びニッケルのような非鉛又は「無鉛」金属材料を、合金としてか又は純元素材料として用いることへ移行している。しかしながら、実質的に純粋な非鉛金属材料においても、鉛は不純物として通常的に存在し、かかる材料はしばしば精錬して材料中の鉛不純物の量を最小にしている。
【0005】
[0005]ウラン及びトリウムは、公知の崩壊系列にしたがって放射性崩壊してα粒子放出性同位体を形成する可能性がある金属材料中にしばしば存在する主要な放射性元素として周知である。ソフトエラーアップセットに関与する主要なα粒子放出物質であると考えられているポロニウム−210(
210Po)の存在が、非鉛材料において特に関心が持たれている。鉛−210(
210Pb)は、ウラン−238(
238U)の崩壊娘核種(decay daughter)であり、22.3年の半減期を有し、ビスマス−210(
210Bi)へβ崩壊する。しかしながら、
210Biの非常に短い5.01日の半減期のために、かかる同位体は、実質的に、
210Poへ速やかに崩壊する過渡的中間状態である。
210Poは138.4日の半減期を有し、5.304MeVのα粒子を放出することによって安定な鉛−206(
206Pb)に崩壊する。電子デバイス用途において用いる金属材料における最大の関心事は、
210Pb崩壊系列の後半の工程、即ちα粒子の放出を伴う
210Poの
206Pbへの崩壊である。
【0006】
[0006]
210Po及び/又は
210Pbは溶融及び/又は精錬技術によって少なくとも部分的に除去することができるが、かかる同位体は溶融又は精錬の後においても金属材料中に不純物として残留する可能性がある。金属材料から
210Poを除去すると、金属材料からのα粒子の放出が一時的に減少する。しかしながら、α粒子の放出は、最初は低下するが、通常は、
210Pb崩壊プロファイルの永続平衡が金属材料中に残留する
210Pbに基づいて徐々に復活するにつれて、時間と共に潜在的に許容できないレベルに増加することが観察されている。
【0007】
[0007]問題が多いことには、溶融又は精錬プロセスの後の金属材料のα放出量の増加が最終的に許容できないレベルに到達するかどうかは、査定及び/又は予測することは非常に困難である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0012]本発明は、例えばハンダのために用いる金属材料のような電子部品の製造において通常的に用いられるタイプの金属材料のα粒子放出ポテンシャルを査定する方法を提供する。金属材料は、それ自体、例えばスズ、鉛、銅、アルミニウム、ビスマス、銀、及びニッケルのような単一又は実質的に純粋な元素材料であってよく、或いは上記の材料の任意の2以上の合金、或いは上記の材料の任意の1以上と1種類以上の他の元素との合金であってよい。
【0013】
[0013]本明細書においては、主として、純元素材料としてのスズを参照し、及び
210Poがそれによる主要なα粒子放出物質である
210Pb崩壊系列を参照して本方法を記載する。しかしながら、本方法はまた、他の純元素材料及び合金におけるα粒子放出量の査定に関して用いることもでき、
210Pb崩壊系列から形成される
210Po以外の1種類以上の同位体からのα粒子放出量を査定するために用いることもできる。
【0014】
[0014]本明細書において用いる「標的親同位体」という用語は、金属材料中に存在し、娘同位体に崩壊することができ、この娘同位体は次にα崩壊することができ、即ちα粒子を同時に放出しながら更なる同位体に崩壊することができる対象の同位体を指す。本明細書において用いる「標的崩壊同位体」という用語は、標的親同位体の娘同位体であり、それ自体次にα崩壊することができ、即ちα粒子を同時に放出しながら更なる同位体に崩壊することができる対象の同位体を指す。標的崩壊同位体は、それ自体、標的親同位体の直接崩壊生成物であっても、そうでなくてもよい。例えば、
210Pbが標的親同位体である場合には、
210Pbは
210Biに崩壊し、次に
210Biは
210Poに崩壊するが、
