(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6081258
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】実装基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20170206BHJP
H05K 1/18 20060101ALI20170206BHJP
H01L 43/04 20060101ALI20170206BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
H05K1/02 C
H05K1/18 Z
H01L43/04
H01L43/02 Z
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-67511(P2013-67511)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-192393(P2014-192393A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】海老根 徹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】小田切 秀行
(72)【発明者】
【氏名】常田 晴弘
【審査官】
内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭56−142100(JP,U)
【文献】
特表2010−506409(JP,A)
【文献】
特開2008−010751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00 〜 1/02
H05K 1/18
H01L 43/00 〜 43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の内側実装領域に実装された信号生成用の素子と、
前記内側実装領域で前記素子の周りに実装された複数の電気部品と、
を有し、
前記基板には、該基板をねじによって固定するための複数の穴と、前記内側実装領域と前記穴との間で前記内側実装領域と前記穴とを結ぶ仮想線と交差する方向に延在するスリットと、が形成されており、
平面視において、前記複数の電気部品の一部または全部が前記基板の面内方向の第1方向において前記素子を挟む両側に実装されていることを特徴とする実装基板。
【請求項2】
平面視において、前記複数の電気部品は、一部が前記第1方向において前記素子を挟む両側に実装され、他の一部が前記基板の面内方向の前記第1方向と直交する第2方向において前記素子を挟む両側に実装されていることを特徴とする請求項1に記載の実装基板。
【請求項3】
nを2以上の整数としたとき、
前記複数の電気部品の各実装位置は、前記素子を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にあることを特徴とする請求項1または2に記載の実装基板。
【請求項4】
前記複数の電気部品のうち、同一種類の電気部品の各実装位置は、前記素子を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にあることを特徴とする請求項3に記載の実装基板。
【請求項5】
前記スリットは、前記内側実装領域を囲む周方向の一部に帯状の連結部を残して前記内側実装領域を囲むように延在しており、
前記複数の穴は、当該穴同士を結ぶ仮想線が前記連結部の延在方向と斜めに交差する位置に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の実装基板。
【請求項6】
前記穴同士を結ぶ仮想線は、前記連結部の延在方向に対して45°±15°の角度で交差していることを特徴とする請求項5に記載の実装基板。
【請求項7】
前記複数の穴は、前記内側実装領域を挟む両側に配置された2つの穴であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の実装基板。
【請求項8】
前記素子および前記電気部品は、前記基板の一方面に実装されていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の実装基板。
【請求項9】
前記基板の他方面には、前記素子と重なる位置に、別の電気部品が実装されていることを特徴とする請求項8に記載の実装基板。
【請求項10】
前記基板は、前記スリットに対して前記内側実装領域とは反対側に、別の電気部品が実装された外側実装領域を備えていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の実装基板。
【請求項11】
前記素子はセンサ素子であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の実装基板。
【請求項12】
前記センサ素子は、ブリッジ回路を構成する感磁膜を備えた感磁素子であることを特徴とする請求項11に記載の実装基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に素子が実装された実装基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサ装置等では、基板にセンサ素子が実装された実装基板が用いられており、かかる実装基板は、ねじによって各種機器に固定される。その際、ねじによる固定箇所から実装基板に応力が加わる結果、実装基板には、
