特許第6082107号(P6082107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6082107ゾル−ゲル層を備える拡散反射特性を有する透明エレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082107
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】ゾル−ゲル層を備える拡散反射特性を有する透明エレメント
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/42 20060101AFI20170206BHJP
   C03C 17/28 20060101ALI20170206BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20170206BHJP
   C08G 79/14 20060101ALI20170206BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C03C17/42
   C03C17/28 A
   C03C17/30 A
   C08G79/14
   G02B5/02 B
【請求項の数】21
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-521048(P2015-521048)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公表番号】特表2015-530959(P2015-530959A)
(43)【公表日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】FR2013051657
(87)【国際公開番号】WO2014009663
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】1256760
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】マリー−ビルジニー エーレンスペルジュル
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ギユモ
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−002819(JP,A)
【文献】 特開2012−003027(JP,A)
【文献】 特表2005−530627(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0316262(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/104547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00−17/44
G02B 5/02
C08G 79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの滑らかな主要外面(2A、4A)を有する透明層状エレメント(1)であって、
それぞれが前記層状エレメントの前記2つの主要外面(2A、4A)の一方を形成し且つ実質的に同じ屈折率(n2、n4)を有する誘電体から成る2つの外層である下方外層(2)及び上方外層(4)と、
前記2つの外層の間に挿入される中心層(3)であって、前記外層の屈折率とは異なる屈折率(n3)を有する誘電体層若しくは金属層である単層によって、又は少なくとも1つの、前記外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層若しくは金属層を備える積層体(31、32、・・・3k)によって形成される中心層(3)とを備え、
前記層状エレメントの2つの隣接する層の一方が誘電体であり、もう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘体層であり、前記層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(S0、S1、・・・Sk)がテクスチャ加工され、且つ一方が誘電体でありもう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層である2つの隣接する層の間の他のテクスチャ加工接触面に平行であり、
前記上方外層(4)が、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスを含むゾル−ゲル層である、
ことを特徴とする透明層状エレメント。
【請求項2】
前記層状エレメントの前記2つの外層を構成する誘電体間での589nmでの屈折率における差の絶対値が、0.020以下であることを特徴とする、請求項1に記載の層状エレメント。
【請求項3】
前記層状エレメントの前記2つの外層を構成する誘電体間での589nmでの屈折率における差の絶対値が、0.015以下であることを特徴とする、請求項1に記載の層状エレメント。
【請求項4】
前記外層(2、4)と前記中心層(3)の少なくとも1つの誘電体層との間での589nmでの屈折率の差の絶対値が、0.3以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の層状エレメント。
【請求項5】
前記外層(2、4)と前記中心層(3)の少なくとも1つの誘電体層との間での589nmでの屈折率の差の絶対値が、0.5以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の層状エレメント。
【請求項6】
前記ゾル−ゲル層が、少なくとも1種の金属酸化物の粒子又は少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項7】
前記シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスが、少なくとも1種の金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項8】
前記金属酸化物が、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ニオブ、アルミニウム及びモリブデンから選択される金属を含むことを特徴とする、請求項及びのいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項9】
前記ゾル−ゲル層が、シリカと酸化ジルコニウムとの有機/無機ハイブリッドマトリックスを含み、前記マトリックス中に二酸化チタン粒子が分散していることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項10】
透過曇り度が5%未満である及び/又は明度が93%より高いことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項11】
前記ゾル−ゲル層が、ゾル−ゲル溶液の硬化により得られ、且つ一般式RnSiX(4-n)の少なくとも1種のオルガノシランの加水分解及び縮合から生じる生成物を含み、
式中、nは1、2、3に等しく、
同一又は異なり得る基Xは、アルコキシ基、アシルオキシ基及びハロゲン化物基から選択される加水分解性基を表し、
同一又は異なり得る基Rは、炭素原子を介してケイ素に結合された非加水分解性有機基を表す、
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項12】
前記基Xがアルコキシ基であることを特徴とする、請求項11に記載の層状エレメント。
【請求項13】
前記ゾル−ゲル層が、ゾル−ゲル溶液の硬化により得られ、且つ
(i)少なくとも1種のオルガノシラン、及び
(ii)少なくとも1種の金属酸化物前駆体、及び/又は
(iii)少なくとも1種の金属酸化物の粒子若しくは少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子
の加水分解及び縮合から生じる生成物を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項14】
前記層状エレメントが、前記上方外層及び/又は下方外層の上又は下に位置決めされる少なくとも1つの追加層を含ことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項15】
前記少なくとも1つの追加層が、
2つの滑らかな主要面を備えるポリマー、ガラス及びセラミックから選択される透明基材、
光架橋性及び/又は光重合性材料、及びゾル−ゲル法で堆積される層、
熱成形可能なプラスチック材料又は感圧プラスチック材料から形成されるシート、
から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の層状エレメント。
【請求項16】
前記層状エレメントの前記下方外層が、
透明基材であって、その主要面の一方にはテクスチャ加工が施され、もう一方の主要面は滑らかである透明基材、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体の層、
成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態である硬化性材料をベースとする層であって、
光架橋性及び/又は光重合性材料、
ゾル−ゲル法で堆積される層
を含む層、
熱成形可能なプラスチック材料又は感圧プラスチック材料から形成されるシート
から選択されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項17】
前記透明基材が、ポリマー、ガラス及びセラミックから選択され、及び/又は、
前記シートのための熱成形可能なプラスチック材料又は感圧プラスチック材料が、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はエチレン/ビニルアセテート(EVA)コポリマーから選択されるポリマーをベースとすること、
を特徴とする、請求項16に記載の層状エレメント。
【請求項18】
前記中心層の前記層又は前記積層体が、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体から成る少なくとも1つの薄層、
少なくとも1つの金属薄層、
を備えることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の層状エレメント。
【請求項19】
前記少なくとも1つの金属薄層が、銀、金、銅、チタン、ニオブ、ケイ素、アルミニウム、ニッケル−クロム(NiCr)合金、ステンレススチール又はこれらの合金の薄層であることを特徴とする、請求項18に記載の層状エレメント。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の層状エレメントの製造方法であって、
主要面の一方がテクスチャ加工されもう一方の主要面が滑らかな透明基材を下方外層として用意する工程と、
中心層を、前記下方外層の前記テクスチャ加工された主要面上に堆積させ、すなわち前記中心層が、前記下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層又は金属層である単層から形成される場合、前記中心層は、前記テクスチャ加工された主要面上にその面と合致するように堆積され、または前記中心層が、前記下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの誘電体層又は金属層を備える積層体から形成される場合、前記中心層の前記複数の層は、前記テクスチャ加工された主要面上にその面と合致するように連続的に堆積される工程と、
ゾル−ゲル上方外層を、ゾル−ゲル法での堆積により、前記下方外層とは反対側の前記中心層の前記テクスチャ加工された主要面上に形成する工程であって、前記下方外層及び上方外層は実質的に同じ屈折率を有する誘電体から成る、工程と、
任意で、少なくとも1つの上方及び/又は下方追加層を、前記層状エレメントの前記滑らかな主要外面上に形成する工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項21】
車両、建築物、街路備品、室内調度品、ディスプレイスクリーン又はヘッドアップディスプレイシステム用のグレージングの全て又は一部としての、請求項1〜19のいずれか一項に記載の層状エレメント(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散反射特性を有する透明層の形態にあるエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
層状エレメントは剛性又は可撓性であり得る。層状エレメントは、特に、例えばガラス又はポリマー材料をベースとして作製されるグレージングになり得る。層状エレメントは、特には、透過特性を保持しつつ同時に拡散反射特性を付与するために、面に適用可能なポリマー材料をベースとした可撓性フィルムになり得る。
【0003】
公知のグレージングには、グレージング上で入射放射線の正透過及び反射が起きる標準的な透明グレージングと、グレージング上で入射放射線の拡散透過及び反射が起きる半透明グレージングが含まれる。
【0004】
通常、グレージング上の所定の入射角の入射放射線がグレージングによって複数の方向に反射される場合、グレージングによる反射は拡散反射と呼ばれる。グレージング上の所定の入射角の入射放射線が入射角と等しい反射角でグレージングによって反射される場合、グレージングによる反射は正反射と呼ばれる。同様に、グレージング上の所定の入射角の入射放射線が入射角と等しい透過角でグレージングを透過する場合、グレージングを通る透過は正透過と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
標準的な透明グレージングの欠点はこれらの標準的な透明グレージングが鏡のように鋭い反射像を返すことであり、これは特定の用途によっては望ましくない。したがって、グレージングを建物の窓又はディスプレイスクリーンに使用する場合、反射を抑えることが好ましく、反射を抑えるとグレージングを通した可視性は低下する。グレージング上での鋭い反射には、例えば車両のヘッドライトが建物のグレージングが施された正面部位で反射した場合に、その結果として幻惑が起きて安全上の問題が起きる恐れもある。この問題は空港のグレージングが施された正面部位で最もよく起きる。事実、ターミナル接近時にパイロットが反射で幻惑されるリスクを排除することは必須である。
