(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態に係る制御装置10を備える自動二輪車1の側面図である。
図2は自動二輪車1の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、自動二輪車1は前輪2と後輪8とを有している。前輪2には前輪2の回転速度に応じた信号を出力する前輪回転速度センサ28(
図2参照)が設けられ、後輪8には後輪8の回転速度に応じた信号を出力する後輪回転速度センサ27(
図2参照)が設けられている。制御装置10は、前輪回転速度センサ28又は後輪回転速度センサ27の出力に基づいて車速を算出する。自動二輪車1は前輪2を操舵するためのステアリング3を有している。ステアリング3の左右にはグリップ3aが設けられている。一方のグリップ3aはアクセルグリップとして機能し、アクセルグリップにはその操作量(アクセル操作量)を検知するためのアクセルセンサ24(
図2参照)が設けられている。前輪2と後輪8とにはこれらを制動するためのブレーキ装置が設けられ、ステアリング3にはブレーキ装置を作動させるためのブレーキレバー3bが設けられている。ブレーキレバー3bにはその操作を検知するためのブレーキスイッチ29(
図2参照)が設けられている。
【0014】
図2に示すように、自動二輪車1は、エンジン4から駆動輪である後輪8に至るトルク伝達経路に、無段変速機(以下、CVT)5と、クラッチ6と、最終減速機構7とを有している。この例では、エンジン4の下流にCVT5が配置され、CVT5の下流にクラッチ6が配置されている。また、クラッチ6と後輪8との間に最終減速機構7が配置されている。クラッチ6は遠心クラッチなどの自動クラッチである。
【0015】
エンジン4は、シリンダや、シリンダ内に配置されるピストン、ピストンに連結されるクランクシャフトなどを有している。自動二輪車1はエンジン回転速度を検知するためのエンジン回転速度センサ21を有している。また、エンジン4は、その燃焼室に繋がる吸気通路に、エンジン4に供給する空気量を制御するスロットルバルブ及びエンジン4に燃料を供給するインジェクタを有している。自動二輪車1は、スロットルバルブの開度(以下スロットル開度)を検知するためのスロットル開度センサ22、及び、スロットルバルブを制御するスロットルアクチュエータ23を有している。
【0016】
CVT5は、クランクシャフトに連動する入力軸と、入力軸上に配置される駆動プーリと、出力軸と、出力軸上に配置される被駆動プーリと、駆動プーリと被駆動プーリとに掛け渡され、駆動プーリの回転(トルク)を被駆動プーリに伝えるベルトとを有している。自動二輪車1は、CVT5の変速比を制御するためのCVTアクチュエータ25を有している。CVTアクチュエータ25は、例えば、駆動プーリを構成する2つのシーブのうち一方を動かして、変速比を制御する。また、CVTアクチュエータ25は被駆動プーリを構成する2つのシーブのうち一方を動かして、変速比を制御してもよい。CVT5には、CVT5の出力軸の回転速度を検知するための出力軸回転速度センサ26が設けられている。
【0017】
制御装置10は、記憶装置10cと、記憶装置10cに格納されたプログラムを実行するマイクロプロセッサとを含んでいる。記憶装置10cには、エンジン4及びCVT5の制御に利用されるマップが格納されている。制御装置10は、主にエンジン4の制御を担うマイクロプロセッサと、主にCVT5の制御を担うマイクロプロセッサとを含んでもよい。この場合、2つのマイクロプロセッサは予め規定されたプロトコルに従って通信し、互いが算出した情報を送受信する。センサ21,22,24,26,27,28,29の出力信号は制御装置10に入力される。制御装置10はセンサ21,22,24,26,27,28,29の出力信号に基づいてアクチュエータ23,25を動かし、CVT5及びエンジン4を制御する。制御装置10はCVTアクチュエータ25を通してCVT5の変速比を制御し、スロットルアクチュエータ23を通してスロットル開度を制御する。
【0018】
制御装置10が実行する処理について説明する。
図3は制御装置10が実行する処理を示すブロック図である。同図に示すように、制御装置10は、目標エンジン回転速度算出部12と、目標変速比算出部13と、基準スロットル開度算出部14と、目標駆動力算出部15と、目標スロットル開度算出部16と、運転意図取得部17とを含んでいる。各部で実行される制御部10の処理は、車両の走行中に所定の周期で実行され、CVT5の目標変速比と目標スロットル開度はその周期で更新される。
【0019】
目標エンジン回転速度算出部12は、アクセルセンサ24で検知するアクセル操作量に基づいて、目標エンジン回転速度を算出する。ここで説明する例の目標エンジン回転速度算出部12は、最初にアクセルセンサ24で検知するアクセル操作量に基づいて基準目標エンジン回転速度を算出する。その後、目標エンジン回転速度算出部12は、基準目標エンジン回転速度について補正処理を行う場合には補正後のエンジン回転速度を目標エンジン回転速度とし、基準目標エンジン回転速度について補正処理を行わない場合には基準目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度とする。以下では、目標エンジン回転速度算出部12が算出するエンジン回転速度(すなわち、補正後のエンジン回転速度及び補正処理を行わない場合の基準目標エンジン回転速度)を最終目標エンジン回転速度と称する。例えば、目標エンジン回転速度算出部12は、基準目標エンジン回転速度でエンジンを駆動するよりも燃費が良くなるように基準目標エンジン回転速度を補正し、補正後のエンジン回転速度を最終目標エンジン回転速度とする。目標変速比算出部13は、実際のエンジン回転速度が最終目標エンジン回転速度になるように、最終目標エンジン回転速度に基づいてCVT5の変速比についての目標値である目標変速比を算出する。制御装置10はCVT5の実際の変速比が目標変速比になるようにCVTアクチュエータ25を駆動する。
【0020】
目標駆動力算出部15は、アクセルセンサ24で検知したアクセル操作量と上述の基準目標エンジン回転速度とに基づいて車両の駆動力に関する目標値を算出する。ここで、車両の駆動力に関する目標値は、例えば後輪8のトルクや後輪8の出力についての目標値である。また、車両の駆動力に関する目標値は、エンジントルクについての目標値や、エンジン出力についての目標値などでもよい。以下では、駆動力に関する目標値を目標駆動力と称する。目標スロットル開度算出部16は、最終目標エンジン回転速度でエンジンを駆動しながら目標駆動力が得られるように、目標駆動力と最終目標エンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度を算出する。制御装置10は実際のスロットル開度が目標スロットル開度になるようにスロットルアクチュエータ23を駆動する。
