特許第6081736号(P6081736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6081736反射防止膜、光学素子及び反射防止膜の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6081736
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】反射防止膜、光学素子及び反射防止膜の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20170206BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20170206BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   G02B1/111
   B32B7/02 103
   B32B9/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-181978(P2012-181978)
(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公開番号】特開2014-41169(P2014-41169A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】長野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 穣
(72)【発明者】
【氏名】山下 直城
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−052345(JP,A)
【文献】 特開2009−237551(JP,A)
【文献】 特開2008−046264(JP,A)
【文献】 特開2002−182007(JP,A)
【文献】 特開平11−153703(JP,A)
【文献】 特開2009−073170(JP,A)
【文献】 特開2003−139906(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086560(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 − 1/18
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられる反射防止膜であって、
シリカから成る外殻部内に中空部を備えたコアシェル構造を有する中空シリカの一次粒子の外表面を樹脂被膜により被覆した複合粒子が、当該樹脂被膜により互いに結着された中空シリカ層と、
当該基材と当該中空シリカ層との間に設けられ、透明無機材料の蒸着膜からなる無機下地層とを備え、
当該中空シリカの一次粒子の平均粒径D50は100nm以下であり、且つ、当該一次粒子の粒径分布が±15%以内であり、
当該基材の二次元面方向において、中空シリカの一次粒子が当該樹脂被膜を介して所定の間隔を空けて規則的に配列されており、互いに結着された複合粒子間に空隙部が設けられたものであり、
当該中空シリカ層は、屈折率が1.15以上1.27以下の範囲であり、
当該基材は、撮影光学素子又は投影光学素子であること、
を特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記中空シリカ層は、複数の複合粒子が局所的に集合したクラスターの集合体から成り、
各クラスター内において前記中空シリカの一次粒子は所定の間隔に配列されている請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
中空シリカの一次粒子の平均粒径をRとしたときに、前記基材の二次元平面方向における前記中空シリカの一次粒子の配列パターンは、下記式(1)で表される固有周期(d)を有する請求項2に記載の反射防止膜。
【数1】
【請求項4】
前記高分子樹脂の熱変形温度は、摂氏200度以下である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の反射防止膜
【請求項5】
前記中空シリカ層と前記基材との間、又は、前記中空シリカ層の表面に機能層を備える請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の反射防止膜を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
反射防止膜を製造するための反射防止膜の製造方法であって、
基材上に真空蒸着法によって透明無機材料からなる無機下地層を形成する無機下地層形成工程と、
シリカから成る外殻部内に中空部を備えたコアシェル構造を有する中空シリカの一次粒子の外表面を樹脂被膜により被覆した複合粒子を含む塗布液を調製する塗布液調製工程と、
当該塗布液を当該無機下地層上に塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
当該塗布膜が形成された基材を当該高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱する加熱工程とを備え、
これらの工程を経ることにより、当該無機下地層の二次元面方向において、中空シリカの一次粒子が当該樹脂被膜を介して所定の間隔を空けて規則的に配列されており、互いに結着された複合粒子間に空隙部が設けられた中空シリカ層を形成することを特徴とする反射防止膜の製造方法。
【請求項8】
前記塗布膜形成工程の前に、中空シリカの一次粒子の外表面を高分子樹脂で被覆して、前記複合粒子を形成する工程を備える請求項に記載の反射防止膜の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程は、前記塗布膜が形成された基材を前記高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で少なくとも10分以上加熱する請求項7又は請求項8に記載の反射防止膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学干渉作用を利用して入射光の反射を防止する光学素子上に形成された反射防止膜、当該反射防止膜を備える光学素子及び当該反射防止膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器を構成するレンズ、プリズム等の光学素子基材の表面には、光透過率を向上させることを目的として、反射防止膜が設けられる。反射防止膜では、主として、光学干渉作用を利用して入射光の反射を抑制している。単層から成る反射防止膜の場合、入射光の一部は反射防止膜の表面及び反射防止膜と基材との界面で反射する。反射防止膜の光学膜厚が入射光波長λの1/4である場合、界面反射光の位相は表面反射光の位相に対して反転し、光学干渉作用によって表面反射光と界面反射光とが互いに打ち消される。入射媒質が空気である場合、基材の屈折率をn(sub)とすると、反射防止膜の屈折率が(√n(sub))であるとき、波長λの入射光に対する反射率を0%にすることができる。しかしながら、このような設計では、狭い帯域(設計中心波長近辺)での低反射率を確保することしかできない。
【0003】
従って、反射率が低く、且つ、広帯域の反射防止膜を作製するには、屈折率が異なる複数の層を組み合わせた多層膜にする必要がある。この多層膜と空気との界面に配置される低屈折率層として、一般に無機材料を用いた蒸着膜が採用されており、具体的には、屈折率が1.38程度のフッ化マグネシウム膜、又は屈折率が1.49のシリカ膜が採用される。反射防止膜の性能はこの空気との界面に配置される低屈折率層の屈折率に大きく左右され、その屈折率が低ければ低いほど反射防止性能は高くなる。しかしながら、蒸着法で成膜材料として使用できる材料には限りがあり、蒸着膜によって更なる低屈折率化を図るのは困難であった。そこで、近年では、空気を膜に取り込むことが可能な湿式成膜材料の開発が進み、湿式成膜法により1.15〜1.35の低屈折率層が実現されている。
【0004】
以上のような観点から、例えば、特許文献1には、湿式成膜法により中空微粒子を用いて成膜することにより屈折率を1.20〜1.50とした低屈折率層から成る反射防止膜が提案されている。特許文献1では、成膜材料として中空微粒子を採用し、層内に空隙を導入することにより層の低屈折率化を図っている。また、中空微粒子を第1バインダーで相互に結合すると共に、当該中空微粒子間の空隙を第2バインダーで40%以上充填させることにより、耐久性を向上するものとしている。
【0005】
また、特許文献2には、反射防止膜の広帯域化を図るために、単層基材側から順に緻密層及びシリカエアロゲル多孔質層を備えた二層構造の反射防止膜が開示されている。この特許文献2に開示の反射防止膜では、光学膜厚に対して、屈折率を基材から媒質側に滑らかな階段状に変化させることにより、各層の界面で生じる界面反射光を利用して表面反射光を相殺し、入射光の波長が広帯域に亘り、優れた反射防止効果を発揮することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4378972号公報
