(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記信号バイパス部は、前記第1のバイパス部に並列に接続され、3kHz以上の周波数成分の発振を抑制する第2のバイパス部を更に含むことを特徴とする請求項2に記載のこもり音低減装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベントを設ける手法を採用する場合、ハウリングを防止するためにゲインや出力音圧を制限しなくてはならないため、使用者が聴こえやすい程度の十分な音圧を得ることが難しい場合がある。また、外耳道用マイクロホンの出力信号に基づき、こもり音を打ち消す手法を採用する場合、こもり音を打ち消す信号を生成するための高度な信号処理技術が必要となり、構成の複雑化と消費電力の増加が避けられない。さらに、外耳道用マイクロホンの出力信号に基づき、外耳道用マイクロホンと負帰還回路を設ける手法を採用する場合、構成は簡素化できるものの、負帰還ループにおいてイヤホン(本願発明のレシーバに相当)から外耳道内を伝搬する音の経路を経て外耳道用マイクロホンに至る伝達特性が介在することになり、その伝達特性(レシーバ・外耳道内の音・外耳道用マイクロホンの経路の伝達特性において、レシーバの伝達特性の影響が大きい。)を反映して負帰還信号の周波数成分(例えば、50Hz以下及び3kHz以上)で位相の変化が大きくなり発振するという問題がある。このように、従来の補聴器等によれば、比較的簡素な構成で、外耳道内の密閉時のこもり音を有効に低減する手法は提案されていなかった。
【0006】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、外耳道用マイクロホンと負帰還部を用いる構成で問題となる発振を有効に防止しつつ、使用者にとって不快な外耳道内のこもり音を十分に低減し得るこもり音低減装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のこもり音低減装置は、伝送経路を介して入力される電気信号を音に変換して外耳道内の空間に出力するレシーバ(4)と、前記外耳道内を伝搬する音を電気信号に変換して負帰還経路に出力する外耳道用マイクロホン(5)と、前記負帰還経路は電気信号のうち所定の低域周波数成分を前記伝送経路に負帰還させる負帰還部(40、41)と、前記レシーバの入力側から前記外耳道用マイクロホンの出力側までを電気的に接続する信号バイパス部(42)とを備えて構成され、前記信号バイパス部は、前記伝送経路の電気信号のうち、少なくとも所定の周波数成分を所定のゲインで増幅し、前記負帰還経路に伝送することを特徴とする。
【0008】
本発明のこもり音低減装置によれば、外耳道内の密閉時に伝搬するこもり音への対策のため、外耳道用マイクロホンから、負帰還経路、伝送経路、レシーバを経由して外耳道内に至る負帰還ループが構成されるとともに、この負帰還ループに対し、レシーバの入力側から外耳道用マイクロホンの出力側に至る信号バイパス部が構成される。従って、こもり音の低域周波数成分を負帰還によって減衰させるとともに、外耳道内を音が伝搬する経路の伝達特性に起因する位相の変化の影響を、電気的な経路である信号バイパス部によって抑制することができる。よって、発振を生じやすい所定の周波数成分を、信号バイパス部を介してバイパスさせることで、その周波数成分の発振を防止し、十分な負帰還量を確保して、こもり音を確実に低減することができる。
【0009】
本発明の負帰還部として、例えば、負帰還経路の電気信号を増幅するとともに、負帰還経路の電気信号から低域周波数成分(例、1kHz以下)を抽出し、得られた信号の極性を反転させる低域反転増幅部を含む構成を採用することができる。
【0010】
