特許第6082276号(P6082276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082276
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/028 20060101AFI20170206BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20170206BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20170206BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   B23K9/028 L
   B23K9/12 C
   B23K33/00 A
   B23K9/02 Y
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-43056(P2013-43056)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-168809(P2014-168809A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】赤松 政彦
(72)【発明者】
【氏名】米本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】上月 崇功
(72)【発明者】
【氏名】青木 篤人
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−019831(JP,A)
【文献】 特開平07−100644(JP,A)
【文献】 実開昭63−076375(JP,U)
【文献】 実開昭62−086992(JP,U)
【文献】 特開昭59−001064(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0314757(US,A1)
【文献】 米国特許第1995546(US,A)
【文献】 独国特許発明第3615947(DE,C1)
【文献】 米国特許第2232593(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2428300(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/028
B23K 9/02
B23K 9/12
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏当部における上側突出部のプレート部からの突出高さが下側突出部のプレート部からの突出高さよりも小さく設定されたインサートリングを、水平方向に延びる母材であって上向きに開口する貫通穴が設けられた母材における前記貫通穴を縁取る周壁と、鉛直方向に延びる配管の下端部との間に配置する配置工程と、
前記インサートリングを溶融させて前記周壁および前記配管の下端部と融合させる溶接工程と、
を含む、溶接方法。
【請求項2】
前記インサートリングに対して斜め上方から溶接トーチを向けて前記溶接工程を行う、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記上側突出部の突出高さは、前記下側突出部の突出高さの0.5〜0.8倍である、請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記母材の表面には、前記周壁の回りに環状の溝が形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記母材は、前記配管よりも大径の配管であり、
前記母材には、複数の前記貫通穴が当該母材の軸方向に並んで設けられており、
前記複数の貫通穴のそれぞれに対し、前記配置工程および前記溶接工程を行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記複数の貫通穴のピッチは、当該貫通穴の直径の2倍以下である、請求項5に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記溶接工程を、前記母材を挟んで設置された一対のロボットであって各々が溶接トーチを保持するロボットを用いて行う、請求項5または6に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記溶接工程では、まず前記一対のロボットの一方である第1ロボットを用いて前記インサートリングの半分を溶融させ、ついで前記一対のロボットの他方である第2ロボットを用いて前記インサートリングの残りの半分を溶融させる、請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記第1ロボットが保持する溶接トーチからのアークが前記第2ロボットが保持する溶接トーチからのアークに連続的に引き継がれるように、前記ロボットを動作させる、請求項8に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサートリングを用いてワーク同士を溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば配管同士を突合せ溶接する際には、配管の内側の裏ビードを容易に形成するために、インサートリングが使用されている。