図7にシミュレーション結果を示すような変形が発生する。
図7(a)は、ねじ88a、88bによる固定を行った場合の実装基板500の平面内における変形量の分布を示す説明図であり、
図7(b)、(c)は、
図7(a)の矢印Faからみたときの実装基板の変形量を示す説明図、および
図7(a)の矢印Fbからみたときの実装基板の変形量を示す説明図である。
図7から分かるように、実装基板をねじ88a、88bによって固定すると、実装基板に応力が加わる結果、ねじ88a、88bを止めた位置を結ぶ仮想線に対して直交する方向に位置する部分が浮き上がろうとする変形が発生する。その結果、実装基板に実装したセンサ素子等からの出力がばらつくという問題点がある。
【0003】
例えば、磁気センサ装置では、感磁素子を基板に実装した実装基板構造が採用されている。かかる感磁素子は、素子基板の一方面に磁気抵抗膜からなる複数の感磁膜が形成されており、複数の感磁膜によって構成した2相(A相およびB相)のブリッジ回路から出力された出力に基づいて、回転体の角度速度や角度位置等を検出する。その際、実装基板の変形に伴って、感磁素子に応力が加わると、感磁膜に応力が加わる。ここで、感磁膜によってブリッジ回路を構成した場合、各感磁膜に応力が加わって抵抗変化が発生しても、かかる変化は相殺されるはずである。しかしながら、感磁膜を利用した磁気センサ装置では、たとえ、感磁膜によってブリッジ回路を構成した場合でも、複数の感磁膜に加わる応力が相違すると、出力が変動してしまう。
【0004】
一方、実装基板において、素子の実装領域の周りをスリットで囲んだ構成が提案されている(特許文献1参照)。また、実装基板においてねじを止める位置と実装領域との間にスリットを設けた構成が提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−148687号公報
【特許文献2】特開2002−158407号公報
【特許文献3】特開2007−305921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3のように、外部から実装領域への応力の伝達をスリットによって緩和する構成の場合には実装領域が狭くなるため、センサ素子の近傍に、キャパシタや抵抗等の電気部品が配置されることになる。その結果、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生し、かかる応力がセンサ素子に加わって出力が変動するという、新たな問題が発生する。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、信号生成用の素子の周りに複数の電気部品が実装された基板をねじで固定した場合でも、素子に応力が加わることを抑制することのできる実装基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る実装基板は、基板と、該基板の内側実装領域に実装された信号生成用の素子と、前記内側実装領域で前記素子の周りに実装された複数の電気部品と、を有し、前記基板には、該基板をねじによって固定するための複数の穴と、前記内側実装領域と前記穴との間で前記内側実装領域と前記穴とを結ぶ仮想線と交差する方向に延在するスリットと、が形成されており、平面視において、前記複数の電気部品の一部または全部が前記基板の面内方向の第1方向において前記素子を挟む両側に実装されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、素子および電気部品が実装された内側実装領域と、基板をねじによって固定するための穴との間にスリットが形成されているため、穴を利用して基板をねじによって固定した際の応力は、スリットによって吸収される。それ故、ねじによって固定した際の応力は内側実装領域に伝わりにくい。また、内側実装領域では、複数の電気部品の一部または全部が第1方向において素子を挟む両側に実装されているため、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生しても、第1方向において素子には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって素子からの出力が変動することを抑制することができる。
【0010】
本発明では、平面視において、前記複数の電気部品は、一部が前記第1方向において前記素子を挟む両側に実装され、他の一部が前記基板の面内方向の前記第1方向と直交する第2方向において前記素子を挟む両側に実装されていることが好ましい。かかる構成によれば、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生しても、第2方向でも素子には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって素子からの出力が変動することを抑制することができる。
【0011】