本発明の信号バイパス部は、多様な構成で実現することができる。例えば、信号バイパス部には、低域周波数の発振を抑制する第1のバイパス部を含めることができる。また例えば、信号バイパス部には、高域周波数の発振を抑制する第2のバイパス部を更に含め、第1のバイパス部と第2のバイパス部を並列に接続することができる。この場合、第1のバイパス部を、伝送経路の電気信号を増幅する第1のアンプにより構成するとともに、第2のバイパス部を、伝送経路の電気信号を増幅する第2のアンプと、伝送経路の電気信号から所定の高域周波数成分を抽出するハイパスフィルタとにより構成することができる。この構成により、負帰還ループにおいては、こもり音を含む周波数成分の負帰還量を増加し、こもり音を十分に低減させることができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の補聴器は、上述のこもり音低減装置と、外部音を電気信号に変換する外部マイクロホンと、前記外部マイクロホンの出力信号に対し補聴処理を施す補聴処理部と、前記補聴処理部の出力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部とを備えて構成される。また、本発明のオーディオ用イヤホンは、上述のこもり音低減装置と、外部からの入力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部とを備えて構成される。また、本発明の耳せんは、上述のこもり音低減装置を備えて構成される。これらの補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せんのいずれに関しても、上記こもり音低減装置により得られる作用、効果を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、外耳道用マイクロホンを用いて負帰還をかける手法を前提としつつ、外耳道内を経路とする伝達特性による位相の変化の影響を信号バイパス部によって抑制することで、所定の周波数成分で生じる発振を防止することができる。よって、複雑な構成と消費電力の増加を回避しつつ、負帰還部の負帰還量を増加させて確実にこもり音を低減させ、外耳道を密閉しても使用者にとって不快なこもり感や圧迫感の少ないこもり音低減装置を実現することができる。また、このこもり音低減装置を、補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せんに組み込むことにより、これらの機器の使用時において、こもり音を確実に低減して、こもり感などの不快感を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。以下の実施形態は、使用者の外耳道内に装着可能な補聴器、耳せん、オーディオ用イヤホンと、これらの機器の主要部であるこもり音低減装置のそれぞれに対し、本発明を適用した例である。
[補聴器]
以下、本発明を適用した補聴器の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の補聴器の概略の構成を示すブロック図である。
図1に示す補聴器は、使用者の耳に挿入可能な形状を有する筐体としてのケースC内に、外部マイクロホン2と、信号処理部3と、レシーバ4と、外耳道用マイクロホン5と、電池ホルダ6及びその内部のボタン電池7とをそれぞれ収容して構成される。ケースCは、耳の外部空間に面するフェースプレートC1と、外耳道10に沿って配置されるシェルC2からなる。フェースプレートC1には、外部マイクロホン2が音口などを介して取り付けられ、シェルC2のうち外耳道10の奥の鼓膜11との間の空間Sに面した部分には、レシーバ4と外耳道用マイクロホン5がそれぞれ音口などを介して取り付けられている。
【0015】
図1の構成において、外部マイクロホン2は、外部空間から伝わる音を収集し、電気信号に変換する。これに対し、外耳道用マイクロホン5は、外耳道10内の空間Sから伝わる音を収集し、電気信号に変換する。外部マイクロホン2及び外耳道マイクロホン5としては、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、動電型、コンデンサ型、圧電型などの多様なマイクロホンを用いることができる。また、外耳道用マイクロホン5の近傍のレシーバ4は、電気信号を音に変換し、上記の空間Sに出力する。レシーバ4としては、動電型や電磁型などのレシーバを用いることができる。信号処理部3は、外部マイクロホン2及び外耳道用マイクロホン5からそれぞれ入力される電気信号と、レシーバ4に出力される電気信号とに対して信号処理を施す。信号処理部3としては、ディジタル信号処理を実行可能なDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成してもよいが、アナログ信号処理を実行可能なアナログ回路を用いて構成してもよい。電池ホルダ6の内部に保持されるボタン電池7は、補聴器の各構成部材に対して電源を供給する。なお、必要に応じて電池ホルダ6の開口部を開閉してボタン電池7の交換が可能に構成されている。