このインサートリングは、例えば開先加工が施されたワークのルート部間に配置され、当該インサートリングに向かってタングステン電極からアークが生成されることによって溶融し、ワークのルート部と融合する。
【0003】
インサートリングとしては、フラットな座金状のものあるし、断面形状が略T字状のものもある(例えば、特許文献1参照)。T字型のインサートリングは、ワーク同士の間に挟まれるプレート部と、双方のワークの裏面(ワークが配管の場合は内周面)に宛がわれる半円状の裏当部を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−19831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インサートリングを用いれば、熟練者でなくても完全溶け込み溶接を実現することが可能である。このような観点から、本発明の発明者らは、T字型のインサートリングを、配管同士の突合せ溶接だけでなく、ヘッダーやチャンバーなどを構成する大きな母材に配管を垂直に溶接する際にも使用できるのではないかと考えた。そして、貫通穴が設けられた大きな母材を貫通穴が上方に開口するように配置し、その母材に上方からT字型のインサートリングを介して配管を溶接することを試みた。しかしながら、そのように溶接した場合には溶接欠陥が生じた。
【0006】
そこで、本発明は、インサートリングを用いて水平方向に延びる母材に上方から配管を溶接するときの溶接欠陥を抑制することができる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の発明者は、鋭意研究の結果、T字型のインサートリングを用いて水平方向に延びる母材に上方から配管を溶接するときに溶接欠陥が生じるのは、溶接トーチが母材に干渉するために溶接トーチの向きを水平にできないことと、T字型のインサートリングの断面形状が(上下)対称であることに起因することを突き止めた。それ故に、T字型のインサートリングを水平方向に延びる母材とその上方の配管との間に配置した場合には、裏当部における上側突出部に溶け残り生じることが分かった。一方、上側突出部を完全になくした場合には、アンダーカットの欠陥が新たに生じることも確認された。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の溶接方法は、裏当部における上側突出部のプレート部からの突出高さが下側突出部のプレート部からの突出高さよりも小さく設定されたインサートリングを、水平方向に延びる母材であって上向きに開口する貫通穴が設けられた母材における前記貫通穴を縁取る周壁と、鉛直方向に延びる配管の下端部との間に配置する配置工程と、前記インサートリングを溶融させて前記周壁および前記配管の下端部と融合させる溶接工程と、を含む。
【0009】
上記の構成によれば、裏当部に上側突出部を残すことにより、アンダーカットを防ぐことができる。また、上側突出部の突出高さを下側突出部の突出高さよりも小さくすることにより、上側突出部の溶け残りを抑制することができる。
【0010】
前記インサートリングに対して斜め上方から溶接トーチを向けて前記溶接工程を行ってもよい。この構成によれば、水平に延びる母材との干渉を避けつつも、溶接欠陥を抑制することができる。
【0011】
前記上側突出部の突出高さは、前記下側突出部の突出高さの0.5〜0.8倍であることが望ましい。この構成によれば、上側突出部を配管の位置決めに利用可能としつつ、上側突出部の溶け残りを効果的に抑制することができる。
【0012】
前記母材の表面には、前記周壁の回りに環状の溝が形成されていてもよい。この構成によれば、母材の形状を問わずに、配管を接合するための薄肉の周壁を安価に形成することができる。
【0013】
前記母材は、前記配管よりも大径の配管であり、前記母材には、複数の前記貫通穴が当該母材の軸方向に並んで設けられており、前記複数の貫通穴のそれぞれに対し、前記配置工程および前記溶接工程を行ってもよい。この構成では、配管同士の間の隙間によっては配管の全周に亘って溶接トーチの向きを配管の中心に向けることができない場合もあるが、この場合でも溶接欠陥を抑制することができる。