210Poを標的崩壊同位体とすることができる。
【0015】
[0015]鉛は、材料中の
210Pbの量を減少させ、それによって最終的にα粒子放出量を減少させるために、例えば精錬することによって、スズ、銅、アルミニウム、ビスマス、銀、及びニッケルのような非鉛元素状材料から除去することができるが、材料中に存在する鉛の量は、鉛の量が個々の元素を検出するための既存の分析方法の検出限界よりも非常に低い場合であっても、α粒子放出の関係ではなお問題ある可能性がある。例えば、金属材料中に不純物として存在する鉛は、既存の化学分析法の検出限界より低い質量pptより低いレベルにおいても、α粒子放出の関係では問題をもたらす可能性がある。したがって、激しい精錬であっても
210Pbを許容できるレベルまで有効に除去することはできず、精錬が有効であることが公知である場合であっても、既存の分析方法は、通常は、精錬の後に与えられる金属材料中に残留する
210Pbを検出するためには不適切である。有利なことに、本方法は、材料中の鉛及び/又は他の放射性不純物の量がそれ自体既存の分析方法の検出限界よりも非常に低いレベル又は濃度で存在する場合であっても、所定の金属材料に関してα粒子放出の量(所望の場合には最大量であってよい)を計算することを可能にする。
【0016】
[0016]本方法によれば、金属材料を永続平衡破壊プロセスにかける。本明細書において用いる「永続平衡破壊プロセス」という用語は、金属材料をそれにかけるプロセスであって、金属材料内の少なくとも1つの標的親同位体の崩壊プロファイルの永続平衡を少なくとも部分的に破壊するプロセスを指す。殆どの場合において、永続平衡破壊プロセスは、金属材料内の標的親同位体の濃度を減少させることによるか、金属材料中の対応する標的崩壊同位体の濃度を減少させることによるか、或いは上記の組み合わせによって、標的親同位体の崩壊プロファイルの永続平衡を破壊する。代表的な永続平衡破壊プロセスとしては、溶融、鋳造、溶錬、精錬、又は上記のプロセスの2以上の任意の組み合わせが挙げられる。代表的な精錬プロセスとしては、電解精錬又は電気化学精錬、化学精製、帯域精錬、及び真空蒸留が挙げられる。通常は、永続平衡破壊プロセスにおいては、特に永続平衡破壊プロセスが少なくとも部分的に精錬プロセスである場合には、標的親同位体及び標的崩壊同位体の両方が、物理的及び/又は化学的分離によってバルクの金属材料から不純物又は汚染物成分として少なくとも部分的に除去される。
【0017】
[0017]幾つかの態様においては、永続平衡破壊プロセスによって、所定の標的崩壊同位体の実質的に全部を除去して、それによって、対応する標的親同位体の永続平衡を有効に「リセット」することができる。例えば、標的親同位体として
210Pbを含む金属材料の場合には、永続平衡破壊プロセスによって、材料中の
210Po標的崩壊同位体の全部を実質的に完全に除去して、
210Pbの永続平衡が有効にリセットされるようにすることができ、ここで、永続平衡破壊プロセスの後に材料中に存在する
210Poの実質的に全部は、かかる破壊プロセスの後の
210Pbの崩壊によって生成する。しかしながら、本方法はまた、標的親同位体及び/又は標的崩壊同位体の一部のみを除去する永続平衡破壊プロセスを用いて実施することもでき、本方法は、所定の標的崩壊同位体の実質的に全部を除去する永続平衡破壊プロセスには限定されない。
【0018】
[0018]幾つかの態様においては、永続平衡破壊プロセスは比較的短い時間で完了させることができ、他の態様においては、永続平衡破壊プロセスは、一緒に永続平衡破壊プロセスを構成することができるプロセスの性質及びプロセスの数に応じて、完了させるために比較的多量の時間を必要とする可能性がある。したがって、下記において議論する永続平衡破壊プロセスと金属材料のα粒子放出量の測定との間の経過時間は、永続平衡破壊プロセス(又は複数のプロセス)の完了と、金属材料のα粒子放出量の測定との間の経過時間とすることができる。
【0019】
