(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原水タンクと純水タンク又はユースポイントとを結ぶ処理ラインに沿って、ポンプ、熱交換器、逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を順に備え、前記逆浸透膜装置の濃縮水配管、前記電気脱イオン装置の濃縮水並びに電極水配管及び前記電気脱イオン装置の処理水配管を前記原水タンクと開閉バルブを介してそれぞれ接続する循環ラインを備えた純水製造装置の殺菌方法であって、
前記処理ラインの前記逆浸透膜装置の透過水配管内に圧力センサーを配置するとともに前記ポンプを回転数可変ポンプとして、熱水を前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させつつ、前記圧力センサーの出力が一定となるよう前記回転数可変ポンプの回転数を制御し、
前記電気脱イオン装置を、前記循環ラインにおける循環水温が40℃以下では電圧を印加され、前記循環水温が40℃を超えたときには電圧を印加されないように制御することを特徴とする純水製造装置の殺菌方法。
前記原水タンクへの原水の供給を停止して、前記原水タンクに貯留されている原水を前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させつつ、前記原水の少なくとも一部を系外に排出して前記原水を前記熱交換機で加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の純水製造装置の殺菌方法。
非加熱の原水を前記原水タンクに供給しつつ前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させ、前記逆浸透膜装置の濃縮水の少なくとも一部を系外に排出することで前記純水製造装置の系内を冷却することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の純水製造装置の殺菌方法。
原水タンクと純水タンク又はユースポイントとを結ぶ処理ラインに沿って、回転数可変ポンプ、逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を順に備え、前記逆浸透膜装置の濃縮水配管、前記電気脱イオン装置の濃縮水配管並びに電極水配管及び前記電気脱イオン装置の処理水配管を前記原水タンクと開閉バルブを介してそれぞれ接続する循環ラインを備えた純水製造装置であって、
前記処理ラインの前記逆浸透膜装置の透過水配管内に設置された圧力センサーと、
前記圧力センサーの出力により前記回転数可変ポンプの回転数を制御し、前記循環ラインにおける循環水温が40℃以下で、前記電気脱イオン装置に電圧が印加され、前記循環水温が40℃を超えたときには前記電気脱イオン装置に電圧が印加されないように制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする純水製造装置。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品用の純水製造装置として、原水を貯留する原水タンクと純水タンク又はユースポイントとの間の処理ラインに、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置とを順に配置した純水製造装置が知られている。医薬品用の純水は、このような純水製造装置により、市水等の原水からイオン成分、微粒子、有機物等が除去されて製造されている。
【0003】
この純水製造装置を用いて医薬品用の純水を製造する場合には、医薬品用という性質上、定期的に系内の生菌を低減させる殺菌処理を行うことが日本薬局方によって要求されている。
【0004】
この系内の殺菌の処理は、例えば65℃以上の熱水を原水タンクから逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を含む処理ラインに所定の時間通水させることにより行われる。十分な殺菌処理を行うために、殺菌処理は所定の時間以上、系内の熱水の温度が上記したような温度以上で安定に維持されるよう精密に管理することが望まれる。
【0005】
また、殺菌処理の際には、電気脱イオン装置への高温での圧力によるダメージを避けるため、熱水は、通常運転時より低い圧力で通水することが望まれる。しかし、逆浸透膜装置の通水圧を低くした場合には逆浸透膜装置の透過水の水質が悪化して、電気脱イオン装置の通水基準に達しない水質の水が電気脱イオン装置に供給されるおそれがある。
【0006】