【0014】
前記複数の貫通穴のピッチは、当該貫通穴の直径の2倍以下であってもよい。この構成のように貫通穴のピッチが小さく、配管同士の間の隙間が狭くても、溶接欠陥を抑制することができる。
【0015】
前記溶接工程を、前記母材を挟んで設置された一対のロボットであって各々が溶接トーチを保持するロボットを用いて行ってもよい。この構成によれば、配管同士の間の隙間が狭くても母材への複数の配管の溶接を自動的に行うことができる。
【0016】
例えば、前記溶接工程では、まず前記一対のロボットの一方である第1ロボットを用いて前記インサートリングの半分を溶融させ、ついで前記一対のロボットの他方である第2ロボットを用いて前記インサートリングの残りの半分を溶融させてもよい。
【0017】
前記第1ロボットが保持する溶接トーチからのアークが前記第2ロボットが保持する溶接トーチからのアークに連続的に引き継がれるように、前記ロボットを動作させてもよい。この構成によれば、一対のロボットを用いて配管の全周に亘って連続的な溶接を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インサートリングを用いて水平方向に延びる母材に上方から配管を溶接するときの溶接欠陥を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接方法で用いられるロボットの配置を示す平面図である。
図2図1のII−II線に沿った母材および配管の断面図である。
図3図2の要部拡大図である。
図4】片方の溶接トーチの軌跡を示す平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る溶接方法で用いられるインサートリングの断面形状を示す図である。
図6】変形例のインサートリングの断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る溶接方法は、図1に示すような水平方向に延びる母材1に上方から複数の配管2を溶接する方法である。ただし、本発明の溶接方法は、母材1に1つの配管2を溶接する場合にも適用可能である。すなわち、本発明の溶接方法は、種々の用途の製品を製造する際に使用可能である。
【0021】
本実施形態では、母材1が配管2よりも大径の配管である。例えば、母材1の外径は、配管2の外径の5〜10倍である。ただし、母材1は、例えば直方体状のヘッダーやチャンバーなどを構成する6つの壁のうちの天井壁であってもよい。
【0022】
母材1には、上向きに開口する複数の円形の貫通穴15(図2参照)が当該母材1の軸方向に並んで設けられている。貫通穴15の直径は、配管2の内径とほぼ等しい。貫通穴15は等ピッチPで並んでいる。例えば、貫通穴15のピッチPは、当該貫通穴15の直径の2倍以下である。このように小さいピッチPであれば、母材1および配管2を含むシステム(図1に示す例ではボイラ)の高性能化を実現することができる。
【0023】
母材1の表面1aには、図2に示すように、各貫通穴15を縁取る周壁11が形成されているとともに、この周壁11の回りに環状の溝12が形成されている。換言すれば、環状の溝12が薄肉の周壁11を規定している。周壁11の上端面は、水平方向にフラットに加工されている。
【0024】
一方、鉛直方向に延びる配管2のそれぞれの下端部21は、外周面2aに開先加工によって傾斜面22が形成されることにより、薄肉となっている。なお、開先形状がJ形開先などの場合は、傾斜面22は曲面となる。換言すれば、下端部21は開先のルート部である。下端部21のルートフェイス厚は、周壁11の肉厚とほぼ等しい。ただし、配管2の肉厚が薄いときは、外周面2aへの開先加工は不要である。すなわち、外周面2aは、配管2の全長に亘って内周面2bと平行であってもよい。
【0025】
配管2の下端部21は、インサートリング3を用いたTIG(Tungsten Inert Gas)溶接により周壁11に接合される。溝12と傾斜面22とで囲まれる空間は、TIG溶接の後に、図2に二点鎖線で示すように、MIG(Metal Inert Gas)溶接またはMAG(Metal Active Gas)溶接などにより溶接材で埋められる。
【0026】
本実施形態の溶接方法では、各貫通穴15に対し配置工程、第1溶接工程(初層工程、本発明の溶接工程に相当)および第2溶接工程(肉盛り工程)を行う。以下、各工程ごとに詳細に説明する。なお、配置工程、第1溶接工程および第2溶接工程は、各貫通穴15ごとに繰り返し行われてもよい。あるいは、全ての貫通穴15に対して配置工程を行った後に、まず全ての貫通穴15に対して第1溶接工程を行い、ついで全ての貫通穴15に対し第2溶接工程を行ってもよい。
