【文献】
A.YAMAMOTO ,FORMATION OF FE16N2 IN DEFORMED IRON BY ION IMPLANTATION METHOD,1998 PROCEEDINGS OF INTERNATIONAL CONFERENCE ON ION IMPLANTATION TECHNOLOGY,米国,IEEE,1998年 6月22日,V2,P877-880
【文献】
Kensuke Nakajima,Formation of ferromagnetic iron nitride in iron thin films by high-dose nitrogen ion implantation,Journal of Applied Physics,米国,the AIP Publishing,1989年 6月 1日,Vol.65,No.11,4357-4361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示はFe
16N
2相ドメインを含む永久磁石及びFe
16N
2相ドメインを含む永久磁石を形成するための技術を記載する。特に、本明細書に記載の技術は、Fe
16N
2相ドメインを含むバルク永久磁石を形成するために使用される。幾つかの例では、Fe
16N
2相ドメインは軟磁性材料の相などの他の相との組み合わせで存在することができる。Fe
16N
2相は交換スプリングカップリングにより軟磁性材料に磁気的に結合されうる。それは軟磁性材料を効率的に硬磁性化させることができ、Fe
16N
2から形成されたバルク材料の磁気特性と同様のバルク材料の磁気特性を提供することができる。本開示は、また、Fe
16N
2相を単独で又は他の材料相との組み合わせで含むバルク磁石を製造するための技術も記載する。
【0014】
Fe
16N
2相を含む磁石はFe
16N
2永久磁石が異方性であるときに、比較的に高いエネルギー積、例えば、約134MGOeまでの高さのエネルギー積を提供することができる。Fe
16N
2磁石が等方性である例において、エネルギー積は約33.5MGOeの高さまでであることができる。永久磁石のエネルギー積は残留保持力と残留磁化との積に比例する。比較のために、Nd
2Fe
14B永久磁石のエネルギー積は約60MGOeの高さのエネルギー積までであることができる。より高いエネルギー積はモータ、発電機などに使用されるときに永久磁石の効率の増加をもたらすことができる。
【0015】
さらに、Fe
16N
2相を含む永久磁石は希土類元素を含まなくてもよく、そのことは磁石の材料コストを低減することができ、磁石の製造による環境への影響を低減することができる。幾つかの例では、本明細書に記載の技術を使用することは、本技術が粉末相又は高温焼結工程の使用を含まなくてもよいので、希土類磁石を製造するために使用される方法と比較して永久磁石を製造するのに環境への影響を低減することができる。
【0016】
しかし、Fe
16N
2は、Fe-Nの他の安定相と競合する準安定相である。したがって、Fe
16N
2の高い体積分率を含むバルク材料を形成することは困難な場合がある。本開示に記載のFe
16N
2相ドメインを含む磁性材料は、Fe
16N
2ドメイン及び他の軟磁性材料のドメインを含む磁性材料を形成することによって、この困難を克服する。硬磁性のFe
16N
2ドメインは交換スプリングカップリングにより軟磁性材料に磁気的に結合し、効果的に軟磁性材料を硬磁性化させる。磁性材料の体積全体にわたって交換スプリングカップリングを達成するために、Fe
16N
2ドメインは、例えば、ナノメートル又はマイクロメートルスケールで、磁性材料全体に分散されうる。
【0017】
本明細書に記載のとおり、Fe
16N
2ドメイン及び他の軟磁性材料のドメインを含む磁性材料は、約40体積%(vol.%)未満の体積分率のFe
16N
2ドメインを含むことができる。例えば、硬磁性のFe
16N
2相は磁性材料全体積の約5体積%〜約40体積%を構成することができ、又は、磁性材料の全体積の約5体積%〜約20体積%を構成することができ、又は、磁性材料全体積の約10体積%〜約20体積%を構成することができ、又は、磁性材料全体積の約10体積%〜約15体積%を構成することができ、又は、磁性材料全体積の約10体積%を構成することができ、残部の体積は軟磁性材料である。軟磁性材料としては、例えば、Fe、FeCo、Fe
8N又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
幾つかの例において、例えば、軟磁性材料がFe又はFe
8Nを含む場合には、Fe
16N
2ドメイン及びFe又はFe
8Nドメインの結晶組織は整合的であることができる。換言すれば、ドメイン間に格子整合があり、整列磁化容易軸を含むことができる。これは、強磁性Fe
16N
2ドメインと軟磁性Fe又はFe
8Nドメインとの間で、特に、相の境界を横切って、効率的な交換スプリングカップリングを促進することができる。
【0019】
幾つかの例では、磁性材料はバルク磁性材料であることができる。本明細書で使用されるときに、用語「バルク磁性材料」及び「バルク永久磁性材料」とは、その最小寸法(例えば、長さ、高さ又は幅)が約100nmを超える磁性材料及び永久磁性材料を指す。他の例では、「バルク磁性材料」及び「バルク永久磁性材料」は、約1μmを超える、又は、約100μmを超える最小寸法(例えば、長さ、高さ又は幅)を有することができる。
【0020】
本明細書に記載の磁性材料は、約10MGOeより大きいなどの比較的に大きなエネルギー積を有することができる。幾つかの例では、本明細書に記載の磁性材料は、約30MGOeを超え、約60MGOeを超え、約60MGOe〜約135MGOeであり、約65MGOeを超え、又は、約100MGOeを超えるエネルギー積を有することができる。このことは、軟磁性ドメインに交換スプリングカップリングされたFe
16N
2相ドメインを単独で含むか、又は、ドーパント元素(例えば、原子)又は化合物(例えば、分子)との組み合わせで含み、磁性材料内でドメイン壁ピン止めサイトを形成することにより達成されうる。
【0021】
本開示はまた、Fe
16N
2ドメインを含むバルク永久磁石を形成するための複数の方法を記載する。幾つかの例では、その技術は、結晶学的にテクスチャー付きの鉄ワークピース中にN+イオンを注入するイオン注入法を使用することを含むことができる。他の例では、N+イオンを、例えば、アンモニア、アンモニウムアジ化物又は尿素などの反応体から液体の鉄に導入し、次いで、鉄及び窒素イオンを含むテクスチャー付きワークピースをキャスティングして形成することができる。
【0022】
形成方法に関係なく、鉄及び窒素イオンを含むワークピースはアニール処理されてFe
8N相内でFe
16N
2相を形成することができる。アニール処理を比較的に低い温度(例えば、約150℃〜約250℃、又は、約214℃未満)で約5時間〜約100時間行い、Fe
8N相内でFe
16N
2相を形成することができる。アニール処理の間に、窒化鉄材料は歪んで、体心立方(bcc)鉄結晶から体心正方晶(bct)窒化鉄結晶に容易に変態することができる。
【0023】
幾つかの例では、Fe
16N
2+Fe
8Nの材料の複数のワークピースを、軟磁性もしくは非磁性ドーパントの導入をして又は導入せずに、合わせて、そして一緒にプレスして、バルク永久磁石を形成することができる。軟磁性材料又は非磁性材料はFe
16N
2 + Fe
8N材料のワークピース中へのイオン注入を用いて、又は、Fe
16N
2 + Fe
8N材料のワークピース中へのクラスター注入を用いて、材料のワークピースとして提供することができる。軟磁性又は非磁性材料は材料内にドメイン壁ピン止めサイトを生成することができ、それは材料の保磁力を増大させることができる。
【0024】
図1は、イオン注入を用いて、Fe
16N
2硬磁性ドメイン及びFe
8N軟磁性ドメインを含む永久磁石を形成するための例示的な技術を示すフローダイアグラムである。
図1に示された技術は、Fe
16N
2硬磁性ドメイン及びFe
8N軟磁性ドメインを含む永久磁石を形成するための1つの技術であり、Fe
8Nなどの軟磁性材料に交換カップリングされたFe
16N
2を基礎とするバルク永久磁石を形成するために、単独で又は他の処理工程と組み合わせて使用することができる。例えば、
図1に示すこの技術は、
図9及び13に示すような他の処理工程と組み合わせて、バルク磁性材料を形成することができる。
【0025】
図1に示される技術は、イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオン注入すること(12)を含む。鉄ワークピースは、複数の鉄結晶を含むことができる。幾つかの例では、複数の鉄結晶は実質的に同じ方向に配向した結晶軸を有することができる。例えば、鉄ワークピースの主表面は鉄結晶のすべて又は実質的にすべての(110)面に平行であることができる。他の例では、鉄ワークピースの主表面は鉄結晶のすべて又は実質的にすべての別の表面に平行であることができる。すべて又は実質的にすべての鉄結晶が実質的に整列された結晶軸を有するワークピースを使用することにより、Fe
8N相及びFe
16N
2相の形成が実質的に整列されうる場合に異方性が形成される。
【0026】
幾つかの例では、ワークピースはワークピースの他の寸法よりも、長い、例えば、はるかに長い寸法を含む。他の寸法よりも長い寸法を有する例示のワークピースとしては、繊維、ワイヤー、フィラメント、ケーブル、フィルム、厚膜、ホイル、リボン、シートなどが挙げられる。他の例では、ワークピースは、ワークピースの他の寸法よりも長い寸法を有していないことができる。例えば、ワークピースは、球、円柱、フレック、フレーク、正多面体、不規則な多面体及びそれらの任意の組み合わせなどの粒子又は粉末を含むことができる。適切な正多面体の例としては、四面体、六面体、八面体、十面体、十二面体などが挙げられ、その非限定的な例としては、立方体、プリズム、ピラミッドなどが挙げられる。
【0027】
図1の技術の幾つかの例では、ワークピースはホイルを含む。ワークピースは、約数百ナノメートルからミリメートルの厚さを画定することができる。幾つかの例では、鉄ワークピースは約500ナノメートル(nm)〜約1ミリメートル(mm)の厚さを画定することができる。後述するように、鉄ワークピースの厚さはワークピースのイオン注入及びアニール処理のために使用されるパラメータに影響を及ぼすことができる。ワークピースの厚さはワークピースが取り付けられた基材の表面に対して実質的に垂直な方向で測定されうる。
【0028】
鉄ワークピース中のN+イオンの注入の前に、鉄ワークピースはシリコン基板やガリウムヒ素(GaAs)基板の表面上に配置することができる。任意の結晶方位を使用することができるが、幾つかの例では、鉄ワークピースは(単結晶)シリコン基板の(111)面上の位置であることができる。幾つかの例では、鉄ワークピースは、この時点で、基板の表面に付着させることができる。
【0029】
N+イオンが鉄ワークピースに注入される平均深さは、N+イオンを加速するエネルギーに依存することができる。SRIM(「物質中でのイオンの停止及び範囲」、www.srim.orgでJames F. Zieglerから入手可能なソフトウエア)を用いて決定したとおりの鉄中の注入深さ(オングストローム(Å))及びN+イオンの注入エネルギー(キロエレクトロンボルト(keV))の関係を示す線図である。
図2に示すように、N+イオンの平均注入深さは注入エネルギーの増加とともに増加する。
図2には示していないが、それぞれの注入エネルギーに関して、N+イオンは平均注入深さを付近の範囲の深さで鉄ワークピース内に注入される。
【0030】
N+イオンを注入するために使用される注入エネルギーは、鉄ワークピースの厚さに少なくとも部分的に基づいて選択することができる。注入エネルギーは、また、鉄ワークピース中の鉄結晶の結晶格子など、鉄ワークピースに過度に重大な損傷を与えることなしにN+イオンを注入するように選択することができる。例えば、より大きな注入エネルギーでは、より深い平均深さでN+イオンを注入することができるが、より高い注入エネルギーは、鉄結晶の結晶格子に損傷を与え、N+イオンの衝撃により鉄原子の一部を融蝕するなど、鉄ワークピースへの損傷を増加させる可能性がある。したがって、幾つかの例では、注入エネルギーは約180keV未満に限定されうる。幾つかの例では、注入の入射角は約0度(例えば、鉄ワークピースの表面に対して実質的に垂直)であることができる。他の例では、注入の入射角は格子損傷を低減するように調整することができる。例えば、注入の入射角が垂直から約3°〜約7°の間であることができる。
【0031】
1つの例として、鉄ワークピースが約500nmの厚さを画定するときに、約100 keVのの注入エネルギーは鉄ワークピースにN+イオンを注入するために使用することができる。約100keVの注入のエネルギーはまた、他の厚さの鉄ワークピースにおいてN+イオンを注入するために使用することができる。他の例では、異なる注入エネルギーは約500nmの厚さを画定する鉄ワークピースのために使用することができ、同じ又は異なる注入エネルギーは500nmとは異なる厚さを画定するワークピースに使用することができる。
【0032】
さらに、N+イオンの流束は鉄ワークピース内にN+イオンの所望の投与量を注入するように選択することができる。幾つかの例では、N+イオンの流束は鉄ワークピース内にほぼ化学量論数のN+イオンを注入するように選択することができる。Fe
16N
2における鉄/窒素の化学量論比は8:1である。したがって、鉄ワークピース中の鉄原子のおおよその数を決定することができ、鉄原子の約1/8(12.5%)に等しい、例えば、約8at%〜約15at%のN+イオンの数は鉄ワークピース中に注入されうる。例えば、約1cm×1cm×500nmの測定値を有する鉄ワークピースは約4.23×10
18個の鉄原子を含むことができる。したがって、鉄ワークピース中の鉄原子/N+イオンの化学量論比を達成するために、約5.28×10
17個のN+イオンをサンプル中に注入することができる。
【0033】
イオン注入の間の鉄ワークピースの温度も制御することができる。幾つかの例では、鉄ワークピースの温度は約室温〜約500℃であることができる。
【0034】
N+イオンが鉄ワークピース中に一旦注入されたら(12)、鉄ワークピースに、プレアニール工程と呼ぶことができる第一のアニール処理工程(14)を施すことができる。プレアニール工程は、例えば、基材にしっかりと鉄ワークピースを取り付けることを含む複数の機能を果たすことができる。以下に説明するように、基材への鉄ワークピースの確実な取り付けにより、鉄ワークピースに応力を発生させるポストアニール工程が可能になり、それにより、体心立方(bcc)鉄から体心正方(bct)窒化鉄へと鉄ワークピース中の結晶の少なくとも一部の結晶構造の変換を促進する。幾つかの例では、プレアニール工程はまた、注入されたN+イオンを活性化し、イオン注入手順による鉄結晶格子の損傷を修復し、及び/又は、ワークピース中の酸素を除去することができる。幾つかの例では、プレアニール工程は約30分〜約4時間、約450℃〜約550℃の温度で行うことができる。1つの例として、プレアニール工程は、約30分〜約1時間の間、約500℃の温度で行うことができる。
【0035】
幾つかの例では、鉄ワークピース及び基材を加熱することに加えて、プレアニール工程は、約0.2ギガパスカル(GPa)〜約10GPaの外力を鉄ワークピース及び基材の間に課すことを含むことができる。外力は鉄ワークピース及び基材の結合を補助することができる。
【0036】
プレアニール工程が行われる雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、及び/又は水素を挙げることができ、例えば、約4体積%の水素、約10体積%の窒素及び約86体積%のアルゴンの混合物であることができる。雰囲気の組成は、ワークピースから酸素を除去し、ワークピースの表面を清浄化するのを助けることができる。
【0037】
プレアニール工程(14)に続いて、注入されたN+イオンを含む鉄ワークピース及び基材はポストアニール工程と呼ぶことができる第二のアニール工程(16)に暴露されうる。ポストアニール工程は、基材と鉄ワークピースとの熱膨張係数の違いにより、鉄ワークピース中に歪みを生成し、そしてFe
16N
2相にアクセスする温度で行うことができる。また、ポストアニール工程は、Fe
16N
2相ドメイン及びFe
8N相ドメインを含む、窒化鉄を形成するようにN+イオンを拡散させることができる。
図3は、E.H. Du Marchi Van VoorthuysenらのLow-Temperature Extension of the Lehrer Diagram and the Iron-Nitrogen Phase Diagram, 33A Metallurgical and Materials Transactions A 2593, 2597 (2002年8月)から窒化鉄の相図を再現している。
