特許第6082612号(P6082612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6082612シート成形品の溶融押出成形装置、及び、溶融押出成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082612
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】シート成形品の溶融押出成形装置、及び、溶融押出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20170206BHJP
   B29C 47/88 20060101ALI20170206BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   B29C59/04 C
   B29C47/88 Z
   G02B5/02 C
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-21368(P2013-21368)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-151487(P2014-151487A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】柿木 修
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真隆
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−010232(JP,A)
【文献】 特開2009−160831(JP,A)
【文献】 特開2008−073723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/04
B29C 47/88
G02B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出成形賦形用のロール、及び、前記溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロールを含む溶融押出成形賦形用のロール組立体と、シート状の溶融熱可塑性樹脂を押し出すダイとを備える、シート成形品の溶融押出成形装置であって、
前記溶融押出成形賦形用のロールは、
内部に熱媒流路が設けられているロール本体部であって、40W/m・K以上、100W/m・K以下の熱伝導率を有する金属材料から製作される、ロール本体部と、
当該ロール本体部の表面に設けられる皮膜層であって、常温且つ未処理の状態で10W/m・K以下の熱伝導率及び400以上のマイクロビッカース硬度を有する非晶性メッキから製作される、皮膜層とを備え、
前記皮膜層の表面に、微細凹凸形状が形成されており、当該微細凹凸形状の底部における前記皮膜層の平均厚みが少なくとも0.5mm以上であり、
前記溶融押出成形装置は、前記ダイ及び前記ロール組立体を用いて前記溶融熱可塑性樹脂から溶融押出成形されるシート成形品の幅をW、前記溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における前記皮膜層の長さをXとしたとき、
>X
を満足するように押出成形条件を制御することを特徴とするシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項2】
前記非晶性メッキは、ニッケル−リン合金メッキであることを特徴とする請求項1に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項3】
前記非晶性メッキは、電解メッキにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項4】
前記メッキ処理は少なくとも2回以上行われることを特徴とする請求項3に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項5】
前記皮膜層中に少なくとも1本以上の積層界面を有していることを特徴とする請求項4に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項6】
前記微細凹凸形状は、マットパターン、プリズムパターン、及びマイクロレンズアレイパターンの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項7】
前記ロール本体部の外径をD、前記ロール本体部の表層から前記熱媒流路までの距離をTとしたとき、
200mm≦D≦800mm
5mm≦T≦40mm
を満足すると共に、
前記ロール本体部を構成する前記金属材料は、炭素鋼、クロム鋼、及びクロムモリブデン鋼の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項8】
前記ダイ及び前記ロール組立体を用いて前記溶融熱可塑性樹脂から溶融押出成形される前記シート成形品の幅をWとし、前記溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における前記皮膜層の長さをXとしたとき、
20mm≦W−X≦100mm
を満足することを特徴とする請求項1に記載のシート成形品の溶融押出成形装置
【請求項9】