【0027】
(1)配置工程
配置工程では、図3に示すような断面略T字状のインサートリング3を母材1の周壁11と配管2の下端部21との間に配置する。具体的には、まずインサートリング3を周壁11にセットし、ついでインサートリング3上に配管2を載置する。
【0028】
インサートリング3は、周壁11と配管2の下端部21との間に挟まれるプレート部31と、プレート部31から上下に張り出す裏当部32とを含む。裏当部32は、母材1の貫通穴15の内面(周壁11の内周面)に宛がわれる下側突出部34と、配管2の内周面2bに宛がわれる上側突出部33を有している。
【0029】
インサートリング3の径方向におけるプレート部31の幅は、周壁11および配管2の下端部21の厚さと等しくてもよいが、表ビードを良好に形成するために、それらの厚さよりも若干大きいことが望ましい。
【0030】
図5に示すように、プレート部31は、水平方向にフラットな上面31aおよび下面31b、ならびに先端面31cを有している。先端面31cの断面形状は、裏当部32と反対側に凸となる円弧状であってもよいし、直線であってもよい。
【0031】
上側突出部33は、プレート部31の上面31aから略垂直に立ち上がる上側垂直面33aを有し、下側突出部34は、プレート部33の下面31bから略垂直に垂れ下がる下側垂直面34aを有している。
【0032】
プレート部31の上面31aから略垂直に立ち上がる上側垂直面33aは、テーパ加工等の傾斜加工が施されている場合は、傾斜面であってもよい。プレート部33の下面31bから略垂直に垂れ下がる下側垂直面34aについても同様である。
【0033】
上側突出部33のプレート部31からの突出高さ(上側垂直面33aの高さ)H1は、下側突出部34のプレート部31からの突出高さ(下側垂直面34aの高さ)H2よりも小さく設定されている。上側突出部33の突出高さH1は、下側突出部34の突出高さH2の0.5〜0.8倍であることが望ましい。H1<0.5H2であれば、インサートリング3上に配管2を載置するときに上側突出部33を利用して配管2を位置決めすることが難しくなり、H1>0.8H2であれば、上側突出部33の溶け残りが起き易くなるからである。すなわち、上側突出部33の突出高さH1を0.5H2以上0.8H2以下とすることにより、上側突出部33を配管2の位置決めに利用可能としつつ、上側突出部33の溶け残りを効果的に抑制することができる。
【0034】
裏当部32のプレート部31と反対側の表面32aは、プレート部31を厚さ方向に二等分する平面4上に、プレート部31と反対側に最も突出する頂点35を有する滑らかな凸面である。この凸面は、上側垂直面34aの上端から下側垂直面34bの下端まで連続している。
【0035】
本実施形態では、凸面である表面32aの断面形状は、頂点35から下側垂直面34aの下端までは円弧状であり、頂点35から上側垂直面33aの上端までは曲線状である。
【0036】
(2)第1溶接工程
第1溶接工程では、図3に示すように、インサートリング3に対して斜め上方から溶接トーチ5を向け、溶接トーチ5のタングステン電極51からアークを発生させることにより、インサートリング3を溶融させて周壁11および配管2の下端部21と融合させる。溶接トーチ5を上述のように配置するのは、母材1との干渉をさけるためである。つまり、母材1が水平方向に延びているために、溶接トーチ5をインサートリング3に対して水平に向けることができない場合があるからである。
【0037】
本実施形態では、図1に示すように母材1を挟んで設置された一対のロボット6A,6Bを用いて第1溶接工程を行う。
【0038】
一対のロボット6A,6Bのそれぞれには、溶接トーチ5が保持されている。貫通穴15のピッチPが小さく、配管2同士の間の隙間が狭い場合には、図4に示すように、平面視において配管2の中心から母材1の軸方向と直交する方向を中心とするある角度範囲θでは溶接トーチ5の向きを配管2の中心に向けることができるものの、その角度範囲θと母材1の軸方向の間では溶接トーチ5の向きを配管2の中心に向けることができない。一対のロボット6A,6Bは、母材1の軸方向に延びる線に対して対称な溶接を実現するためのものである。
【0039】
具体的には、まず、一対のロボットの一方である第1ロボット6Aを用いて、インサートリング3を母材1の軸方向に延びる線で二等分した半分を溶融させる。ついで、一対のロボットの他方である第2ロボット6Bを用いて、インサートリング3の残りの半分を溶融させる。このとき、第1ロボット6Aが保持する溶接トーチ5からのアークが第2ロボット6Bが保持する溶接トーチ5からのアークに連続的に引き継がれるように、第1ロボット6Aおよび第2ロボットを動作させることが望ましい。このようにすれば、一対のロボット6A,6Bを用いて配管2の全周に亘って連続的な溶接を行うことができる。