本発明において、nを2以上の整数としたとき、前記複数の電気部品の各実装位置は、前記素子を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にあることが好ましい。かかる構成によれば、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生しても、素子には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって素子からの出力が変動することを抑制することができる。
【0012】
本発明において、前記複数の電気部品のうち、同一種類の電気部品の各実装位置は、前記素子を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にあることが好ましい。かかる構成によれば、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生しても、素子には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって素子からの出力が変動することを抑制することができる。本発明における「種類が同一」とは、互いに抵抗である等、あるいは互いにキャパシタである等、機能が同一で、かつ、サイズが同一のことを意味し、容量等の定格は相違していても同一の種類に該当する。
【0013】
本発明において、前記スリットは、前記内側実装領域を囲む周方向の一部に帯状の連結部を残して前記内側実装領域を囲むように延在しており、前記複数の穴は、当該穴同士を結ぶ仮想線が前記連結部の延在方向と斜めに交差する位置に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、穴を利用して基板をねじによって固定した際の応力が連結部を介して内側実装領域に伝わりにくい。
【0014】
本発明において、前記穴同士を結ぶ仮想線は、前記連結部の延在方向に対して45°±15°の角度で交差していることが好ましい。かかる構成によれば、穴を利用して基板をねじによって固定した際の応力が連結部を介して内側実装領域に伝わりにくい。
【0015】
本発明において、前記複数の穴は、前記内側実装領域を挟む両側に配置された2つの穴であることが好ましい。かかる構成によれば、ねじによる固定箇所を必要最小限に止めることができるので、穴を利用して基板をねじによって固定した際の応力が小さい。
【0016】
本発明において、前記素子および前記電気部品は、前記基板の一方面に実装されている構成を採用することができる。
【0017】
本発明において、前記基板の他方面には、前記素子と重なる位置に、別の電気部品が実装されている構成を採用することができる。かかる構成によれば、内側実装領域の両面で応力を打ち消すことができるので、素子に応力が加わりにくい。
【0018】
本発明において、前記基板は、前記スリットに対して前記内側実装領域とは反対側に、別の電気部品が実装された外側実装領域を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、素子の近傍に配置すると素子に応力を加えそうな電気部品をスリットの外側(外側実装領域)に実装することができる。
【0019】
本発明において、前記素子はセンサ素子である構成を採用することができる。
【0020】
本発明において、前記センサ素子は、ブリッジ回路を構成する感磁膜を備えた感磁素子である構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、素子および電気部品が実装された内側実装領域と、基板をねじによって固定するための穴との間にスリットが形成されているため、穴を利用して基板をねじによって固定した際の応力は、スリットによって吸収される。それ故、ねじによって固定した際の応力は内側実装領域に伝わりにくい。また、内側実装領域では、複数の電気部品の一部または全部が第1方向において素子を挟む両側に実装されているため、環境温度が変化した際、電気部品の実装に用いたハンダと基板との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域に応力が発生しても、第1方向において素子には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって素子からの出力が変動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る実装基板を備えた磁気センサ装置、およびロータリエンコーダの構成を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る実装基板を備えた磁気センサ装置の検出原理を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る実装基板の平面図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る実装基板の平面図である。
【
図5】本発明の実施の形態3に係る実装基板の断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態4に係る実装基板の平面図である。
【
図7】基板に加わる応力に伴う変形のシミュレーション結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した実装基板を説明する。以下の説明では、実装基板として、磁気センサ装置用の実装基板を説明する。なお、以下の説明では、基板50の面内方向で交差するX方向およびY方向のうちの一方が「第1方向」に相当し、他方が「第2方向」に相当する。
