(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コイルの先端部および基端部の少なくとも一方は、前記コイルの単位長さあたりの前記線材の巻き数が、前記コイルの先端部と基端部との間の中間部での単位長さあたりの前記線材の巻き数より少ない請求項8に記載のガイドワイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のガイドワイヤを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
<第1実施形態>
図1は、本発明のガイドワイヤの第1実施形態を示す部分縦断面図(概略側面図)であり、
図2は、
図1に示す管状部材の縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、
図1および
図2中の長軸方向に対して右側を「基端」、左側を「先端」と言い、上側を「上」、下側を「下」と言う。また、
図1および
図2では、理解を容易にするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの径方向(太さ方向)を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と径方向の比率は、実際とは異なる(
図3以後も同じ)。また、本発明のガイドワイヤは、例えば、血管の管壁間距離が減少した部分である血管狭窄部や血管が急峻に屈曲した部位等で優れた操作性を発揮するが、以下、本発明のガイドワイヤが血管狭窄部内に位置している場合について代表的に説明する。
【0027】
図1に示すガイドワイヤ1は、カテーテル(内視鏡も含む)の内腔に挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤであって、先端側に配置された第1ワイヤ2と、第1ワイヤ2の基端側に配置された第2ワイヤ3とを接合(接続)してなる可撓性を有するワイヤ本体11と、ワイヤ本体11の先端部に固定部材42、43によって固定されたコイル41を有する先端部材4と、コイル41の基端側で、かつ、ワイヤ本体11の外周に設けられた管状部材5とを備えている。ガイドワイヤ1の全長は、特に限定されないが、200〜5000mm程度であるのが好ましい。また、ガイドワイヤ1の外径は、特に限定されないが、通常、0.2〜1.2mm程度であるのが好ましい。
【0028】
第1ワイヤ2は、柔軟性または弾性を有する線材(芯材)で構成されている。第1ワイヤ2の長さは、特に限定されないが、20〜1000mm程度であるのが好ましい。
【0029】
本実施形態では、第1ワイヤ2は、その外径が一定である部分(外径一定部)と、外径が先端方向へ向かって漸減しているテーパ状の部分(外径漸減部)(テーパ部)とを有する。図示の構成では、第1ワイヤ2は、基端側から先端側に向って順に、外径一定部25と、テーパ部(外径増大部)24と、外径一定部25より外径が小さい外径一定部23と、テーパ部(本体側テーパ部)22と、最先端部21とを有している。
【0030】
前記テーパ部22、24を有することにより、第1ワイヤ2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ1は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管等の生体管腔(体腔)への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
【0031】
テーパ部22、24のテーパ角度(外径の減少率)は、それぞれ、ワイヤ本体11の長手方向(以下、単に「長手方向」と言う)に沿って一定でも、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。例えば、テーパ角度(外径の減少率)が比較的大きい箇所と比較的小さい箇所とが複数回交互に繰り返して形成されているようなものでもよい。
【0032】
最先端部21は、例えば、外径一定部23より外径が小さい外径一定部とすることができる。
【0033】
また、最先端部21は、例えば、平板状(リボン状)をなし、所望の形状に変形(リシェイプ:形状付け)させて用いることができるように構成してもよい。一般に、ガイドワイヤでは、誘導するカテーテル等の先端部を血管形状に対応させたり、血管分岐を円滑に誘導したりするために、医師がガイドワイヤの先端部を予め所望の形状に曲げて使用することがあり、このようにガイドワイヤの先端部を所望の形状に曲げることをリシェイプと言う。そして、この最先端部21を設けることにより、リシェイプを容易かつ確実に行うことができ、ガイドワイヤ1を生体内に挿入する際の操作性が格段に向上する。
