特許第6082259号(P6082259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082259
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20170206BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20170206BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20170206BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C08J3/20 ZCFD
   C08L67/00
   C08L27/18
   C08K3/34
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-12789(P2013-12789)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-145001(P2014-145001A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】山中 康史
(72)【発明者】
【氏名】内田 英明
(72)【発明者】
【氏名】滝瀬 修
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−182877(JP,A)
【文献】 特開2007−169403(JP,A)
【文献】 特開2002−114850(JP,A)
【文献】 特開平10−237254(JP,A)
【文献】 特開平09−076327(JP,A)
【文献】 特開2004−035710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29B 7/00−11/14
B29B 13/00−15/06
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(A)及びその他の添加剤を含有するポリエステル系樹脂組成物を製造するにあたり、ポリテトラフルオロエチレン(A)にポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を予めブレンドした予備ブレンド物と、ポリエステル樹脂ペレットと、前記その他の添加剤を、それぞれ別々のフィーダーから押出機にフィードし、溶融混練することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂パウダー(B)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂パウダーである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル樹脂パウダー(B)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B)の質量比で、1:0.5〜1:100である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
タルク(C)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜1:20である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
ポリエステル樹脂パウダー(B)及びタルク(C)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜100:0.5〜20である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
ポリエステル樹脂パウダー(B)の平均粒径が、0.5〜3,000μmである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
タルク(C)の平均粒径が、8μm以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関し、詳しくは、ポリテトラフルオロエチレンの取り扱い性による問題点を解決した難燃性のポリエステル系樹脂組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性等の諸特性を生かし、自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に広く利用されている。
【0003】
電気電子部品等、難燃性の要求される用途に対しては、難燃性を満足するため難燃剤の配合が行われる。ポリブチレンテレフタレート樹脂に難燃性を付与する方法としては、難燃剤としてハロゲン系有機化合物や非ハロゲン系有機化合物、さらに難燃助剤としてアンチモン化合物等を配合する方法が一般的である。
【0004】
加えて、用途によっては樹脂組成物がUL94規格のV−Oが要求され、燃焼時の滴下(ドリップ)を防ぐことが要求される。ドリップ防止のためには、ポリテトラフルオロエチレンを難燃剤等と併用することが行われる(特許文献1)。ポリテトラフルオロエチレンは、そのフィブリル化特性によりドリッピング抑制効果を有効に発揮し、ドリッピング抑制剤として、現在多用されている。
【0005】
このポリテトラフルオロエチレンは、現在、テトラフルオロエチレンモノマーを乳化重合または懸濁重合することにより製造されている。
しかしながら、特に乳化重合品は、これをポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂や難燃剤等と混合、撹拌する時に、低速撹拌では分散不良による凝集ブツと呼ばれる凝集物が発生しやすく、高速撹拌ではフィブリル生長による凝集ブツを生じやすい。このための対策としては、冷蔵保管しておくとか、フィブリル化生長をさせずに高分散させる等の方法が採用されている。また、懸濁重合品は、乳化重合品ほどの凝集はしにくいものの、やはり凝集や分散不良の問題があり、特に夏場にはこの問題は顕著となる。
【0006】
また、重合法によらず、ポリテトラフルオロエチレンは、貯蔵・保管時には固まり易く、流動性に乏しいために、搬送や供給、あるいはフィーダー、ミキサー、押出機等での取り扱いが非常に難しい。例えば、保管容器からは取出し性が悪く、ときには解砕を必要とし、また、フィーダーにおいては過負荷による操業停止に繋がる場合もある。
【0007】