【特許文献2】特開2006−215542号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「第35回光学シンポジウム予稿集」、(社)応用物理学会分科会 日本光学会主催、2010年7月、P67−P70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のシリカ微粒子を用いた反射防止膜は白曇りや色ムラなどが発生しやすいという問題があった。上述した光学的な干渉作用により、入射光の反射を抑制するには、粒径が100nm以下のシリカ微粒子を用いる必要がある。粒径が100nmを超える場合、入射光がシリカ微粒子で散乱してしまい、上記反射防止膜の白曇りの原因となる。また、粒径が100nm以下のシリカ微粒子(一次粒子)を用いた場合であっても、シリカ微粒子同士が凝集して粒径が100nm以上の二次凝集粒子を形成した場合には、白曇りが生じる場合がある。
【0009】
また、シリカ微粒子を含む塗工液を調製して湿式成膜法により薄膜を成膜した場合、蒸着法やスパッタリング法等の乾式成膜法により薄膜を成膜した場合と比較すると、膜厚にバラツキが生じやすくなる。膜厚のバラツキは、入射光の干渉条件のバラツキとなり、色ムラとなって外観に現れる。膜厚のバラツキを抑制するには、粒径の均一なシリカ微粒子を用いて、塗工液中又は塗工膜中のシリカ微粒子の分散を均一にする必要がある。しかしながら、上述した通り、粒径が100nm以下の上記シリカ微粒子を用いた場合、二次凝集粒子を形成しやすい。このため、塗工液中又は塗工膜中でシリカ微粒子同士が凝集してしまい、塗工膜内にシリカ微粒子を均一に分散させるのは困難であり、また、シリカ粒子の粒径に分布が生じる。
【0010】
このような白曇りや色ムラが生じた場合、中空シリカを用いて低屈折率層を形成しても、意図した反射防止性能の向上につながらないばかりか、入射光の吸収率若しくは反射率が逆に高くなり、反射率が0%の反射防止膜を得ることは困難になる。
【0011】
そこで、本件発明は、中空シリカ微粒子の凝集を抑制すると共に、膜厚を均一にすることができ、白曇りや色ムラを抑制して高い反射防止性能を実現することができる反射防止膜、当該反射防止膜を備えた光学素子及び反射防止膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、シリカから成る外殻部内に中空部を備えたコアシェル構造を有する中空シリカ粒子の一次粒子の該表面を高分子樹脂により被覆した複合粒子を用い、当該高分子樹脂により一次粒子同士が凝集するのを抑制すると共に、一次粒子を所定の間隔を空けて規則的に配列させることにより上記課題を達成するに到った。
【0013】
本件発明に係る反射防止膜は、基材上に設けられる反射防止膜であって、シリカから成る外殻部内に中空部を備えたコアシェル構造を有する中空シリカの一次粒子の外表面を樹脂被膜により被覆した複合粒子が、当該樹脂被膜により互いに結着された中空シリカ層を備え、当該中空シリカの一次粒子の平均粒径D50は100nm以下であり、且つ、当該一次粒子の粒径分布が±15%以内であり、当該基材の二次元面方向において、中空シリカの一次粒子が当該樹脂被膜を介して所定の間隔を空けて規則的に配列されており、互いに結着された複合粒子間に空隙部が設けられたものであることを特徴とする。
【0014】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中空シリカ層は、複数の複合粒子が局所的に集合したクラスターの集合体から成り、各クラスター内において前記中空シリカの一次粒子は所定の間隔に配列されていてもよい。
【0015】
上記の場合、中空シリカの一次粒子の平均粒径をRとしたときに、各クラスター内における中空シリカの一次粒子の配列パターンは、下記式(1)で表される固有周期(d)を有することが好ましい。
【0016】
【数1】

本件発明に係る反射防止膜において、前記高分子樹脂の熱変形温度は、摂氏200度以下であることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中空シリカ層は、湿式成膜法により成膜された後、前記高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で少なくとも10分以上加熱処理が施されて得られた層であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中空シリカ層と前記基材との間、又は、前記中空シリカ層の表面に機能層を備えることが好ましい。
【0019】
本件発明に係る光学素子は、上記のいずれかに記載の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【0020】
本件発明に係る反射防止膜の製造方法は、シリカから成る外殻部内に中空部を備えたコアシェル構造を有する中空シリカの一次粒子の外表面を樹脂被膜により被覆した複合粒子を含む塗布液を調製する塗布液調製工程と、当該塗布液を基材上に塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、当該塗布膜が形成された基材を当該高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱する加熱工程とを備え、これらの工程を経ることにより、当該基材の二次元面方向において、中空シリカの一次粒子が当該樹脂被膜を介して所定の間隔を空けて規則的に配列されており、互いに結着された複合粒子間に空隙部が設けられた中空シリカ層を形成することを特徴とする。
【0021】
本件発明に係る反射防止膜の製造方法において、前記塗布膜形成工程の前に、中空シリカの一次粒子の外表面を高分子樹脂で被覆する工程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本件発明に係る反射防止膜では、平均粒径が100nm以下であり、且つ、当該一次粒子の粒径分布が±15%以内の粒度の揃った微粒の中空シリカを用いている。また、当該中空シリカの一次粒子の外表面は高分子樹脂により被覆されており、当該高分子樹脂により一次粒子同士が凝集するのを抑制されている。このため、中空シリカ層を構成する中空シリカの平均粒径が100nm以下になるように保持することができ、入射光が中空シリカで散乱して中空シリカ層が白曇りするのを防止することができる。
【0023】
また、本件発明に係る反射防止膜は、上述の通り微粒で粒度の揃った中空シリカの一次粒子により中空シリカ層を形成することができ、二次凝集粒子の形成が抑制されている。また、中空シリカの一次粒子は所定の間隔を空けて規則的に配列されている。このため、中空シリカ層の膜厚を均一にすることができ、層内における中空シリカの分布も均一なものとなる。従って、入射光の干渉条件にバラツキが生じるのを防止することができ、中空シリカ層の外観に色ムラが生じるのを抑制することができる。
【0024】
さらに、本件発明では、中空シリカ層は中空シリカを用いて構成されており、且つ、中空シリカの一次粒子を高分子樹脂で被覆した複合粒子間には空隙部が設けられている。これらの中空部及び空隙部が中空シリカ層内に存在するため、より低い屈折率を有する低屈折率層を湿式成膜法により作製することができる。また、上述した通り、白曇りや色ムラが抑制されているため、反射防止性能の高い反射防止膜を湿式成膜法により簡易に得ることができる。
【0025】
本件発明に係る光学素子によれば、上記反射防止膜を備えているため、当該光学素子に対する入射光の透過率を略100%にすることができ、光学特性に優れた光学素子を得ることができる。
【0026】
また、本件発明に係る反射防止膜の製造方法によれば、湿式成膜法により基材上に塗布膜を形成した後、加熱工程においいて当該塗布膜が形成された基材を中空シリカの一次粒子の外表面を被覆する高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱することにより、中空シリカの一次粒子を所定の間隔を空けて規則的に配列させることができ、中空シリカの一次粒子同士が凝集するのを抑制し、上記白曇りや色ムラのない高い反射防止性能を有する反射防止膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本件発明に係る反射防止膜の層構成の一例を示す模式図である。
図2】中空シリカ層の構成材料である中空シリカの構造を示す模式図(a)と、中空シリカ層の構成を示す模式図(b)である。
図3】実施例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図4】実施例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図5】実施例3で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図6】実施例4で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図7】比較例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図8】比較例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
図9】比較例1で製造した反射防止膜の外観を示す図である。
図10】実施例1で製造した反射防止膜の走査型電子顕微鏡像(a)とその2次元フーリエ変換像(b)である。
図11】比較例1で製造した反射防止膜の走査型電子顕微鏡像(a)とその2次元フーリエ変換像(b)である。
図12】比較例2で製造した反射防止膜の走査型電子顕微鏡像(a)とその2次元フーリエ変換像(b)である。
図13】実施例1で製造した反射防止膜の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1及び図2を参照して本発明に係る反射防止膜、光学素子及び反射防止膜の製造方法の実施の形態を説明する。