溶融押出成形賦形用のロール、及び、前記溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロールを含み、
前記溶融押出成形賦形用のロールは、
内部に熱媒流路が設けられているロール本体部であって、40W/m・K以上、100W/m・K以下の熱伝導率を有する金属材料から製作される、ロール本体部と、
当該ロール本体部の表面に設けられる皮膜層であって、常温且つ未処理の状態にて10W/m・K以下の熱伝導率及び400以上のマイクロビッカース硬度を有する非晶性メッキから製作される、皮膜層とを備え、
前記皮膜層の表面に、微細凹凸形状が形成されており、当該微細凹凸形状の底部における前記皮膜層の平均厚みが少なくとも0.5mm以上である溶融押出成形賦形用のロール組立体を用いた溶融押出成形方法であって、
ダイから押し出された溶融熱可塑性樹脂を、前記溶融押出成形賦形用のロールと前記圧着用ロールとの間を通過させることで、シート成形品を得ると共に、
前記溶融押出成形賦形用のロールを用いて溶融押出成形される前記シート成形品の幅をW、前記溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における前記皮膜層の長さをXとしたとき、
>X
を満足することを特徴とする溶融押出成形方法。
【請求項10】
前記溶融押出成形賦形用のロールを用いて溶融押出成形される前記シート成形品の幅をWとし、前記溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における前記皮膜層の長さをXとしたとき、
20mm≦W−X≦100mm
を満足することを特徴とする請求項9に記載の溶融押出成形方法。
【請求項11】
前記シート成形品の厚さは、0.05mm乃至0.5mmであることを特徴とする請求項9または10に記載の溶融押出成形方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリメチル−1−ペンテン樹脂から成る群から選択された少なくとも一つの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の溶融押出成形方法。
【請求項13】
前記シート成形品は、光拡散フィルムもしくは輝度向上フィルムであることを特徴とする請求項9から12のいずれか1項に記載の溶融押出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出成形賦形用のロール、溶融押出成形賦形用のロール組立体、及び、溶融押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートの溶融押出成形を行う際、しばしば、表面に微細構造を有する溶融押出成形賦形用のロールを用いてその微細凹凸形状をシート表面に転写することで、熱可塑性樹脂から成るシート成形品の表面に様々な機能を付与している。例えば、ロールの表面に微細なプリズム構造を設けて、当該プリズム構造を転写させることによって、高機能の輝度向上シートを溶融押出成形している。
【0003】
このようなシート成形品を溶融押出成形するためには、一般的に、Tダイやコートハンガーダイのリップ部から流出した溶融熱可塑性樹脂から成るシート(以下、単に『シート』と呼ぶ場合がある)を、表面に微細凹凸形状が賦与された溶融押出成形賦形用の金属ロール(以下、『第1ロール』と呼ぶ場合がある)と圧着用のプレスロール(以下、『第2ロール』と呼ぶ場合がある)との間で圧着する。一般に、ダイ温度、即ち、樹脂温度が高ければ高い程、また、第1ロール及び第2ロールによるプレス圧力が高ければ高い程、更には、ロール設定温度が高ければ高い程、微細凹凸形状の転写性が向上する。
【0004】
しかしながら、ダイ温度やロール設定温度が高過ぎると、第1ロール及び第2ロールとの間での圧着から、第1ロールからのシートの離型までの間における溶融熱可塑性樹脂の冷却が間に合わず、シート成形品がロールに粘着してしまい、剥離マークと呼ばれる外観不良が発生する。それ故、ダイ温度やロール設定温度を高くすることには限界がある。また、プレス圧力に関しても、高圧圧着によってロールベンディングが発生し、シート成形品の膜厚制御が難しくなり、あるいは又、均一転写が困難になるといった不具合が発生する。
【0005】
例えばプラスチックフィルムの熱延伸等に使用される加熱ロールとして、外殻スリーブと、その内側に密着して嵌合した内殻スリーブと、内殻スリーブの内周に接して置かれた発熱体、又は、内殻スリーブ自体に埋め込まれた発熱体とを有し、内殻スリーブは熱伝導性の優れた金属から成る加熱ロールが、例えば、特開平6−128623号公報に記載されている。ここで、外殻スリーブは、例えばステンレス鋼(熱伝導率:16W/m・K)等から作製され、内殻スリーブは、例えば銅又はその合金、アルミニウム又はその合金等(熱伝導率:約200W/m・K〜約400W/m・K)から作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−128623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平6−128623号公報における加熱ロールにあっては、熱クラウンを小さくすることができるとされている。しかしながら、この特許公開公報に開示された加熱ロールを溶融押出成形賦形用のロールとして用いた場合、内殻スリーブを高い熱伝導率を有する材料で作製しているが故に、シートの冷却が急速に進み、転写性の向上を十分には図れないといった問題がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、転写性の向上を十分に図ることができる溶融押出成形賦形用のロール、係る溶融押出成形賦形用のロールを備えた溶融押出成形賦形用のロール組立体、及び、係る溶融押出成形賦形用のロール組立体を用いた溶融押出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形賦形用のロール(以下、便宜上、『第1ロール』と呼ぶ場合がある)は、熱可塑性樹脂の溶融押出成形において使用される溶融押出成形賦形用のロールであって、
