(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082316
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】誘導電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20170206BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P5/46 J
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-111159(P2013-111159)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-230467(P2014-230467A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】多田 征史
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−104677(JP,A)
【文献】
特開平08−080056(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0279215(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1台以上の誘導電動機と、
試験指令に応答して前記各誘導電動機のトルク制御を停止し、前記各誘導電動機に一定の正弦波状の電圧を印加して電流を流すトルク制御部と、
各誘導電動機に入力される前記電流を検出する電流検出部と、
前記各誘導電動機に入力される前記電流の電流ベクトルの回転方向を求める電流ベクトル演算部と、
前記電流ベクトルの回転方向のいずれかが異常であることを検知する回転方向異常検知部と、
を備え、
前記電流ベクトル演算部は、前記電流ベクトルの微分と、前記電流ベクトルとの外積から前記電流ベクトルの回転方向を求め、
前記回転方向異常検知部は、前記外積の、前記電流ベクトルに直交する成分の符号に基づいて、前記電流ベクトルの回転方向の異常を検知することを特徴とする誘導電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1台以上の誘導電動機を制御する誘導電動機制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に列車等の車両においては、複数台の誘導電動機のトルクを一括制御し、台車制御や1車両制御を行っている。
【0003】
図2は、このような制御を行う従来の誘導電動機制御装置の構成例を示すブロック図である。なお、
図2には4台の誘導電動機101〜104を示しているが、誘導電動機は何台であっても良い。以下、誘導電動機は4台とし、 また各誘導電動機101〜104のモータ定数が同じであるものとして説明するが、その他の構成をとることもできる。
【0004】
図2に示す誘導電動機制御装置では、特許文献1等に記載されるように、小型化等の観点から、誘導電動機には回転速度検出器が取り付けられていない。そして、誘導電動機の総和電流iと電力変換部2に入力される電圧指令vとから、誘導電動機の回転速度ωmを演算する。以下にその手順を示す。
【0005】
総和電流検出部200は、電力変換部2から個々の誘導電動機101〜104に流れる三相電流の総和である総和電流iを検出する。
【0006】
電圧系磁束演算部3は、総和電流iと、電力変換部2に入力される電圧指令vとから、誘導電動機磁束φを式(1)で演算する。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、R1は全誘導電動機の一次抵抗合成値、L2は二次自己インダクタンス合成値、Mは相互インダクタンス合成値、Lekは漏れインダクタンス合成値である。なお漏れインダクタンス合成値Lekは、下記の式(2)で与えられる。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、L1は全誘導電動機の一次自己インダクタンス合成値である。
【0011】
回転速度演算部4は、総和電流iと誘導電動機磁束φとから、式(3)〜式(5)を用いて誘導電動機回転速度ωmを演算する。
【0012】
【数3】
【0013】
ここで、R2は全誘導電動機の二次抵抗合成値、FA及びFBは誘導電動機磁束φの各成分である。
【0014】
式(5)で演算される誘導電動機回転速度ωmは、式(6)のように、各誘導電動機101〜104の回転速度ωm1〜ωm4の平均値となる。
【0015】
【数4】
【0016】
ここで、ωm1〜ωm4はそれぞれ、誘導電動機101〜104の回転速度である。
【0017】
次にトルク制御部1は、誘導電動機回転速度ωmと総和電流iとに基づいて、誘導電動機磁束φが磁束指令φ*に、全誘導電動機の総トルクがトルク指令τ*になるような電圧指令vを出力する。
【0018】
電力変換部2は電圧指令vを増幅し、負荷である誘導電動機101〜104に電力を供給する。
【0019】
以上の構成とすることにより、全誘導電動機の総トルクをトルク指令τ*に追従させる制御ができる。ここで示す例では、各誘導電動機のモータ定数が同じであるため、各誘導電動機は、トルク指令τ*の1/4ずつのトルク(τ*/4)を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平11−69895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したような従来の誘導電動機制御装置には、以下に示す問題点がある。
【0022】
誘導電動機制御装置は、既知の誘導電動機のモータ定数に基づいて、上述した制御を行う。
【0023】
ここで、誘導電動機のいずれかが誤配線されている場合、具体的には、誘導電動機101のV相、W相がそれぞれ、電力変換部2のW相、V相に接続されている場合を考える。
【0024】
この場合には、正常に配線されている場合と比較して、誘導電動機101は、同一の電圧入力に対して異なるモータ定数を持つように振る舞う。その結果、誘導電動機のモータ定数が、誘導電動機制御装置が想定しているものとは異なるものとなるため、誘導電動機が正しく制御されないおそれがあり、また過電流が発生するおそれがある。
【0025】
このような場合、誘導電動機の誤配線を速やかに検知して対処する必要がある。しかしながら、電車との車両は通常、1台の誘導電動機制御装置で制御されているわけではなく、例えばそれぞれが誘導電動機制御装置を有する複数台の車両を連結して運行している。そのため、いずれかの誘導電動機が誤配線されている場合でも、車両全体の動作は保たれ、過電流等の大きな異常が発生するまで気付かない場合があり、最悪の場合、誘導電動機の破壊や、電力変換器素子の破壊へとつながるおそれがあった。
