(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6082834
(24)【登録日】2017年1月27日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】シート状のラドンガス発生源の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 27/00 20060101AFI20170206BHJP
D21H 17/02 20060101ALI20170206BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20170206BHJP
A61M 15/02 20060101ALI20170206BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
D21H27/00 Z
D21H17/02
D21H17/67
A61M15/02 Z
A61N5/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-107472(P2016-107472)
(22)【出願日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年8月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516159098
【氏名又は名称】未来環境研究機構株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】平野 友信
(72)【発明者】
【氏名】関口 信弘
(72)【発明者】
【氏名】時政 叡典
(72)【発明者】
【氏名】上床 恒弘
【審査官】
阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−010547(JP,A)
【文献】
特開2004−052152(JP,A)
【文献】
特開2012−055648(JP,A)
【文献】
特開平02−104798(JP,A)
【文献】
特開平08−024350(JP,A)
【文献】
特開2004−189517(JP,A)
【文献】
特開2005−218651(JP,A)
【文献】
特開2015−137433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
A61M 36/10− 36/14
A61N 5/00− 5/10
D04H 1/00− 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水,パルプ繊維,及び炭化物を混合してスラリー状の紙料を得る工程と,
前記紙料にラジウム鉱石粉末を添加してスラリー状の原料を得る工程と,
前記スラリー状の原料を抄紙する工程と,を含む
シート状のラドンガス発生源の製造方法。
【請求項2】
前記炭化物は,植物を低酸素雰囲気下で炭化させたものを水に溶出させることによって得られた,炭化物含有水である
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記パルプ繊維は,楮繊維である
請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記抄紙する工程によって前記スラリー状の原料を抄紙して第1の湿紙を得る工程と,
前記第1の湿紙の片面又は両面に,ラジウム鉱石粉末を含まない第2の湿紙を当てて,前記第1の湿紙と前記第2の湿紙とをプレスし乾燥させる工程と,をさらに含む
請求項1から請求項3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,パルプ繊維にラジウム鉱石粉末を担持させたシート状のラドンガス発生源の製造方法に関する。具体的に説明すると,本発明は,ラドンガスを呼吸器系などから吸入させて代謝機能を促進したり,弱放射線療法によって生活習慣病等の予防・改善に寄与することのできるラドンガス発生源の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラドンは,原子番号86の常温で化学的に安定な気体であり,無色無臭希ガス族放射性元素である。自然界には,ラドン−222とラドン−220が主として存在しており,ラドン222は,ラジウム原子量226のアルファ崩壊によって発生する。ラドン−222の半減期は約3.8日であるため,人間の健康の維持・増進や,疲労回復,予防医学などの目的のために利用するには好適な元素である。ラドンは自然界の雰囲気中にも存在しており,人は知らず知らずのうちに一定量のラドンを呼吸により吸入している。また,現在では,血液中に取り込まれたラドンから発生するアルファ線による刺激(ホルミシス)効果にも注目が集まり,ラドンの有効な利用方法が検討されている。