【0006】
さらに、半透明グレージングでは、鋭い反射を起こさないという利点はあるものの、グレージングを通したくっきりとした視界が得られない。
【0007】
エレメント上での拡散反射を促進しつつもエレメントを通して素晴らしいくっきりとした視界を得ること及びエレメント上での「鏡面」タイプの反射を抑制することの両方を可能にする層状エレメントを提案することで本発明が具体的に解決しようとしているのはこれらの欠点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
出願人は、グレージングにおける、特定の拡散反射を見せる透明層状でのエレメントの使用が透過において透明であり且つ拡散反射を見せるグレージングを得ることを可能にすることを発見した。これらの特性は特には、規定の屈折率及び規定の形状を有する特定の積層体によって得られる。要約すると、層状エレメントは、誘電体又は金属材料、好ましくは薄層又は薄層の積層体から成り且つ2つの外層に囲まれた中心層を備え、2つの外層である上方外層及び下方外層は実質的に同じ屈折率を有する誘電体から成る。この層状エレメントにおいて、層状エレメントの2つの隣接する層の一方が誘電性でありもう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層であり、層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(S0、S1、・・・Sk)はテクスチャ加工され且つ一方が誘電性でありもう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層である2つの隣接する層の間の他のテクスチャ加工接触面に平行である。
【0009】
出願人は、本発明の層状エレメントの有利な特性は特には外層間での屈折率の調和、すなわちこれら2つの層が実質的に同じ屈折率を有する事実に因るものであることを発見した。本発明において、屈折率の調和又は屈折率の差は、層状エレメントの2つの外層を構成する誘電体間での589nmでの屈折率における差の絶対値に対応する。屈折率の差が小さければ小さいほど、グレージングを通した視界はよりはっきりとする。出願人は、極めて良好な視界は、屈折率の調和度が0.050未満、好ましくは0.030未満、より好ましくは0.015未満で得られることを発見した。
【0010】
層状エレメントを作製するための構成及び方法がいくつか考えられ、これらは特には下方外層及び中心層を構成する材料の選択において異なる。誘電体から成る下方外層は、
好ましくは鉱物又は有機ガラスから形成され、ポリマー、ガラス及びセラミックから選択される透明基材(その主要面の一方にはテクスチャ加工が施され、もう一方の主要面は滑らかである)、
例えばマグネトロンスパッタリングによって堆積され、1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体の層、
成形操作に適するようになっている最初は粘性の液体又はペースト状態である硬化性材料をベースとする層であって、
光架橋性及び/又は光重合性材料、
ゾル−ゲル法で堆積される層
を含む層、
熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサート又はシートであって、好ましくは、ポリビニルブチラール(PVB)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はエチレン/ビニルアセテート(EVA)コポリマーから選択されるポリマーをベースとし得る熱成形性又は感圧プラスチック材料のインサート又はシート
から選択される。
【0011】
これらの材料の中でも、幾つかはその入手しやすさ及び/又は価格から特に有利であり、例えばSaint−Gobainが販売するSatinovo(登録商標)等の粗面又はテクスチャ加工ガラス基材である。
【0012】
上で説明したように、グレージングを通して特にくっきりとした視界を得るためには、粗面基材から成る下方外層と層状エレメントの上方外層を構成している材料との間での屈折率の違いは好ましくは0.050未満、より一層好ましくは0.015未満である。
【0013】
しかしながら、上方外層の作製にあたって提案される材料の中でも、屈折率の差を0.015もの低さにすることが常に可能なわけではない。例えば、標準ガラスの場合、同じタイプのガラスの屈折率が工場によって1.517〜1.523と異なる場合がある。0.006オーダーのこの差は、拡散反射性の透明エレメントを備えるグレージングについての屈折率差の優先的な許容範囲を鑑みると無視できるものではない。
【0014】
この結果、テクスチャ加工ガラス基材を下方外層として選択する場合、極めて良好な明澄度を求めているのならば、上方外層として、下方外層に関して上で挙げたリスト中のタイプの材料はどれも選択することができない。
【0015】
出願人は、驚くべきことに、層状エレメントの上方外層として特定のゾル−ゲル層を特別に用いることで、特には0.015未満になり得る屈折率調和度を有する、拡散反射性の層状透明エレメントを簡単に作製できることを発見した。本発明のゾル−ゲル層は、この層を構成している様々な前駆体化合物の割合に応じて、特には1.459〜1.700、好ましくは1.502〜1.538の範囲内で異なり得る融通の利く屈折率を有する。
【0016】
したがって、本発明の解決策によって、下方外層と上方外層との間の屈折率の差が規定の値より小さくなるように屈折率を高い精度でもって調節することが可能である。
【0017】
本発明のゾル−ゲル層の屈折率の点で融通の利く配合は、基材の供給源又は基材の性質とは関係なく、光学性能という点で質が一定している層状の透明エレメントを得ることを可能にする。さらに、下方外層として、極めて高い屈折率を有するプラスチック基材を使用することも可能である。
【0018】
層状エレメントの上方外層として特定のゾル−ゲル層を選択することで、
他のタイプの外層では実現できない、下方外層の屈折率を高い精度でもって調和させること、
供給源に応じてガラスの屈折率を精確に合せること、
鉱物であるか有機質であるかに関わらず、下方外層の性質に応じて調節可能な組成を得ること、
ゾル−ゲル層を着色する成分を添加すること、
大がかりな機材を必要とすることなく、外層を様々なサイズの複雑な面に適用すること、
組成及び厚さにおいて均一な堆積物を面で得る
ことが可能になる。
【0019】
これを目的として、本発明の主題は2つの滑らかな主要外面(2A、4A)を有する透明層状エレメント(1)であり、この層状エレメントは、
それぞれが層状エレメントの2つの主要外面(2A、4A)の一方を形成し且つ実質的に同じ屈折率(n2、n4)を有する誘電体から成る2つの外層である下方外層(2)及び上方外層(4)と、
2つの外層の間に挿入される中心層3であって、外層の屈折率とは異なる屈折率(n3)を有する誘電体層若しくは金属層である単層によって、又は少なくとも1つの、外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層若しくは金属層を備える積層体(31、32、・・・3k)によって形成される中心層3とを備え、
層状エレメントの2つの隣接する層の一方が誘電体であり、もう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘導体層であり、層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(S0、S1、・・・Sk)はテクスチャ加工され、且つ一方が誘電体でありもう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層である2つの隣接する層の間の他のテクスチャ加工接触面に平行であり、
上方外層(4)は、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスを含むゾル−ゲル層であることを特徴とする。
【0020】
本発明で使用される特定の層状エレメントは、層状エレメント上での入射放射線の正透過及び放射線の拡散反射を光源の方向に関係なく得ることを可能にする。
【0021】
極めて鮮明な視界は、可能な限り調節される屈折率の調和のおかげである。
【0022】
本発明において、屈折率の値が重要ではない一方の金属層と、もう一方の、外層の屈折率に対する屈折率の差が考慮される誘電体層とは区別されている。
【0023】
明細書全体を通して、本発明の透明層状エレメントは水平に置かれるとみなされ、下向きのその第1面は下方主要外面を画成し、第1面の反対側にある上向きのその第2面は上方主要外面を画成している。したがって、「上」及び「下」という表現の意味は、この向きに対して考えられるべきである。特に明記されていない限り、「上」及び「下」という表現は必ずしも2つの層が互いに接触して配置されることを意味しない。用語「下方」及び「上方」は本明細書においてこの位置決めに関して用いられる。
【0024】
層状エレメントは任意で、上方外層及び/又は下方外層の上又は下に位置決めされる少なくとも1つの追加層を備える。この追加層は、全てが層状エレメントの外層の誘電体と実質的に同じ屈折率を有する又は異なる屈折率を有する誘電体から成り得る。
【0025】
本発明を目的として、用語「屈折率(index)」とは、波長589nmで測定される光学的屈折率のことである。
【0026】
本発明において、薄層は、1μm未満の厚さを有する層である。
【0027】
2つの誘電体又は誘電体層は実質的に同じ屈折率を有する、あるいは2つの誘電体が589nmでの屈折率の差の絶対値が0.150以下である屈折率を有する場合、実質的に等しい屈折率を有する。
【0028】
本発明において、層状エレメントの2つの外層を構成する誘電体間での589nmでの屈折率における差の絶対値は、好ましくは小さいほうから0.050以下、0.030以下、0.020以下、0.018以下、0.015以下、0.010以下、0.005以下である。
【0029】
2つの誘電体又は誘電体層は、589nmでの屈折率の差の絶対値が厳密に0.15より大きい場合、異なる屈折率を有する。有利な特色に従うと、一方の外層ともう一方の、中心層の少なくとも1つの誘電体層との間での589nmでの屈折率の差の絶対値は0.3以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上である。屈折率におけるこの比較的大きな差は、層状エレメントの内側の少なくとも1つのテクスチャ加工接触面で起きる。これが、このテクスチャ加工接触面での放射線の反射、すなわち層状エレメントによる放射線の拡散反射の促進を可能にする。
【0030】
2つの隣接する層の間の接触面は、これら2つの隣接する層の界面である。
【0031】
誘電体又は誘電体層は、非金属材料又は非金属材料層である。好ましくは、誘電体又は誘電体層は有機質又は鉱物質である。鉱物誘電体又は鉱物誘電体層は、1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択され得て、好ましくはケイ素、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、ジルコニウム又はマグネシウムから選択される。有機誘電体又は有機誘電体層はポリマーから選択される。
【0032】
誘電体又は誘電体層は、低導電率、好ましくは100S/m未満の材料又は層であると考えられる。
【0033】
透明エレメントは、少なくともエレメントの意図された用途にとって有用な波長域において放射線の透過が起きるエレメントである。例を挙げると、エレメントを建築物又は車両のグレージングとして使用する場合、エレメントは少なくとも可視波長域において透明である。
【0034】
テクスチャ加工面又は粗面は、面特性が、面上の入射放射線の波長より大きい規模で変化する面である。そのため、入射放射線は透過し、面で拡散反射される。好ましくは、本発明のテクスチャ加工面又は粗面は、少なくとも0.5μm、特には1〜100μm、より好ましくは1〜5μmの算術平均差Raに対応する粗さパラメータを示す(評価長さに沿ったプロファイルの中央線から測定される粗さプロファイルRの全ての絶対距離の算術平均に対応する)。
【0035】
滑らかな面とは、面不整がその面不整によって放射線が逸れないようなものである面である。したがって、入射放射線は透過し、面で正反射される。好ましくは、滑らかな面は、面不整が面上の入射放射線の波長より小さい寸法を有する面である。しかしながら、本発明において、特定の面不整を有するものの実質的に同じ屈折率を有する誘電体から成る1つ以上の追加層と接触し且つ特定の不整を示す層と接触している面とは反対側の面に面上の入射放射線の波長よりずっと小さい又はずっと大きい(大規模起伏)寸法の面不整の面を有する外層又は追加層の面は滑らかであるとみなされる。好ましくは、滑らかな面は、0.1μm未満、好ましくは0.01μm未満の算術平均差Raに対応する粗さパラメータ又は10°未満の傾斜を有する面である。
【0036】
グレージングは、有機透明基材又は鉱物透明基材に対応する。
【0037】
本発明により、層状エレメント上での入射放射線の正透過及び拡散反射が得られる。正透過は、層状エレメントを通したくっきりとした視界を保証する。拡散反射は、層状エレメント上での鋭い反射及び幻惑のリスクの回避を可能にする。
【0038】
層状エレメント上での拡散反射は、2つの隣接する層(一方は誘電体であり、もう一方は金属質であるか、あるいは両方が異なる屈折率を有する2つの誘電体層である)の間の各接触面がテクスチャ加工されることから起きる。したがって、層状エレメント上の入射放射線がそのような接触面に到達すると、入射放射線は金属層で又は2つの誘電体層間での屈折率における差の結果として反射され、並びに接触面にはテクスチャ加工が施されているため、反射は拡散反射である。
【0039】