このため、あらかじめ、逆浸透膜装置を含む処理ラインの、電気脱イオン装置の直前までを熱水で殺菌処理しておき、次に、熱水殺菌の済んだ逆浸透膜装置によって常温で処理された高い水質の水を熱交換器で加熱し電気脱イオン装置に通水して殺菌する方法がとられている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、別の方法として、純水製造装置で処理された軟水を貯留するサブタンクを配置し、原水タンクをサブタンク内の軟水で置換するように循環系を構成した純水製造装置を用いる方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
この方法によれば、殺菌処理の際に、純水製造装置で処理された軟水を加熱して循環させるため、通常運転時より低い圧力でも逆浸透膜装置の透過水をそのまま電気脱イオン装置に供給して殺菌処理を行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置をそれぞれ殺菌処理する方法では、殺菌処理に時間がかかるという問題や、加熱のための蒸気を大量に使用するため、殺菌処理のランニングコストが高くなってしまうという問題がある。
【0011】
一方、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を一括で通水して殺菌する方法では、例えば電気脱イオン装置へのダメージを防ぐように逆浸透膜装置への供給水圧を調節しつつ行うため、殺菌処理効率が低下するという問題がある。さらに、殺菌用の軟水を製造したり貯留したりする装置が必要であるので、生菌増殖の起こりやすい滞留部が多くなり、殺菌処理に時間がかかるという問題もある。
【0012】
また、熱水通水後の系内の冷却に際しても、軟水を循環させて冷却する方法や、自然放冷する方法等が提案されている。しかしながら、前者の方法では滞留部を多くするという問題があり、後者の方法では冷却時間が長くなるという問題や、電気脱イオン装置の電圧を停止する時間が長くなって電気脱イオン装置への硬度蓄積量が多くなる等の問題があった。
【0013】
また、熱水殺菌では、熱水温度が高いほど殺菌時間は短くてよいが、一方で高温であるほど純水製造装置を構成する部材がダメージを受けやすいという問題があり、熱水殺菌時間を短縮して熱水殺菌による各部材へのダメージを抑制し、かつ、熱水殺菌後の系内の生菌数を十分に低減することで、長期間安定して純水を製造できるようにすることも望まれている。
【0014】
本発明は上記した問題を解消するためになされたものであり、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を、原水を用いて一括して熱水殺菌処理することができるとともに、電気脱イオン装置への影響を極力抑え、純水製造装置の寿命を延長することのできる医薬品用の純水製造装置の殺菌方法及び医薬品用の純水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
熱水殺菌処理時には、熱水を循環させるだけでなく循環水の温度を変化(昇温、降温)させるため、純水製造装置内で様々な現象が起こり得る。例えば、温度上昇により水の粘度が低下することで逆浸透膜装置の透過水圧が上昇するだけでなく、熱水殺菌処理時に熱水を通水すると、純水製造装置を構成する各部材が膨張するなど局所的な変形が生じることも考えられる。そして、この水の粘度の低下や部材の変形により循環水の流量が当初設定した設定値から変動する可能性もある。この循環水の流量の変動は、昇温速度や降温速度の変動につながり、十分な殺菌処理の妨げになったり、各装置を劣化させる原因となったりするおそれもある。
【0016】
医薬品用の純水製造装置において水質の悪化や各装置の劣化が生じた場合には、純水製造装置の運転を停止し、構成部材の交換等を行う必要がある。そして、純水製造時においても、定期的に装置の点検や水質検査を行い、水処理装置のメンテナンスを行うことが必要である。
このような保守点検管理の頻度を削減して長期間安定して純水を製造できるよう、熱水殺菌処理時には次の2点、第1に系内が十分に殺菌されること、第2に、各装置の劣化を極力抑制すること、が重要である。
【0017】
ちなみに、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を直結した状態で、処理水水質が低下するまで長時間熱水通水を行ったときの電気脱イオン装置のイオン交換膜には、劣化による不可逆的な変形が発見されている。
【0018】
そこで、本発明者らは逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を原水を用いて一括通水して熱水殺菌処理し、長期間安定して純水を製造する方法を得るべく研究を重ね、純水製造装置の種々の劣化原因について、その起こり得る頻度や純水製造に与える影響の重要度など、特に日常的な点検の必要な事項について調査を行ったところ、次のようであることが分かった。
