特許第6082242号(P6082242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6082242-水温センサのバックアップシステム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082242
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】水温センサのバックアップシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20170206BHJP
   F01P 11/16 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   F02D45/00 360B
   F02D45/00 370F
   F01P11/16 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-272190(P2012-272190)
(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公開番号】特開2014-118828(P2014-118828A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 貴之
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−102687(JP,A)
【文献】 特開2007−162775(JP,A)
【文献】 特表2004−523735(JP,A)
【文献】 特開平02−025605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 45/00
F01P 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを経た冷却水の温度を検出する水温センサを二基に増設すると共に、該各水温センサの検出値の夫々が正常範囲内にあることを確認してから何れか一方の検出値を冷却水の温度として採用する制御装置を備え、前記各水温センサの何れか一方の検出値が正常範囲を外れても残りの正常範囲内にある検出値を冷却水の温度として採用するようにした水温センサのバックアップシステムであって、各水温センサの検出値が両方とも正常範囲を外れている場合に固定の代用値を冷却水の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止し、各水温センサの検出値が正常範囲にあっても該各水温センサの検出値の偏差が所定の許容値を超えている場合には固定の代用値を冷却水の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止するように前記制御装置を構成したことを特徴とする水温センサのバックアップシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水温センサのバックアップシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車における各種の排気ガス対策のデバイスは、エンジンが十分に暖機した状態で正常に働くようになっているものが多く、例えば、排気側から排気ガスの一部を抜き出してEGRクーラで冷却してから吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOxの発生を低減するようにした、いわゆるEGR装置についても、冷間始動時におけるエンジンが冷えた状態(冷機状態)では、排気ガスの再循環を停止してエンジンの暖機を優先するように制御されており、エンジンが十分に暖機しているか否かについては、エンジンを経た冷却水の温度を水温センサにより計測して判断するようにしている。
【0003】
更に、水温センサの検出値が正常範囲内にあるか否かを監視し、その検出値が正常範囲を外れて通常の使用で有り得ないような値となった時に水温センサの異常を判定し、該水温センサの検出値を不採用として固定の代用値を仮に採用する一方、冷却水の温度に依存して作動するデバイス、例えば、排気ガスの再循環を行うEGR装置等を停止するようにしている。
【0004】
例えば、EGR装置を例に説明すると、未だ暖機していない冷機状態のエンジンに対し排気ガスの再循環を開始してしまうと、冷えたエンジン内にEGRクーラを経た低温の排気ガスが導入されることで白煙が発生してしまうため、水温センサが異常を示している限りEGR装置を停止する措置が採られる。
【0005】
また、EGR装置以外のデバイスであっても、冷却水の温度に依存して作動するデバイスは正常に働かせることができないため、同様に停止の措置が採られることになるが、特に支障のない制御に関しては、固定の代用値を冷却水の温度として仮に適用して制御を継続させるようにしている。
【0006】
尚、この種の水温センサの異常判定に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−102687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来においては、水温センサの異常が判定されてしまうと、該水温センサの異常を交換・修理等により解消しない限りEGR装置等のデバイスを停止せざるを得なくなり、該デバイスを正常に働かせることができなくなるという問題があった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、水温センサに異常が生じても冷却水の温度を継続して把握し得る水温センサのバックアップシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンを経た冷却水の温度を検出する水温センサを二基に増設すると共に、該各水温センサの検出値の夫々が正常範囲内にあることを確認してから何れか一方の検出値を冷却水の温度として採用する制御装置を備え、前記各水温センサの何れか一方の検出値が正常範囲を外れても残りの正常範囲内にある検出値を冷却水の温度として採用するようにした水温センサのバックアップシステムであって、各水温センサの検出値が両方とも正常範囲を外れている場合に固定の代用値を冷却水の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止し、各水温センサの検出値が正常範囲にあっても該各水温センサの検出値の偏差が所定の許容値を超えている場合には固定の代用値を冷却水の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止するように前記制御装置を構成したことを特徴とするものである。