【0021】
このように、本実施形態では、従来の制御とは反対に、最初に目標エンジン回転速度が算出され、その後に目標駆動力が算出される。そのため、車両の目標駆動力が目標エンジン回転速度の設定に影響することを抑えることができる。その結果、快適な乗車感を実現できるようにエンジン回転速度を制御することが容易となる。特に本実施形態では、最初にアクセル操作量と基準目標エンジン回転速度とに基づいて目標駆動力が算出される。その後に、基準目標エンジン回転速度から得られた最終目標エンジン回転速度と、目標駆動力とに基づいて目標スロットル開度が算出される。そのため、例えば、エンジン4の回転速度を最終目標エンジン回転速度に維持しながら、車両の駆動力を調節・制御できる。例えば、エンジン4の回転速度を最終目標エンジン回転速度に維持しながら、基準目標エンジン回転速度とアクセル操作量に対応するスロットル開度とでエンジン4を駆動した場合に得られる駆動力と同じ駆動力を得ることが可能となる。また、目標駆動力について補正処理を行う場合には、エンジン4の回転速度を最終目標エンジン回転速度に維持しながら、その補正後の目標駆動力が得られるようにエンジン4を駆動することが可能となる。
【0022】
図3に示すように、目標エンジン回転速度算出部12は基準目標エンジン回転速度算出部12Aを含んでいる。基準目標エンジン回転速度算出部12Aは、センサーで検知したアクセル操作量と、運転意図を表す数値(以下、運転意図値と称する)とに基づいて、基準目標エンジン回転速度を算出する。具体的には次のような処理を行う。記憶装置10cには、第1の運転モードでのエンジン回転速度を規定する第1の基礎情報(例えばマップ)と、第2の運転モードでのエンジン回転速度を規定する第2の基礎情報とが予め格納されている。これらの運転モードは、加速応答性の良い運転モード(加速応答性モード)や、燃費の良い運転モード(低燃費モード)、通常の運転モードなどである。2つの基礎情報のそれぞれでは、例えばエンジン回転速度とアクセル操作量とが関係づけられている。基準目標回転速度算出部12Aは、センサーで検知したアクセル操作量に基づいて2つの基礎情報のそれぞれからエンジン回転速度を算出する。そして、基準目標回転速度算出部12Aは、2つの基礎情報からそれぞれ算出された2つのエンジン回転速度の間で運転意図値に基づいて基準目標エンジン回転速度を算出する。
【0023】
運転意図値は、車両の走行形態に対する運転者の要求を表す数値である。例えば、運転意図値は、加速応答性モードに対する運転者の要求度合いや、低燃費モードに対する運転者の要求度合いを表す数値である。後において説明するように、運転意図値は、例えば現在の車両の運転状態と過去の運転状態のうち少なくとも一方に基づいて算出される。例えば、アクセル操作量の変化速度が大きい場合や、アクセル操作量の変化の頻度が多い場合には、運転者は加速応答性の良い走行を望んでいると推定される。一般的に、エンジン回転速度が高くなると加速応答性は良くなり、エンジン回転速度が低くなると燃費が良くなる。そのため、運転者が加速応答性の良い走行を強く求めていることを運転意図値が示す場合には、制御装置10は基準目標エンジン回転速度を高めに設定する。
【0024】
図4は基準目標エンジン回転速度算出部12Aが実行する処理を示すブロック図である。同図に示すように、基準目標エンジン回転速度算出部12Aは、第1基礎エンジン回転速度算出部12aと、第2基礎エンジン回転速度算出部12bと、演算部12cとを含んでいる。
【0025】
上述したように、記憶装置10cにはエンジン回転速度とアクセル操作量とを関係づける第1の基礎情報と、エンジン回転速度とアクセル操作量とを関係づける第2の基礎情報とが格納されている。第1基礎エンジン回転速度算出部12aと第2基礎エンジン回転速度算出部12bは、第1の基礎情報と第2の基礎情報をそれぞれ利用して、センサーで検知したアクセル操作量に応じたエンジン回転速度を算出する。以下では、第1の基礎情報から得られたエンジン回転速度を第1基礎エンジン回転速度とし、第2の基礎情報から得られたエンジン回転速度を第2基礎エンジン回転速度とする。演算部12cは、第1基礎エンジン回転速度と、第2基礎エンジン回転速度と、運転意図値とに基づいて、基準目標エンジン回転速度を算出する。より具体的には、演算部12cは、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度との間で算出され且つ運転意図値に応じたエンジン回転速度を、基準目標エンジン回転速度として算出する。
【0026】
第1の基礎情報で規定されるエンジン回転速度と、第2の基礎情報で規定されるエンジン回転速度は互いに異なっている。例えば、第2の基礎情報で規定されるエンジン回転速度は、第1の基礎情報で規定されるエンジン回転速度よりも良好な加速応答性を実現できる回転速度である。換言すると、第1の基礎情報で規定されるエンジン回転速度は、第2の基礎情報で規定されるエンジン回転速度よりも低燃費を実現できる回転速度である。すなわち、第2の基礎情報は加速応答性モードでのエンジン回転速度を規定し、第1の基礎情報は低燃費モードでのエンジン回転速度を規定している。一般的に、エンジン回転速度が高くなると加速応答性は良くなり、エンジン回転速度が低くなると燃費が良くなる。そのため、第2の基礎情報で規定されるエンジン回転速度は、第1の基礎情報で規定されるエンジン回転速度よりも高い。
【0027】
2つの基礎情報のそれぞれは、例えば、エンジン回転速度とアクセル操作量とに、車速に関する情報を関係づけるマップである。ここでは、記憶装置10cが、第1の基礎情報として第1エンジン回転速度マップを有し、第2の基礎情報として第2エンジン回転速度マップを有する場合を例にして説明する。
【0028】
車速に関する情報とは、例えば、前輪2の回転速度や後輪8の回転速度から算出される車速自体である。また、車速に関する情報は、後輪8の回転速度や、CVT5の出力軸の回転速度、最終減速機構7を構成する部材の回転速度、クラッチ6を構成する部材の回転速度など、トルク伝達経路においてCVT5の出力軸以降の部材の回転速度でもよい。すなわち、車速に関する情報は、係数や減速比を乗じることにより車速に換算され得る情報である。CVT5の出力軸の回転速度は、クラッチ6が係合している状態では、車速に換算され得る。ここでは、第1及び第2の基礎情報として、車速と、アクセル操作量と、エンジン回転速度とが対応付けられている第1及び第2エンジン回転速度マップを用いる場合を例にして説明する。
【0029】
図5は、基礎情報であるエンジン回転速度マップの例を示す図である。同図の(a)は第1エンジン回転速度マップの例であり、(b)は第2エンジン回転速度マップの例である。これらの図で横軸は車速であり、縦軸はエンジン回転速度である。また、これらの図では、エンジン回転速度と車速との関係を示す複数の線が例示されている。これらの線は、アクセル操作量Ac1,Ac2,Ac3でのエンジン回転速度と車速との関係を示している。同図の線Lowは変速比がローに設定されている場合の車速とエンジン回転速度との関係を示し、線Highは変速比がハイ(トップ)に設定されている場合の車速とエンジン回転速度との関係を示している。