【0034】
最先端部21の長さは、特に限定されないが、5〜200mm程度であるのが好ましく、10〜150mm程度であるのがより好ましい。特に、最先端部21をリシェイプさせて用いる場合は、最先端部21の長さが長すぎると、その構成材料によっては、ガイドワイヤ1の操作性が低下するおそれがあり、一方、最先端部21の長さが短すぎると、ガイドワイヤ1の先端部の形状を所望の形状にすることができなくなるおそれがある。
【0035】
第1ワイヤ2の構成材料(素材)は、特に限定されず、例えば、Ni−Ti系合金、ステンレス鋼などの各種金属材料を使用することができるが、擬弾性を示す合金(超弾性合金を含む。)であるのが好ましい。より好ましくは超弾性合金である。超弾性合金は、比較的柔軟であるとともに復元性があり、曲がり癖が付き難いので、第1ワイヤ2を超弾性合金で構成することにより、ガイドワイヤ1は、その先端側の部分に十分な柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られるとともに、第1ワイヤ2が湾曲・屈曲変形を繰り返しても、第1ワイヤ2に復元性により曲がり癖が付かないので、ガイドワイヤ1の使用中に第1ワイヤ2に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
【0036】
擬弾性合金には、引張りによる応力−ひずみ曲線のいずれの形状も含み、As、Af、Ms、Mf等の変態点が顕著に測定できるものも、できないものも含み、応力により大きく変形(歪)し、応力の除去により元の形状にほぼ戻るものは全て含まれる。
【0037】
超弾性合金の好ましい組成としては、49〜52原子%NiのNi−Ti合金等のNi−Ti系合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu−Zn合金、1〜10重量%XのCu−Zn−X合金(Xは、Be、Si、Sn、Al、Gaのうちの少なくとも1種)、36〜38原子%AlのNi−Al合金等が挙げられる。このなかでも特に好ましいものは、上記のNi−Ti系合金である。なお、Ni−Ti系合金に代表される超弾性合金は、樹脂被覆層を被覆して用いる場合、樹脂被覆層の密着性にも優れている。
【0038】
第1ワイヤ2の基端(外径一定部25の基端)には、第2ワイヤ3の先端が接合(接続)されている。第2ワイヤ3は、柔軟性または弾性を有する線材(芯材)で構成されている。第2ワイヤ3の長さは、特に限定されないが、20〜4800mm程度であるのが好ましく、1400〜3000mm程度であるのがより好ましい。
【0039】
第2ワイヤ3の平均外径は、第1ワイヤ2の平均外径より大きい。これにより、ガイドワイヤ1は、その先端側である第1ワイヤ2上では、より柔軟性に富み、基端側である第2ワイヤ3上では、より剛性が高いものとなるので、先端部の柔軟性と優れた操作性(押し込み性、トルク伝達性等)とを両立することができる。
【0040】
前記第1ワイヤ2と第2ワイヤ3との接合方法は、特に限定されず、例えば、溶接やろう接等、種々の方法を用いることができるが、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とは溶接により接合されているのが好ましい。
【0041】
また、前記溶接方法としては、特に限定されず、例えば、摩擦圧接、レーザを用いたスポット溶接、アプセット溶接等の突き合わせ抵抗溶接などが挙げられるが、比較的簡単で高い接合強度が得られることから、突き合わせ抵抗溶接が特に好ましい。
【0042】
第2ワイヤ3は、第1ワイヤ2と異なる材料で構成されており、特に、第1ワイヤ2の構成材料より弾性率(ヤング率(縦弾性係数)、剛性率(横弾性係数)、体積弾性率)が大きい材料で構成されているのが好ましい。これにより、第2ワイヤ3に適度な剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)が得られ、ガイドワイヤ1がいわゆるコシの強いものとなって押し込み性およびトルク伝達性が向上し、より優れた挿入操作性が得られる。
【0043】
第2ワイヤ3の構成材料(素材)は、第1ワイヤ2と異なるものであれば特に限定されず、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F、SUS302等のSUS全品種)、ピアノ線、コバルト系合金、擬弾性合金などの各種金属材料を使用することができるが、ステンレス鋼またはコバルト系合金であるのが好ましく、ステンレス鋼であるのがより好ましい。第2ワイヤ3をステンレス鋼またはコバルト系合金で構成することにより、ガイドワイヤ1は、より優れた押し込み性およびトルク伝達性が得られる。
