(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082606
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】脱調検出方法、及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20170206BHJP
【FI】
H02P27/06
【請求項の数】12
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-14984(P2013-14984)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-147239(P2014-147239A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
【審査官】
▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−079200(JP,A)
【文献】
特開2007−312457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するスイッチング回路と、電圧指令に基づき前記スイッチング回路のオン、オフを制御するスイッチング制御信号を出力するPWM制御器と、同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、該電圧指令と前記電流検出器で検出した電流とに基づいて制御軸と該同期電動機の回転子磁極軸との軸誤差を推定する軸誤差推定器と、前記軸誤差推定器で推定した軸誤差の任意の周波数成分を抽出する周波数成分抽出器と、前記周波数成分抽出器で抽出した周波数成分に基づいて脱調か否かを判断する脱調判断部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、前記周波数成分抽出器にて抽出する軸誤差の周波数成分が、制御軸の回転周波数の整数倍であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置であって、前記脱調判断部にて脱調状態であると判断された場合に、前記スイッチング回路の出力を遮断することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電力変換装置であって、前記脱調判断部にて脱調状態であると判断された場合に、前記PWM制御器は前記スイッチング回路の全てのスイッチをオフして出力を遮断することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電力変換装置であって、前記脱調判断部にて脱調状態であると判断された場合に、前記PWM制御器は警報情報を出力することを特徴とした電力変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電力変換装置であって、前記脱調判断部では、前記周波数成分抽出器で抽出した周波数成分と予め定めた閾値とに基づいて脱調か否かを判断することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
同期電動機に流れる電流を検出する電流検出工程と、電圧指令と前記電流検出工程で検出した電流とに基づいて制御軸と該同期電動機の回転子磁極軸との軸誤差を推定する軸誤差推定工程と、前記軸誤差推定工程で推定した軸誤差の任意の周波数成分を抽出する周波数成分抽出工程と、前記周波数成分抽出工程で抽出した周波数成分に基づいて脱調か否かを判断する脱調判断工程と、を備える脱調検出方法。
【請求項8】
請求項7記載の脱調検出方法において、前記周波数成分抽出工程にて抽出する軸誤差の周波数成分が、制御軸の回転周波数の整数倍であることを特徴とする脱調検出方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の脱調検出方法であって、前記脱調判断工程にて脱調状態であると判断された場合に、該同期電動機への出力を遮断することを特徴とする脱調検出方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の脱調検出方法であって、前記脱調判断工程にて脱調状態であると判断された場合に、スイッチング回路の全てのスイッチをオフして該同期電動機への出力を遮断することを特徴とする脱調検出方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載の脱調検出方法であって、前記脱調判断工程にて脱調状態であると判断された場合に、警報情報を出力することを特徴とした脱調検出方法。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれかに記載の脱調検出方法であって、前記脱調判断工程では、前記周波数成分抽出工程で抽出した周波数成分と予め定めた閾値とに基づいて脱調か否かを判断することを特徴とする脱調検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転位置検出器を用いない同期電動機駆動制御における、脱調検出方法、及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機に代表される同期電動機の駆動には、同期電動機の回転子磁極位置に応じて電流を制御する必要があり、その制御に電力変換装置が用いられる。前記駆動制御には回転子磁極位置情報が不可欠であり、位置検出器を用いて回転子磁極位置を検出することが一般的である。しかし、位置検出器の価格や耐環境性等の問題から、近年、同期電動機の電圧や電流等から回転子磁極位置を推定し、同期電動機を駆動する様々な方法が提案されている。
【0003】
同期電動機の駆動において、急峻な負荷変動等の要因により、制御軸と回転子磁極軸が同期回転しない状態、すなわち脱調が発生した場合には、駆動制御不能状態に陥るため、速やかに電力変換装置を停止させることが望まれている。この時、位置検出器を用いている場合には、脱調を防止するように駆動制御することや、脱調の発生を容易に検出することが可能である。しかし、位置検出器を用いていない場合には、脱調を完全に防止するように駆動制御することや、脱調の発生を検出することは困難である。
【0004】