【0030】
第2エンジン回転速度マップで規定されるエンジン回転速度は、第1エンジン回転速度マップで規定されるエンジン回転速度よりも高い。例えば、アクセル操作量がAc1で、車速がV1である場合、第2エンジン回転速度マップで規定されるエンジン回転速度Ne2は、第1エンジン回転速度マップで規定されるエンジン回転速度Ne1よりも高い。つまり、同じアクセル操作量且つ同じ車速で2つのマップのエンジン回転速度を比較した場合、第2エンジン回転速度マップのエンジン回転速度は、第1エンジン回転速度マップのエンジン回転速度よりも高い。なお、第2エンジン回転速度マップのエンジン回転速度は、必ずしも車速の全範囲で、第1エンジン回転速度マップのエンジン回転速度よりも高くなくてもよい。例えば、中車速の領域でのみ、第2エンジン回転速度マップのエンジン回転速度は第1エンジン回転速度マップのエンジン回転速度よりも高くてもよい。
【0031】
第1基礎エンジン回転速度算出部12aは第1の基礎情報である第1エンジン回転速度マップを参照し、センサーによって検知したアクセル操作量と車速とに対応するエンジン回転速度を、第1基礎エンジン回転速度として算出する。同様に、第2基礎エンジン回転速度算出部12bは第2の基礎情報である第2エンジン回転速度マップを参照し、センサーによって検知したアクセル操作量と車速とに対応するエンジン回転速度を、第2基礎エンジン回転速度として算出する。
【0032】
なお、2つの基礎情報のうち一方は、エンジン回転速度と、車速に関する情報と、アクセル操作量とを関係づけるマップではなくてもよい。例えば、第2の基礎情報は、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度との差と、車速と、アクセル操作量とが関係づけられるマップでもよい。また、第2の基礎情報は、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度との比と、車速と、アクセル操作量とが関係づけられるマップでもよい。この場合、第2基礎エンジン回転速度算出部12bは、センサーによって検知したアクセル操作量と車速とに対応する差又は比を算出し、その後、その差又は比と、第1エンジン回転速度マップを参照して算出された第1基礎エンジン回転速度とに基づいて第2基礎エンジン回転速度を算出する。また、第2の基礎情報は、車速やアクセル操作量に依存しない、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度との差や比であってもよい。この場合、第2基礎エンジン回転速度算出部12bは、その差又は比と、第1エンジン回転速度マップを参照して算出された第1基礎エンジン回転速度とに基づいて第2基礎エンジン回転速度を算出する。
【0033】
演算部12cは、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度との間で、運転意図取得部17によって算出される運転意図値に応じたエンジン回転速度を算出する。このように算出されるエンジン回転速度が、上述の基準目標エンジン回転速度である。上述したように、運転意図値は、車両の走行形態に対する運転者の要求度合いを表す数値である。例えば、運転意図値が加速応答性の良い走行に対する運転者の要求度合いを表す数値である場合、演算部12cは、運転意図値が高くなるに従って基準目標エンジン回転速度を第2基礎エンジン回転速度に近づける。運転意図値が燃費の良い走行に対する運転者の要求度合いを表す数値である場合、演算部12cは、運転意図値が高くなるに従って基準目標エンジン回転速度を第1基礎エンジン回転速度に近づける。つまり、演算部12cは、運転意図値が高くなるに従って、2つの基礎エンジン回転速度のうち一方に基準目標エンジン回転速度を近づける。
【0034】
図6は演算部12cの処理の例を説明するための図である。同図において横軸は運転意図値であり、縦軸はエンジン回転速度である。同図の線L7は、点Po1(運転意図値Dv1,第1基礎エンジン回転速度Na)と、点Po2(運転意図値Dv2,第2基礎エンジン回転速度Nb)とを通る直線である。運転意図値がDv3(Dv1<Dv3<Dv2)である場合、演算部12cは線L7上の点Po3(運転意図値Dv3,エンジン回転速度Nc)のエンジン回転速度Ncを基準目標エンジン回転速度として算出する(Na<Nc<Nb)。つまり、
図6の例では、演算部12cは、第1基礎エンジン回転速度Naと第2基礎エンジン回転速度Nbとの間で、エンジン回転速度を運転意図値によって線形補完し、運転意図取得部17によって算出された運転意図値Dv3に対応するエンジン回転速度を基準目標エンジン回転速度としている。
【0035】
一例では、運転意図値Dv1は、運転意図取得部17によって算出され得る運転意図値の最小値であり、運転意図値Dv2は運転意図取得部17によって算出され得る運転意図値の最大値である。つまり、運転意図取得部17が運転意図値の最小値を算出する場合には、第1基礎エンジン回転速度Naが基準目標エンジン回転速度として算出される。一方、運転意図取得部17が運転意図値の最大値を算出する場合には、第2基礎エンジン回転速度Nbが基準目標エンジン回転速度として算出される。
【0036】
演算部12cの処理はこれに限られない。例えば、運転意図値は運転意図値Dv1よりも低い値であってもよい。運転意図取得部17が算出する運転意図値がDv1より小さい場合、演算部12cは、例えば運転意図値によらず第1基礎エンジン回転速度を基準目標エンジン回転速度とする。また、運転意図値は運転意図値Dv2よりも高い値であってもよい。運転意図取得部17が算出する運転意図値がDv2より大きい場合、演算部12cは、例えば、運転意図値によらず第2基礎エンジン回転速度を基準目標エンジン回転速度とする。
【0037】
運転意図取得部17の処理の例について説明する。運転意図取得部17は、センサによって検知される車両の運転状態に基づいて運転意図値を算出する。例えば、運転意図取得部17は、アクセル操作量、車速、アクセル操作量の微分値であるアクセル操作量変化速度及び加速度から選ばれる少なくとも1以上のパラメータに基づいて運転意図値を算出する。
【0038】
例えば、運転意図取得部17は、アクセル操作量と車速とに基づいて第1負荷状態値を算出する。また、運転意図取得部17は、アクセル操作量の変化速度に基づいて第2負荷状態値を算出する。さらに運転意図取得部17は、車速と車両の加速度とに基づいて第3負荷状態値を算出する。運転意図取得部17は、これら負荷状態値の全て或いは一部を使用して、運転意図値を算出する。各負荷状態値は、エンジン4にかかっている負荷が変化する可能性を評価する数値である。