【0019】
すなわち、医薬品用の純水製造装置の劣化の原因としては、
1.逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を構成する部材の部分的な変形、変性
2.電気脱イオン装置の破損
3.熱水殺菌時の熱水の温度や循環量の不足
があり、1〜3の順に発生頻度が高いことが分かった。
【0020】
本発明者らは、1.浸透膜装置及び電気脱イオン装置を構成する部材の部分的な変形、変性及び2.電気脱イオン装置の破損、を防止することで、純水製造装置を長寿命化し、より安定に純水を製造することができる可能性があると考えた。
【0021】
さらに、上記した2点の劣化原因は、主に熱水殺菌中時の熱水の温度変動や各装置への熱水の供給圧力の変化に起因するものである可能性が高いと考え、本発明者らは、逆浸透膜装置の出水側に圧力センサーを配置し、この圧力センサーの検出圧力が所定の値で厳密に一定となるように、逆浸透膜装置の前段のポンプをフィードバック制御してこの透過水を電気脱イオン装置へ供給したところ、熱水通水時の電気脱イオン装置の供給水の温度変化や圧力を安定に維持できることを見出した。
また、上記したように圧力センサーの検出値を一定とすることで、熱水殺菌を繰り返した場合にも、これまで流量が変動しやすく循環水温度の上昇やその温度を維持しにくかった部分での十分な熱水温度や熱水流量の確保を可能とし、その結果保守点検管理の頻度の削減を可能とした。
【0022】
そして、これにより効率よく熱水殺菌を行って、各水処理装置の寿命を延長し、長期間安定した純水の製造を可能とした。
【0023】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、本発明の医薬品用の純水製造装置の殺菌方法は、原水タンクと純水タンク又はユースポイントとを結ぶ処理ラインに沿って、ポンプ、熱交換器、逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を順に備え、前記逆浸透膜装置の濃縮水配管、前記電気脱イオン装置の濃縮水並びに電極水配管及び前記電気脱イオン装置の処理水配管を前記原水タンクと開閉バルブを介してそれぞれ接続する循環ラインを備えた純水製造装置の殺菌方法であって、前記処理ラインの前記逆浸透膜装置の透過水配管内に圧力センサーを配置するとともに前記ポンプを回転数可変ポンプとして、熱水を前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させつつ、前記圧力センサーの出力が一定となるよう前記回転数可変ポンプの回転数を制御
し、前記電気脱イオン装置を、前記循環ラインにおける循環水温が40℃以下では電圧を印加され、前記循環水温が40℃を超えたときには電圧を印加されないように制御することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、熱水による殺菌処理の際に、熱水の温度変化や流量を安定に維持することができ、電気脱イオン装置への負荷を軽減することができる。その結果、純水製造装置の寿命を延長することができる。
【0025】
本発明の殺菌方法は、前記熱水は、前記原水タンクの原水を前記熱交換器で加熱することにより生成することが好ましく、前記圧力センサーの出力は、0.030〜0.30MPaの範囲で一定とされることが好ましい。この場合、循環水の昇温効率を向上させて殺菌処理効率を向上させることができる。また、前記熱水の温度が60℃以上であることが好ましい。この場合、十分な殺菌処理を行うことができる。
【0026】
さらに、前記原水タンクへの原水の供給を停止して、前記原水タンクに貯留されている原水を前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させつつ、前記原水の少なくとも一部を系外に排出して前記原水を前記熱交換機で加熱することが好ましい。このようにして循環水を昇温させることで昇温効率を向上させることができる。
【0027】
また、非加熱の原水を前記原水タンクに供給しつつ前記処理ライン及び前記循環ラインに循環させ、前記逆浸透膜装置の濃縮水の少なくとも一部を系外に排出することで前記純水製造装置の系内を冷却することが好ましい。この場合、系内の冷却のために熱交換器に供給する冷水が不要であり、また冷水を供給するための設備も不要である。そのため、殺菌処理工程管理を容易とし、殺菌処理時間を短縮することができる。
【0028】
本発明の医薬品用の純水製造装