【0003】
例えば,特許文献1には,粉状又は粒状のラジウム鉱石に賦形剤を混練して固めた成形体を,500℃以上700℃未満の焼成温度で素焼きする工程を含むラドンガス発生源の製造方法が開示されている。具体的に説明すると,特許文献1の従来発明では,ラドンガス発生源になるラジウム鉱石片又はラジウム鉱石の原石を粉砕し,これを板状,チップ状,又は球状に成形したものを使用することとしている。また,この従来発明では,ラドンガス発生源を製造するにあたり,まず,粉状又は粒状のラジウム鉱石と,粘土や,セメント,化学接着剤,麦粉,椨粉(たぶこ)などの賦形剤とを混練して固めた成形体を得る。その後,得られた成形体を自然乾燥又は素焼きすることで,安定した構造体(ラドンガス発生源)を成形することができるとされている。特に,ラジウム鉱石に椨粉を混練した成形体を素焼きすることで,椨粉の繊維によって成形体に微細な空隙構造が形成されるようになり,成形体の内部で発生したラドンガスを成形体表面に導出する効果が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−39506公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,従来のラドンガス発生源は,板状,チップ状,又は球状などの焼成物であり,そのラドンガス発生能力を維持したまま軽量化,薄型化,小型化を実現することが困難であるとされていた。また,従来のラドンガス発生源は,固形物であることから,柔軟性に乏しく,摩擦や衝撃により破損や粉塵が生じることが問題であるとされていた。そこで,本発明者らは,固形状のラドンガス発生源の問題を改善し,安心・安全で取り扱い便利な製品を製造するために,ラドンガス発生源をシート状とする開発に着手した。具体的には,植物繊維を担体とし,そこにラジウム鉱石粉末を定着させたシート状のラドンガス発生源の開発を開始した。
【0006】
ところで,紙の製造においては,所望の機能・適性等を付与するために,填料や,サイズ剤,紙力増強剤,染料等などの種々の薬剤を,使用目的に応じて木製系パルプ繊維(機械パルプや化学パルプ等)に添加する手法が取られている。また,これらの薬剤を紙の原料に含まれるパルプ繊維に定着させるためのバインダー(定着剤)として,プラスの電荷を有する硫酸アルミニウムや,陽性澱粉,カチオン性高分子化合物等が一般的に採用されている。このため,シート状のラドンガス発生源を製造するにあたり,植物繊維に対するラジウム鉱石粉末の定着率を高めるために,一般的な紙の製造に用いられている硫酸アルミニウム等の定着剤を用いることも考えられる。しかしながら,ラジウム鉱石粉末などの無機物質をパルプ繊維に定着させるにあたり,前述した硫酸アルミニウムをバインダーとして用いても,ラジウム鉱石粉末の吸着率が低いことから線量の高いシート状のラドンガス発生源を得ることが困難であるうえ,得られた紙が酸性紙となり劣化の進行が早いという問題がある。また,高分子の陽性澱粉やカチオン性の高分子凝集剤等をバインダーとして用いる場合,その添加量の増加に伴って,フロック塊が生じて不均一な紙シートとなり,ラジウム鉱石粉末の含有率を局所的に高める傾向がある。このためにその添加量を増加させると,植物繊維にラジウム鉱石粉末を均一に定着させることが困難になるという問題がある。
【0007】
そこで,本発明は,ラジウム鉱石粉末を高い含有率で均一にパルプ繊維に定着させることのできる,シート状のラドンガス発生源の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは,上記問題を解決する手段について鋭意検討した結果,パルプ繊維にラジウム鉱石粉末を定着させるためのバインダーとして炭化物源を利用することで,ラジウム鉱石粉末を高い含有率で均一にパルプ繊維に定着させることに成功した。すなわち,炭化物源は一般的な製紙工程においてバインダーとして使用されていないものであるが,本発明者らは,炭化物源が植物性のパルプ繊維とラジウム鉱石粉末とを結合させるバインダーとして好適に機能し得るものであることを見出した。そして,本発明者らは,上記知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の工程を含むものである。
【0009】
本発明は,パルプ繊維とラジウム鉱石粉末を主原料とするシート状のラドンガス発生源の製造方法に関する。本発明の製造方法は,水,パルプ繊維,及びラジウム鉱石粉末に,さらにバインダーとして炭化物源を添加して混合し,得られたスラリー状の原料を抄紙する工程を含む。つまり,炭化物源に存在する単一化された多価の炭素イオンの働きを介して,ラジウム鉱石粉末がパルプ繊維に高い歩留まりで定着するものと考えられる。これにより,ラジウム鉱石粉末を多量に含んだラドンガス発生源を製造することができる。