【0039】
例えば、エンジンにかかっている負荷が変化する可能性が高いほど、運転者が加速応答性の良い走行を要求する度合いが高いと推定される。そのため、加速応答性の良い走行に対する運転者の要求度合いを表す数値を運転状態値として用いる例においては、エンジンにかかっている負荷が変化する可能性が高いほど、運転意図取得部17は大きな運転意図値を算出する。
【0040】
また、例えば、エンジンにかかっている負荷が変化する可能性が低いほど、運転者が燃費の良い走行を要求する度合いが高いと推定される。そのため、燃費の良い走行に対する運転者の要求度合いを表す数値を運転状態値として用いる例においては、エンジンにかかっている負荷が変化する可能性が低いほど、運転意図取得部17は大きな運転意図値を算出する。
【0041】
図7(a)は、アクセル操作量と車速と第1負荷状態値とを対応付けるマップの例である。同図において、実線は第1負荷状態値の等高線を示している。このマップでは、負荷が変化する可能性が低いと推測される運転領域(例えば、車速とアクセル操作量の双方が中程度の領域)では、第1負荷状態値は比較的小さい。運転意図取得部17は、例えばこのマップを参照し、センサの出力に基づいて検知されたアクセル操作量と車速とから第1負荷状態値を算出する。
【0042】
図7(b)は、アクセル操作量の変化速度と第2負荷状態値とを対応付けるマップの例である。このマップにおいても、負荷が変化する可能性が小さいと推測される運転領域、すなわちアクセル操作量の変化速度が小さい運転領域では、第2負荷状態値は比較的小さい。運転意図取得部17はアクセル操作量の変化速度を算出し、その後、このマップを参照して、算出したアクセル操作量の変化速度に対応する第2負荷状態値を算出する。
【0043】
図7(c)は、車速と車両の加速度と第3負荷状態値とを対応付けるマップの例である。この図において、実線は第3負荷状態値の等高線を示している。このマップにおいても、負荷が変化する可能性が低いと推測される運転領域、具体的には、車速が中程度で加速度が小さい運転領域では、第3負荷状態値は小さい。運転意図取得部17は、このマップを参照し、センサの出力に基づいて検知された車速と加速度とに対応する第3負荷状態値を算出する。
【0044】
運転意図取得部17は、上述の3つの負荷状態値のなかから運転意図値の算出に使用する負荷状態値を選択し、選択した負荷状態値に基づいて運転意図値を算出してもよい。例えば、運転意図取得部17は、上述の全ての負荷状態値の符号が一致する場合には、全ての負荷状態値を使用して運転意図値を算出する。一方、3つの負荷状態値のなかにその符号が一致しないものがある場合には、運転意図取得部17はいずれの負荷状態値も使用せず、今回の処理では運転意図値を算出しない。すなわち、運転意図取得部17は前回の処理で得られた運転意図値を更新しない。また、運転意図取得部17は、第1負荷状態値、第2負荷状態値及び第3負荷状態値のうち符号が一致する負荷状態値を選択し、選択した負荷状態値を使用して運転意図値を算出してもよい。
【0045】
また、運転意図取得部17は、選択した負荷状態値と、前回の処理で得られた運転意図値とに基づいて、運転意図値を算出してもよい。例えば、運転意図取得部17は選択した負荷状態値の積を算出し、その積を前回の処理で得られた運転意図値に加算し、その加算の結果を新たな運転意図値としてもよい。また、運転意図取得部17は選択した負荷状態値の和を算出し、その和を前回の処理で得られた運転意図値に加算し、その加算の結果を新たな運転意図値としてもよい。また、運転意図取得部17は選択した負荷状態値の平均値又は中央値を算出し、その平均値又は中央値を前回の処理で得られた運転意図値に加算し、その加算の結果を新たな運転意図値としてもよい。
【0046】
運転意図取得部17は、車両が予め定める走行状況にある場合には、運転意図値の変化を制限する。例えば、運転意図取得部17は、運転者による加速要求が増すと推定される走行状況においては、基準目標エンジン回転速度の低下が抑えられるように運転意図値の変化を制限する。つまり、運転意図取得部17は、運転者による加速要求が増すと推定される走行状況においては、基準目標エンジン回転速度の第1基礎エンジン回転速度に向けた変化が抑制されるように運転意図値の変化を制限する。換言すると、基準目標エンジン回転速度として第1基礎エンジン回転速度が算出される運転意図値を第1の値とし、基準目標エンジン回転速度として第2基礎エンジン回転速度が算出される運転意図値を第2の値とした場合、運転意図取得部17は、運転意図値の第2の値から第1の値に向けた変化を制限する。
【0047】
制限の一例では、運転意図取得部17は、車両が上述の走行状況を脱するまで、運転意図値を車両が当該走行状況に入った時点での値に維持する。また、制限の他の例では、運転意図取得部17は、車両が上述の予め定める走行状況を脱するまで、運転意図値を第2の値に向けて変化させてもよい。
【0048】
こうすることにより、運転者による加速要求が増すと推定される走行状況において、加速応答性が下がることを抑えることができる。なお、本実施形態では基準目標エンジン回転速度自体の変化が抑えられるのではなく、運転意図値の変化が抑えられる。そのため、第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度とに対する基準目標エンジン回転速度の相対的な関係(例えば、差)の変化が抑えるものの、アクセル操作量が変化する場合には第1基礎エンジン回転速度と第2基礎エンジン回転速度は変化するので、基準目標エンジン回転速度自体は変化する。
【0049】
運転者による加速要求が増すと推定される走行状況の一例は、車両が旋回している状況である。車両が曲がり道で旋回している場合には車速が下げられ、その後、車両が直線走行を開始すると、運転者は加速要求を増し、車速が上昇する。車両が旋回しているか否かの判定次のように実行され得る。
【0050】
自動二輪車が旋回する場合、車体が傾けられる。その結果、タイヤは、その幅方向の中心ではなく、タイヤの側部に寄った位置で地面に接触する(以下、タイヤ表面における地面に接触する部分を接地点と称する)。その結果、接地点と車軸との距離(前輪の回転半径及び後輪の回転半径)が小さくなる。前輪のタイヤの太さ(タイヤの断面の半径)と後輪のタイヤの太さ(タイヤの断面の半径)との間には差があるため、前輪の回転半径の減少率と、後輪の回転半径の減少率との間に差が生じる。具体的には、後輪のタイヤが前輪のタイヤに比べて太い場合には、後輪の回転半径の減少率は前輪の回転半径の減少率よりも大きくなる。その結果、後輪の回転速度から算出される車速は、前輪の回転速度から算出される車速はよりも高くなる。そこで、運転意図取得部17は、前輪2の回転速度から算出される車速と、後輪8の回転速度から算出される車速との差に基づいて、車両が旋回しているか否かを判定する。例えば、後輪の回転速度から算出される車速と前輪の回転速度から算出される車速との差、或いは、2つの車速の平均に対する2つの車速の差の割合が、閾値を超えた場合に、車両が旋回していると判定する。