[0019]金属材料を永続平衡破壊プロセスにかけた後、金属材料のα粒子放出量を検出する。即ち、α粒子放出量の測定値を得る。バルク形態の金属材料全体のα粒子放出量を得ることは本発明の範囲内であるが、通常はα粒子放出量分析の目的でバルクの金属材料の試料を得る。
【0020】
[0020]バルクの金属材料を圧延して試料材料の薄いシートを与えることのような好適な方法によるか、或いは任意の他の好適な方法によって、バルクの金属材料の比較的薄い部分を試料として得ることができる。
【0021】
[0021]試料を得た後、試料中の標的崩壊同位体の原子の濃度が試料体積全体にわたって均一になる時点まで試料材料中の標的崩壊同位体の拡散を促進させるために、試料を熱によって処理する。多くの試料において、例えば試料の中心に向かって、又は試料の他の領域において、標的崩壊同位体の原子のより高い濃度が存在して、濃度の不均等又は勾配が存在する可能性がある。熱処理により、試料内の標的崩壊同位体の原子が比較的高い濃度の領域から比較的低い濃度の領域へ拡散することを促進することによって、かかる濃度の不均等又は勾配が除去されて、試料内及び試料全体にわたって均一な標的崩壊同位体の濃度が得られる。かかる均一な濃度が得られると、α粒子検出プロセスの検出限界深さ内の標的崩壊同位体の原子の数は、試料全体にわたる標的崩壊同位体の原子の均一な濃度を表し、より詳細にはそれに直接相関する。かかる均一な濃度は、標的崩壊同位体の化学ポテンシャル勾配が実質的にゼロであり、標的崩壊同位体の濃度が試料全体にわたって実質的に均一である場合に達成される。
【0022】
[0022]別の言い方をすると、室温において試験試料は化学ポテンシャル勾配を有する可能性があり、標的崩壊同位体の濃度は、試料の1つの側において試料の他の側よりも高く、或いは試料の中心において試料の外側表面よりも高い。試料を加熱することによって化学ポテンシャル勾配が調節され、十分な時間及び温度の曝露においては、化学ポテンシャル勾配は実質的にゼロであり、標的崩壊同位体の濃度は試料全体にわたって実質的に均一である。
【0023】
[0023]本明細書において用いる「検出限界深さ」という用語は、材料の表面に到達し、それによって分析検出のために材料から放出されるために、放出されたα粒子がそれを通って透過することができる所定の金属材料内の距離を指す。選択された金属材料における
210Poに関する検出限界深さをミクロンで下表1に与える。これらは
210Poの
206Pbへの崩壊によって放出される5.304MeVのα粒子の透過に基づくものである。
【0025】
[0024]
210Po以外のα粒子放出性同位体の放射性崩壊によって放出されるα粒子のような異なるエネルギーのα粒子に関する検出限界深さは変化し、検出限界深さは一般にα粒子のエネルギーに比例する。本方法においては、放出されるα粒子は、JEDEC標準規格JESD221によって記載されている方法にしたがって、Hayward, CAのXIA L.L.C.から入手できるXIA 1800-UltraLoガス電離チャンバーのようなガスフローカウンターを用いて検出することができる。
【0026】
[0025]
210Poのような標的崩壊同位体は、金属材料内に拡散又は移動することが知られており、この点において、本方法の熱処理は、材料試料内における標的崩壊同位体の拡散を促進して濃度勾配を排除するために用いる。特に、
210Poのような標的崩壊同位体は、下記の等式(1):
【0028】
(式中、∂φ/∂xは、
210Poのような標的崩壊同位体の濃度勾配であり、Dは拡散係数である)
にしたがって表すことができる所定の金属材料中の拡散速度Jを有する。標的崩壊同位体の濃度勾配は、試料の表面におけるα粒子放出量を測定し、化学エッチングなどによって厚さxの材料の層を除去し、そして深さxにおけるα粒子放出量を測定することによって求める。元の表面及び深さxにおける標的崩壊同位体の濃度は、それぞれの表面におけるα粒子放出量に正比例し、標的崩壊同位体の濃度勾配は、距離xにわたる表面の1つにおける濃度と深さxにおける濃度との間の差として計算される。
