特許第6082203号(P6082203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082203
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20170206BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   B60C5/14 Z
   B60C13/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-171503(P2012-171503)
(22)【出願日】2012年8月1日
(65)【公開番号】特開2014-31056(P2014-31056A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄二
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−279974(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0139328(US,A1)
【文献】 実開昭57−159806(JP,U)
【文献】 実開昭62−199329(JP,U)
【文献】 特開平10−236105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部の間に設けられたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層の外周側に積層された複数のベルトプライからなるベルト層と、前記カーカス層の内周側に設けられてタイヤ内面を構成するインナーライナー層とを備える空気入りタイヤにおいて、
複数の前記ベルトプライのうち最も幅広のベルトプライにおけるベルト端位置の近傍に配された外端から、タイヤ最大幅位置の近傍に配された内端まで連続して延び、前記カーカス層と前記インナーライナー層との間に介在する増厚ゴム層を備え、
前記増厚ゴム層の最大厚み位置が、前記増厚ゴム層の外端よりもタイヤ径方向内側で且つ前記増厚ゴム層のペリフェリ中央よりもタイヤ径方向外側にあり、外端と内端における前記増厚ゴム層の厚みが、それぞれ前記最大厚み位置における前記増厚ゴム層の厚みよりも小さく、
前記増厚ゴム層の外端が、複数の前記ベルトプライのうち最も幅広のベルトプライのベルト端位置かそれよりもタイヤ幅方向内側に配置されていて、複数の前記ベルトプライのうち二番目に幅広のベルトプライにおけるベルト端位置からタイヤ幅方向内側へ該ベルトプライの幅の10%となる位置かそれよりもタイヤ幅方向外側に配置されていて、
前記増厚ゴム層の内端とタイヤ最大幅位置とのタイヤ径方向距離が、タイヤ断面高さの0.2倍以内であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記増厚ゴム層のペリフェリ長がタイヤ断面高さの0.3〜0.5倍である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
4.0〜10.0MPaの加硫後の100%引張モジュラスを有する高モジュラスゴムが、前記増厚ゴム層の最大厚み位置に少なくとも部分的に配されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記増厚ゴム層が、ペリフェリ長が相対的に大きい長ゴム層と、ペリフェリ長が相対的に小さく且つ前記最大厚み位置に配された短ゴム層とを重ねて構成され、前記短ゴム層が前記長ゴム層よりも加硫後の100%引張モジュラスの高いゴムで形成されている請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカス層とインナーライナー層との間にゴム層を介在させて内面不良を低減できるようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤの加硫では、ブラダーと呼ばれるゴム袋と金型とを備えたタイヤ加硫装置が使用される。ブラダーの内部にはスチームや窒素ガスなどの加熱加圧媒体が供給され、それにより膨張したブラダーがグリーンタイヤの内面に押し当てられる。グリーンタイヤは、膨張したブラダーによりシェーピングされて金型の内面に密着し、タイヤ内面とタイヤ外面の両方から加熱加圧が施される。
【0003】