正透過は、層状エレメントの2つの外層が滑らかな主要外面を有し且つ実質的に同じ屈折率を有する材料から成り、且つ層状エレメントの2つの隣接する層の間の各テクスチャ加工接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体であり、もう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)が2つの隣接する層の間の他のテクスチャ加工接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体であり、もう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する2つの誘電体層である)と平行であることから起きる。
【0040】
層状エレメントの滑らかな外面は、各空気/外層界面での放射線の正透過を可能にする。すなわち、放射線の方向が変化することのない、空気から外層内への放射線の入射又は外層から空気中への放射線の出射を可能にする。
【0041】
テクスチャ加工接触面の平行関係は、外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体である又は金属質である中心層の各構成要素層が、中心層の外層との接触面に対して垂直に均一な厚さを示すことを含意する。
【0042】
厚さにおけるこの均一性は、テクスチャ全体に広がる又はテクスチャの一部に限局したものになり得る。特に、テクスチャの傾斜に変動がある場合、2つの連続したテクスチャ加工接触面間の厚さは部位ごとにテクスチャの傾斜に応じて変化し得るが、テクスチャ加工接触面は常に互いに平行なままである。これは特に層の厚さがテクスチャの傾斜が大きくなるにつれて比例的に減少する陰極スパッタリングで堆積させる層の場合にあてはまる。したがって、局所的には、所定の傾斜を有する各テクスチャ部位において層の厚さは一定なままであるが、層の厚さは、第1傾斜を有する第1テクスチャ部位と第1傾斜とは異なる第2傾斜を有する第2テクスチャ部位との間で異なる。
【0043】
有利には、層状エレメント内でテクスチャ加工接触面の平行関係を得るために、中心層の構成層又は各構成層は陰極スパッタリングで堆積される層である。具体的には、陰極スパッタリング、特には磁場支援型陰極スパッタリングでは、層の境界を定める面が互いに平行となるが、他の堆積技法、例えば蒸着又は化学蒸着(CVD)法、あるいはゾル−ゲル法には当てはまらない。実際、層状エレメント内でのテクスチャ加工接触面の平行関係は、エレメントを通る正透過を得るのに必須である。
【0044】
層状エレメントの第1外層に入射する放射線は、その方向を変化させることなくこの第1外層を通過する。第1外層と中心層の少なくとも1つの層との間での性質における違い(誘電体又は金属)又は屈折率の差の結果として、放射線は続いて中心層で屈折する。一方で層状エレメントの2つの隣接する層の間のテクスチャ加工接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体であり、もう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)は全て互いに平行であり、他方で第2外層は第1外層と実質的に同じ屈折率を有し、スネル・デカルトの屈折の法則に従って、中心層から始まる第2外層における放射線の屈折角は第1外層から始まる中心層上での放射線の入射角に等しい。
【0045】
このため放射線は、層状エレメントの第2外層から、エレメントの第1外層上でのその入射方向と同じ方向で出てくる。したがって、層状エレメントによる放射線の透過は正透過である。その結果、層状エレメントを通したくっきりとした視界が、すなわち半透明の層状エレメントを使用することなく、層状エレメントの正透過特性によって得られる。
【0046】
本発明の一態様においては、層状エレメントの拡散反射特性を利用して放射線の大部分を複数の方向に放射線入射側で反射させる。層状エレメントの正透過特性により、この強力な拡散反射が、層状エレメントを通したくっきりとした視界を有しつつ、すなわち半透明の層状エレメントを使用せずに得られる。そのような強力な拡散反射を有する透明層状エレメントは、例えばディスプレイ、投影スクリーンに応用される。
【0047】
上方外層は、ゾル−ゲル法で得られる、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスを含むゾル−ゲル層である。
【0048】
ゾル−ゲル法は、第1段階において、水の存在下で重合反応を引き起こす前駆体を含有する「ゾル−ゲル溶液」と称される溶液を調製することから成る。このゾル−ゲル溶液を面上に堆積させると、ゾル−ゲル溶液中の水の存在により又は大気中の水分との接触により、前駆体は加水分解、縮合して網目構造が形成され、その網目構造内に溶媒が捕捉される。これらの重合反応によって次第に縮合されていく種が形成され、ゾル、次にゲルを形成するコロイド粒子となる。これらのゲルを数百度オーダーの温度で乾燥、緻密化すると、シリカ系前駆体の存在下、ガラスに相当するゾル−ゲル層が得られ、その特徴は標準ガラスのものと同様である。
【0049】
その粘性により、コロイド溶液又はゲルの形態のゾル−ゲル溶液は第1外層とは反対側の、中心層のテクスチャ加工主要面上に容易に堆積し得て、この面のテクスチャに合致する。ゾル−ゲル層は、中心層の粗さを「埋める」。具体的には、この層はそのようにテクスチャ加工された中心層の表面粗さを有する面と、この面とは反対側にある、平坦な主要外面とを備える。したがって、ゾル−ゲル法で堆積される層は層状エレメントの面の平坦化をもたらす。
【0050】
本発明において、ゾル−ゲル層は、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスを含む。このマトリックスは、オルガノシランRnSiX(4-n)である混合前駆体から得られる。これらの分子は同時に加水分解性官能基を含み、これらの加水分解性官能基がシリカ主鎖に結合し続ける有機官能基を含むシリカ網目構造又はマトリックスを作り出す。
【0051】
本発明の1つの変化形において、ゾル−ゲル層は少なくとも1種の金属酸化物の粒子又は少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子も含む。
【0052】
本発明の別の変化形において、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスは少なくとも1種の金属酸化物も含む。有機官能基及び少なくとも1種の金属酸化物を含むそのようなシリカをベースとしたマトリックスは、オルガノシランと少なくとも1種の金属酸化物の前駆体との組み合わせ使用から得られる。次に、これらの前駆体はオルガノシランとシリカと金属酸化物とのハイブリッドマトリックスを形成する。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、ゾル−ゲル層は、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスと少なくとも1種の金属酸化物とを含み、少なくとも1種の金属酸化物の粒子又は少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子が分散しており、例えば二酸化チタン粒子が分散した、シリカと酸化ジルコニウムとの有機/無機ハイブリッドマトリックスである。
【0054】
本発明のゾル−ゲル層の主要化合物は、マトリックスを形成している化合物と、このマトリックス中に分散している粒子とから成る。したがって、ゾル−ゲル層の主要化合物は、
マトリックスの有機官能基を含むシリカ、
マトリックスの金属酸化物、
マトリックス中に分散している金属酸化物粒子及び/又はカルコゲナイド粒子
になり得る。
【0055】
ゾル−ゲル層の屈折率を高い精度でもって合わせるために、マトリックス由来の又は粒子の形態で分散している金属酸化物の割合を変化させる。原則として、金属酸化物はシリカの屈折率より高い屈折率を有する。金属酸化物の割合を高くすることで、ゾル−ゲル層の屈折率は上昇する。ゾル−ゲル層の屈折率は、閾値未満の金属酸化物の体積率に関しては、1タイプの金属酸化物の体積分率の関数として線形的に上昇する。例えば、TiO2粒子を添加すると、ゾル−ゲル層の屈折率の線形変化が、20%未満である、ゾル−ゲル層の主要化合物の総体積に対するTiO2の体積率に関して観察される。
【0056】
したがって、理論的にはゾル−ゲル層の屈折率をゾル−ゲル層を構成している主要化合物の関数として求めること、並びに必要とされる屈折率を有するゾル−ゲル層を硬化後に得ることを可能にするゾル−ゲル溶液の配合を理論的に求めることが可能である。
【0057】
したがって、本発明の解決策は特に有利である。例えば、下方外層として使用することが意図されたガラス基材を受けるにあたって、その屈折率を測定する。次に、硬化後にその基材との屈折率の調和度が0.015未満のゾル−ゲル層をもたらすようにゾル−ゲル溶液を配合する。
【0058】
ゾル−ゲル層は幅広い屈折率範囲を有し得て、特には1.459〜1.700、好ましくは1.502〜1.538、より一層好ましくは1.517〜1.523である。
【0059】
ゾル−ゲル層の主要化合物は、ゾル−ゲル層の総質量に対して、質量で、好ましくは小さい方から少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、100%となる。
【0060】
ゾル−ゲル層は好ましくは、ゾル−ゲル層を構成している主要化合物の総質量に対して質量で
50〜100%、好ましくは70〜95%、より好ましくは85〜90%のマトリックスの有機官能基を含むシリカ並びに/又は
0〜10%、好ましくは1〜5%、より好ましくは2〜4%のマトリックスの金属酸化物並びに/又は
0〜40%、好ましくは1〜20%、より好ましくは5〜15%のマトリックス中に分散した金属酸化物粒子及び/又はカルコゲナイド粒子
を含む。
【0061】
ゾル−ゲル層の主要化合物の総体積に対する金属酸化物粒子の体積率は、好ましくは小さいほうから0〜25%、1〜25%、2〜8%である。
【0062】
ゾル−ゲル層は、ゾル−ゲル溶液を硬化させることで得られ、且つ一般式RnSiX(4-n)の少なくとも1種のオルガノシランの加水分解及び縮合で生じる生成物を含み、
式中、nは1、2、3に等しく、好ましくはnは1又は2に等しく、より好ましくはnは1に等しく、
同一又は異なり得る基Xは、アルコキシ基、アシルオキシ基及びハロゲン化物基から選択される加水分解性基、好ましくはアルコキシ基を表し、
同一又は異なり得る基Rは、炭素原子を介してケイ素に結合された非加水分解性有機基(又は有機官能基)を表す。
【0063】
好ましくは、ゾル−ゲル層はゾル−ゲル溶液の硬化により得られ、且つ
(i)少なくとも1種のオルガノシラン、及び
(ii)少なくとも1種の金属酸化物前駆体、及び/又は
(iii)少なくとも1種の金属酸化物の粒子若しくは少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子
の加水分解及び縮合から生じる生成物を含む。
【0064】
有機/無機ハイブリッドマトリックスの金属酸化物粒子及び/又は金属酸化物前駆体は、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ニオブ、アルミニウム及びモリブデンから選択される金属を含む。
【0065】
オルガノシランは2個又は3個、特には3個の加水分解性基Xと1個又は2個、特には1個の非加水分解性基Rとを含む。
【0066】
基Xは優先的には、アルコキシ基−O−R´、特にはC1〜C4アルコキシ基、アシルオキシ基−O−C(O)R´(R´はアルキルラジカル、優先的にはC1〜C6、好ましくはメチル又はエチルである)、ハロゲン化物(Cl、Br、I等)及びこれらの基の組み合わせから選択される。好ましくは、基Xはアルコキシ基、特にはメトキシ又はエトキシである。
【0067】
基Rは非加水分解性炭化水素系基である。本発明では特定の数の基が適している。これらの基の存在及び性質が、本発明の用途に適合する厚さを有するゾル−ゲル層を得ることを可能にする。好ましくは、非加水分解性有機官能基に対応する基Rは少なくとも50g/モル、好ましくは少なくとも100g/モルのモル質量を有する。したがって、この基Rは乾燥工程の後であっても排除できない基であり、
アルキル基、好ましくは直鎖又は分岐C1〜C10、より好ましくはC3〜C10アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル基、
アルケニル基、好ましくはC2〜C10アルケニル基、例えばビニル、1−プロペニル、2−プロペニル及びブテニル基、
アルキニル基、例えばアセチレニル及びプロパルギル基、
アリール基、好ましくはC6〜C10アリール基、例えばフェニル及びナフチル基、
アルキルアリール基、
アリールアルキル基、
(メタ)アクリル及び(メタ)アクリルオキシプロピル基、
グリシジル及びグリシジルオキシ基
から選択され得る。
【0068】
アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール及びアリールアルキル基等の上で定義された基はまた、第一、第二又は第三アミン(その場合、非加水分解性ラジカルは例えばアミノアリール又はアミノアルキル基である)、アミド、アルキルカルボニル、置換又は非置換アニリン、アルデヒド、ケトン、カルボキシル、無水物、ヒドロキシル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、メルカプト、シアノ、ヒドロキシフェニル、アルキルカルボキシレート、スルホン酸、リン酸又はメタ(アクリルオキシルオキシ)基、エポキシド環を含む基、例えばグリシジル及びグリシジルオキシ並びにアリル及びビニル基から選択される少なくとも1つの基を含み得る。
【0069】
特に好ましいオルガノシランは同一又は異なり好ましくは同一である基Xを含み且つ加水分解性基、好ましくはC1〜C4アルコキシ基、より好ましくはエトキシ又はメトキシ基を表し、Rは非加水分解性基、好ましくはグリシジル又はグリシジルオキシC1〜C20、好ましくはC1〜C6アルキレン基、例えばグリシジルオキシプロピル基、グリシジルオキシエチル基、グリシジルオキシブチル基、グリシジルオキシペンチル基、グリシジルオキシヘキシル基及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基である。
【0070】