【0029】
[0026]ポロニウムの拡散速度Jを求めるために、スズ試料における5〜5.5MeVからのポロニウムα粒子放出量を測定した。次に、試料を200℃において6時間加熱し、α粒子放出量の測定を繰り返した。ポロニウム原子の数Nは、下記の等式(2):
【0031】
(式中、
Aは、カウント/時で測定されるα粒子放出量であり;
λ
Poは、
210Poの半減期に基づいてln2/138.4日である)
から算出する。
【0032】
[0027]ポロニウムのモル数は、ポロニウム原子の数Nをアボガドロ数で割ることによって計算した。ポロニウムのモル数の差を、表面積(0.1800m
2)及び試料を加熱した時間(6時間)で割ると、473Kにおいて4.5×10
−23モル・m
−2・秒
−1のスズにおける拡散速度に関する下界が与えられる。
【0034】
[0028]等式(1)に基づいて、濃度勾配を排除するために十分に標的崩壊同位体を試料内に拡散させて、試料の検出限界深さ内のα粒子放出量の検出が試料全体にわたる標的崩壊同位体の濃度を示し、且つこれに直接相関するようにするために試料を曝露することができる好適な時間及び温度加熱プロファイルを求めることができる。例えば、1ミリメートルの厚さを有するスズ試料に関しては、6時間の200℃の熱処理によって、試料内の
210Po原子の全ての濃度勾配が排除されることが確保される。
【0035】
[0029]而して、所定の金属材料及び試料寸法に関して、試料曝露の時間及び温度によって熱の適用を選択及び制御して、標的崩壊同位体の原子が濃度勾配を排除するのに十分な程度まで拡散することを確保することができる。本方法によって、熱処理工程に関する好適な時間及び温度プロファイルを与えるにあたって、標的崩壊同位体からのα粒子放出量の測定値は、試料全体内の標的崩壊同位体原子の濃度又は数に直接相関する検出限界深さ内で示される。
【0036】
[0030]金属材料を熱にかけると材料内の元素の拡散が促進されることが一般的に知られている。しかしながら、従来の方法は、単純にバックグラウンドレベルを超えて検出されるα粒子放出の数を増加させて、それによってα粒子放出量検出の信号対雑音比を増加させるために熱処理を用いている。
【0037】
[0031]
210Poに起因するα粒子放出量は、永続平衡破壊プロセス後の時間(t)におけるポロニウムのα放射能A
Poとして表される。A
Po及び経過時間(t)から、等式(3):
【0039】
(式中、
λ
Poは、
210Poの半減期に基づいてln2/138.4日であり;
λ
Pbは、
210Pbの半減期に基づいてln2/22.3年(8,145.25日)であり;
時間(t)は、永続平衡破壊プロセスとα粒子放出量測定との間に経過した時間である)
を用いて試料中の
210Poの濃度を計算することができる。
【0040】
[0032]
210Pbは22.3年の半減期を有するという事実のために、
210Pbの濃度は、特にα粒子放出量測定を永続平衡破壊プロセスの比較的直ぐ後に行う場合には、時間(t)が3年未満である場合には時間(t)にわたって実質的に一定である。また、
210Poの実質的に全部が永続平衡破壊プロセスにおいて除去される(例えば、永続平衡破壊プロセスが激しい精錬プロセスである場合に当てはまる可能性がある)場合には、永続平衡破壊の比較的直ぐ後にα粒子放出量を測定すると当初の
210Po濃度はゼロに非常に近接するので、上記の等式(3)における最後の項はゼロに非常に近接する。
【0041】
[0033]標的親同位体の濃度は上記の等式(3)によって計算することができ、標的親同位体の濃度が計算されたら、標的親同位体の既知の半減期を用いて、標的親同位体の永続平衡プロファイルの復活に基づく材料内の標的崩壊同位体の最大濃度の査定又は予測を与えることができる。
【0042】
[0034]言い換えれば、
210Pbの半減期に基づいて等式(3)を用いて
210Pb原子の濃度を求めると、永続平衡の復活時における
210Poの最大放射能は(t)=828日において起こり、これは下記の等式(4):
【0044】