内部に熱媒流路が設けられたロール本体部であって、40W/m・K以上、100W/m・K以下の熱伝導率を有する金属材料から製作される、ロール本体部と、
当該ロール本体部の表面に設けられる皮膜層であって、常温且つ未処理の状態で、10W/m・K以下の熱伝導率及び400以上のマイクロビッカース硬度を有する非晶性メッキから製作される、皮膜層とを備え、
前記皮膜層の表面に、微細凹凸形状が形成されており、当該微細凹凸形状の底部(最も深い凹部)における前記皮膜層の平均厚みが少なくとも0.5mm以上であることを特徴とする。
前記非晶性メッキとしては、例えば、ニッケル−リン合金メッキが挙げられる。前記メッキは少なくとも2回以上行われる。前記皮膜層中に少なくとも1層以上の積層界面を有している。前記微細凹凸形状は、マットパターン、プリズムパターン、及びマイクロレンズアレイパターンの少なくとも1種である。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形賦形用のロール組立体は、溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)、及び、溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロール(以下、便宜上、『第2ロール』と呼ぶ場合がある)から成り、
溶融押出成形賦形用のロールは、本発明の溶融押出成形賦形用のロールから構成されている。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形方法は、
溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)、及び、溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロール(第2ロール)から成り、
溶融押出成形賦形用のロールは、本発明の溶融押出成形賦形用のロールから構成された溶融押出成形賦形用のロール組立体を用いた溶融押出成形方法であって、
ダイから押し出された溶融熱可塑性樹脂を、溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)と圧着用ロール(第2ロール)との間を通過させることで、シート成形品を得ることを特徴とする。尚、シート成形品にはフィルム成形品が包含される。
【0012】
本発明の溶融押出成形賦形用のロール、本発明の溶融押出成形賦形用のロール組立体を構成する溶融押出成形賦形用のロール、あるいは、本発明の溶融押出成形方法において使用される溶融押出成形賦形用のロール(以下、これらの溶融押出成形賦形用のロールを総称して、『本発明の第1ロール等』と呼ぶ場合がある)にあっては、ロール本体部の表面に10W/m・K以下の熱伝導率を有する非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層が形成されているが、当該皮膜層は無電解メッキ法あるいは電解メッキ法にて形成することができる。非晶性ニッケル−リン合金メッキは結晶化度が低いので、常温且つ未熱処理の状態にて適度に高いマイクロビッカース硬度(好ましくは400以上、より好ましくは500以上のマイクロビッカース硬度)と微細加工性を併せ持つので、溶融押出成形賦形用のロール材質として好適である。尚、限定するものではないが、非晶性ニッケル−リン合金メッキの熱伝導率の下限値として3W/m・Kを挙げることができる。
【0013】
本発明の第1ロール等においては、皮膜層の表面にマットパターン、プリズムパターン、及びマイクロレンズアレイパターンの少なくとも1種の微細凹凸形状が形成されているが、このうち、マットパターンについては、サンドブラスト、放電加工、ケミカルエッチング等の方法によって形成することができる。また、プリズムパターンやマイクロレンズパターンについては、ダイヤモンドバイトによる切削加工、レーザー加工、ミル彫刻等によって形成することができる。なお、皮膜層上の微細凹凸形状においては、これらに限定されるものではなく、例えば、外装材等に使用するための装飾用の図柄とすることもできる。
【0014】
また、前記皮膜層の厚みとしては、前記微細凹凸形状の底部(最も深い凹部、即ち、前記皮膜層の厚みが最も薄くなっている部分)において、平均して、少なくとも0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、更に好ましくは1.0mm以上となるように設定することが望ましい。尚、限定するものではないが、皮膜層全体の厚みの上限値として、3.0mmを挙げることができる。皮膜層の厚みが増すと、ピットやピンホール等の欠陥が内含される可能性が高くなるが、これらの欠陥を極力防止するという観点からは、当該皮膜層の成形方法として電解メッキ法の方が好ましい。
