【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形賦形用のロール(以下、便宜上、『第1ロール』と呼ぶ場合がある)は、熱可塑性樹脂の溶融押出成形において使用される溶融押出成形賦形用のロールであって、
内部に熱媒流路が設けられたロール本体部であって、40W/m・K以上、100W/m・K以下の熱伝導率を有する金属材料から製作される、ロール本体部と、
当該ロール本体部の表面に設けられる皮膜層であって、常温且つ未処理の状態で、10W/m・K以下の熱伝導率及び400以上のマイクロビッカース硬度を有する非晶性メッキから製作される、皮膜層とを備え、
前記皮膜層の表面に、微細凹凸形状が形成されており、当該微細凹凸形状の底部(最も深い凹部)における前記皮膜層の平均厚みが少なくとも0.5mm以上であることを特徴とする。
前記非晶性メッキとしては、例えば、ニッケル−リン合金メッキが挙げられる。前記メッキは少なくとも2回以上行われる。前記皮膜層中に少なくとも1層以上の積層界面を有している。前記微細凹凸形状は、マットパターン、プリズムパターン、及びマイクロレンズアレイパターンの少なくとも1種である。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形賦形用のロール組立体は、溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)、及び、溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロール(以下、便宜上、『第2ロール』と呼ぶ場合がある)から成り、
溶融押出成形賦形用のロールは、本発明の溶融押出成形賦形用のロールから構成されている。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の溶融押出成形方法は、
溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)、及び、溶融押出成形賦形用のロールと対向して配置された圧着用ロール(第2ロール)から成り、
溶融押出成形賦形用のロールは、本発明の溶融押出成形賦形用のロールから構成された溶融押出成形賦形用のロール組立体を用いた溶融押出成形方法であって、
ダイから押し出された溶融熱可塑性樹脂を、溶融押出成形賦形用のロール(第1ロール)と圧着用ロール(第2ロール)との間を通過させることで、シート成形品を得ることを特徴とする。尚、シート成形品にはフィルム成形品が包含される。
【0012】
本発明の溶融押出成形賦形用のロール、本発明の溶融押出成形賦形用のロール組立体を構成する溶融押出成形賦形用のロール、あるいは、本発明の溶融押出成形方法において使用される溶融押出成形賦形用のロール(以下、これらの溶融押出成形賦形用のロールを総称して、『本発明の第1ロール等』と呼ぶ場合がある)にあっては、ロール本体部の表面に10W/m・K以下の熱伝導率を有する非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層が形成されているが、当該皮膜層は無電解メッキ法あるいは電解メッキ法にて形成することができる。非晶性ニッケル−リン合金メッキは結晶化度が低いので、常温且つ未熱処理の状態にて適度に高いマイクロビッカース硬度(好ましくは400以上、より好ましくは500以上のマイクロビッカース硬度)と微細加工性を併せ持つので、溶融押出成形賦形用のロール材質として好適である。尚、限定するものではないが、非晶性ニッケル−リン合金メッキの熱伝導率の下限値として3W/m・Kを挙げることができる。
【0013】
本発明の第1ロール等においては、皮膜層の表面にマットパターン、プリズムパターン、及びマイクロレンズアレイパターンの少なくとも1種の微細凹凸形状が形成されているが、このうち、マットパターンについては、サンドブラスト、放電加工、ケミカルエッチング等の方法によって形成することができる。また、プリズムパターンやマイクロレンズパターンについては、ダイヤモンドバイトによる切削加工、レーザー加工、ミル彫刻等によって形成することができる。なお、皮膜層上の微細凹凸形状においては、これらに限定されるものではなく、例えば、外装材等に使用するための装飾用の図柄とすることもできる。
【0014】