図3に示すように、比較的に低い温度でのアニール処理は部分Fe
8N無秩序相をFe
16N
2秩序層へ変態させることができる。幾つかの例では、ポストアニール工程は約250℃未満の温度、例えば、約120℃〜約214℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃の温度で行うことができる。ポストアニール工程は窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)雰囲気中で、又は、真空又は真空付近で行ってよい。
【0038】
ポストアニール工程の温度及び時間は、例えば、サンプルのサイズ及びポストアニール温度での鉄中の窒素原子の拡散係数に基づいて選択することができる。これらの要因に基づいて、温度及び時間はFe
16N
2ドメインを形成するように鉄ワークピース中の位置に窒素原子を拡散するのに十分な時間を提供するように選択することができる。
図4は拡散係数の自然対数と温度の逆数との関係を示す散布図である。
図4に示す関係に基づいて、拡散係数の自然対数は、所与の温度に対して決定でき、拡散長は、拡散係数を使用して、所与の時間に対して決定することができる。1つの例として、200℃の温度及び40時間のアニール時間で、鉄中の窒素の拡散長さは約0.5マイクロメートル(μm)である。
【0039】
また、ポストアニール工程の温度及び時間は窒化鉄ワークピースにおけるFe
16N
2相ドメインの所望の体積分率に基づいて選択することができる。例えば、選択された温度で、より長いポストアニール工程はFe
16N
2のより高い体積分率をもたらすことができる。同様に、所与のポストアニール工程時間では、より高い温度はFe
16N
2の高い体積分率をもたらすことができる。しかしながら、閾値を超える持続時間では、Fe
16N
2の体積分率が比較的安定した値に到達するので、Fe
16N
2の追加の体積分率は制限又は排除されうる。例えば、約150℃の温度では、約20時間後に、Fe
16N
2の体積分率は安定値に達する。ポストアニール工程の時間は少なくとも約5時間であり、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。
【0040】
Fe
8N及びFe
16N
2は類似体心正方晶(bct)の結晶構造を有する。しかしながら、Fe
16N
2では、窒素原子は鉄の格子内に整列しているが、Fe
8Nでは、窒素原子は鉄の格子内にランダムに分散されている。
図5は、Fe
16N
2相における鉄原子の間の格子間空間に注入された窒素原子による歪状態で8個の鉄の単位セルを示す概念図である。
図5に示すように、Fe
16N
2相では、窒素原子は(002)結晶面に沿って配列されている。また、
図5に示すように、窒化鉄単位セルは、<001>軸に沿った単位セルの長さが約3.14オングストローム(Å)であり、<010>及び<100>軸に沿った単位セルの長さは約2.86Åであるように歪んでいる。この窒化鉄単位セルは、歪み状態のときにbct単位セルと呼ぶことができる。窒化鉄単位セルが歪み状態にある場合に、<001>軸は単位セルのc軸と呼ぶことができる。
【0041】
ポストアニール工程はポストアニール工程中の基材と窒化鉄ワークピースとの膨張差の結果として、鉄の結晶格子に加わる歪みを少なくとも部分的な原因とするbct結晶構造の形成を促進する。例えば、鉄の熱膨張係数は11.8μm/m・Κであり、一方、シリコンでは、2.6μm/m・Κである。熱膨張係数のこの差は実質的に鉄ワークピースの主要面に実質的に平行な圧縮応力をもたらし、対応する伸縮力を、(110)面で鉄ワークピース上で<001>結晶方向に沿って生成する。
【0042】
ポストアニール工程は、Fe
8N及び、その他のFe及び/又は窒化鉄組成物のドメイン内でのFe
16N
2相ドメインの形成をもたらす。
図6はFe
8Nドメイン22及びFe
16N
2ドメイン24を有する材料を示す概念図である。鉄ワークピースはナノメートルスケール(例えば、Fe
8Nドメイン22及びFe
16N
2ドメイン24のサイズはナノメートルの程度である)で構成されているので、硬磁性のFe
16N
2ドメイン24及び軟磁性のFe
8Nドメイン22の間の磁気結合はワークピース全体に実質的に発生することができる。Fe
16N
2及びFe
8N結晶は実質的に同様の結晶構造を有するので、材料は自然結晶学的に整合的であることができ、異方性を生成する整列容易軸を有することを意味する。これはFe
16N
2とFe
8Nとの間の相界面を介して交換結合を促進することができる。
【0043】
図7は、ドメイン壁ピン止め部位とともに、Fe
8N軟磁性ドメインと交換スプリングカップリングされたFe
16N
2硬磁性ドメインを含むバルク材料を形成するための例示的技術を示すフローダイアグラムである。
図7は一般的な技術であり、
図7の一般的な技術の例のさらなる詳細は
図9、12、14及び15の技術を参照しながら、下記に説明することにする。
【0044】
図7の技術は、Fe
16N
2相ドメインを含む、窒化鉄材料を形成すること(32)を含む。
図1を参照して説明するように、鉄ホイルなどの鉄ワークピースにN+イオンを注入するイオン注入、次いで、1つ以上の、例えば、2つのアニール工程を用いることは、Fe
16N
2相を含む窒化鉄材料(又はワークピース)を形成するための1つの技術である。 Fe
16N
2相ドメインを含む窒化鉄材料を形成する(32)ための他の技術を
図9、12、14及び15を参照しながら下記に述べる。これらの技術は、テクスチャー付き鉄板などのテクスチャー付き鉄ワークピースを形成すること、テクスチャー付き鉄ワークピースにN+イオンを注入して、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成すること、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをアニール処理して、Fe
16N
2相ドメインを形成することを含む。この技術はまた、溶融鉄中に窒素を混合しFe
16N
2相ドメインを形成するためにテクスチャー窒化鉄ワークピースをアニールすることにより、テクスチャー付き窒化鉄板などの、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することを含むことができる。技術はまた、鉄ワークピースを形成すること、歪んだ鉄ワークピースを窒素化すること、及び、窒素化された鉄ワークピースをアニールすることを含むことができる。
【0045】
図7に示された技術は、また、追加の鉄又は非磁性材料を導入すること(34)を含む。幾つかの例では、
図9及び12を参照して説明されるように、追加の鉄又は非磁性材料は、Fe
16N
2相ドメインを含む窒化鉄材料のワークピースを差し込んだ鉄又は非磁性材料のワークピースとして導入することができる。他の例では、
図14を参照して説明されるようい、追加の鉄又は非磁性材料はFe
16N
2相ドメインを含む窒化鉄材料中に、イオン注入及び/又はクラスター注入を用いて導入することができる。使用することができる例示の非磁性元素(例えば、原子)又は化合物(例えば、分子)としては、Al, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせが挙げられる。鉄又は非磁性材料は、材料のワークピースとして導入することができる。ワークピース又はFe又は非磁性粉末は、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲のサイズ(例えば、厚さ又は直径)を有することができ、加圧処理後にドメイン壁ピン止めサイトとして機能することができる。ドメイン壁ピン止めサイトは永久磁石の保磁力を高めることができる。
【0046】
図7に示された技術は、ワークピースを焼結し、バルク磁性材料を形成すること(36)をさらに含む。複数のワークピースを一緒に焼結することができる例を
図8A及び8Bに示す。例えば、複数の窒化鉄ワークピース42a〜42c(Fe
16N
2相ドメインを含む)は鉄又は非磁性材料を含む複数のワークピース44a、44bが差し込まれてよい。3つの窒化鉄ワークピース42a〜42c及び鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44bは
図8A及び8Bに示されているが、他の例では、任意の数の窒化鉄ワークピース42a〜42c及び鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44bを使用することができる。
【0047】
それぞれの窒化鉄ワークピース42a〜42cの<001>軸が実質的に整列されるように窒化鉄ワークピース42a〜42cが配置されうる。それぞれの窒化鉄ワークピース42a〜42cの<001>軸が窒化鉄ワークピース42a〜42cのそれぞれの長軸に実質的に平行である実施例において、窒化鉄ワークピースワーク42a〜42cを実質的に整列させることとしては、1つの窒化鉄ワークピース42a〜42cを別の窒化鉄ワークピース42a〜42cの上に重ねることを挙げることができる。それぞれの窒化鉄ワークピース42a〜42cの<001>軸を整列させることは、磁性材料46に一軸磁気異方性を提供することができる(
図8B)。
【0048】
図8Aに示すようにワークピースが差し込まれた後に、ワークピースを一緒にプレスしてそして焼結することができる。焼結圧力、温度及び時間を、窒化鉄ワークピース42a〜42c(例えば、Fe
16N
2相ドメインを含むとき)の結晶構造を維持しながら、ワークピースを機械的に結合するように選択することができる。したがって、幾つかの例では、焼結工程は比較的に低い温度で行うことができる。例えば、焼結温度は、約250℃未満であり、例えば、約120℃〜約250℃、約150℃〜約250℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃であることができる。焼結圧力は、例えば、約0.2ギガパスカル(GPa)〜約10GPaであることができる。焼結時間は、少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。焼結時間、温度及び圧力は、鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44b中の材料によって影響を受けることができる。焼結は周囲雰囲気中、窒素雰囲気、真空又は別の不活性雰囲気中で行われてよい。
【0049】
窒化鉄ワークピース42a〜42c及び鉄又は非磁性材料を含む2つのワークピース44a、44bを焼結した後に、バルク磁性材料46が形成されうる。バルク磁性材料46は、Fe
8N及びFe
16N
2の間の交換スプリングカップリング及び鉄又は非磁性材料により提供されるドメイン壁ピン止めサイトの両方を含むことができる。このようにして、バルク磁性材料46は望ましくは高いエネルギー積を有することができ、それは純粋なFe
16N
2(約134MGOe)のエネルギー積に近づくことができる。
【0050】
バルク磁性材料46は、
図7に関して説明した一般的な技術範囲内に入る複数の異なる技術によって形成することができる。これらの異なる技術の例を、
図9、12、14及び15を参照して説明し、バルク磁性材料46を形成するための他の技術は本開示の内容に基づいて明らかであろう。
【0051】
図9は、ドメイン壁ピン止めサイトとともに、Fe
8N軟磁性ドメインと交換スプリングカップリングされたFe
16N
2硬磁性ドメインを含むバルク材料を形成するための例示の技術を示すダイヤグラムである。
図9の技術は、テクスチャー付き鉄ワークピースを形成すること(52)を含む。幾つかの例では、テクスチャー付き鉄ワークピースはテクスチャー付き鉄板74a及び74bを含むことができる(
図10)。他の例では、テクスチャー付き鉄ワークピースは、繊維、ワイヤー、フィラメント、ケーブル、フィルム、厚膜、ホイル、リボンなどの別のワークピースを含むことができる。テクスチャー付き鉄ワークピースは、例えば、ベルトキャスティングを用いて形成することができる。
図10は、例示の鉄ワークピースをテクスチャー加工する高速ベルトキャスティングのための1つの例示の装置60を示す概念図である。
【0052】
高速ベルトキャスティング装置60は溶融鉄のインゴット62を含み、加熱コイルの形などで、加熱源64によって加熱されるインゴットチャンバー66を含むことができる。幾つかの例では、インゴットチャンバー66内の溶融鉄インゴット62の温度は約1800ケルビン(K;約1526.85℃)より高いことができる。インゴットチャンバー66中の鉄インゴット62の圧力は約0.06MPa〜約0.12 MPaであることができる。
【0053】
鉄ストリップ70を形成するためにノズルヘッド68を通してインゴットチャンバー66から溶融鉄インゴット62が流れ出る。鉄ストリップ70は、第一のピンチローラ72a及び第二のピンチローラ72b(総称して、「ピンチロール72」)であって、反対方向に回転されているピンチローラの表面どうしの間のギャップゾーンに供給される。幾つかの例では、ピンチローラ72の表面までのノズルヘッド68からの距離は約2mm〜10mmであり、例えば約4mmであることができる。
【0054】
幾つかの例では、第一のピンチローラ72a及び第二のピンチローラ72bの回転速度は、約10回転/分(rpm)〜1000rpmで変更可能であり、ローラ72の回転速度はほぼ同じであることができる。幾つかの例では、ピンチローラ72を積極的に冷却し、例えば、水冷を用いて冷却し、水冷は鉄ストリップ70の温度よりも低い温度に維持され、冷却及び鉄ストリップ70をキャスティングするのを助ける。例えば、ピンチローラ72の温度は約300K(約26.85℃)〜約400K(約126.85℃)の間に維持することができる。ピンチローラ72により鉄インゴットに課される圧力は、約0.04MPa〜約0.1MPaであることができる。
【0055】
鉄ストリップ70がピンチローラ72の間でプレスされそして冷却された後に、鉄ストリップ70はテクスチャー付き鉄板74a及び74bを形成する。幾つかの例では、テクスチャー付き鉄板74a及び74b(総称して、「テクスチャー付き鉄板74」)は、テクスチャー付き鉄リボンを形成することができ、少なくとも1つの寸法(例えば、厚さ)は約1μm〜約10mmであり、例えば、約5μm〜約1mmである(個別に、又は、複数の鉄ワークピースの圧縮後のいずれか)。テクスチャー付き鉄板74の各々は、例えば、(100)又は(110)結晶組織を含むことができる。換言すれば、各テクスチャー付き鉄板74の主表面はテクスチャー付き鉄板74のそれぞれの中の鉄結晶のすべて又は実質的にすべての(100)又は(110)面に平行であることができる。鉄結晶のすべて又は実質的にすべてが次の処理工程で実質的に整列された結晶軸を有するテクスチャー付き鉄板74を用いることにより、Fe
8N相ドメイン及びFe
16N
2相ドメインを形成するときに形成される異方性は、結晶内で実質的に整列されていることができる。
【0056】
テクスチャー付き鉄板74の形成(52)に次いで、N+イオンはイオン注入を使用してテクスチャー付き鉄板74の各々に注入することができる(12)。N+イオンは
図1を参照して説明されるのと同様の技術及びパラメータを用いてテクスチャー付き鉄板74a及び74b中に注入されうる。例えば、N+イオンを注入するために使用される注入エネルギーは、テクスチャー付き鉄板74のそれぞれの中の鉄結晶の結晶格子を含む、テクスチャー付き鉄板74の1つへの過度に重大な損傷を回避しながら、N+イオンを注入するテクスチャー付き鉄板74の各々の寸法(例えば、厚さ)に少なくとも部分的に基づいて選択されうる。例えば、より高い注入エネルギーは、より大きい平均を深さでのN+イオンの注入を可能にするが、より高い注入エネルギーは鉄結晶の結晶格子の損傷及びN+イオンの衝突に起因する鉄原子の一部の融蝕など、テクスチャー付き鉄板74への損傷を増加させる可能性がある。したがって、幾つかの例では、注入エネルギーは約180keV未満、例えば、約100keV未満に限定されうる。
【0057】
幾つかの例では、注入の入射角はほぼ0°であることができる(例えば、テクスチャー付き鉄板74の表面に実質的に垂直)。他の例では、注入の入射角は格子の損傷を低減するように調整することができる。例えば、注入の入射角は垂直から約3°〜約7°であることができる。
【0058】
イオン注入の間のテクスチャー付き鉄板74の温度も制御することができる。幾つかの例では、テクスチャー付き鉄板74の温度は、約室温から約500℃であることができる。
【0059】
さらに、N+イオンの流束はテクスチャー付き鉄板74の各々1つの内部へのN+イオンの所望の用量のN+イオンを注入するように選択されるべきである。幾つかの例では、N+イオンの流束はテクスチャー付き鉄板74の各々1つの内部にほぼ化学量論数のN+イオンを注入するように選択されるべきである。Fe
16N