置は、原水タンクと純水タンク又はユースポイントとを結ぶ処理ラインに沿って、回転数可変ポンプ、逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を順に備え、前記逆浸透膜装置の濃縮水配管、前記電気脱イオン装置の濃縮水配管並びに電極水配管及び前記電気脱イオン装置の処理水配管を前記原水タンクと開閉バルブを介してそれぞれ接続する循環ラインを備えた純水製造装置であって、前記処理ラインの前記逆浸透膜装置の透過水配管内に設置された圧力センサーと、前記圧力センサーの出力により前記回転数可変ポンプの回転数を制御
し、前記循環ラインにおける循環水温が40℃以下で、前記電気脱イオン装置に電圧が印加され、前記循環水温が40℃を超えたときには前記電気脱イオン装置に電圧が印加されないように制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
本発明の純水製造装置は、原水を循環させて殺菌処理を行うことができるため、低コストで殺菌処理を行うことができ、滞留部を極力有しない純水装置を構成することができる。
さらに、純水製造装置の系内を定常化して熱水殺菌できるため、純水製造装置の寿命を延長することができる。
【0030】
本発明の純水製造装置は、さらに、前記処理ラインの前記回転数可変ポンプの後段に熱交換器を備えることが好ましい。
この場合、さらに、循環水の昇温時間を短縮し殺菌処理効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の殺菌方法及び純水製造装置によれば、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置を、原水を用いて一括で通水して殺菌処理することができるとともに、純水製造装置の寿命を延長する効率のよい殺菌方法を提供することができる。
また、保守点検管理を簡素化することができる製造装置の殺菌方法及び医薬品用の純水製造装置を提供することができる。
さらに、滞留部を極力有しない純水製造装置を構成することができ、生菌の増殖をより抑制した効率のよい殺菌方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
図1は、本発明の純水製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
純水製造装置1は、原水を受け入れて貯留する原水タンク10、原水タンク10に貯留された原水を処理ライン及び循環ラインに循環させるためのポンプP1、ポンプP1の後段に備えられ、循環水の温度を調節する熱交換器11、熱交換器11で熱交換された循環水を逆浸透膜装置12へ供給するポンプP2、循環水からイオン成分や微粒子、有機物を除去する逆浸透膜装置12、逆浸透膜装置12の透過水中のイオン成分をさらに除去する電気脱イオン装置13を処理ラインであるラインL1に沿って備えている。
【0035】
本実施形態の純水製造装置1は、原水タンク10の直下の処理ラインL1内に温度測定手段16を備えている。
【0036】
純水製造装置1は、原水を原水タンク10に供給するラインL2と、原水タンク10から、図示しない純水タンク又はユースポイントまでの流路を構成するラインL1と、逆浸透膜装置12の濃縮水を排出するラインL3と、電気脱イオン装置13の濃縮水及び電極水を排出するラインL5を備えている。また、ラインL3から分枝されて原水タンク10に接続されたラインL4、ラインL5から分枝されて原水タンク10に接続されたラインL6、ラインL1の電気脱イオン装置13の後段から分岐され原水タンク10に接続されたラインL7をそれぞれ備えている。
純水製造装置1は、このようにラインL1、ラインL4、ラインL6及びラインL7により、原水タンク10を介した循環ラインが構成されている。
【0037】
ラインL1上の純水タンク又はユースポイントの近傍にはバルブV1が介在されている。また、ラインL2〜ラインL7にはバルブV2〜バルブV7が介在されている。
【0038】
そして、ポンプP1,P2は必要に応じて回転数可変のポンプとする。また、各バルブを必要に応じて開度可変バルブとする。例えば、少なくともバルブV4を開度可変バルブとする。
【0039】
また、純水製造装置1の処理ラインの、逆浸透膜装置12の透過水配管内の電気脱イオン装置13の直前に、電気脱イオン装置13に供給される循環水の圧力を測定する圧力センサー14が配置されている。
【0040】
純水製造装置1は、ポンプの回転数やバルブの開度を、原水タンクへの原水の供給流量、逆浸透膜装置12の透過水流量、濃縮水流量などに応じて制御する制御装置15を備えている。また、制御装置15は、あらかじめ設定された昇温速度や降温速度、各工程での熱水温度に応じて、熱交換器に供給する熱媒体流量や原水の供給流量を制御するようになっている。