【0029】
1.反射防止膜10及び反射防止膜10の製造方法
本実施の形態では、図1に示す反射防止膜10を例に挙げて説明する。図1に例示する反射防止膜10は、基材20上に無機下地層11及び中間層12を介して、中空シリカ層13を備え、中空シリカ層13上に機能層14が設けられたものである。以下、本実施の形態では、図1に示す反射防止膜10について、基材20から順に各層の構成を説明すると共に、各層の成膜方法について説明する。但し、本件発明に係る反射防止膜は、中空シリカ層13を備えるものであればよく、他の層構成は必ずしも備える必要はない。また、他の層構成は、適宜、変更することができる。
【0030】
(1)基材20
まず、反射防止膜10が設けられる基材20について説明する。本件発明では、当該反射防止膜10が設けられる基材20として光学素子基材を用いることができる。光学素子基材は、ガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、その材質に特に限定はない。例えば、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)など各種の光学素子基材20を用いることができる。
【0031】
(2)無機下地層11
次に、無機下地層11について説明する。本実施の形態の反射防止膜10において、基材20と中空シリカ層13との間に無機下地層11を備えている事は本件発明の主旨を妨げるものではない。当該無機下地層11は基材20の表面に形成された無機材料から成る層であり、光学干渉層として機能する。光学干渉層とは、入射光に対する界面反射光の位相変化を所定の値とすべく、薄膜の特性マトリックスに基づいて、屈折率と光学膜厚とが所定の値になるように光学設計された光学薄膜をいう。無機下地層11と、中空シリカ層13とを積層した光学的多層構造とすることにより、反射防止膜10を中空シリカ層13のみから構成した場合よりも、より広帯域の入射光に対して、低屈折率を達成することが可能になる。
【0032】
ここで、当該無機下地層11を光学干渉層として機能させるという観点から、上記無機材料として屈折率が1.35以上2.5以下の透明無機材料を用いることが好ましい。このような透明無機材料として、例えば、Al、ZrO+Al、SiN、SiC、SiO、MgO、La+Al、Y、In+SnO、LaTi、SnO、Ta、HfO、ZrO、CeO、WO、ZrO+TiO、Ta、Ta+ZrO、Ta+TiO、Ti、Ti、TiPr11+TiO、TiO、TiO、Nb、TiO+La、Pr11+TiO、SiO、SiOxy、CeO、MgF、ZnS、YFを挙げることができる。
【0033】
また、無機下地層11は、無機材料からなるサブ層(薄層)を1層以上積層した単層膜又は多層膜であってもよい。ここで、サブ層とは、無機下地層11を構成する物理的な一層を指す。例えば、無機下地層11を少なくとも1層以上のサブ層を積層した構成とし、各々のサブ層をそれぞれ光学干渉層として機能させることにより、当該反射防止膜10の反射率を極めて低くすることができる。
【0034】
無機下地層11を単層膜とする場合であっても、多層膜とする場合であっても、各層の光学設計(屈.折率、光学膜厚の設計)は、通常の反射防止膜を設計する場合と同様にマトリクス法により行うことができる。無機下地層11を構成するサブ層の積層数を増やすことにより、より高い反射防止性能をもつ反射防止膜10を得ることができる。
【0035】
より広帯域、且つ、より低反射の反射防止膜10を得るには、各サブ層の光学膜厚を150nm以下とすることが好ましい。各サブ層の光学膜厚が150nmを超える場合、必要のないリップルの多い設計となり当該反射防止膜10の平均反射率を低く保つことができないため、好ましくない。
【0036】
無機下地層11(各サブ層)を成膜する際には、真空成膜法を採用することが好ましい。無機下地層11を、真空成膜法により基材20の表面に成膜することにより、無機下地層11を基材20の表面に対して強固に密着させることができる。真空成膜法として、物理蒸着法及び化学蒸着法のいずれも好適に用いることができる。物理蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法を挙げることができる。また、化学蒸着法としては、CVD法(プラズマCVD法を含む)を挙げることができる。これらの中でも、特に、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法を好適に採用することができる。これらの方法を採用することにより、1nm以上150nm以下の範囲の物理膜厚の無機下地層11(若しくはサブ層)を精度よく成膜することができる。
【0037】
(3)中間層12
次に、中間層12について説明する。本実施の形態の反射防止膜10において、無機下地層11と中空シリカ層13との間に、密着層(及び光学干渉層)として機能する中間層12を備えている事は本件発明の主旨を妨げるものではない。本実施の形態では、当該中間層12として、中空シリカ層13の層構成材料の一つであるバインダー(樹脂被膜132となる樹脂材料)との密着性が良好な有機金属化合物を主成分とし、中空シリカ層13の層構成材料(中空シリカの一次粒子131、樹脂被膜132を構成する樹脂材料)を含む塗工液に対して濡れ性を有する層を採用している。このような中間層12を設けることにより、後述する通り湿式成膜法により成膜される中空シリカ層13を基材20(又は無機下地層11)に対して良好に密着させることができ、例えば、レンズ曲率の大きい小型のレンズ等についても基材20上に中空シリカ層13を良好に成膜することができる。
【0038】
ここで、有機金属化合物とは、分子中に少なくとも一つの金属−炭素結合を有する化合物を指し、金属と有機基が金属−炭素の直接結合により結びついた化合物をいう。また、上記バインダーとの密着性が良好な有機金属化合物とは、主として、当該バインダーとの密着性の良好な有機基を有する有機金属化合物を指し、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノルボルニル基、イソノルボルニル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシル基、その他としてアミド基、イミド基、ニトリル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基等を有する有機金属化合物を指す。例えば、これらの有機基を有する 中間層12内において、これらの有機基が互いに化学的に結合(架橋重合)した高分子網目構造を形成していてもよい。
【0039】
また、当該中間層12を密着層としてだけではなく光学干渉層としても機能させる場合、当該中間層12を構成する材料には、無機下地層11又は基材20との良好な密着性と、光学的に可視域で強い吸収を示さないことが求められる。これらの観点から、中間層12を構成する有機金属化合物に含まれる金属元素は、2族の金属元素(Mg、Ca、Ba)、3族の金属元素(Y)、ランタノイド(La、Ce、Pr)、4族の金属元素(Ti、Zr、Hf)、5族の金属元素(Ta、Nb)であることが好ましく、卑金属であるIn、Ga、Sn、半導体であるSi等であってもよい。なお、Siは厳密には金属ではないが、有機ケイ素化合物は有機金属化合物に含まれるものとして一般に取り扱われている。従って、本実施の形態では、上述した有機基とこれらの元素(金属元素)から成る化合物を有機金属化合物と称するものとする。
【0040】
これらの有機金属化合物の中でも、上記塗工液との濡れ性が良好な中間層12を得ることができるという観点から、中間層12を構成する有機金属化合物は、有機ケイ素化合物、又は、4族の金属元素を含む有機金属化合物であることが好ましく、有機ケイ素酸化物、又は、4族の金属元素を含む有機金属酸化物であることがより好ましい。これらの有機金属化合物は、材料自体において上記塗工液に対して濡れ性を有するか、或いは、中間層12を成膜した後に、後述する表面処理を施すことにより当該塗工液に対する濡れ性を付与することができる。
【0041】
ここで、上記塗工液との濡れ性を有するとは、当該中間層12に対する上記塗工液の接触角が45°未満であることをいい、当該接触角が低いほど、上記塗工液が中間層12の表面に良く濡れ、中間層12の表面にムラの無い、均一な中空シリカ層13を成膜することができるようになる。これと同時に、中間層12と中空シリカ層13との密着性もより良好なものとすることができる。当該観点から、当該接触角は、30°以下であることが好ましく、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがさらに好ましい。
【0042】
また、中間層12には、上記塗工液に対する濡れ性を向上するための表面処理が施されていることが好ましい。当該表面処理を中間層12に施すことにより、中間層12に対する上記塗工液の濡れ性をより良好にすることができる。具体的には、プラズマ処理、UV洗浄処理等を中間層12の表面に施すことにより、中間層12の表面の濡れ性を向上することができる。
【0043】
例えば、中間層12を真空成膜法により成膜した場合、チャンバーをリークせずに、アルゴンガス、水素ガス、ヘリウムガス、酸素ガス等を処理ガスとし、中間層12の表面にプラズマを照射する方法を採用することができる。当該方法によれば、中間層12を成膜する際に用いた真空成膜装置を用いて、成膜後、直ちに表面処理を施すことができるため好ましい。また、中間層12の成膜後、大気圧プラズマ処理、UV洗浄処理等により、中間層12の表面に濡れ性を向上してもよい。但し、中間層12に対する上記塗工液の接触角は、表面処理の有無によらず、上述の範囲内であることが好ましい。
