【実施例】
【0013】
図1は、本発明の溶融金属漏出防止装置の一実施例を示す縦断面図、
図2は、その使用状態を示す縦断面図である。
【0014】
図1の溶融金属漏出防止装置10は、鋼製の本体20と、この本体20の内部に設けられた栓体配置空間20a内に配置された鋼製の栓体30とを備えてなる。この溶融金属漏出防止装置10は、
図2に示すようにポーラスプラグ50にガスを供給するためのガス供給管路60の途中に配置されている。
【0015】
本体20は、その上部にガス排出孔20bを、下部にガス導入孔20cをそれぞれ有しており、これらのガス排出孔20b及びガス導入孔20cは栓体配置空間20aに通じている。この本体20は、組み立てやすくするために基体21と蓋体22とで構成されており、基体21に蓋体22を螺合することで一体化され、その内部に栓体配置空間20aが形成される。
【0016】
栓体配置空間20aは下部が逆円錐状になった空間であり、この栓体配置空間20a内に、同様に下部が逆円錐状になった栓体30が吊り具40で吊り下げられて配置されている。栓体30及び栓体配置空間20aの各下部の逆円錐状部分の傾斜面の傾斜角度は同じ角度になっており、ガス排出孔20b、栓体30、及びガス導入孔20cの中心軸は一致し、かつ栓体30と本体20との間に隙間が形成されるように構成されている。この隙間(栓体配置空間20a)は、ガス排出孔20b及びガス導入孔20cに通じており、上述のガス供給管路60の一部を構成するガス流路20dとなっている。
【0017】
栓体30の上部(上面)には、ガス排出孔20bの直下に位置するように凹部31が設けられ、この凹部31の底面に吊り具40の下端がろう付け(銀ロウ、融点約800℃)によって接合されている。吊り具40の上端は本体20の上部(栓体配置空間20aの天井面)に通常のアーク溶接で溶接固定されている。この吊り具40は鋼製で筒状の形状を有しており、その側面にはガス流路として4つの孔41が設けられている。
【0018】
図2を参照すると、取鍋70の底の耐火物71にポーラスプラグ50が取り付けられている。そして、ポーラスプラグ50にガスを供給するためのガス供給管路60の下流側のガス供給パイプ61を
図1に示した溶融金属漏出防止装置10の本体20のガス排出孔20bに螺合し、また、ガス供給管路60の上流側のガス導入パイプ62をガス導入孔20cに螺合することで、溶融金属漏出防止装置10がガス供給管路60の一部をなすように取り付けられている。なお、溶融金属漏出防止装置10の周囲には、常法により筒状の耐火物81、82が配置され、取鍋70の底からバイオネット(図示していない)により押し付けることで、ポーラスプラグ50を取鍋70の底に固定することができる。
【0019】
以上の構成において、ガス供給管路60の上流側のガス導入パイプ61にアルゴンガスなどのガスを導入することで、溶融金属漏出防止装置10及びガス供給パイプ61を介してポーラスプラグ50にガスを供給し、そのガスを取鍋70内の溶鋼中に吹き込む。このとき、溶融金属漏出防止装置10においては、栓体30は栓体配置空間20a内に吊り下げられて配置されており、常にガス導入孔20cからガス排出孔20bまでガス流路20dが確保されているため、圧力損失はほとんど発生しない。また、ポーラスプラグ50が損耗してこれを交換する場合であっても、溶融金属漏出防止装置10は取り外してポーラスプラグ50のみを交換し、溶融金属漏出防止装置10は繰り返して使用することができる。
【0020】
一方、使用中に溶融金属がポーラスプラグ50の気孔を通過してガス供給パイプ61内に漏出してきた場合、その溶融金属はガス排出孔20bから本体20内に浸入し、直下の栓体30上部の凹部31に溜まり、吊り具40下端のろう付け部41を溶融する。その結果、栓体30が吊り具40から離れて落下する。そして、栓体30の逆円錐状の下部の先端部分がガス導入孔20cに入って栓をすることで、ガス導入孔20cが閉塞する。更に本実施例では、栓体30の逆円錐状の下部が、同様に逆円錐状の栓体配置空間20aの下部に嵌り込むので、
図1においてガス流路20dとして存在していた隙間がなくなり、ガス流路20dが完全に遮断される。したがって、溶融金属はガス導入孔20cまで流れ込むことなく、栓体30と本体20とによって冷却され凝固するため、溶融金属の外部への漏出を防止することができる。
【0021】