【0044】
なお、本実施形態では、ワイヤ本体11は、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とを接合したものであるが、これに限らず、例えば、1本の連続した線材で構成されていてもよい。
【0045】
図1に示すように、ワイヤ本体11の先端部外周、すなわち、第1ワイヤ2の最先端部21、テーパ部22の外周には、外径および内径が一定であるコイル41が設置されている。このコイル41は、線材40を螺旋状に巻回してなる部材であり、ワイヤ本体11の先端部、すなわち、第1ワイヤ2の最先端部21と、テーパ部22の基端部を除く部分とを覆うように設置されている。また、第1ワイヤ2は、コイル41の内側のほぼ中心部に非接触で挿通されている。
【0046】
コイル41の長さ(ワイヤ本体11の長手方向の長さ)は、5〜500mmが好ましく、10〜300mmがより好ましい。また、コイル41の内径は0.1〜0.95mmが好ましく、0.2〜0.7mmがより好ましい。
【0047】
このようなコイル41は、金属材料で構成されているのが好ましい。コイル41を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、超弾性合金、コバルト系合金や、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば白金−イリジウム合金)等が挙げられる。特に、貴金属のようなX線不透過材料で構成した場合には、ガイドワイヤ1にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができ、好ましい。また、コイル41は、その先端側と基端側とを異なる材料で構成してもよい。例えば、先端側をX線不透過材料のコイル、基端側をX線を比較的透過する材料(ステンレス鋼など)のコイルにて各々構成してもよい。
【0048】
コイル41の先端部および基端部は、それぞれ、固定部材42および43により第1ワイヤ2に固定されている。固定部材42、43は、半田(ろう材)で構成されている。なお、固定部材42、43は、半田に限らず、接着剤でもよい。また、コイル41の固定方法は、固定部材によるものに限らず、例えば、溶接でもよい。また、血管等の体腔の内壁の損傷を防止するために、固定部材42の先端面は、丸みを帯びているのが好ましい。
【0049】
本実施形態では、このようなコイル41が設置されていることにより、ガイドワイヤ1の先端部において適度の柔軟性が得られ、また、第1ワイヤ2は、コイル41に覆われて接触面積が少ないので、摺動抵抗を低減することができ、よって、ガイドワイヤ1の操作性がより向上する。
【0050】
コイル41の基端側で、かつ、ワイヤ本体11の外周には、チューブで構成された管状部材5が設けられている。管状部材5は、先端部に設けられた先端側肉厚減少部52と、基端部に設けられた基端側肉厚減少部53とを有している。
【0051】
管状部材5は、横断面形状が円形をなし、テーパ部22の基端部、外径一定部23、テーパ部24の先端部を覆うように、ワイヤ本体11に非固定で挿通されている。また、管状部材5は、その長手方向の全長にわたってワイヤ本体11に対して非固定的に設けられており、先端部材4(コイル41および固定部材43)に対しても非固定的に設けられている。これにより、管状部材5は、その長手方向の全長にわたって、ワイヤ本体11およびコイル41に対して独立して回転することができる。その結果、血管狭窄部100内で血管の管壁に管状部材5が挟まれた場合であっても、ワイヤ本体11の基端部に回転力を加えると、ワイヤ本体11は、その先端部まで十分に回転力が伝達され、固定されている管状部材5に対して回転することができる。したがって、ガイドワイヤ1は、急峻に湾曲した血管内または血管狭窄部100内においても優れた操作性を発揮することができる。
【0052】
先端側肉厚減少部52は、管状部材5の管壁の厚さが先端側に向って減少している部分である。すなわち、先端側肉厚減少部52は、管状部材5の外径が一定で、かつ、管状部材5の内径が、先端側に向って拡径した部分である。このような先端側肉厚減少部52が設けられていることにより、管状部材5の先端部の曲げ剛性を低下させることができる。これにより、先端側肉厚減少部52では、柔軟性が高くなっている。よって、ワイヤ本体11が急峻に湾曲した場合であっても、管状部材5の先端部は、ワイヤ本体11に確実に追従して変形することができる。したがって、ワイヤ本体11の変形を阻害しない。
【0053】