【0011】
而して、このようにした場合、各水温センサの検出値の夫々が正常範囲内にあれば、各水温センサが両方とも正常であると看做せるので、何れか一方の検出値を冷却水の温度として支障なく採用して制御を継続することが可能となり、また、何れか一方の検出値が正常範囲を外れて通常の使用で有り得ないような値となっていたならば、該検出値を出力している水温センサに異常が生じているものと看做せるので、残りの正常範囲内にある検出値を冷却水の温度として制御に採用して該制御を支障なく継続することが可能となる。
【0013】
しかも、各水温センサの検出値が両方とも正常範囲を外れていれば、両方の水温センサに異常が生じているものと看做せるので、何れの検出値も採用せずに固定の代用値が冷却水の温度として採用される一方、該代用値の採用で支障のあるデバイスが選択的に停止されることになる。
【0015】
更に、各水温センサの検出値が正常範囲にあっても該各水温センサの検出値の偏差が所定の許容値を超えていれば、各水温センサの何れかの特性に異常が生じているものと看做せるので、何れの検出値も採用せずに固定の代用値が冷却水の温度として採用される一方、該代用値の採用で支障のあるデバイスが選択的に停止されることになる。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明の水温センサのバックアップシステムによれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0017】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、一方の水温センサに異常が生じても他方の水温センサでバックアップすることで冷却水の温度を継続して把握することができるので、冷却水の温度に基づく制御を支障なく継続することができ、両方の水温センサに異常が生じるまで長期間に亘りEGR装置等のデバイスを正常に働かせることができる。
【0018】
(II)本発明の請求項に記載の発明によれば、両方の水温センサに異常が生じている場合に、固定の代用値を冷却水の温度として採用して特に支障のない制御を継続させることができると共に、冷却水の温度に依存して作動するデバイスの誤作動による不具合を未然に回避することができる。
【0019】
(III)本発明の請求項に記載の発明によれば、各水温センサの検出値が正常範囲にあっても該各水温センサの何れかの特性に異常が生じていることを検知できるので、そのような特性の異常が検知された場合に、固定の代用値を冷却水の温度として採用して特に支障のない制御を継続させることができると共に、冷却水の温度に依存して作動するデバイスの誤作動による不具合を未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
図2図1の制御装置における5つの判定のステップを示すブロック図である。
図3】水温センサの信号電圧と水温との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1中における符号の1はディーゼル機関であるエンジンを示し、該エンジン1は、ターボチャージャ2を備えたものとなっており、エアクリーナ3から導入した吸気4を吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送り、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4をインタークーラ6へ送って冷却し、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へ吸気4を導いてエンジン1の各気筒に分配するようにしてあり、また、このエンジン1の各気筒から排出された排気ガス8を排気マニホールド9を介し前記ターボチャージャ2のタービン2bへ送り、該タービン2bを駆動した排気ガス8を排気管10を介し車外へ排出するようにしてある。
【0023】
また、エンジン1とラジエータ11との間には、両者間で冷却水12を循環し得るよう循環経路13が設けられており、該循環経路13では、エンジン1を水冷して昇温した冷却水12を出口部14に抜き出し、該出口部14からラジエータ11を経由して入口部15に戻すようになっている。
【0024】
前記循環経路13におけるエンジン1への入口部15には、該入口部15にラジエータ11から戻される冷却水12の水路を閉じるサーモスタット16が設けられており、冷却水12の温度が低い時には、サーモスタット16の作動によりラジエータ11からの冷却水12をエンジン1に戻す水路が閉じ且つ入口部15と出口部14とを連通するバイパス口17が開くことにより、冷却水12をラジエータ11を経由させずに循環させてエンジン1の暖機を優先するようになっている。
【0025】
更に、前記入口部15には、エンジン1を経た冷却水12の温度を検出する既設の水温センサ18に加えて別の水温センサ19が増設されており、これら各水温センサ18,19の検出信号18a,19aが制御装置20に入力されるようになっており、該制御装置20においては、各水温センサ18,19の検出値の夫々が正常範囲内にあるか否かが確認されて図2のCase1〜Case4の4つの判定が行われると共に、各水温センサ18,19の検出値の夫々が正常範囲内にある場合でも、図2のCase5の判定が行われるようになっている。
【0026】
即ち、各水温センサ18,19は、金属酸化物や半導体等の電気抵抗が温度で変化することを利用して温度を検出できるようになっており、図3にグラフで示す如く、正常な水温センサ18,19における信号電圧は、曲線αで示すように水温に応じて変化するようになっているが、下限値A1と上限値A2との間の正常範囲Nに収まるようになっており、下限値A1を下まわる領域での信号電圧の検出は、ハーネスのグランドショートによる異常と考えられ、上限値A2を上まわる領域での信号電圧の検出は、ハーネスの断線かバッテリショートによる異常と考えられる。
【0027】
また、制御装置20のCase1〜Case5における判定について詳述すると、Case1は、各水温センサ18,19の検出値の夫々が正常範囲N内にあり且つ後述のCase5の条件(各水温センサ18,19の検出値の偏差が所定の許容値を超えている)に該当しない場合に一方の水温センサ18の検出値を冷却水12の温度として採用するもので、Case2は、一方の水温センサ18の検出値が正常範囲Nを外れて他方の水温センサ19の検出値が正常範囲N内にある場合に他方の水温センサ19の検出値を冷却水12の温度として採用するものであり、Case3は、一方の水温センサ18の検出値が正常範囲N内にあって他方の水温センサ19の検出値が正常範囲Nから外れている場合に一方の水温センサ18の検出値を冷却水12の温度として採用するものである。