【0024】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る実装基板を備えた磁気センサ装置10、およびロータリエンコーダ1の構成を示す説明図であり、
図1(a)、(b)は、感磁素子4等に対する信号処理系の説明図、および感磁素子4等が実装された実装基板を固定体側に固定するためのホルダの説明図である。
図2は、本発明の実施の形態1に係る実装基板を備えた磁気センサ装置10の検出原理を示す説明図であり、
図2(a)、(b)、(c)、(d)は、A相用の感磁膜の電気的な接続構造を示す説明図、B相用の感磁膜の電気的な接続構造を示す説明図、感磁素子4から出力される信号の説明図、およびかかる信号と回転体2の角度位置(電気角)との関係を示す説明図である。
【0025】
図1(a)に示すロータリエンコーダ1は、固定体(図示せず)に対する回転体2の軸線周り(回転軸線周り)の回転を磁気センサ装置10によって磁気的に検出する装置であり、固定体は、
図1(b)に示すホルダ8等を介してモータ装置のフレーム等に固定され、回転体2は、モータ装置の回転出力軸等に連結された状態で使用される。回転体2の側には、N極とS極とが周方向において1極ずつ着磁された着磁面21を回転軸線方向Lの一方側に向けるマグネット20が保持されており、マグネット20は回転体2と一体に回転軸線周りに回転する。
【0026】
固定体の側には、マグネット20の着磁面21に対して回転軸線方向Lの一方側で対向する感磁素子4、および後述する処理を行う制御部90等を備えた磁気センサ装置10が設けられている。また、磁気センサ装置10は、マグネット20に対向する位置に、第1ホール素子61と、第1ホール素子61に対して周方向において機械角で90°ずれた箇所に位置する第2ホール素子62とを備えている。
【0027】
感磁素子4は、素子基板40と、マグネット20の位相に対して互いに90°の位相差を有する2相の感磁膜(A相(SIN)の感磁膜、およびB相(COS)の感磁膜)とを備えた磁気抵抗素子である。かかる感磁素子4において、A相の感磁膜は、180°の位相差をもって回転体2の移動検出を行う+A相(SIN+)の感磁膜43、および−A相(SIN-)の感磁膜41を備えており、B相の感磁膜は、180°の位相差をもって回転体2の移動検出を行う+B相(COS+)の感磁膜44、および−B相(COS-)の感磁膜42を備えている。
【0028】
+A相の感磁膜43および−A相の感磁膜41は、
図2(a)に示すブリッジ回路を構成しており、一方端がA相用の電源端子VccAに接続され、他方端がA相用のグランド端子GNDAに接続されている。+A相の感磁膜43の中点位置には、+A相が出力される出力端子+Aが設けられ、−A相の感磁膜41の中点位置には、−A相が出力される出力端子−Aが設けられている。また、+B相の感磁膜44および−B相の感磁膜42も、+A相の感磁膜44および−A相の感磁膜41と同様、
図2(b)に示すブリッジ回路を構成しており、一方端がB相用の電源端子VccBに接続され、他方端がB相用のグランド端子GNDBに接続されている。+B相の感磁膜44の中点位置には、+B相が出力される出力端子+Bが設けられ、−B相の感磁膜42の中点位置には、−B相が出力される出力端子−Bが設けられている。なお、
図2では便宜上、A相用の電源端子VccAおよびB相用の電源端子VccBの各々を記載したが、A相用の電源端子VccAとB相用の電源端子VccBとが共通になっていてもよい。また、
図2では便宜上、A相用のグランド端子GNDAおよびB相用のグランド端子GNDBの各々を記載したが、A相用のグランド端子GNDAとB相用のグランド端子GNDBとが共通になっていてもよい。
【0029】
かかる構成の感磁素子4は、
図1(a)に示すように、マグネット20において着磁境界部分に回転軸線方向Lで重なる位置に配置されている。このため、感磁素子4の感磁膜41〜44は、各感磁膜41〜44の抵抗値の飽和感度領域以上の磁界強度で、着磁面21の面内方向で向きが変化する回転磁界を検出することができる。すなわち、着磁境界線部分では、各感磁膜41〜44の抵抗値の飽和感度領域以上の磁界強度で面内方向の向きが変化する回転磁界が発生する。ここで、飽和感度領域とは、一般的に、抵抗値変化量kが、磁界強度Hと近似的に「k∝H
2」の式で表すことができる領域以外の領域をいう。また、飽和感度領域以上の磁界強度で回転磁界(磁気ベクトルの回転)の方向を検出する際の原理は、感磁膜41〜44に通電した状態で、抵抗値が飽和する磁界強度を印加したとき、磁界と電流方向がなす角度θと、感磁膜41〜44の抵抗値Rとの間には、下式
R=R0−k×sin2θ
R0:無磁界中での抵抗値
k:抵抗値変化量(飽和感度領域以上のときは定数)
で示す関係があることを利用するものである。このような原理に基づいて回転磁界を検出すれば、角度θが変化すると抵抗値Rが正弦波に沿って変化するので、波形品質の高いA相出力およびB相出力を得ることができる。
【0030】