2中の鉄/窒素の化学量論比は8:1である。したがって、テクスチャー鉄板74の各々1つにおける鉄原子のおおよその数を決定することができ、鉄原子の約1/8(12.5%)に等しいN+イオンの数は、約8at%〜約15at%などでテクスチャー付き鉄板74の1つに注入することができる。
【0060】
選択された数のN+イオンがテクスチャー付き窒化鉄板を形成するためにテクスチャー付き鉄板74a又は74bに注入された後に、テクスチャー付き窒化鉄板はアニール処理されて、鉄結晶内の適切な位置にN+イオンを拡散させ、それにより、テクスチャー付き窒化鉄板内にFe
16N
2相ドメイン及びFe
8N相ドメインを形成することができる(16)。この段階でのアニール処理は、
図1を参照して説明したポストアニール工程と同様であることができる。
図3に示すように、比較的に低い温度でのアニール処理が部分Fe
8N無秩序相をFe
16N
2秩序相へと変態させることができる。幾つかの例では、ポストアニール工程は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約214℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃の温度で行うことができる。ポストアニール工程は、窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)雰囲気中で、又は、真空又は真空付近で行ってよい。
【0061】
ポストアニール工程の温度及び時間は、例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース(例えば、テクスチャー付き窒化鉄板)のサイズ、及び、ポストアニール温度での鉄中の窒素原子の拡散係数に基づいて選択することができる。これらの要因に基づいて、温度及び時間は窒素原子がFe
16N
2ドメインを形成するためのテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内の位置に拡散するのに十分な時間を提供するように選択することができる。
【0062】
また、ポストアニール工程の温度及び時間は、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内におけるFe
16N
2相ドメインの所望の体積分率に基づいて選択することができる。例えば、選択された温度で、より長いポストアニール工程はより高い体積分率のFe
16N
2をもたらすことができる。同様に、所与のポストアニール工程時間では、より高い温度がより高い体積分率のFe
16N
2をもたらすことができる。しかしながら、閾値を超える時間では、Fe
16N
2の追加の体積分率は限定又は排除され、そのとき、Fe
16N
2の体積分率は比較的安定した値に到達する。ポストアニール工程の時間は少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。
【0063】
ポストアニール工程の間に、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは歪みを受けて、bcc鉄結晶の少なくとも一部のbct結晶構造への変態を促進することができる。種々の歪み誘導装置を使用してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに歪みを課すことができる。例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの第一の端部は第一のローラ(例えば、巻き取り)により受けることができ、そしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの第二の端部は第二のローラ(例えば、巻き取り)により受けることができる。ローラはテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに引張力を加えるように反対方向に回転させることができる。
【0064】
他の例では、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの両端を機械的なグリップ、例えば、クランプで把持することができ、そして機械的なグリップは互いに離れて、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに引張力を課すことができる。
図11は本明細書中に記載のようにテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを歪ませることができる別の例示的な装置を示す概念図である。装置80は、ねじ86a〜86dを締めることによりテクスチャー付き窒化鉄ワークピース90の両端を固定することができる第一のクランプ82及び第二のクランプ84を含むことができる。一旦、鉄ワークピース90が装置80内に固定されると、ボルト88のねじ体を回転させ、第一のクランプ82及び第二のクランプ84との間の距離を増加させるためにボルト88を回すことができる。クランプ82と84との間の距離の増加はテクスチャー付き窒化鉄ワークピース90に対して引張力を課す。ボルト88の回転により発生する伸長又は応力の値は、例えば、歪みゲージなどの任意の適切なゲージで測定することができる。幾つかの例では、装置80を炉(例えば、チューブ炉)又は他の加熱環境に置き、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース90が装置80により歪められている間及び/又はその後に、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース90を加熱することができる。
【0065】
歪み誘導装置は、特定の伸びまでテクスチャー付き窒化鉄ワークピース90を歪ませることができる。例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース90に対する歪みは約0.1%〜約7%であることができる。他の例では、テクスチャー付き窒化鉄板90に対する歪みは、約0.1%未満であるか、又は、約7%を超えることができる。幾つかの例では、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース90に対して特定の歪みを課すことで、単位セルが<001>軸に沿って約0.1%〜約7%伸長されるように、鉄結晶の個々の単位セルに対して実質的に同様の歪みをもたらすことができる。
【0066】
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの断面積(鉄ワークピースが延伸され/歪められている方向に対して実質的に直交方向の平面における)は所与の歪みをテクスチャー付き窒化鉄ワークピースにもたらすように加えられなければならない力の量に影響を及ぼすことができる。例えば、約0.00785mm
2の断面積を有するテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して約144Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、約0.0314mm
2の断面積を有するテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して約576Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、約0.0707mm
2の断面積を有するテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに約1296Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、約0.126mm
2の断面積を有するテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに約2304Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、約0.196mm
2の断面積を有するテクスチャー付き窒化鉄ワークピースに約3600Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。
【0067】
例えば、
図6に示すように、ポストアニール及び歪み工程はFe
8Nのドメイン及び他のFe及び/又は窒化鉄組成物中にFe
16N
2相ドメインの形成をもたらす。テクスチャー付き窒化鉄ワークピースはナノメートルスケールで構成されているので(例えば、Fe
8Nドメイン22及びFe
16N
2ドメイン24はナノメートルのオーダーであるから)、硬磁性Fe
16N
2ドメイン24及び軟磁性Fe
8Nドメイン22の磁気カップリングはワークピースの実質的に全体にわたって発生することができる。Fe
16N
2結晶及びFe
8N結晶は実質的に同様の構造を有しているので、材料は自然に結晶学的に整合的であることができ、これは異方性を生成する整列容易軸を有することを意味する。これにより、Fe
16N
2及びFe
8Nの間の相境界を介した交換カップリングを促進することができる。
【0068】
図9中のテクスチャー付き鉄ワークピース(例えば、テクスチャー付き鉄板)を形成すること(52)、イオン注入を用いてN+イオンを注入すること(12)、及び、アニール処理すること(16)は、一緒に、
図7に示すFe
16N
2 相ドメインを含む窒化鉄材料を形成すること(32)を構成することができる。
図9の技術はまた、窒化鉄のワークピース(例えば、シート)の間に追加の鉄又は非磁性材料を導入すること(54)を含むことができ、これは
図7を参照して説明した追加の鉄又は非磁性材料の導入(34)の例である。使用することができる例示の非磁性元素(例えば、原子)又は化合物(例えば、分子)としては、Al, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
鉄又は非磁性材料は、材料のワークピース又は粉末として導入されてよく、そしてFe
16N
2相ドメインを含むテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの間に導入してよい。材料のワークピース、又は、Fe又は非磁性粉末は、サイズ(例えば、厚さ又は直径)が数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲であることができ、焼結処理後にドメイン壁ピン止めサイトとして機能することができる。そのドメイン壁ピン止めサイトは永久磁石の保磁力を高めることができる。
【0070】
図9の技法はワークピース(例えば、シート)を焼結して、バルク磁性材料を形成すること(36)を含むことができる。
図7、8A及び8Bに関連して説明したように、焼結圧力、温度及び時間はテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの結晶構造(例えば、Fe
16N
2相ドメインを含むとき)を維持しながら、ワークピースを機械的に結合するように選択されうる。したがって、幾つかの例では、焼結工程は比較的に低い温度で行うことができる。例えば、焼結温度は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約250℃、約150℃〜約250℃、ば約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃であることができる。焼結圧力は、例えば、約0.2GPa〜約10GPaであることができる。焼結時間は、少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。焼結時間、温度及び圧力は鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44b中の材料によって影響されうる。
【0071】
鉄又は非磁性材料と一緒にテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを焼結した後に、バルク磁性材料(例えば、バルク永久磁石)が形成されうる。バルク磁性材料はFe
8N及びFe
16N
2の間の交換スプリングカップリング、及び、鉄又は非磁性材料によって提供されるドメイン壁ピン止めサイトの両方を含むことができる。このようにして、バルク磁性材料は所望の高いエネルギー積を有することができ、それは純粋なFe
16N
2のエネルギー積(約134MGOe)に近づくことができる。
【0072】
図12はドメイン壁ピン止めサイトを含む、Fe
8N軟磁性ドメインと交換スプリングカップリングされたFe
16N
2硬磁性ドメインを含むバルク材料を形成するための例示的な技術を示すフローダイアグラムである。
図12の技法はテクスチャー付き窒化鉄ワークピース(例えば、テクスチャー付き窒化鉄板)を形成すること(92)を含む。テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは、例えば、ベルトキャスティングを用いて形成することができる。
図13は例示の窒化鉄ワークピースをテクスチャー処理するための高速ベルトキャスティングのための一例の装置100を示す概念図である。
【0073】
高速ベルトキャスティング装置10は溶融鉄インゴット62を含み、加熱コイルなどの形で源64を加熱することにより加熱されるインゴットチャンバー66を含むことができる。幾つかの例では、インゴットチャンバー66内の溶融鉄インゴット62の温度は約1800ケルビン(K;約1526.85℃)を超えることができる。インゴットチャンバー66内の鉄インゴット62の圧力は約0.06MPa〜約0.12MPaであることができる。
【0074】
インゴットチャンバー66は、また、溶融窒化鉄混合物104を形成するために窒素源が溶融鉄インゴット62内に導入される窒素インレット102を含む。様々な形態で、又は、様々な源から窒素インレット102を通して窒素を提供することができる。例えば、窒素は、窒素インレット102を通して導入し、その後、溶融窒化鉄混合物104内の溶融鉄との混合時に分解して窒素原子を解放することができるアンモニア、アジ化アンモニウム又は尿素の形で提供されうる。
【0075】
幾つかの例では、窒化鉄混合物104内にほぼ化学量論数の窒素原子となるように窒素源は提供されうる。Fe
16N
2中の鉄/窒素の化学量論比は8:1である。このように、窒化鉄混合物104中の鉄原子の概略数が決定され、そして約8at.%〜約15at.%などの鉄原子の約1/8(12.5%)に等しい数の窒素原子は窒化鉄混合物104に窒素インレット102を通して提供されうる。
【0076】
溶融窒化鉄混合物104はノズルヘッド68を通してインゴットチャンバー66から流れ出て、窒化鉄ストリップ106を形成する。窒化鉄ストリップ106を、第一のピンチローラ72aと第二のピンチローラ72b(総称的に「ピンチローラ72」)の表面の間のギャップゾーンに供給し、それらのローラは反対方向に回転されている。幾つかの例では、ノズルヘッド68からピンチローラ72の表面への距離は約1mm〜約50mmであることができ、例えば約4mmである。
【0077】
幾つかの例では、第一のピンチロール72aと第二のピンチローラ72bの回転速度が約10回転/分(rpm)〜1000rpmで変更可能であり、ローラ72の回転速度はほぼ同じであってよい。幾つかの例では、ピンチローラ72を、例えば、冷水を用いて、積極的に冷却し、それは窒化鉄ストリップ106の温度よりも低い温度にローラ72の表面を維持し、そして窒化鉄ストリップ106を冷却しそしてキャスティングするのを助ける。例えば、ピンチローラ72の温度は約300K(約26.85℃)〜約400K(約126.85℃)に維持することができる。ピンチローラ72により窒化鉄ストリップ106に対して課される圧力は約0.04MPa〜約0.1MPaであることができる。
【0078】
窒化鉄ストリップ106をピンチローラ72の間で押圧し、冷却した後に、窒化鉄ストリップ106はテクスチャー付き窒化鉄板108a及び108bを形成する。幾つかの例では、テクスチャー付き窒化鉄板108a及び108b(総称して「テクスチャー付き窒化鉄板108」と呼ぶ)は、約1μm〜約10mm、例えば、約5μm〜約1cm(個別に、又は、複数のテクスチャー付き窒化鉄板108の圧縮後のいずれか)の少なくとも1つの寸法(例えば、厚さ)を有するテクスチャー付き窒化鉄リボンを形成することができる。テクスチャー付き窒化鉄板108の各々は、例えば、(100)又は(110)結晶組織を含むことができる。換言すれば、テクスチャー付き窒化鉄板108の各々の主表面は、テクスチャー付き窒化鉄板108のそれぞれ1つの内部のすべての又は実質的にすべての鉄結晶の(100)又は(110)面に平行であることができる。すべて又は実質的にすべての鉄結晶が後続の処理工程において実質的に整列された結晶軸を有するテクスチャー付き窒化鉄板108a又は108bを使用することにより、Fe