このような操作、作業上の不安定性は、目的とする難燃性ポリエステル系樹脂組成物の均質性および再現性を妨げることになり、その解決が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭55−30024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレンの取り扱い性による上記問題点を解決し、操作、作業上の不安定性がなく、解砕等の余計な工程が不要で、ポリテトラフルオロエチレンの凝集物の発生が極めて少なく、樹脂組成物の均質性および再現性に優れ、長期にわたる安定生産が可能な、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、ポリテトラフルオロエチレンに、ポリエステル樹脂パウダー又はタルクを予めブレンドしたものを調製し、これを用いてポリエステル系樹脂組成物を製造すると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下のポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0011】
[1]ポリテトラフルオロエチレン(A)を含有するポリエステル系樹脂組成物を製造するにあたり、ポリテトラフルオロエチレン(A)に、ポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を予めブレンドしたものを用いることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
[2]ポリエステル樹脂パウダー(B)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂パウダーである上記[1]に記載の製造方法。
[3]ポリエステル樹脂パウダー(B)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B)の質量比で、1:0.5〜1:100である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]タルク(C)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜1:20である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[5]ポリエステル樹脂パウダー(B)及びタルク(C)のブレンド量が、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜100:0.5〜20である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[6]ポリエステル樹脂パウダー(B)の平均粒径が、0.5〜3,000μmである上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[7]タルク(C)の平均粒径が、8μm以下である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[8]ポリテトラフルオロエチレン(A)にポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を予めブレンドした予備ブレンド物と、ポリエステル樹脂ペレットとを溶融混練してポリエステル系樹脂組成物を製造する方法であって、前記予備ブレンド物と前記ポリエステル樹脂ペレットとを、別々のフィーダーから押出機にフィードする、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンを使用する場合の問題点を解決し、操作、作業上の不安定性がなく、解砕等の余計な工程が不要で、ポリテトラフルオロエチレンの凝集物の発生が極めて少なく、樹脂組成物の均質性および再現性に優れ、長期にわたる安定生産が可能なポリエステル系樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0013】
[発明の概要]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン(A)を含有するポリエステル系樹脂組成物を製造するにあたり、ポリテトラフルオロエチレン(A)に、ポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を予めブレンドしたものを用いることを特徴とする。
【0014】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
[ポリエステル樹脂]
本発明の樹脂組成物の主成分であるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られる熱可塑性のポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0016】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4’−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0017】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用しても良い。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等をエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0018】
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合せしめてもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0019】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0020】
ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0021】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートである。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1,4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましく、特にポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0022】