【0026】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、誘導電動機の誤配線等の異常を検知することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この発明の誘導電動機制御装置は、1台以上の誘導電動機と、試験指令に応答して前記各誘導電動機のトルク制御を停止し、前記各誘導電動機に一定の正弦波状の電圧を印加して電流を流すトルク制御部と、各誘導電動機に入力される前記電流を検出する電流検出部と、前記各誘導電動機に入力される前記電流の電流ベクトルの回転方向を求める電流ベクトル演算部と、前記電流ベクトルの回転方向のいずれかが異常であることを検知する回転方向異常検知部と、を備え
、前記電流ベクトル演算部は、前記電流ベクトルの微分と、前記電流ベクトルとの外積から前記電流ベクトルの回転方向を求め、前記回転方向異常検知部は、前記外積の、前記電流ベクトルに直交する成分の符号に基づいて、前記電流ベクトルの回転方向の異常を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
この発明に係る誘導電動機制御装置によれば、誘導電動機の誤配線等の異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の誘導電動機制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】従来の誘導電動機制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図3】誘導電動機に入力される電流の電流ベクトルの回転方向RotXと、回転方向異常検知部が演算するKXとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態の誘導電動機制御装置は、
図1に示すように、回転方向異常検知部6と、電流ベクトル演算部5とを新たに設けることにより、誘導電動機101〜104のいずれかが誤配線されていること等の異常を検知することができる。そして運転台7は、回転方向異常検知部6が出力する検知信号Kを受け取って、例えば誤配線されていることを運転台表示部に表示することができる。
【0032】
図1は、本発明の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した
図2と同様の構成要素については、
図2と同じ符号を付して説明を省略する。また上述したように、誘導電動機は4台とし、各誘導電動機101〜104のモータ定数は同じであるものとして説明するが、それ以外の構成をとることもできる。
【0033】
電流検出部201〜204はそれぞれ、誘導機101〜104に入力される電流を検出する。本実施形態では、電流ベクトル演算部5で、電流検出部201〜204が検出した、各誘導機101〜104に入力される三相電流を、αβ座標系の二相電流に変換している。ここでα軸は各誘導機のU相軸と一致し、β軸はα軸と直交している。
【0034】
電流ベクトル演算部5は、電流ベクトルi1〜i4を用いて、式(7)〜(10)のように、電流ベクトルi1〜i4の微分と、当該電流ベクトルとの外積を求める。
【0036】
ここで、記号「p」は微分演算子を示す。またベクトルRot1〜Rot4の要素はそれぞれ、(0,0,rot1)、(0,0,rot2)、(0,0,rot3)、(0,0,rot4)として表され、電流ベクトルi1〜i4にそれぞれ直交する成分であるrot1〜rot4の符号は、電流ベクトルi1〜i4の回転方向を示す。
【0037】
なおこの実施形態では、電流ベクトルi1〜i4の微分を、所定のサンプリング周期で取得した電流ベクトルi1〜i4の変化量に基づいて演算しているが、他の方法で電流ベクトルi1〜i4の微分を求めることもできる。
【0038】
回転方向異常検知部6は、電流ベクトル演算部5が求めた値rot1〜rot4を入力とし、rot1〜rot4の符号に基づいて検知信号Kを出力する。検知信号Kは、各誘導電動機101〜104に入力される電流の電流ベクトルi1〜i4の回転方向のいずれかが異常であることを示す。
【0039】
検知信号Kの算出方法をより詳細に示す。まず、各誘導電動機101〜104の回転方向情報K1〜K4を、下記の式(11)〜(14)によって求める。式(11)〜(14)に示すrotX(この実施形態では、X=1〜4)と、KXとの関係を図示すると、
図3のようになる。
【0041】
そして、式(15)のように、K1、K2、K3、K4の積をとって検知信号Kを求め、出力する。なお、式(15)における記号「×」は単なる積を示す。
【0043】
すなわち、検知信号Kは、K1、K2、K3、K4が全て正の値であれば1となり、一つでも0以下の値であれば0となる。
【0044】
また運転台7は、検知信号Kに基づいて、誘導電動機の誤配線の有無を、図示しない運転台表示台に表示する。なお、どの誘導電動機が誤配線されているかを表示することもできる。
【0045】
テスト指令作成部を構成する運転台7は、回転方向異常検知部6が求めた検知信号Kと、試験指令tとを入力とし、Kとtとの論理積をとってテスト指令Tを求め、出力する。
【0046】
試験指令tは、誘導機101から104の誤配線を検知する場合に1とし、その他の場合には0とする。試験指令tを1にする場合とは、例えば車両製造後や電動誘導機交換後である。
【0047】
トルク制御部1は、テスト指令Tがオン(1)のときには、各誘導電動機101〜104のトルク制御を停止して、誘導電動機101〜104が正しく配線されている場合に、上述したrot1、rot2、rot3、rot4がそれぞれ正の値となるような電流が、誘導電動機101〜104に流れるように、一定の正弦波状の電圧指令vを出力する。
【0048】
一方、トルク制御部1は、テスト指令Tがオフ(1)のときには、誘導電動機回転速度ωmと総和電流iを基に、全誘導電動機の磁束及び総トルクが、磁束指令φ*及びトルク指令τ*となるような電圧指令vを出力し、各誘導電動機101〜104のトルク制御を行う。
【0049】
電力変換部2は電圧指令vを増幅し、負荷である誘導電動機101〜104に電力を供給する。電力の供給は、PWM制御等で行うことができる。
【0050】
以上の構成とすることにより、運転台7に対して外部信号である試験指令tを入力することで、列車運用を開始する前に、各誘導電動機のいずれかが誤配線されたことを検知することができる。
【0051】
なお、
図1に示す実施形態では、誘導電動機回転速度ωmを回転速度演算部4で演算しているが、代わりに誘導電動機回転速度を計測するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
この発明に係る誘導電動機制御装置は、列車等の車両に用いて、複数台の誘導電動機を制御するのに好適である。
【符号の説明】
【0053】
101、102、103、104 誘導電動機
201、202、203、204 電流検出部
200 総和電流検出部
1 トルク制御部
2 電力変換部
3 磁束演算部
4 回転速度演算部
5 電流ベクトル演算部
6 回転方向異常検知部
7 運転台