特許第6082138号(P6082138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6082138誘導電気炉用の溶解材構成体、誘導電気炉の築炉方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6082138
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】誘導電気炉用の溶解材構成体、誘導電気炉の築炉方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/08 20060101AFI20170206BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20170206BHJP
   B22D 41/005 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   F27B14/08
   F27D1/16 R
   B22D41/005
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-12229(P2016-12229)
(22)【出願日】2016年1月26日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】510166629
【氏名又は名称】株式会社亀山鋳造所
(74)【代理人】
【識別番号】100091834
【弁理士】
【氏名又は名称】室田 力雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 佳裕
(72)【発明者】
【氏名】前川 敏郎
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−091486(JP,A)
【文献】 特開平02−259388(JP,A)
【文献】 特開昭61−272587(JP,A)
【文献】 特開昭57−28672(JP,A)
【文献】 特開昭57−060175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00 −14/20
F27B 3/00 − 3/28
F27D 1/00 − 1/18
B22D 41/005−41/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電気炉用の溶解材からなる構成体であって、使用する誘導電気炉の炉内底から炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材を用い、該長尺材の複数を炉内径に近似する外径に束ねて一体化してあることを特徴とする誘導電気炉用の溶解材構成体。
【請求項2】
誘導電気炉の築炉において、炉内壁の耐火物ライニング層の焼結工程で用いる溶解材構成体であって、長尺材の長さ寸法は、該長尺材を束ねてなる溶解材構成体が溶解したときに減少する高さ分だけ、誘導電気炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端よりも突出する寸法となるように調整してあることを特徴とする請求項1に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体。
【請求項3】
長尺材は角柱状のビレットを用い、これを複数本、所定の長さに束ねた状態に一体化してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の誘導電気炉用の溶解材構成体を用いた誘導電気炉の築炉方法であって、炉内壁を構成する耐火物ライニング層を未焼結状態で鉄系の内側型枠の背後に充填した後、内側型枠で囲まれた炉内空間に対して溶解材構成体を挿入することで、前記内側型枠で囲まれた炉内空間の全域を、上下方向に連続する長尺材の束で充填し、その後、電気を印加して、前記溶解材構成体と内側型枠の予熱から溶解までを行うことで、前記耐火物ライニング層の内表面の焼結を行うようにしたことを特徴とする誘導電気炉の築炉方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導電気炉用の溶解材構成体と、誘導電気炉の築炉方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄、鋳鋼などの溶解炉として、低周波誘導電気炉、高周波誘導電気炉が多く用いられている。
これらの誘導電気炉は、定期的に或いは湯漏れやその他の問題が生じた場合に、築炉と称される炉の耐火物の張り替えを実施する必要が生じる。