8N及びFe
16N
2相ドメインを形成する際に形成される異方性は結晶中で整列されていることができる。
【0079】
テクスチャー付き窒化鉄板108を形成した後に(92)、テクスチャー付き窒化鉄板108はFe
16N
2相ドメイン及びFe
8N相ドメインを形成するようにアニール処理することができる(16)。この工程は
図1及び9に関連して説明したのと同様又は実質的に同様であることができる。例えば、ポストアニール工程は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約214℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃の温度で行うことができる。ポストアニール工程は、窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)雰囲気、又は、真空又は真空付近の中で行うことができる。ポストアニール工程の時間は少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。
【0080】
ポストアニール工程の温度及び時間は、例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース(例えば、テクスチャー付き窒化鉄板)のサイズ、ポストアニール温度での鉄中の窒素原子の拡散係数、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース中のFe
16N
2相ドメインの所望の体積分率に基づいて選択されうる。これらの要因に基づいて、温度及び時間は、窒素原子がFe
16N
2ドメインを形成するためのテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内での位置に拡散するのに十分な時間を提供するように選択することができる。
【0081】
ポストアニール工程中、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに歪みを施し、bcc鉄結晶の少なくとも一部のbct結晶構造への変態を促進する。歪み誘導装置は、特定の伸びにテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを歪ませることができる。例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対する歪みは、約0.1%〜約7%であることができる。他の例では、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対する歪みは約0.1%未満であることができ、又は、約7%を超えることができる。幾つかの例では、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して特定の歪みを課すことで、単位セルが<001>軸に沿って約0.1%〜約7%伸長されるように、鉄結晶の個々の単位セルに対して実質的に同様の歪みをもたらすことができる。
【0082】
図12中、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース(例えば、シート)を形成すること(92)及びテクスチャー付き窒化鉄ワークピースをアニールすること(16)の工程は、一緒に、
図7に示す、Fe
16N
2相ドメインを含む窒化鉄材料を形成すること(32)を構成することができる。
図12の技法は、また、窒化鉄のワークピース(例えば、シート)の間に追加の鉄又は非磁性材料を導入すること(54)を含むことができ、これは
図7を参照して説明した追加の鉄又は非磁性材料の導入(34)の例である。使用することができる例示の非磁性元素(例えば、原子)又は化合物(例えば、分子)としては、Al, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
鉄又は非磁性材料は、材料のワークピース又は粉末として導入されてよく、そしてFe
16N
2相ドメインを含むテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの間に導入してよい。材料のワークピース、又は、Fe又は非磁性粉末は、サイズ(例えば、厚さ又は直径)が数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲であることができ、焼結処理後にドメイン壁ピン止めサイトとして機能することができる。そのドメイン壁ピン止めサイトは永久磁石の保磁力を高めることができる。
【0084】
図12の技法はワークピース(例えば、シート)を焼結して、バルク磁性材料を形成すること(36)を含むことができる。
図7、8A及び8Bに関連して説明したように、焼結圧力、温度及び時間はテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの結晶構造(例えば、Fe
16N
2相ドメインを含むとき)を維持しながら、ワークピースを機械的に結合するように選択されうる。したがって、幾つかの例では、焼結工程は比較的に低い温度で行うことができる。例えば、焼結温度は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約250℃、約150℃〜約250℃、ば約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃であることができる。焼結圧力は、例えば、約0.2GPa〜約10GPaであることができる。焼結時間は、少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。焼結時間、温度及び圧力は鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44b中の材料によって影響されうる。
【0085】
鉄又は非磁性材料と一緒にテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを焼結した後に、バルク磁性材料(例えば、バルク永久磁石)が形成されうる。バルク磁性材料はFe
8N及びFe
16N
2の間の交換スプリングカップリング、及び、鉄又は非磁性材料によって提供されるドメイン壁ピン止めサイトの両方を含むことができる。このようにして、バルク磁性材料は所望の高いエネルギー積を有することができ、それは純粋なFe
16N
2のエネルギー積(約134MGOe)に近づくことができる。
【0086】
図14はドメイン壁ピン止めサイトを含む、Fe
8N軟磁性ドメインと交換スプリングカップリングされたFe
16N
2硬磁性ドメインを含むバルク材料を形成するための例示的な技術を示すフローダイアグラムである。
図14の技法は
図9に関して説明した技法と類似であるが、窒化鉄のワークピース(例えば、シート)の間に追加の鉄又は非磁性材料を導入すること(54)の代わりに、
図14の技法はイオン注入又はクラスター注入を用いてFe
16N
2相ドメインを含むテクスチャー付き窒化鉄ワークピースをドープすること(108)を含む。このため、
図14の技法は、例えば、ベルトキャスティングを用いてテクスチャー付き鉄ワークピースを形成すること(52)を含むことができる。
図14の技法はまた、イオン注入を用いてテクスチャー付き鉄ワークピース中にN+イオンを注入して、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成し(12)、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをアニール処理して、Fe
16N
2相ドメインを形成すること(16)を含む。
【0087】
図14の技法はイオン注入又はクラスター注入を使用してFe
16N
2相ドメインを含むテクスチャー付き窒化鉄ワークピースをドープすること(108)を含む。テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをドープするために使用されうる非磁性元素(例えば、原子)又は化合物(例えば、分子)としては、Al, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせが挙げられる。テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にこれらの元素又は化合物を注入することにより、一緒にワークピースを焼結する前に、これらの材料の粒子又はワークピースにテクスチャー付き窒化鉄ワークピースが差し込まれる実施例に比較して、ドメイン壁ピン止め効果を増加させることができる。ドメイン壁ピン止め効果の増加はバルク磁性材料の保磁力を含む最終バルク磁性材料の磁気特性を改善することができる。
【0088】
図14の技法はドープされたテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを焼結し、バルク磁性材料を形成すること(36)を含む。
図7、8A及び8Bに関連して説明したように、焼結圧力、温度及び時間はテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの結晶構造(例えば、Fe
16N
2相ドメインを含むとき)を維持しながら、ワークピースを機械的に結合するように選択されうる。したがって、幾つかの例では、焼結工程は比較的に低い温度で行うことができる。例えば、焼結温度は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約250℃、約150℃〜約250℃、ば約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃であることができる。焼結圧力は、例えば、約0.2GPa〜約10GPaであることができる。焼結時間は、少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。焼結時間、温度及び圧力は鉄又は非磁性材料を含むワークピース44a、44b中の材料によって影響されうる。
【0089】
鉄又は非磁性材料と一緒にテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを焼結した後に、バルク磁性材料(例えば、バルク永久磁石)が形成されうる。バルク磁性材料はFe
8N及びFe
16N
2の間の交換スプリングカップリング、及び、鉄又は非磁性材料によって提供されるドメイン壁ピン止めサイトの両方を含むことができる。このようにして、バルク磁性材料は所望の高いエネルギー積を有することができ、それは純粋なFe
16N
2のエネルギー積(約134MGOe)に近づくことができる。
【0090】
図15はドメイン壁ピン止めサイトを含む、Fe
8N軟磁性ドメインと交換スプリングカップリングされたFe
16N
2硬磁性ドメインを含むバルク材料を形成するための例示的な技術を示すフローダイアグラムである。
図15の技法は
図16及び17を同時に参照して説明される。
図16は鉄ワークピースを歪ませ、窒素に暴露することができる装置の概念図を示す。
図17は
図16に示される低温るつぼ加熱ステージの一例のさらなる詳細を示す。
【0091】
図16の例示の装置は、第一のローラ122、第二のローラ124及びるつぼ加熱ステージ126を含む。第一のローラ122及び第二のローラ124は鉄ワークピース128の、それぞれ、第一の端部138及び第二の端部140を受け入れるように構成されている。鉄ワークピース128は第一の端部138及び第二の端部140の間の主要軸を画定している。
図17に最も良好に見られるとおり、鉄ワークピースはるつぼ加熱ステージ126により画定される開口130を通過する。るつぼ加熱ステージ126はるつぼ加熱ステージ126により画定される開口130の少なくとも一部を包囲するインダクタ132を含む。
【0092】
図15の例示的な技術は、鉄ワークピース128内の少なくとも1つの鉄結晶の<001>軸に対して実質的に平行な(例えば、平行又はほぼ平行な)方向に沿って鉄ワークピース128を歪ませること(112)を含む。幾つかの例では、鉄ワークピース128は体心立方晶(bcc)構造を有する鉄から形成されている。
【0093】
幾つかの例では、鉄ワークピース128は、bcc単結晶構造で形成されている。他の例では、鉄ワークピース128は、複数のbcc鉄結晶から形成されうる。これらの例の幾つかでは、複数の鉄結晶は個々の単位セル及び/又は結晶の<001>軸の少なくとも一部、例えば、大部分又は実質的にすべてが鉄ワークピース128に歪みが課される方向に対して実質的に平行となるように配向される。例えば、鉄が鉄ワークピース128として形成されているとき、<001>軸の少なくとも一部は
図16及び17に示される通り、鉄ワークピース128の主軸に実質的に平行であることができる。上述のとおり、幾つかの例では、単結晶窒化鉄ワークピースはるつぼ技術を用いて形成することができる。このようなるつぼ技術に加えて、マイクロ溶融ゾーンフローティング又はマイクロシェーパからの引張りのいずれかにより鉄ワークピース128を形成することにより単結晶鉄ワークピースを形成することができる。
【0094】
幾つかの例では、鉄ワークピース128は結晶テクスチャー付き構造を有することができる。結晶テクスチャー付き(例えば、ワークピースの特定の方向に沿って所望の結晶配向を有する)鉄ワークピースを形成するために使用されうる技術は
図9及び10を参照して説明したように、高速ベルトキャスティングを含む。
【0095】
歪みは、様々な歪み誘導装置を用いて、鉄ワークピース128に対して課すことができる。例えば、
図16に示すとおり、鉄ワークピース128の第一の端部138及び第二の端部128は第一のローラ122(例えば、巻き取り)及び第二のローラ124により受けることができ、ローラ122、124は鉄ワークピース128に引張力を加えるように反対方向(
図16中、矢印134及び135により示されている)に回転させることができる。他の例では、鉄ワークピース128の両端を機械的なグリップ、例えば、クランプで把持することができ、そして機械的なグリップは互いに離れて、鉄ワークピース128に引張力を課すことができ、
図11を参照して上述したとおりである。
【0096】
歪み誘導装置は、特定の伸びまで鉄ワークピース128を歪ませることができる。例えば、鉄ワークピース128に対する歪みは約0.1%〜約7%であることができる。他の例では、鉄ワークピース128に対する歪みは、約0.1%未満であるか、又は、約7%を超えることができる。幾つかの例では、鉄ワークピース128に対して特定の歪みを課すことで、単位セルが<001>軸に沿って約0.1%〜約7%伸長されるように、鉄の個々の単位セルに対して実質的に同様の歪みをもたらすことができる。
【0097】
鉄ワークピースの寸法、例えば、鉄線の直径又は鉄板の断面積(鉄板を延伸/歪ませる方向と実質的に直交する平面)は所与の歪みをもたらすのに鉄ワークピース128に加えられなければならない力の量に影響を及ぼしうる。例えば、直径が約0.1mmの鉄線に約144Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、直径が約0.2mmの鉄線に約576Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、直径が約0.3mmの鉄線に約1296Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、直径が約0.4mmの鉄線に約2304Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。別の例として、直径が約0.5mmの鉄線に約3600Nの力を加えると、約7%の歪みをもたらすことができる。
【0098】
幾つかの例では、鉄ワークピース128はFe
16N
2相構成が形成されたら、Fe
16N
2相構成を安定させるために役立つドーパント元素を含むことができる。例えば、相安定化ドーパント元素としては、コバルト(Co)、チタン(Ti)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)などが挙げられる。
【0099】
歪み誘導装置が鉄ワークピース128に歪み課したときに、及び/又は、歪み誘導装置が鉄ワークピース128に実質的に一定の歪みを課すと、鉄ワークピース128を窒素化させることができる(114)。幾つかの例では、窒素化プロセス中に、鉄ワークピース128を、加熱装置を用いて加熱することができる。鉄ワークピース128を加熱するために使用することができる加熱装置の一例を
図16及び17に示す。
【0100】