【0041】
純水製造装置1には、上記した水処理装置以外にも、原水や製造される純水の水質等に応じて従来公知の水処理装置が備えられていてもよい。例えば、より高水質の医薬品用の純水を得るために、逆浸透膜装置12と電気脱イオン装置13の間に、脱気膜装置が備えられていてもよく、電気脱イオン装置13の後段に紫外線酸化装置が備えられていてもよい。
【0042】
純水製造装置1による純水製造時には、バルブV1〜V3及びバルブV5が開放され、バルブV4,V6,V7は閉じられている。原水がラインL2から原水タンク10に供給され、原水タンク10からポンプP1を介して処理ラインL1に送り出される。原水は、熱交換機11を経てポンプP1,P2により加圧されて逆浸透膜装置12、電気脱イオン装置13で不純物が除去されて純水タンク又はユースポイントへ供給される。
【0043】
本実施形態の純水製造装置1では、純水を製造する前に、実施形態の殺菌方法により殺菌処理する。殺菌処理を行い、純水製造装置1が純水の製造に適した温度に冷却されてから、原水タンクに原水を導入する水張り工程を行い、純水を製造する通常運転を行う。
次に、本実施形態の殺菌方法について説明する。
【0044】
[水抜き工程]
本実施形態では、殺菌処理の初期に、原水タンク10に貯水されていた原水の少なくとも一部を系外に排出する水抜き工程を行う。
【0045】
水抜き工程では、原水タンク10に原水が貯留された状態で原水の供給を停止し、この原水をポンプP1で熱交換器11に供給し、熱交換器11により温度測定手段16による測定温度が38〜40℃程度となるまで加熱する。加熱された原水をポンプP2により所定の圧力で逆浸透膜装置12に供給し、逆浸透膜装置12の透過水を続いて電気脱イオン装置13に供給し、電気脱イオン装置13の処理水を原水タンク10に循環させる。
【0046】
このとき、バルブV1,V2,V6を閉鎖し、バルブV3〜V5,V7を開放して、原水タンク10の貯水量が通常運転時の20〜30%程度となるように逆浸透膜装置12の濃縮水の一部を系外に排出し、残りを原水タンク10に循環させる。電気脱イオン装置13の濃縮水及び電極水は系外に排出する。
【0047】
水抜き工程で、原水タンクの貯水量を上記した範囲とすることで、循環水の昇温時間を短縮することができる。そのため、殺菌処理効率を向上させることができる。さらに、熱水殺菌時に所定の水質以上の水を循環させることができる。そのため、熱水殺菌のために原水を処理する設備を削減できるし、原水を処理した循環水をあらかじめ貯留するためのタンクや、この循環水を導入する配管や部材など滞留部となりうる部材を削減することができる。
【0048】
原水は、水抜き工程において逆浸透膜装置に通水されて水質が向上しているため、電気脱イオン装置への負荷を軽減することができる。また、水抜き工程では、後述する熱水殺菌工程で循環させる熱水の水質をより向上させ、各装置に備えられる膜の劣化を抑制するために、電気脱イオン装置は電圧を印加させていてもよい。
【0049】
[昇温工程及び熱水殺菌工程]
昇温工程に次いで、循環水を熱交換器11によって60℃程度以上、より好ましくは90℃程度まで加熱しつつ循環させる昇温工程を行う。
【0050】
具体的には、水抜き工程において温度測定手段16により測定される循環水の温度が40℃となったときにポンプP2を停止する。バルブV1,V2,V3,V5を閉じ、バルブV4,V6,V7を開くとともに、熱交換器11に熱源の蒸気を供給して、原水タンク10の原水を加熱しつつ処理ラインL1、循環ラインL4,L6,L7に循環させる。そして、循環水の温度が60℃〜90℃になったところで、熱水温度を前記した温度で保ちつつ循環させる熱水殺菌工程を行う。熱水殺菌工程では、熱交換機11の熱源の蒸気量を温度測定手段16の検出値に基づいて調節し、循環水がほぼ一定温度となるようにして循環させる。
【0051】
逆浸透膜装置や電気脱イオン装置へのダメージを軽減するために昇温工程での昇温速度は1〜2℃/分程度であることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、耐熱性を有する部材を用いた逆浸透膜装置及び電気脱イオン装置を使用するが、熱水殺菌工程では、高温の熱水がこれらの部材と所定の時間接触することとなる。そのため、熱水殺菌工程における逆浸透膜やイオン交換膜、イオン交換樹脂は常温よりも循環水の圧力により変形、変質などの劣化を起こしやすい環境にあると考えられる。
【0053】
さらに、逆浸透膜装置の膜モジュールは複雑で精密に構成されており、高温での温度変動や圧力変動により機械的なダメージを受けるおそれがある。
通常、逆浸透膜装置では、透過水流量の変化に伴い、得られる透過水水質も変化するが、上記したような逆浸透膜装置の劣化は透過水流量の低下を招き、ひいては透過水質の悪化につながるおそれがある。