【0010】
シート状に抄紙されたラドンガス発生源は,柔軟性があり,軽量化,薄型化,小型化が可能であることから,多方面で利用することができる。例えば,シート状のラドンガス発生源を利用すれば,吸引送風機なしでラドンガスを吸引できる新型製品として,二重構造の不織布の間にシート状にラドンガス発生源(特にシートに微細な孔を形成したもの)を挿入したマスク型のラドンガス吸入器を製造できる。シート状のラドンガス発生源を利用したマスク型のラドンガス吸入器は,携行に便利であり,場所を選ばずラドンガスの吸入が可能となる。
【0011】
また,ラジウム鉱石から放出されるラドン線量は,鉱石粒子の比表面積に比例するため,ラドンガス発生源をシート状とし,発生源の面積を拡大させることで,好適な線量を得ることができる。また,前述のように,炭化物源をバインダーとして利用することで,ラジウム鉱石粉末がパルプ繊維に対して高い歩留まりで均一に定着するため,例えば特許文献1等に開示された固形状のラドンガス発生源と同等或いはそれ以上の線量が得られる。
【0012】
さらに,炭化物源は,硫酸アルミニウム等とは異なり,それをバインダーとして利用しても得られた紙が酸性紙とはならず,中性紙を得ることができる。このため,本発明によって製造されたシート状のラドンガス発生源は酸性物質を含まず劣化しにくく長期保存性にも優れているといえる。
【0013】
本発明の製造方法は,水,パルプ繊維,及び炭化物源を混合してスラリー状の紙料を得る第1工程と,ここで得られた紙料にラジウム鉱石粉末を添加してスラリー状の原料を得る第2工程と,ここで得られた原料を抄紙する第3工程とを含むことが好ましい。このように,シート状のラドンガス発生源の製造過程においては,パルプスラリーに優先的に炭化物源を添加して均一に混合・撹拌し,その後にラジウム鉱石粉末を添加することで,パルプ繊維に対するラジウム鉱石粉末の歩留まり率を高めることができることを見出した。
【0014】
本発明において,炭化物源は,植物を低酸素雰囲気下で炭化させて炭化物を得て,当該炭化物を水に溶出させることによって得られた炭化物含有水(炭素水とも言う)であることが好ましい。なお,「低酸素雰囲気下」とは,大気中の酸素濃度(21%)よりも酸素濃度が低い雰囲気下を意味するものであり,無酸素状態を含む。このように,炭化物源として炭化物含有水を利用することで,ラジウム鉱石粉末をパルプ繊維に対して高い歩留まりで均一に定着させ,通気性のあるシートが形成できる。
【0015】
本発明において,パルプ繊維は,植物から得た木質系繊維,或いは靭皮繊維を用いることが出来るが,長い繊維の楮であることが好ましい。楮繊維は和紙の原料としても利用される。楮繊維は植物繊維の中でも特に繊維が長いものであるため,ラジウム鉱石粉末を定着させやすくなる。
【0016】
本発明の製造方法は,スラリー状の原料を抄紙して第1の湿紙を得る工程と,第1の湿紙の片面又は両面に,ラジウム鉱石粉末を含まない第2の湿紙を当てて,第1の湿紙と第2の湿紙とをプレスし乾燥させる工程と,を含むことが好ましい。このように,ラジウム鉱石粉末を含む紙の片面又は両面にラジウム鉱石粉末を含まない紙が積層されていることで,粉末の飛散や落下防止が図られ,利用者の肌に直接触れることを回避できる。このように,ラジウム鉱石粉末を含まない紙を積層した場合であっても,ラドンガス発生源の性能は維持される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば,ラジウム鉱石粉末が高い含有率で均一にパルプ繊維に定着したシート状のラドンガス発生源を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。なお,本願明細書において,「A〜B」とは「A以上B以下」であることを意味する。
【0019】
本発明は,基本的に,ラジウム鉱石粉末を混練した紙を製造するにあたり,ラジウム鉱石粉末とパルプ繊維のバインダーとして炭化物源を利用するという知見に基づくものである。本発明により製造された紙は,ラドンガスを発生させるラジウム鉱石粉末を多量に含むものであるため,ラドンガス発生源として好適に利用できる。ラドンガスの吸入が人間の健康の維持・増進や,疲労回復,予防医学において良い影響を与えることは,周知の事実である。本発明により得られるラドンガス発生源は,シート状(紙状)であるため,柔軟性に優れ,従来の固形状の発生源と比較して薄型化及び軽量化されたものであるため,様々な用途に利用することができる。
【0020】
シート状のラドンガス発生源の主原料は,水,パルプ繊維,ラジウム鉱石粉末であり,パルプ繊維とラジウム鉱石粉末のバインダーとして炭化物源が利用される。なお,シート状のラドンガス発生源には,上述した主原料の他に,公知の填料や,サイズ剤,紙力増強剤,染料等などの種々の薬剤が添加されていてもよい。