本形態の磁気センサ装置10およびロータリエンコーダ1において、感磁素子4、第1ホール素子61、および第2ホール素子62には、増幅回路91、92、95、96や、これらの増幅回路91、92、95、96から出力される正弦波信号sin、cosに補間処理や各種演算処理を行うCPU(演算回路)等を備えた制御部90が構成されており、感磁素子4、第1ホール素子61、および第2ホール素子62からの出力に基づいて、固定体に対する回転体2の回転角度位置が求められる。
【0031】
より具体的には、ロータリエンコーダ1において、回転体2が1回転すると、感磁素子4(磁気抵抗素子)からは、
図2(c)に示す正弦波信号sin、cosが2周期分、出力される。従って、正弦波信号sin、cosを増幅回路91、92により増幅した後、制御部90において、
図2(d)に示すリサージュ図を求め、正弦波信号sin、cosからθ=tan
-1(sin/cos)を求めれば、回転出力軸の角度位置θが分かる。また、本形態では、マグネット20の中心からみて90°ずれた位置に第1ホール素子61および第2ホール素子62が配置されている。このため、第1ホール素子61および第2ホール素子62の出力の組合せにより、現在位置が正弦波信号sin、cosのいずれの区間に位置するかが分かる。従って、ロータリエンコーダ1は、感磁素子4での検出結果、第1ホール素子61での検出結果、および第2ホール素子62での検出結果に基づいて回転体2の絶対角度位置情報を生成することができ、アブソリュート動作を行うことができる。
【0032】
(実装基板5の固定構造)
図1(a)に示す感磁素子4を固定体に固定するにあたっては、例えば、
図1(b)に示すホルダ8が用いられる。ホルダ8は、円環状のフランジ部81と、フランジ部81の内周縁から突出する円筒部82とを有している。フランジ部81には、ホルダ8を固定体に固定するための円筒状の座部84a、84b、84cが形成されている。円筒部82の端板部820には、2つのねじ穴85a、85bが形成されている。
【0033】
また、感磁素子4は、後述する電気部品とともに、基板50に実装された実装基板5の状態でホルダ8の円筒部82の端板部820に2本のねじ88a、88bによって固定される。このため、実装基板5において、基板50には、ねじ88a、88bを止めるための2つの穴59a、59bが形成されている。
【0034】
(実装基板5の詳細構成)
図3は、本発明の実施の形態1に係る実装基板5の平面図である。
図3に示すように、実装基板5は、基板50と、基板50の内側実装領域51に実装された感磁素子4(信号生成用の素子)と、内側実装領域51で感磁素子4の周りに実装された複数の電気部品71、72、73とを有している。電気部品71としては種類が同一の部品が4つ実装され、電気部品72としては種類が同一の部品が4つ実装され、電気部品73としては種類が同一の部品が2つ実装されている。かかる電気部品71、72、73において、「種類が同一」とは、互いに抵抗である等、あるいは互いにキャパシタである等、機能が同一で、かつ、サイズが同一のことを意味し、容量等の定格は相違していても、同一の種類に該当する。本形態において、感磁素子4および電気部品71、72、73は、基板50の一方面501に実装されている。
【0035】
基板50は、フェノール基板やガラス−エポキシ基板等に配線が形成されたプリント配線基板であり、本形態において、基板50は、基板50の面内方向で互いに直角に交差するX方向およびY方向に延在する4つの辺50a、50b、50c、50dを備えた四角形の平面形状を有している。基板50には、基板50をねじ88a、88bによって固定するための2つの穴59a、59bが形成されている。本形態において、穴59a、59bは、基板50の対角に位置する角(辺50aと辺50bとの間の角、および辺50cと辺50dとの間の角)付近に形成されている。
【0036】
基板50には、内側実装領域51の周りにスリット52が形成されており、スリット52は、内側実装領域51と穴59a、59bとの間で、内側実装領域51と穴59a、59bとを結ぶ仮想線と交差する方向に延在している。より具体的には、スリット52は、相対向してX方向に延在する2つの辺部分52a、52eと、相対向してY方向に延在する2つの辺部分52c、52gと、斜めに延在する4つの辺部分52b、52d、52f、52hとを備えた八角形である。このため、スリット52の辺部分52bは、内側実装領域51と穴59aとの間で、内側実装領域51と穴59aとを結ぶ仮想線と交差する方向に延在し、スリット52の辺部分52fは、内側実装領域51と穴59bとの間で、内側実装領域51と穴59bとを結ぶ仮想線と交差する方向に延在している。
【0037】
また、スリット52は、内側実装領域51を囲む周方向の一部に帯状の連結部53を残して内側実装領域51を囲むように延在しており、内側実装領域51からは、連結部53を通って配線がスリット52より外側まで延在している。
【0038】
本形態において、スリット52は、X方向に延在する辺部分52aに、Y方向に延在する帯状の連結部53を残している。このため、2つの穴59a、59bは、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線が連結部53の延在方向(Y方向)と斜めに交差する位置に配置されていることになる。本形態において、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線は、連結部53の延在方向に対して45°±15°の角度で交差している。