有利には、オルガノシランは、以下の化合物:アリルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−[N´−(2´−アミノエチル)−2−アミノエチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−[(3−(トリエトキシシリル)プロピル]−4,5−ジヒドロキシイミダゾールから選択される。
【0071】
上で挙げた化合物の中でも、好ましい化合物はGLYMOである。
【0072】
シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックス中に分散している金属酸化物粒子及び/又はカルコゲナイド粒子は好ましくは以下の基:TiO2、ZrO2、ZnO、NbO、SnO2、Al23、MoO3、ZnS、ZnTe、CdS、CdSe、IrO2、WO3、Fe23、FeTiO3、BaTi49、SrTiO3、ZrTiO4、Co34、ビスマスをベースとした三元酸化物、MoS2、RuO2、Sb24、Sb25、BaTi49、MgO、CaTiO3、V25、Mn23、CeO2、RuS2、Y23、La23から選択される。
【0073】
好ましくは、粒子は、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ニオブ、アルミニウム及びモリブデンから選択される金属を含む金属酸化物の粒子である。
【0074】
特に有利な実施形態において、この金属酸化物はルチル又はアナターゼの形態の酸化チタン(TiO2)又は酸化ジルコニウム(ZrO2)である。
【0075】
少なくとも1種の金属酸化物の粒子又は少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子は好ましくは、小さいほうから、1μm以下、60nm以下、50nm以下、20nm以下の平均直径を有する。粒子は概して1nmより大きい、より好ましくは5nmより大きい直径を有する。
【0076】
カルコゲナイド金属酸化物の屈折率は好ましくは、小さいほうから、1.49より大きく、1.50より大きく、1.60より大きく、1.70より大きく、1.80より大きく、1.90より大きく、2.00より大きく、2.10より大きく、2.20より大きい。
【0077】
使用し得る市販品としては、Optolake 1120Z(11RU7−A−8)の商品名でCatalyst&Chemical(CCIC)が販売し、TiO2コロイドに対応する製品を挙げ得る。また、Cristal GlobalがS5−300Aの品番で販売し、BET比表面積約330m2/g及び平均直径約50nmを有する、TiO2粒子が分散液の総質量に対して23質量%の安定した水性分散液に対応する製品を挙げ得る。
【0078】
金属酸化物前駆体は有機金属化合物、例えば金属アルコキシド及び金属塩から選択され得て、これらは金属元素を含む。
【0079】
金属酸化物前駆体は、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ニオブ、アルミニウム及びモリブデンから選択される金属を含み得る。好ましくは、ゾル−ゲル溶液は、少なくとも1種のジルコニウム、アルミニウム又はチタン酸化物前駆体、好ましくは金属アルコキシド又は金属ハロゲン化物を含む。前駆体化合物の例は以下:
Al(OCH33、Al(OC253、Al(OC373、Al(OC493、Al(OC24OC493、AlCl3、AlCl(OH)2
TiCl4、Ti(OC254、Ti(OC374、Ti(OC494、Ti(2−エチルヘキソキシ)4
ZrCl4、Zr(OC254、Zr(OC374、ZrOCl2、Zr(2−エチルヘキソキシ)4
である。
【0080】
好ましくは、本発明のゾル−ゲル溶液は、ジルコニウムアルコキシド、例えばジルコニウムテトラプロポキシド(TPOZ)から選択される単一の化合物を含む。
【0081】
オルガノシラン(i)、金属酸化物前駆体(ii)並びに金属酸化物及びカルコゲナイド(iii)は、ゾル−ゲル溶液の主要化合物である。ゾル−ゲル溶液は、これらの「主要」成分の他にも、添加剤及び溶媒を含む。添加剤は好ましくは、ゾル−ゲル溶液の総質量に対して質量で10%未満、好ましくは5%未満となる。
【0082】
ゾル−ゲル溶液の主要成分の総質量に対する質量でのオルガノシランの割合は好ましくは、小さいほうから50〜99%、60〜98%、70〜95%、80〜90%である。
【0083】
ゾル−ゲル溶液の主要成分の総質量に対する質量での金属酸化物前駆体の割合は好ましくは、小さいほうから0〜10%、1〜10%、2〜8%、4〜7%である。
【0084】
ゾル−ゲル溶液の主要成分の総質量に対する質量での金属酸化物及びカルコゲナイドの割合は好ましくは、小さいほうから0〜40%、1〜20%、2〜10%、4〜9%である。
【0085】
ゾル−ゲル溶液は、主要化合物に加えて、少なくとも1種の溶媒及び任意で少なくとも1種の添加剤を含み得る。
【0086】
溶媒は水及び有機溶媒から選択される。ゾル−ゲル溶液は好ましくは、加水分解及び縮合反応を可能にする水を含む。ゾル−ゲル溶液はまた、大気圧で沸点が好ましくは70〜140℃の少なくとも1種の有機溶媒を含み得る。本発明で使用され得る有機溶媒としては、アルコール、エステル、ケトン、テトラヒドロピラン及びこれらの混合物を挙げ得る。アルコールは好ましくはC1〜C6アルコールから選択され、例えばメタノールである。エステルは好ましくはアセテートから選択され、特にはエチルアセテートを挙げ得る。ケトンの中でも、メチルエチルケトンが好ましくは使用される。
【0087】
したがって、適切な溶媒の中でも、水、メタノール、エタノール、プロパノール(n−プロパノール及びイソプロパノール)、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、2−メチル−2−ブタノール及びブトキシエタノール並びに水/有機溶媒混合物を挙げ得る。
【0088】
溶媒の割合は幅広い範囲で変化し得る。割合は特には得られる厚さに左右される。具体的には、ゾル−ゲル溶液の固形分が多ければ多いほど、より厚く堆積させて厚いゾル−ゲル層が得ることが可能となる。
【0089】
ゾル−ゲル溶液の総質量に対する溶媒の質量率は、例えば少なくとも10%であり且つ80%以下となり得る。
【0090】
同様に、ゾル−ゲル溶液の総質量に対する主要化合物の質量率は、例えば少なくとも20%であり且つ90%以下である。
【0091】
ゾル−ゲル溶液の総質量に対する水の質量率は、例えば10〜40%、10〜30%又は15〜25%である。
【0092】
ゾル−ゲル溶液が1種以上の有機溶媒も含む場合、ゾル−ゲル溶液の総質量に対する有機溶媒の質量率は、例えば10〜40%、10〜30%又は15〜25%である。
【0093】
組成物はまた様々な添加剤を含み得て、例えば界面活性剤、紫外線吸収剤、顔料又は染料、加水分解及び/又は縮合触媒並びに硬化触媒である。添加剤の割合は合計で好ましくはゾル−ゲル溶液の総質量に対して質量で5%未満である。
【0094】
界面活性剤は濡れ性を改善し且つコーティングを施す面上での組成物の広がりをより良好なものにする。これらの界面活性剤の中でも、エトキシ化又は中性脂肪アルコール等の非イオン界面活性剤、例えばフルオロ界面活性剤を挙げ得る。フルオロ界面活性剤として、特には3Mが品番FC−4430で販売している製品を挙げ得る。
【0095】
ゾル−ゲル溶液の総質量に対する界面活性剤の質量での割合は、好ましくは小さいほうから0.01〜5%、0.05〜3%、0.10〜2.00%である。
【0096】
加水分解及び/又は縮合触媒は好ましくは酸及び塩基から選択される。
【0097】
酸触媒は、有機酸、鉱酸及びこれらの混合物から選択され得る。有機酸は特には脂肪族モノカルボン酸等のカルボン酸、例えば酢酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等のポリカルボン酸、例えばクエン酸及びこれらの混合物から選択され得る。鉱酸の中でも、硝酸又は塩酸及びこれらの混合物が使用され得る。
【0098】
組成物が金属酸化物前駆体を含む場合、酢酸には、安定剤として作用するという追加の利点がある。具体的には、酢酸はこれらの前駆体をキレート化することでこのタイプの生成物の極度に急速な加水分解を防止する。
【0099】
塩基性触媒は、エタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン塩基及びこれらの混合物から選択され得る。基材又は使用するシランの性質に因り酸が使用できない場合に特定の塩基が使用される。
【0100】
溶液は、顔料、染料又は真珠層も含み得る。この実施形態において、ゾル−ゲル層は着色された外観を有し得る。この着色された外観を得るための別のやり方は、コロイド粒子のマトリックス中にコバルト、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル又は銅酸化物粒子等の着色金属酸化物及び着色された外観をもたらすことが可能な他の遷移金属又は非金属の酸化物粒子を選択して導入することから成る。
【0101】
堆積を、以下の技法:
ディップコーティング、
スピンコーティング、
ラミナーフローコーティング又はメニスカスコーティング、
スプレーコーティング、
ソークコーティング、
ロール加工、
ペイントコーティング、
スクリーン印刷
の1つに従って行い得る。
【0102】
堆積は、好ましくは空気噴霧式のスプレーコーティングによって行われる。
【0103】
ゾル−ゲル層が中心層の粗さを埋めることで層状エレメントの面が平坦化される。中心層の主要外面のテクスチャは接触面の全般面に対して窪んだ又は突出した複数のデザインによって形成される。最も低い窪みと最も高いピーク又は頂との間で定義される厚さは、ピーク−谷間値として知られる値に対応する。ゾル−ゲル層の厚さは、中心層の面が平坦となるのに充分なものでなくてはならず、したがって少なくとも中心層のテクスチャのピーク−谷間値に等しくなくてはならない。ゾル−ゲル層の厚さは好ましくは中心層のピーク−谷間値より大きい。
【0104】
本発明において、ゾル−ゲル層の厚さは、中心層の最も低い窪みからのものであると定義される。ゾル−ゲル層の厚さは5nm〜100μm、好ましくは50nm〜50μmになり得る。この厚さは、浸漬、散布又は噴霧等の技法で塗布作業を1回(又はパス)以上行うことで単層として得られる。
【0105】
ゾル−ゲルフィルムの乾燥温度は0〜200℃、好ましくは100〜150℃、より好ましくは120〜170℃になり得る。
【0106】
有利には、本発明のデバイスは、
中心層の選択及び下方外層の厚さに応じた様々な光透過率、
ASTM D1003規格に準拠した測定で5%未満、好ましくは2.5%未満、より好ましくは1%未満の透過曇り度、
BYKのHaze−Gard Plusマシンを用いた測定で93%より高く、好ましくは95%より高く、より好ましくは97%より高い明度を得ることを可能にする。
【0107】
本発明の一態様において、誘電体から成る層状エレメントの下方外層は、
透明基材であって、その主要面の一方にはテクスチャ加工が施され、もう一方の主要面は滑らかであり、好ましくはポリマー、ガラス及びセラミックから選択される透明基材、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体の層、
成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態である硬化性材料をベースとする層であって、
光架橋性及び/又は光重合性材料、
ゾル−ゲル法で堆積される層
を含む層、
熱成形性又は感圧プラスチック材料のインサート又はシートであって、ポリビニルブチラール(PVB)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はエチレン/ビニルアセテート(EVA)コポリマーから選択されるポリマーをベースとし得る熱成形性又は感圧プラスチック材料のインサート又はシート
から選択される。
【0108】
透明基材の主要面の1つへのテクスチャ加工はいずれの公知のテクスチャ加工法でも施し得て、例えば面を変形させることが可能な温度まで事前に加熱された基材面へのエンボス加工、特には基材に形成しようとするテクスチャに相補的なテクスチャをその表面に有するローラでのラミネーション、研磨粒子又は研磨面による研磨(特にはサンダー仕上げ)、化学処理(特には、ガラス基材の場合は酸処理)、成型(特には、熱可塑性ポリマー製の基材の場合は射出成形)、エッチングである。
【0109】
透明基材がポリマーから形成される場合、この基材は剛性又は可撓性になり得る。本発明に適したポリマーの例には、特には
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、
ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、
ポリカーボネート、
ポリウレタン、
ポリアミド、
ポリイミド、
フルオロエステルポリマー、例えばエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)及びフッ化エチレン−プロピレンコポリマー(FEP)、
光架橋及び/又は光重合樹脂、例えばチオレン、ポリウレタン、ウレタン−アクリレート又はポリエステル−アクリレート樹脂並びに
ポリチオウレタン
が含まれる。
【0110】
これらのポリマーは概して、1.30〜1.70の屈折率範囲を有する。しかしながら、これらのポリマーの幾つか、特にはポリチオウレタン等の硫黄を含むポリマーは最高1.74になり得る高い屈折率を有し得ることに留意するのが有利である。
【0111】
層状エレメントの外層として直接使用し得るガラス基材の例には、
Saint−Gobain Glassが販売するSatinovo(登録商標)シリーズ(前もってテクスチャ加工が施され且つその主要面の1つに、サンダー仕上げ又は酸処理で得られるテクスチャを有する)のガラス基材、
Saint−Gobain Glassが販売するAlbarino(登録商標)S、P若しくはGシリーズ又はMasterglass(登録商標)シリーズ(その主要面の1つに積層で得られるテクスチャを有する)のガラス基材、
フリントガラス等のサンダー仕上げでテクスチャ加工される高屈折率ガラス基材(例えば、Schottが品番SF6(n=1.81)、7SF57(n=1.85)、N−SF66(n=1.92)及びP−SF68(n=2.00)で販売)