ポリブチレンテレフタレートは、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されているものも好ましい。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2〜50モル%、より好ましくは3〜40モル%、特に好ましくは5〜20モル%である。
【0023】
ポリエステル樹脂の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるものが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。なお、ポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0024】
[ポリテトラフルオロエチレン(A)]
本発明において、ポリテトラフルオロエチレン(A)は、テトラフルオロエチレンを主成分とする単量体を、従来から知られている重合方法によって得られるものをいう。ポリテトラフルオロエチレン(A)は、難燃性のポリエステル系樹脂組成物に、燃焼時のドリップし難い性質を付与するように機能する。ポリテトラフルオロエチレン(A)には、ポリテトラフルオロエチレン(A)の特性を損なわない範囲で、共重合成分として、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキルビニル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを含ませることができる。共重合成分の含有量は、テトラフルオロエチレンに対して10質量%以下とするのが好ましい。
【0025】
ポリテトラフルオロエチレン(A)は、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も使用することができ、このようなフルオロエチレン重合体としては、ポリスチレン−フルオロエチレン複合体、ポリスチレン−アクリロニトリル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸メチル−フルオロエチレン複合体、ポリメタクリル酸ブチル−フルオロエチレン複合体等が挙げられる。
【0026】
なお、ポリテトラフルオロエチレン(A)は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0027】
また、ポリテトラフルオロエチレン(A)の平均粒径は、特に制限はないが、1〜1,000μmであることが好ましい。平均粒径が3μmを下回る場合は、樹脂組成物の耐ドリップ性が低下する可能性があり、また1,000μmを超える場合は、ポリテトラフルオロエチレンが凝集しやすくなり、成形体とした場合に白点異物等の外観不良を引き起こす可能性があるため好ましくない。このような観点より、ポリテトラフルオロエチレン(A)の平均粒径は、2〜800μmであることがより好ましく、3〜750μmであることがさらに好ましく、5〜700μmであることが特に好ましい。ここでポリテトラフルオロエチレンの平均粒径は、電子顕微鏡観察で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)をいう。
【0028】
ポリテトラフルオロエチレン(A)は、乳化重合で得られたポリテトラフルオロエチレン、懸濁重合により重合したポリテトラフルオロエチレンがあり、そのいずれでも使用できるが、従来の方法では取り扱い性が悪かった乳化重合品を本発明の方法においては、十分効果的に使用できるという点でより意義があるので好ましい。
【0029】
ポリテトラフルオロエチレン(A)の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、その下限は好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは5質量部以下で、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。ポリテトラフルオロエチレン(A)の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、滴下防止剤による難燃性の効果が不十分となり、含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じる可能性がある。
【0030】
[ポリエステル樹脂パウダー(B)]
本発明の製造方法において、ポリテトラフルオロエチレン(A)に予めブレンドするポリエステル樹脂パウダー(B)は、ポリエステル樹脂ペレットを粉砕して得られる粉体状のものである。ポリエステル樹脂としては前述したものが使用でき、中でもポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましく使用できる。
ペレットを粉砕する手段とは、ペレットを微細化する手段をいい、ペレットを粗粉砕しその後微粉砕する多段粉砕方式や、微細化まで一段で行う方式等があるが、その方式は限定されるものではない。具体的な粉砕手段としては、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミル、ピンミル、遠心ミル、ロートプレックス、パルベルイザー、湿式粉砕、チョッパーミル、ウルトラローター等を用いる粉砕手段が挙げられ、常温あるいは冷凍粉砕方式を用いることができる。これらの粉砕方式を採用する際には、温度上昇防止の工夫がなされれいる方式が有用で、具体的にはパルベライザー(独、Herbold社製)、ウルトラローター(独、Altenburger Machenen Jachering社製)などを用いる手段が有用である。
【0031】
ポリエステル樹脂パウダー(B)の平均粒径としては、0.5〜3,000μmであることが好ましい。0.5μm未満では、ポリテトラフルオロエチレン(A)とポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)の予備ブレンド物が凝集しやすく崩壊性が不十分であり、樹脂組成物中のポリテトラフルオロエチレンの分散が不十分となり凝集物が発生しやすい傾向にある。3,000μmを超える場合もまた、ポリテトラフルオロエチレンの分散が不十分となり、凝集物が発生しやす傾向にある。ポリエステル樹脂パウダー(B)の平均粒径は、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上であり、また2,500μm以下であることがより好ましく、1,300μm以下であることがさらに好ましい。ここでポリエステル樹脂パウダーの平均粒径は、振動篩機を使用して求めた粒度分布図から求めた粒子径分布のメジアン径(D50)をいう。