【0016】
上記の構成のうち、外耳道10内の空間S側に位置するレシーバ4及び外耳道用マイクロホン5は、信号処理部3の機能に基づいて、外耳道10内のこもり音を低減するために必要な部品である。すなわち、ケースCによって外耳道10の開口が塞がれていると、補聴器の使用者の自声や咀嚼音などが外耳道10に伝わったときに、その音が大きく聞こえる(こもり音)ため、使用者に不快感(こもり感)を与える恐れがある。そのための対策として、信号処理部3の機能に基づき、こもり音の低減処理を実行するものであるが、詳細については後述する。
【0017】
次に
図2は、本実施形態の補聴器において、信号処理部3及びその周辺部を含む主要部の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、信号処理部3の機能要素には、補聴処理部20と、低域補正部21と、こもり音低減部22が含まれる。補聴処理部20は、外部マイクロホン2の出力信号を入力し、使用者の聴力特性や使用環境に応じて個別に設定された所定の補聴処理を施す手段である。補聴処理部20によって施される補聴処理としては、例えば、外部マイクロホン2の出力信号に対するマルチバンドコンプレッション、ノイズリダクション、トーンコントロール、ボリュームコントロール、出力制限処理などの多様な処理を適用可能である。
【0018】
低域補正部21は、補聴処理後の信号に対し、こもり音低減部22の後述の動作による低域周波数成分の減衰分を予め補正する手段である。
図2の例では、補聴処理部20の出力信号のうち補正が必要な周波数成分(主に低域周波数)を抽出するフィルタ30と、フィルタ30の出力信号を増幅する増幅器31と、補聴処理部20の出力信号と増幅器31の出力信号を加算する加算部32とにより構成される。なお、低域補正部21は、
図2の構成には限られず、所望の補正を実現し得る多様な構成を適用することができる。
【0019】
こもり音低減部22は、上述したように、外耳道10内のこもり音を低減する役割があり、低域反転増幅部40と、加算部41と、信号バイパス部42と、加算部43を備えて構成される。以上の構成において、低域反転増幅部40は、外耳道用マイクロホン5の出力信号に含まれる低域周波数成分を抽出して所定のゲインで増幅し、その極性を反転して信号−S1を出力する。加算部41は、低域補正部21から出力される入力信号Sinと、低域反転増幅部40から出力される信号−S1を加算し、出力信号Soutを生成する。つまり、出力信号Soutは、次式で表すことができる。
【0020】
Sout=Sin−S1
なお、低域反転増幅部40及び加算部41は、外耳道用マイクロホン5の出力信号と同じ極性の信号S1を出力する低域増幅部と、入力信号Sinから信号S1を減算する減算部とで置き換えて考えても同様の機能を実現できる。
【0021】
上記出力信号Soutは、加算部41からレシーバ4の入力側に至る伝送経路を介して伝送され、レシーバ4により音に変換される。この音は、外耳道10内の空間Sを経由して外耳道用マイクロホン5に入力された後、再び電気信号に変換される。そして、この電気信号は外耳道用マイクロホン5の出力側から低域反転増幅部40に向かう負帰還経路に沿って伝送される。以上のように、低域反転増幅部40と、加算部41と、レシーバ4と、外耳道用マイクロホン5は負帰還ループを構成する。このうち、低域反転増幅部40及び加算部41は、本発明の負帰還部として機能する。
【0022】
一方、信号バイパス部42は、レシーバ4の入力側(伝送経路)から外耳道用マイクロホン5の出力側(負帰還経路)までを電気的に接続するバイパス回路として機能する。すなわち、上述の出力信号Soutのうちの所定の周波数成分は、所定のゲインで信号バイパス部42及び加算部43を経由して負帰還経路に伝送される。信号バイパス部42は、レシーバ4から外耳道用マイクロホン5までの伝達特性に応じて、上述の負帰還ループを通る信号の振幅と位相を調整する役割があり、後述するように多様な構成で実現することができる。