ブラダーは、グリーンタイヤの内面に押し当てられる過程で、最初にタイヤのトレッド部の幅方向中央部分とビード部に接触し、そこから徐々に他の部位に接触していき、最後にベルト端位置からタイヤ最大幅位置に至る領域(以下、「最終接触領域」と呼ぶ。)に接触する。かかる挙動に起因して、最終接触領域ではタイヤ内面のゴムが伸ばされやすく、その結果、ゴム厚みが不均一で局所的に肉薄になる傾向にあった。
【0004】
このようなタイヤ内面でのゴム厚みの不均一化が顕著であると、そのゴム厚みが小さい箇所において、カーカス層のプライコードがインナーライナー層に減り込んでしまい、内面不良を生じやすくなる。また、内面不良を生じるほどではなくても、最終接触領域にゴム厚みの小さい箇所が形成されることで横剛性が低下し、それによって操縦安定性の悪化を引き起こす恐れがある。
【0005】
特許文献1には、カーカス層とインナーライナー層との間に略均一な厚みのタイゴム層を設け、そのタイゴム層の外端を2番目に幅が広いベルト層のエッジからタイヤ幅方向内側へ該ベルト層の幅の10〜40%の範囲内に配置したタイヤが記載されている。しかし、このようなタイゴム層の配置のみでは、最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化を避けられず、そればかりか重量増によって転がり抵抗が悪化する恐れがある。
【0006】
特許文献2〜4においても、カーカス層とインナーライナー層との間にゴム層を介在させたタイヤ構造が開示されているものの、上記と同様に最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化が避けられない、重量増によって転がり抵抗の悪化を生じる、或いは、最終接触領域においてタイヤ内面のゴム厚みを補填しうるものではないため、上述した不具合は解消されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−279974号公報
【特許文献2】特開2000−142022号公報
【特許文献3】特開平11−189017号公報
【特許文献4】特開平7−186609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、所定領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化を抑えて内面不良の低減と操縦安定性の確保を達成し、それでいて重量増による転がり抵抗の悪化を抑制できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部の間に設けられたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層の外周側に積層された複数のベルトプライからなるベルト層と、前記カーカス層の内周側に設けられてタイヤ内面を構成するインナーライナー層とを備える空気入りタイヤにおいて、複数の前記ベルトプライのうち最も幅広のベルトプライにおけるベルト端位置の近傍に配された外端から、タイヤ最大幅位置の近傍に配された内端まで連続して延び、前記カーカス層と前記インナーライナー層との間に介在する増厚ゴム層を備え、前記増厚ゴム層の最大厚み位置が、前記増厚ゴム層の外端よりもタイヤ径方向内側で且つ前記増厚ゴム層のペリフェリ中央よりもタイヤ径方向外側にあり、外端と内端における前記増厚ゴム層の厚みが、それぞれ前記最大厚み位置における前記増厚ゴム層の厚みよりも小さいものである。
【0010】
この空気入りタイヤでは、上記の如き増厚ゴム層を設けていることにより、最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みが増加し、該ゴム厚みの不均一化を抑えて、内面不良の低減と操縦安定性の確保を達成できる。しかも、増厚ゴム層の外端、内端及び最大厚み位置を所定の箇所に設定したことで、必要な部位だけに増厚ゴム層を配置しつつ、ゴム厚みを重点的に増加して、重量増による転がり抵抗の悪化を極力抑えることができる。
【0011】
本発明では、前記増厚ゴム層のペリフェリ長がタイヤ断面高さの0.3〜0.5倍であるものが好ましい。この比率が0.3倍以上であることにより、増厚ゴム層のペリフェリ長を適度に確保し、タイヤ内面のゴム厚みの不均一化を良好に抑えることができる。それでいて、この比率が0.5倍以下であることにより、増厚ゴム層のペリフェリ長が過大になることを防ぎ、転がり抵抗の悪化をより適切に抑制できる。
【0012】