炉の内壁を構成する耐火物ライニング材は、シリカ系、マグネシア系、アルミナ系などの粉末状の耐火物が多く用いられている。これらの耐火物は粉末状であるため、築炉時にシンターと呼ばれる焼結の工程を経て耐火物の内表面層を所定の深さまで焼結し、強化させることが重要となる。
前記シンターと呼ばれる炉内壁耐火物の焼結工程は、水冷銅コイルを配置した炉体の内側に、炉内形状となる鋼製のフォーマと称される内側型枠を配設し、該内側型枠の背後、前記炉体との隙間に粉末状の耐火物ライニング材を充填する。そしてその後、前記内側型枠の中(内側空間、即ち炉内空間)に鉄系の溶解材を挿入し、誘導加熱を開始して、内側型枠と溶解材とを加熱し、溶解させる。これにより、耐火物ライニング材が内表面側から加熱され、焼結が開始される。溶解材と内側型枠が全て溶けて炉頂部まで満たされた時点で、焼結工程が完了することとなる。
【0003】
前記焼結工程で、内側型枠の内側に入れる前記溶解材は、効率よく加熱されることが好ましいので、従来からスターティングブロックと称される塊状の材料が用いられている。特に低周波誘導電気炉の場合は、塊状の溶解材を入れないと溶けない。
図4に示すように、従来用いられているスターティングブロックと称される塊状の溶解材は、炉容量の1/5〜1/3程度の比較的偏平な塊を用いており、この偏平塊200を誘導電気炉100内の炉底部101に1個配置し、或いはその上にスクラップを投入するか、又は偏平塊200を更に2〜3個重ねて配置する等、していた。
しかしながら、このような従来の焼結工程では、誘導電気炉100の特性上、最下部のスターティングブロックの偏平塊200のみが良く加熱され、その上にある溶解材はあまり順調には加熱されない傾向に陥り易い状況となっていた。このため、炉底部101付近における耐火物ライニング材120は、内表面から所定深さの焼結が順調に行われる一方、特に炉頂部102から炉上部付近における耐火物ライニング材120は、予備加熱なしにいきなり溶湯と接する事になるため、内表面からの焼結深さが不十分になったり、焼結状態そのものにムラやバラツキが生じて焼結不良が生じたりしていた。このため、炉の操業開始直後の溶解作業時に、炉頂部102から炉上部にかけての耐火物ライニング材120が剥がれ落ちたり、内表面からの湯差しが発生したりする等、築炉のやり直しを含むトラブルが発生し易い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−42879号公報
【特許文献2】特開平7−260363号公報
【特許文献3】特開平9−303967号公報
【特許文献4】特開2004−340413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2の発明には、ライニング材の焼結のバラツキを改善する技術として、定形耐火物を用いる構成が開示されている。即ち、炉耐火物を定形耐火物とライニング材の2層構造とすることで、焼結のバラツキを解決しようとするものである。
しかしながら、この特許文献1、2の発明では、定形耐火物を製作するコストが高くつく問題と、定形耐火物を用いる場合、この定形耐火物が物理的衝撃に弱く、割れ易いという問題がある。
上記特許文献3の発明には、炉内面側に焼結し易いライニング材を使用した2層構造のライニング材を用いる技術が開示されている。
しかしながら、この特許文献3の発明では、2種類の異なる性質を有するライニング材を準備しなければならない問題がある。またセパレートシリンダーを抜き出した後の隙間を再度突き固める作業をしなければならない問題がある。
上記特許文献4の発明には、湯差し等の問題の発生し易い炉前部のライニング材を炉後部のライニング材とは異なる材質とした技術が開示されている。
しかしながら、この特許文献4の発明では、炉後部についての配慮が逆に不十分となり易く、炉後部のライニング材が剥がれ落ち易くなる問題がある。
【0006】
そこで本発明は上記従来の誘導電気炉における問題点を解消し、誘導電気炉の築炉時に行う耐火物ライニング材の焼結処理のための炉内溶解において、良好な予備加熱と炉内溶解を行うことができる誘導電気炉用の溶解材構成体の提供を課題とする。またそのような溶解材構成体を用いた誘導電気炉の築炉方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は従来の誘導電気炉の築炉時の問題を解消すべく、原因追及と検討とを種々の実験を繰り返して行った結果、誘導電気炉の築炉時における問題の原因が、耐火物ライニング材の焼結工程で行う炉内溶解に供するスターティングブロック、即ち溶解材に最大の原因があることを知見し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の誘導電気炉用の溶解材構成体は、誘導電気炉用の溶解材からなる構成体であって、使用する誘導電気炉の炉内底から炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材を用い、該長尺材の複数を炉内径に近似する外径に束ねて一体化してあることを第1の特徴としている。