ここで本発明では、吊り具40が溶融金属と接触したときにその吊り具40から栓体30を落下させるために、吊り具40の少なくとも一部を溶融金属の温度以下の融点を有する低融点材料で形成している。すなわち、その低融点材料で形成した部分が溶融金属により溶融し、その結果、栓体30が吊り具40から落下する。このような低融点材料としては、溶融金属が溶鋼の場合、鋼、鋳鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、ハンダなどが挙げられ、これらの低融点材料で吊り具40の少なくとも一部を形成する。例えば、
図1の実施例のように吊り具40を栓体30に連結するときに、低融点材料を使用して接合することが可能である。なお、低融点材料で形成する部分は吊り具40を栓体30に連結する部分には限定されず他の部分であってもよい。また、吊り具40全体を低融点材料で形成してもよい。この場合、その一部の断面積を他の部分より小さくしておけば、その断面積の小さい部分がより早く溶融し、吊り具40から栓体30を落下させやすい。
【0022】
また、本実施例のように、栓体30の上部にガス排出孔20bの直下(真下)に位置するように凹部31を形成し、この凹部31の底面にろう付けによって吊り具40の下端を接合することで、ガス排出孔20bから浸入してきた溶融金属を凹部31に集め、吊り具40の溶融させたい部分であるろう付け部41を優先して溶融金属に接触させることができるので、より早く栓体30を落下させてガス導入孔20を閉塞し、ガス流路20dを遮断することができる。このように、吊り具40の溶融させたい部分(低融点材料で形成した部分)は、凹部31の底面との連結部分とすることが最も好ましいが、凹部31内に位置するようにしておけば凹部31に溜まった溶融金属で優先的に溶融するので、少なくとも吊り具40の低融点材料で形成した部分は凹部31内に位置するようにすることが好ましい。
【0023】
また、本実施例では、栓体30の中心軸がガス導入孔20cの中心軸と一致しているので、栓体30の落下により、ガス導入孔20cを確実に閉塞できる。なお、栓体30はガス導入孔5を閉塞するものであることから、その横断面の大きさはガス導入孔20cの横断面の大きさより大きいことは当然である。
【0024】
栓体30を含めた溶融金属漏出防止装置10の大きさは、漏出してくる溶融金属の量、比熱及び凝固点、栓体30と本体20に使用する材料の比熱と凝固点等を考慮して適宜決定されるものである。この点、本発明の溶融金属漏出防止装置10は、栓体30を吊り下げた構造になっていることから、栓体30を大きくしても従来のように圧力損失が大きくならないため、任意の大きさとすることが可能であり、より確実に溶融金属の外部への漏出を防止することができる。栓体30及び本体20は、金属、耐火物、セラミックス、あるいはこれらの複合体などで形成することができる。
【0025】
なお、本実施例において溶融金属漏出防止装置10は、
図2に示すように、取鍋70の底に組み込まれるように配置したが、取鍋70の底の下方に設けることも可能である。ただし、本発明の溶融金属漏出防止装置10は、重力によって栓体30が落下する仕組みになっているため、ガス排出孔20bを上側にガス導入孔20cを下側に配置して使用する必要がある。
【0026】
図3は、本発明の溶融金属漏出防止装置の他の実施例を示す縦断面図である。この実施例は、栓体30を吊り下げる吊り具としてアルミニウム製の雄ねじ90を使用したものである。具体的には、本体20の蓋体22に2個のねじ貫入孔22aを設け、このねじ貫入孔22aにアルミニウム製の雄ねじ90を貫入し、その先端部分を栓体30の凹部31底面に設けた雌ねじ部32に螺合することで栓体30を吊り下げている。雄ねじ部にはガスリークを防止するために、セラミックパッキンあるいは雄ねじの上部の空間にセラミック製のシール材を充填することができる。
【0027】
この構成において、溶鋼がガス排出孔20bから浸入してくると、低融点材料であるアルミニウムが溶融して栓体30が落下し、ガス導入孔20cを塞ぎ、本体20と栓体30と隙間のガス流路20dも遮断されるため、溶鋼の外部への流出を防止することができる。
【0028】
なお、本実施例では、栓体30の凹部31底面からガイド部33を立ち上げ、このガイド部33によって溶融金属を雌ねじ部32(吊り具と凹部底面との連結部分)に案内するようにしているので、栓体30をより早く落下させることができる。