【0044】
次に、中間層12の物理膜厚について述べる。中間層12の物理膜厚は、1nm以上150nm以下であることが好ましい。中間層12の物理膜厚が1nm未満である場合、凹凸曲面を有するレンズ等を基材20として採用した場合、このような凹凸曲面に対して、当該中間層12を均一に、且つ、ムラ無く成膜することは困難である。その結果、中間層12の表面に対して中空シリカ層13を成膜することが困難になり、中間層12を密着層として機能させることが困難になる。
【0045】
一方、中間層12の物理膜厚が150nmを超える場合、光学干渉層としての中間層12に要求される光学特性を満たすように膜設計を行うことが困難になる。すなわち、上記位相変化が適切な値となるように反射防止膜10の光学設計を行うことが困難になり、その結果、反射防止膜10の反射防止性能の低下を招く恐れがあるため好ましくない。当該観点から、中間層12の物理膜厚は120nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
【0046】
中間層12の屈折率は、1.30以上2.35以下の範囲内であることが好ましい。有機金属化合物膜を中間層12とする場合、中間層12の屈折率は概ね当該範囲内の値を示す。中間層12の物理膜厚が30nm以下である場合、当該中間層12は、反射防止膜10全体の光学特性に殆ど影響を及ぼさないため、中間層12の屈折率は上記範囲内であれば、任意の値であってもよい。但し、この場合、中間層12は光学干渉層としての機能はなくなり、密着層としてのみ機能することになる。
【0047】
一方、中間層12を密着層としてだけではなく、光学干渉層としても機能させる場合、中空シリカ層13の屈折率をn(1)、基材20を屈折率n(sub)とした場合、中間層12の屈折率n(2)は下記式(i)の関係を満たすことが好ましい。
【0048】
【数2】
【0049】
中間層12の屈折率n(2)が、基材20の屈折率n(sub)と、中空シリカ層13の屈折率n(1)とに基づいて、上記範囲内となる場合、当該反射防止膜10の光学的な層構成を中間層12と中空シリカ層13の二層構造とする場合であっても、当該反射防止膜10の反射防止性能を極めて高いものとすることができる。なお、当該反射防止膜10が無機下地層11を備える場合には、中間層12の屈折率や膜厚は、マトリクス法により光学特性を適宜設計することが好ましい。
【0050】
次に、中間層12の成膜方法について説明する。中間層12を成膜する方法は特に限定されるものではない。例えば、上述真空成膜法の他、湿式成膜法を採用してもよい。
【0051】
1)真空成膜法
真空成膜法により中間層12を形成する場合、無機下地層11において説明した方法と同様の方法を採用することができる。当該方法を採用することにより、膜厚の制御が容易であり、中間層12の物理膜厚が1nm以上150nm以下となるように、中間層12の物理膜厚を制御よく成膜することができる。従って、中間層12を上述のように光学干渉層として機能させる場合、中間層12の膜厚を精度よく制御することができるという観点から、当該真空成膜法を採用することが好ましい。
【0052】
当該実施の形態の反射防止膜10において、中間層12を真空成膜法により成膜する際には、特に、化学蒸着法(CVD法)を採用することが好ましい。化学蒸着法は、薄膜構成材料(中間層12を構成する成分)の構成元素を含む化合物を原料ガスとし、当該原料ガスをチャンバー内に供給し、気相または基材表面での化学反応により薄膜を形成する方法である。本件発明では、薄膜構成材料として目的とする有機金属化合物の構成元素を含む化合物を原料ガスとする。CVD法によれば、酸素ガスを導入しながら成膜することにより、酸素を含まない化合物を上記薄膜構成材料として用いた場合であっても、有機金属酸化物を主成分とする層を得ることができる。また、同じ薄膜構成材料を用いた場合であっても、導入する酸素ガスの量を原料ガスに対して適宜変化させる等、成膜条件を適宜調整することにより、中間層12の屈折率を変化させることができる。中間層12を光学干渉層として機能させる場合、膜厚及び屈折率の制御が容易であることから、化学蒸着法を採用することが好ましい。
【0053】
また、中間層12を化学蒸着法により成膜する際には、特に、プラズマCVD法を採用することが好ましい。プラズマCVD法によれば、上述したように、中間層12を成膜した後、チャンバーをリークせずに中間層12の表面にプラズマを照射して、中間層12の表面の濡れ性を向上することができるため、濡れ性の良好な中間層12を効率的に得ることができる。プラズマCVD法により、有機金属化合物を主成分とする中間層12を成膜する際の層構成材料として、以下のものを用いることができる。
【0054】
有機ケイ素化合物を主成分とする中間層12を成膜する場合、有機ケイ素化合物の構成元素を含む化合物を上記薄膜構成材料として用いる。具体的には、薄膜構成材料として、アルキルシラン、アルコキシシラン、アルキルシラザン等を用いることができる。また、アルキルシランとして、具体的には、テトラメチルシラン(TMS)等、アルコキシシランとして、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)等、アルキルシラザンとしてヘキサメチルジシラザン(HMDS)等を用いることができる。また、これら以外にもトリメトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジプロポキシシラン、メチルジブトキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジプロポキシシラン、エチルジブトキシシラン、プロピルジメトキシシラン、プロピルジエトキシシラン、プロピルジプロポキシシラン、プロピルジブトキシシラン、i-プロピルジメトキシシラン、i-プロピルジエトキシシラン、i-プロピルジプロポキシシラン、i-プロピルジブトキシシラン、ブチルジメトキシシラン、ブチルジエトキシシラン、ブチルジプロポキシシラン、ブチルジブトキシシラン、i-ブチルジメトキシシラン、i-ブチルジエトキシシラン、i-ブチルジプロポキシシラン、i-ブチルジブトキシシラン、s-ブチルジメトキシシラン、s-ブチルジエトキシシラン、s-ブチルジプロポキシシラン、s-ブチルジブトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、フェニルジエトキシシラン、フェニルジプロポキシシラン、フェニルジブトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルエチルメトキシシラン、メチルエチルエトキシシラン、メチルエチルプロポキシシラン、メチルエチルブトキシシラン、ジエチルメトキシシラン、ジエチルエトキシシラン、ジエチルプロポキシシラン、ジエチルブトキシシラン、メチルプロピルメトキシシラン、メチルプロピルエトキシシラン、メチルプロピルプロポキシシラン、メチルプロピルブトキシシラン、ジプロピルメトキシシラン、ジプロピルエトキシシラン、ジプロピルプロポキシシラン、ジプロピルブトキシシラン等を用いることができる。これらの薄膜構成材料を用いて、例えば、酸素ガスを導入しながらCVD法により基材20上(若しくは無機下地層11上)に中間層12を成膜すると、有機ケイ素酸化物を主成分とする中間層12を得ることができる。
【0055】
例えば、ヘキサメチルジシロキサンを薄膜構成材料(原料ガス)とし、CVD法により成膜した場合、導入する酸素ガスの量等に応じて、1.4以上1.65以下の範囲内の屈折率を有する有機ケイ素酸化物膜を得ることができる。例えば、中空シリカ層13の屈折率が1.17以上1.24以下の範囲内である場合、上記式(1)を満たす範囲内の屈折率を有する中間層12を形成することができる。また、ヘキサメチルジシラザンを原料ガスとして用いた場合、中間層12の表面の上記接触角を安定に維持することができ、塗工液に対する濡れ性が極めて良好になる。このため、中空シリカ層13の成膜性及び密着性がより良好になるため好ましい。
【0056】
4族の金属元素を有する有機金属化合物を主成分とする中間層12を成膜する場合、4族の金属元素を有する有機金属化合物の構成元素を含む化合物を上記薄膜構成材料として用いることができる。具体的には、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物等を用いることができ、有機チタン酸化物、有機ジルコニウム酸化物を用いることが好ましい。例えば、チタンイソプロポキシド(TPT)、テトラプロキシチタン、松本製薬工業株式会社製のオルガニックチタン等を層構成材料として用いることにより、有機チタン化合物を主成分とする中間層12を得ることができる。この場合、成膜後に熱処理を施すことにより、熱処理条件等に応じて、屈折率が1.7以上2.25以下の範囲内の有機チタン化合物から成る中間層を得ることができる。また、松本製薬工業株式会社製のオルガニックジルコニア等を層構成材料として用いることにより、有機ジルコニウム化合物を主成分とする中間層12を得ることができる。
【0057】
2)湿式成膜法
次に、湿式成膜法について説明する。中間層12を成膜する際に、湿式成膜法を採用する場合、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法を採用することができる。基材20の形状、成膜する膜厚等に応じて、適宜、適切な手法を採用することができる。これらの方法は、従来公知の方法等を適宜採用することができる。例えば、エチルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(N,N−ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシシプロピルトリメトキシシランやジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン等を用いることにより、有機ケイ素化合物から成る中間層12を得ることができる。