また本発明の誘導電気炉用の溶解材構成体は、上記第1の特徴に加えて、誘導電気炉の築炉において、炉内壁の耐火物ライニング層の焼結工程で用いる溶解材構成体であって、長尺材の長さ寸法は、該長尺材を束ねてなる溶解材構成体が溶解したときに減少する高さ分だけ、誘導電気炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端よりも突出する寸法となるように調整してあることを第2の特徴としている。
また本発明の誘導電気炉用の溶解材構成体は、上記第1又は第2の特徴に加えて、長尺材は角柱状のビレットを用い、これを複数本、所定長さに束ねた状態に一体化してあることを第3の特徴としている。
また本発明の誘導電気炉の築炉方法は、上記第1〜第3の何れかに記載の誘導電気炉用の溶解材構成体を用いた誘導電気炉の築炉方法であって、炉内壁を構成する耐火物ライニング層を未焼結状態で鉄系の内側型枠の背後に充填した後、内側型枠で囲まれた炉内空間に対して溶解材構成体を挿入することで、前記内側型枠で囲まれた炉内空間の全域を、上下方向に連続する長尺材の束で充填し、その後、電気を印加して、前記溶解材構成体と内側型枠の予熱から溶解までを行うことで、前記耐火物ライニング層の内表面の焼結を行うようにしたことを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体によれば、使用する誘導電気炉の炉内底から炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材を用い、該長尺材の複数を炉内径に近似する外径に束ねて一体化してあることにより、
溶解材構成体の炉内での上下方向の誘導加熱と熱伝導が、炉内底から耐火物ライニング層の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材によって、速やかに行われる。そして炉内径に近似する外径に束ねた長尺材が炉内に挿入配置されることで、溶解材構成体と炉内壁とを近接させることができ、よって溶解材構成体が溶解する前においても、該溶解材構成体から炉内壁側への熱伝導を速やかに行うことができる。
よって誘導電気炉に誘導加熱が開始されると、炉内に配置された本発明の溶解材構成体の全体がより速やかに且つ均一的に加熱され、全体が短時間で溶融に至る。これに伴って炉内壁も、その下部から上部に至る全体がより速やかに且つ均一的に加熱されることになる。
従って請求項1に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体を、誘導電気炉の築炉の際の炉内壁を構成する耐火物ライニング材の焼結工程で使用することにより、耐火物ライニング材の全体を速やかに且つ均一に加熱することができ、耐火物ライニング材の焼結をムラ無く均質に、均一な焼結深さで、速やかに、良好に行うことが可能となる。
勿論、本発明の溶解材構成体を用いることで、これが誘導電気炉の良好な鉄芯となることができるので、誘導電気炉としての発熱効率を上げることができる。よって誘導電気炉の築炉時に限らず、誘導電気炉による通常の操業時においても、本発明の溶解材構成体を用いることで、非常に良好で省エネの鉄系材の溶解を行うことができる。
【0010】
また請求項2に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体によれば、上記請求項1の構成による作用効果に加えて、誘導電気炉の築炉において、炉内壁の耐火物ライニング層の焼結工程で用いる溶解材構成体であって、長尺材の長さ寸法は、該長尺材を束ねてなる溶解材構成体が溶解したときに減少する高さ分だけ、誘導電気炉内壁を構成する耐火物ライニング層の上端よりも突出する寸法となるように調整してあるので、
築炉における炉内壁の耐火物ライニング層の焼結工程の際、溶解材構成体が炉内で溶解されても、その溶解された溶解材構成体の液面が耐火物ライニング層の上端よりも低くなってしまうのを防止することができる。よって溶解した溶解材構成体からの熱伝導を耐火物ライニング層の上端に至るまで良好に且つ速やかに行うことができ、耐火物ライニング層の焼結をその上端に至るまでの全領域で均質に、良好に行うことができる。