【0015】
微細凹凸形状の最も深い凹部における非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の厚みを少なくとも0.5mm以上とする為には、微細凹凸形状を形成させる為に必要な厚み分を予め見込んで、非晶性ニッケル−リン合金メッキを多めに施工しておく必要がある。例えば、ダイヤモンドバイトでの切削加工によってプリズム形状を設ける場合には、非晶性ニッケル−リン合金メッキの施工後に、まずは、皮膜層表面の平滑化と軸精度等の向上を図る目的で数十μmから数百μm程度、非晶性ニッケル−リン合金メッキの表面を切削加工で落とす必要がある。この状態から更に、プリズム形状の切削加工を実施することになり、例えばプリズム形状がピッチ100μmの90度V溝である場合には、その加工溝深さは50μm程度となる。このことから、芯出し加工と切削溝加工による非晶性ニッケル−リン合金メッキの目減り量を予め見越して、多めにメッキ処理を実施しておく必要がある。施工されるメッキの厚さとしては、好ましくは0.7〜3.2mm、より好ましくは0.6〜3.1mmである。
【0016】
非晶性ニッケル−リン合金メッキの施工回数については1回でもよいし、複数回に分けて処理して、積層化により厚くしてもよい。複数回に分けて処理する場合には、同種材料であったとしても、皮膜層表面に形成されてしまう不動態皮膜を除去する為のエッチング処理を適切に実施することで可能となる。但し、複数回に分けて施工した場合には、微細凹凸形状が形成される厚み領域に積層面が入らないようにすることが、微細凹凸形状の均一性という観点からは好ましい。また、本発明の第1ロール等を実際の溶融押出成形に使用した後において、その微細凹凸形状の変更を行う必要性が生じた場合には、非晶性ニッケル−リン合金メッキによる皮膜層を全て除去してしまうのではなく、微細凹凸形状が形成されている厚み領域のみをグラインダー等で除去し、微細凹凸形状が形成されていなかった厚み領域を残した状態にて、その上から非晶性ニッケル−リン合金メッキを追加施工するようにすれば時間的にも経済的にもメリットがある。この場合にも適切な前処理を実施することによって密着性が確保できる。施工回数が複数回になった場合には、メッキの断面観察を行うと積層界面が認められるので、判別可能である。尚、非晶性ニッケル−リン合金メッキは、ある温度以上になると結晶化が進んでマイクロビッカース硬度と熱伝導率が上昇してしまうので注意が必要である。マイクロビッカース硬度が高くなると加工性が変わり、微細凹凸形状の形成が難しくなるし、熱伝導率が上昇するので溶融押出成形時の微細凹凸形状の転写性が悪化する。従って、非晶性ニッケル−リン合金メッキと溶融押出成形材料の適切な選定、及び溶融押出成形条件の適切な設定が必要である。
【0017】
非晶性ニッケル−リン合金メッキの熱伝導率やその皮膜層の肉厚の選択に基づき、第1ロール等と接する溶融熱可塑性樹脂の冷却遅延効果の程度の制御が可能である。常温(25℃)から300℃までの温度範囲において、非晶性ニッケル−リン合金メッキの線膨張係数は、ロール本体部を構成する金属材料の線膨張係数とほぼ同等であることが好ましい。溶融押出成形時においては第1ロール等を所望の設定温度とする必要があるため、第1ロール等の温度上昇による非晶性ニッケル−リン合金メッキの割れなどを防止するためである。
【0018】
微細凹凸形状加工前の非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の厚みは均一とすることもできるし、意図的に不均一とすることもできる。例えば、ロール本体部に予めクラウン形状(ロール本体部の表面から熱媒流路までの距離がロール中央部分で厚く、ロール端部で薄くなるような曲率)を付けておき、その上に非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層を設けた後、研削・研磨等によって当該皮膜層表面をフラット化(ロールの回転軸線方向に対して外径を一定化)することにより、ロール中央部分では薄く、ロール端部では厚い被膜層とすることができる。これらの方法により溶融樹脂(シート)の微細凹凸形状の転写性均一化を図ることも可能である。
【0019】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、常温におけるロール本体部の外径をD、ロール本体部の表層から熱媒流路までの距離をTとすると、
200mm≦D≦800mm
5mm≦T≦40mm
を満足することが望ましい。この範囲において、上述した非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層付与による樹脂冷却遅延効果に伴う微細凹凸形状の転写性改善効果が最も顕著に発揮される。また、第1ロールと第2ロールの圧着による変形防止という観点からも、上記範囲とすることが望ましい。
【0020】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、金属材料は、例えば、炭素鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、鋳鉄、及びタングステン鋼の少なくとも1種を含むことが好ましく、より具体的には、例えば、構造用合金鋼材であるクロムモリブデン鋼SCM440を含むことがより好ましい。各材料の常温における熱伝導率は以下の表1のとおりである。