また、前記皮膜層の厚みとしては、前記微細凹凸形状の底部(最も深い凹部、即ち、前記皮膜層の厚みが最も薄くなっている部分)において、平均して、少なくとも0.5mm以上、より好ましくは0.8mm以上、更に好ましくは1.0mm以上となるように設定することが望ましい。尚、限定するものではないが、皮膜層全体の厚みの上限値として、3.0mmを挙げることができる。皮膜層の厚みが増すと、ピットやピンホール等の欠陥が内含される可能性が高くなるが、これらの欠陥を極力防止するという観点からは、当該皮膜層の成形方法として電解メッキ法の方が好ましい。
【0015】
微細凹凸形状の最も深い凹部における非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の厚みを少なくとも0.5mm以上とする為には、微細凹凸形状を形成させる為に必要な厚み分を予め見込んで、非晶性ニッケル−リン合金メッキを多めに施工しておく必要がある。例えば、ダイヤモンドバイトでの切削加工によってプリズム形状を設ける場合には、非晶性ニッケル−リン合金メッキの施工後に、まずは、皮膜層表面の平滑化と軸精度等の向上を図る目的で数十μmから数百μm程度、非晶性ニッケル−リン合金メッキの表面を切削加工で落とす必要がある。この状態から更に、プリズム形状の切削加工を実施することになり、例えばプリズム形状がピッチ100μmの90度V溝である場合には、その加工溝深さは50μm程度となる。このことから、芯出し加工と切削溝加工による非晶性ニッケル−リン合金メッキの目減り量を予め見越して、多めにメッキ処理を実施しておく必要がある。施工されるメッキの厚さとしては、好ましくは0.7〜3.2mm、より好ましくは0.6〜3.1mmである。
【0016】
非晶性ニッケル−リン合金メッキの施工回数については1回でもよいし、複数回に分けて処理して、積層化により厚くしてもよい。複数回に分けて処理する場合には、同種材料であったとしても、皮膜層表面に形成されてしまう不動態皮膜を除去する為のエッチング処理を適切に実施することで可能となる。但し、複数回に分けて施工した場合には、微細凹凸形状が形成される厚み領域に積層面が入らないようにすることが、微細凹凸形状の均一性という観点からは好ましい。また、本発明の第1ロール等を実際の溶融押出成形に使用した後において、その微細凹凸形状の変更を行う必要性が生じた場合には、非晶性ニッケル−リン合金メッキによる皮膜層を全て除去してしまうのではなく、微細凹凸形状が形成されている厚み領域のみをグラインダー等で除去し、微細凹凸形状が形成されていなかった厚み領域を残した状態にて、その上から非晶性ニッケル−リン合金メッキを追加施工するようにすれば時間的にも経済的にもメリットがある。この場合にも適切な前処理を実施することによって密着性が確保できる。施工回数が複数回になった場合には、メッキの断面観察を行うと積層界面が認められるので、判別可能である。尚、非晶性ニッケル−リン合金メッキは、ある温度以上になると結晶化が進んでマイクロビッカース硬度と熱伝導率が上昇してしまうので注意が必要である。マイクロビッカース硬度が高くなると加工性が変わり、微細凹凸形状の形成が難しくなるし、熱伝導率が上昇するので溶融押出成形時の微細凹凸形状の転写性が悪化する。従って、非晶性ニッケル−リン合金メッキと溶融押出成形材料の適切な選定、及び溶融押出成形条件の適切な設定が必要である。
【0017】
非晶性ニッケル−リン合金メッキの熱伝導率やその皮膜層の肉厚の選択に基づき、第1ロール等と接する溶融熱可塑性樹脂の冷却遅延効果の程度の制御が可能である。常温(25℃)から300℃までの温度範囲において、非晶性ニッケル−リン合金メッキの線膨張係数は、ロール本体部を構成する金属材料の線膨張係数とほぼ同等であることが好ましい。溶融押出成形時においては第1ロール等を所望の設定温度とする必要があるため、第1ロール等の温度上昇による非晶性ニッケル−リン合金メッキの割れなどを防止するためである。
【0018】
微細凹凸形状加工前の非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の厚みは均一とすることもできるし、意図的に不均一とすることもできる。例えば、ロール本体部に予めクラウン形状(ロール本体部の表面から熱媒流路までの距離がロール中央部分で厚く、ロール端部で薄くなるような曲率)を付けておき、その上に非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層を設けた後、研削・研磨等によって当該皮膜層表面をフラット化(ロールの回転軸線方向に対して外径を一定化)することにより、ロール中央部分では薄く、ロール端部では厚い被膜層とすることができる。これらの方法により溶融樹脂(シート)の微細凹凸形状の転写性均一化を図ることも可能である。