【0021】
パルプ繊維は,紙の原料として用いられている公知のものを採用できる。具体的には,楮や,三椏,雁皮,麻,ケナフ等を原料とする非木材パルプ,針葉樹パルプ(N材)や広葉樹パルプ(L材)等の木材パルプから成るクラフトパルプ(KP)や,サルファイトパルプ(SP),ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ,セミケミカルパルプ(SCP)やケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ,砕木パルプ(GP)やサーモメカニカルパルプ(TMP,BCTMP)等の機械パルプ,コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ,古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これらのパルプ繊維を単独で用いてもよいし,2種以上混合して用いてもよい。特に,本発明においては,和紙の原料となる楮パルプや,三椏パルプ,雁皮パルプを利用することが好ましい。その中でも,繊維が長くラジウム鉱石粉末との定着性が高いことから,楮パルプを利用することが特に好ましい。
【0022】
ラジウム鉱石粉末は,ラジウム鉱石の原石を粉状に粉砕したものである。ラジウム鉱石粉末は,平均粒子径を0.1μm〜100μmとすればよい。なお,平均粒子径の測定方法は,レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−2200)にて測定し,個数%により割合を算出する。
【0023】
炭化物源は,炭化物を含むか,炭化物を発生させるものである。炭化物源は,水とパルプ繊維とを混合したパルプスラリーに添加できるように,液状又は粉状のものが採用される。具体的に,炭化物源は,植物を低酸素雰囲気下で炭化させて炭化物を得て,当該炭化物を純水に溶出させることによって得られた,炭化物含有水であることが好ましい。すなわち,炭化物含有水には,純水の中に微小な粉末状の炭化物が存在していることとなる。炭化物含有水における炭化物粉末の濃度は,質量比において10〜50%であることが好ましい。炭化物の原料となる植物は特に限定されないが,例えば,小豆や籾殻などを原料とすることが好ましい。特に,本発明では小豆を炭化物の原料とすることが好ましい。また,天然の植物(小豆等)を炭化させる工程は,0〜15%の低酸素雰囲気下において,350〜550度又は400度〜500度で植物を加熱して炭化させることが好ましい。特に,400度〜500度(さらに好ましくは450度以下の範囲)で炭化させた植物の炭化物を利用することで,ラジウム鉱石粉末をパルプ繊維に定着させるのに好適な炭化物含有水を得ることができる。
【0024】
また,炭化物含有水は,純水に混合されている植物の炭化物が,例えばジェットミル粉砕や湿式粉砕などの粉砕法により,粒度分布のピークが10μm以下となる微粉末に粉砕されていることが好ましい。炭化物含有水に含まれる炭化物粉末の平均粒子径は,ラジウム鉱石粉末より小さいことが好ましく,具体的には,0.001〜0.1μm,又は0.01〜0.1μmであることが好ましい。なお,平均粒子径の測定方法は,レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−2200)にて測定し,個数%により割合を算出する。また,炭化物含有水に含まれる炭化物粉末の濃度の下限は,例えば,0.1ppm以上であることが好ましく,特に1ppm又は8ppm以上であることが好ましい。なお,炭化物粉末の濃度は,炭化物含有水に含まれる水の分子数に対する炭素の原子数に割合によって求める。水の分子量は18であり,炭素の原子量は12であり,アボガドロ定数は6.02214086×10
23mol
−1とする。炭化物含有水に含まれる炭化物粉末の濃度の上限は特に限定されないが50%以下であることが好ましい。
【0025】
続いて,前述した主原料を利用してシート状のラドンガス発生源を製造する方法について説明する。
【0026】
好ましい実施形態においては,まず,水,パルプ繊維,及び炭化物含有水(炭化物源)を混合してスラリー状の紙料を得て,よく撹拌する。このとき,ラジウム鉱石粉末は未だ投入せず,優先的に炭化物含有水をパルプスラリー(水+パルプ繊維)に投入しておき,均一に混合しておく。炭化物含有水は,例えば炭化物粉末の濃度が8.6ppmである場合,パルプ繊維の重量に対して5〜50%で添加を行うことが好ましい。なお,炭化物含有水の添加量は,ラジウム鉱石粉末の添加量に応じて適宜調整すればよい。例えば,炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)は,ラジウム鉱石粉末の重量に対して,80〜150%で添加することが好ましく,特に110〜150%のようにラジウム鉱石粉末よりも多く添加することが好ましい。