るつぼ加熱ステージ126は鉄ワークピース128が通過する(例えば、鉄ワークピース128の一部分が配置される)開口130を画定する。幾つかの例では、鉄ワークピース128の加熱中に、るつぼ加熱ステージ126はいずれの箇所も鉄ワークピース128に接触しない。幾つかの実施形態において、このことは、所望しない元素又は化学種が鉄ワークピース128と接触しそして拡散する危険性を低下させるので有利である。所望されない元素又は化学種は鉄ワークピース128の特性に影響を与える可能性があり、鉄ワークピース128と他の材料との接触を低減又は制限することが望ましいことがある。
【0101】
るつぼ加熱ステージ126は、るつぼ加熱ステージ126により画定される開口130の少なくとも一部を包囲するインダクタ132をも含む。インダクタ132は電流を通過させることができるアルミニウム、銀又は銅などの導電性材料を含む。電流は鉄ワークピース128において渦電流を誘導しそして鉄ワークピース128を加熱することができる交流電流(AC)によるものであってよい。他の例において、鉄ワークピース128を加熱するためにるつぼ加熱ステージ126を使用する代わりに、他の非接触加熱源を使用することができる。例えば、赤外線加熱ランプなどの輻射熱源を使用して、鉄ワークピース128を加熱することができる。別の例として、プラズマアークランプを使用して、鉄ワークピース128を加熱することができる。
【0102】
窒素化プロセス中に鉄ワークピース128を加熱するために使用される加熱装置に関係なく、加熱装置は鉄ワークピース128の厚さ、直径又は内部体積の実質的に全体にわたって所定の濃度まで窒素を拡散させることを可能にするのに十分な時間、温度に鉄ワークピース128を加熱することができる。このように、加熱時間及び温度は、鉄ワークピース128の組成及び/又は幾何形状と関連があり、それらによって影響を受ける可能性がある。例えば、鉄ワークピース128は約125℃〜約700℃の温度に約2時間〜約9時間加熱することができる。幾つかの例では、鉄ワークピース128は約500℃〜約660℃の温度に約2時間〜約4時間加熱することができる。
【0103】
幾つかの例では、鉄ワークピース128としては、直径が約0.1mmの鉄線が挙げられる。これらの例の幾つかでは、鉄ワークピース128は約125℃の温度に約8.85時間、又は、約600℃の温度に約2.4時間、又は、約660℃の温度に約4時間加熱することができる。一般に、所与の温度で、窒素化処理時間は鉄ワイヤーの直径又は鉄板の厚さなどの鉄ワークピース128の特徴的寸法の二乗に反比例することができる。
【0104】
鉄ワークピース128を加熱することに加えて、鉄ワークピース128を窒素化すること(114)は原子状窒素物質に鉄ワークピース128を暴露することを含み、該物質は鉄ワークピース128中に拡散する。幾つかの例では、原子状窒素物質は二原子窒素(N
2)として供給することができ、これは、次いで、個々の窒素原子に分離(破壊)される。他の例では、原子状窒素は、アンモニア(NH
3)などの別の原子状窒素前駆体から提供されてもよい。他の例では、原子状窒素は、尿素(CO(NH
2)
2)又はアジ化アンモニウム((NH
4)N
3)から提供されてもよい。
【0105】
窒素を気相単独(例えば、実質的に純粋なアンモニア、アジ化アンモニウム又は尿素、又は、二原子窒素ガス)で、又は、キャリアガスとの混合物として供給することができる。幾つかの例では、キャリアガスはアルゴン(Ar)である。ガス又はガス混合物は任意の適切な圧力で、例えば、約0.001トル(約0.133パスカル(Pa))〜約10トル(約1333Pa)、例えば、約0.01トル(約1.33Pa)〜約0.1トル(約13.33Pa)で供給することができる。幾つかの例において、窒素をキャリアガスとの混合物の一部として送達するときに、窒素又は窒素前駆体(例えば、NH
3)の分圧は約0.02〜約0.1であることができる。
【0106】
窒素前駆体(例えば、N
2又はNH
3)は様々な技術を用いて破壊させ、原子状窒素物質を形成することができる。例えば、窒素前駆体は放射線を用いて加熱して、原子状窒素物質を形成し、及び/又は、窒素前駆体と鉄ワークピース128との間の反応を促進することができる。別の例として、プラズマアークランプを用いて窒素前駆体を分割して、原子状窒素物質を形成し、及び/又は、窒素前駆体と鉄ワークピース28との間の反応を促進することができる。
【0107】
幾つかの例では、鉄ワークピース128は、尿素拡散プロセスを介して窒素化されてよく(114)、ここで、尿素を窒素源として利用する(例えば、二原子窒素又はアンモニアでなく)。尿素(カルバミドとしても呼ばれる)はある場合に窒素放出肥料として使用することができる化学式CO(NH
2)
2を有する有機化合物である。鉄ワークピース128を窒素化するために(114)、尿素を、例えば、鉄ワークピース128を含む炉内で加熱して、分解された窒素原子を生成することができ、該原子が鉄ワークピース128中に拡散することができる。下記にさらに説明するとおり、得られた窒素化鉄材料の構成は、拡散処理の温度、ならびに、処理するために使用される鉄/尿素の比率(例えば、質量比)によりある程度制御することができる。他の例では、鉄ワークピース128は、ドープ剤を導入するための半導体プロセスで使用されるものと同様の注入プロセスによって窒素化されうる。
【0108】
図18は、尿素の拡散プロセスを介して鉄ワークピース128を窒素化するために使用することができる例示的な装置164を示す概略図である。このような尿素拡散プロセスは、例えば、単結晶鉄、複数の結晶構造又はテクスチャー付き構造を有する場合に、鉄ワークピース128を窒素化するために使用することができる。また、ワイヤー、シート又はバルクなどの異なる形状を有する鉄材料は、そのようなプロセスを使用して拡散されうる。ワイヤー材料の場合、ワイヤー直径は、例えば、数マイクロメートルから数ミリメートルの範囲で変更されうる。シート材料では、シートの厚さは、例えば、数ナノメートルから数ミリメートルであることができる。バルク材料では、材料の質量は、約1ミリグラムから数キログラムであることができる。
【0109】
示すとおり、装置164は真空炉168内にるつぼ166を含む。鉄ワークピース128は窒素源の尿素172とともにるつぼ166内に配置される。
図18に示すように、Ar及び水素を含むキャリアガスは尿素拡散プロセスの間にるつぼ166内に供給される。他の例では、異なるキャリアガスを使用するか、或いは、全くキャリアガスを使用しなくてもよい。幾つかの例では、尿素拡散プロセスの間の真空炉168内のガス流速は約5標準立方センチメートル/分(sccm)〜約50sccmであることができ、例えば、約20sccm〜約50sccm、又は、5sccm〜約20sccmであることができる。
【0110】
加熱コイル170は、任意の適切な技術、例えば、渦電流、誘導電流、無線周波数などを用いた尿素拡散プロセスの間に鉄ワークピース128及び尿素172を加熱することができる。るつぼ166は尿素拡散プロセスの間に使用される温度に耐えるように構成されていてよい。幾つかの例では、るつぼ166は約1600℃までの温度に耐えることができる可能性がある。
【0111】
尿素172は鉄ワークピース128とともに加熱されて、鉄ワークピース128中に拡散することができる窒素を生成し、窒化鉄材料を形成することができる。幾つかの例では、尿素172及び鉄ワークピース128は、約650℃以上にるつぼ166内で加熱され、次いで、鉄及び窒素の混合物を冷却してクエンチし、鉄ワークピース128の厚さ、直径又は体積の実質的に全体にわたってFe
16N
2相構成を有する窒化鉄材料を形成することができる。幾つかの例では、尿素172及び鉄ワークピース128は、約650℃以上にるつぼ166内で約5分〜約1時間加熱されうる。幾つかの例では、尿素172及び鉄ワークピース128は約数分〜約1時間、約1000℃〜約1500℃に加熱することができる。加熱の時間は異なる温度での窒素熱係数に依存することができる。例えば、鉄ワークピースが約1マイクロメートルの厚さを画定するならば、拡散プロセスは約1200℃で約5分間、1100℃で約12分間などで終了することができる。
【0112】
クエンチプロセスの間に加熱された材料を冷却するために、冷水をるつぼの外側に循環させて迅速に内容物を冷却することができる。幾つかの例では、温度は650℃から室温に約20秒で低下されうる。
【0113】
後述するように、幾つかの例では、尿素172及び鉄ワークピース128の温度は、鉄及び窒素混合物をアニールし、鉄ワークピース128の厚さ、直径又は体積の実質的に全体にわたってFe
16N
2相構成を有する窒化鉄材料を形成するために、例えば、約120℃〜約250℃であることができる。尿素172及び鉄ワークピース128は、例えば、少なくとも約1時間、アニール温度とすることができる。このようなアニールプロセスは、例えば、鉄材料がマイクロメートルレベルの少なくとも1つの寸法を有する単結晶鉄ワークピース又はテクスチャー付きワークピースである場合に、他の窒素拡散技術に加えて、又はそれに代えて使用することができる。アニール及びクエンチのそれぞれにおいて、窒素は炉68内で、窒素ガスから、又は、Arプラス水素キャリアガスを含むガス混合物から鉄ワークピース128中に拡散することができる。幾つかの例では、ガス混合物は約86%Ar+4%H
2+10%N
2の組成を有することができる。他の例では、ガス混合物は10%N
2+90%Ar、又は、100%N
2又は100%Arの組成を有することができる。
【0114】
さらに後述するように、尿素拡散プロセスを介して形成される窒化鉄材料の構成は使用される尿素/鉄の質量比によることができる。このように、幾つかの例では、尿素/鉄の質量比はFe
16N
2相構成の窒化鉄材料を形成するように選択することができる。しかしながら、そのような尿素拡散プロセスは、Fe
2N、Fe
3N、Fe
4N、Fe
8Nなどの、Fe
16N
2相構成を有するもの以外の窒化鉄材料を形成するために使用することができる。
【0115】
鉄ワークピース128を窒素化する(14)ために使用される技術に関係なく、窒素は約8原子%(at.%)〜約14at.%、例えば、約11at.%の濃度まで鉄ワークピース128中に拡散することができる。鉄中の窒素の濃度は平均濃度であることができ、鉄ワークピース128の体積全体にわたって変化することができる。幾つかの例では、(鉄ワークピース128を窒素化した(114)後に)、窒素化された鉄ワークピース128の少なくとも一部の得られる相構成はα’相Fe
8Nであることができる。Fe
8N相構成は化学的秩序化されたFe
16N
2相の化学的無秩序対応物である。Fe
8N相構成は、また、bct結晶構造を有し、そして比較的に高い結晶磁気異方性を導入することができる。
【0116】
幾つかの例では、鉄ワークピース128が窒素化され(114)、なおも歪んでいる間に(112)、鉄ワークピース128は、鉄の格子内の適切な格子間空間への窒素原子の拡散を促進し、Fe
16N
2を形成するために、ある時間、ある温度でアニールすることができる(16)。
図15で使用されるアニールプロセスは、
図1、9、12及び14に関連して説明したものと同一又は実質的に同一であることができる。例えば、ポストアニール工程は約250℃未満の温度、例えば、約120℃〜約214℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃の温度で行うことができる。ポストアニール工程は窒素(N
2)又はアルゴン(Ar)雰囲気中で、又は、真空又は真空付近で行ってよい。ポストアニール工程の時間は少なくとも約5時間であり、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。
【0117】
ポストアニール工程の温度及び時間は、例えば、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースのサイズ、ポストアニール温度での鉄中の窒素原子の拡散係数、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース中のFe
16N
2相ドメインの所望の体積分率に基づいて選択することができる。これらの要因に基づいて、温度及び時間はFe
16N
2ドメインを形成するようにテクスチャー付き窒化鉄ワークピース中の位置に窒素原子を拡散するのに十分な時間を提供するように選択することができる。
【0118】
アニールプロセスが完了すると、鉄ワークピース128は酸化を低減又は防止するために、真空又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で冷却されてよい。
【0119】
図15には示していないが、幾つかの例では、技術は追加の鉄又は非磁性材料を複数の鉄ワークピース128の間に導入すること(54)(
図9及び12)、又は、イオン注入又はクラスター注入を用いて鉄ワークピース128をドープすること(108)(
図14)を含むことができる。
【0120】
幾つかの例では、鉄ワークピース128は所望の用途のために十分なサイズではないことがある。このような例において、複数の鉄ワークピース128は形成され(それぞれFe
16N
2相構成を含む又はから本質的になる)、そして複数の鉄ワークピース128を一緒に焼結して、Fe
16N
2相構成を含む、より大きな永久磁石を形成することができる(36)。
図7、8A及び8Bに関連して説明したように、焼結圧力、温度及び時間はテクスチャー付き窒化鉄ワークピースの結晶構造(例えば、Fe
16N
2相ドメインを含むときに)を維持しながらワークピースを機械的に結合するように選択されることができる。したがって、幾つかの例では、焼結工程は比較的に低い温度で行うことができる。例えば、焼結温度は、約250℃未満、例えば、約120℃〜約250℃、約150℃〜約250℃、約120℃〜約200℃、約150℃〜約200℃、又は、約150℃であることができる。焼結圧力は、例えば、約0.2GPa〜約10GPaであることができる。焼結時間は、少なくとも約5時間、例えば、少なくとも約20時間、又は、約5時間〜約100時間、又は、約20時間〜約100時間、又は、約40時間であることができる。焼結時間、温度及び圧力は、鉄又は非磁性材料を含むワークピース又は粉末中の材料によって影響を受けることができる。
【0121】
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを鉄又は非磁性材料とともに焼結した後に、バルク磁性材料(例えば、バルク永久磁石)が形成されうる。バルク磁性材料は、Fe
8N及びFe
16N
2の間の交換スプリングカップリング及び鉄又は非磁性材料により提供されるドメイン壁ピン止めサイトの両方を含むことができる。このようにして、バルク磁性材料は望ましくは高いエネルギー積を有することができ、それは純粋なFe
16N
2(約134MGOe)のエネルギー積に近づくことができる。
【0122】
[項目1]
約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメイン、ドメイン壁ピン止めサイトを形成する複数の非磁性元素又は化合物、及び、残部の軟磁性材料を含むバルク永久磁性材料であって、ここで、前記軟磁性材料の少なくとも一部は交換スプリングカップリングによりFe
16N
2相ドメインに磁気的に結合されている、バルク永久磁性材料。
【0123】
[項目2]
約5体積%〜約20体積%のFe
16N
2相ドメインを含む、項目1記載のバルク永久磁性材料。
【0124】
[項目3]
約10体積%〜約15体積%のFe
16N
2相ドメインを含む、項目1記載のバルク永久磁性材料。
【0125】
[項目4]
Fe
16N
2相ドメインはバルク永久磁性材料の体積全体に分散されている、項目1〜3のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0126】
[項目5]
複数の非磁性元素又は化合物はAl, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、元素又は化合物を含む、項目1〜4のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0127】
[項目6]
軟磁性材料はFe
8N, Fe
4N, Fe, FeCo及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、項目1〜5のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0128】
[項目7]
軟磁性材料はFe
8Nを含む、項目1〜5のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0129】
[項目8]
バルク永久磁性材料は窒化鉄の複数のワークピースを焼結したものを含み、窒化鉄のワークピースの各々は約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを含む、項目1〜7のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0130】
[項目9]