【0021】
[表1]
炭素鋼 :45〜53W/m・K
クロム鋼 :52〜60W/m・K
クロムモリブデン鋼 :40〜48W/m・K
鋳鉄 :48W/m・K
タングステン鋼 :53〜66W/m・K
【0022】
ロール本体部の表面の加工精度は、高ければ高い程、好ましく、その芯振れについては1000分の10ミリ以下、より好ましくは1000分の5ミリ以下であることが望ましい。また、ロール本体部の表面の表面粗度に関しては、非晶性ニッケル−リン合金メッキ処理時の下地の影響を抑えるという観点から、1S以下の表面粗度とすることが望ましい。
【0023】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、溶融押出成形賦形用のロールを用いて溶融押出成形されるシート成形品の幅をWとし、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さをXとしたとき、
>X
を満足することが好ましく、あるいは又、
20mm≦W−X≦100mm
を満足することが好ましい。尚、非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さ(X)は、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向におけるロール本体部の実効的な長さと同じとすることができるし、あるいは又、ロール本体部の実効的な長さよりも短くすることもできる。
【0024】
一般に、熱可塑性樹脂の溶融押出成形においては、ダイのリップ部から流出した溶融熱可塑性樹脂は溶融押出成形賦形用のロールに接触する直前のエアギャップにおいてネックインし、リップ開度の調整では制御しきれないほど、シート最端部が極端に厚くなる場合がある。精密賦形シート成形品の成形において、シート最端部の厚肉部は転写阻害因子となり得るので好ましくない。この端部厚肉部をプレスしないように、ロール端部に段差を設ける場合があるが、本発明における溶融押出成形賦形用のロールにあっては、アモルファス状ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さ(X)をシート成形品の幅(W)よりも予め小さく設定しておくことが可能であるので、ロール端部にわざわざ段差を設ける必要がない。
【0025】
本発明の第1ロール等において、ロール本体部は、切削ドリルによってロール本体部の側面から円管状の熱媒流路を軸方向に対して平行に設けた、所謂ドリルドロールであってもよいし、スパイラルロールとも呼ばれ、熱媒流路がスパイラル状になっている、以下に説明する二重管ロールとしてもよい。尚、熱媒流路の数は、本質的に任意である。熱媒として水や熱媒油を挙げることができる。
【0026】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の溶融押出成形方法において、得られたシート成形品の厚さは0.05mm乃至0.5mmである構成とすることができる。また、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の溶融押出成形賦形用のロール、溶融押出成形賦形用のロール組立体あるいは溶融押出成形方法において、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリメチル−1−ペンテン樹脂から成る群から選択された熱可塑性樹脂である構成とすることができるが、特に、ポリカーボネート樹脂が好適である。これらの樹脂中には適宜、熱安定剤、離型剤、UV吸収剤等の添加剤を添加することができる。そして、得られたシート成形品は光拡散シートである形態とすることができるし、あるいは又、得られたシート成形品は輝度向上シートである形態とすることができる。尚、光拡散シートには、通常、マットパターンが形成され、輝度向上シートには、通常、プリズムパターンが形成されている。更には、光拡散性と集光性とを併せ持つマイクロレンズシートとすることも可能である。
【0027】
溶融押出成形装置を構成する溶融押出成形機は周知の溶融押出成形機を用いればよい。溶融押出成形機は、通常、
ダイを有し、原料熱可塑性樹脂を、可塑化、溶融するための加熱シリンダー(バレルとも呼ばれる)、及び、
加熱シリンダーに取り付けられ、加熱シリンダーに原料熱可塑性樹脂を供給するためのホッパー、
を備えている。本発明の溶融押出成形方法での使用に適した溶融押出成形機として、ベント式押出機やタンデム式押出機を含む周知の一軸押出機、パラレル式二軸押出機やコニカル式二軸押出機を含む周知の二軸押出機を用いることができるし、ダイの構造、構成、形式も、本質的に任意であり、Tダイやコートハンガーダイを挙げることができる。加熱シリンダーは、一般に、供給部(フィードゾーン)、圧縮部(コンプレッションゾーン)、計量化部(メタリングゾーン)から構成され、計量化部の下流にダイが配置されており、供給部にホッパーが取り付けられている。使用する溶融押出成形機によっては、加熱シリンダーを密閉構造とし、加熱シリンダーに不活性ガスを導入できるような改造が必要とされる場合がある。ホッパーに投入された原料熱可塑性樹脂は、加熱シリンダーの供給部では固形のまま圧縮部に送られ、圧縮部の前後で原料熱可塑性樹脂の可塑化、溶融が進行し、計量化部で計量され、ダイを通って押し出される。尚、排気口(ベント部)を設ける場合、排気口(ベント部)を圧縮部あるいはその下流(例えば、圧縮部と計量化部との間)に設ければよい。加熱シリンダー、スクリュー、ホッパーの形式、構造、構成は、本質的に任意であり、公知の加熱シリンダー、スクリュー、ホッパーを用いることができる。