【0011】
また請求項3に記載の誘導電気炉用の溶解材構成体によれば、上記請求項1又は2の構成による作用効果に加えて、長尺材は角柱状のビレットを用い、これを複数本、所定の長さに束ねた状態に一体化してあるので、
連続鋳造や分塊圧延等で規格品的に得られる角柱状のビレットを用いることで、均質で形状の揃った長尺材を容易に調整して得ることができる。またそれらを束ねることで均質、均一な形状の溶解材構成体を、いつも容易に調達して得ることができる。よってこのようなビレットを用いた溶解材構成体によれば、いつも均質な溶解を行うことができ、誘導電気炉の築炉時はもとより、誘導電気炉による通常の操業時においても、非常に良好で速やかな溶解を行うことができる。
【0012】
また請求項4に記載の誘導電気炉の築炉方法によれば、炉内壁を構成する耐火物ライニング層を未焼結状態で鉄系の内側型枠の背後に充填した後、前記内側型枠で囲まれた炉内空間に対して溶解材構成体が挿入され、その後に電気が炉に印加されることで、前記溶解材構成体と内側型枠とが予熱され、やがて溶解される。この耐火物ライニング層は、予熱を受けた前記溶解材構成体から内側型枠を介して、及び溶解材構成体及び内側型枠が溶解した後は溶湯から熱を受けることで、ライニング層の内表面が所定の深さに焼結される。
前記溶解材構成体は、使用する誘導電気炉の炉内底から耐火物ライニング層の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材を用い、該長尺材の複数を炉内径に近似する形状に束ねて一体化したものであるので、この溶解材構成体を内側型枠で囲まれた炉内空間に挿入することで、内側型枠で囲まれた炉内空間の全域が、上下方向に連続する長尺材の束で充填される。従って、この状態で電気を印加すると、炉内空間に充填された溶解材構成体の全体が均一的に予熱され、これに伴って溶解材構成体に近接状態にある内側型枠もその全体が均一的に予熱される。そして溶解材構成体は、その均一的な予熱によって、その下端から上端に至るまでの溶解が比較的短時間の間に行われ、それに伴って内側型枠の溶解もその下端から上端に至るまで比較的短時間の間に行われる。これらの結果、耐火物ライニング層の加熱もその下方から上端にかけて比較的均一的に且つ速やかに行われることになり、加熱状況の不均一が起こり難い状況となる。よって耐火物ライニング材の焼結処理が下端から上端に至る全域で比較的均一で安定したものとなり、全域での均質で良好な焼結層を、所定の深さに揃えて安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態を示す溶解材構成体を築炉中の誘導電気炉に挿入配置した状態を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施形態を示す溶解材構成体を築炉中の誘導電気炉に挿入配置した状態を示す平面図である。
図3】溶解材構成体が溶けた状態を示す築炉中の誘導電気炉の状態を示す縦断面図である。
図4】従来用いられているスターティングブロックと称される塊状の溶解材を築炉中の誘導電気炉に挿入配置した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜3を参照して、本発明の誘導電気炉用の溶解材構成体、誘導電気炉の築炉方法について、その実施の形態につき以下に説明する。
【0015】
図1図2は、本発明の実施形態である溶解材構成体20を築炉中の誘導電気炉10に挿入配置した状態を示す図である。
誘導電気炉10としては、高周波誘導電気炉(中周波を含む)と低周波誘導電気炉とがあり、本発明に係る誘導電気炉においても、その両方を含む概念である。しかし実際問題として、誘導電気炉10をコールドスタートする必要のある築炉時においては、発熱効率の悪い低周波誘導電気炉において特に問題となり易い。従って本実施形態の誘導電気炉10の場合も、低周波誘導電気炉を主に想定している。
【0016】
誘導電気炉10は、その概略構成として、炉の内壁となる耐火物ライニング層11を備え、その外側に耐火物ライニング層11を隔す外側隔壁12が設けられている。該外側隔壁12の更に外側には誘導コイル13が配設される。また耐火物ライニング層11の下側に耐火物ライニング層11を隔す下側隔壁15が設けられている。
築炉時においては、フォーマと称する鉄系、例えば鋼製の容器からなる内側型枠14を予め配設し、この内側型枠14の背後に未だ焼結がなされていない粉末状の耐火物ライニング材を充填して、耐火物ライニング層11とする。より具体的には、内側型枠14と外側隔壁12及び下側隔壁15との間に充填する。