【0040】
第1ロボット6Aが保持する溶接トーチ5からのアークが第2ロボット6Bが保持する溶接トーチ5からのアークに連続的に引き継がれるようにするには、図4に示すようにインサートリング3の外端面(プレート部31の先端面31c)とインサートリング3の中心を通って母材1の軸方向に延びる線との2つの交点を第1基点Aおよび第2基点Bとしたときに、第1ロボット6Aを溶接トーチ5からのアークが第1基点Aから第2基点Bに至るように動作させ、第2ロボット6Bを溶接トーチ5からのアークが第2基点Bから第1基点Aに至るように動作させる。そして、第1ロボット6Aが保持する溶接トーチ5からのアークが第2基点Bに至ると同時に、第2基点Bにおいて第2ロボット6Bが保持する溶接トーチ5からアークを発生させる。
【0041】
(3)第2溶接工程
第2溶接工程では、MIG溶接またはMAG溶接などにより、溝12と傾斜面22とで囲まれる空間を溶接材で埋める。この第2溶接工程も、一対のロボット6A,6Bを用いて行う。ただし、一対のロボット6A,6Bは、TIG溶接用の溶接トーチ5の代わりに、MIG溶接またはMAG溶接用の、溶接ワイヤを供給可能な溶接トーチ(図示せず)を保持する。そして、第1溶接工程と同様に、第1ロボット6Aが保持する溶接トーチからのアークが第2ロボット6Bが保持する溶接トーチからのアークに連続的に引き継がれるように、第1ロボット6Aおよび第2ロボット6Bを動作させれば、MIG溶接またはMAG溶接においても配管2の全周に亘って連続的な溶接を行うことができる。
【0042】
なお、第2溶接工程を第1溶接工程に引き続いて行う場合には、第2ロボット6Bが第1溶接工程に使用されている間に、第1ロボット6AがTIG溶接用の溶接トーチ5をMIG溶接用またはMAG溶接用の溶接トーチに持ち替え、第2ロボット6Bが保持するTIG溶接用の溶接トーチ5からのアークが第1ロボット6Aが保持するMIG溶接またはMAG溶接用の溶接トーチからのアークに連続的に引き継がれるように、第1ロボット6Aおよび第2ロボット6Bを動作させてもよい。このようにすれば、TIG溶接からMIG溶接またはMAG溶接に切り替える際にも、連続的な溶接を行うことができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の溶接方法で用いられるインサートリング3では、裏当部32に上側突出部33が残されている。これにより、アンダーカットを防ぐことができる。また、上側突出部33の突出高さH1を下側突出部34の突出高さH2よりも小さくすることにより、上側突出部33の溶け残りを抑制することができる。
【0044】
また、母材1の貫通穴15を縁取る周壁11の回りには環状の溝12が形成されているので、母材1の形状を問わずに、配管2を接合するための薄肉の周壁11を安価に形成することができる。
【0045】
さらに、本実施形態のように母材1に複数の貫通穴15が設けられていれば、配管2同士の間の隙間によっては配管2の全周に亘って溶接トーチ5の向きを配管2の中心に向けることができない場合もある。しかし、この場合でも、図5に示すような断面形状のインサートリング3を用いれば、溶接欠陥を抑制することができる。しかも、配管2同士の間の隙間が狭くても、溶接欠陥を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、母材1の両側に設置された一対のロボット6A,6Bを用いて第1溶接工程を行っているので、配管2同士の間の隙間が狭くても母材1への配管2の溶接(初層による接合)を自動的に行うことができる。
【0047】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、インサートリング3の裏当部32の凸面である表面32aは、必ずしも上側垂直面33aの上端から下側垂直面34aの下端まで連続している必要はない。例えば、図6に示す変形例のインサートリング3’のように、上側突出部33が水平方向にフラットな上面33bを有していて、凸面である表面32aは、上側突出部33の上面33bの内側端部から連続していてもよい。この場合、表面32aの断面形状は、全域に亘って同一半径の円弧であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の溶接方法は、水平方向に延びる母材に上方から配管を溶接する際に特に有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 母材
11 周壁
15 貫通穴
2 配管
21 下端部
3 インサートリング
31 プレート部
32 裏当部
33 上側突出部
34 下側突出部
5 溶接トーチ
6A,6B ロボット
図1
図2
図3
図4
図5
図6