【0028】
本発明におけるロール組立体としては、厚みが300μm以下のシートを成形するのに適しており、片面圧着のみが可能な薄物シート専用の成形装置を使用することもできるし、厚みが300μm以上のシートを成形するのに適しており、3本ロール構成により両面圧着が可能な厚物シート専用の成形装置を使用することもできる。シート成形装置の場合には、ロール配置が縦型仕様でも横型仕様でも、或いはそのハイブリット型でも構わない。第2ロール(圧着ロール)として使用可能なロールとしては、金属剛体ロール、金属弾性ロール、ゴムロール等を挙げることができる。ここで、金属弾性ロールとしては、金属外筒の厚みを2mm前後まで薄くしたものや、ゴムロールの上に薄い金属スリーブを巻いたもの等が含まれる。
【0029】
第1ロールと第2ロールの圧着圧(線圧:圧着力をシート成形品の幅で割ったもの)はロール剛性の許容範囲において任意であるが、好ましい線圧の例として、5〜150kg/cmを挙げることができる。第1ロールの設定温度は使用樹脂のガラス転移温度より10℃程度低い温度に設定することが多いが、剥離マークの出方によって、適宜調整することが可能である。
【0030】
シート成形品の成形速度についても、シート厚みに応じて適宜調整可能であるが、樹脂冷却不足による転写不良現象の発生を起こさせないようにするため、2〜20m/min程度が好ましい。当該速度領域においては、本発明の溶融押出成形賦形用ロールの冷却遅延効果が最も顕著となり、転写性向上と剥離マーク抑制の両立が図り易い。
【発明の効果】
【0031】
本発明の第1ロール等は、金属材料によるロール本体部と非晶性メッキによる皮膜層とから成り、ロール本体部を構成する金属材料の熱伝導率が、40W/m・K以上、100W/m・K以下と規定され、皮膜層を構成する非晶性メッキの熱伝導率が10W/m・K以下と規定されているが故に、熱可塑性樹脂のシート成形品の製造に適した冷却速度を得ることが可能である。また、ロール本体部を高熱伝導率の金属材料から作製し、皮膜層を低熱伝導率の非晶性メッキから作製するので、第1ロールと接触した直後の溶融熱可塑性樹脂(シート)の冷却が遅延され、微細凹凸形状を転写させるために必要な時間を稼ぐことが可能となり、微細凹凸形状の転写率を向上させることができると共に、第1ロールから離れる直前のシート成形品が十分に冷却されるが故に、シート成形品における剥離マークの発生を効果的に防ぐことができる。
【0032】
更には、皮膜層の非晶性メッキは、400以上のマイクロビッカース硬度を有し、非晶性メッキの皮膜層の表面に微細凹凸形状が設けられており、当該微細凹凸形状の底部(最も深い凹部)における厚みが少なくとも0.5mm以上と規定されているため、転写性改善効果が顕著であり、非晶性メッキの皮膜層の中で、微細凹凸形状が設けられた表層部分だけを研削及び再メッキ処理にて施工し直すことで、下層部分を恒久的な断熱層として使用することが可能であるため、加工時間の短縮や製造コストの削減といったメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1(A)は、実施例1の溶融押出成形賦形用のロールの模式的な断面図であり、図1(B)は、実施例1のダイ及び溶融押出成形賦形用のロール組立体の配置を示す概念図である。
図2図2は、実施例2の溶融押出成形賦形用のロールの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【実施例1】
【0035】
実施例1は、本発明の溶融押出成形賦形用のロール、溶融押出成形賦形用のロール組立体、及び、溶融押出成形方法に関する。実施例1の溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)1を回転軸線を含む仮想平面で切断したときの第1ロール1の模式的な断面図を図1(A)に示し、ダイ及び溶融押出成形賦形用のロール組立体の配置状態の概念図を図1(B)に示す。
【0036】
実施例1の第1ロール1は、熱可塑性樹脂の溶融押出成形において使用される溶融押出成形賦形用のロールであって、
内部に熱媒流路11が設けられたロール本体部10、
ロール本体部10の表面を覆う非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層13、
から成る。そして、ロール本体部10は、40W/m・K以上、100W/m・K以下の熱伝導率を有する金属材料から製作されている。また、皮膜層13は、10W/m・K以下の熱伝導率を有する非晶性ニッケル−リン合金メッキから製作されている。具体的には、以下の表2のとおりである。非晶性ニッケル−リン合金メッキの硬度はリン含有率が少ないと高くなる傾向がある。
【0037】
実施例1の溶融押出成形賦形用のロール組立体は、図1(B)に示すように、上述した実施例1の第1ロール1、及び、第1ロール1と対向して配置された圧着用の第2ロール5から成る。実施例1において、第2ロール5はフッ素樹脂製のゴムロールから構成されている。
【0038】