【0028】
更に、Case4は、各水温センサ18,19の検出値が両方とも正常範囲Nを外れている場合に固定の代用値を冷却水12の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止するものであり、本形態例においては、排気マニホールド9から抜き出した排気ガス8(EGRガス)を吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5に再循環するEGR装置21を停止するようにしている。
【0029】
即ち、図1に示している例では、排気マニホールド9と吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5との間を接続するEGRパイプ22と、排気ガス8の再循環量を適宜に調節する開度調整可能なEGRバルブ23と、再循環される排気ガス8を冷却する水冷式のEGRクーラ24とによりEGR装置21が構成されているので、各水温センサ18,19の検出値が両方とも正常範囲Nを外れている場合には、制御装置20からの制御信号23aにより前記EGRバルブ23が閉状態に維持されて排気ガス8の再循環が停止されるようになっている。
【0030】
また、Case5は、各水温センサ18,19の検出値が正常範囲N内であっても該各水温センサ18,19の検出値の偏差が所定の許容値を超えている場合(下記の式1を参照)には固定の代用値を冷却水12の温度として採用し且つ該代用値の採用で支障のあるデバイスを選択的に停止するものであり、先のCase4の場合と同様に、排気マニホールド9から抜き出した排気ガス8(EGRガス)を吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5に再循環するEGR装置21を停止するようにしている。
[数1]
|水温センサ18の検出値−水温センサ19の検出値|≧許容値…(1)
【0031】
而して、このようにした場合、各水温センサ18,19の検出値の夫々が正常範囲N内にあり且つ各水温センサ18,19の検出値の偏差が所定の許容値を超えていなければ、各水温センサ18,19が両方とも正常であると看做せるので、制御装置20におけるCase1の判定により、一方の水温センサ18の検出値を冷却水12の温度として支障なく採用して制御を継続することが可能となり、また、何れか一方の検出値が正常範囲Nを外れて通常の使用で有り得ないような値となっていたならば、該検出値を出力している水温センサ18又は水温センサ19に異常が生じているものと看做せるので、制御装置20におけるCase2又はCase3の判定により、残りの正常範囲N内にある水温センサ18又は水温センサ19の検出値を冷却水12の温度として制御に採用して該制御を支障なく継続することが可能となる。
【0032】
例えば、冷間始動時におけるエンジン1が冷えた状態(冷機状態)でのEGR装置21の作動を停止してエンジン1の暖機を優先するようにした制御の場合、エンジン1を経た冷却水12の温度が所定値まで上昇したことを確認してエンジン1の暖機完了を判定し、EGR装置21の作動を許可してEGRバルブ23の開操作を行うことが可能となる。
【0033】
また、各水温センサ18,19の検出値が両方とも正常範囲Nを外れていれば、両方の水温センサ18,19に異常が生じているものと看做せるので、制御装置20におけるCase4の判定により、何れの検出値も採用せずに固定の代用値が冷却水12の温度として採用される一方、前記代用値の採用で支障のあるデバイスが選択的に停止される、例えば、EGRバルブ23が閉状態に維持されてEGR装置21の作動が停止されることになる。
【0034】
このCase4の判定における処理は、従来における一基の水温センサが異常を起こした場合の処理と同様であり、特に支障のない制御に関しては、固定の代用値を冷却水12の温度として仮に適用して制御を継続させるようにして良い。
【0035】
更に、各水温センサ18,19の検出値が正常範囲Nにあっても該各水温センサ18,19の検出値の偏差が所定の許容値を超えていれば、各水温センサ18,19の何れかの特性に異常が生じているものと看做せるので、制御装置20におけるCase5の判定により、何れの検出値も採用せずに固定の代用値が冷却水12の温度として採用される一方、前記代用値の採用で支障のあるデバイスが選択的に停止される、例えば、EGRバルブ23が閉状態に維持されてEGR装置21の作動が停止されることになる。このCase5の判定における処理は、先のCase4の判定における処理と同様である。
【0036】
従って、上記形態例によれば、各水温センサ18,19の何れか一方に異常が生じても各水温センサ18,19の他方でバックアップすることで冷却水12の温度を継続して把握することができるので、冷却水12の温度に基づく制御を支障なく継続することができ、両方の水温センサ18,19に異常が生じるまで長期間に亘りEGR装置21等のデバイスを正常に働かせることができ、また、両方の水温センサ18,19に異常が生じている場合に、固定の代用値を冷却水12の温度として採用して特に支障のない制御を継続させることができると共に、冷却水12の温度に依存して作動するデバイスの誤作動による不具合、例えば、未だ暖機していない冷機状態のエンジン1に対し排気ガス8の再循環を開始してしまうことで白煙が発生してしまうといった不具合を未然に回避することができる。
【0037】
更に、各水温センサ18,19の検出値が正常範囲Nにあっても該各水温センサ18,19の何れかの特性に異常が生じていることを検知できるので、そのような特性の異常が検知された場合にも、固定の代用値を冷却水12の温度として採用して特に支障のない制御を継続させることができると共に、冷却水12の温度に依存して作動するデバイスの誤作動による不具合(前述と同様の未だ暖機していない冷機状態のエンジン1に対し排気ガス8の再循環を開始してしまうことで白煙が発生してしまうといった不具合等)を未然に回避することができる。
【0038】
尚、本発明の水温センサのバックアップシステムは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、図示例においては、冷却水の温度に依存して作動するデバイスとしてEGR装置を例示しているが、EGR装置以外のデバイスにも同様に適用して良いこと、その他冷却水の温度に依存して作動するデバイス本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
12 冷却水
18 水温センサ
18a 検出信号
19 水温センサ
19a 検出信号
20 制御装置
21 EGR装置(デバイス)
図1
図2
図3