特許第6082013号(P6082013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6082013(メタ)アクリル酸エステル処理タンクの洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082013
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステル処理タンクの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20170206BHJP
   B08B 9/22 20060101ALI20170206BHJP
   C07C 53/00 20060101ALN20170206BHJP
【FI】
   B08B3/08 A
   B08B9/22
   !C07C53/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-531870(P2014-531870)
(86)(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公表番号】特表2014-534895(P2014-534895A)
(43)【公表日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】US2012055025
(87)【国際公開番号】WO2013048749
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年8月18日
(31)【優先権主張番号】61/539,654
(32)【優先日】2011年9月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー・ジェイ・ジュリエッテ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ピー・マイヨ
(72)【発明者】
【氏名】ジョイ・エル・メンドーザ
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05609693(US,A)
【文献】 特開昭58−011080(JP,A)
【文献】 米国特許第04357175(US,A)
【文献】 特開平06−192166(JP,A)
【文献】 特開平06−072944(JP,A)
【文献】 特公昭46−006886(JP,B1)
【文献】 特開2006−136801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
B08B 9/22
C07C 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチルエステル、又はこれらの組み合わせの製造に用いる機器から、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチルエステル、又はこれらの組み合わせの製造プロセスにおける生成物又は副生成物である固形残留物を除去する方法であって、
前記固形残留物を、2〜10個の炭素原子を有する有機カルボン酸を90重量%以上含む洗浄液に溶解して、固形残留物スラリーを生成する手順と、
前記機器から前記固形残留物スラリーを除去する手順と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記有機カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、又はこれらの組み合わせである、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記洗浄液のpKaが3〜7である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記洗浄液がアクリル酸3〜5重量%と水1〜2重量%を更に含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記洗浄液がアクリル酸の製造プロセスにおける副生成物として得られた酢酸溶液である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和カルボン酸及びそのエステルの調製に用いる貯蔵タンクを洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、不飽和カルボン酸とアクリル酸又はメタクリル酸系のエステルは、対応するアルケン、アルカン、不飽和アルデヒドを不均一触媒気相酸化することにより、又は、硫酸とアセトンシアノヒドリンとの反応により、工業的に調製されている。通常、目的とする生成物の生成中に重合を防止するため、フェノチアジン(PTZ)ヒドロキノンメチルエーテル(MeHQ)、ヒドロキノン(HQ)、アルキ及びアリル置換フェニレンジアミン誘導体等の安定剤が用いられる。しかし、不要な重合体が生成され、反応容器、蒸留塔、精留塔、分離器、生成物及び中間生成物用貯蔵タンクに堆積する。