【0023】
ここで、
図3は、本実施形態におけるこもり音低減部22の動作との対比のために、
図2の信号バイパス部42を除去したこもり音低減部22aの構成を比較例として示している。上述したように、こもり音は主に約1kHz以下の周波数成分からなるが、その中でも特に100〜400Hzの低域の周波数成分に集中している。よって、低域反転増幅部40により、こもり音を含む低域の周波数成分を低域反転増幅部40で抽出して反転増幅すれば、こもり音を含む周波数領域で負帰還ループが構成され、こもり音を低減することができる。しかし、
図3の比較例において、負帰還ループに含まれる空間Sを経路とする伝達特性により、こもり音より低い周波数成分(50Hz以下)及び3kHzより高い周波数成分の両方で振幅と位相が大きく変化する傾向があることを考慮していない。よって、
図3の比較例を採用する場合には、負帰還ループで発振が生じない程度に負帰還量を抑えなければならず、こもり音を十分に低減できないという問題がある。
【0024】
ここで、負帰還ループでの発振について説明する。例えば、特定の周波数成分に十分な負帰還をかけるとき、位相の変化が90°を超えると、その周波数成分で発振しやすくなり、さらに位相の変化が180°になると負帰還が実質的に正帰還になるので、一層発振の恐れが強くなる。この発振についてナイキスト線図の極座標平面(実部Re、虚部Im)では、Im=0、Reの軸上とベクトル軌跡が交差する点において、Re>−1にある場合は発振せずに増幅できるが、Re≦−1となる場合は発振することになる。
【0025】
これに対し、本実施形態の
図2の構成によれば、信号バイパス部42を設けたため、負帰還ループに対して空間Sを経路とする伝達特性の影響を受けない信号を付加することができる。すなわち、
図2の出力信号Soutに対し、信号バイパス部42により、その回路構成に依存するゲインと位相が与えられた信号が生成され、それが外耳道用マイクロホン5の出力信号に付加される。この場合、信号バイパス部42は電気的なバイパス経路を構成するので、空間Sを経路とする伝達特性に比べて位相変化を十分に抑制することができ、負帰還量を高めても負帰還ループにおける発振を有効に防止しつつ、こもり音を低減することができる。この場合、信号バイパス部42は比較的簡単な構成で実現できるので、複雑な信号処理や消費電力の増加を回避しつつ、補聴器の性能向上を図ることができる。
【0026】
以下、
図4及び
図5を参照して、信号バイパス部42の回路構成を含めて、こもり音低減部22の具体的な構成例について説明する。
図4及び
図5においては、信号バイパス部42の構成例に加えて、低域反転増幅部40の構成例を付加するとともに、レシーバ4の伝達関数R(z)と、外耳道用マイクロホン5の伝達関数M(z)と、外耳道10内の空間Sにおけるレシーバ4の出力側から外耳道用マイクロホン5の入力側に至る経路の伝達関数F(z)をそれぞれ付加している。また、こもり音は、自声が口腔内の音響インピーダンスZの経路を介して外耳道用マイクロホン5に入力されるものとして表される。
【0027】
図4は、こもり音低減部22の第1の構成例を示している。第1の構成例の低域反転増幅部40は、外耳道用マイクロホン5の出力信号を増幅するアンプA0と、アンプA0により増幅された信号の高域周波数成分を除去するローパスフィルタF0とにより構成される。また、第1の構成例の信号バイパス部42は、アンプA1からなる第1のバイパス部と、アンプA2及びハイパスフィルタF1からなる第2のバイパス部とを含み、第1及び第2のバイパス部が並列に接続されている。第1のバイパス部は、所定のゲインに設定されたアンプA1を介して、出力信号Soutを低域反転増幅部40の入力側に導く。第2のバイパス部は、所定のゲインに設定されたアンプA2及び低域周波数成分を除去するハイパスフィルタF1を介して、出力信号Soutの低域周波数成分を低域反転増幅部40の入力側に導く。
【0028】