【0027】
上記工程においてパルプスラリーと炭化物含有水の混合が完了した後,ここで得られたスラリー状の紙料に対して,ラジウム鉱石粉末を添加する。このように,炭化物含有水が均一に撹拌された紙料に対してラジウム鉱石粉末を添加する手順をとることで,炭化物含有水が効果的にバインダーとして機能するため,ラジウム鉱石粉末をパルプ繊維に高い歩留まりで定着させることができる。ラジウム鉱石粉末は,パルプ繊維の重量に対して,5〜20%の範囲で添加することが好ましい。ラジウム鉱石粉末の重量比率が5%を下回ると,好適な放射線量を得ることが出来ず,20%を上回るとパルプ繊維に対する定着性が悪くなり,得られたシート状のラドンガス発生源から粉末が飛散・脱落するおそれがある。このため,ラジウム鉱石粉末の添加量は,求める放射線量やラドンガス発生源の用途に応じて,5〜20%の範囲で調整することが好ましい。
【0028】
上記工程において,パルプスラリー,炭化物含有水,及びラジウム鉱石粉末の混合が完了した後,ここで得られた原料を抄紙してシート状のラドンガス発生源を得る。ここでの抄紙工程は,公知の手漉法と機械漉法のいずれであってもよい。例えば,手漉法においては,水槽内の水で薄めた原料から1枚ずつ手作業で紙原料を掬い上げたのち,プレスして平坦にならし乾燥させる。機械漉法においては,公知の機械式抄紙機を利用して,水で薄めた原料を機械により連続的に抄紙し,プレスし,乾燥させればよい。
【0029】
以下では,本発明に係るシート状ラドンガス発生源の製造方法について,実施例を挙げてより具体的に説明する。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
実施例1では,大型の和紙作成用の紙漉器を利用して,シート状のラドンガス発生源を製造した。まず,水150Lが入った水槽に,楮繊維90gを投入し,撹拌による十分な分散を行い,次いで50ml(50g)の炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)を撹拌しながら加えた。その後,水槽にラジウム鉱石粉末40gを投入しよく撹拌して,ラジウム鉱石粉末と楮繊維を定着させた。ラジウム鉱石粉末が均一に撹拌された後,得られた原料を紙状に抄き上げて,プレスによって平坦にならし,その後乾燥させた。つまり,実施例1において,原料の比率は,180g(100%)=楮繊維90g(50%)+炭化物含有水50ml(28%)+ラジウム鉱石粉末40g(22%)であった。なお,炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)は,小豆を低酸素雰囲気下で,450度弱で加熱して粉末状の炭化物を得て,さらに当該炭化物に対してジェットミル粉砕及び湿式粉砕を行って粒度分布のピークが10μm以下となり平均粒子径が0.071μmとなった微粉末を得て,当該微粉末を純水に溶出させることによって得られたものを使用した。
【0031】
ラドンガス発生源の製造過程で,楮スラリーに炭化物含有水を優先して添加した後,ラジウム鉱石粉末を添加することで,高い歩留率が得られることを見出した。この方法で得られたラドンガス発生源は,ハガキ大1.3gで,ラジウム線量が14101Bq/m
3/gを示すものであり,十分な線量が得られることが判った。この結果は,水槽に楮繊維90g,炭化物含有水50ml(50g),ラジウム鉱石粉末40gの順に材料を投入した実施例によるものであるが,これ以外の実施例では,原料投入順や割合によって異なった数値が得られた。
【0032】
[実施例2]
実施例2では,原料及び製造手順は実施例1と同じとし,楮繊維の添加量を実施例1よりも少なくした。つまり,実施例2においては,原料の比率を,150g(100%)=楮繊維60g(40%)+炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)50g(33.3%)+ラジウム鉱石粉末40g(26.6%)とした。この場合のラドンガス発生源のラジウム線量は,10612Bq/m
3/gであった。これにより,楮繊維の量が多い方が高濃度の線量を得ることができることが確認された。
【0033】
[実施例3]
実施例3では,ハガキ大のシート状のラドンガス発生源を製造するため,小型の和紙作成用の紙漉き器を利用した。実施例3は,実施例1とは紙漉き器の制約により各原料の割合が異なるものの,原料の投入順は実施例1とした。実施例3においては,原料の比率を,合計7g(100%)=楮繊維3g(43%)+炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)3g(43%)+ラジウム鉱石粉末1g(14%)とした。この場合に,ラドンガス発生源のラジウム線量は,2934Bq/m