【0058】
その他、中間層12を成膜する際には、上述した以外の方法についても適宜採用することができ、例えば、熱加水分解による方法や、原子層堆積装置(ALD装置)等を用いて中間層12を成膜してもよい。
【0059】
(3)中空シリカ層13
次に、中空シリカ層13について説明する。本実施の形態において、中空シリカ層13は、図2(a)に例示するように、中空シリカの一次粒子131の外表面を樹脂被膜132で被覆した複合粒子130が、当該樹脂被膜132により互いに結着された層であり、複合粒子130間には空隙部133が設けられている。
【0060】
(i)中空シリカの一次粒子131
まず、中空シリカの一次粒子131について説明する。本件発明において、中空シリカとは、シリカから成る外殻内に中空部を備えたコアシェル構造(バルーン構造)を有するバルーン構造(中空構造)を有するシリカを指し、一次粒子とはこのシリカの粒子が他の粒子と凝集していない状態にあるものを指す。具体的には、図2(a)に模式的に示すように、シリカから成る外殻部131aと、この外殻部131aに周囲が完全に囲まれた中空部131bとから構成されたシリカ粒子を指す。中空シリカ層13の層構成材料として、このコアシェル構造を有する中空シリカの一次粒子131を主たる材料として採用することにより、中空シリカ層13の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減可能とした。また、シリカ粒子内に細孔を多数有する多孔質シリカの集合体から構成された多孔質シリカ層等と比較した場合、本件発明では、中空部131bが外殻部131aにより完全に包囲された中空シリカを用いるため、シリカ粒子自体の強度が高く、耐久性に優れた膜を得ることができる。更に、シリカ粒子の内部に液体等が侵入しないため、湿式成膜法により成膜する場合であっても、シリカ内部の中空部が樹脂材料等により充填される恐れがなく、材料自体の空隙率を維持して、屈折率が増加するのを防止することができる。
【0061】
平均粒径D50: 当該中空シリカの一次粒子の平均粒径D50は100nm以下であることが求められ、85nm以下であることが好ましく、65nm以下であることがより好ましい。中空シリカの一次粒子131の平均粒径D50が100nmを超える場合、入射光の散乱(ヘイズ)が発生する場合があり、上述した白曇りの原因になるため好ましくない。また、中空シリカの一次粒子131の平均粒径が100nmを超える場合、中空シリカ層13の物理膜厚を数nm単位で精密に制御することが極めて困難になる。膜厚にバラツキが生じると、上述した色ムラの原因となるため好ましくない。一方、中空シリカの一次粒子131は、その平均粒径D50は5nm以上であることが好ましい。中空シリカの一次粒子131の平均粒径D50が5nm未満である場合、中空シリカ層13内に中空シリカの一次粒子131の中空部131b以外の空隙部133を設けることが困難になる。
【0062】
粒径分布: また、中空シリカの一次粒子131の粒径分布は±15%以内であることが求められる。粒径分布はより狭いことが好ましく、例えば、±10%以内であることがより好ましい。当該一次粒子の粒径分布が±15%の範囲を超える場合においても、中空シリカ層13の物理膜厚を精密に制御することが困難になり、膜厚にバラツキが生じ、上記色ムラの原因となるため好ましくない。また、中空シリカの一次粒子131の粒径分布がより狭い、粒度の揃った一次粒子131を用いることにより、後述するように、中空シリカ層13内において一次粒子131をより均一に配列することが可能になる。
【0063】
配列: 中空シリカ層13内において、中空シリカの一次粒子131は、当該基材20の二次元面方向において、当該樹脂被膜132を介して所定の間隔を空けて規則的に配列されている。本件発明では、粒径が小さく、粒度の揃った一次粒子131が基材20の二次元面方向において、規則的に配列させることにより、中空シリカの層内の分布を均一なものとすることができ、且つ、膜厚のバラツキを抑制することができる。従って、中空シリカ層13内において、中空シリカによって入射光の散乱が起こったり、入射光の干渉条件にバラツキが生じるのを防止して、中空シリカ層13の白曇りや色ムラを防止することができる。
【0064】
ここで、中空シリカ層13を構成する中空シリカの一次粒子131の全てが等間隔に規則的に配列されていることが好ましい。しかしながら、現実には成膜技法上、中空シリカの一次粒子131を全て等間隔に規則的に配列させた膜を得るのは困難である。そこで、当該中空シリカ層13は、複数の複合粒子130が局所的に集合したクラスターの集合体から成るものとし、各クラスター内において前記中空シリカの一次粒子が所定の間隔に配列されていてもよい。すなわち、互いに隣接する一次粒子131間の離間距離が全て等間隔ではなくとも、クラスター内において所定の規則性を持って一次粒子131が配列されていればよい。中空シリカ層130内において、中空シリカの一次粒子131がこのようにそれぞれのクラスター内において所定の間隔で、規則的に配列されることにより、膜厚のバラツキを抑制することができ、白曇りや色ムラのない透明な薄膜を得ることができる。なお、本件発明において、クラスターとは、互いに所定の間隔を持って規則的に配列された一次粒子131の集合体を指し、各クラスター内において互いに隣接する一次粒子131間の離間距離は等間隔であることが好ましい。また、この各クラスター内において互いに隣接する一次粒子131間の離間距離をaで表し、互いに隣接するクラスター間の離間距離をbで表したときに、a<bの関係が成立する。
【0065】
ここで、中空シリカの一次粒子131の集合体の平均粒径をRとしたときに、基材20の二次元面方向において、上記各クラスター内の中空シリカの一次粒子131の配列パターンは、下記式(1)で表される固有周期(d)を有することが好ましい。
【0066】
【数3】
【0067】
(ii)樹脂被膜132
次に、中空シリカの一次粒子131の外表面を被覆すると共に、これらを互いに結着するバインダー材としても機能する樹脂被膜132について説明する。本件発明では、平均粒径D50が100nm以下であり、且つ、粒径分布が±15%以内の粒度の揃った微粒の中空シリカを用いる。このため、当該中空シリカを用いて湿式成膜法により成膜した場合、塗工液中又は塗布膜中で中空シリカの一次粒子131同士が凝集して、その二次凝集粒子の粒径或いは粒径分布が上記範囲を超える恐れがある。しかしながら、本件発明では、当該中空シリカの一次粒子131の外表面を樹脂被膜132で被覆すると共に、当該樹脂被膜132を介して一次粒子131同士を互いに結着させることにより、中空シリカ層13内において中空シリカの一次粒子131同士が凝集するのを抑制することができる。
【0068】
樹脂被膜132を構成する樹脂材料(高分子樹脂)は、熱変形温度を有することが求められる。これにより、後述する製造方法を採用することで、中空シリカの一次粒子131を規則的に配列させることができ、当該一次粒子131の配列パターンを上記式(1)で表される固有周期(d)を有するものとすることができるからである。なお、当該中空シリカ層13の製造方法については、後述する。
【0069】
具体的には、樹脂被膜132を構成する樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シクロオレフィン樹脂(例えば、ZEONEX(登録商標)等或いはこれらの単量体化合物を挙げることができる。これらの樹脂材料は紫外線硬化性、常温硬化性、又は熱硬化性の化合物であることが好ましい。
【0070】
(iii)空隙部133
本件発明において、中空シリカ層13内には図2(b)に示すように互いに結着された複合粒子130間に空隙部133が設けられる。中空シリカ層13内に、中空シリカの一次粒子131に存在する中空部131bと共に、複合粒子130間に空隙部133を設けることにより、中空シリカ層13内の空隙率を増加させ、当該中空シリカ層13の屈折率をシリカ自体の屈折率よりも更に低くすることができ、より反射防止性能の高い反射防止膜を得ることができる。また、本件発明では、空隙部133をバインダー材等により充填しなくとも、一次粒子131の外表面を樹脂被膜132で被覆した上で、この樹脂被膜132を介して一次粒子131同士を結着させているため、一次粒子131同士の密着性を向上することができ、且つ、個々の粒子(131)と基材20等との密着性を向上することができる。また、中空シリカの一次粒子131自体はシリカからなる外殻部131aにより囲まれているため、中空シリカ層13の外表面を樹脂等により被覆しなくとも、耐擦傷性や耐久性に優れた反射防止膜10を得ることができる。
【0071】
(iv)一次粒子131の体積率