【0003】
貯蔵タンクに不要な固形残留物が存在すると、供給ラインや、下流の機器の汚染につながる虞があり、これにより、熱交換器、リボイラー、蒸留塔の効率に大きな影響を与え得るファウリングや動作不能が起きる。これらのタンクが、プラント清掃のための長期の停止中、バルク材料の貯蔵に一般的に用いられる場合、洗浄のために貯蔵タンクの機能を停止することは、特にコストが高く、物流管理上困難である。場合によっては、タンクの清掃と停止のために、施設の完全な停止が必要となることさえある。不飽和有機酸及びエステルの場合、材料が可燃性で危険であるだけでなく、不要な重合固形残留物の、一般に高分子固形を含む性質のために、移送が困難である。したがって、簡単で確実な清掃方法を維持しつつ、貯蔵タンクの清掃を可能な限り効率的かつ速やかに行うことが特に重要となる。
【0004】
米国特許第7331354号明細書は、メタクリル酸又はエステルの製造に用いる施設を、塩基性の液体を用いて清掃する方法に関する。この清掃工程に用いる液体は、アルカリ金属の水溶液、及び/又はアルカリ土類金属水酸化物及び/又は酸化物の水溶液、具体的には、NaOH、KOH、又はCa(OH)の水溶液である。上記水溶液の溶融塩濃度は、0.01〜30重量%である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、清掃工程で腐食性物質を使用することは理想的でなく、下流の機器の汚染につながり得る。
【0006】
メタクリル酸メチル(MMA)の製造に用いられる施設に付着した固形残留物を除去するために、材料費、取扱及び処分の簡易性、実用性を鑑みた、効率的かつ非腐食の清掃方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一の実施形態において、本発明は、(メタ)アクリル酸又はエステルの処理に用いる機器から固形残留物を除去する方法であって、前記固形残留物を、2〜10個の炭素原子を有する有機カルボン酸を含む洗浄液に溶解して、固形残留物スラリーを生成する手順と、前記機器から前記固形残留物スラリーを除去する手順と、を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】MMAプラントから回収した固形残留物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図2図1H−NMRスペクトルの拡大図である。
図3】実施例1の写真である。
図4】実施例1〜3の写真である。
図5】実施例5及び6の写真である。
図6】洗浄液の追加から4時間後の実施例5及び6の写真である。
図7】実施例5の写真である。
図8】洗浄液の追加から24〜48時間後の実施例5の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、大規模な機械作業又は手作業、高圧又は高温、又は腐食性の物質を必要としない、簡易かつ低コストな方法で該固形残留物を除去することで、(メタ)アクリル酸又はエステルの製造に用いる機器で生成される固形残留物を洗浄する方法を提供する。
【0010】
一の実施形態において、本発明は、メタクリル酸メチル(MMA)の処理に用いる機器から固形残留物を洗浄する方法であって、該固形残留物を、C−C10有機酸を含む洗浄液に溶解して固形残留物スラリーを生成する手順と、該固形残留物スラリーを機器から除去する手順と、を含む方法に関する。
【0011】
上記洗浄液は、1〜10個の炭素原子(C−C10)、好ましくは2〜3個の炭素原子(C−C)、より好ましくは2個の炭素原子(C)を有する有機カルボン酸(有機酸)を含む。貯蔵タンク等、設備の一部に残留水分が存在する場合、洗浄液は、上記有機カルボン酸に加えて、対応する有機酸無水物を含んでよく、そうすることで、溶解中に該無水物が有機カルボン酸に変換される。特に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、及びこれらに対応する無水物を含む洗浄液である。一の実施形態において、洗浄液のpKaは3〜7である。
【0012】
一の実施形態において、洗浄液は酢酸又はプロピオン酸であり、これは純粋溶液として用いてよい。通常、洗浄液の酢酸又はプロピオン酸の濃度は、水に対して90〜95%である。
【0013】
ここで用いられる酢酸又はプロピオン酸は、酢酸製造工程によって得てもよいし、不要な物質として一般的にC又はCの有機酸をもたらす総合的なアクリル又はメタクリル酸製造工程の副産物として得てもよい。酢酸副産物溶液は、総合アクリル製造工程によってもたらされる、アクリル酸等のその他の物質、及びメチルエチルケトン等のその他の副産物を含み得る。通常、酢酸副産物溶液は、アクリル酸3〜5重量%及び水1〜2重量%を含む。
【0014】