また、先端側肉厚減少部52は、ワイヤ本体11の側面視で先端部材4の基端部(固定部材43の一部およびコイル41の一部)と重なっている。すなわち、先端側肉厚減少部52は、丸みを帯びた固定部材43の外周面を覆うように設けられている。これにより、先端部材4と管状部材5との間に生じる空間を小さくすることができる。よって、先端部材4と管状部材5との境界部では、段差が少なくなり、例えば血管の管壁との引っかかりを低減することができる。
【0054】
基端側肉厚減少部53は、管状部材5の管壁の厚さが基端側に向って減少している部分である。すなわち、基端側肉厚減少部53は、管状部材5の外径が一定で、かつ、管状部材5の内径が、基端側に向って拡径した部分である。このような基端側肉厚減少部53が設けられていることにより、管状部材5の基端部の曲げ剛性を低下させることができる。これにより、基端側肉厚減少部53では、柔軟性が高くなっている。よって、ワイヤ本体11が急峻に湾曲した場合であっても、管状部材5の基端部は、ワイヤ本体11に確実に追従して変形することができる。したがって、ワイヤ本体11の変形を阻害することを防止することができる。
【0055】
また、基端側肉厚減少部53は、ワイヤ本体11の側面視でワイヤ本体11のテーパ部24と重なっている。前述したように、基端側肉厚減少部53は柔軟性が高くなっているため、テーパ部24がワイヤ本体11に柔軟性を付与するのを阻害することを防止することができる。また、基端側肉厚減少部53は、テーパ部24の外表面を覆うように設けられている。これにより、管状部材5の基端部と、ワイヤ本体11のテーパ部24との間に生じる空間を小さくすることができる。よって、基端側肉厚減少部53とテーパ部24との境界部では、段差が少なくなり、例えば血管の管壁との引っかかりを低減することができる。
【0056】
管状部材5の外径は、0.2〜1.0mmが好ましく、0.36〜0.89mmがより好ましい。また、管状部材5の内径は、0.1〜0.95mmが好ましく、0.2〜0.7mmがより好ましい。これにより、管状部材5の内径が、コイル41の外径に対して十分小さいものとなり、よって、管状部材5の先端部は、コイル41よりも先端側への移動が規制されている。したがって、管状部材5が、先端部材4に乗り上げるのを防止することができる。
【0057】
さらに、管状部材5の内径は、ワイヤ本体11のテーパ部24の外径の最大値よりも小さい。これにより、管状部材5の基端部は、テーパ部24によって、テーパ部24よりも基端側への移動が規制されている。よって、管状部材5が、テーパ部24および外径一定部25に乗り上げるのを防止することができる。
【0058】
このように管状部材5は、先端側および基端側への移動限界が規制されているため、血管狭窄部100内のような比較的狭い部分を通過する場合であっても、固定部材43およびテーパ部24の間に留まることができる。
【0059】
管状部材5の長さは、コイル41の長さよりも長いのが好ましい。具体的には、管状部材5の長さは、10〜500mmが好ましく、50〜300mmがより好ましい。また、管状部材5の長さは、ワイヤ本体11の長さの0.3〜30%が好ましく、1.5〜15%がより好ましい。これにより、ガイドワイヤ1では、できる限り管状部材5で血管狭窄部100を受けることがきる。なお、管状部材5は、ガイドワイヤ1の使用時においては、血管等の生体管腔中に挿入された状態となる。
【0060】
管状部材5とワイヤ本体11(外径一定部23)との間には、管状部材5とワイヤ本体11との摺動抵抗を低減させる摺動抵抗低減材が設けられている。本実施形態では、管状部材5の内周面に、親水性材料で構成された親水性潤滑層7が被覆されている(
図2参照)。これにより、親水性材料が湿潤して潤滑性を生じ、管状部材5とワイヤ本体11との摩擦(摺動抵抗)が低減し、摺動性が向上する。
【0061】
親水性材料(親水性潤滑層7の構成材料)としては、例えば、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)のブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0062】
本実施形態では、親水性潤滑層7は、管状部材5の内周面に設けられているが、ワイヤ本体11の外表面全体に設けられていてもよい。さらに、管状部材5の外表面にも設けられていてもよい。これにより、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)を低減する。よって、ガイドワイヤ1の摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。
【0063】