【0039】
(電気部品71、72、73の実装位置)
本形態では、複数の電気部品71、72、73は、一部(電気部品71、72)がX方向において感磁素子4を挟む両側に実装され、他の一部(電気部品73)がY方向において感磁素子4を挟む両側に実装されている。
【0040】
また、nを2以上の整数としたとき、複数の電気部品71、72、73は、感磁素子4を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にある。すなわち、複数の電気部品71、72、73は、(360/n)°回転させると重なる位置に配置されている。本形態において、複数の電気部品71、72、73は、感磁素子4を通ってX方向に延在する軸、および感磁素子4を通ってY方向に延在する軸に対して対称に配置されていることから、2回対称の回転対称性を有する関係にある。
【0041】
また、複数の電気部品71、72、73のうち、同一種類の電気部品の各実装位置は、感磁素子4を中心とするn回対称の回転対称性を有する関係にある。より具体的には、同一種類の電気部品71同士は、感磁素子4を通ってX方向に延在する軸、および感磁素子4を通ってY方向に延在する軸に対して対称に配置されていることから、2回対称の回転対称性を有する関係にある。また、同一種類の電気部品72同士は、感磁素子4を通ってX方向に延在する軸、および感磁素子4を通ってY方向に延在する軸に対して対称に配置されていることから、2回対称の回転対称性を有する関係にある。さらに、同一種類の電気部品73同士は、感磁素子4を通ってX方向に延在する軸、および感磁素子4を通ってY方向に延在する軸に対して対称に配置されていることから、2回対称の回転対称性を有する関係にある。
【0042】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の実装基板5では、感磁素子4および電気部品71、72、73が実装された内側実装領域51と、実装基板5をねじによって固定するための穴59a、59bとの間にスリット52が形成されているため、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際の張力等の応力は、スリット52によって吸収される。また、穴59a、59bは、内側実装領域51を挟む両側に配置された2つの穴であり、ねじ88a、88bによる固定箇所が必要最小限である。このため、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際の応力が小さい。それ故、ねじ88a、88bによって固定した際の応力は内側実装領域51に伝わりにくい。
【0043】
また、内側実装領域51では、複数の電気部品71、72、73は、一部(電気部品71、72)がX方向において感磁素子4を挟む両側に実装され、他の一部(電気部品73)がY方向において感磁素子4を挟む両側に実装されている。このため、環境温度が変化した際、電気部品71、72の実装に用いたハンダと基板50との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域51に応力が発生しても、かかる応力は、X方向およびY方向において、感磁素子4には応力が等方的に加わることになる。それ故、応力によって感磁素子4からの出力が変動することを抑制することができる。
【0044】
しかも、複数の電気部品71、72、73は、感磁素子4を中心とする2回対称の回転対称性を有する関係にある。また、複数の電気部品71、72、73のうち、同一種類の電気部品の各実装位置は、2回対称の回転対称性を有する関係にある。このため、電気部品71、72、73の実装に用いたハンダと基板50との熱膨張係数の差に起因して内側実装領域51に応力が発生しても、かかる応力は感磁素子4に等方的に加わることになる。それ故、感磁素子4において、応力によって出力が変動することを抑制することができる。
【0045】
さらに、本形態において、スリット52は、内側実装領域51を囲む周方向の一部に帯状の連結部53を残して内側実装領域51を囲むように延在し、2つの穴59a、59bは、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線が連結部53の延在方向と斜めに交差する位置に形成されている。また、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線は、連結部53の延在方向に対して45°±15°の角度で交差している。このため、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際の応力が連結部53を介して内側実装領域51に伝わりにくい。
【0046】
すなわち、Y方向に連結部53が延在している構成において、2つの穴59a、59bをX方向に並べると、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際、ねじ88a、88bの側からの応力が合成されて、連結部53を介して内側実装領域51に伝わってしまう。その結果、内側実装領域51がX方向の両側に撓んでしまう。また、Y方向に連結部53が延在している構成において、2つの穴59a、59bをY方向に並べると、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際、ねじ88a、88bのうちの一方のねじの側からの応力が連結部53を介して直接、内側実装領域51に伝わってしまう。しかるに、本形態のように、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線が連結部53の延在方向と斜めに交差していると、ねじ88bの側からの応力は、連結部53に伝わらない。また、ねじ88aの側からの応力は、連結部53に向けて斜めに伝播していくので、連結部53を介して内側実装領域51に伝わる応力が小さい。