が含まれる。
【0112】
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体の層はマグネトロンスパッタリングにより堆積され、次に研磨粒子又は研磨面による研磨、特にはサンダー仕上、化学処理又はエッチングによってテクスチャ加工が施され得る。
【0113】
層状エレメントの下方外層はまた、成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態である硬化性材料をベースとし得る。
【0114】
最初は粘性の液体又はペースト状態で堆積される層は、光架橋性及び/又は光重合性材料の層になり得る。好ましくは、この光架橋性及び/又は光重合性材料は室温では液体の形態であり、照射により光架橋及び/又は光重合されると、気泡又は他の不整のない透明な固体となる。この材料は特には樹脂、例えば通常は接着剤、結合剤又は表面コーティング剤として使用されるものになり得る。これらの樹脂は概して、エポキシ、エポキシシラン、アクリレート、メタクリレート、アクリル酸又はメタクリル酸タイプのモノマー/コモノマー/プレポリマーをベースとする。挙げられる例には、チオレン、ポリウレタン、ウレタン−アクリレート又はポリエステル−アクリレート樹脂が含まれる。樹脂の代わりに、この材料は光架橋性水性ゲル、例えばポリアクリルアミドゲルになり得る。本発明で使用し得る光架橋性及び/又は光重合性樹脂の例には、JSR Corporationが販売している製品KZ6661等の紫外線硬化性樹脂が含まれる。
【0115】
変化形として、最初は粘性の液体又はペースト状態で堆積される外層は、ゾル−ゲル法で堆積される層になり得る。
【0116】
最初は粘性の液体又はペースト状態で堆積される硬化性材料をベースとした下方外層のテクスチャ加工は、層の主要外層上に形成しようとしているテクスチャに相補的なテクスチャをその表面に有するローラを使用して行われ得る。
【0117】
下方外層は、圧縮及び/又は加熱によってテクスチャ加工を施される、熱成形性又は感圧プラスチック材料のインサート又はシートをベースとした層を備え得る。ポリマー材料をベースとしたこの層は特にはポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアセテート(EVA)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又は塩化ポリビニル(PVC)をベースとした層になり得る。標準積層インサートの屈折率(PVB、EVA、PU、SentryGlas(登録商標))は589nmで最高約1.491である。
【0118】
下方外層の厚さは好ましくは1μm〜6mmであり、誘電体の選択に応じて異なる。
【0119】
平坦な又はテクスチャ加工が施されたガラス基材は好ましくは0.4〜6mm、好ましくは0.7〜2mmの厚さを有する。
【0120】
平坦な又はテクスチャ加工が施されたポリマー基材は好ましくは0.020〜2mm、好ましくは0.025〜0.25mmの厚さを有する。
【0121】
誘電体の層から成る外層は好ましくは0.2〜20μm、好ましくは0.5〜2μmの厚さを有する。
【0122】
成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態の硬化性材料をベースとした層は好ましくは0.5〜100μm、好ましくは0.5〜40μm、より好ましくは0.5〜15μmの厚さを有する。光架橋性及び/又は光重合性材料をベースとした層は好ましくは0.5〜20μm、好ましくは0.7〜10μmの厚さを有する。ゾル−ゲル法で堆積される層は好ましくは0.5〜50μm、好ましくは10〜15μmの厚さを有する。
【0123】
プラスチック製のインサート又はシートをベースとした層は好ましくは10μm〜1mm、好ましくは0.3〜1mmの厚さを有する。
【0124】
誘電体又は誘電体層は、
例えば標準ガラスを使用する場合は1.51〜1.53の屈折率、
低屈折率の誘電体又は誘電体層を使用する場合は1.51未満、好ましくは1.49未満の屈折率、
高屈折率の誘電体又は誘電体層を使用する場合は1.54より高い、好ましくは1.7より高い屈折率
を有し得る。
【0125】
層状エレメントの中心層の層又は積層体は、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体から成る少なくとも1つの薄層、
少なくとも1つの金属薄層、特には銀、金、銅、チタン、ニオブ、ケイ素、アルミニウム、ニッケル−クロム(NiCr)合金、ステンレススチール又はこれらの合金の薄層
を備え得る。
【0126】
誘電体から成る薄層は、
外層の屈折率とは異なる高屈折率を有する誘電体、例えばSi34、AlN、NbN、SnO2、ZnO、SnZnO、Al23、MoO3、NbO、TiO2、ZrO2から成る少なくとも1つの薄層、
外層の屈折率とは異なる低屈折率を有する誘電体、例えばSiO2、MgF2、AlF3から成る少なくとも1つの薄層
から選択され得る。
【0127】
中心層の厚さの選択は、一定数のパラメータに左右される。概して、中心層の総厚は5〜200nmであると考えられ、中心層を構成するある層の厚さは1〜200nmである。
【0128】
中心層が金属層である場合、1つの層の厚さは好ましくは5〜40nm、より好ましくは6〜30nm、より一層好ましくは6〜20nmである。
【0129】
中心層が誘電体層、例えばTiO2の場合、中心層は好ましくは20〜100nm、より好ましくは55〜65nmの厚さ及び/又は2.2〜2.4の屈折率を有する。
【0130】
有利には、層状エレメントの中心層の組成を調節することによって層状エレメントに追加の特性、例えば太陽光制御タイプの熱特性を付与し得る。したがって、一実施形態において、層状エレメントの中心層は、薄層の透明な積層体であって、「n」枚の機能性金属層、特には銀又は銀含有合金をベースとした機能性層と「(n+1)」(n≧1)枚の反射防止コーティングとを交互に備え、各機能性金属層が2枚の反射防止コーティングの間に位置決めされる、薄層の透明な積層体である。
【0131】
公知のやり方において、機能性金属層を有するそのような積層体は太陽光の範囲及び/又は長波長赤外線の範囲で反射特性を有する。そのような積層体においては機能性金属層が本質的に熱性能の質を決定し、機能性金属層を囲む反射防止コーティングは光学的側面に干渉的に作用する。具体的には、機能性金属層は各機能性金属層について約10nmオーダーの小さい幾何的厚さであっても望ましい熱性能の質を得ることを可能にするが、可視波長の範囲の放射線の通過には強力に対抗する。したがって、各機能性金属層の両側の反射防止コーティングが、可視光範囲における良好な光透過を確保するために必要である。
【0132】
したがって、得られる層状エレメントは光学特性、すなわち層状エレメント上での入射放射線の正透過及び拡散反射の特性と、熱特性、すなわち太陽光制御の特性とを併せ持つ。そのような層状エレメントは、建築物又は車両の太陽光防御グレージング及び/又は断熱グレージングに使用され得る。
【0133】
本発明の一態様において、層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体でありもう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)のテクスチャは、接触面の全般面に対して窪んだ又は突出した複数のデザインによって形成される。好ましくは、層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体でありもう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)のデザインの平均高さは1μm〜100μmである。本発明を目的として、接触面のデザインの平均高さは、接触面の各デザインについて接触面のピークと全般面との間で測定される、絶対値での距離yiの算術平均と定義され、
【数1】
に等しい。
【0134】
層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体でありもう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)のテクスチャのデザインは、接触面上にランダムに分散させられ得る。変化形として、層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(2つの隣接する層の一方は誘電体でありもう一方は金属質であり、あるいは両方が異なる屈折率を有する誘電体層である)のテクスチャのデザインは、接触面上に周期的に分散させられ得る。これらのデザインは特には円錐、角錐、溝、チャネル又はさざ波になり得る。
【0135】
本発明の一態様において、それ自身とは異なる性質(誘電性又は金属質)又はそれ自身とは異なる屈折率を有する層に囲まれた中心層の各層に関し、隣接する層とのその接触面に対して垂直に測定されるこの層の厚さは、隣接する層とのその接触面のそれぞれのデザインの平均高さより小さい。そのような小さい厚さは、この層への放射線の入射界面とこの層から出ていく放射線の出射界面とが平行である確率を上昇させ、ひいては層状エレメントを通る放射線の正透過率を上昇させることを可能にする。有利には、それ自身とは異なる性質(誘電性又は金属質)又はそれ自身とは異なる屈折率を有する2つの層の間に挿入される中心層の各層の厚さは(この厚さは隣接する層とのその接触面に対して垂直に測定される)、隣接する層とのその接触面のそれぞれのデザインの平均高さの1/4未満である。
【0136】
有利には、層状エレメントは、その滑らかな主要外面の少なくとも一方の上に、空気とこの主要外面を形成している外層の構成材料との間の界面に反射防止コーティングを備える。この反射防止コーティングの存在により、この主要外面側での層状エレメントへの入射放射線は好ましくは層状エレメントの滑らかな外面ではなく各テクスチャ加工接触面で反射され、これは正反射モードではなく拡散反射モードに対応する。したがって、正反射ではなく、層状エレメントによる放射線の拡散反射が促進される。
【0137】
層状エレメントの主要外面の少なくとも一方上に設けられる反射防止コーティングは、空気と層状エレメントの対応する外層との間の界面での放射線の反射の軽減を可能にするいずれのタイプのものにもなり得る。特には、反射防止コーティングは、空気の屈折率と外層の屈折率との間の屈折率を有する層になり得て、例えば真空技法で外層の面上に堆積される層、ゾル−ゲルタイプの多孔質層又は外層がガラスから形成される場合、「エッチング」タイプの酸処理によって得られるガラス外層の窪み面部である。変化形として、反射防止コーティングは、空気と外層との間の界面で干渉フィルタとして作用する交互に低屈折率及び高屈折率を有する薄層積層体によって、あるいは空気の屈折率と外層の屈折率との間の連続的な又は段階的な勾配の屈折率を有する薄層積層体によって形成され得る。
【0138】
中心層は、第1外層のテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように堆積される単層又は第1外層のテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように連続的に堆積される層の積層体によって形成される。
【0139】
本発明において、堆積後に、中心層の上面がテクスチャ加工され且つ第1外層のテクスチャ加工接触面に対して平行である場合、中心層は第1外層のテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように堆積されているとみなされる。第1外層のテクスチャ加工主要面上への中心層のテクスチャ加工主要面と合致するような堆積又は中心層の複数の層のテクスチャ加工主要面と合致するような連続的な堆積は、好ましくは陰極スパッタリング、特には磁場支援型陰極スパッタリングによって行われる。
【0140】
追加層は好ましくは:
透明基材であって、上で定義したようなポリマー、ガラス又はセラミックから選択されるが、2つの滑らかな主要面を備える透明基材、
上述したような成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態の硬化性材料、
上述したような熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサート又はシート
から選択される。
【0141】
ゾル−ゲル層の主要外面はある種の大規模面不整を呈し得る。したがって、層状エレメントの外層の滑らかさを再構築するために、ある種の不整を呈するこの面と接触させて、外層と実質的に同じ屈折率を有する追加層、例えば上述したプラスチック材料のシートを配置することが可能である。
【0142】
有利には、層状エレメントの滑らかな主要外面及び/又はグレージングの滑らかな主要外面は平坦である又は湾曲し、好ましくは、これらの滑らかな主要外面は互いに平行である。このことは層状エレメントを通過する放射線の光分散の制限、ひいては層状エレメントを通した視界の鮮明度の改善に寄与する。
【0143】
層状エレメントは剛性グレージング又は可撓性フィルムになり得る。有利には、そのような可撓性フィルムの主要外面の1つに接着層を設け、この接着層はフィルム接着時に取り外すことが意図された保護ストリップで覆われる。したがって、可撓性フィルムの形態の層状エレメントは、既存の面、例えばグレージングの面に接着により適用することでその面に拡散反射特性を正透過特性を維持しながら付与可能である。
【0144】
本発明の一実施形態において、下方外層は透明基材である。中心層は、第1外層のテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように堆積される単層又は第1外層のテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように連続的に堆積される層の積層体によって形成される。好ましくは、中心層は陰極スパッタリング、特には磁場支援型陰極スパッタリングにより堆積される。第2外層又は上方外層は、第1外層とは反対側の、中心層のテクスチャ加工主要面上に堆積されるゾル−ゲル層を備える。
【0145】
本発明の別の態様において、上方追加層は対向基材として使用され得る。したがって、ゾル−ゲル層は、中心層が設けられた下方外層と対向基材との間を一体的につなぐ。