から計算される。
[0035]等式(3)及び等式(4)の全体で一貫した時間単位(即ち日又は年)を用いなければならない。
【0045】
[0036]
210Poの最大放射能は、材料の最大α粒子放出量に直接相関し、永続平衡破壊プロセスから828日目に起こる。このように、本方法は通常は永続平衡破壊プロセスの比較的直ぐ後に行われるという事実のために、標的崩壊同位体の計算される最大濃度及びそれに付随するα粒子放出量は、通常は、標的親同位体の半減期に対応する期間にわたって金属材料が示す標的崩壊同位体の将来の最大濃度及びそれに付随するα粒子放出量である。
【0046】
[0037]例えば、
210Pbの半減期に基づくと、それによって
210Poの予測される最大濃度(及びそれによってα粒子放出量のピーク)が材料内で到達する当該期間又は「ウィンドウ」は、永続平衡破壊プロセスから828日目(27月目)に起こる。
【0047】
[0038]また、永続平衡破壊プロセスからの任意の特定の経過時間における
210Poの予測される濃度(及びそれによってα粒子放出量)を計算することも可能である。このように、永続平衡破壊プロセスから十分な経過時間の後の
210Poの予測される濃度を計算することが可能であり、ここで十分な経過時間は、永続平衡破壊プロセスから少なくとも200、250、300、350、又は365日であってよい。例えば、
210Pbの半減期に基づくと、それによって
210Po濃度が材料中で予測される最大濃度の67%に達する当該期間は、永続平衡破壊プロセスから200日目に起こる。同様に、
210Po濃度は、永続平衡破壊プロセスからそれぞれ300日目及び365日目において、材料中の予測される最大濃度の80%及び88%に達する。
【0048】
[0039]有利なことに、本方法によれば、金属材料を例えば金属材料を精錬することによって永続平衡破壊プロセスにかけた後に、材料の有用寿命中に金属材料が到達する最大α粒子放出量を正確に予測することができる。このように、本方法は、電子デバイス中に導入されるハンダのような金属材料に関する最大α粒子放出量の有益な予測を与える。
【実施例】
【0049】
[0040]下記の非限定的な実施例は本発明の種々の特徴及び特性を示すが、本発明はこれらに限定されると解釈すべきではない。
実施例1:
精錬スズ試料における最大α放出量の測定:
[0041]本方法は、8つの精錬スズ試料における可能な最大α放出量を査定するために用いた。スズ試料は、2012年6月20日出願の「低αスズを製造するための改良された精錬方法」と題された米国仮特許出願61/661,863において開示されている方法にしたがって精錬した。精錬スズ試料の試験試料は、インゴットから約1キログラムの試料を切り出し、試料を1ミリメートルの厚さに圧延することによって得た。試験試料を200℃において6時間加熱し、Hayward, CAのXIA L.L.C.から入手できるXIA 1800-UltraLoガス電離チャンバーを用いて、試験試料のα粒子放出量を測定した。測定されたα粒子放出量、及び精錬とα粒子放出量の測定の間の経過時間を下表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
[0042]測定されたα粒子放出量、及び精錬とα粒子放出量の測定の間の経過時間(t)から、(t)=0における
210Pbの濃度を上記の等式(3)から計算することができる。
【0052】
[0043]例えば、試料1のα粒子放出量は、精錬から89日目において0.002カウント/時/cm
2と測定された。上記の等式(3)に基づいて、測定された
210Poの放射能、即ち測定されたα粒子放出量を生起させるのに必要な1cm
2あたりの
210Pbの数([
210Pb]
0)は66であると計算された。上記の等式(4)を用いて、(t)=828日における
210Poの放射能又は予測α粒子放出量は0.0056カウント/時/cm
2と計算された。
【0053】
[0044]試料7においては、α粒子放出量は、精錬から523日目において0.025カウント/時/cm