【0051】
なお、車両が旋回しているか否かの判定は上述の処理に限られない。例えば、自動二輪車には、車体の左右方向への傾斜を検知するための加速度センサが設けられてもよい。この場合、運転意図取得部17は、例えば車体が傾いており且つ車速が閾値よりも高い場合に、車両が旋回していると判定する。
【0052】
運転者による加速要求が増すと推定される走行状況の他の例は、ブレーキ装置が作動している場合である。自動二輪車1には、例えばブレーキレバー3bの操作を検知するためのスイッチ29や、前輪2又は後輪8に設けられたブレーキ装置の作動状態を検知するためのセンサが設けられる。運転意図取得部17は、それらのスイッチやセンサの出力に基づいてブレーキ装置が作動しているか否かを判定する。
【0053】
運転者による加速要求が増すと推定される走行状況の他の例は、車両が登坂を走行している場合である。運転意図取得部17は、例えば車速、現在のエンジン回転速度、及び現在のスロットル開度に基づいて走行負荷を算出し、その走行負荷に基づいて車両が登坂を走行しているか否かを判定する。
【0054】
車両の加速度をaとし、車両の重量をMとし、エンジントルクをTegとし、エンジン4の慣性トルクをTiとし、CVT5から後輪8に至る経路でのトルクの機械的な損失をTlossとし、車両に作用している全走行負荷をLvとした場合、これらは概ね次の関係を有している。なお、全走行負荷Lvは空気抵抗など水平な道を走行する場合の走行抵抗(以下、基準走行抵抗と称する)を含む。
(Teg−Ti)×変速比−Tloss=(M×a+Lv)×k
エンジントルクTegは、スロットル開度とエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を示すエンジントルクマップを参照することで算出される。慣性トルクTiは、エンジン回転速度の変化速度と、CVT5よりも上流側の機構(エンジン4のクランクシャフトやピストン)の慣性モーメントとを乗じた値である。変速比は、例えば現在のCVT5の実変速比であり、センサを通して検知する実エンジン回転速度と車速とから算出され得る。kは後輪8の半径や最終減速機構7の減速比から得られる係数である。そこで、運転意図取得部17は、例えば、エンジン回転速度とスロットル開度とに基づいてエンジントルクTegを算出し、当該エンジントルクTegとエンジン回転速度の変化速度と車速とに基づいて、上述の関係式から全走行負荷Lvを算出する。運転意図取得部17は、空気抵抗等に起因する基準走行抵抗を全走行負荷Lvから差し引いた値を走行負荷として算出する。このように算出される走行負荷は、一般的に、車両が登坂を走行している場合には正の値となる。なお、基準走行抵抗は車速が高くなるに従って大きくなる。車速と基準走行抵抗との関係は予め実験等により得られる。そこで、運転意図取得部17は、例えば車速と基準走行抵抗とを対応づけるマップや関係式を参照し、車速に基づいて基準走行抵抗を算出する。
【0055】
運転意図取得部17の処理は以上説明したものに限定されない。例えば、自動二輪車1は、車両の走行形態に対する運転者の要求を受け付けるための操作部材を有してもよい。例えば自動二輪車1は、運転者が加速応答性の良い走行に対する要求度合いを入力できる操作部材を有してもよい。この場合、運転意図取得部17は、その操作部材の操作量を検知し、当該操作量を運転意図値とする。
【0056】
基準目標エンジン回転速度が算出された後の処理の概要について説明する。
図8は処理の概要を説明するための図である。同図の横軸はエンジン回転速度であり、縦軸はエンジントルクである。同図には、エンジントルクとエンジン回転速度との関係を表すトルクカーブが描かれている。同図(a)ではスロットル開度がTh1,Th2でのトルクカーブが示され、同図(b)ではスロットル開度がTh1,Th4,Th6でのトルクカーブが示されている。同図(a)及び(b)において線Aは、燃費が最良になる運転ポイントを示す曲線(以下、最良燃費曲線)である。同図(a)及び(b)の線L3は、運転ポイントP1(エンジン回転速度N1,スロットル開度Th1)と同じエンジン出力(エンジントルク×エンジン回転速度)を得ることができる運転ポイントを示す等出力曲線である。同図(b)の線L4は、運転ポイントP4(エンジン回転速度N1,スロットル開度Th4)と同じエンジン出力を得ることができる運転ポイントを示す等出力曲線である。
図8では、エンジン回転速度N1が基準目標エンジン回転速度であり、スロットル開度Th1は、アクセル操作量から換算されたスロットル開度(以下、基準スロットル開度)である。
【0057】
なお、本実施形態の制御装置10は、目標エンジン回転速度についての補正である回転速度補正と、車両の駆動力に関する目標値についての補正である駆動力補正の一方又は双方を行う場合がある。
【0058】
目標エンジン回転速度算出部12は、上述したように、基準目標エンジン回転速度N1を算出する。回転速度補正を行う場合、目標エンジン回転速度算出部12は、基準目標エンジン回転速度N1を補正し、その補正の結果を最終目標エンジン回転速度とする。目標エンジン回転速度算出部12は、例えば、基準目標エンジン回転速度でエンジン4を駆動するよりも燃費が向上するように、基準目標エンジン回転速度に基づいて最終目標エンジン回転速度を算出する。例えば
図8(a)で示すように、目標エンジン回転速度算出部12は基準目標エンジン回転速度N1と最良燃費エンジン回転速度N3との間のエンジン回転速度N2を最終目標エンジン回転速度N2として設定したり、最終目標エンジン回転速度を基準目標エンジン回転速度N1から最良燃費エンジン回転速度N3に向けて徐々に変化させる。また、目標エンジン回転速度算出部12は、基準目標エンジン回転速度N1から所定の回転速度を減算し、その減算結果を最終目標エンジン回転速度としてもよい。目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転速度に基づいてCVT5の目標変速比を算出し、制御装置10は実際の変速比が目標変速比に一致するようにCVTアクチュエータ25を駆動する。
【0059】
上述したように、
図8(a)で示す運転ポイントP1のエンジン回転速度は基準目標エンジン回転速度N1である。また、運転ポイントP1のスロットル開度Th1はアクセル操作量をスロットルバルブの角度に換算した値である。制御装置10は、回転速度補正を行う一方で駆動力補正を行わない場合、最終目標エンジン回転速度N2でエンジン4を駆動しながら運転ポイントP1でのエンジン出力(線L3で示される出力)が得られるように目標スロットル開度を設定する。したがって、この場合、運転ポイントP2のスロットル開度Th2が目標スロットル開度として設定される。運転ポイントP2は、運転ポイントP1と等しいエンジン出力を得ることができ、且つエンジン回転速度が最終目標エンジン回転速度N2となる運転ポイントである。制御装置10は、実際のスロットル開度が目標スロットル開度に一致するようにスロットルアクチュエータ23を駆動する。