バルク永久磁性材料の最小寸法は約100ナノメートルを超える、項目1〜8のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0131】
[項目10]
最小寸法は約1マイクロメートルを超える、項目9記載のバルク永久磁性材料。
【0132】
[項目11]
最小寸法は約100マイクロメートルを超える、項目10記載のバルク永久磁性材料。
【0133】
[項目12]
磁性材料はエネルギー積が約10MGOeを超える、項目1〜11のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0134】
[項目13]
磁性材料はエネルギー積が約30MGOeを超える、項目12記載のバルク永久磁性材料。
【0135】
[項目14]
磁性材料はエネルギー積が約60MGOeを超える、項目13記載のバルク永久磁性材料。
【0136】
[項目15]
磁性材料はエネルギー積が約100MGOeを超える、項目14記載のバルク永久磁性材料。
【0137】
[項目16]
磁性材料はエネルギー積が約60MGOe〜約135MGOeである、項目12記載のバルク永久磁性材料。
【0138】
[項目17]
材料は自然に結晶学的に整合的である、項目1〜16のいずれか1項記載のバルク永久磁性材料。
【0139】
[項目18]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成すること、窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定すること、及び、窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することを含む方法。
【0140】
[項目19]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは約180キロエレクトロンボルト未満のエネルギーにN+イオンを加速することを含む、項目18記載の方法。
【0141】
[項目20]
約180キロエレクトロンボルト未満のエネルギーにN+イオンを加速することは約100キロエレクトロンボルトのエネルギーにN+イオンを加速することを含む、項目19記載の方法。
【0142】
[項目21]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは約2×10
16/cm
2〜1×10
17/cm
2の流束でN+イオンを提供することを含む、項目18〜20のいずれか1項記載の方法。
【0143】
[項目22]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは約8×10
16/cm
2の流束でN+イオンを提供することを含む、項目18〜20のいずれか1項記載の方法。
【0144】
[項目23]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは鉄ワークピース中に約8原子%〜約15原子%の平均窒素濃度を形成するのに十分なN+イオンを提供することを含む、項目18〜22のいずれか1項記載の方法。
【0145】
[項目24]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは鉄ワークピース中に約12.5原子%の平均窒素濃度を形成するのに十分なN+イオンを提供することを含む、項目18〜22のいずれか1項記載の方法。
【0146】
[項目25]
鉄ワークピースは、イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成する前に、約500ナノメートル〜約1ミリメートルの厚さを画定している、項目18〜24のいずれか1項記載の方法。
【0147】
[項目26]
鉄ワークピースは、イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成する前に、約500ナノメートルの厚さを画定している、項目25記載の方法。
【0148】
[項目27]
鉄ワークピースは複数の鉄結晶を含み、そして鉄ワークピースの主表面はすべて又は実質的にすべての鉄結晶の(110)面に実質的に平行である、項目18〜26のいずれか1項記載の方法。
【0149】
[項目28]
基材はシリコン又はガリウムひ素を含む、項目18〜27のいずれか1項記載の方法。
【0150】
[項目29]
基材は(111)主要面を有する単結晶シリコン基材を含む、項目28記載の方法。
【0151】
[項目30]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、窒化鉄ワークピースをプレアニールして単結晶シリコン基材の(111)主要面に窒化鉄のワークピースを固定すること含む、項目29記載の方法。
【0152】
[項目31]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、鉄ワークピース及び基材の間に約0.2ギガパスカル〜約10ギガパスカルの外部力を加えることを含む、項目18〜30のいずれか1項記載の方法。
【0153】
[項目32]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、窒化鉄ワークピース及び基材を約450℃〜約550℃の温度に約30分〜約4時間加熱することを含む、項目18〜31のいずれか1項記載の方法。
【0154】
[項目33]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、窒化鉄ワークピース及び基材を約500℃の温度に約30分〜約1時間加熱することを含む、項目32記載の方法。
【0155】
[項目34]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、窒素及びアルゴンを含む雰囲気下で窒化鉄ワークピースをプレアニールすることを含む、項目32又は33記載の方法。
【0156】
[項目35]
窒化鉄ワークピースをプレアニールして基材に窒化鉄ワークピースを固定することは、約10体積%の窒素、約86体積%のアルゴン及び約4体積%の水素を含む雰囲気下で窒化鉄ワークピースをプレアニールすることを含む、項目34記載の方法。
【0157】
[項目36]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース及び基材を約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することを含む、項目18〜35のいずれか1項記載の方法。
【0158】
[項目37]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース及び基材を約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱することを含む、項目18〜35のいずれか1項記載の方法。
【0159】
[項目38]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース及び基材を約150℃の温度に約20〜約40時間加熱することを含む、項目18〜35のいずれか1項記載の方法。
【0160】
[項目39]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース内に約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目18〜38のいずれか1項記載の方法。
【0161】
[項目40]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース内に約10体積%〜約20体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目18〜38のいずれか1項記載の方法。
【0162】
[項目41]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピース内に約10体積%〜約15体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目18〜38のいずれか1項記載の方法。
【0163】
[項目42]
窒化鉄ワークピースをポストアニールして窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、窒化鉄ワークピースの体積全体に分散したFe
16N
2を形成することを含む、項目18〜41のいずれか1項記載の方法。
【0164】
[項目43]
窒化鉄材料の複数のワークピースを形成すること、ここで、複数のワークピースの各々は約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを含む、窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入すること、及び、窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することを含む方法。
【0165】
[項目44]
窒化鉄材料の複数のワークピースを形成することは、イオン注入を用いてテクスチャー付き鉄ワークピースにN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成すること、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールし、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目43記載の方法。
【0166】
[項目45]
高速ベルトキャスティングを用いてテクスチャー付き鉄ワークピースを形成することをさらに含む、項目44記載の方法。
【0167】
[項目46]
テクスチャー付き鉄ワークピースは約1マイクロメートル〜約10ミリメートルの厚さを画定している、項目44又は45記載の方法。
【0168】
[項目47]
テクスチャー付き鉄ワークピースは約5マイクロメートル〜約1ミリメートルの厚さを画定している、項目44又は45記載の方法。
【0169】
[項目48]
テクスチャー付き鉄ワークピースは(100)又は(110)結晶構造を含む、項目44〜47のいずれか1項記載の方法。
【0170】
[項目49]
イオン注入を用いてテクスチャー付き鉄ワークピース中にN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することは約180キロエレクトロンボルト未満のエネルギーにN+イオンを加速することを含む、項目44〜48のいずれか1項記載の方法。
【0171】
[項目50]
約180キロエレクトロンボルト未満のエネルギーにN+イオンを加速することは約100キロエレクトロンボルトのエネルギーにN+イオンを加速することを含む、項目44〜48のいずれか1項記載の方法。
【0172】
[項目51]
イオン注入を用いてテクスチャー付きワークピース中にN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することは約2×10
16/cm
2〜1×10
17/cm
2の流束でN+イオンを提供することを含む、項目44〜50のいずれか1項記載の方法。
【0173】
[項目52]
イオン注入を用いて鉄ワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは約8×10
16/cm
2の流束でN+イオンを提供することを含む、項目44〜50のいずれか1項記載の方法。
【0174】
[項目53]
イオン注入を用いてテクスチャー付きワークピース中にN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピース中に約8原子%〜約15原子%の平均窒素濃度を形成するのに十分なN+イオンを提供することを含む、項目44〜52のいずれか1項記載の方法。
【0175】
[項目54]
イオン注入を用いてテクスチャー付きワークピース中にN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピース中に約12.5原子%の平均窒素濃度を形成するのに十分なN+イオンを提供することを含む、項目44〜52のいずれか1項記載の方法。
【0176】
[項目55]
窒化鉄材料の複数のワークピースを形成することは、溶融鉄中で窒素源を混合すること、溶融鉄を高速ベルトキャスティングしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成すること、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールし、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目43記載の方法。
【0177】
[項目56]
溶融鉄中で窒素を混合することは溶融鉄中で窒素源を混合して約8原子%〜約15原子%の窒素原子濃度を溶融鉄中にもたらす、項目55記載の方法。
【0178】
[項目57]
溶融鉄中で窒素を混合することは溶融鉄中で窒素源を混合して約12.5原子%の窒素原子濃度を溶融鉄中にもたらす、項目55記載の方法。
【0179】
[項目58]
窒素源はアンモニア、アンモニウムアジ化物又は尿素のうちの少なくとも1つを含む、項目55〜57のいずれか1項記載の方法。
【0180】
[項目59]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは(100)又は(110)結晶構造を含む、項目55〜58のいずれか1項記載の方法。
【0181】
[項目60]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは約1マイクロメートル〜約10ミリメートルの寸法を画定している、項目55〜59のいずれか1項記載の方法。
【0182】
[項目61]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは約5マイクロメートル〜約1ミリメートルの厚さを画定している、項目55〜59のいずれか1項記載の方法。
【0183】
[項目62]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して約0.1%〜約7%の歪みを課すこと、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに歪みを課している間に、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することを含む、項目43〜61のいずれか1項記載の方法。
【0184】
[項目63]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱することを含む、項目62記載の方法。
【0185】
[項目64]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約150℃の温度に約20時間〜約40時間加熱することを含む、項目62記載の方法。
【0186】
[項目65]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内に約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目44〜64のいずれか1項記載の方法。
【0187】
[項目66]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内に約5体積%〜約20体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目44〜64のいずれか1項記載の方法。
【0188】
[項目67]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内に約10体積%〜約15体積%のFe
16N
2相ドメインを形成することを含む、項目44〜64のいずれか1項記載の方法。
【0189】
[項目68]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの体積全体に分散したFe
16N
2を形成することを含む、項目44〜67のいずれか1項記載の方法。
【0190】
[項目69]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、イオン注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性イオンを注入することを含む、項目43〜68のいずれか1項記載の方法。
【0191】
[項目70]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、クラスター注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性化合物を注入することを含む、項目43〜69のいずれか1項記載の方法。