3/gであった。
【0034】
[実施例4]
実施例4では,実施例3と同様に小型の紙漉き器を利用し,原料の投入順序を実施例3とは異ならせた。すなわち,実施例4では,水,楮繊維,及びラジウム鉱石粉末を先に混合した後,最後に炭化物含有水を投入した。なお,実施例4においては,原料の比率を実施例3とほぼ同様とし,合計7.15g(100%)=楮繊維3g(42%)+炭素水3g(42%)+ラジウム鉱石粉末1.15g(16%)とした。この場合に,ラドンガス発生源のラジウム線量は,765Bq/m
3/gであった。実施例3と実施例4の比較結果により,原料投入順によりラドンガス発生源から得られる線量が大幅に異なることが判明した。すなわち,実施例3で示したように,先に楮繊維と炭化物含有水とを混合し,最後にラジウム鉱石粉末を投入することが好ましいことが判った。
【0035】
[実施例5]
実施例5は,原料の材料投入順は実施例3と同じであるが,炭化物含有水の割合を実施例3の2倍となる6gとした。つまり,実施例5においては,合計10g(100%)=楮繊維3g(30%)+炭化物含有水(炭化物粉末濃度8.6ppm)6g(60%)+ラジウム鉱石粉末1g(10%)とした。この場合に,ラドンガス発生源のラジウム線量は,1166Bq/m3/gであった。炭化物含有水の添加量を倍増しても,楮繊維3gの割合が材料投入量全体でみると約12%も少なくなることにより,ラジウム鉱石粉末が効率的に定着せず,線量が少なかったものと考えられる。一方,バインダーを増やしたことによるラジウム線量の向上は見られるものの,過剰の炭化物含有水は有効に寄与していないため,楮に対して1−50%程度の有効添加率が示唆される。
【0036】
[比較例1]
比較例1は,実施例1に対する比較例である。比較例1では,大型の和紙作成用の紙漉器を利用して,シート状のラドンガス発生源を製造した。比較例1は,炭化物含有水を添加しない以外は,実施例1と同じ条件でラドンガス発生源を製造した。すなわち,比較例1では,水150Lが入った水槽に,楮繊維90gを投入し,撹拌による十分な分散を行った。その後,水槽にラジウム鉱石粉末40gを投入しよく撹拌して,ラジウム鉱石粉末と楮繊維を定着させた。ラジウム鉱石粉末が均一に撹拌された後,得られた原料を紙状に抄き上げて,プレスによって平坦にならし,その後乾燥させた。つまり,比較例1において,原料の比率は,130g(100%)=楮繊維90g(69%)+ラジウム鉱石粉末40g(30%)であった。この方法で得られたラドンガス発生源は,ハガキ大1.3gで,ラジウム線量が7562Bq/m
3/gであり,実施例1のおよそ半分であった。このため,炭化物含有水を添加することで,楮繊維に対するラジウム鉱石粉末の定着率が高まり,その結果得られる線量が向上することが判った。
【0037】
[比較例2]
比較例1は,実施例3に対する比較例である。比較例2では,ハガキ大のシート状のラドンガス発生源を製造するため,小型の和紙作成用の紙漉き器を利用した。比較例2は,炭化物含有水を添加しない以外は,実施例3と同じ条件でラドンガス発生源を製造した。つまり,比較例2において,原料の比率は,合計4g(100%)=楮繊維3g(75%)+ラジウム鉱石粉末1g(25%)とした。この方法で得られたラドンガス発生源は,ラジウム線量が1868Bq/m
3/gであり,実施例3と比較して低い値であった。このため,炭化物含有水を添加することで,楮繊維に対するラジウム鉱石粉末の定着率が高まり,その結果得られる線量が向上することが判った。
【0038】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,本発明の好ましい実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は,ラドンガス発生源の製造方法に関する。本発明により得られたラドンガス発生源は,ラドンガスを呼吸器系などから吸入させて代謝機能を促進させたり,弱放射線療法によって生活習慣病等の予防・改善に寄与することができる。特に,シート状のラドンガス発生源を利用すれば,安心・安全で取り扱い便利な製品を開発することができる。例えば,二重構造の不織布の間にシート状にラドンガス発生源(特にシートに微細な孔を形成したもの)を挿入したマスク型ラドンガス吸入器の作成が可能である。これによれば,利用者は携行に便利であり,場所を選ばず手軽にラドンガスの吸入が可能となる。
【要約】 (修正有)
【課題】ラジウム鉱石粉末を高い含有率で均一にパルプ繊維に定着させる方法を提供する。
【解決手段】シート状のラドンガス発生源の製造方法であって,水,パルプ繊維,ラジウム鉱石粉末,及び炭化物源が混合されたスラリー状の原料を抄紙する工程を含む。炭化物源がバインダーとして機能し,ラジウム鉱石粉末がパルプ繊維に対して高い歩留まりで均一に定着する。
【選択図】なし