【0054】
さらに、逆浸透膜装置の経年劣化による流量の低下は、純水製造装置への各部への十分な温度かつ十分な流量での熱水の供給の妨げとなるため、日常的に各所での循環水の流量を点検し、バルブやポンプの出力を適宜調節する等の操作が必要であった。
【0055】
そこで、本実施形態では、昇温工程、熱水殺菌処理及び後述する降温工程を通じて、圧力センサー14によって、逆浸透膜装置12の透過水配管(電気脱イオン装置13の入口水配管)内の圧力を測定し、制御装置15によって、この圧力が一定になるようにポンプP1の回転数を制御する。
【0056】
これにより、系内の流量や温度変化を定常化するとともに逆浸透膜装置の透過水量の減少やその水質の悪化を抑制することができる。そして逆浸透膜装置の透過水水質の悪化を抑制できるので、この水質が電気脱イオン装置の通水基準水質を超えることによる電気脱イオン装置の劣化を抑制することができる。
さらに、逆浸透膜装置の透過水流量を一定とすることで、循環水の流量の低下を抑制し、純水製造装置系内に十分な温度かつ十分な流量の熱水を行き渡らせることができるから、熱水殺菌処理を繰り返した場合にも、生菌数を極力低減することができ、熱水殺菌効率を向上させることができる。
【0057】
圧力センサーの設定圧力は、電気脱イオン装置に備えられるイオン交換膜の破断強度に応じて決定することができ、例えば0.03〜0.30MPaの範囲とする。また、制御装置の圧力制御はあらかじめ設定した設定圧に対して±0.01〜0.05MPaの範囲で厳密に一定になるように、インバータ制御により行うことが好ましい。
【0058】
これにより、昇温工程及び熱水殺菌工程における系内の状態を定常化して、より高温での殺菌を可能とするとともに、イオン交換樹脂やイオン交換膜への熱や圧力によるダメージを軽減することができる。
【0059】
また、電気脱イオン装置は、循環水の水質の悪化を抑制するために、循環水温が40℃以下では電圧を印加することが好ましく、電気脱イオン装置への負荷を軽減するために、循環水温が40℃を超えたときには電圧を印加させないことが好ましい。
【0060】
また、逆浸透膜装置の逆浸透膜面では、透過水流量が大きくなると、膜面で阻止される不純物量が増大し、供給水側の膜面での不純物濃度が上昇するいわゆる濃度分極が起こる場合があり、スケールを生成する一因となるおそれがある。前述したように、熱水循環時には熱水の粘度低下や各水処理装置の構成部材の局所的変形が生じる可能性があり、これにより透過水流量も一時的又は部分的に変動する可能性がある。そのため、濃度分極が部分的に起こり、逆浸透膜面上のスケールの形成が促進されるおそれがあると考えられる。
【0061】
さらに、本実施形態では、スケールの原因となる硬度成分を含んだ市水等を原水として用い、これを逆浸透膜装置等に一括通水して殺菌処理を行うため、軟水や純水を使用する場合に比べて循環水中の硬度成分量が多くなっている。
【0062】
そのため、本実施形態では、逆浸透膜面での流速を均一化するとともに、硬度成分が供給されることによる電気脱イオン装置への負荷を軽減するという観点から、昇温工程及び熱水殺菌工程を通じて、逆浸透膜装置における濃縮水流量/透過水流量の比(以下、C/Pと略称する。)を一定以上とすることが好ましい。これにより、逆浸透膜面での流速を上昇させて、膜面付近の不純物濃度を低下させ、その結果、電気脱イオン装置に悪影響を及ぼすことない程度まで逆浸透膜装置の透過水質を向上させることができる。さらに、熱水の温度変化等に伴う逆浸透膜装置への供給水圧の変動による逆浸透膜面へのスケールの生成を抑制することができる。
【0063】
C/Pは、逆浸透膜装置における透過率が2.5%未満となる値とすることが好ましい。そのため、本実施形態では、例えば、逆浸透膜装置の供給水及び透過水の水質を測定することで透過率を測定して、測定された透過率に基いてC/Pを決定することができる。本実施形態において、C/Pは4.5以上とすることが好ましく、5.0〜10.0とすることがより好ましい。これにより、逆浸透膜面へのスケールの生成を抑制することができる。C/Pが5.0未満であると膜面にスケールが生成し易くなり、10.0を超えるとポンプの大型化が必要となる等、実用的ではない。
なお、本明細書で透過率とは、逆浸透膜装置の供給水中の不純物濃度(as CaCo
3)をC
f、透過水中のそれをC
pとしたときに(C
p/C
f)×100(%)で示される値である。
【0064】
昇温工程及び熱水殺菌工程でのC/Pは、バルブV4の開度で調節することが好ましい。バルブV4を開度可変の電磁弁として、圧力センサー14の出力に基いて、制御装置15によりバルブ14の開度を調節することができる。また、逆浸透膜装置の濃縮水配管に図示しない流量測定センサー、圧力センサー等を介在させ、この流量測定センサー、圧力センサー等の出力に基いてバルブV4の開度を制御することもできる。