【0146】
本発明の別の態様において、下方外層又は追加層が熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサート又はシートをベースとした層を備える場合、追加層、例えば外層の屈折率に実質的に等しい屈折率を有する透明基材を使用し得る。プラスチック材料から形成されるインサート又はシートをベースとした層はその場合、積層インサートに対応し、中心層をコーティングした層状エレメントの下方外層と追加層との間とをつなぐ。
【0147】
本発明の透明層状エレメントは好ましくは以下:
ポリマー、ガラス等の両方の主要面が滑らかな透明基材及び熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサートから選択される任意の少なくとも1つの下方追加層と、
ポリマー、ガラス等の透明基材及び成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態の硬化性材料から選択される下方外層と、
誘電体から成る薄層又は金属薄層を備える中心層と、
ゾル−ゲル層から選択される上方外層と、
ポリマー及びガラスから選択される、両方の主要面が滑らかな透明基材並びに熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサートから選択される任意の少なくとも1つの上方追加層
との積層体を備える。
【0148】
本発明の一変化形において、層状エレメントは、
粗ガラスから形成される透明基材から選択される下方外層と、
中心層と、
ゾル−ゲル層から選択される上方外層と、
板ガラスから形成される透明基材から選択される追加の上方層
とを備える。
【0149】
別の実施形態において、本発明の層状エレメントは以下:
粗ガラスから形成される透明基材から選択される下方外層と、
中心層と、
ゾル−ゲル層から選択される上方外層と、
熱成形性又は感圧材料から形成され、その上には透明ガラス基材から選択される別の上方追加層が優先的に重ねられるインサートから選択される任意の上方追加層
との積層体を備える。
【0150】
本発明の別の主題は、上述したような層状エレメントの製造方法であり、以下の:
主要面の一方がテクスチャ加工されもう一方の主要面が滑らかな透明基材を第1外層又は下方外層として用意する工程と、
中心層を下方外層のテクスチャ加工された主要面上に堆積させ、すなわち中心層が下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層又は金属層である単層から形成される場合、中心層はテクスチャ加工された主要面上にその面と合致するように堆積され、または中心層が、下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの誘電体層又は金属層を備える積層体から形成される場合、中心層の複数の層はテクスチャ加工主要面上にその面と合致するように連続的に堆積される工程と、
ゾル−ゲル上方外層をゾル−ゲル法での堆積により下方外層とは反対側の中心層のテクスチャ加工された主要面上に形成する工程であって、下方外層及び上方外層は実質的に同じ屈折率を有する誘電体から成る、工程と、
任意で少なくとも1つの上方及び/又は下方追加層を層状エレメントの滑らかな主要外面上に形成する工程と
を含む。
【0151】
本発明のある主題は建築物の正面部位、特には空港ターミナルの正面部位でもあり、上述したような少なくとも1つの層状エレメントを備える。
【0152】
本発明の別の主題は、上述したような層状エレメントを備えるディスプレイ又は投影スクリーンである。特には、本発明の主題は、上述したような層状エレメントを備えるヘッドアップディスプレイシステムのグレージングである。
【0153】
最後に、本発明の主題は、上述したような層状エレメントの、車両、建築物、街路備品、室内調度品、ディスプレイ若しくは投影スクリーン又はヘッドアップディスプレイシステム用のグレージングの全て又は一部としての使用である。本発明の層状エレメントを例えばディスプレイウィンドウに組み込むことで層状エレメントに画像を投影させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0154】
本発明の特徴及び利点は、例として挙げられたに過ぎない、添付の図面に関連した層状エレメントの幾つかの実施形態についての以下の説明から明らかとなる。
図1】本発明の層状エレメントの概略横断面図である。
図2】層状エレメントの第1の変化形についての図1の細部Iの拡大図である。
図3】層状エレメントの第2の変化形についての図1の細部Iの拡大図である。
図4】本発明の層状エレメントの製造方法の工程を示すスキームである。
図5】本発明の層状エレメントの製造方法の工程を示すスキームである。
図6】ゾル−ゲル層におけるTiO2の体積率の関数としての屈折率における変化を表す。
図7】ゾル−ゲル法でゾル−ゲル層を堆積させたSatinovo(登録商標)透明粗ガラスから形成されるサテン仕上げ基材の走査電子顕微鏡画像である。
図8】ゾル−ゲル層の屈折率及び下方外層として使用されるSatinovo(登録商標)基材とゾル−ゲル層との間での屈折率の差の関数としての曇り度(右側y軸)及び明度(左側y軸)における変化を示すグラフである。
図9】ゾル−ゲル層の屈折率及び下方外層として使用されるSatinovo(登録商標)基材とゾル−ゲル層との間での屈折率の差の関数としての曇り度(右側y軸)及び明度(左側y軸)における変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0155】
図を分かり易くするために、図中の様々な層の相対的な厚さは正確には描かれていない。さらに、厚さにおけるこの考えられ得る変化はテクスチャ加工接触面の平行関係に影響しないことから、中心層の構成層又は各構成層の厚さにおけるテクスチャの傾斜に応じた考えられ得る変化は図には描かれていない。具体的には、テクスチャの各所定の傾斜に関し、テクスチャ加工接触面は互いに平行である。
【0156】
図1に示す層状エレメント1は2つの外層2、4を備え、これらは実質的に同じ屈折率n2、n4を有する透明誘電体から成る。各外層2又は4はそれぞれ、層状エレメントの外側を向いた滑らかな主要面2A又は4A及びそれぞれ層状エレメントの内側を向いたテクスチャ加工主要面2B又は4Bを有する。
【0157】
層状エレメント1の滑らかな外面2A、4Aにより各面2A、4Aで放射線は正透過し、すなわち方向を変えることなく、放射線は外層に入射する又は外層から出射する。
【0158】
内面2B、4Bのテクスチャは互いに相補的である。図1からはっきりとわかるように、テクスチャ加工面2B、4Bは対向して位置決めされ、そのテクスチャは厳密に互いに平行な構成にある。層状エレメント1は、テクスチャ加工面2B、4Bの間に挿入され且つこれらと接触している中心層3も備える。
【0159】
図2の変化形において、中心層3は単層であり、金属質である又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率n3を有し誘電性である透明材料から成る。
【0160】
図3の変化形において、中心層3は幾つかの層31、32、・・・3kの透明な積層体から形成され、層31〜3kの少なくとも1つは金属層又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層である。好ましくは、少なくとも、積層体の両端に位置する2つの層31、3kのそれぞれは、金属層又は外層2、4の屈折率とは異なる屈折率n31又はn3kを有する誘電体層である。
【0161】
図2〜3において、S0は外層2と中心層3との間の接触面を表し、S1は中心層3と外層4との間の接触面を表す。さらに、図3において、S2〜Skは面S0に最も近い接触面から順に中心層3の内部接触面を表す。
【0162】
図2の変化形においては、中心層3が互いに平行なテクスチャ加工面2B、4Bの間に接触的に配置されることから、外層2と中心層3との間の接触面S0はテクスチャ加工され、且つ中心層3と外層4との間の接触面S1に対して平行となる。言い換えると、中心層3は、その全体にわたって、接触面S0、S1に対して垂直に測定した場合に均一な厚さe3を有するテクスチャ加工層である。
【0163】
図3の変化形において、中心層3の構成積層体の2つの隣接する層の間の各接触面S2、・・・Skはテクスチャ加工され且つ外層2、4と中心層3との間の接触面S0、S1に対して厳密に平行である。したがって、エレメント1の隣接する層の間の全ての接触面S0、S1、・・・・Sk(隣接する層は誘電性と金属質と性質が異なる、あるいは屈折率が異なる誘電体である)はテクスチャ加工され且つ互いに平行である。特に、中心層3の構成積層体の各層31、32、・・・3kは、接触面S0、S1、・・・Skに対して垂直に測定した場合に均一な厚さe31、e32、・・・e3kを有する。
【0164】
図1に示すように、層状エレメント1の各接触面S0、S1又はS0、S1、・・・・Skのテクスチャは、接触面の全般面Пに対して窪んだ又は突出した複数のデザインによって形成される。好ましくは、各テクスチャ加工接触面S0、S1又はS0、S1、・・・・Skのデザインの平均高さは1〜100μmである。各テクスチャ加工接触面のデザインの平均高さは算術平均
【数2】
であると定義され、距離yi図1で図示されるように面の各デザインについてピークと面Пとの間で測定される。
【0165】
本発明の一態様において、中心層3の構成層又は各構成層の厚さe3又はe31、e32、・・・e3kは層状エレメント1の各テクスチャ加工接触面S0、S1又はS0、S1、・・・・Skのデザインの平均高さより小さい。この状態は、中心層3のある層への放射線の入射界面とこの層からの放射線の出射界面とが平行である確率を上昇させ、ひいては層状エレメント1を通る放射線の正透過率を上昇させるために重要である。これら各種の層を見やすくするために、この状態は図において厳密には描かれていない。
【0166】
好ましくは、中心層3の構成層又は各構成層の厚さe3又はe31、e32、・・・e3kは層状エレメントの各テクスチャ加工接触面のデザインの平均高さの1/4未満である。実際には、中心層3が薄層又は薄層の積層体である場合、中心層3の各層の厚さe3又はe31、e32、・・・e3kは、層状エレメントの各テクスチャ加工接触面のデザインの平均高さの1/10以下のオーダーである。
【0167】
図1は、外層2側で層状エレメント1に入射する放射線の経路を示す。入射ビームRiは外層2に所定の入射角θで到達する。図1に示すように、入射ビームRiは外層2と中心層3との間の接触面S0に到達すると金属面によって又はそれぞれ、外層2と中心層3との間(図2の変化形)及び外層2と層31との間(図3の変化形)の接触面で屈折率における違いの結果として反射される。接触面S0はテクスチャ加工されているため、反射は複数の方向Rrで起きる。したがって、層状エレメント1による放射線の反射は拡散反射である。
【0168】
また、入射放射線の一部は中心層3において屈折する。図2の変化形において、接触面S0、S1は互いに平行であり、これはスネル−デカルトの法則に従って、n2.sin(θ)=n4.sin(θ´)であることを含意し、θは外層2から来る中心層3での放射線の入射角であり、θ´は中心層3から来る外層4における放射線の屈折角である。図3の変化形において、接触面S0、S1、・・・・Skは全て互いに平行であるため、スネル−デカルトの法則から得られる関係n2.sin(θ)=n4.sin(θ´)は立証されたままである。結果的に、両方の変化形において、2つの外層の屈折率n2、n4は実質的に等しいため、層状エレメントを透過するビームRtは層状エレメント上での入射角θに等しい透過角θ´で透過する。したがって、層状エレメント1による放射線の透過は正透過である。
【0169】
同様に、2つの変化形において、上と同じ理由から、外層4側の層状エレメント1への入射放射線は拡散反射され、層状エレメントを正透過する。
【0170】
有利には、層状エレメント1は、その滑らかな外面2A、4Aの少なくとも一方の上に反射防止コーティング6を備える。好ましくは、反射防止コーティング6を、放射線を受けることが意図された層状エレメントの各主要外面上に設ける。図1の例においては、外層2の面2Aにのみ反射防止コーティング6が設けられているが、これは面2Aが層状エレメントの、放射線入射側を向いた面だからである。
【0171】
上述したように、外層2又は4の滑らかな面2A及び/又は4A上に設けられる反射防止コーティング6は、空気と外層との間の界面での放射線の反射の軽減を可能にするいずれのタイプのものにもなり得る。反射防止コーティングは、特には、空気の屈折率と外層の屈折率との間の屈折率を有する層、干渉フィルタとして作用する薄層の積層体又は勾配する屈折率を示す薄層の積層体になり得る。
【0172】
本発明のグレージングの製造方法の例を、図4を参照しながら後述する。この方法では、中心層3を、層状エレメント1の外層2を形成している剛性又は可撓性透明基材のテクスチャ加工面2B上にその面と合致するように堆積する。テクスチャ加工面2Bとは反対側の、この基材の主要面2Aは滑らかである。この基材2は特にはSatinovo(登録商標)、Albarino(登録商標)又はMasterglass(登録商標)タイプのテクスチャ加工ガラス基材になり得る。変化形として、基材2は、例えばポリメチルメタクリレート又はポリカーボネートタイプの剛性又は可撓性のポリマー材料をベースとした基材になり得る。
【0173】
単層であろうと幾つかの層の積層体によって形成されるものであろうと、テクスチャ加工面上へのその面と合致するような中心層3の堆積は好ましくは特には、真空下、磁場支援型陰極スパッタリング(「陰極マグネトロン」スパッタリングとして知られれる)によって行われる。この技法は、基材2のテクスチャ加工面2B上に、単層をテクスチャ加工面2Bと合致するように堆積する又は積層体の様々な層をテクスチャ加工面2Bと合致するように連続的に堆積することを可能にする。積層体の様々な層は特には誘電体薄層、特にはSi34、SnO2、ZnO、ZrO2、SnZnOx、AlN、NbO、NbN、TiO2、SiO2、Al23、MgF2若しくはAlF3の層又は金属薄層、特には銀、金、チタン、ニオブ、ケイ素、アルミニウム、ニッケル−クロム(NiCr)合金層若しくはこれらの金属の合金の層になり得る。