以上、摺動抵抗低減材として親水性材料を用いた例を示したが、本発明ではこれに限定されず、例えば、フッ素系樹脂やケイ素系樹脂等を用いてもよい。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられる。またケイ素系樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂等が挙げられる。さらにはこれらの複合材料を用いてもよい。
【0064】
また、ガイドワイヤ1は、ワイヤ本体11の外周面(外表面)の全部または一部を覆う樹脂被覆層8、9を有している。図示の構成では、ワイヤ本体11の接合部6の外周に樹脂被覆層9が設けられ、それよりも基端側の部分の外周部に樹脂被覆層8が設けられている。
【0065】
この樹脂被覆層8、9は、種々の目的で形成することができるが、その一例として、ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)を低減し、摺動性を向上させることによってガイドワイヤ1の操作性を向上させることがある。
【0066】
ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)の低減を図るためには、樹脂被覆層8、9は、以下に述べるような摩擦を低減し得る材料で構成されているのが好ましい。これにより、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、ガイドワイヤ1の摺動抵抗が低くなることで、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動および/または回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれ、特に、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3の接合部(接合面)6付近におけるキンクやねじれをより確実に防止することができる。
【0067】
樹脂被覆層8、9を構成する材料としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂(PTFE、ETFE等)、またはこれらの複合材料が挙げられる。
【0068】
その中でも特に、フッ素系樹脂(またはこれを含む複合材料)を用いた場合には、ガイドワイヤ1とカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)をより効果的に低減し、摺動性を向上させることができ、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、これにより、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動および/または回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれ、特に溶接部付近におけるキンクやねじれをより確実に防止することができる。
【0069】
また、フッ素系樹脂(またはこれを含む複合材料)を用いた場合には、焼きつけ、吹きつけ等の方法により、樹脂材料を加熱した状態で、ワイヤ本体11への被覆を行うことができる。これにより、ワイヤ本体11と、樹脂被覆層8、9との密着性は特に優れたものとなる。
【0070】
また、樹脂被覆層8、9がシリコーン樹脂(またはこれを含む複合材料)で構成されたものであると、樹脂被覆層8、9を形成する(ワイヤ本体11に被覆する)際に、加熱しなくても、ワイヤ本体11に確実かつ強固に密着した樹脂被覆層8を形成することができる。すなわち、樹脂被覆層8、9をシリコーン樹脂(またはこれを含む複合材料)で構成されたものとする場合、反応硬化型の材料等を用いることができるため、樹脂被覆層8、9の形成を室温にて行うことができる。このように、室温にて樹脂被覆層8、9を形成することにより、簡便にコーティングができるとともに、接合部6における接合強度を十分に維持した状態にてガイドワイヤの操作ができる。
【0071】
樹脂被覆層8、9を構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
樹脂被覆層8、9の厚さは、特に限定されず、樹脂被覆層8の形成目的や構成材料、形成方法等を考慮して適宜されるが、通常は、樹脂被覆層8の厚さ(平均)は、1〜100μm程度であるのが好ましく、1〜30μm程度であるのがより好ましい。樹脂被覆層8、9の厚さが薄すぎると、樹脂被覆層8、9の形成目的が十分に発揮されないことがあり、また、樹脂被覆層8、9の剥離が生じるおそれがある。また、樹脂被覆層8、9の厚さが厚すぎると、ワイヤ本体11の物理的特性に影響を与えるおそれがあり、また樹脂被覆層8の剥離が生じるおそれがある。