【0065】
また、バルブV4をバイパスするバイパスラインを設け、このバイパスラインに開度可変バルブを介設して、該開度可変バルブをあらかじめある開度で固定しておき、オンにしたときにこの開度となるよう、オン・オフ制御してC/Pを調節することもできる。
【0066】
熱水殺菌工程時間は、熱水の温度によっても異なるが、十分な殺菌を行うために、昇温後20〜60分程度行うことが好ましい。例えば60℃の熱水を循環させる場合には、45分程度、80℃の熱水を循環させる場合には30分程度、90℃の熱水を循環させる場合には20分程度であることが好ましい。
【0067】
[降温工程]
純水製造装置1による純水の製造は、熱水の循環後に、系内が純水製造に適した温度に冷却されてから行う。そのため、本実施形態では、熱水殺菌工程の後に、循環水の温度を低下させて純水製造装置1の系内を冷却する降温工程を行うことが好ましい。
【0068】
降温工程は、熱交換器11に冷水を供給するなどの従来公知の方法により行うことができる。
【0069】
降温工程における他の方法として、非加熱の原水を原水タンクに供給しつつ処理ライン及び循環ラインに循環させ、逆浸透膜装置の濃縮水の少なくとも一部を系外に排出して系内を冷却することができる。
【0070】
このとき、原水の供給流量と、逆浸透膜装置の濃縮水の排出流量を同量とする、すなわち、原水タンク10の貯水量を一定に維持することが好ましい。
【0071】
具体的には、バルブV2を開放し、新たに非加熱の原水を原水タンク10に供給する。この新たに供給された非加熱の原水を循環させている熱水とともにポンプP1を介して循環ラインに循環させる。バルブV3を開放し、バルブV4の開度を調節して原水タンクに供給される原水の供給流量と同じ流量で逆浸透膜装置12の濃縮水を系外に排出する。
この場合、系内の保水量を一定とすることができるから、例えば急激な降温による電気脱イオン装置へのダメージを防止することができ、さらに、降温時間を短縮することができる。
【0072】
バルブV4の開度調節は、圧力センサー14の出力で制御装置15により行うことができる。また、逆浸透膜装置の濃縮水配管に図示しない流量測定センサーを介在させ、この流量測定センサーの出力で制御装置15によりバルブV4の開度を制御することもできる。
【0073】
また、原水タンク10に貯水量を検知する貯水レベルセンサーを設置して、貯水レベルセンサーの出力で制御装置15によりバルブV4の開度を調節してもよい。
【0074】
降温工程では、昇温工程及び熱水殺菌工程と同様に、C/Pを一定以上としながら原水を供給することが好ましい。これにより、逆浸透膜装置の逆浸透膜面での流速を一定以上とし、逆浸透膜でのスケールの形成を抑制することができる。また、濃縮水の流量を一定とすることができるため、系内のより高温の循環水を一定流量で系外に排出し、降温時間を短縮することができる。
【0075】
また、循環水の温度の低下とともに、逆浸透膜装置12の透過水の圧力を一定とするようにポンプP2で循環水の圧力を上げることが好ましい。
【0076】
なお、系内の冷却時には、同時に循環水は熱交換器11に冷水を供給して冷却してもよく、系内が過度に冷却された場合には熱交換器11に蒸気などを供給して加熱してもよい。この場合、降温速度を安定に維持することができる。
【0077】
降温速度は、逆浸透膜装置や電気脱イオン装置に備えられる部材への温度変動による影響を軽減する観点から、1〜2℃/分程度が好ましい。
【0078】
このように、本実施形態の殺菌方法では、熱水殺菌を繰り返した場合にも、循環水の流量や温度の変動を抑制することができるため、流量や昇温・降温速度の変移を抑制して、殺菌処理時の系内の状態を定常化し、殺菌処理効率を向上させることができる。
また、これにより、逆浸透膜装置や電気脱イオン装置の劣化を抑制して保守点検管理を容易とすることができる上に、純水製造装置の寿命を延長することができる。
【実施例】
【0079】
次に本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。
実施例及び比較例において用いた装置及び条件は次のようである。
【0080】
原水:厚木市市水を活性炭装置及びプレフィルターで処理したもの。
原水タンク10:容量1,000L、
逆浸透膜装置12:商品名 Duratherm RO 8040 HF、米国GE社製 膜モジュール2本、
電気脱イオン装置13:商品名MK−3 mini HT 米国GE社製、
【0081】
[実施例1]
図1に示される純水製造装置1の殺菌処理を行った。