【0192】
[項目71]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に鉄又は非磁性材料のワークピースを導入することを含む、項目43〜70のいずれか1項記載の方法。
【0193】
[項目72]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に少なくとも1つの鉄又は非磁性材料を含む粉末を導入することを含む、項目43〜71のいずれか1項記載の方法。
【0194】
[項目73]
鉄又は非磁性材料はAl, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、項目43〜71のいずれか1項記載の方法。
【0195】
[項目74]
窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することは、窒化鉄材料を含む複数のワークピースを約250℃未満の温度に少なくとも約5時間加熱すること含む、項目43〜73のいずれか1項記載の方法。
【0196】
[項目75]
窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することは、窒化鉄の複数のワークピースに約0.2ギガパスカル〜約10ギガパスカルの圧力を加えながら、窒化鉄材料の複数のワークピースを約250℃未満の温度に少なくとも約5時間加熱すること含む、項目43〜73のいずれか1項記載の方法。
【0197】
[項目76]
窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することは、窒化鉄の複数のワークピースに約0.2ギガパスカル〜約10ギガパスカルの圧力を加えながら、窒化鉄材料の複数のワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱すること含む、項目43〜73のいずれか1項記載の方法。
【0198】
[項目77]
イオン注入を用いてテクスチャー付き鉄ワークピースにN+イオンを注入することにより複数のテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成して、約8原子%〜約15原子%のN+イオンを含むテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成すること、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールし、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース中に約5体積%〜約40体積%の体積分率のFe
16N
2相ドメインを形成することを含み、残部の軟磁性材料はFe
8Nを含み、Fe
16N
2相ドメインの少なくとも一部は交換スプリングカップリングによってFe
8Nドメインの少なくとも一部に磁気的に結合される、
窒化鉄の複数のワークピースの第一のワークピースと、複数のワークピースの第二のワークピースとの間、又は、窒化鉄の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性材料を導入すること、及び、窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することを含み、ここで、非磁性材料はバルク磁石内にドメイン壁ピン止めサイトを形成する、
方法。
【0199】
[項目78]
高速ベルトキャスティングを用いてテクスチャー付き鉄ワークピースを形成することをさらに含む、項目77記載の方法。
【0200】
[項目79]
テクスチャー付き鉄ワークピースは約1マイクロメートル〜約10ミリメートルの厚さを画定している、項目77又は78記載の方法。
【0201】
[項目80]
テクスチャー付き鉄ワークピースは(100)又は(110)結晶構造を含む、項目77又は78記載の方法。
【0202】
[項目81]
イオン注入を用いてテクスチャー付き鉄ワークピース中にN+イオンを注入してテクスチャー付き窒化鉄シートを形成することは約100キロエレクトロンボルトのエネルギーにN+イオンを加速することを含む、項目77〜80のいずれか1項記載の方法。
【0203】
[項目82]
イオン注入を用いてワークピース中にN+イオンを注入して窒化鉄ワークピースを形成することは約8×10
16/cm
2の流束でN+イオンを提供することを含む、項目77〜81のいずれか1項記載の方法。
【0204】
[項目83]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して約0.1%〜約7%の歪みを課すこと、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに歪みを課している間に、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することを含む、項目77〜82のいずれか1項記載の方法。
【0205】
[項目84]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱することを含む、項目83記載の方法。
【0206】
[項目85]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの体積全体に分散したFe
16N
2を形成することを含む、項目77〜84のいずれか1項記載の方法。
【0207】
[項目86]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、イオン注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性イオンを注入することを含む、項目77〜85のいずれか1項記載の方法。
【0208】
[項目87]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、クラスター注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性化合物を注入することを含む、項目77〜86のいずれか1項記載の方法。
【0209】
[項目88]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に鉄又は非磁性材料のワークピースを導入することを含む、項目77〜87のいずれか1項記載の方法。
【0210】
[項目89]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に少なくとも1つの鉄又は非磁性材料を含む粉末を導入することを含む、項目77〜88のいずれか1項記載の方法。
【0211】
[項目90]
鉄又は非磁性材料はAl, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、項目77〜89のいずれか1項記載の方法。
【0212】
[項目91]
窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約20体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することは、窒化鉄の複数のワークピースに約0.2ギガパスカル〜約10ギガパスカルの圧力を加えながら、窒化鉄材料の複数のワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱すること含む、項目77〜90のいずれか1項記載の方法。
【0213】
[項目92]
約8原子%〜約15原子%の溶融鉄中の窒素原子濃度をもたらすように溶融鉄中に窒素源を混合し、溶融鉄を高速ベルトキャスティングしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成することにより、複数のテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを形成すること、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールして、テクスチャー付き窒化鉄ワークピース内に約5体積%〜約40体積%の体積分率のFe
16N
2相ドメインを形成することを含み、残部の軟磁性材料はFe
8Nを含み、ここで、Fe
16N
2相ドメインの少なくとも一部は交換スプリングカップリングによってFe
8Nドメインの少なくとも一部に磁気的に結合されている、
窒化鉄の複数のワークピースの第一のワークピースと、複数のワークピースの第二のワークピースとの間、又は、窒化鉄の複数のワークピースのうちの少なくとも1つのワークピースの内部に非磁性材料を導入すること、及び、窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約40体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することを含み、ここで、非磁性材料はバルク磁石内にドメイン壁ピン止めサイトを形成する、方法。
【0214】
[項目93]
窒素源はアンモニア、アンモニウムアジ化物又は尿素のうちの少なくとも1つを含む、項目92記載の方法。
【0215】
[項目94]
テクスチャー付き鉄ワークピースは(100)又は(110)結晶構造を含む、項目92又は93記載の方法。
【0216】
[項目95]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースは約1マイクロメートル〜約10ミリメートルの厚さを画定している、項目92〜94のいずれか1項記載の方法。
【0217】
[項目96]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに対して約0.1%〜約7%の歪みを課すこと、及び、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースに歪みを課している間に、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することを含む、項目92〜95のいずれか1項記載の方法。
【0218】
[項目97]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約250℃の温度に少なくとも約5時間加熱することはテクスチャー付き窒化鉄ワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱することを含む、項目96記載の方法。
【0219】
[項目98]
テクスチャー付き窒化鉄ワークピースをポストアニールしてテクスチャー付き窒化鉄ワークピース内にFe
16N
2相ドメインを形成することは、テクスチャー付き窒化鉄ワークピースの体積全体に分散したFe
16N
2を形成することを含む、項目92〜97のいずれか1項記載の方法。
【0220】
[項目99]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、イオン注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性イオンを注入することを含む、項目92〜98のいずれか1項記載の方法。
【0221】
[項目100]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、クラスター注入を用いて窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に非磁性化合物を注入することを含む、項目92〜99のいずれか1項記載の方法。
【0222】
[項目101]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に鉄又は非磁性材料のワークピースを導入することを含む、項目92〜100のいずれか1項記載の方法。
【0223】
[項目102]
窒化鉄材料の複数のワークピースの間又は窒化鉄材料の複数のワークピースのうちの少なくとも1つの内部に追加の鉄又は非磁性材料を導入することは、窒化鉄材料の複数のワークピースの第一のワークピースと第二のワークピースとの間に少なくとも1つの鉄又は非磁性材料を含む粉末を導入することを含む、項目92〜101のいずれか1項記載の方法。
【0224】
[項目103]
鉄又は非磁性材料はAl, Cu, Ti, Mn, Zr, Ta, B, C, Ni, Ru, SiO
2, A1
2O
3又はそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、項目92〜102のいずれか1項記載の方法。
【0225】
[項目104]
窒化鉄の複数のワークピースを一緒に焼結して、約5体積%〜約20体積%のFe
16N
2相ドメインを有する窒化鉄を含むバルク磁石を形成することは、窒化鉄の複数のワークピースに約0.2ギガパスカル〜約10ギガパスカルの圧力を加えながら、窒化鉄材料の複数のワークピースを約120℃〜約200℃の温度に約20時間〜約100時間加熱すること含む、項目92〜103のいずれか1項記載の方法。
【0226】
[項目105]
Fe
16N
2相ドメインを含む磁性材料を形成するための本明細書に記載の任意の技術を実施するためのシステム。
【実施例】
【0227】
[例1]
図19はイオン注入した後で窒化鉄ホイルのアニールする前の鉄ホイルにおける深さの関数としてのN+イオン濃度のオージェ測定を示す線図である。N+イオン注入の前に、鉄ホイルは厚さが約500nmであった。N+イオンを鉄膜に注入するために100keVに加速した。約8×10
16/cm
2N+イオンのN+イオン流束を用いて、鉄ホイル中にN+イオンを注入した。測定はPhysical Electronics, Inc., Chanhassen, Minnesotaから入手可能なPhysical Electronics Industries (PHI) 545走査オージェマイクロプローブを用いてミリング源でAr
+とともにオージェ電子分光法(AES)を用いて行った。
図2に示す関係によって予測されるようにN+イオン濃度のピーク位置は約1000Å又は100nmであった。さらに、N+イオンは1000Å周辺の他の深さで注入された。
【0228】
[例2]
図20は異なる窒素流束に関するポストアニール後の鉄ホイル内の深さの関数としての窒素濃度を示す散布図である。N+イオン注入の前に、鉄ホイルは厚さが約500nmであった。N+イオンを鉄膜に注入するために100keVに加速した。約2×10
16/cm
2、約5×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2及び約1×10
17/cm
2N+イオンのN+イオン流束を用いて、鉄ホイル中にN+イオンを注入した。イオン注入した後に、窒化鉄ホイルを(111)シリコン基板に付着させ、4%H
2+10%N
2+86%Ar雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニール処理を施した。その後、窒化鉄ホイルを真空中で約40時間、約150℃でのポストアニール処理を施した。
【0229】
図20に示すように、ポストアニール工程後の窒化鉄ホイルの厚さは約450nmであった。膜厚50nmの損失は、プレアニール工程の間のイオン衝撃及びクリーニング時の鉄損失のためであると考えられる。
図20に示すように、各窒素流束に関して、ポストアニール工程後に、ホイル内の窒素の濃度はホイル全体を通して実質的に同一であった。8×10
16/cm
2のN+イオン流束(上向き三角形)の窒素の濃度はFe
16N
2中で化学量論比のFe:N付近で、約12.5at.%〜約10at.%の範囲である。
【0230】
[例3]
図21A及び21Bは、イオン注入を用いて調製された窒化鉄ホイルの例についての磁化vs.保磁力のヒステリシスループである。N+イオン注入の前に、鉄ホイルは厚さが約500nmであった。N+イオンを鉄膜に注入するために100keVに加速した。約8×10
16/cm
2N+イオンのN+イオン流束を用いて、鉄ホイル中にN+イオンを注入した。イオン注入した後に、窒化鉄ホイルを(111)シリコン基板に付着させ、4%H
2+10%N
2+86%Ar雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニール処理を施した。その後、窒化鉄ホイルを真空中で約40時間、約150℃でのポストアニール処理を施した。
【0231】
図21Aは約5Kの温度で窒化鉄ホイルのヒステリシスループを示す。
図21Aに示すとおり、プレアニール及びポストアニール処理は、約2.0テスラ(T)から約2.45Tまで飽和磁化を増加させた。プレアニール及びポストアニール処理はまた、保磁力(Hs)を約0から約3.2kOeまで増加した。
【0232】