2と測定された。[
210Pb]
0の値は、等式(3)に基づいて255原子/cm
2であると計算され、最大α粒子放出量は、等式(4)に基づいて0.0217カウント/時/cm
2と計算された。
【0054】
[0045]試料1及び7から分かるように、測定されるα粒子放出量と計算される最大α粒子放出量の間の差は、時間(t)が828日に近付くにつれて減少し、永続平衡を精錬後に復活させることができる前の永続平衡サイクルにおける初期の段階において、α粒子放出量測定値に起因して、試料1に関して大きな差が得られる。
【0055】
実施例2:
標的崩壊同位体を拡散させるのに必要な時間の判定:
[0046]スズ試料中に標的崩壊同位体を拡散させるのに必要な時間を調べた。スズ試料は、2012年6月20日出願の「低αスズを製造するための改良された精錬方法」と題された米国仮特許出願61/661,863において開示されている方法にしたがって精錬した。精錬スズ試料の試験試料は、インゴットから試料を切り出し、試料を0.45ミリメートルの厚さに圧延することによって得た。試験試料を200℃において1時間加熱し、Hayward, CAのXIA L.L.C.から入手できるXIA 1800-UltraLoガス電離チャンバーを用いて、試験試料のα粒子放出量を測定した。α粒子放出量の測定には約24時間が必要であり、その後、試料を再び200℃において1時間加熱し、α粒子放出量を測定した。このプロセス(例えば1時間の熱処理の後にα粒子放出量の測定)を、合計で5回の加熱/測定サイクル繰り返した。測定されたα粒子放出量、及び試料を200℃において加熱した合計時間を下表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
[0047]表4から分かるように、試料の放射能又はαフラックスは、200℃において1時間後に、0.017カウント/時/cm
2から0.025カウント/時/cm
2に増加した。即ち、スズ試料の放射能又はαフラックスは、200℃において1時間後に50%より多く増加した。表4において更に示されるように、試料の放射能又はαフラックスは、200℃において1時間より多く加熱した際に大きな変化はなかった。これは、200℃において1時間は、試料全体にわたる標的崩壊同位体の実質的に均一な濃度を達成するために十分であったことを示唆している。
【0058】
実施例3:
銅試料における標的崩壊同位体の拡散の測定:
[0048]本方法は、銅試料における最大可能α放出量を査定するために用いた。銅試料を、99.99%から99.9999%の純度に電解精錬した。精錬の後、精錬した銅を加熱し、インゴットに成形した。
【0059】
[0049]銅材料の試験試料は、インゴットから試料を切り出し、試料を3.2mmの厚さに圧延することによって得た。Hayward, CAのXIA L.L.C.から入手できるXIA 1800-UltraLoガス電離チャンバーを用いて、銅試験試料を200℃において6時間加熱する前及び加熱した後の試験試料のα粒子放出量を測定した。
【0060】
[0050]加熱の前においては、銅試験試料は0.0036カウント/時/cm
2の放射能又はαフラックスを有しており、200℃で6時間加熱した後においては、銅試験試料は0.0051カウント/時/cm
2の放射能を有していた。この実施例は、加熱によって銅材料中における標的崩壊同位体の拡散が促進されることを示している。上記の等式4から計算された銅試料に関する最大α粒子放出量は0.05カウント/時/cm
2であった。
【0061】
[0051]本発明を好ましいデザインを有するものとして記載したが、本発明はこの開示の精神及び範囲内で更に修正することができる。したがって、本出願は、その一般的な原理を用いて本発明の任意のバリエーション、使用、又は適用をカバーすると意図される。更に、本出願は、本開示からのかかる逸脱を、本発明が属する技術における公知又は慣習的な実施の範囲内及び特許請求の範囲の限定の範囲内に存するものとしてカバーすると意図される。