【0032】
[タルク(C)]
ポリテトラフルオロエチレン(A)に予めブレンドするタルク(C)は、その種類に特に限定はなく、一般に市販されているタルクを使用することができる。
タルクは、鉱石を粉砕したのみで圧縮または造粒していないタルクでもよく、或いは圧縮又は造粒された形態のものでも使用できる。
予めブレンドするタルク(C)としては、圧縮または造粒していないタルクが好ましいい。
タルク(C)の平均粒径は、8μm以下であることが好ましく、より好ましくは6μm以下、更に好ましくは5μm以下であり、その下限としては0.5μmであることが好ましい。ここでタルクの平均粒径は、レーザー回折法で測定されたD50(粒子径分布のメジアン径)をいう。
【0033】
[ポリエステル樹脂パウダー(B)、タルク(C)のブレンド量]
ポリテトラフルオロエチレン(A)に予めブレンドするポリエステル樹脂パウダー(B)とタルク(C)の量の、好ましい態様は以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂パウダー(B)をブレンドする場合の量は、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B)の質量比で、1:0.5〜1:100であることが好ましく、より好ましくは、(A):(B)が1:1.5〜1:50、さらに好ましくは1:2.5〜1:30である。
(2)タルク(C)をブレンドする場合の量は、ポリテトラフルオロエチレン(A):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜1:20であることが好ましく、より好ましくは、(A):(C)が1:0.8〜1:5である。
(3)ポリエステル樹脂パウダー(B)及びタルク(C)をブレンドする場合の量は、ポリテトラフルオロエチレン(A):ポリエステル樹脂パウダー(B):タルク(C)の質量比で、1:0.5〜100:0.5〜20であり、より好ましくは、(A):(B):(C)が1:0.8〜50:0.5〜10、さらに好ましくは1:0.8〜30:0.5〜6である。
上記の範囲を外れると、ポリテトラフルオロエチレン(A)の凝集や固化が起きやすくなる。
【0034】
なお、上記したブレンド量は、ポリテトラフルオロエチレン(A)に予めブレンドする量であって、最終的に製造される目的物のポリエステル系樹脂組成物の所要の量に満たない部分は、他の必要な成分と共に、溶融混練時に追加して添加されるのは勿論である。
【0035】
[予備ブレンド]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン(A)に、ポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を予めブレンドしたものを用いる。
ポリテトラフルオロエチレン(A)にポリエステル樹脂パウダー(B)又はタルク(C)をブレンドする方法は、いずれの方法でもよく、ポリテトラフルオロエチレン(A)にポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)を各種のブレンダーやミキサー等を使用してブレンドすればよい。
ブレンド時の温度は、特に制限はなく、常温で構わない。また、ブレンドの質量比は、上記した通りである。
【0036】
このようにブレンドすることにより、ポリテトラフルオロエチレンは解れやすくなり、取り扱い性が格段に向上し、フィード性を極めて良くすることができる。また、ポリテトラフルオロエチレンの分散性が向上し、得られるポリエステル系樹脂組成物中に、凝集物が発生しにくくなる。
ポリテトラフルオロエチレン(A)にポリエステル樹脂パウダー(B)及び/又はタルク(C)をブレンドしたものは、そのまま樹脂組成物の製造に直ちに使用することができるが、直ちに使用せずに保管することもできる。
保管する場合、密閉容器又は袋に密封しておくような必要はなく、そのまま長期間保管しても固化してしまうようなことはない。
【0037】
[ポリエステル系樹脂組成物の製造]
このようなブレンド後のポリテトラフルオロエチレン予備ブレンド物と、ポリエステル樹脂、さらにはその他成分を混合して、ポリエステル系樹脂組成物を製造する方法は、ポリエステル系樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。本発明においては、ポリテトラフルオロエチレン予備ブレンド物と混合するポリエステル樹脂として、予備ブレンド物に用いるポリエステル樹脂パウダーと同種のものを使用することが好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることがさらに好ましい。
通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂や他の樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。ガラス繊維等は、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0038】
中でも、ポリテトラフルオロエチレン予備ブレンド物と混合するポリエステル樹脂としてペレット状のものを用い、ポリテトラフルオロエチレン予備ブレンド物とポリエステル樹脂ペレットを、別々のフィーダーから押出機にフィードし、溶融混練する方が好ましい。このような方法を採用することにより、各成分の分級を抑制し、難燃性のバラツキがなく、異物の少ない成形品を得られやすい傾向にある。必要に応じて、他の添加剤成分を配合する場合は、ポリテトラフルオロエチレン予備ブレンド物、ポリエステル樹脂ペレット、その他の添加剤成分をぞれぞれ別々のフィーダーから押出機にフィードすることが好ましいが、フィーダーの数に制限がある場合は、各成分の比重を鑑み、比重の近いもの同士を同じフィーダーからフィードすることが、分級を抑制する点で好ましい。
【0039】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、製品不良の原因になる場合がある。また、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時における樹脂組成物の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0040】
[難燃剤]
ポリエステル系樹脂組成物には、難燃剤が配合されることが好ましい。難燃剤としては、公知のプラスチック用難燃剤や難燃助剤が使用可能である。