なお、樹脂被覆層8、9は、単層でもよく、また、2層以上の積層体でもよい。
【0072】
また、本発明では、ワイヤ本体11の外周面(表面)に、樹脂被覆層8、9の密着性を向上するための処理(粗面加工、化学処理、熱処理等)を施したり、樹脂被覆層8、9の密着性を向上し得る中間層を設けたりすることもできる。
【0073】
<第2実施形態>
図3は、本発明のガイドワイヤの第2実施形態の管状部材の縦断面図である。
【0074】
以下、この図を参照しつつ本発明のガイドワイヤの第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。なお、説明の都合上、
図3中の右側を「基端」、左側を「先端」と言い、上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態は、管状部材の形状が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0075】
図3に示すように、本実施形態の管状部材5Aは、先端側肉厚減少部52と、基端側肉厚減少部53とを有している。
【0076】
先端側肉厚減少部52は、管状部材5の内径が一定で、かつ、管状部材5の外径が、基端側に向って漸減した部分である。また、固定部材43は、先端側肉厚減少部52Aおよびテーパ部22を一括して固定している。これにより、管状部材5Aの先端部は、先端部材4に固定される。よって、管状部材5Aは、固定部材43およびテーパ部24の間に確実に留まることができる。
【0077】
基端側肉厚減少部53は、管状部材5Aの内径が一定で、かつ、管状部材5の外径が、基端側に向って漸減した部分である。
【0078】
また、管状部材5Aの基端部は、ワイヤ本体11に対して非固定的に設けられている。これにより、管状部材5の基端部は、ワイヤ本体11に対して回転することができる。その結果、管状部材5が血管狭窄部100で血管に挟まれて固定された場合であっても、ガイドワイヤ1の基端部を把持して回転させると、管状部材5には、固定部材43を介してその回転力が伝達される。これにより、部分57は捻じれるので、前記回転力はガイドワイヤ1の先端まで伝達される。
【0079】
このように本実施形態のガイドワイヤ1は、管状部材5Aの移動限界がより確実に規制されているとともに、血管狭窄部100においても優れた操作性を発揮することができる。
【0080】
<第3実施形態>
図4は、本発明のガイドワイヤの第3実施形態における管状部材の縦断面図である。
【0081】
以下、この図を参照しつつ本発明のガイドワイヤの第3実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。なお、説明の都合上、
図4中の右側を「基端」、左側を「先端」と言い、上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態は、管状部材の形状が異なること以外は前記第2実施形態と同様である。
【0082】
図4に示すように、管状部材5Bには、その剛性を低減させる欠損部としての1本の連続したスリット54が設けられている。
【0083】
スリット54は、管状部材5Bの中心軸を中心として螺旋状に設けられている。スリット54は、管状部材5Bの外周面から内周面まで貫通しており、スリット54の幅Wは、その全長にわたって一定である。スリット54の幅Wは、0.001〜1.0mmが好ましく、0.002〜0.5mmがより好ましい。なお、本実施形態では、スリットの幅Wはその全長にわたって一定であるが、異なる部分を有していてもよい。
【0084】
図4(a)に示すように、ガイドワイヤ1を使用している途中で、管状部材5Bが血管狭窄部100の血管に挟まれて固定された状態となる場合がある。この状態からガイドワイヤ1の基端部を把持して
図4(a)中矢印A方向に回転させると、管状部材5には、固定部材43を介して、その回転力が伝達される。これにより、部分57は捻じれるので、当該部分57の外径が縮径する。部分57は、縮径した分、隣接するスリット54同士の間は、
図4(b)中矢印方向に縮まり、スリット54の幅は、
図4(a)でのスリット54の幅(
図4(b)中の二点鎖線)よりも狭くなる。
【0085】
一方、
図4(a)に示す状態から
図4(c)中矢印B方向に回転させると、前記とは逆に、スリット54の幅は、
図4(a)でのスリット54の幅(
図4(c)中の二点鎖線)よりも広くなる。
【0086】
また、スリット54は、先端側に向って形成密度が大きくなるよう形成されている。これにより、管状部材5Bでは、基端部での曲げ剛性およびねじり剛性よりも先端部での曲げ剛性およびねじり剛性が低くなる。よって、管状部材5Bの先端部は、柔軟性に富むとともに、よりねじれ易く、容易に回転することができる。