【0060】
制御装置10は、目標スロットル開度を算出するために次のような処理を行う。目標駆動力算出部15は、基準目標エンジン回転速度N1とアクセル操作量(具体的にはアクセル操作量から換算されたスロットル開度Th1)とに基づいて運転ポイントP1での車両の駆動力を算出し、当該駆動力を基準目標駆動力とする。目標スロットル開度算出部16は、最終目標エンジン回転速度N2でエンジン4を駆動しながら基準目標駆動力に対応する駆動力が得られるように、最終目標エンジン回転速度N2と基準目標駆動力とに基づいて目標スロットル開度Th2を算出する。ここで、基準目標駆動力とは、上述の目標駆動力(例えば、後輪8のトルクについての目標値や、後輪8の出力(後輪8のトルク×後輪8の回転速度)についての目標値)の元となる目標値である。すなわち、後述する駆動力についての補正処理が行われる場合には、基準目標駆動力を補正した値が目標駆動力であり、そのような補正処理が行われない場合には、その基準目標駆動力が目標駆動力とされる。後輪8のトルクや後輪8の出力はエンジン出力に比例する。そのため、
図8(a)に示すように、運転ポイントP1での後輪8のトルクや後輪8の出力を目標値とすることで、運転ポイントP1でのエンジン出力を維持しながらエンジン回転速度を変えることができる。
【0061】
目標エンジン回転速度算出部12は、回転速度補正を行わない場合、基準目標エンジン回転速度N1を最終目標エンジン回転速度とする。制御装置10は、回転速度補正を行わず、駆動力補正を行う場合、最終目標エンジン回転速度N1でエンジン4を駆動しながら運転ポイントP1でのエンジン出力よりも高いエンジン出力又は低いエンジン出力が得られるように、目標スロットル開度を設定する。例えば、
図8(b)で示すように、制御装置10は、最終目標エンジン回転速度N1でエンジン4を駆動しながら線L3で示すエンジン出力よりも高い線L4で示されるエンジン出力が得られるように、運転ポイントP4でのスロットル開度Th4を目標スロットル開度とする。運転ポイントP4は、エンジン回転速度がN1である線L4上の運転ポイントである。
【0062】
制御装置10は、駆動力補正を行う場合には、目標スロットル開度を算出するために次のような処理を行う。目標駆動力算出部15は、基準目標エンジン回転速度N1とアクセル操作量(具体的にはアクセル操作量から換算されたスロットル開度Th1)とに基づいて運転ポイントP1での車両の駆動力を算出し、当該駆動力を基準目標駆動力とする。その後、目標駆動力算出部15は算出した基準目標駆動力を補正し、補正後の駆動力を目標駆動力とする。目標スロットル開度算出部16は、目標エンジン回転速度N1(回転速度補正を行わない場合、基準目標エンジン回転速度に等しい)でエンジン4を駆動しながら目標駆動力に対応する駆動力が得られるように、目標エンジン回転速度N1と目標駆動力とに基づいて目標スロットル開度Th4を算出する。
【0063】
回転速度補正と駆動力補正は、予め定めた条件が満たされた場合に実行される。例えば、これら2つの補正の選択を可能とする操作部材が設けられた自動二輪車では、運転者はその操作部材を通して2つの補正のうち一方又は双方を選択する。制御装置10は、操作に応じた補正を実行する。また、車両が登坂を走行していると検知された場合に、目標駆動力算出部15は駆動力補正を実行してもよい。また、車両の定常走行が一定時間以上継続した場合に、目標エンジン回転速度算出部12は回転速度補正を実行してもよい。
【0064】
なお、制御装置10は回転速度補正と駆動力補正の双方を同時に行うことができる。この場合、目標エンジン回転速度算出部12は、基準目標エンジン回転速度N1でエンジン4を駆動するよりも燃費が良くなるように最終目標エンジン回転速度を設定し、目標スロットル開度算出部16は最終目標エンジン回転速度でエンジン4を駆動しながら運転ポイントP1でのエンジン出力よりも高い又は低いエンジン出力が得られるように目標スロットル開度を設定する。例えば、制御装置10は、線L4で示すエンジン出力を得ようとする場合、目標エンジン回転速度算出部12は線L4で示すエンジン出力の最良燃費エンジン回転速度N5と基準目標エンジン回転速度N1との間で最終目標エンジン回転速度N6を設定する。そして、目標スロットル開度算出部16は最終目標エンジン回転速度N6でエンジン4を駆動しながら線L4で示すエンジン出力が得られるように、運転ポイントP6でのスロットル開度Th6を目標スロットル開度とする。最良燃費エンジン回転速度N5は、線L4と最良燃費曲線Aとの交点である運転ポイントP5でのエンジン回転速度である。また、運転ポイントP6は、エンジン回転速度がN6である線L4上の運転ポイントである。
【0065】
回転速度補正と駆動力補正の双方を行わない場合、目標エンジン回転速度算出部12は基準目標エンジン回転速度N1を最終目標エンジン回転速度とし、目標スロットル開度算出部16は運転ポイントP1でのエンジン出力が得られるように目標スロットル開度を設定する。したがって、この場合、運転ポイントP1でスロットル開度Th1が目標スロットル開度とされる。
【0066】
以下、目標エンジン回転速度算出部12と目標駆動力算出部15と目標スロットル開度算出部16の処理について詳説する。
【0067】
目標エンジン回転速度算出部12は
図3に示すように補正部12Bを含んでいる。補正部12Bは基準目標エンジン回転速度に基づいて最終目標エンジン回転速度を算出する。具体的には、
図8を参照して説明したように、補正部12Bは回転速度補正を実行しない場合には、基準目標エンジン回転速度を最終目標エンジン回転速度とする。一方、回転速度補正を実行する場合には、補正部12Bは基準目標エンジン回転速度でエンジンを駆動するよりも燃費を向上できるように、基準目標エンジン回転速度を最良燃費エンジン回転速度を利用して補正し、その補正の結果を最終目標エンジン回転速度とする。
【0068】
回転速度補正には種々の形態がある。例えば、補正部12Bは最終目標エンジン回転速度を基準目標エンジン回転速度から最良燃費エンジン回転速度に徐々に近づける。例えば、最終目標エンジン回転速度と基準目標エンジン回転速度との差を補正量ΔNとした場合(最終目標エンジン回転速度=基準目標エンジン回転速度+補正量ΔN)、最終目標エンジン回転速度が徐々に最良燃費エンジン回転速度に近づくように補正量を緩やかに変化させる。
【0069】