本発明では、前記増厚ゴム層の外端が、複数の前記ベルトプライのうち二番目に幅広のベルトプライにおけるベルト端位置からタイヤ幅方向内側へ該ベルトプライの幅の10%となる位置かそれよりもタイヤ幅方向外側に配置されている。これにより必要な部位だけに増厚ゴム層を精度良く配置して、最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化を抑えつつ、重量増を適切に抑制できる。
【0013】
本発明では、前記増厚ゴム層の内端とタイヤ最大幅位置とのタイヤ径方向距離が、タイヤ断面高さの0.2倍以内である。これにより必要な部位だけに増厚ゴム層を精度良く配置して、最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化を抑えつつ、重量増を適切に抑制できる。
【0014】
本発明では、4.0〜10.0MPaの100%引張モジュラスを有する高モジュラスゴムが、前記増厚ゴム層の最大厚み位置に少なくとも部分的に配されているものが好ましい。これにより、最終接触領域において、より詳しくは増厚ゴム層の最大厚み位置において、加硫成形時におけるタイヤ内面のゴムの伸びを小さくし、該タイヤ内面でのゴム厚みの不均一化を良好に抑制できる。100%引張モジュラスは、JISK6251:2004に準拠して25℃で測定される。
【0015】
本発明では、前記増厚ゴム層が、ペリフェリ長が相対的に大きい長ゴム層と、ペリフェリ長が相対的に小さく且つ前記最大厚み位置に配された短ゴム層とを重ねて構成され、前記短ゴム層が前記長ゴム層よりも100%引張モジュラスの高いゴムで形成されているものが好ましい。これにより、増厚ゴム層の最大厚み位置においてモジュラスが高められ、加硫成形時におけるタイヤ内面のゴムの伸びを小さくし、該タイヤ内面でのゴム厚みの不均一化を簡便に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示すタイヤ子午線断面図
図2】増厚ゴム層の形成に用いられるゴムシートの断面図
図3】増厚ゴム層の形成に用いられるゴムシートの他の例を示す断面図
図4】増厚ゴム層の形成に用いられるゴムシートの他の例を示す断面図
図5】比較例の増厚ゴム層の形成に用いたゴムシートの断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1に示した空気入りタイヤは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aが埋設され、硬質ゴムからなるビードフィラー1bがビードコア1aのタイヤ径方向外側に配されている。
【0018】
また、この空気入りタイヤは、一対のビード部1の間に設けられたカーカス層4と、トレッド部3におけるカーカス層4の外周側に積層された複数の(本実施形態では2枚の)ベルトプライ51,52からなるベルト層5と、カーカス層4の内周側に設けられてタイヤ内面を構成するインナーライナー層6と、カーカス層4とインナーライナー層6との間に介在する増厚ゴム層7とを備える。
【0019】
カーカス層4は、全体としてトロイド状をなしつつ、ビードコア1aとビードフィラー1bを挟み込むようにして端部が巻き上げられている。カーカス層4は少なくとも1枚のカーカスプライで構成され、該カーカスプライは、タイヤ周方向に対して略直交する方向に引き揃えたプライコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。プライコードには、有機繊維コード又はスチールコードが好適に使用される。
【0020】
ベルト層5を構成する複数のベルトプライ51,52のうち、内周側に配されたベルトプライ51はベルトプライ52よりも幅広に形成されている。各ベルトプライ51,52は、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に引き揃えたベルトコードをトッピングゴムで被覆して形成され、該ベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0021】
インナーライナー層6は、空気圧を保持するために設けられ、気体の透過を阻止する機能に優れたゴムで形成されている。増厚ゴム層7が配されている部位を除いて、インナーライナー層6の外周側にはカーカス層4が接している。
【0022】