固形残留物を洗浄液中で溶解及び除去する際の温度は、有機酸性溶媒の沸点によって決定される。例えば酢酸の場合、使用温度は118℃未満、プロピオン酸の場合、温度は141℃未満である。精留機器の場合、分離及び閉鎖可能な反応器及び分離器、高温及び高圧を用いることができる。取り外し式屋根を有する生成物及び中間生成物用貯蔵タンクや、有機酸及び高温を使用できない冶金等のその他の設備機器の場合、比較的低温が使用され、好ましくは50℃未満、最も好ましくは周囲条件(つまり、室温及び大気圧)である。ステンレス及び炭素鋼製の設備機器の場合、その滞留時間が、有害な腐食の可能性を低減する範囲に維持される限りにおいて、洗浄液としてC及びCの酸が最適に利用できることが判明している。
【0015】
一の実施形態においては、貯蔵タンクの清掃に関し、タンクの底部に堆積した固形残留物が十分覆われる量の洗浄液をタンク内に注入する手順が、固形残留物を除去する方法に含まれる。洗浄液を、0より大きい数:1〜10:1(洗浄液:固形残留物推定量の重量比)、好ましくは1:1、最も好ましくは2:1の割合で、貯蔵タンクに残留している固形残留物に加える。洗浄液は、洗浄液を単純にタンクに注入する、タンクの壁面に沿って洗浄液を噴霧する、又はその他の周知の方法で固形残留物に加えてよい。
【0016】
24〜48時間後、得られた固形残留物スラリーがタンクから排出され、その後、通常は廃棄される。この処理を、固形残留物が除去されるまで繰り返してよい。固形残留物の完全な除去は、洗浄液と溶解された固形残留物とを含む排出溶液が透明又は透明に近くなるよう、目視、又はワニスカラースケール(VCS)やASTM D1209等の定量的測定によって検査することで確認される。タンクが清浄となり、洗浄液の追加又は循環がそれ以上必要ないことを確認する方法としては、その他様々な方法がある。一の実施形態においては、排出溶液の粘度をモニタすることで、タンクから固形残留物が十分に除去されたことを確認する。一の実施形態においては、タンクのX線測定を行い、タンクの底に残留した固形残留物の厚みを確認する。該X線は、タンクを使用する前に測定した比較用の元のX線と比較してよい。よりポータブルな機器については、固形残留物が完全に除去されたことを確認するために機器の重量を用いてよい。つまり、機器が元の重さに戻ったとき、機器に固形残留物が残っていない。
【0017】
本発明の一実施形態において、固形残留物の溶解は、撹拌によってなされてもよいし、単純な接触によってなされてもよい。固形残留物を除去する方法において、処理タンクの供給ラインと排出ラインを用い、全体の可溶化時間を延長するような方法で生成物及び中間生成物用貯蔵タンク内に循環を起こすことが含まれてよい。
【0018】
一の実施形態において、洗浄液に溶解した固形残留物は燃料、つまり炉内の燃焼のための炭素源、として用いられてよい。
【0019】
諸定義
異なる指定、文脈による暗示、又は当該技術における慣例がない限り、全ての部及び百分率は重量によるものとし、全ての試験方法は本開示の提出日において最新のものとする。アメリカ合衆国の特許実務の目的上、特に定義の開示(本開示において具体的になされた定義と矛盾しない範囲で)と当該技術における一般知識に関連して、参照される特許、特許出願、又は特許公報の内容は参照によりその全体が援用される(又は対応する米国版が参照により援用される)。
【0020】
本開示における数値範囲はおおよその値であり、したがって、特に指定がない限り、当該範囲を外れた値をも含み得る。数値範囲は、下限値と上限値との間に2単位以上の開きがあることを前提として、下限値から上限値まで1単位刻みの全ての値と、下限値と上限値そのものを含む。一例として、組成特性、物理特性、又はその他の特性、例えば分子量等が100〜1,000といった場合、100、101、102等の個々の値、ならびに100〜144、155〜170、197〜200等の部分範囲が明確に列挙される。1未満の値、又は小数付きの1より大きな値を含む範囲(例:1.1、1.5等)の場合、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01、又は0.1とする。10未満の1桁の数を含む範囲(例:1〜5)の場合、通常、1単位は0.1とする。これらは、具体的に意図されるものの例示に過ぎず、列挙される下限値と上限値との間の考え得る全ての数値の組み合わせが、本開示に明示されているとみなす。本開示において、数値範囲は、その他の目的に加え、洗浄される物質に対する溶媒の割合を示すために特に用いられる。
【0021】
「(メタ)アクリル酸又はエステル」とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチルエステル、又はこれらの組み合わせを指す。
【0022】
「固形残留物」等の用語は、(メタ)アクリル酸又はエステルの製造工程による産物又は副産物であって、(メタ)アクリル酸又はエステルの製造に用いる機器内又は機器上に残留するものを指し、周囲条件(25℃、大気圧)において固形である重合型及びオリゴマー型物質、スラッジ、及び非晶質を含む。
【0023】
「固形残留物スラリー」は、洗浄液と固形残留物との組み合わせによって生成された溶液を指し、ここでは固形残留物の大半が洗浄液に溶解し、貯蔵タンクから排出するだけで除去が可能な溶液を構成している。