【0087】
このように本実施形態によれば、管状部材5Bの剛性を低下させることにより、ガイドワイヤ1は、より操作性に優れたものとなる。また、スリット54の形成間隔を必要に応じて変化させることで所望の特性を得ることができる。例えば、管状部材5Bの先端部および基端部では、スリット54の形成密度が大きくなるよう設け、先端部と基端部との間の中間部では、スリット54の形成密度が小さくなるよう設けることによって、前述した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0088】
<第4実施形態>
図5は、本発明のガイドワイヤの第4実施形態における管状部材の縦断面図である。
【0089】
以下、この図を参照しつつ本発明のガイドワイヤの第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。なお、説明の都合上、
図5中の右側を「基端」、左側を「先端」と言い、上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態は、管状部材の形状が異なること以外は前記第3実施形態と同様である。
【0090】
本実施形態の管状部材5Cは、外径および内径が一定であるコイルで構成されている。このコイル55は、横断面形状が円形をなす線材56を螺旋状に巻回して形成されている。また、コイル55の先端部での単位長さ(ワイヤ本体11の長手方向の長さ)あたりの線材56の巻き数は、コイル55の基端部および中間部での単位長さあたりの線材56の巻き数より少ない。これにより、コイル55の先端部での剛性を低下させることができる。
【0091】
なお、コイル55の基端部での単位長さあたりの線材56の巻き数も、コイル55の先端部と同様に、コイル55の中間部での単位長さあたりの線材56の巻き数よりも少なくてもよい。これにより、コイル55の基端部での剛性も低下させることができる。
【0092】
線材56の直径φdは、0.01〜0.2mmが好ましく、0.04〜0.1mmがより好ましい。これにより、コイル55では、柔軟性および剛性を両立させることができる。
【0093】
また、コイル55では、端部の柔軟性を高めるため、構成する線材56の線径(管状部材の管壁の厚さ)を先端部に向かって減少させることで、先端側肉厚減少部を設けることができる。この場合、先端側肉厚減少部は、コイル55の内径を一定にして、その外径を先端側に向かって減少させる、またはコイル55の外径を一定にして、その内径を先端側に向かって増大させることで設けることができる。
【0094】
また、同様に、コイル55では、構成する線材56の線径を基端部に向かって減少させることで基端側肉厚減少部を設けることができる。この場合、基端側肉厚減少部は、コイル55の内径を一定にして、その外径を基端側に向かって減少させる、またはコイル55の外径を一定にして、その内径を基端側に向かって増大させることで設けることができる。また、基端側肉厚減少部は、ワイヤ本体11の側面視でワイヤ本体11のテーパ部24と重なっている。
【0095】
コイル55を構成する材料としては、前述した先端部材4のコイル41と同じ材料が挙げられる。また、コイル41とコイル55とは、同じ材料で構成されていてもよく、異なる材料で構成されていてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、親水性潤滑層7は、ワイヤ本体11の外周面に設けられている。具体的には、テーパ部22、外径一定部23およびテーパ部24の外周面に設けられている。
【0097】
このようなコイル55で構成される管状部材5によれば、前述した第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0098】
以上、本発明のガイドワイヤを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0099】
なお、各実施形態では、管状部材の、その長手方向の移動限界を規制するストッパー等を別途設けてもよい。
【0100】
また、第3実施形態の欠損部は、スリットで構成されているが、本発明ではこれに限定されず、例えば、管壁を貫通する複数の貫通孔や、外周側または内周側に開放した溝等であってもよい。
【0101】
また、第3実施形態では、スリットは、1本の連続したものであるが、本発明ではこれに限定されず、複数本のスリットで構成されていてもよい。
【0102】
また、第4実施形態では、コイルを構成する線材の横断面形状は円形をなしているが、本発明ではこれに限定されず、例えば、半円状や偏平形状等をなしていてもよい。