水抜き工程では、原水を温度測定手段16による測定温度が40℃となるまで加熱し、同時に原水タンクの水量が、通常運転時の25%となるまで逆浸透膜装置12の濃縮水の一部を排出した。
【0082】
殺菌処理は、昇温工程で制御装置15での昇温速度の設定を1℃/分として温度測定手段16による測定温度が90℃となるまで加熱し、熱水殺菌工程でこの熱水を35分間、循環させて行った。このとき、圧力センサー14の出力を制御装置15に入力し、圧力センサー14の出力が0.15±0.01MPaの一定となるようポンプP1の回転をインバータ制御した。
【0083】
次いで、降温速度の設定を1℃/分として、原水タンク10に原水を供給し、系内を温度測定手段16による測定温度が40℃となるまで冷却した。
【0084】
次いで、原水タンクに原水を導入した後、医薬品用の純水を製造する工程と、熱水殺菌処理とをそれぞれ交互に繰り返し行った。
【0085】
なお、殺菌処理時の系内の保水量は、330Lであり、循環ラインと原水タンクの接続部にスプレーボールを設置して、原水タンク上部壁面にも熱水が接触するようにした。また、電気脱イオン装置は、供給水温が40℃以下のときに電圧を印加し、40℃を超えたときには電圧の印加を停止するようにした。
【0086】
このとき、電気脱イオン装置の入水口側に温度計を配置して電気脱イオン装置の供給水温を測定した。
図2に、熱水殺菌1回目の、電気脱イオン装置の供給水温と、圧力センサー14で測定される循環水の圧力を示す。
図2において、0〜35分が水抜き工程、35〜95分が昇温工程、95〜130分が熱水殺菌工程、130〜185分が降温工程である。
【0087】
実施例1では、150回の熱水殺菌処理を繰り返す間、熱水殺菌処理時の循環水の水質や流量変動は1回目とほぼ同じであり、1回目とほぼ同じ昇温〜降温時間で熱水殺菌処理を行うことができた。特に、電気脱イオン装置の処理水導電率は150回熱水殺菌後も1.0μS/cm以下の水質を維持することができた。なお、熱水殺菌150回目後のバルブV1の直後での採水中の生菌数は0個/mLであり、十分な熱水殺菌を行うことができた。
【0088】
[比較例1]
実施例1において、ポンプP2のフィードバック制御を行わないこと以外は実施例1と同じ条件で純水製造装置1の殺菌処理を行った。
比較例1における、熱水殺菌1回目の電気脱イオン装置の供給水温と、圧力センサー14で測定される循環水の圧力を
図3に示す。
図3において、0〜50分が水抜き工程、50〜100分が昇温工程、100〜140分が熱水殺菌工程、140〜215分が降温工程である。
【0089】
比較例1では、50回の熱水殺菌処理を繰り返す間、熱水殺菌処理時の循環水の水質や流量変動は1回目とほぼ同じであり、1回目とほぼ同じ昇温〜降温時間で熱水殺菌処理を行うことができたが、電気脱イオン装置の電気脱イオン装置の処理水導電率が熱水殺菌50回目後に1.0μS/cmを超えたため、試験を中止した。
【0090】
なお、各図において、逆浸透膜装置をRO、電気脱イオン装置をEDIと略称する。
【0091】
実施例1では、圧力センサー14で測定される逆浸透膜装置の透過水圧を一定となるように制御しているため、圧力センサー14の出力から電気脱イオン装置の循環水の圧力に起因する経時的な負荷を算出でき、保守点検管理を簡易化することができる。
また、実施例1では、逆浸透膜装置の透過水圧を一定に保っているため、熱水殺菌を繰り返しても、循環水流量の低下や、これに起因して起こる熱水温度の不足、熱水流量の不足が生じるおそれがなく、熱水殺菌にかかる時間を延長することなく、同じ操作時間で熱水殺菌を繰り返し行うことができる。そのため、保守点検管理を簡易とすることができる。
【0092】
さらに、圧力センサーの出力を一定とすることで逆浸透膜装置の透過水水質を安定に保ち、その結果、電気脱イオン装置の劣化を抑制し、純水製造装置の寿命を延長することができる。
【0093】
なお、実施例1では純水製造装置内の生菌数を所定の値未満に低減しつつ、純水製造装置の寿命が延長されていることが分かる。
【0094】
これに対して比較例1では、電気脱イオン装置の供給水の圧力が変動しているため、電気脱イオン装置逆浸透膜装置の劣化は日常的な点検で検出する必要がある他、逆浸透膜装置透過水圧の低下による電気脱イオン装置供給水質の低下を点検し、逆浸透膜装置供給水圧をその都度調整する必要がある。
【0095】
このように、実施形態の熱水殺菌方法及び純水製造装置によれば、系内が十分に殺菌される温度や流量を安定に維持するとともに、電気脱イオン装置へのダメージを軽減することができる。そのため、殺菌処理効率を向上させることができる。
さらに、各水処理装置の保守点検管理を簡易化することで熱水殺菌効率を向上させることができる。