増厚ゴム層7は、複数のベルトプライ51,52のうち最も幅広のベルトプライ51におけるベルト端位置51Eの近傍に配された外端7Eoから、タイヤ最大幅位置BPの近傍に配された内端7Eiまで連続して延びており、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。本実施形態の増厚ゴム層7は、図2に示した断面三角形状のゴムシート70で形成され、これがタイヤ成形時の変形に伴って湾曲したものである。
【0023】
増厚ゴム層7の最大厚み位置7Pは、外端7Eoよりもタイヤ径方向内側で且つ増厚ゴム層7のペリフェリ中央7Cよりもタイヤ径方向外側にある。また、外端7Eoと内端7Eiにおける増厚ゴム層7の厚みは、それぞれ最大厚み位置7Pにおける増厚ゴム層7の厚みよりも小さい。このように、タイヤ子午線断面に現れる増厚ゴム層7は、ペリフェリ長PLに沿って厚みが不均一であるとともに、ペリフェリ中央7Cに関して断面形状が非対称である。
【0024】
ここで、ペリフェリ長PLは、タイヤ子午線断面に現れる増厚ゴム層7の内周面に沿って測定される曲線の長さであり、タイヤ成形により伸張する前のゴムシート70の長さ70Lに対応した長さである。ペリフェリ中央7Cは、ペリフェリ長PLの中央位置である。増厚ゴム層7の厚みは、タイヤ子午線断面において測定されるものとする。
【0025】
このような増厚ゴム層7を設けることにより、ベルト端位置51Eからタイヤ最大幅位置BPに至る最終接触領域においてタイヤ内面のゴム厚みが増加する。最終接触領域はブラダーが膨張過程の終盤で接触する領域であり、それ故にタイヤ内面のゴムが伸ばされやすいものの、増厚ゴム層7によってゴム厚みを増していることで、該ゴム厚みの不均一化を抑えられる。つまり、ブラダーの不均一な接触に対して、タイヤ内面のゴム厚みが局所的に肉薄になることを防ぐことができる。
【0026】
また、増厚ゴム層7の最大厚み位置7Pを外端7Eoとペリフェリ中央7Cとの間に配置しつつ、外端7Eoや内端7Eiでは最大厚み位置7Pよりも厚みを小さくしているため、必要な部位だけに増厚ゴム層7が配されるとともに、最も伸ばされやすい箇所で重点的にゴム厚みが増す。その結果、最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みの不均一化を抑えて内面不良の低減と操縦安定性の確保を達成し、重量増による転がり抵抗の悪化を抑制することができる。
【0027】
増厚ゴム層7のペリフェリ長PLは、タイヤ断面高さHの0.3〜0.5倍であることが好ましい。最大厚み位置7Pにおける増厚ゴム層7の厚みは、例えば0.3mm以上であり、生産性の観点から0.5mm以上であることが好ましい。また、最大厚み位置7Pにおける増厚ゴム層7の厚みは2.0mm以下が好ましく、本実施形態のように1枚のゴムシートにより増厚ゴム層7が形成される場合、該厚みは1.0mm以下であることが好ましい。
【0028】
外端7Eoは、複数のベルトプライ51,52のうち二番目に幅広のベルトプライ52におけるベルト端位置52Eからタイヤ幅方向内側へ該ベルトプライ52の幅Wの10%となる位置かそれよりもタイヤ幅方向外側に配置されることが好ましい。これにより増厚ゴム層7を必要な部位だけに配置して、不要な重量増を抑えられる。最終接触領域におけるタイヤ内面のゴム厚みを的確に増加するうえで、外端7Eoは、ベルトプライ51のベルト端位置51Eかそれよりもタイヤ幅方向内側に配置されていることが好ましい。
【0029】
増厚ゴム層7の内端7Eiとタイヤ最大幅位置BPとのタイヤ径方向距離Gは、タイヤ断面高さHの0.2倍以内であることが好ましい。内端7Eiがタイヤ最大幅位置BPよりもタイヤ径方向内側で距離Gが0.2Hを超えると、最終接触領域から大きく離れた部位に増厚ゴム層7が配され、不要な重量増を生じる。また、内端7Eiがタイヤ最大幅位置BPよりもタイヤ径方向外側で距離Gが0.2Hを超えると、最終接触領域においてタイヤ内面のゴム厚みの増分が少なくなり、改善効果が小さくなる傾向にある。
【0030】
最大厚み位置7Pから外端7Eoまでのペリフェリ長PLに沿った長さL1は、好ましくはペリフェリ長PLの40±5%、より好ましくはペリフェリ長PLの40±3%である。これにより、最終接触領域のタイヤ内面で最も伸ばされやすい箇所に最大厚み位置7Pを設定し、内面不良の低減と操縦安定性の確保をより良好に達成できる。本実施形態では、最大厚み位置7Pから外端7Eoと内端7Eiに向かって、増厚ゴム層7の厚みが徐々に小さくなっている。
【0031】