前記耐火物ライニング材は、例えばシリカを主成分とした耐火物粉末、マグネシア又はアルミナを主成分とした耐火物粉末を用いることができ、これらにその他の副資材やバインダー等の添加材を必要に応じて含有させたものを用いることができる。
勿論、前記耐火物ライニング材が充填された時点における耐火物ライニング層11は、粉体が充填されただけで、未だ焼結がなされていない状態である。
【0017】
築炉を完成させるには、前記耐火物ライニング層11の焼結工程を経て、耐火物ライニング層11の内表面を焼結する必要がある。
前記耐火物ライニング層11の焼結工程では、溶解材構成体20を前記内側型枠14に囲まれた炉内空間に挿入し、誘導電気炉10をコールドスタートする。時間の経過と共に前記溶解材構成体20と前記内側型枠14がやがて溶解し、一方、耐火物ライニング層11が予熱され、更に加熱されて、その内表面から内部へと焼結が進む。
【0018】
前記溶解材構成体20は、使用する誘導電気炉10の炉内底から炉内壁を構成する耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材21を用いる。そして複数の長尺材21を炉内径に近似する外径に束ねて一体化し、溶解材構成体20とする。
ここで、長尺材21の複数を炉内径に近似する外径に束ねるとは、より具体的には、複数の長尺材21が束ねられた状態で、炉内径よりは小径ではあるが、炉内径に近い径に束ねるという意味である。誘導電気炉10は通常は円形の炉内形状を持つので、そのような円形の誘導電気炉10に対しては、溶解材構成体20を構成する前記長尺材21の束も円形に構成することになる。ただし溶解材構成体20は、これを誘導電気炉10内に挿入する必要があるので、その挿入がスムーズに行える程度まで長尺材21の束の外径を誘導電気炉10内径よりも小さくする。しかし、できるだけ誘導電気炉10の内径に近い径とするのがよいのである。
また溶解材構成体20は複数の長尺材21を束ねたものであるので、その束の外周形状は完全な円や正多角形にはならないのが当然である。従って溶解材構成体20の外周形状は、誘導電気炉10の炉内形状と大まかには近似するが、実際には完全な相似形状とはならない。本発明では、このような大まかな相似形状を含む広い概念において、長尺材21の束の外径が誘導電気炉10の内径に近似するように構成している。
【0019】
前記長尺材21は鉄系とする。誘導電気炉10による溶解作業時における発熱を促進するのには、当然ながら、鉄系が良いからである。
長尺材21は、使用する誘導電気炉10の炉内底から耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法のものを用いる。各長尺材21が炉内において立設されるように配置されることで、炉内或いは長尺材21そのものに発生する熱を、長尺材21を介して炉内の上下方向、即ち炉底から炉頂方向に亘って速やかに伝導させることができる。炉内底から耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法の長尺材21を用いることで、炉底部から耐火物ライニング層11の上端に至る全域に熱が速やかに伝えられる。よって長尺材21、内側型枠14を介して耐火物ライニング層11が炉底から炉頂にかけて均一的に且つ速やかに予熱され、加熱される。更に長尺材21の複数を炉内径に近似する外径に束ねたものを用いることで、長尺材21の束と内側型枠14との隙間も狭くなり、予熱、加熱をより良好に均一化することができる。よって耐火物ライニング層11の速やかなる予熱、加熱ができる。
なお、炉内底から耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法とは、長尺材21の長さが、炉内底から耐火物ライニング層11上端までの長さ及びそれを超える長さにされていることを意味している。
【0020】
耐火物ライニング層11の焼結には、該耐火物ライニング層11が適当な加熱勾配をもって予熱され、加熱されることが重要である。溶解材構成体20が溶ける前に、溶解材構成体20の熱が炉底から炉頂に向けて行き渡ることで、内側型枠14を介して耐火物ライニング層11が均一に予熱され、更に高温へと加熱される。このようにして耐火物ライニング層11が炉底から炉頂に向けて均一に予熱、加熱されることで、耐火物ライニング層11の焼結が、炉底から炉頂にかけて安定且つ均一に行われることが可能になる。
長尺材21を束ねた溶解材構成体20を用いるもう一つの利点は、該溶解材構成体20が炉内に配置されることで、炉内空間がその深さ方向に長い鉄系の長尺材21で充填されることになり、それが誘導コイル13に対する良好な芯材となって、該誘導コイル13による発熱効率を大きく向上させることができることである。