【0019】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、常温におけるロール本体部の外径をD
0、ロール本体部の表層から熱媒流路までの距離をT
sとすると、
200mm≦D
0≦800mm
5mm≦T
s≦40mm
を満足することが望ましい。この範囲において、上述した非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層付与による樹脂冷却遅延効果に伴う微細凹凸形状の転写性改善効果が最も顕著に発揮される。また、第1ロールと第2ロールの圧着による変形防止という観点からも、上記範囲とすることが望ましい。
【0020】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、金属材料は、例えば、炭素鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、鋳鉄、及びタングステン鋼の少なくとも1種を含むことが好ましく、より具体的には、例えば、構造用合金鋼材であるクロムモリブデン鋼SCM440を含むことがより好ましい。各材料の常温における熱伝導率は以下の表1のとおりである。
【0021】
[表1]
炭素鋼 :45〜53W/m・K
クロム鋼 :52〜60W/m・K
クロムモリブデン鋼 :40〜48W/m・K
鋳鉄 :48W/m・K
タングステン鋼 :53〜66W/m・K
【0022】
ロール本体部の表面の加工精度は、高ければ高い程、好ましく、その芯振れについては1000分の10ミリ以下、より好ましくは1000分の5ミリ以下であることが望ましい。また、ロール本体部の表面の表面粗度に関しては、非晶性ニッケル−リン合金メッキ処理時の下地の影響を抑えるという観点から、1S以下の表面粗度とすることが望ましい。
【0023】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の第1ロール等において、溶融押出成形賦形用のロールを用いて溶融押出成形されるシート成形品の幅をW
0とし、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向における非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さをX
1としたとき、
W
0>X
1
を満足することが好ましく、あるいは又、
20mm≦W
0−X
1≦100mm
を満足することが好ましい。尚、非晶性ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さ(X
1)は、溶融押出成形賦形用のロールの回転軸線方向におけるロール本体部の実効的な長さと同じとすることができるし、あるいは又、ロール本体部の実効的な長さよりも短くすることもできる。
【0024】
一般に、熱可塑性樹脂の溶融押出成形においては、ダイのリップ部から流出した溶融熱可塑性樹脂は溶融押出成形賦形用のロールに接触する直前のエアギャップにおいてネックインし、リップ開度の調整では制御しきれないほど、シート最端部が極端に厚くなる場合がある。精密賦形シート成形品の成形において、シート最端部の厚肉部は転写阻害因子となり得るので好ましくない。この端部厚肉部をプレスしないように、ロール端部に段差を設ける場合があるが、本発明における溶融押出成形賦形用のロールにあっては、アモルファス状ニッケル−リン合金メッキの皮膜層の長さ(X
1)をシート成形品の幅(W
0)よりも予め小さく設定しておくことが可能であるので、ロール端部にわざわざ段差を設ける必要がない。
【0025】
本発明の第1ロール等において、ロール本体部は、切削ドリルによってロール本体部の側面から円管状の熱媒流路を軸方向に対して平行に設けた、所謂ドリルドロールであってもよいし、スパイラルロールとも呼ばれ、熱媒流路がスパイラル状になっている、以下に説明する二重管ロールとしてもよい。尚、熱媒流路の数は、本質的に任意である。熱媒として水や熱媒油を挙げることができる。