【0174】
図4の方法において、層状エレメント1の第2外層4は、中心層3を、基材2の屈折率に実質的に等しい屈折率を有する透明ゾル−ゲル層で覆うことで形成され得る。この層は、粘性の液体又はペースト状態において、中心層3の、基材2とは反対側の面3Bのテクスチャに調和する。したがって、層4の硬化状態において、中心層3と外層4との間の接触面S1が確かにテクスチャ加工され且つ中心層3と外層2との間の接触面S0に対して平行となることが保証される。
【0175】
図4の層状エレメント1の外層4は、中心層3のテクスチャ加工面上にゾル−ゲル法によって堆積されるゾル−ゲル層である。
【0176】
そして、1つ以上の追加層12を、層状エレメントの上に形成し得る。この場合、この又はこれらの追加層は好ましくは板ガラス基材、プラスチックインサート又はインサートと板ガラス基材とを重ね合わせたものである。
【0177】
本発明の一実施形態においては、層状エレメントの外層を形成しているゾル−ゲル層上に、PVB又はEVA積層インサートを層状エレメントの滑らかな主要外面上に位置決めすることで追加層12を形成するのが有利となり得る。追加層12は優先的に、この場合、ゾル−ゲル法で得られる層状エレメントの外層と実質的に同じ屈折率を有する。
【0178】
追加層は透明基材、例えば板ガラスにもなり得る。この場合、追加層は対向基材として使用される。したがって、ゾル−ゲル層は、中心層が設けられた下方外層と対向基材とを一体的につなぐ。
【0179】
上方追加層としての透明基材の使用は、この上方追加層のすぐ下の追加層がポリマー積層インサートによって形成される場合に特に有用である。
【0180】
PVB又はEVA積層インサートによって形成される第1追加層12は層状エレメントの上方外面上に位置決めされ得て、板ガラス基材から成る第2追加層12を、このインサート上に据え得る。
【0181】
この構成において、これらの追加層は層状エレメントと、標準的な積層法によって結合される。このプロセスにおいて、ポリマー積層インサート及び基材は層状エレメントの上方主要外面から開始して連続的に位置決めされ、次に例えばプレス機又は炉内での、圧縮及び/又は少なくともポリマー積層インサートのガラス転移温度までの加熱が、このようにして形成された積層構造体に施される。
【0182】
この積層工程中、インサートが層状エレメントのすぐ上に位置する上方追加層を形成し、層状エレメントの上方層がゾル−ゲル層である場合、インサートはゾル−ゲル層の上面及び板ガラス基材の下面の両方に合致する。
【0183】
図5に図示の工程において、層状エレメント1は総厚が約200〜300μmの可撓性フィルムである。層状エレメントは、
可撓性ポリマーフィルムによって形成される下方追加層12と、
可撓性フィルムの滑らかな主要面の一方に対する紫外線の作用下で光架橋性及び/又は光重合性の材料から形成される外層2と、
中心層3と、
層状エレメント1の第2外層4を形成するための、厚さ50nm〜50μmを有するゾル−ゲル層との重ね合わせによって形成される。
【0184】
下方追加層を形成する可撓性フィルムは、厚さ100μmを有するポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムになり得て、外層2は、JSR Corporationが販売する、厚さ約10μmを有するKZ6661等のタイプの紫外線硬化性樹脂の層になり得る。可撓性フィルム及び層2は共に589nmで約1.65の実質的に同じ屈折率を有する。硬化状態において、樹脂の層はPETとの良好な接着性を示す。
【0185】
樹脂の層2は可撓性フィルムに、フィルム12とは反対側のその面2Bへのテクスチャ加工を可能にする粘度でもって適用される。図5に図示されるように、面2Bのテクスチャ加工は、層2に形成するテクスチャに相補的なテクスチャをその面に有するローラ13を使用して行い得る。テクスチャが一旦形成されたら、重ね合わせた可撓性フィルム及び樹脂の層2に、図5において矢印で示すように紫外線を照射し、この紫外線照射が、テクスチャ加工を施した樹脂の層2の固化及び可撓性フィルムと樹脂の層2との組み立てを可能にする。
【0186】
次に、外層2の屈折率とは異なる屈折率を有する中心層3を、マグネトロン陰極スパッタリングでテクスチャ加工面2B上にその面と合致するように堆積させる。この中心層は、上述したように、単層になり得る又は積層体によって形成され得る。中心層3は例えば:
55〜65nmの厚さ、すなわち約60nmの厚さ及び550nmで2.45の屈折率を有するTiO2の層、
国際公開第02/48065号パンフレット及び欧州特許出願公開第0847965号明細書に記載されているような少なくとも1つの銀系層を備える積層体
になり得る。
【0187】
次に、ゾル−ゲル層を中心層3上に堆積させることで層状エレメント1の第2外層4を形成する。この第2外層4は、外層2とは反対側の、中心層3のテクスチャ加工面3Bに調和する。
【0188】
接着時に除去することが意図された保護ストリップ(ライナ)15で覆われた接着剤の層14を、層状エレメント1の層4の外面4Aに適用し得る。したがって、層状エレメント1はある面、例えばグレージングの面に接着により簡単に適用できてその面に拡散反射特性を付与する可撓性フィルムの形態にある。図5の例において、接着剤の層14及び保護ストリップ15は、層4の外面4Aに適用される。入射放射線を受けることが意図された層2の外面2A自身には、反射防止コーティングを設ける。
【0189】
特に有利なやり方においては、図5で示唆されるように、本方法の異なる工程は連続的に同じ製造ライン上で行われ得る。
【0190】
図4〜5において、層状エレメント1の反射防止コーティングの挿入は描かれていない。これらの図に描かれている各工程において、反射防止コーティングを層状エレメントの組み立て前又は組み立て後に外層の滑らかな面2A及び/又は4A上に挿入し得て、どちらであっても違いはないことに留意すべきである。
【0191】
本発明は、説明、図示した例に限定されない。特に、図5の例のように層状エレメントが可撓性フィルムである場合、ポリマーフィルムをベースとして形成される(例えば、PETフィルムをベースとする)各外層の厚さは10μmより大きく、特には約10μm〜1mmになり得る。
【0192】
さらに、図5の例における第1外層2のテクスチャは、ポリマーフィルム上に堆積される硬化性樹脂の層を利用せずとも直接、ポリマーフィルムを熱エンボス加工、特にはテクスチャ加工ローラを使用してラミネーション又はパンチを使用してプレス加工することで得られる。
【0193】
ガラス基材の代わりのプラスチック基材でも、同様の構造が考えられる。
【0194】
本発明のグレージングは全ての公知のグレージング用途、例えば車両、建築物、街路備品、室内調度品、照明、ディスプレイスクリーン等に使用し得る。本発明のグレージングは、特には、面にその透過特性を保持しつつ拡散反射特性を付与するための、面に適用可能な、ポリマー材料をベースとした可撓性フィルムになり得る。
【0195】
強い拡散反射を示す本発明の層状エレメントを、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムに使用し得る。公知のやり方において、特には航空機のコックピット及び列車で有用な、また今日では個人用の自動車両(車、トラック等)で有用なHUDシステムは、グレージング、概して車両の風防に投影される情報の表示を可能にし、情報は運転者又は観察者に向かって反射される。これらのシステムは車両の運転者への、運転者に車両前方の視界から注意を逸らさせることのない情報伝達を可能にし、これによって安全性が大きく上昇する。運転者は、グレージング背後の一定の距離にある虚像を見る。
【0196】
本発明の一態様において、層状エレメントはHUDシステムにグレージングとして組み込まれ、このグレージング上に情報が投影される。本発明の別の態様において、層状エレメントはHUDシステムのグレージング(特には風防)の主要面に適用される可撓性フィルムであり、情報は可撓性フィルム側でグレージングに投影される。どちらの場合でも、強い拡散反射が、層状エレメントにおいて放射線が当たる第1テクスチャ加工接触面で起き、これが虚像の良好な可視化を可能にし、同時にグレージングを通した正透過が保持され、これがグレージングを通したくっきりとした視界を確保する。
【0197】
従来技術のHUDシステムにおいては、虚像が、2枚のガラスシート及び1つのプラスチックインサートから形成される積層構造を有するグレージング(特には風防)に情報を投影することで得られることは注目に値する。これら既存のシステムの欠点は、その時、運転者にはグレージングの表面でコックピットの内側に向かって反射された第1の画像とグレージングの外面の反射による第2の画像との二重像が見え、これら2つの画像が互いに若干ずれている点である。このずれが情報の見え方を阻害し得る。
【0198】
本発明は、この問題の解決を可能にする。具体的には、層状エレメントをHUDシステムにグレージングとして又は投影ソースからの放射線を受けるグレージングの主要面に適用される可撓性フィルムとして組み込む場合に、層状エレメントにおいて放射線が当たる第1テクスチャ加工接触面での拡散反射が、空気と接触している外面での反射より際立って大きくなり得るからである。したがって、層状エレメントの第1テクスチャ加工接触面での反射が促進されて、二重反射が制限される。
【実施例】
【0199】
I.ゾル−ゲル溶液の調製及び調節可能な屈折率を有するゾル−ゲル層の形成
実施例で形成するゾル−ゲル層は、シリカと酸化ジルコニウムとの有機/無機ハイブリッドマトリックスを含み、このマトリックス中には二酸化チタン粒子が分散している。ゾル−ゲル溶液で使用される主要化合物は、
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)、
プロパノール中、質量で70%の溶液の形態のジルコニウムプロポキシド、
Cristal Activ(商標)の名称で販売され、固形分が23質量%の分散水溶液中の直径50nm未満の粒子の形態のTiO2
である。
【0200】
マトリックスの第1前駆体組成物は、オルガノシランと、ジルコニウムプロポキシド溶液と、酢酸と、任意の水とを混合することで調製される。構成成分を力強く撹拌しながら滴下混合する。次に、残りの化合物、すなわち粒子の形態の二酸化チタンの分散水溶液、界面活性剤及び任意の他の希釈溶媒、例えばエタノールをこの第1組成物に添加する。こうするとゾル−ゲル溶液が得られる。
【0201】
ゾル−ゲル溶液に添加する二酸化チタンの分散液の割合に応じて、一旦架橋されたゾル−ゲル層のマトリックスには多かれ少なかれTiO2粒子が取り込まれる。ゾル−ゲル層の屈折率は二酸化チタンの体積分率に左右される。したがって、得られるゾル−ゲル層の屈折率を、1.490〜1.670の間で0.001オーダーの高精度で調節することが可能である。したがって、下方外層として使用される全てのタイプの標準ガラス基材が0.015未満の屈折率調和度を得ることが可能である。
【0202】
ゾル−ゲル層の固形分は、1パスで堆積可能な最大厚さに影響を及ぼす。
【0203】
これらの結果について説明するために、様々なゾル−ゲル溶液を調製した。次に、これらの溶液を、支持体上に噴霧により塗布し、20分〜数時間にわたって温度150℃又は200℃で架橋させることで、1.493〜1.670の屈折率を有するゾル−ゲル層を形成した。
【0204】
II.TiO2の体積率がゾル−ゲル層の屈折率に及ぼす影響
下の表は、試験したゾル−ゲル溶液の組成と、得られたゾル−ゲル層の組成をまとめたものである。
【0205】
ゾル−ゲル溶液に関し、所与の割合は、ゾル−ゲル溶液の総質量に対する質量率に対応する。
【0206】
【表1】
【0207】
ゾル−ゲル層に関し、TiO2の体積率は、シリカと酸化ジルコニウムとのハイブリッドマトリックス及びTiO2粒子を含む主要成分の総体積に相対させて定義される。主要成分の割合は、主要化合物の総質量に対するゾル−ゲル層の主要化合物の質量率に対応する。
【0208】
【表2】
【0209】
オルガノシラン及びジルコニウムプロポキシドの加水分解反応及び縮合による架橋に続いて、ゾル−ゲル層中にマトリックスが得られる。このマトリックスは、以降「Gly−SiO2」と称する非加水分解性有機基を含む酸化ケイ素及び二酸化ジルコニウムをベースとし、TiO2粒子が分散している。これら3種の化合物が、ゾル−ゲル層の主要化合物となる。
【0210】
二酸化チタンの体積分率は、TiO2の体積率が20%未満の場合、ゾル−ゲル層の屈折率に線形の影響を及ぼす。より割合が高いと屈折率は上昇し続けるが、曲線の傾斜の減少が観察される。しかしながら、一旦この曲線が決定されたら、当業者ならば、20%より高いTiO2体積分率を有するゾル−ゲル層の屈折率を概算により見積もることができる。
【0211】
図6は、ゾル−ゲル層におけるTiO2の体積率の関数としての屈折率における変化を示す。TiO2の割合の関数としての屈折率における線形変化が観察される。20%未満の割合では線形である。
【0212】
屈折率の精度は、TiO2の量の0.1体積%のエラーにつき7x10-4である。
【0213】
III.SEM観察
走査電子顕微鏡による観察を行うことで、ゾル−ゲル層が、厚さにおいて基材の粗さを埋めて平坦な上面を得られるようにした。図7の画像は、Saint−Gobainの透明粗ガラスSatinovo(登録商標)のサテン仕上げ基材であり、ゾル−ゲル層がゾル−ゲル法で堆積されている。厚さ4mmのこれらの基材は酸処理で得られるテクスチャ加工主要面を備える。したがって、これらの基材は、層状エレメントの下方外層として使用される。Satinovo(登録商標)ガラスのテクスチャ加工面の粗さRaに対応する、この下方外層のテクスチャ加工デザインの平均高さは1〜5μmである。その屈折率は1.518であり、そのピーク−谷間値は12〜17μmである。
【0214】
ゾル−ゲル層で覆われた基材Satinovo(登録商標)の破断図である左の画像から、テクスチャが接触面の全般面に対して窪んだ又は突出した複数のデザインによって形成されることがはっきりと見てとれる。ゾル−ゲル層の厚さは14.3μmである。
【0215】
右の画像は、同じ基材の上面図である。意図的に、ゾル−ゲル層を、基材Satinovo(登録商標)の面全体には適用していない。ゾル−ゲル層は、基材の粗さを滑らかにすることを可能にする。