最終接触領域においてタイヤ内面のゴムの伸びを小さくし、該タイヤ内面でのゴム厚みの不均一化を抑制するうえで、4.0〜10.0MPaの100%引張モジュラスを有する高モジュラスゴムが、増厚ゴム層7の最大厚み位置7Pに少なくとも部分的に配されていることが好ましい。増厚ゴム層7の全体を高モジュラスゴムで形成することも可能であるが、最大厚み位置7Pの周辺を高モジュラスとし、残りを低モジュラスとすることで、乗心地性を有効に確保できる。
【0032】
増厚ゴム層は、図3,4に例示したゴムシート71,72を用いて形成することも可能である。図3のゴムシート71は断面台形状をなしており、図4のゴムシート72は二層で構成されている。どちらのゴムシートにおいても、最大厚みを有する部分がペリフェリ長に沿った幅を有することになるが、その部分の幅中央位置が最大厚み位置7Pとして定められる。
【0033】
図4のゴムシート72により形成される増厚ゴム層は、ペリフェリ長が相対的に大きい長ゴム層72aと、ペリフェリ長が相対的に小さく且つ最大厚み位置に配された短ゴム層72bとを重ねて構成される。短ゴム層72bを長ゴム層72aよりも100%引張モジュラスの高いゴムで形成すれば、最大厚み位置のモジュラスを高めて、タイヤ内面でのゴム厚みの不均一化を簡便に抑制できる。これらのうち少なくとも短ゴム層72bは、上述した高モジュラスゴムで形成することが好ましい。
【0034】
本発明の空気入りタイヤは、上記の如き増厚ゴム層を設けること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。
【0035】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0037】
(1)加硫故障(内面不良)
加硫後のタイヤの断面を調査し、最も幅広のベルトプライにおけるベルト端位置からタイヤ最大幅位置の間で、カーカス層の内周側におけるタイヤ内面のゴム厚みが0.4mm以下(小数点第二位は四捨五入)となる場合を内面不良と判定した。内面不良と判定されたものは×で示し、そうでないものは○で示した。
【0038】
(2)操縦安定性
2000ccの国産車にタイヤを装着して車両指定の空気圧とし、直進走行やコーナリング走行を実施して、ドライバーの官能試験により10点満点で評価した。数値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。
【0039】
(3)転がり抵抗
転がり抵抗試験機を用いたドラム走行試験によって、タイヤの転がり抵抗を測定した。比較例1の結果を100として指数で評価し、数値が小さいほど転がり抵抗に優れていることを示す。
【0040】
評価に供したタイヤのサイズは195/65R15であり、増厚ゴム層の断面形状やモジュラスを除いて、各例におけるタイヤ構造やゴム配合は共通している。比較例1では、図5(a)の厚みが均一な1枚のゴムシート73で増厚ゴム層を形成し、比較例2では、図5(b)の厚みが均一な2枚のゴムシート74で増厚ゴム層を形成した。比較例3では、図5(c)の三日月形状のゴムシート75で増厚ゴム層を形成した。ゴムシート75は中央で最も厚いため、その増厚ゴム層の最大厚み位置はペリフェリ中央に位置する。
【0041】
実施例1,2では、図2のゴムシート70で増厚ゴム層を形成した。実施例3では、図3のゴムシート71で増厚ゴム層を形成した。実施例4,5では、図4のゴムシート72で増厚ゴム層を形成した。このうち実施例2〜5は、増厚ゴム層の全体を上述した高モジュラスゴムで形成した。更に、実施例5では、短ゴム層を長ゴム層よりも100%引張モジュラスの高いゴムで形成した。表1におけるモジュラスの値は、比較例1を100としたときの指数で表示している。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、各実施例では、内面不良の発生を低減しながら操縦安定性を確保し、それでいて転がり抵抗の悪化を抑制できており、比較例1〜3よりも結果が良好である。特に、増厚ゴム層を高モジュラスで形成した実施例2〜5では、その改善効果が良好に高められている。
【符号の説明】
【0044】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス層
5 ベルト層
6 インナーライナー層
7 増厚ゴム層
7C ペリフェリ中央
7Ei 内端
7Eo 外端
7P 最大厚み位置
51 ベルトプライ
51E ベルト端位置
52 ベルトプライ
72a 長ゴム層
72b 短ゴム層
PL ペリフェリ長
図1
図2
図3
図4
図5