補正量の緩やかな変化は、例えば、前回の処理で算出された補正量に予め定めた値を加算又は減算するという処理を繰り返し実行することで可能となる。他の例では、補正部12Bは、基準目標エンジン回転速度と最良燃費エンジン回転速度との差を時間で積分し、その積分値に基づいて補正量を算出してもよい。さらに他の例では、補正量の算出に、時定数の大きな伝達関数で表されるフィルタが利用されてもよい。この場合でも、補正量の緩やかな変化が実現され得る。このように、補正量を緩やかに変化させることにより、例えばアクセル操作量の変化に起因して基準目標エンジン回転速度が変化した場合でも、補正量の変化は小さいので、基準目標エンジン回転速度の変化に応じた量だけ最終目標エンジン回転速度も変化する。
【0070】
目標変速比算出部13は、実際のエンジン回転速度が最終目標エンジン回転速度になるように目標変速比を算出する。すなわち、目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転速度とCVT5より下流側の機構の回転速度とに基づいて目標変速比を算出する。この例の目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転速度と、センサによって検知した車速とに基づいて目標変速比を算出する。例えば、目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転速度を車速で除した値と、最終減速機構7の減速比とに基づいて目標変速比を算出する。このようにして算出された変速比が、CVT5の変速比の上限又は下限を越える場合には、目標変速比算出部13はその上限または下限を目標変速比とする。
【0071】
上述したように、制御装置10は基準スロットル開度算出部14と目標駆動力算出部15とを有している(
図3参照)。基準スロットル開度算出部14は、センサによって検知したアクセル操作量を、記憶装置10cに予め格納されたマップや関係式を利用して、スロットル開度(スロットルバルブの角度)に換算し、その結果を基準スロットル開度とする。
【0072】
目標駆動力算出部15は、アクセル操作量(より具体的には基準スロットル開度)に基づいて車両の駆動力に関する目標値、すなわち上述の目標駆動力を算出する。ここで説明する例において、目標駆動力は、例えば、後輪8のトルクや、後輪8の出力(トルク×後輪8の回転速度)である。
図3に示すように、目標駆動力算出部15は、基準目標駆動力算出部15Aと、補正部15Bとを含んでいる。
【0073】
基準目標駆動力算出部15Aは基準スロットル開度と上述の基礎情報で得られたエンジン回転速度とに基づいて基準目標駆動力を算出する。基準目標駆動力は、後述する補正部15Bに入力される目標値である。基準目標駆動力算出部15Aは例えば、基準スロットル開度と、第1基礎情報及び第2基礎情報とを参照して得られた基準目標エンジン回転速度とに基づいて、基準目標駆動力を算出する。この処理は、例えば次のように実行される。
【0074】
一例では、エンジン回転速度とスロットル開度とエンジントルクとを対応づけるエンジントルクマップが予め記憶装置10cに格納される。基準目標駆動力算出部15Aはこのエンジントルクマップから、基準目標エンジン回転速度と基準スロットル開度とに対応するエンジントルクを算出する(このエンジントルクを基準目標エンジントルクと称する)。他の例では、基準目標駆動力算出部15Aは、エンジントルクマップに替えて、エンジン回転速度とスロットル開度とエンジン出力とを対応づけるマップを利用し、このマップから基準目標エンジン回転速度と基準スロットル開度とに対応するエンジン出力を算出してもよい(このエンジン出力を基準目標エンジン出力と称する)。
【0075】
基準目標駆動力算出部15Aは、算出した基準目標エンジントルク又は基準目標エンジン出力を後輪8のトルク又は後輪8の出力に換算し、その結果を基準目標駆動力とする。例えば、後輪8のトルクについての目標値を目標駆動力とする場合、基準目標駆動力算出部15Aは、基準目標エンジン回転速度の変化速度に基づいてエンジン4の慣性トルクを算出する。そして、この慣性トルクを基準エンジントルクから差し引き(基準エンジントルク−慣性トルク)、その減算の結果を基準目標駆動力とする。また、後輪8の出力についての目標値を目標駆動力とする場合、基準目標駆動力算出部15Aは、慣性トルクに起因する出力の変化量を基準エンジン出力から差し引き(基準エンジン出力−慣性トルクに起因する出力の変化量)、その減算の結果を基準目標駆動力とする。なお、慣性トルク又は慣性トルクに起因する出力の変化量の減算は必ずしも行われなくてもよい。
【0076】
さらに、基準目標駆動力算出部15Aは、エンジン4のトルクが後輪8に伝達される過程でCVT5で失うトルク又はそのトルクに起因する出力の損失を差し引いてもよい。そして、その減算の結果を基準目標駆動力としてもよい。なお、CVT5で失うトルクは、例えばベルトを回転させるために失うトルクに起因し、CVT5の出力軸の回転速度及びエンジントルクに基づいて算出され得る。
【0077】
基準目標駆動力の算出は、以上説明したものに限られない。例えば、基準目標駆動力は、基準目標エンジン回転速度に替えて、第1基礎エンジン回転速度又は第2基礎エンジン回転速度に基づいて算出されてもよい。例えば、基準目標駆動力算出部15Aは、エンジントルクマップを参照し、第1基礎エンジン回転速度と基準スロットル開度とに対応するエンジントルクを基準エンジントルクとして算出し、当該基準エンジントルクから基準目標駆動力を算出してもよい。
【0078】
補正部15Bは、駆動力補正を実行しない場合、基準目標駆動力を目標駆動力とする。一方、駆動力補正を実行する場合、補正部15Bは、基準目標駆動力を補正した値を目標駆動力とする。具体的には、補正部15Bは、基準目標駆動力に補正値を加算及び/又は乗算し、その演算結果を目標駆動力とする。
【0079】
補正の一例では、補正部15Bは、車両が登坂を走行する場合に車両に作用する走行負荷を算出し、その走行負荷に応じた補正値を基準目標駆動力に加算又は乗算する。走行負荷は、運転意図取得部17の処理に関連して説明したように、例えば、エンジン回転速度とスロットル開度とに基づいて算出されるエンジントルクと、エンジン回転速度の変化速度と、車速とに基づいて算出され得る。
【0080】
補正の他の例では、補正部15Bは、基準目標駆動力が上昇する場合、すなわち車両が加速しようとする場合に、基準目標駆動力よりも目標駆動力を大きくしたり、基準目標駆動力の上昇速度よりも目標駆動力の上昇速度を緩やかにする。また、補正部15Bは、基準目標駆動力が上昇しその後に下がる場合に、基準目標駆動力の下降速度よりも目標駆動力の下降速度を緩やかにしてもよい。このような目標駆動力の変化は、例えば、比例要素や一次遅れ要素を含む伝達関数で表されるフィルタを基準目標駆動力に対して利用することで実現できる。このような補正を行うことにより、車両の加速感を向上できる。
【0081】
目標スロットル開度算出部16は最終目標エンジン回転速度でエンジン4を駆動しながら車両の駆動力が目標駆動力となるように、目標駆動力と最終目標エンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度を算出する。