【0024】
「機器」は、(メタ)アクリル酸又はエステルの製造に用いるあらゆる物を指し、貯蔵タンク、蒸留塔、抽出器、ミキサー、熱交換器、コンデンサー、復水タンク、供給及び移送ライン、分離器等を含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0025】
溶媒実験
材料
生MMA製品の貯蔵タンクに例示される、不飽和酸エステルの固形残留物の代表的なものは、ポンプの排出口におけるろ過器から得られる。固形残留物は、吸引器を用いて真空ろ過される。フィルタから黒〜茶色のゴム状の固体が回収され、6〜8時間風乾される。これにより固形残留物はゴム状の物質から、粉砕可能な硬い物質へ変化する。得られた固体は可溶性実施例で使用する。以下で使用される全ての溶媒は、フィッシャー社製の10%NaOHを除いて、アルドリッチ社製である。
【0026】
可溶性実施例
酢酸、アセトン、メチルスルホキシド(DMSO)、エチルアルコールメチルアルコール、アセトニトリル、エチレングリコール、2−プロパノール(イソプロパノール)、水酸化ナトリウム水溶液、N−メチルピロリドン(NMP)、及びこれらの混合物、の溶媒を、MMAの調製に用いた機器から固形残留物を除去する洗浄液として検査する。試験管内で、固体残留物1グラムに特定の溶媒3グラムを加え、一晩放置する。大型の貯蔵タンクにおいては撹拌を行えない可能性があるため、本溶媒実験においては、あえて撹拌を行わない。
【0027】
有機酸を含有する洗浄液が、不要な固形残留物の溶解に関して最も優れた結果を有する。24時間後、酢酸を使用した試料は、驚くべきことに、試験管を傾けると流動可能なスラリーとなっており、これ以外では、全ての固形残留物が、膨張するか、溶解せずに残っていることが確認される。
【0028】
興味深いことに、水酸化ナトリウム水溶液は、典型的な総合MMA製造工程から得られるスラッジ/重合型固体の溶解には効果的でないことが分かる。メチルエステルの、可溶と推定される対応するカルボン酸塩への加水分解は十分に低速であり、2か月を超えて室温下に置いても、腐食剤25%と重合性の固形残留物との溶液はほぼ溶解されずに維持される。
【0029】
溶解スクリーニング実験では、3倍過剰〜1未満:1(洗浄液:固形残留物)の割合を用いる。3倍過剰は、存在し得る固形残留物のサイズと量を考慮した場合の実際的な限界を表す。例えば、寸法が直径18m、高さ12mの、数年使用した典型的な貯蔵タンクにおいて、底部の固形残留物及びスラッジのレベルは高さ1m以上になり得る。したがって、溶解のために、潜在的に多量の洗浄液が必要となる。
【0030】
酢酸副産物溶液の実験
材料
総合アクリル酸浄化装置から得られる粗製品としての酢酸を、得られた状態のまま用いる。固形残留物は、生MMA製品の貯蔵タンクのポンプの排出口におけるろ過器から得る。
【0031】
図1は、ろ過器から得られた固形残留物のH核磁気共鳴(NMR)スペクトルである。この固体は乾燥され、重水素化酢酸内でNMR試料が調製される。このスペクトルには、1.2〜2.3ppmの強いメチル及びメチレン共鳴を有する、メタクリレート重合体骨格に特有の信号が表れている。メチルエステルの強いメトキシ共鳴は、4.15ppmがピークである。興味深いのは、5.9〜6.8ppmの芳香族領域にみられるピークであり、これらは、使用されているジフェニルジアミン系阻害剤の芳香族プロトンに起因すると考えられる。
【0032】
図2は、重合体のメチレン骨格(52ppm)と、アルキルメチル(17及び19ppm)とを示す、図1H−NMRの拡大図である。
【0033】
工程
32オンスの広口瓶に、ろ過器から得られた固形残留物175gを乾燥せずに投入し、酢酸350gを加える。機械的撹拌を行わずに、得られた混合物を一晩放置し、更に調査すると相当量の固体が溶解していることが確認された。混合物を更に放置し、24時間後、撹拌及び容器の反転を行うと、固体が酢酸に溶解したことが確認された。
【0034】
実施例1〜4及び比較例1
実施例1:16オンスの広口瓶に、1重量当量の固形残留物(28.1g)、次いで1重量当量の酢酸(28.2g)を投入する。内容物を室温で保管する。24時間後、得られたスラリーでは、固形残留物の大半が溶解しているものの、まだかなりの量が残っていることが示される。図3は、実施例1における、洗浄液の投入時の写真である。
【0035】
実施例2:16オンスの広口瓶に、1重量当量の固形残留物(21.5g)、次いで2重量当量の酢酸(44.3g)を投入する。内容物を室温で保管する。4〜6時間後、混合物は、容器を傾けたときの混合物の動きから排出可能とみられる、有効なスラッジであった。24時間後、混合物内に固形残留物は視認できない。
【0036】
実施例3:16オンスの広口瓶に、1重量当量の固形残留物(28.3g)、次いで3重量当量の酢酸(83.4g)を投入する。内容物を室温で保管する。4時間未満で、混合物は流動的なスラリーであった。24時間後、混合物内に固形残留物は視認できない。
【0037】