図4に示すこもり音低減部22の動作について説明する。まず、こもり音低減部22の出力信号Soutは、レシーバ4により音に変換されて出力され、その音が外耳道10内の空間Sを伝搬して外耳道用マイクロホン5に入力され、外耳道用マイクロホン5により電気信号に変換される。このとき、外耳道用マイクロホン5には、レシーバ4から伝搬する音に加えて、周波数100〜400Hz程度のこもり音も入力される。外耳道用マイクロホン5から出力される信号は、信号バイパス部42から出力される信号と合成された後、低域反転増幅部40に入力される。低域反転増幅部40では、入力信号がアンプA0により増幅されるとともに、ローパスフィルタF0により低域周波数成分が抽出された後、加算部41を介して入力信号Sinに負帰還される。よって、低域反転増幅部40は、こもり音に相当する周波数成分の負帰還量が十分に大きくなるような周波数特性が付与される。
【0029】
上述したように、
図4の負帰還ループには、レシーバ4の伝達関数R(z)と、外耳道10内の経路の伝達関数F(z)と、外耳道用マイクロホン5の伝達関数M(z)が存在する。このうち、特にレシーバ4の伝達関数R(z)は、所定の周波数成分(例えば、50Hz以下及び3kHz以上)で位相の変化が増える傾向があるため(ナイキスト線図では、Im=0、Reの軸上とベクトル軌跡が交差する点において、Re≦−1となる傾向にある)、上述のメカニズムにより負帰還ループの発振が生じる恐れがある。信号バイパス部42を設けて、外耳道10内を経由しない電気的なバイパス経路を構成し、位相変化の無い信号を外耳道用マイクロホン5からの位相変化の大きい出力信号に加算することで、ナイキスト線図におけるベクトル軌跡をRe軸のプラス方向にずらすことになり、負帰還のゲインを増幅させてもベクトル軌跡がIm=0、Reの軸上と交差する点をRe>−1にすることができる。従って、上述の空間Sを経路とする伝達特性による急激な位相変化を十分に抑制し、所定の周波数成分(例えば、50Hz以下及び3kHz以上)の発振を防止することができる。なお、フィルタF1及びアンプA1、A2の特性は、負帰還ループの負帰還量と周波数成分(例えば、50Hz以下及び3kHz以上)の位相変化量に応じて設定することになる。
【0030】
信号バイパス部42のうち、アンプA1からなる第1のバイパス部は、主に50Hz以下の周波数成分の発振防止に効果があり、アンプA2及びハイパスフィルタF1からなる第2のバイパス部は、主に3kHz以上の周波数成分の発振防止に効果がある。なお、第1のバイパス部は、アンプA1を適正なゲインにした場合、50Hz以下の周波数成分に対して有効となり、それより高い音声周波数帯域では外耳道用マイクロホン5の出力信号に対してほとんど影響しない信号レベルなので、ローパスフィルタは省略されているが、アンプA1と直列のローパスフィルタを設けてもよい。
【0031】
次に
図5は、こもり音低減部22の第2の構成例を示している。第2の構成例は、
図4と同様の構成の低域反転増幅部40と、アンプA1からなる第1のバイパス部のみを含む信号バイパス部42とにより構成される。すなわち、
図5に示す第2の構成例は、
図4に示す第2の構成例の信号バイパス部42における第2のバイパス部(アンプA2及びハイパスフィルタF1)を除去したものである。第2の構成例は、こもり音低減部22において、3kHz以上の周波数成分の発振はそれほど問題にならないが、50Hz以下の周波数成分の発振対策が必要となる場合、第1の構成例に比べて回路構成を簡素化できるメリットがある。
【0032】
次に、本実施形態のこもり音低減部22の動作に基づく効果について、
図6を参照して説明する。
図6は、例えば、自声として「い」と発声としたときの外耳道10内のこもり音について、こもり音低減部22の動作の有無に応じた評価結果を比較して示している。具体的には、外耳道10の開放状態の音圧を基準とし(0dB)、こもり音低減部22を動作させることなく外耳道10を密閉した状態では、音圧レベルが相対的に10〜20dB程度上昇していることが認められる。これに対し、同様の密閉状態でこもり音低減部22を動作させた場合には、相対音圧レベルが0dB以下まで低下し、外耳道10の開放状態を若干下回る程度の音圧になることが認められる。この結果から、こもり音に起因する不快なこもり感や圧迫感を受けない程度の効果が確認できた。これは、既に説明したように、こもり音低減部22において、信号バイパス部42の作用で低域及び高域の発振を抑制できるので、こもり音を十分に低減できる程度に負帰還量を高められるために得られる効果である。