図21Bは約300Kの温度での窒化鉄ホイルのヒステリシスループを示す。
図21Bに示すとおり、プレアニール及びポストアニール処理は、約2.0Tから約2.12Tまで飽和磁化を増加させた。プレアニール及びポストアニール処理はまた、保磁力(Hs)を約0から約26kOeまで増加した。5Kでテストしたホイル及び約300Kでテストしたホイルの挙動の相違は、より高い温度での結果に影響を及ぼす材料内の欠陥によるものである考えられるが、その効果はより低い温度で低減される。したがって、5Kでの結果は、この技術を用いて調製された幾つかの窒化鉄膜の理想的な特性を代表すると考えられる。
【0233】
[例4]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si上に配置した。N+の窒素イオンを100keVに加速し、これらのホイルに垂直に、室温にて、約2×10
16/cm
2、約5×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2及び約1×10
17/cm
2の投与量で注入した。イオン注入した後に、注入されたホイルに対して2工程アニール工程を施した。第一の工程は窒素及びアルゴンの雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニール処理を行った。
【0234】
サンプルを同一の注入エネルギーであるが、異なる窒素流束に暴露した。
図22は、アニール前の鉄ホイル中の窒素深さプロファイルの例を示す線図である。窒素深さプロファイルは、深さミリング源としてAr
+を用いてオージェ電子分光(AES)により測定した。
【0235】
ホイル内部の窒素注入範囲を注入エネルギーによって決定した。
図22に示すように、異なる窒素流束を有する4つのサンプルは同一の注入範囲(約160nm)及び同一のピーク位置(約100nm)を有する。これは、SRIMによるシミュレーション結果と一致する。
【0236】
[例5]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si上に配置した。N+の窒素イオンを100keVに加速し、これらのホイルに垂直に、室温にて、約2×10
16/cm
2、約5×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2及び約1×10
17/cm
2の投与量で注入した。イオン注入した後に、注入されたホイルに対して2工程アニール工程を施した。第一の工程は窒素及びアルゴンの雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニール処理を行った。
【0237】
図23は異なる窒素流束に関するポストアニール後の鉄ホイル内の深さの関数としての窒素濃度を示す散布図である。
図23は、アニールされたホイル中の窒素濃度は各窒素流束に関して実質的に均一であることを示す。約8×10
16/cm
2に対応する窒化鉄の窒素濃度分布は11at.%に達しており、Fe
16N
2中の窒素の化学量論比に近い。
【0238】
[例6]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si上に配置した。N+の窒素イオンを100keVに加速し、これらのホイルに垂直に、室温で、約2×10
16/cm
2、約5×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2及び約1×10
17/cm
2の投与量で注入した。イオン注入した後に、注入されたホイルに対して2工程アニールプロセスを施した。第一の工程は窒素及びアルゴンの雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニール処理を行った。
【0239】
ホイルサンプルの結晶構造を、Cu Ka線源を備えたSiemens D5005 X-線回折計(XRD)を用いて特性化した。
図24は窒素イオンの約8×10
16/cm
2流束を用いて形成されるホイルサンプルに関してアニール前及びアニール後に回収されたXRDパターンを示す。アニール前のスペクトルに関して、シリコン基板Si(111)以外に、bccFe(110)のピークが現れる。アニーリング後に、出現しているFe
16N
2(330)(
図24中に標記されていない)及び(220)ピークは、bccFeの一部がFe
16N
2相に変態されたことを示す。
図24はまた、アニール後のFe
8N(330)ピークの強度の減少を示す。
【0240】
[例7]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si上に配置した。N+の窒素イオンを100keVに加速し、これらのホイルに垂直に、室温で、約8×10
16/cm
2の投与量で注入した。イオン注入した後に、注入されたホイルに対して2工程アニールプロセスを施した。第一の工程は窒素及びアルゴンの雰囲気中で約0.5時間、約500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニール処理を行った。
【0241】
図25は、イオン注入を用いて調製された窒化鉄ホイルの例についての磁化vs.保磁力のヒステリシスループである。N+イオン注入の前に(
図25の曲線182)、鉄ホイルの磁性特性は鉄単結晶に期待されるようなものであり、残留磁化は飽和磁化(室温にて約2.02T)とほぼ等しい。これは、面内方向に沿って横たわる容易軸を示す。イオン注入及びプレアニール工程の後に、飽和磁化は、鉄ホイルに比べて約7%増加した。ポストアニールした後に、飽和磁化は、鉄ホイルに比べて約15%増加した。イオン注入、プレアニール及びポストアニールした後に、飽和場(Hs)は約5.3kOeに増加し、Fe
16N
2におけるbct構造による垂直磁気異方性を示した。
【0242】
[例8]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si上に配置した。N+の窒素イオンを100keVに加速し、これらのホイルに垂直に、室温で、約2×10
16/cm
2、約5×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2及び約1×10
17/cm
2の投与量で注入した。イオン注入した後に、注入されたホイルに対して2工程アニール工程を施した。第一の工程は窒素及びアルゴンの雰囲気中で約0.5時間、500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニール処理を行った。
【0243】
アニールの前及び後のFeNホイル中の窒素の化学状態を決定するために、X線光電子分光法(XPS)を用いて窒素結合エネルギーを試験した。
図26は、アニール処理の前及び後で窒素結合エネルギーを示す2つの線図を含む。アニール前のN
1sの結合エネルギーは約401eVであり、中性状態と比較して正に荷電した状態を示す。これは、窒素が注入後にイオン化された(N+)の状態のままであることを示す。窒素の結合エネルギーはアニール後に約397eVにシフトし、負に帯電した状態に対応する。これは窒素がアニール後に鉄と結合したことを示唆する。
【0244】
[例9]
図15〜18に関して説明したとおり、窒化鉄サンプルは、歪ませた鉄サンプルを尿素に暴露することによって低温るつぼ技術を用いて調製した。尿素に暴露されている間に(鉄各1グラム当たり尿素1グラム)、鉄サンプルを約660℃の温度に約4時間加熱し、次いで、鉄サンプルを水冷した。
【0245】
鉄サンプルを、その後、ワイヤーに切断し、
図11に示した装置と同様の装置を用いて延伸した。3本のワイヤーを、異なる長さに歪ませ、歪みを歪みゲージを用いて決定した。第一のサンプルを約830ニュートン(N)の張力に供し、約2.5%の歪みをもたらした。第二のサンプルを約1328 Nの張力に供し、約4%の歪みをもたらした。第三のサンプルを約1660Nの張力に供し、約5%の歪みをもたらした。各サンプルを上記量で歪ませながら、約20時間、約150℃でアニールした。
【0246】
3つのサンプルの結晶構造を、その後、CuKα線源を用いたSiemens D5005 X線回折計(XRD)を用いて特性化した。
図27〜29は3つの窒化鉄サンプルに関して収集したXRDパターンを示す。
図27は2.5%まで歪んだサンプルについての結果を示している。XRDパターンは、Fe
16N
2(002)、Fe
16N
2(301)及びFe
16N
2(004)のピークを、他の窒化鉄(Fe
4N(111))、鉄(Fe(110)、Fe(200)及びFe(211))、及び酸化鉄(Fe
3O
4)相のピークとともに含む。
【0247】
図28は4%まで歪んだサンプルについての結果を示している。XRDパターンは、Fe
16N
2(002)、Fe
16N
2(301)及びFe
16N
2(004)のピークを、他の窒化鉄(Fe
4N(111))、鉄(Fe(110)、Fe(200)及びFe(211))、及び酸化鉄(Fe
3O
4)相のピークとともに含む。
【0248】
図29は5%まで歪んだサンプルについての結果を示している。XRDパターンは、Fe
16N
2(002)及びFe
16N
2(004)のピークを、他の窒化鉄(Fe
4N(111))、鉄(Fe(200)及びFe(211))のピークとともに含む。
【0249】
図30〜32はアニール中に異なる歪み(2.5%、4%及び5%)に暴露された窒化鉄ワイヤーの例の磁化vs.保磁力のヒステリシスループである。ヒステリシスループを室温で測定した。
図30は、アニール後に、約2.5%の歪みに供したサンプルは約138emu/gの飽和磁化(Ms)及び約660Oeの保磁力(Hc)を有することを示した。
図31は、アニール後に、約4%の歪みに供したサンプルは約165emu/gの飽和磁化(Ms)及び約750Oeの保磁力(Hc)を有することを示した。
図32は、アニール後に、約4%の歪みに供したサンプルは約170emu/gの飽和磁化(Ms)及び約800Oeの保磁力(Hc)を有することを示した。
【0250】
[例10]
厚さが約500nmである純粋な(110)鉄ホイルを鏡面研磨(111)Si基板上に配置した。基板及び鉄ホイルの表面を事前にクリーニングした。ウエハボンダー(SB6, Karl Suss Wafer Bonder)を融着モードで450℃で30分間用いて基板とホイルを直接的に結合した。
図33は(111)Si基板に直接結合した鉄ホイルを示す例示の赤外線画像である。
【0251】
原子N+のイオンを100keVに加速し、鉄ホイル中に垂直に、室温で、約2×10
16/cm
2〜約5×10
17/cm
2の流束範囲で注入した。サンプルを同一の注入エネルギーに暴露したが、異なる窒素流束であった。その後、注入されたホイルに対して2工程ポストアニールプロセスを施した。第一のアニール工程はN
2及びArの混合雰囲気中で約30分間、約500℃でプレアニールした。プレアニール工程の後に、真空中で約40時間、約150℃でポストアニールを行った。
【0252】
図34は2工程アニールの前のイオン注入したサンプルに関する例示的な窒素深さプロファイルを示す図であり、深さミリング源としてのAr
+を用いたオージェ電子分光(AES)により測定した。
図34はそれぞれ約2×10
16/cm
2、約8×10
16/cm
2、約1×10
17/cm
2及び5×10
17/cm
2の注入流束を用いた4つのサンプルに関する、アニール前の窒素分布を示している。ホイル内部の窒素注入範囲は注入エネルギーによって決定される。
図1に示すように、4つのサンプルは実質的に同一のインプラント範囲(約160nm)及び実質的に同一のピーク位置(約100nm)を有する。これは、SRIMによるシミュレーション結果と一致している。
【0253】
図35は2工程アニール後の例示の窒素深さプロファイルを示す図である。ホイル中の窒素濃度はアニール後のホイルの深さ全体にわたって実質的に均一に分布している。1×10
17/cm
2の流束に対応する窒素濃度分布は約11at.%であり、それはFe
16N
2中の窒素の化学量論比に近い。5×10
17/cm
2の流束を用いたサンプルでは、窒素濃度は鉄中の達成可能な最大窒素溶解度を超えていた。
【0254】
ホイルサンプルの結晶構造はCuKα線源を用いたSiemens 5005 X線回折計(XRD)を用いて特性化された。
図36はポストアニール後のSi(111)基板上の異なる窒素流束を用いたホイルサンプルの例示のXRDスペクトルを示す図である。Fe
16N
2相は、約2×10
16/cm
2〜5×10
17/cm
2で変化させたイオン流束を用いて試験した全ての条件で常に存在する。約2×10
16/cm
2及び約8×10
16/cm
2のイオン流束では、Fe
16N
2相窒化鉄のみが観測された。約1×10
17/cm
2及び5×10
17/cm
2の流束を用いたサンプルでは、窒素濃度が11.1at.%より大きかったので、ε−窒化鉄(Fe
4N)ピークも観察された。FeSi(111)相はすべての流束で観測されることができ、これは鉄ケイ素化物界面が450℃の融着結合により現れることを示している。
【0255】
図37は、種々の段階での約1×10
17/cm
2の流束を用いて調製したサンプルの例示のヒステリシスループを示す図であり、それらは標準Niサンプルにより校正された振動試料型磁力計(VSM)を用いてホイル面で室温にて測定した。3つM−Hループは、イオン注入の前、イオン注入及びプレアニール工程の後、ならびに、イオン注入後で、プレアニール及びポストアニールの両方の工程の後の同一のサンプルに対応する。イオン注入前の純粋な鉄ホイルでは、その磁気特性は、Fe(110)単結晶とよく一致している。その残留磁化値は4πΜsの飽和磁化値に等しく、室温で約2.02Tである。イオン注入及び500℃の0.5時間のプレアニール工程の後のサンプルでは、飽和磁化は2.15Tまで約7%増加する。一方、プレアニール工程後の残留磁化値は低下し、そして飽和場(Hs)は約1000 Oeまで増加し、これはプレアニール工程後にFe
8N相が存在することを示す。
【0256】
150℃で40時間のポストアニール工程はサンプルのMHループを極端に変化させた。このことは
図36中に示すとおりのサンプル中のFe
16N
2相の形成とよく一致する。
図37で示されるように、硬磁性挙動は5.3kOeの飽和場で明らかに観察される。これは、Fe
16N
2中の体心正方(bct)構造による大きな結晶磁気異方性の存在と一貫する。また、飽和磁化の15%の増加はこのサンプルで観測され、これはVSM試験誤差よりも大きい。絶対Ms値は、対照サンプル(出発単結晶鉄ホイル)の2.02Tと比較して、2.32Tまで増加する。XRDパターンは、
図36に示すように、サンプル中にFe及びFe
16N
2の混合相を明らかに含む。XRDパターンに基づく、このサンプル中のFe
16N
2相の積算体積比は約35%である。したがって、このサンプル中のFe
16N
2相の飽和磁化は約2.9Tと計算される。この計算では、サンプル中のFeマトリックスはイオン注入及びアニールの前と同一の飽和磁化を有するものと想定され、そのことはイオン注入の前及び後で同じサンプルを使用したので理に適っている。
【0257】
5×10
17/cm
2の流束を用いたサンプルでは、アニール前の磁気特性は
図37に示す結果と実質的に同様である。しかしながら、膜の磁気特性は、
図38及び39に示されるように、ポストアニール後に有意に変化し、保持力、そして、そのため、最大エネルギー積は明らかに増加する。
図38は、ポストアニール後の5×10
17/cm
2の流束を用いて調製したサンプルの例示のヒステリシスループを示す図である。膜の保磁力は1910 Oe、飽和磁化は245emu/g、そしてエネルギー積((BH)max)は約20 MGOeである。
図39は
図38に示す結果を得るために試験したフィルムの計算エネルギー積を示す図である。
図39は膜のエネルギー積の最大値が約20MGOeであることを示す。
【0258】
図40は
図38及び39に示す結果を得るために試験したフィルムの例示の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)画像である。TEMサンプルは集束イオンビーム(FIB)(FEI(商標)Hillsboro, Oregonから入手可能なFEI(商標)、Quanta 200 3D)によって表面に垂直にホイルを切断し、研磨することによって得た。
図40に示すように、サンプルは粒状構造からなる。サンプルの副次領域は異なる結晶構造に対応し、2.022nmの格子縞距離を有する結晶構造はα”-Fe
16N
2(220)に対応し、1.897nm及び2.027nmの格子縞距離を有するもう一方の結晶構造は、それぞれ、Fe
4N(200)及びFe(110)に対応する。
図41は
図40に示す結果を得るために試験したサンプルのX線回折パターンを示す例示の画像である。
【0259】
様々な実施例を記載してきた。これら及び他の実施例は以下の特許請求の範囲内にある。