なお溶解材構成体20は、誘導電気炉10の炉内底から耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した長尺材21を用いて構成するが、全てが長尺材21だけで構成される場合に限定されるものではない。炉内底から耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たさない溶解材が、長尺材21に対して補充的に組み合わされた溶解材構成体20であっても、耐火物ライニング層11の焼結が炉底から炉頂に向けて均一に行われるという程度において、本発明における溶解材構成体20に含まれる。
溶解材構成体20に占める長尺材21の割合は、70%以上が好ましく、より好ましくは90%以上がよい。
また寸法不足の溶解材を長尺材21に対して補充的に用いる場合、その寸法不足の溶解材の長さは長尺材21の半分以上の長さがあることが好ましく、より好ましくは2/3以上がよい。
【0021】
前記溶解材構成体20は、複数の溶解材を束ねたものであるので、多少の隙間が存在する。このため溶解材構成体20が溶解すると、その高さが減少する。
従って長尺材21の長さ寸法は、該長尺材21を束ねてなる溶解材構成体20が溶解したときに減少する高さ分だけ、予め誘導電気炉10の内壁を構成する耐火物ライニング層11の上端よりも突出する寸法となるように調整しておくのが好ましい。このように構成することで、溶解材構成体20が溶解した時点においても、その溶湯面が耐火物ライニング層11の上端まで達することが可能となり、耐火物ライニング層11の均一な焼結をより良好に確保することができる。
溶解材構成体20の寸法を耐火物ライニング層11の上端よりも突出するように構成する場合、それに併せて前記内側型枠14の寸法を、耐火物ライニング層11の上端を越え、更に溶解材構成体20の上端以上に突出するように、その寸法を調整して構成するのが好ましい。溶解材構成体20が溶解した際に、その溶湯が耐火物ライニング層11の上端面へ侵入しないようするためである。溶解材構成体20よりも溶解するのが遅い内側型枠14の寸法を溶解材構成体20の寸法よりも高くすることで、溶湯の耐火物ライニング層11上への流れ込みを防ぎながら、耐火物ライニング層11における均質な焼結、均一深さの焼結を全域で確保することが可能となる。
【0022】
溶解材構成体20は、長尺材21を束ね、その所々を溶接することで一体化することができる。束ねられた溶解材構成体20はできるだけ隙間が小さいのが好ましい。このため長尺材21の隙間に適当な形状、寸法の溶解材を挿入することができる。また水平断面形状の異なる溶解材を組み合わせて、炉内径に近似するように溶解材構成体20を構成することができる。
図2には、その例として、断面積の異なる2種類の長尺材21a、21bを用いて構成した溶解材構成体を示す。
長尺材21は、角柱状のビレットを用いることができる。より一般的に言えば、長尺材21は、その水平断面が矩形、その他の多角形のものを、単独或いは組み合わせて用いることができるが、できるだけ水平断面積の大きい長尺材が好ましい。また水平断面積が異なる長尺材21を、単独或いは組み合わせて用いることができる。
【0023】
図1〜3を参照して、上記した溶解材構成体20を用いた誘導電気炉10の築炉の方法を説明する。
この種の誘導電気炉10の築炉に当たっては、炉内空間の空間形状を構成することになる容器状の内側型枠14が配設される。該内側型枠14の外側と下側には、前記耐火物ライニング層11の厚みに相当する間隙を介してコイルセメント等からなる外側隔壁12と耐火キャスタブル等からなる下側隔壁15とが予め配設されている。その後、前記内側型枠14の背後、外側隔壁12と下側隔壁15との間に、耐火物ライニング材を充填して耐火物ライニング層11とする。この状態では、耐火物ライニング層11は未だ焼結工程がなされておらす、未焼結の状態である。実質的に最後の築炉作業として焼結工程が行われる。
焼結工程は、前記内側型枠14の中に溶解材構成体20を挿入し、誘導コイル13に電気を印加することで開始される。電気の印加により、前記溶解材構成体20の加熱が開始され、生じた熱は、溶解材構成体20の長尺材21によって、炉内の下方から上方に至る全域に速やかに伝熱される。溶解材構成体20の熱は内側型枠14を介して、耐火物ライニング層11に伝熱され、耐火物ライニング層11が予熱され、更に高温へと加熱される。その後、溶解材構成体20が溶解し、続いて内側型枠14が溶解して、図3に示すように、消失する。溶湯面は耐火物ライニング層11に近い液位になるように予め溶解材構成体20のボリュームを調整しておくことになる。この場合、溶解材構成体20の長尺材21の高さは、耐火物ライニング層11の上端を超える高さとなる。また内側型枠14の高さも耐火物ライニング層11の上端よりも高くなる。