【0033】
[オーディオ用イヤホン]
以下、本発明を適用したオーディオ用イヤホンの実施形態を説明する。本実施形態のオーディオ用イヤホンは、多くの点で上述の補聴器と共通であるため、以下で主に異なる点について説明する。
図7は、本実施形態のオーディオ用イヤホン50において、信号処理部3及びその周辺部を含む主要部の構成を示すブロック図である。
図7には、オーディオ用イヤホン本体(不図示)に内蔵される構成要素と、外部に設けたオーディオ装置51が示される。このうち、信号処理部3の低域補正部21及びこもり音低減部22と、レシーバ4と、外耳道用マイクロホン5については、上述の補聴器(
図2)と同様であるため、説明を省略する。一方、
図7の構成のうち
図2と異なるのは、外部マイクロホン2及び補聴処理部20を設けることなく、オーディオ装置51を低域補正部21に接続可能に構成した点である。また、一般に、オーディオ用イヤホン50は音楽を聴くなどに用途に用いられ、例えば、補聴器に比べても周波数帯域が広くなるので、その点を考慮して低域補正部21、低域反転増幅部40、信号パイパス部42の周波数特性を設定することが望ましい。
【0034】
図7において、オーディオ装置51から送出されるオーディオ信号は、低域補正部21及びこもり音低減部22を経由してレシーバ4から音として出力される。レシーバ4、外耳道用マイクロホン5及びこもり音低減部22による負帰還ループと、信号バイパス部42の役割については、既に説明した通りであり、負帰還ループにおける発振を有効に防止しつつ、こもり音を十分に低減できる。
【0035】
[耳せん]
以下、本発明を適用した耳せんの実施形態を説明する。本実施形態の耳せんは、その主要部が上述の補聴器の部分的な構成と共通であるため、以下では主に異なる点について説明する。
図8は、本実施形態の耳せん60において、信号処理部3であるこもり音低減部22及びその周辺部を含む主要部の構成を示すブロック図である。
図8には、例えば、シリコン系、ウレタン系、ABS系などの樹脂材料により形成される耳せん本体(不図示)に内蔵される構成要素が示される。また、
図8の耳せん60は、電気回路に電力を供給する電池等の電源(不図示)を備えている。このうち、こもり音低減部22(信号処理部3)、レシーバ4と、外耳道用マイクロホン5については、上述の補聴器(
図2)と同様であるため、説明を省略する。
図8の構成のうち
図2と異なるのは、外部マイクロホン2、補聴処理部20、低域補正部21を設けない点と、こもり音低減部22に対して入力信号Sinを入力することなく閉じた負帰還ループを構成した点である。
【0036】
一般的な耳せんは、補聴器やオーディオ用イヤホンのように外部からの入力信号は不要であり、通常は電気回路が不要である。しかし、耳せんを使用者が装着している際に外耳道10を密閉した状態になると、こもり音により不快感は避けられない。よって、本実施形態の耳せん60は、こもり音低減部22の電気回路を搭載することにより、こもり感を低減して使用者の不快感の解消を図っている。この場合、こもり音だけではなく、使用者の頭部周囲から外耳道10に侵入する音についても有効に低減できる。レシーバ4、外耳道用マイクロホン5及びこもり音低減部22による負帰還ループと、信号バイパス部42の役割については、既に説明した通りであり、負帰還ループにおける発振を有効に防止しつつ、こもり音を十分に低減できる。
【0037】
[こもり音低減装置]
上記各実施形態では、本発明を、補聴器1、オーディオ用イヤホン50、耳せん60にそれぞれ適用する場合を説明したが、本発明は、これらに限らず多様な形態のこもり音低減装置に適用することができる。すなわち、
図2、
図7、
図8にそれぞれ示したこもり音低減部22と、レシーバ4と、外耳道用マイクロホン5とを備えたこもり音低減装置を構成し、単独で、あるいは他の機器に組み込んで本発明を適用することができる。このようなこもり音低減装置は、使用者の外耳道10に装着可能で、こもり音を低減する機能を有していれば、それ以外の点については多様な機能や構成を持たせることができる。