図3に示す例の目標スロットル開度算出部16は目標エンジントルク算出部16Aと、スロットル開度算出部16Bとを含んでいる。目標エンジントルク算出部16Aは最終目標エンジン回転速度を利用して、後輪8のトルクや出力についての目標値である目標駆動力を、目標とするエンジントルク(すなわち、目標エンジントルク)に換算する。スロットル開度算出部16Bは、目標エンジントルクと最終目標エンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度を算出する。
【0082】
目標エンジントルク算出部16Aは、例えば、最終目標エンジン回転速度の変化速度に基づいてエンジン4の慣性トルクを算出し、この慣性トルクと、CVT5で失うトルクと、最終目標エンジン回転速度とに基づいて、目標駆動力を目標エンジントルクに換算する。具体的には、目標駆動力が後輪8のトルクについての目標値である場合、目標エンジントルク算出部16Aは、基準目標駆動力算出部15Aとは反対に、慣性トルクとCVT5で失うトルクとを目標駆動力に加え、その結果を目標エンジントルクとする。目標駆動力が後輪8の出力についての目標値である場合、目標エンジントルク算出部16Aは、基準目標駆動力算出部15Aとは反対に、例えば慣性トルクに起因する出力の変化量とCVT5で失うトルクに起因する出力の損失とを目標駆動力に加え、その加算の結果(目標となるエンジン出力)と最終目標エンジン回転速度とに基づいて目標エンジントルクを算出する。
【0083】
スロットル開度算出部16Bは目標エンジントルクに基づいて目標スロットル開度を算出する。具体的には、スロットル開度算出部16Bは、エンジントルクとスロットル開度とエンジン回転速度とを対応づけるマップを参照し、目標エンジントルクと最終目標エンジン回転速度とに対応するスロットル開度を算出し、このスロットル開度を目標スロットル開度とする。
【0084】
目標スロットル開度算出部16の処理は、以上説明したものに限られない。例えば、目標スロットル開度算出部16は、目標駆動力に基づいて目標とするエンジン出力を算出し、スロットル開度算出部16Bは、目標エンジン出力に基づいて、目標スロットル開度を算出してもよい。この場合、記憶装置10cには、エンジン出力とスロットル開度とエンジン回転速度とを対応づけるマップが格納される。そして、スロットル開度算出部16Bは、このマップを参照し、目標エンジン出力と目標エンジン回転速度とに基づいて、目標スロットル開度を算出する。
【0085】
上述したように、目標エンジン回転速度算出部12は、回転速度補正を行う場合、最良燃費エンジン回転速度を算出し、最良燃費エンジン回転速度と基準目標エンジン回転速度とに基づいて最終目標エンジン回転速度を設定している。回転速度補正を行う場合、最良燃費エンジン回転速度の算出は、例えば、目標駆動力算出部15が算出した目標駆動力を利用して行われる。例えば、後輪8の出力と最良燃費エンジン回転速度との関係(すなわち最良燃費曲線を規定するマップ)が記憶装置10cに格納される。目標駆動力が後輪8の出力についての目標値である場合には、目標エンジン回転速度算出部12は、このマップを参照し、目標駆動力算出部15が算出した目標駆動力に対応する最良燃費エンジン回転速度を算出する。また、目標駆動力が後輪8のトルクについての目標値である場合には、目標エンジン回転速度算出部12は、例えば、目標駆動力に後輪8の回転速度を乗じ、最良燃費曲線を規定するマップにおいてその乗算結果に対応する最良燃費エンジン回転速度を算出する。
【0086】
以上説明した制御装置10では、第1基礎エンジン回転速度算出部12aは、第1の運転モード(例えば、上述の低燃費モード)でのエンジン回転速度を規定する第1の基礎情報から第1のエンジン回転速度を算出している。第2基礎エンジン回転速度算出部12bは、第2の運転モード(例えば、上述の加速応答性モード)でのエンジン回転速度を規定する第2の基礎情報から第2のエンジン回転速度を算出している。運転意図取得部17は運転者の運転意図を表す数値である運転意図値を取得し、目標エンジン回転速度算出部12は、第1のエンジン回転速度と第2のエンジン回転速度との間で算出され且つ運転意図値に応じたエンジン回転速度(以上の説明では、基準目標エンジン回転速度)に基づいて、目標エンジン回転速度(以上の説明では、最終目標エンジン回転速度)を算出している。目標変速比算出部13は、最終目標エンジン回転速度に基づいてCVT5の目標変速比を算出し、スロットル開度算出部16Bは、センサーによって検知したアクセル操作量に基づいて算出された目標駆動力と最終目標エンジン回転速度とに基づいて目標スロットル開度を算出している。
【0087】
制御装置10によれば、従来の制御とは反対に、最初に目標エンジン回転速度が算出され、その後に駆動力に関する目標値が算出される。そのため、車両の駆動力に関する目標値が目標エンジン回転速度の設定に影響することを抑えることができる。その結果、快適な乗車感を得ることができるようにエンジン回転速度を制御することが容易となる。また、目標エンジン回転速度の算出に運転意図値を利用するので、運転者の運転意図に適合したエンジン回転速度を実現できる。例えば、第2の基礎情報で規定されるエンジン回転速度は、上述したように、第1の基礎情報で規定されるエンジン回転速度よりも良好な加速応答性を実現できる回転速度である。このような例において、運転者が加速応答性の良い走行を望んでいる場合には、目標エンジン回転速度(具体的には、基準目標エンジン回転速度)を第2の基礎情報から得られる第2のエンジン回転速度に近い回転速度に設定することが可能となる。
【0088】
なお、本発明は以上説明した制御装置10に限られず、種々の変更が可能である。
【0089】
例えば、制御装置10では、車両が旋回している状況では運転意図値の変化が制限されている。しかしながら、運転意図値の変化の制限は必ずしも実行されなくてもよい。
【0090】
また、制御装置10は、回転速度補正と駆動力補正の双方を行うことが可能であった。しかしながら、制御装置10は、回転速度補正と駆動力補正の一方のみが可能であってもよい。また、制御装置10は、このような回転速度補正と駆動力補正の双方を行えなくてもよい。すなわち、目標駆動力算出部15は必ずしも補正部15Bを含んでいなくてもよい。また、目標エンジン回転速度算出部12は必ずしも補正部12Bを含んでいなくてもよい。
【0091】
また、以上の説明では、目標駆動力と基準目標駆動力は、目標とする後輪8の出力又は後輪8のトルクであった。しかしながら、これらは、目標とするエンジン出力であってもよいし、車両の加速度でもよい。
【0092】
また、以上の説明では、補正部12Bが出力する目標エンジン回転速度を最終目標エンジン回転速度と称していたが、最終目標エンジン回転速度がさらに補正され、その補正後の目標エンジン回転速度に基づいて、目標変速比等が算出されてもよい。