耐火物ライニング層11はその内表面から徐々に焼結が進み、所定の焼結深さが達成される時間を見計らって、炉内の溶湯が排出され、焼結工程が終了する。
【0024】
なお、本発明に係る溶解材構成体20は、誘導電気炉10の築炉の際に用いるだけでなく、誘導電気炉の築炉が完了した後における通常の操業時にも、当然ながら用いられる。本発明の溶解材構成体20を通常操業時にも用いることで、誘導電気炉による溶解効率を向上させ、溶解材料を追加装入する必要がないため作業性も向上し、速やかな温度上昇とそれに伴う速やかな溶解を実現させることができる。
【実施例】
【0025】
炉内径900mm、炉内深さ1400mm、容量5トンの低周波誘導電気炉を対象として、溶解材構成体20を製作した。長尺材21として、150mm角の鉄製のビレットを用い、該ビレットを炉内深さである1400mmよりも100mm長く、即ち1500mmに切断して構成した。得られた150mm角、長さ1500mmの長尺材(ビレット)21を複数本組み合わせて、炉内径900mmに近い径とし、束ねて一体化し、溶解材構成体20とした。この溶解材構成体20を築炉中の前記低周波誘導電気炉10の内側型枠14の中に挿入、配置した。溶解材構成体20と内側型枠14の間に生じた隙間に、銑鉄、その他の鉄系材を溶解材として挿入し、隙間を埋めるようにした。
低周波誘導電気炉10に電気を印加し、加熱を開始した。通電後、約4時間で一体化した溶解材構成体20のビレットの下部が赤熱し始め、約6時間後には溶解材構成体20の上部で赤熱状態となり、また内側型枠14全体が赤熱状態となった。
その後、溶解材構成体20の溶解が始まり、約9時間後には炉内全体が溶湯で満たされた。溶湯温度を通常操業の溶解温度よりも100℃高い1600℃まで昇温し、そのまま約4時間保持し、焼結工程を終了した。
【0026】
焼結工程終了後、耐火物ライニング層11の内表面からの焼結層厚さを測定したところ、20〜25mm厚の焼結層が耐火物ライニング層11の全域で均一に形成されていた。従来における同様な焼結処理条件では、耐火物ライニング層11の下部と上部での焼結のバラツキが多く、下部において20〜25mm厚の焼結層が形成されていても、上部においては3〜10mm厚程度の焼結層しか形成されておらず、しかもその焼結自体が不均一で焼結不良の部分が多く生じていた。
また本実施例では、溶解材構成体20が炉内で溶解されるまでに9時間を要した。一方、従来においては、焼結工程において炉内に挿入される溶解材(スターティングブロック)の隙間が多いため、焼結工程の途中で、溶解材を何度も追加補充してゆく必要があり、しかもそれら追加された溶解材が炉内下部から順次溶解されていくため、実際問題として熱効率が悪く、炉内全体が溶湯で満たされるまでに約12時間を要していた。
即ち、本発明の溶解材構成体20を用いる場合は、焼結工程の時間を大幅に短縮しながら、且つ良好で均一な焼結層を得ることができる。
勿論、本発明の溶解材構成体20を用いることで、誘導電気炉による通常操業時における溶解作業も従来に比べて大幅に短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、誘導電気炉の築炉時に行う炉の内壁を構成する耐火物ライニング材の焼結処理のための炉内溶解を速やかに且つ良好に行うことができる築炉方法として、またその良好な焼結処理を実現できる溶解材構成体として、産業上の利用性が高い。
【符号の説明】
【0028】
10 誘導電気炉
11 耐火物ライニング層
12 外側隔壁
13 誘導コイル
14 内側型枠
15 下側隔壁
20 溶解材構成体
21 長尺材
21a 長尺材
21b 長尺材
【要約】
【課題】誘導電気炉の築炉時に行う耐火物ライニング材の焼結処理のための炉内溶解において、良好な予備加熱と炉内溶解を行うことができる誘導電気炉用の溶解材構成体の提供を課題とする。またそのような溶解材構成体を用いた誘導電気炉の築炉方法の提供を課題とする。
【解決手段】誘導電気炉10用の溶解材からなる構成体20であって、使用する誘導電気炉10の炉内底から炉内壁を構成する耐火物ライニング層11の上端までの寸法を満たす長さ寸法に調整した鉄系の長尺材21を用い、該長尺材21の複数を炉内径に近似する外径に束ねて一体化してある。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4