ここで、中空シリカ層13において中空シリカの一次粒子131が占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。ここでいう中空シリカの一次粒子131が占める体積とは、中空シリカ層13において、中空シリカの一次粒子131の外殻部131aと、この中空部131bに囲まれる中空部131bとを含む中空シリカ球の全体積を意味する。中空シリカ層13において中空シリカの一次粒子131が占める体積が30体積%未満である場合、中空シリカ層13の耐久性や耐擦傷性が低下するため好ましくない。また、中空シリカの一次粒子131の占める体積が30体積%未満である場合、中空シリカ層13において樹脂被膜132が占める体積率が増加する。その結果、中空シリカ層13の屈折率を上記範囲内の値になるようにすることが困難になる場合がある。これらの観点から、中空シリカ層13において中空シリカの一次粒子131が占める体積は60体積%以上であるとより好ましい。一方、中空シリカ層13において中空シリカの一次粒子131が占める体積が99体積%を超える場合、中空シリカの一次粒子131同士を結着する樹脂被膜132が占める体積比が低く、中空シリカの一次粒子131同士を十分に結着することができず、その結果、中空シリカ層13を形成することが困難になる。中空シリカの一次粒子131同士を十分に結着し、中空シリカ層13内に存在する空隙部133の比率を増加させるという観点から、中空シリカ層13において中空シリカの一次粒子131が占める体積は90体積%以下であることがより好ましい。
【0072】
(v)屈折率
当該中空シリカ層13の屈折率は、1.15以上1.32以下であることが好ましい。中空シリカ層13の屈折率が1.15未満の場合、中空シリカ層13内の空隙率が高くなり過ぎ、中空シリカ層13の耐久性等が低下するため、好ましくない。当該観点から、中空シリカ層13の屈折率は1.17以上であることがより好ましい。一方、中空シリカ層13の屈折率が1.30を超える場合は、設計中心波長における反射率が高くなるため好ましくない。従って、当該観点から、中空シリカ層13の屈折率は上記範囲内において低い方が好ましく、1.30以下であることがより好ましい。
【0073】
(vi)膜厚
また、中空シリカ層13の物理膜厚は、100nm以上180nm以下の範囲内であることが好ましい。中空シリカ層13の物理膜厚が100nm未満である場合や180nmを超える場合、上記位相変化を適切な値とすることが困難になり、反射防止膜10の反射防止性能が低下する恐れがあるため、好ましくない。
【0074】
(vii)成膜方法
次に、当該中空シリカ層13の成膜方法について説明する。中空シリカ層13は、湿式成膜法により成膜される。湿式成膜法としては上述した方法を適宜採用することができる。いずれの方法を用いた場合でも、上記中空シリカの一次粒子131の外表面を樹脂被膜132により被覆した複合粒子130を含む塗布液を調製する塗布液調製工程と、当該塗布液を基材上に塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、当該塗布膜が形成された基材を当該高分子樹脂の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱する加熱工程とを備える。また、前記塗布膜形成工程の前に、中空シリカの一次粒子131の外表面を高分子樹脂で被覆する工程を備えてもよい。
【0075】
このように、塗布膜形成工程の後、例えば、高温の真空オーブン等に当該塗布膜が形成された基材を入れて、加熱工程を行うことにより、樹脂被膜132を構成する樹脂材料が熱変形温度以上に加熱され、中空シリカの一次粒子131同士が互いに弱い結合力を保ちながらその位置を移動させる。これにより、塗布膜内において当該一次粒子131の再配列が起こり、一次粒子131と樹脂被膜132との相互作用により生じる所定の秩序をもって、自己組織化が促進される。その結果、互いに隣接する中空シリカの一次粒子131間の間隔が「粒径×1」〜「粒径×√2」倍の間で調整され、当該中空シリカの一次粒子131の配列が規則性を有するようになる。このため、中空シリカ層13内において、中空シリカの一次粒子131は、結晶構造に例えると、最密六方充填構造或いは面心立方格子構造を構成する各元素の配置と同様な位置関係で配列される。
【0076】
本件発明では、粒径分布が±15%の範囲内の比較的粒度の揃った一次粒子131を用いて中空シリカ層13を形成する。しかしながら、当該一次粒子131の粒径が完全に均一である訳ではないため、互いに隣接する粒子間の距離を完全に等間隔にすることは困難である。このため、現実には、上記複合粒子130が局所的に集合して、最密六方充填構造又は面心立方格子構造の様な状態で一次粒子131が所定の間隔で規則的に配列されたクラスターが形成される。このため、当該方法により得た中空シリカ層13は、上述のように一次粒子131が規則的に配列された構造を取り、例えば、当該中空シリカ層13の二次元面画像に対して、二次元フーリエ変換を行った場合、特定の周期を示すようになる。なお、上記所定の間隔は、各クラスター毎に異なる間隔でよいのは勿論である。
【0077】
加熱温度は、中空シリカの一次粒子131の外表面を被覆する樹脂被膜132を構成する樹脂材料の熱変形温度以上の温度とする。当該加熱温度は、熱変形温度(Heat Deflection Temperature)以上、熱分解温度以下の範囲とすることがより好ましい。樹脂の熱分解温度を超える温度で加熱した場合、樹脂被膜132が分解してしまい、中空シリカの一次粒子131を十分に結合させることができなくなる恐れがある。また、樹脂被膜132が分解した場合、樹脂被膜132が変色する恐れがあり、その結果、反射防止膜10に光の吸収が生じ、光学特性の劣化を招く恐れがある。加熱温度を熱変形温度以上とすることにより、中空シリカの一次粒子131の再配列を促進することができ、中空シリカの一次粒子131の配列パターンを上述したとおり規則的なものとすることができる。
【0078】
このように、当該方法によれば、湿式成膜法により基材20上に塗布膜を形成した後、加熱工程においいて当該塗布膜が形成された基材20を中空シリカの一次粒子131の外表面を被覆する樹脂被膜132の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱することにより、簡易に中空シリカの一次粒子を所定の間隔を空けて規則的に配列させることができ、中空シリカの一次粒子131同士が凝集するのを抑制し、上記白曇りや色ムラのない高い反射防止性能を有する反射防止膜10を製造することができる。
【0079】
(4)機能層14
次に、機能層14について説明する。本件発明においては、図1に示すように、低屈折率層としての中空シリカ層13の表面に、屈折率が1.30以上2.35以下であり、且つ、物理膜厚が0.1nm以上30nm以下の機能層14を設けてもよい。当該機能層14は、当該反射防止膜10の反射防止性能に光学的な影響を与えない透明な極薄い膜であって、反射防止膜10の表面の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、防曇性、親水性、耐防汚性、導電性等の向上等の機能を有する層を指す。
【0080】
ここで、機能層14の屈折率が1.30以上2.35以下であって、且つ、物理膜厚が0.1nm以上30nm以下であれば、本件発明に係る反射防止膜10による反射防止効果に対する光学的な影響を無視することができる。屈折率が上記範囲を超える場合、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的に影響を及ぼす恐れがある。また、膜厚が1nm未満であると、機能層14を設けても当該機能層14に要求される機能を発揮することができず好ましくない。また、膜厚が30nmを超える場合、屈折率が上記範囲内であっても、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的な影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。
【0081】
機能層14を構成する材料としては、屈折率が1.30以上2.35以下の透明材料を用いることができる。屈折率が当該範囲内であって透明な材料であれば、反射防止膜10の表面に付与すべき機能に応じて、適宜、適切な材料を選択すればよい。例えば、屈折率が当該範囲内の透明な無機材料として、SiO/SiO/SiO/Al/ZrOとTiOとの混合物/LaとTiOとの混合物/SnO/ZrO/LaとAlとの混合物/Pr/ITO(酸化インジウムスズ)/AZO(酸化亜鉛アルミニウム)などを挙げることができる。また、DLC(ダイアモンドライクカーボン)/HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)/エポキシ系の樹脂/アクリル系の樹脂(特に、PMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)/フッ素系の樹脂等を用いることができる。また、これらの材料を含む各種ハードコート剤を用いてもよい。機能層14の形成に際しては、材料及び膜厚に応じて適宜、適切な成膜方法を採用することができる。
【0082】
機能層14を中空シリカ層13の表面に設ける場合、中空シリカ層13の物理膜厚と機能層14の物理膜厚とを合計した全物理膜厚が100nm以上180nm以下とすることが求められる。この範囲を超えると、当該反射防止膜10の反射防止効果が低下する場合があり好ましくない。
【0083】