具体的には、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤(ポリリン酸メラミン、(ジ)ホスフィン酸金属塩等)、窒素系難燃剤(シアヌル酸メラミン、ホスファゼン等)等が好ましく挙げられる。
中でも、ハロゲン系難燃剤と後記する難燃助剤の組み合わせが、少量の配合で効果が発揮されるので好ましく使用できる。
【0041】
ハロゲン系難燃剤は、分子中にハロゲン原子を有する難燃剤をいい、特に臭素含有率が20質量%以上のものが好ましい。より具体的には、ハロゲン系難燃剤は、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートおよび臭素化イミドが好ましく、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン系樹脂がより好ましい。
【0042】
ハロゲン系難燃剤の配合量は、要求される難燃レベルにより異なるが、ポリエステル樹脂100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましい。中でも5〜35質量部が好ましく、8〜25質量部がさらに好ましい。ハロゲン系難燃剤を1質量部以上とすることにより、より効果的な難燃性が得られ、50質量部以下とすることにより、物性、特に機械強度をより高く保つことができる。
【0043】
[難燃助剤]
難燃助剤としては、アンチモン系難燃助剤が好適であり、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられるが、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムがより好ましい。
難燃助剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは2〜12質量部であり、より好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは10質量部以下である。
【0044】
[その他成分]
ポリエステル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の所望の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、安定剤、強化充填剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0045】
また、ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく「質量部」を表す。
以下の実施例および比較例において、使用した成分及び配合量は、以下の表1の通りである。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例1]
表1に記載のポリテトラフルオロエチレンAとポリブチレンテレフタレート樹脂パウダーAを、1:1の質量比で、スーパーミキサー(商品名:SMV−200、カワタ社製)にて、温度25℃、回転数425rpmの条件で60秒間混合してブレンドし、予備ブレンド物(X−1)を得た。
ついで、予備ブレンド物(X−1)10kgを、重量式フィーダー供給機(クボタ社製
2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダーワイドレンジCWF(型式:CE−W−1D、スクリュー:MS型))に投入し、1時間連続してフィードを続けMV値(モーター駆動回転数)の推移を観測したところ、14〜18(1hr)と安定しており、異常は特に認められず、安定フィードが確認された。
【0049】
また、予備ブレンド物(X−1)用フィーダー、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット用別フィーダー、表1に記載のその他添加剤用別フィーダー、ガラス繊維用サイドフィーダーの4つのフィーダーを備えた2軸押出機(スクリュー径44mm)を用い、吐出100kg/hr、バレル設定温度250℃、押出機スクリュー回転数200rpmの条件下で、ポリブチレンテレフタレート樹脂53.7質量%、臭素系難燃剤10質量%、難燃助剤3質量%、ポリテトラフルオロエチレン0.7質量%、安定剤0.3質量%、離型剤0.3質量%、カーボンブラックマスターバッチ2質量%及び強化充填材30質量%となるように各成分をフィードし、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造した。
得られたペレットをを用い、0.4mm厚みの燃焼片を成形し、燃焼片中のポリテトラフルオロエチレン由来と思われる白点異物数及び難燃性(UL94)のばらつき(あり、なし)を評価した。結果、白点異物は観察されず、また、燃焼片の難燃性にもばらつきがみられず、均質で安定した難燃性を示すことがわかった。
【0050】
[実施例2〜10]
実施例1において、予備ブレンド物を表2に記載の配合割合(質量%)に代えた以外は同様にして、予備ブレンド物(X−2〜X−10)を得た。
得られた予備ブレンド物(X−2〜X−10)を用い、実施例1と同様にして、予備ブレンド物のフィード安定性、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物燃焼片中の白点異物中、難燃性ばらつきについて評価した。評価結果を、表2に示す。
【0051】
[比較例1、2]
実施例1において、PBTパウダーやタルクとPTFEを予備ブレンドせず、ガラス繊維以外の全ての成分を一括ブレンドし、得られたブレンド物を一括して2軸押出機(スクリュー径35mm)にフィードし、吐出100kg/hr、バレル設定温度250℃、押出機スクリュー回転数200rpmの条件下で溶融混練した以外は、実施例1と同様にして難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造を試みた(ガラス繊維は実施例1と同様にサイドフィードした。)。
1時間連続してフィードを続けたが、MV値は、初期の16から直ちに上昇し27分後には40に、44分後には50になり、ついに55分後にはMV値が80に達してしまい、フィーダーのモーター過負荷により操業を停止せざるを得なかった。
【0052】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、操作、作業上の不安定性がなく、解砕等の余計な工程が不要で、凝集物等の発生が極めて少なく、樹脂組成物の均質性および再現性に優れ、長期にわたる安定生産が可能であり、産業上の利用性は非常に高い。