実施例1では、ロール本体部10を、切削ドリルによってロール本体部10の側面から円管状の熱媒流路11を軸方向に対して平行に設けた、所謂ドリルドロールとした。常温(23℃)におけるロール本体部10の外径Doと、ロール本体部10の表層から熱媒流路までの距離Tsの値を表2に示す。尚、熱媒流路11の本数は、本質的に任意である。ロール本体部10の熱媒体としては熱媒油を使用した。非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層13は、電解メッキ法にて製作し、その肉厚は後加工での減少分を加味して2.1mmとした。
【0039】
非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層13の表面をグラインダー及びバフ研磨にて平滑化した後、サンドブラスト法にてマットパターンを形成した。マットパターン付与後の皮膜層13の最薄肉部の平均厚みT(マットパターンの最も深い凹部(底部)の厚みに相当)は、その表面粗さ測定データ(Rz)から算出すると2.0mm程度であった。なお、平均厚みTは皮膜層の厚みから表面粗さ測定データRzを引くことにより算出した。
有限会社グルーラボ製UV硬化型樹脂GLX18−73N(屈折率:1.49)を用いて皮膜層13の透明レプリカを作製し、そのヘイズ値(濁度)を測定したところ、85%であった。
【0040】
溶融押出成形賦形用のロールを用いて溶融押出成形されるシート成形品の幅をWとし、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層13の長さをXとしたとき、
>X
を満足している。あるいは又、
20mm≦W−X≦100mm
を満足している。具体的なX及びWの値を、以下の表2に示す。尚、非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層13の長さ(X)は、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向におけるロール本体部10の実効的な長さと同じである。尚、『ロール本体部の実効的な長さ』とは、ロール本体部の表面温度が実質的に均一となるように設計された部分を意味する。
【0041】
[表2]
金属材料 :炭素鋼 S45C
熱伝導率 :45〜51W/m・K(実施例1の使用温度域での値)
皮膜層 :非晶性ニッケル−リン合金メッキ
熱伝導率 :6W/m・K
:396mm
:15mm
:2.0mm
:400mm
:430mm
【0042】
実施例1にあっては、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂(PC樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂「ユーピロンS3000」)を使用した。また、実施例1の溶融押出成形方法において得られたシート成形品(フィルム成形品)の公称厚さは130μmであり、幅Wは表2に示したとおりである。得られたシート成形品(フィルム成形品)は、光拡散シート(光拡散フィルム)であり、マットパターンが形成されている。
【0043】
実施例1にあっては、周知の溶融押出成形装置を使用して、ダイから押し出された溶融熱可塑性樹脂を、第1ロール1と第2ロール5との間を通過させることで、シート状の溶融熱可塑性樹脂に圧力を加え、シート成形品(フィルム成形品)を得た。ここで、ダイとして、幅550mmのコートハンガーダイを用いた。溶融押出成形条件を以下の表3に示す。
【0044】
[表3]
ダイ温度 :270℃
ライン速度 :10.0m/min
第1ロール温度:120℃
第2ロール温度: 80℃
線圧レベル :7kg/cm
【0045】
成形されたシート成形品(フィルム成形品)には、剥離マークと呼ばれる非晶性ニッケル−リン合金メッキ皮膜層13からの離形不良に起因する外観不良は発生しておらず、ヘイズ値を測定すると63%であった。
【0046】
比較例1として、熱伝導率が84W/m・K程度のニッケルメッキの皮膜層を設け、その他は実施例1と同様にして、第1ロールを作製した。UV硬化型樹脂GLX18−73Nを用いて筒状部材の表面の透明レプリカを作製して、そのヘイズ値を測定したところ、86%であり、実施例1とほぼ同じマット柄目であることを確認した。そして、実施例1と同様の条件でシート成形品(フィルム成形品)を成形した。
【0047】
成形されたシート成形品(フィルム成形品)には、剥離マーク等の離形不良による外観不良は発生していなかったが、ヘイズ値を測定すると56%となっており、明らかに転写性が悪かった。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2の溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)2を回転軸線を含む仮想平面で切断したときの第1ロール2の模式的な断面図を図2に示す。
【0049】