実施例4:1重量当量の固形残留物と、1重量当量の酢酸溶液とのスラリー化した混合物を含む16オンスの広口瓶を、59±1℃で湯煎する。上述の実施例と同様、当初、混合物はあまり流動的でなく、粘度が維持されている。フラスコを撹拌せずに静置する。30分後、容器を湯煎から引き揚げると、均質な混合物として容器内で自由に流動することが確認される。容器を傾けたり回転させたりしても、溶解しない物質は見られなかった。
【0038】
図4は、洗浄液を追加してから15分以内に撮影された実施例1〜3の写真である(向かって左:実施例1、中央:実施例2、右:実施例3)。
【0039】
比較例1では、8オンスの広口瓶に固形残留物5.0gを投入する。続いて、水酸化ナトリウム15gを水100gに溶解して得られる15%の腐食性溶液25gを固形残留物に加え、撹拌した後、撹拌を停止して静置する。24時間後、固形残留物は溶解していない。定期的に撹拌しながら1週間後、固体の大きな塊がフラスコ内に残っている。
【0040】
固形残留物上への洗浄液の積層
材料
総合アクリル酸浄化装置から得られる粗製品としての酢酸を、得られた状態のまま用いる。固形残留物は、生MMA製品の貯蔵タンクのポンプの排出口におけるろ過器から得る。
【0041】
工程
実施例5のスラリーは、固形残留物20.90gを入れた16オンスの容器の壁面に沿って洗浄液15.27gを静かに加えることで得る。実施例6は、固形残留物12.0gを16オンスのフラスコに投入し、フラスコの壁面に沿って洗浄液51.6gをゆっくりと加えることで得る。洗浄液をゆっくり加えるのは、タンクに洗浄液をゆっくり加える様子を模倣するためである。
【0042】
実施例5及び6
実施例5で採用する比率は0.73:1(洗浄液:固形残留物)であり、実施例6で採用する比率は4.3:1である。図5は、実施例5及び6において、固形残留物に洗浄液を加えた後の写真(左から右、つまり左:実施例5、右:実施例6)である。
図6は、実施例5及び6において、洗浄液の追加から48時間後、固形残留物が視認可能に溶解していることを示す写真(左から右)である。図7は、洗浄液の追加直後に傾けて回転させた実施例5を撮影した写真である。図8は、24〜48時間後に実施例5を撮影した写真であり、固形残留物が洗浄液に効果的に溶解され、広口瓶の底に固形残留物が実質的に存在しないことが示されている。
以下に、本願発明に関連する発明の実施形態について列挙する。
[実施形態1]
(メタ)アクリル酸又はエステルの処理に用いる機器から固形残留物を除去する方法であって、
前記固形残留物を、2〜10個の炭素原子を有する有機カルボン酸を含む洗浄液に溶解して、固形残留物スラリーを生成する手順と、
前記機器から前記固形残留物スラリーを除去する手順と、を含む方法。
[実施形態2]
実施形態1に記載の方法であって、前記有機カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、又はこれらの組み合わせである、方法。
[実施形態3]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液のpKaが3〜7である、方法。
[実施形態4]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液の前記固形残留物に対する割合が0より大きい数:1である、方法。
[実施形態5]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液の前記固形残留物に対する割合が1:1である、方法。
[実施形態6]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液の前記固形残留物に対する割合が2:1である、方法。
[実施形態7]
実施形態1に記載の方法であって、前記固形残留物スラリーを除去する前に前記固形残留物を前記洗浄液に24時間浸漬する手順を更に含む、方法。
[実施形態8]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液がアクリル酸3〜5重量%と水1〜2重量%を更に含む、方法。
[実施形態9]
実施形態1に記載の方法であって、前記洗浄液がアクリル酸の処理から得られる酢酸副生成物溶液である、方法。
[実施形態10]
実施形態1に記載の方法であって、前記固形残留物を洗浄液に溶解する手順が、前記固形残留物を撹拌することを含む、方法。
[実施形態11]
実施形態1に記載の方法であって、前記溶解及び除去手順を、24時間後に繰り返す、方法。
[実施形態12]
実施形態1に記載の方法であって、前記溶解手順が、100℃よりも低い温度で、かつ、大気圧下で行われる、方法。
[実施形態13]
実施形態1に記載の方法であって、前記溶解手順が、40℃よりも低い温度で、かつ、大気圧下で行われる、方法。
[実施形態14]
実施形態1に記載の方法であって、前記溶解手順が、室温で、かつ、大気圧下で行われる、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8