以上説明した本実施の形態の反射防止膜10では、上述した様に反射防止膜10の白曇りや色ムラを抑制し、高い反射防止性能が得られる。また、本実施の形態では、基材20上に、樹脂被膜132との密着性のよい有機金属化合物を主成分とし、中空シリカ層13を形成する際に用いられる塗工液に対して濡れ性を有する中間層12を備えるため、中空シリカ層13を中間層12の表面に湿式成膜法により良好に成膜することができ、且つ、中空シリカ層13を中間層12を介して基材20に密着させることができる。また、中空シリカの一次粒子131は樹脂被膜132により中間層12に対して良好に密着するため、中空シリカの一次粒子131の脱落等に伴う中空シリカ層13の剥離等を防止することができ、外観の良好な反射防止膜10を製造することができる。また、中空シリカ層13の構成成分である中空シリカの一次粒子131自体は耐久性及び安定性に優れる材料であるため、当該反射防止膜10の耐久性及び安定性を優れたものとすることができる。更に、本件発明に係る反射防止膜10は、各層間或いは基材20との界面において生じる界面反射光を利用して、広い波長範囲の光線に対して優れた反射防止特性を示す。
【0084】
2.光学素子
本件発明に係る光学素子100は、上記記載の反射防止膜10を備えることを特徴とする。光学素子100としては、撮影光学素子や投影光学素子を挙げることができ、具体的には、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)などを挙げることができる。また、レンズとして、例えば、一眼レフカメラの交換レンズやデジタルカメラ(DSC)に搭載されるレンズ、携帯電話機に搭載されるデジタルカメラ用のレンズ他、各種のレンズが挙げられる。なお、図1に示す光学素子100は、本件発明の一例であり、層構成等を模式的に示したものに過ぎない。
【0085】
このような光学素子100によれば、上述した本実施の形態の反射防止膜10を備えているため、当該光学素子に対する入射光の透過率を略100%にすることができ、光学特性に優れた光学素子を得ることができる。
【0086】
以上説明した本実施の形態は、本件発明に係る反射防止膜、光学素子100及び反射防止膜の製造方法の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能であるのは勿論である。以下、実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は下記の実施例に限定されるものではないは勿論である。なお、本件発明に係る反射防止膜は以下の実施例に示すように、上述した低屈折率層としての中空シリカ層13のみを備える構成としてもよいのは最初に述べたとおりである。また、実施例においては、各層等に対する符号の表示を省略する。
【実施例1】
【0087】
実施例1では、実施の形態で説明した複合粒子として、中空シリカの一次粒子の外表面をシリコーン被膜(樹脂被膜)で被覆したものを用いて中空シリカ層を形成した。具体的には次のとおりである。
【0088】
まず、平均粒径D50(平均外径)が60nmの中空シリカ微粒子(中空シリカの一次粒子;以下同じ)と、ビニルトリエトキシシラン(vinyltriethoxysilane:VTES)とを、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に分散させた。この混合溶液に酸を滴下後、強い攪拌と共に、溶液中でシリカ微粒子とVTESとを反応させて、修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液に、1分子にヒドリド基を2以上有する平均分子量100のシリコーンオリゴマーを、VTESの5%当量添加し、さらに、白金を含む触媒化合物を添加した。短波長紫外線照射装置で10分間当てて、表面が親水化された上記基材であるSCHOTT AG社製のN−BK7から成る直径2cm、厚さ1mmの円板(レンズ)を、前述の調整した塗布液混合溶液で満されたディップ槽に浸漬した。浸漬された基材を5mm/secの速度でディップ槽から引き上げ、基材の表面に塗布膜を形成した。引き上げられた基材を200度の温度環境下で1時間静置した。修飾シリカ粒子と、ヒドリロ基で置換されたシラン系化合物とを反応させることで、中空シリカ微粒子の外表面にシリコーン皮膜を備えた複合粒子が形成されると共に、このシリコーン被膜により互いに結着された中空シリカ層から成る反射防止膜が基材の表面に形成された。形成された反射防止膜には、中空シリカの中空部とは別に複合粒子間に空隙部が形成された(図2参照)。得られた中空シリカ層の屈折率は1.27であり、その物理膜厚は110nmであった。
【実施例2】
【0089】
実施例2では、上記複合粒子として、中空シリカの一次粒子の外表面をポリスチレン樹脂被膜で被覆したものを用いて中空シリカ層を形成した。具体的にはつぎのとおりである。
【0090】
まず、平均粒径D50が60nmの実施例1と同じ中空シリカ微粒子と、トリクロロ(4−クロロメチルフェニル)シランとトリエトキシアミンを、テトラヒドロフラン(THF)溶液に分散させた。この混合溶液を、強い攪拌と共に、24時間110℃で過熱還流することで、溶液中でシリカ微粒子表面のシラノール基とトリクロロ(4−クロロメチルフェニル)シランとを脱アルコール反応させて、修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液にスチレンを添加し、原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization, ATRP)によりポリスチレンを重合させることで、中空シリカ微粒子表面をポリスチレン高分子鎖で修飾した。この混合溶液を攪拌して、塗布液を調製した。そして、実施例1と同じ基材を用いて、実施例1と同様にして、当該基材の表面に塗布膜を形成した。そして、この塗布膜が形成された基材を設定温度150度の真空オーブン中に1時間静置した。有機溶剤を揮発させ、修飾シリカ粒子の有機高分子鎖を溶融させることで、中空シリカ微粒子の外表面にポリスチレン樹脂皮膜を備えた複合粒子130が形成されると共に、このポリスチレン樹脂皮膜により互いに結着された中空シリカ層から成る反射防止膜を基材の表面に形成された。形成された反射防止膜には、中空シリカの中空部とは別に複合粒子間に空隙部が形成された。当該中空シリカ層の屈折率は1.25であり、その物理膜厚は108nmであった。
【実施例3】
【0091】
実施例3では、上記複合粒子として、中空シリカの一次粒子の外表面をポリメタクリレート被膜で被覆したものを用いて中空シリカ層を形成した。具体的には次のとおりである。
【0092】
まず、平均粒径D50が60nmの実施例1と同じ中空シリカ微粒子と、3−アミノプロピルトリメトキシシランをトルエン溶液中に分散させた。この混合溶液を、強い攪拌と共に、24時間110℃で過熱還流することで、溶液中で修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液に24時間とジメチルホルムアミド溶液中で強い攪拌と共に、24時間140℃で過熱還流することで、ポリアクリル酸と重合させることで、表面をポリアクリル酸高分子鎖で修飾した中空シリカ微粒子を得た。そして、実施例1と同じ基材を用いて、実施例1と同様にして、当該基材の表面に塗布膜を形成した。そして、この塗布膜が形成された基材を設定温度150度の真空オーブン中に1時間静置した。有機溶剤を揮発させ、修飾シリカ粒子の有機高分子鎖を溶融させることで、中空シリカ微粒子の外表面にポリメタクリレート皮膜を備えた複合粒子が形成されると共に、このポリメタクリレート皮膜により互いに結着された中空シリカ層から成る反射防止膜が基材の表面に形成された。形成された反射防止膜には、中空シリカの中空部とは別に複合粒子間に空隙部が形成された。当該中空シリカ層の屈折率は1.20であり、その物理膜厚は112nmであった。
【実施例4】
【0093】
実施例4では、実施例1(実施例3)と同じ基材を用い、当該基材上に、上述した無機下地層を形成し、この無地下地層上に実施例3と同様の中空シリカ層を積層した光学的多層構造を有する反射防止膜を製造した。
【0094】
具体的には、次のようにして反射防止膜を作製した。まず、上記基材の表面に、無機下地層をLeybold Optics社製のARES1510を用いて真空蒸着法によって成膜を行った。無機下地層は、上記基材の表面に極薄膜のTiO+ZnO(反射率n=2.10)を7nmと、薄膜のSiO(n=1.48)を120nmとを順次積層した2層からなる構成とした。
【0095】
次に、無機下地層を形成した基材上に、実施例3と同様にして中空シリカ層を形成し、無機下地層と中空シリカ層とが積層された光学的二層構造を有する反射防止膜を得た。当該中空シリカ層内には、実施例3と同様に複合粒子間に空隙部が形成されており、当該中空シリカ層の屈折率及び物理膜厚は、実施例3と同様にそれぞれ1.20、112nmであった。
【比較例】
【0096】
[比較例1]
比較例1では、中空部を備えていない通常のシリカ微粒子(以下、便宜的に「充填シリカ微粒子」と称する場合がある。)と、シランカップリング剤とを用いて、充填シリカ層からなる反射防止膜を製造した。
【0097】
まず、平均粒径D50が30nmの充填シリカ微粒子と、トリメトキシシシラン(TMOS)とを、THF溶液に分散させた。この混合溶液に酸を滴下後、強い攪拌と共に、溶液中で充填シリカ微粒子とTMOSとを反応させて、修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液に、テトラエチルシラン(TEOS)を、全体の5%当量添加し、さらに、白金を含む触媒化合物を添加した。この混合溶液を攪拌して、塗布液を調製した。そして、実施例1と同じ基材を用いて、実施例1と同様に塗布液が満されたディップ槽に浸漬した。浸漬された基材を2.5mm/secの速度でディップ槽から引き上げ、基材の表面に塗布膜を形成した。この塗布膜が形成された基材を設定温度200度の真空オーブン中に1時間静置した。修飾シリカ粒子と、アルコキシル基で置換されたシラン系化合物とを脱アルコール反応させることで、充填シリカ微粒子同士が硬く結合した、充填シリカ層から成る反射防止膜が基材の表面に形成された。得られた反射防止膜をSEM観察したところ、形成された充填シリカ層内には充填シリカ微粒子間に複数の空隙部が観察された。この充填シリカ層の屈折率は1.30であり、その物理膜厚は100nmであった。