実施例2にあっては、ロール本体部20を、スパイラルロールとも呼ばれ、熱媒流路21がスパイラル状になっている、二重管ロールとした。実施例2の第1ロール2におけるロール本体部20及び非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層23の諸元を、以下の表4に示す。皮膜層23を電解メッキ法によってロール本体部20の表面に施工し、その表面にはダイヤモンドバイトによる切削加工によって、公称ピッチ200μm、公称高さ100μm、公称角度90度のプリズムパターンを設けた。一連の後加工の結果、プリズム形状の底部(最深凹部)の厚みT(V溝の底部における皮膜層23の厚みであり、特許請求の範囲に記載される皮膜層の底部の「平均厚み」に相当する)は1.5mmとなった。また、ロール本体部20の外面から熱媒流路21までの距離(T)を16mmとした。ここで、熱媒流路21内には、図2に示すようにロール本体部30の回転軸線に沿って螺旋状に延びる連続した隔壁(仕切り壁)22が設けられている。尚、隔壁22の数は、任意に設けることができる。ロール本体部20の熱媒体として熱媒油を使用した。皮膜層23の実施例1と異なり、第2ロールとして、ハードクロムメッキを施した金属弾性ロールを使用した。
【0050】
[表4]
金属材料 :クロムモリブデン鋼 SCM440
熱伝導率 :48W/m・K
溶射皮膜 :非晶性ニッケル−リン合金メッキ
熱伝導率 :6W/m・K
:398mm
:16mm
:1.5mm
:400mm
:430mm
【0051】
実施例2にあっては、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂(PC樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂「ユーピロンH3000」)を使用した。また、実施例2の溶融押出成形方法において得られたシート成形品(フィルム成形品)の公称厚さは250μmであり、幅Wは表4に示したとおりである。得られたシート成形品(フィルム成形品)は、輝度向上シート(輝度向上フィルム)であり、プリズムパターンが形成されている。
【0052】
実施例2にあっても、周知の溶融押出成形装置を使用して、ダイから押し出された溶融熱可塑性樹脂を、第1ロール2と第2ロールとの間を通過させることで、シート状の溶融熱可塑性樹脂に圧力を加え、シート成形品(フィルム成形品)を得た。ここで、ダイとして、幅550mmのコートハンガーダイを用いた。溶融押出成形条件を以下の表5に示す。
【0053】
[表5]
ダイ温度 :280℃
ライン速度 :6.0m/min
第1ロール温度:130℃
第2ロール温度:120℃
線圧レベル :14kg/cm
【0054】
成形したプリズムシートの外観は良好であった。成形したシート成形品を液体窒素に浸漬して脆性破断させた後、その断面を光学顕微鏡にて観察して、プリズム形状の転写性を評価した。プリズム高さを測定した結果は92μmであった。また、プリズムの(高さ実測値/公称高さ)の値から算出した転写率は92%であった。
【0055】
比較例2Aとして、非晶性ニッケル−リン合金メッキの代わりに、熱伝導率が84W/m・Kのニッケルメッキの皮膜層23を設けた。その他は実施例2と同様にして、第1ロールを作製した。そして、実施例2と同様の条件でシート成形品(フィルム成形品)を成形した。
【0056】
成形したプリズムシートの外観は比較的良好であった。しかしながら、成形したシート成形品を液体窒素に浸漬して脆性破断させた後、その断面を光学顕微鏡にて観察して、プリズム形状の転写性を評価したところ、プリズム高さは83μmであり、転写率は83%であった。
【0057】
また、比較例2Bとして、非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の厚みを0.2mmとした。その他は実施例2と同様にして第1ロールを作成した。そして、実施例2と同様の条件でシート成形品(フィルム成形品)を成形した。
【0058】
成形したプリズムシートの外観は良好であった。また、成形したシート成形品を液体窒素に浸漬して脆性破断させた後、その断面を光学顕微鏡にて観察して、プリズム形状の転写性を評価したところ、プリズム高さは85μmであり、転写率は85%であった。
【0059】
以上の実施例1及び実施例2、比較例1、比較例2A、比較例2Bの評価結果を以下の表6に纏めた。
【0060】
[表6]
ロール本体部 皮膜層熱伝導率 皮膜層厚み 設定温度 ヘイズ値
実施例1 S45C 6W/m・K 2.0mm 120℃ 63%
比較例1 S45C 84W/m・K 2.0mm 120℃ 56%

ロール本体部 低熱伝導材物性 皮膜層厚み 設定温度 転写率
実施例2 SCM440 6W/m・K 1.5mm 130℃ 92%
比較例2A SCM440 84W/m・K 1.5mm 130℃ 83%
比較例2B SCM440 6W/m・K 0.2mm 130℃ 85%
【0061】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。実施例にて説明した溶融押出成形賦形用のロール、溶融押出成形賦形用のロール組立体、溶融押出成形装置の構成、構造、使用した材料、溶融押出成形条件等は例示であり、適宜、変更することができる。例えば、実施例1の微細凹凸形状を実施例2に適用することが可能であるし、実施例2の微細凹凸形状を実施例1に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,2・・・第1ロール、5・・・第2ロール、10,20・・・ロール本体部、11,21・・・熱媒流路、13,23・・・非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層、22・・・隔壁、14,24・・・微細凹凸形状、15,25・・・微細凹凸形状の底部(最も深い凹部)
図1
図2