位置検出器を用いずに脱調を検出する方法として、例えば、特許文献1に記載されている方法がある。特許文献1では、「センサレス制御を行うための永久磁石形同期電動機の制御装置において、電動機の端子電圧相当値、電機子電流に比例する電機子抵抗電圧降下演算値及び電機子反作用磁束演算値、電機子電流の時間微分値に比例する過渡電圧演算値、並びに、速度演算値を用いて拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算器と、拡張誘起電圧からその角度を演算する角度演算器と、拡張誘起電圧の角度を増幅して速度演算値を求める速度演算器と、速度演算値を増幅して磁極位置演算値を求める磁極位置演算器と、拡張誘起電圧の角度から脱調を検出する脱調検出器と、を備える永久磁石形同期電動機の制御装置」(要約書)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278595号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】坂本潔、岩路善尚、遠藤常博、「軸誤差の直接推定演算による永久磁石同期モータの位置センサレス制御」、平成12年電気学会産業応用部門全国大会論文集[III]、No.97、p.963−966、平成12年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にて開示されている脱調検出方法は、例えば電機子電流検出値に重畳されるノイズの影響により、拡張誘起電圧の角度が瞬時的に跳躍し、所定の閾値を超えてしまった場合、脱調を誤検出してしまう。また、前記ノイズの影響を排除するためにローパスフィルタ等を用いると、拡張誘起電圧の角度が高周波で脈動するような脱調が発生した場合に、脱調を検出できない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、同期電動機の駆動制御を行う電力変換装置において、位置検出器を用いることなく、ノイズの影響を受けない信頼性の高い脱調検出方法及び電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
直流電力を交流電力に変換するスイッチング回路と、電圧指令に基づき前記スイッチング回路のオン、オフを制御するスイッチング制御信号を出力するPWM制御器と、同期電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、該電圧指令と前記電流検出器で検出した電流とに基づいて制御軸と該同期電動機の回転子磁極軸との軸誤差を推定する軸誤差推定器と、前記軸誤差推定器で推定した軸誤差の任意の周波数成分を抽出する周波数成分抽出器と、前記周波数成分抽出器で抽出した周波数成分に基づいて脱調か否かを判断する脱調判断部と、を備える電力変換装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、同期電動機の駆動制御を行う電力変換装置において、位置検出器を用いることなく、ノイズの影響を受けない信頼性の高い脱調検出方法及び電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1における電力変換装置の実施形態構成の一例である。
【
図2】正常時及び脱調時における、制御軸と回転子磁極軸との関係の一例である。
【
図3】正常時及び脱調時における、軸誤差と軸誤差における印加電圧周波数の整数倍成分波形の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図を用いながら説明する。なお、以下の説明において、各図で共通する構成要素には同一の符号をそれぞれ付しており、それらについての重複した説明は省略する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1における電力変換装置の実施形態構成の一例である。
【0014】
3相交流電源1より入力された3相交流電圧は、整流回路2により整流され、平滑回路3により平滑される。
【0015】
スイッチング回路4は、平滑回路3にて平滑された電圧、すなわち直流電圧を、3相交流電圧に変換し、3相交流同期電動機6に印加する。
【0016】
PWM制御器7は、電圧指令に基づいた電圧が3相交流同期電動機6に印加されるように、スイッチング回路4のオン、オフを制御するスイッチング制御信号を出力する。
【0017】
電流検出器5は、3相交流同期電動機6に流れる3相交流電流を検出する。2相のみを検出し、3相交流の総和が零であることから、残りの1相を算出してもよい。また、平滑回路3の正極側または負極側にシャント抵抗を設け、このシャント抵抗に流れる電流から3相交流電流を推定してもよい。
【0018】
軸誤差推定器8は、電圧指令と検出電流から制御軸と3相交流同期電動機6の回転子磁極軸との軸誤差を推定する。電圧指令と検出電流から軸誤差を推定する手段としては、例えば非特許文献1に記載の手段がある。非特許文献1では、永久磁石同期電動機の数学モデルから誘起電圧を直接求め、その誘起電圧から軸誤差を推定している。
【0019】
周波数成分抽出器10は、推定軸誤差の任意の周波数成分を抽出する。任意の周波数成分は、例えばフーリエ変換で抽出することが可能である。抽出する周波数成分は、複数の周波数帯であってもよい。また、抽出する周波数成分の周波数帯は、3相交流同期電動機6の駆動制御状態、例えば制御軸の回転周波数に依存して変化させてもよい。
【0020】
脱調判断部9は、抽出周波数成分と予め設定された閾値とを用いて脱調の判断を行い、脱調信号を出力する。なお閾値は、3相交流同期電動機6の駆動状況、例えば周波数や電圧、電流等に依存して変化させてもよい。また、外部から与えられる信号や設定により変化してもよい。抽出周波数成分が複数ある場合には、それぞれに対して閾値を設定し、すくなくとも1つ以上の組み合わせより脱調と判断してもよい。
【0021】
脱調信号がPWM制御器7に入力されると、PWM制御器7はスイッチング回路4の全てのスイッチを強制的にオフし、スイッチング回路4の出力を遮断、または警報情報を出力する。なお、スイッチング回路4の出力遮断と警報情報の出力は、少なくともどちらか一方を行えばよい。
【0022】
図2は、正常時及び脱調時における、制御軸と回転子磁極軸との関係の一例である。
【0023】
正常時には、制御軸と回転子磁極軸は、3相交流同期電動機6に印可する電圧の周波数で同期回転する。一方、脱調時には3相交流同期電動機6の回転は停止するため、回転子磁極軸も停止し、制御軸のみ3相交流同期電動機6に印可する電圧の周波数で回転する。
【0024】
図3は、正常時及び脱調時における、軸誤差と軸誤差における印加電圧周波数の整数倍成分波形の一例である。
【0025】
正常時には、制御軸と回転子磁極軸が一致して同期回転するため、軸誤差は零となる。一方、脱調時の軸誤差は印加電圧周波数の整数倍で脈動するため、その周波数成分は零以外の一定値を有する。
【0026】
従って、推定軸誤差における電圧指令周波数の整数倍成分を、周波数成分抽出器10にて抽出し、脱調判断部9にて設定閾値と比較することにより、脱調を検出することが可能である。
【0027】
また、
図3に示すように、脱調時の軸誤差における印加電圧周波数の整数倍成分は零以外の一定値を有する。そのため、抽出周波数成分に、高周波成分を排除するローパスフィルタや移動平均等を用いても、ノイズ等の脱調検出に不必要な周波数成分のみを排除することができ、安定した脱調検出が可能である。
【0028】
さらに、脱調が検出できることにより、脱調による駆動制御不能状態の継続を防止することも可能である。
【0029】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0030】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0031】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 3相交流電源
2 整流回路
3 平滑回路
4 スイッチング回路
5 電流検出器
6 3相交流同期電動機
7 PWM制御器
8 軸誤差推定器
9 脱調判断部
10 周波数成分抽出器