【0216】
IV.屈折率調和度の影響についての評価
ゾル−ゲル層の屈折率の差が及ぼす作用を測定するために、様々なゾル−ゲル溶液を調製し、上で定義された透明粗ガラスSatinovo(登録商標)のサテン仕上げ基材上に堆積させた。乾燥後の、堆積させたゾル−ゲル層の厚さは約15μmである。
【0217】
この試験の目的は、上方外層と下方外層との間の屈折率調和度がグレージングの光学特性、例えば
ISO規格9050:2003に準拠して測定される、可視光域における光透過率TL(%)(光源D65、観察者2°)、
下方外層側から層状エレメントに入射する放射線についてASTM D1003規格に準拠してヘイズメータで測定される、透過曇り度(曇り度T、%)及び
BYKのHaze−Gardヘイズメータで測定される明度(%)
に与える影響を示すことである。
【0218】
さらに、そのように被覆された基材を通しての「視界」の質を、5人の観察者により盲検法で、すなわち屈折率、ゾル−ゲル層の基材との屈折率調和度等の特徴を観察者に知らせることなく、目視で評価した。観察者は、ゾル−ゲル層で被覆された各基材に、「−」正しくない、「+」正しい、「++」良好、「+++」極めて良好から選択される判定指標を割り当てた。
【0219】
この試験を簡素化するために、中心層を除外した。しかしながら、中心層の不在は、研究対象である特性に関する観察される傾向に影響しない。
【0220】
下の表は、試験したゾル−ゲル溶液の組成及び得られるゾル−ゲル層の組成をまとめたものである。
【0221】
得られた結果を、上の表で照合する。
【0222】
【表3】
【0223】
図8は、曇り度(右側y軸)及び明度(左側y軸)における、ゾル−ゲル層の屈折率の関数としての変化を示すグラフである。黒い縦線は、ガラス基材Satinovo(登録商標)の屈折率を表す。
【0224】
図9は、曇り度(右側y軸)及び明度(左側y軸)における、基材Satinovo(登録商標)とゾル−ゲル層との間での屈折率における差の関数としての変化を示すグラフである。
【0225】
ゾル−ゲル層が1.500〜1.530の屈折率を有する場合、そのようにして被覆された基材を通しての曇り度の値0.5%未満が得られる。しかしながら、曇り度の値だけでは、視界が極めて良好であるとするのに充分ではない。これが明度も求めた理由である。記載された屈折率範囲で実質的に一定である曇り度の値とは異なり、この範囲での明度の値は、基材の屈折率の値に近いゾル−ゲル層の屈折率を中心としたピークを反映する(すなわち、1.518)と判明した。特に、良好な結果は0.020未満の屈折率差で得られ、極めて良好な結果は0.015未満、さらには0.005未満の屈折率差で得られる。
【0226】
結論としては、下方外層の屈折率n1とゾル−ゲル上方外層の屈折率n2との間の屈折率の差の絶対値は好ましくは0.020未満、より好ましくは0.015未満、より一層好ましくは0.013未満である。
【0227】
V.積層の影響
積層が光学性能の質を損なわないことを実証するために、比較試験を、
S1:ゾル−ゲル層Oで被覆した基材Satinovo(登録商標)、
S2:ゾル−ゲル層Oで被覆し、PVBインサートで板ガラスを積層した基材Satinovo(登録商標)、
S3:PVBインサートで被覆した基材Satinovo(登録商標)、
の間で行った。
【0228】
【表4】
【0229】
基材を積層しないほうが良好な結果が得られるが、光学性能の質はどちらのケースでも良好である。積層には、ゾル−ゲル層の主要面を「平坦にする」又は欠陥を取り除くという利点がある。したがって、凹凸のない完全に平坦な外面が得られ、粉塵から守られる。
【0230】
ゾル−ゲル層のない直接積層が曇り度4.5%、明度58%につながることは注目に値する。これらの値は許容できる限度を完全に超えている。
【0231】
VI.マグネトロン層の存在の影響
この試験を、以下:
下方外層:4mm又は6mmのガラス基材Satinovo(登録商標)、
中心層:マグネトロンスパッタリングによって堆積される少なくとも1つの銀系層を備える積層体、
上方外層:ゾル−ゲル層O、
上方追加層:PVBインサート、
上方追加層:4mmの板ガラス
の積層体を備える透明層状エレメントで行った。
【0232】
マグネトロンスパッタリングで堆積される中心層の存在によって、中心層での反射から起こる内在性の曇り作用が層状エレメントにもたらされる。そのため、屈折率の調和度が完璧であったとしても、曇りが生じる。曇り度の値は、中心層の性質に左右される。
【0233】
ゾル−ゲル層を適用する。そして、厚さ0.38mmのPVBインサートをゾル−ゲル層及び板ガラスPlanilux(登録商標)と接触させて置くことで、アセンブリを積層する。サテン仕上げ板ガラスは最初の2つの実施例に関しては厚さ4mmを有し、SKN層の場合は、最初の2つについて6mmを有する。
【0234】
中心層の積層体は例えば、国際公開第WO02/48065号パンフレット及び欧州特許出願第0847965号明細書に記載されている。平坦な面上に堆積される場合、中心層は以下の特徴を有する。
【0235】
【表5】
【0236】
下の表において、曇り度及び明度の値を、中心層としてマグネトロンスパッタリングで堆積された銀系層の積層体を備える様々な層状エレメントについて測定した。すると曇り度が上昇し、数パーセントの比較的高い値に達し得ることが観察される。他方、明度は97%を超える極めて高い値でとどまる。これによって、透過において極めて良好な視界の質を備えたグレージングを得ることが可能となる。
【0237】
【表6】
本発明の態様としては、以下を挙げることができる:
《態様1》
2つの滑らかな主要外面(2A、4A)を有する透明層状エレメント(1)であって、
それぞれが前記層状エレメントの前記2つの主要外面(2A、4A)の一方を形成し且つ実質的に同じ屈折率(n2、n4)を有する誘電体から成る2つの外層である下方外層(2)及び上方外層(4)と、
前記2つの外層の間に挿入される中心層(3)であって、前記外層の屈折率とは異なる屈折率(n3)を有する誘電体層若しくは金属層である単層によって、又は少なくとも1つの、前記外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層若しくは金属層を備える積層体(31、32、・・・3k)によって形成される中心層(3)とを備え、
前記層状エレメントの2つの隣接する層の一方が誘電体であり、もう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層であり、前記層状エレメントの2つの隣接する層の間の各接触面(S0、S1、・・・Sk)がテクスチャ加工され、且つ一方が誘電体でありもう一方が金属質であるか又は両方が異なる屈折率を有する誘電体層である2つの隣接する層の間の他のテクスチャ加工接触面に平行であり、
前記上方外層(4)が、シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスを含むゾル−ゲル層である、
ことを特徴とする透明層状エレメント。
《態様2》
前記層状エレメントの前記2つの外層を構成する誘電体間での589nmでの屈折率における差の絶対値が、0.020以下、好ましくは0.015以下であることを特徴とする、態様1に記載の層状エレメント。
《態様3》
前記外層(2、4)と前記中心層(3)の少なくとも1つの誘電体層との間での589nmでの屈折率の差の絶対値が、0.3以上、好ましくは0.5以上であることを特徴とする、態様1又は2に記載の層状エレメント。
《態様4》
前記ゾル−ゲル層が、少なくとも1種の金属酸化物の粒子又は少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子を含むことを特徴とする、態様1〜3のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様5》
前記シリカをベースとした有機/無機ハイブリッドマトリックスが、少なくとも1種の金属酸化物を含むことを特徴とする、態様1〜4のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様6》
前記金属酸化物が、チタン、ジルコニウム、亜鉛、ニオブ、アルミニウム及びモリブデンから選択される金属を含むことを特徴とする、態様4及び5のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様7》
前記ゾル−ゲル層が、シリカと酸化ジルコニウムとの有機/無機ハイブリッドマトリックスを含み、前記マトリックス中に二酸化チタン粒子が分散していることを特徴とする、態様1〜6のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様8》
透過曇り度が5%未満である及び/又は明度が93%より高いことを特徴とする、態様1〜7のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様9》
前記ゾル−ゲル層が、ゾル−ゲル溶液の硬化により得られ、且つ一般式RnSiX(4-n)の少なくとも1種のオルガノシランの加水分解及び縮合から生じる生成物を含み、
式中、nは1、2、3に等しく、好ましくはnは1又は2に等しく、より好ましくはnは1に等しく、
同一又は異なり得る基Xは、アルコキシ基、アシルオキシ基及びハロゲン化物基から選択される加水分解性基、好ましくはアルコキシ基を表し、
同一又は異なり得る基Rは、炭素原子を介してケイ素に結合された非加水分解性有機基を表す、
ことを特徴とする、態様1〜8のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様10》
前記ゾル−ゲル層が、ゾル−ゲル溶液の硬化により得られ、且つ
(i)少なくとも1種のオルガノシラン、及び
(ii)少なくとも1種の金属酸化物前駆体、及び/又は
(iii)少なくとも1種の金属酸化物の粒子若しくは少なくとも1種のカルコゲナイドの粒子
の加水分解及び縮合から生じる生成物を含むことを特徴とする、態様1〜9のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様11》
前記層状エレメントが、前記上方外層及び/又は下方外層の上又は下に位置決めされる少なくとも1つの追加層を含み、前記少なくとも1つの追加層は好ましくは、
2つの滑らかな主要面を備えるポリマー、ガラス及びセラミックから選択される透明基材、
成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態の硬化性材料、
熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサート
から選択される、
ことを特徴とする、態様1〜10のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様12》
前記層状エレメントの前記下方外層が、
透明基材であって、その主要面の一方にはテクスチャ加工が施され、もう一方の主要面は滑らかであり、好ましくはポリマー、ガラス及びセラミックから選択される透明基材、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体の層、
成形操作に適した最初は粘性の液体又はペースト状態である硬化性材料をベースとする層であって、
光架橋性及び/又は光重合性材料、
ゾル−ゲル法で堆積される層
を含む層、
熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサートであって、好ましくは、ポリビニルブチラール(PVB)、塩化ポリビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はエチレン/ビニルアセテート(EVA)コポリマーから選択されるポリマーをベースとし得る熱成形性又は感圧プラスチック材料から形成されるインサート、
から選択されることを特徴とする、態様1〜11のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様13》
前記中心層の前記層又は前記積層体が、
1種以上の遷移金属、非金属又はアルカリ土類金属の酸化物、窒化物又はハロゲン化物から選択される誘電体から成る少なくとも1つの薄層、
少なくとも1つの金属薄層、特には銀、金、銅、チタン、ニオブ、ケイ素、アルミニウム、ニッケル−クロム(NiCr)合金、ステンレススチール又はこれらの合金の薄層、
を備えることを特徴とする、態様1〜12のいずれか一項に記載の層状エレメント。
《態様14》
態様1〜13のいずれか一項に記載の層状エレメントの製造方法であって、
主要面の一方がテクスチャ加工されもう一方の主要面が滑らかな透明基材を下方外層として用意する工程と、
中心層を、前記下方外層の前記テクスチャ加工された主要面上に堆積させ、すなわち前記中心層が、前記下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する誘電体層又は金属層である単層から形成される場合、前記中心層は、前記テクスチャ加工された主要面上にその面と合致するように堆積され、または前記中心層が、前記下方外層の屈折率とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの誘電体層又は金属層を備える積層体から形成される場合、前記中心層の前記複数の層は、前記テクスチャ加工された主要面上にその面と合致するように連続的に堆積される工程と、
ゾル−ゲル上方外層を、ゾル−ゲル法での堆積により、前記下方外層とは反対側の前記中心層の前記テクスチャ加工された主要面上に形成する工程であって、前記下方外層及び上方外層は実質的に同じ屈折率を有する誘電体から成る、工程と、
任意で、少なくとも1つの上方及び/又は下方追加層を、前記層状エレメントの前記滑らかな主要外面上に形成する工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
《態様15》
車両、建築物、街路備品、室内調度品、ディスプレイスクリーン又はヘッドアップディスプレイシステム用のグレージングの全て又は一部としての、態様1〜13のいずれか一項に記載の層状エレメント(1)の使用。
図1
図2
図3
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図9