【0047】
例えば、本形態の実装基板5に0℃から90℃の温度ストレスを印加した前後では、素子基板40から出力される信号の電圧変化は0.1mV〜0.2mVであった。これに対して、2つの穴59a、59bをX方向に並べた参考例や、2つの穴59a、59bをY方向に並べた参考例では、0℃から90℃の温度ストレスを印加した前後では、素子基板40から出力される信号の電圧変化が8.0mV〜9.0mVである。それ故、本形態によれば、出力信号の変化を1/40倍から1/90倍にまで小さくできる。
【0048】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態2に係る実装基板5の平面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付して図示し、それらの説明を省略する。
【0049】
上記実施の形態1では、連結部53の数が1つであったが、本形態では、
図4に示すように、連結部53の数が2つである。具体的には、基板50には、内側実装領域51の周りにスリット52が形成されており、スリット52は、内側実装領域51を囲む周方向の2個所に帯状の連結部53a、53bを残して内側実装領域51を囲むように延在している。本形態では、X方向およびY方向に斜めに延在する2つの辺部分52b、52fに連結部53a、53bが形成されており、連結部53a、53bは、X方向およびY方向に斜めに延在している。
【0050】
かかる構成に対応して、穴59a、59bは、スリット52および内側実装領域51をX方向で挟む両側位置に形成されている。このため、穴59a、59bは、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線が連結部53a、53bの延在方向と斜めに交差する位置に配置されている。本形態において、穴59a、59b同士を結ぶ仮想線は、連結部53a、53bの延在方向に対して45°±15°の角度で交差している。
【0051】
かかる構成でも、実施の形態1と同様、穴59a、59bを利用して実装基板5をねじ88a、88bによって固定した際の応力が連結部53を介して内側実装領域51に伝わりにくい等、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0052】
[実施の形態3]
図5は、本発明の実施の形態3に係る実装基板5の断面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付して図示し、それらの説明を省略する。
【0053】
図5に示すように、本形態の実装基板5では、基板50の他方面502には、感磁素子4と重なる位置に、オペアンプ等の別の電気部品76が実装されている。このため、内側実装領域51の両面で応力を打ち消すことができるので、感磁素子4に応力が加わりにくい。その他の構成は、実施の形態1、2と同様である。
【0054】
[実施の形態4]
図6は、本発明の実施の形態4に係る実装基板5の平面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付して図示し、それらの説明を省略する。
【0055】
図6に示すように、本形態の実装基板5では、基板50のスリット52に対して内側実装領域51とは反対側に、別の電気部品77が実装された外側実装領域57が設けられている、このため、感磁素子4の近傍に配置すると感磁素子4に応力を加えそうな別の電気部品77をスリット52の外側(外側実装領域57)に実装することができる。それ故、感磁素子4に応力が加わりにくい。その他の構成は、実施の形態1、2と同様である。
【0056】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、信号生成用の素子として、磁気抵抗素子からなる感磁素子4を例示したが、ホール素子からなる感磁素子4を基板50に実装する場合に本発明を適用してもよい。また、信号生成用の素子としては、感磁素子等の磁気センサ素子に限らず、光センサ素子や圧電素子等、他のセンサ素子を基板50に実装する場合に本発明を適用してもよい。さらに、信号生成用の素子としては、応力に起因して出力が変化するような素子であれば、センサ素子以外の素子を基板50に実装する場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1・・ロータリエンコーダ
2・・回転体
4・・感磁素子(センサ素子/素子)
5・・実装基板
40・・素子基板
41〜44・・感磁膜
50・・基板
51・・内側実装領域
52・・スリット
53、53a、53b・・連結部
57・・外側実装領域
59a、59b・・穴
71、72、73・・電気部品
76、77・・別の電気部品
88a、88b・・ねじ