【0026】
更には、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の溶融押出成形方法において、得られたシート成形品の厚さは0.05mm乃至0.5mmである構成とすることができる。また、以上に説明した各種好ましい構成を含む本発明の溶融押出成形賦形用のロール、溶融押出成形賦形用のロール組立体あるいは溶融押出成形方法において、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリメチル−1−ペンテン樹脂から成る群から選択された熱可塑性樹脂である構成とすることができるが、特に、ポリカーボネート樹脂が好適である。これらの樹脂中には適宜、熱安定剤、離型剤、UV吸収剤等の添加剤を添加することができる。そして、得られたシート成形品は光拡散シートである形態とすることができるし、あるいは又、得られたシート成形品は輝度向上シートである形態とすることができる。尚、光拡散シートには、通常、マットパターンが形成され、輝度向上シートには、通常、プリズムパターンが形成されている。更には、光拡散性と集光性とを併せ持つマイクロレンズシートとすることも可能である。
【0027】
溶融押出成形装置を構成する溶融押出成形機は周知の溶融押出成形機を用いればよい。溶融押出成形機は、通常、
ダイを有し、原料熱可塑性樹脂を、可塑化、溶融するための加熱シリンダー(バレルとも呼ばれる)、及び、
加熱シリンダーに取り付けられ、加熱シリンダーに原料熱可塑性樹脂を供給するためのホッパー、
を備えている。本発明の溶融押出成形方法での使用に適した溶融押出成形機として、ベント式押出機やタンデム式押出機を含む周知の一軸押出機、パラレル式二軸押出機やコニカル式二軸押出機を含む周知の二軸押出機を用いることができるし、ダイの構造、構成、形式も、本質的に任意であり、Tダイやコートハンガーダイを挙げることができる。加熱シリンダーは、一般に、供給部(フィードゾーン)、圧縮部(コンプレッションゾーン)、計量化部(メタリングゾーン)から構成され、計量化部の下流にダイが配置されており、供給部にホッパーが取り付けられている。使用する溶融押出成形機によっては、加熱シリンダーを密閉構造とし、加熱シリンダーに不活性ガスを導入できるような改造が必要とされる場合がある。ホッパーに投入された原料熱可塑性樹脂は、加熱シリンダーの供給部では固形のまま圧縮部に送られ、圧縮部の前後で原料熱可塑性樹脂の可塑化、溶融が進行し、計量化部で計量され、ダイを通って押し出される。尚、排気口(ベント部)を設ける場合、排気口(ベント部)を圧縮部あるいはその下流(例えば、圧縮部と計量化部との間)に設ければよい。加熱シリンダー、スクリュー、ホッパーの形式、構造、構成は、本質的に任意であり、公知の加熱シリンダー、スクリュー、ホッパーを用いることができる。
【0028】
本発明におけるロール組立体としては、厚みが300μm以下のシートを成形するのに適しており、片面圧着のみが可能な薄物シート専用の成形装置を使用することもできるし、厚みが300μm以上のシートを成形するのに適しており、3本ロール構成により両面圧着が可能な厚物シート専用の成形装置を使用することもできる。シート成形装置の場合には、ロール配置が縦型仕様でも横型仕様でも、或いはそのハイブリット型でも構わない。第2ロール(圧着ロール)として使用可能なロールとしては、金属剛体ロール、金属弾性ロール、ゴムロール等を挙げることができる。ここで、金属弾性ロールとしては、金属外筒の厚みを2mm前後まで薄くしたものや、ゴムロールの上に薄い金属スリーブを巻いたもの等が含まれる。
【0029】
第1ロールと第2ロールの圧着圧(線圧:圧着力をシート成形品の幅で割ったもの)はロール剛性の許容範囲において任意であるが、好ましい線圧の例として、5〜150kg/cmを挙げることができる。第1ロールの設定温度は使用樹脂のガラス転移温度より10℃程度低い温度に設定することが多いが、剥離マークの出方によって、適宜調整することが可能である。
【0030】
シート成形品の成形速度についても、シート厚みに応じて適宜調整可能であるが、樹脂冷却不足による転写不良現象の発生を起こさせないようにするため、2〜20m/min程度が好ましい。当該速度領域においては、本発明の溶融押出成形賦形用ロールの冷却遅延効果が最も顕著となり、転写性向上と剥離マーク抑制の両立が図り易い。