【0098】
[比較例2]
比較例2では、実施例1〜実施例4と同じ中空シリカ微粒子を用い、これをシランカップリング剤により結着した中空シリカ層を得た。
【0099】
具体的には、次の様に中空シリカ層を形成した。まず、平均粒径D50が60nmの中空シリカ微粒子と、ビニルトリエトキシシラン(vinyltriethoxysilane:VTES)とを、N,N−ジメチルホルムアミド溶液に分散させた。この混合溶液に酸を滴下後、強い攪拌と共に、溶液中でシリカ微粒子とVTESとを反応させて、修飾シリカ粒子を発生させた。修飾シリカ粒子を発生させた混合溶液に、テトラエチルシラン(TEOS)を、VTESの5%当量添加し、さらに、白金を含む触媒化合物を添加した。この混合溶液を攪拌して、塗布液を調製した。そして、実施例1と同じ基材を塗布液が満されたディップ槽に浸漬した。浸漬された基材を2.5mm/secの速度でディップ槽から引き上げ、基材の表面に塗布膜を形成した。この塗布膜が形成された基材を設定温度200度の真空オーブン中に1時間静置した。修飾シリカ粒子と、アルコキシル基で置換されたシラン系化合物とを脱アルコール反応させることで、中空シリカ微粒子がシランカップリング剤により互いに結合された中空シリカ層から成る反射防止膜が基材の表面に形成された。当該中空シリカ層の屈折率は1.27であり、その物理膜厚は108nmであった。当該中空シリカ層内には、中空シリカ粒子の中空部とは別に空隙部が形成されたが、実施例1とは異なり中空シリカ粒子の外表面には有機樹脂被膜が形成されておらず、バインダーとして機能する有機樹脂材が存在していない。
【0100】
[評価]
以上の実施例および比較例において形成した反射防止膜を、以下の方法により評価した。
【0101】
1.評価方法
上記実施例1〜実施例4及び比較例1、比較例2で得られた各反射防止膜について、反射防止特性、外観及び各シリカ層内におけるシリカ微粒子の配列構造について評価した。
【0102】
(1)反射防止特性の測定
上記各反射防止膜に対する波長域を400〜700nmの範囲で、各反射防止膜の正反射の分光反射率を測定した。分光反射率の測定に際しては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4000を用いた。また、基材の裏面からの反射を防ぐため、サウンドブラスターで裏面を荒らした上で水性の黒インキを塗布し、その後、測定を行った。
【0103】
(2)外観の評価
上記各反射防止膜の成膜性を、反射防止膜の外観により評価した。反射防止膜を成膜した後の上記各反射防止膜の外観をそれぞれ目視により評価した。
【0104】
(3)反射防止膜内におけるシリカ微粒子の配列構造
上記各反射防止膜中のシリカ層を構成するシリカ微粒子の配列構造を調べるため反射膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。SEM観察は、日本電子製JSM−6500を用いた。さらに、得られたSEM観察像を画像解析することで、反射防止膜中のシリカ層を構成するシリカ微粒子の配列構造の周期性を調べた。
【0105】
2.評価結果
(1)反射防止特性
図3図6に、それぞれ実施例1〜実施例4で作製した反射防止膜の分光反射率の測定結果を示す。また、図7及び図8に、比較例1及び比較例2で作製した反射防止膜の分光反射率のの測定結果を示す。さらに、これらの400nm〜700nmにおける最低反射率を表1に示す。実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2で作製した反射防止膜は、いずれも入射光の波長域が400nm〜700nmである場合において、正反射の平均反射率は0.6%以下を達成していた。
【0106】
【表1】
【0107】
(2)外観
表1に、各実施例及び各比較例で作製した反射防止膜の外観を評価した結果を示す。表1において、「○」は反射防止膜の外観が良好であることを示し、「△」は外観が良好でないことを示している。表1に示すように、いずれの比較例1、2の反射防止膜も外観が良好でないことが確認された。これに対して、実施例1〜実施例4の反射防止膜は、何れも外観が良好であることが確認された。このことから、樹脂皮膜(高分子樹脂)でシリカ微粒子の外表面が被覆されたもの(複合粒子)を、この樹脂被膜を構成する高分子の熱変形温度以上の温度で所定の時間加熱することにより、塗布膜内においてシリカ微粒子を再配列させることができ、その結果、湿式成膜法で成膜される中空シリカ層の成膜性が向上し、外観上、白曇り及び色ムラのない均一な反射防止膜が得られることが確認された。
【0108】
一方、外表面に樹脂被膜を備えないシリカ微粒子を用いて、シリカ層を成膜した場合、その成膜性に劣り、層内におけるシリカ微粒子の配列がランダムであり、外観に色ムラ等が生じることが確認された。図9は、比較例1の反射防止膜が成膜された基材に強い光を当てて横から観察した写真である。図9に示すように、反射防止膜には白濁が観測され、色ムラが生じていることが分かる。このように、シリカ微粒子の外表面を樹脂被膜で被覆せずに、湿式成膜法によりシリカ層を成膜した場合、当該シリカ層を秀麗に成膜することができず、その結果、反射防止膜の外観が劣化したことを示唆している。
【0109】
(3)シリカ微粒子の配列構造
実施例1で得た反射防止膜の表面のSEM観察像を図10に示す。反射防止膜(中空シリカ層)の表面には、中空シリカ微粒子は局所的に集合したクラスター構造を有している。この中空シリカ微粒子の配列の周期性の有無をSEM画像を二次元フーリエ変換を行い、解析した。具体的には、SEM画像(図10(a))の画像データを汎用の画像処理ソフトにより通知データへ変換した後に、数値計算ソフトによって2次元フーリエ変換し、中空シリカの一次粒子の配列パターンの周期性の有無を判断した。図10(b)に2次元フーリエ変換後のパワーズペクトルをドット強度で表した図を示す。図10(b)に示すように、本実施例1の反射防止膜の表面を表すSEM画像の2次元フーリエ変換像は非常にブロードな2重のリング、すなわちハローパターンを示した。2次元フーリエ変換像がハローパターンを示すという事は、中空シリカ層を構成する中空シリカ微粒子が均一な粒子径を有し、互いに隣接する中空シリカ微粒子間の間隔が一定であることを示唆しており、これらが複数集合して固有周期(d)で配列された複数の一次粒子131から成るクラスター構造を形成することが確認された。すなわち、本件発明に係る反射防止膜は、中空シリカ微粒子が互いに隣接するシリカ微粒子と所定の間隔を空けて規則的に配列されていることが確認された。
【0110】
更に、当該実施例1で得た反射防止膜及び基材の断面のSEM写真を図11に示す。図11に示すように、実施例1の反射防止膜では中空シリカ層内において、中空シリカ微粒子が整然と配列された2層構造を形成していることが確認される。一層目には配列された中空シリカ微粒子の隣接する粒子間に二層目の中空シリカ微粒子の径の中心位置が配置するように、配列されている。当該中空シリカ微粒子が最密六方充填構造と同様の配列で中空シリカ層内に配列されたと想定したときの当該中空シリカ層の理論膜厚及び理論屈折率、当該中空シリカ微粒子が面心立方格子構造と同様の配列で配列されたと想定したときの当該中空シリカ層の理論膜厚及び理論屈折率と、当該中空シリカ層の実際の膜厚及び屈折率とに基づいて計算を行った結果、実施例1で形成した中空シリカ層内において、中空シリカ微粒子の配列構造は最密六方充填構造と面心立方格子構造とが混在していることが確認された。
【0111】
次に、図11及び図12に比較例1および比較例2で得た反射防止膜のSEM画像(a)と、二次元フーリエ変換像(b)を示す。二次元フーリエ変換は上記と同様にして行った。図11及び図12に示すように、比較例1及び比較例2で得た反射防止膜では、二次元フーリエ変換像はハローパターンを示さず、シリカ層を形成するシリカ微粒子の配列も、互いに隣接するシリカ微粒子間の距離もランダムであることが確認された。
【0112】
以上の事から、本発明による反射防止膜は、外表面に樹脂被膜を備えない中空シリカ微粒子、或いは、シリカエアロゾルを用いて形成されたシリカ層を備える反射防止膜と比較した場合、中空シリカ微粒子の凝集が抑制されており、且つ、中空シリカ微粒子を層内に規則的に配列することにより、中空シリカ微粒子の層内の分布及び当該中空シリカ層の膜厚を均一にすることができ、白曇りや色ムラを抑制して高い反射防止性能を実現することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本件発明に係る反射防止膜では、中空シリカを用いて湿式成膜法により白曇りや色ムラが抑制された反射防止性能の高い反射防止膜を得ることができるため、各種光学素子の反射防止膜として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0114】
10・・・ 反射防止膜
11・・・無機下地層(機能層/光学干渉層)
12・・・中間層(機能層/光学干渉層/密着層)
13・・・中空シリカ層(低屈折率層)
14・・・機能層
20・・・基材
100・・・光学素子
131・・・一次粒子
131a・・・外殻部
131b・・・中空部
132・・・樹脂被膜
133・・・空隙部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13