(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<本発明の一態様の概要>>
本発明の一態様に係る有機発光装置は、陽極と、前記陽極と離間して並設された配線と、前記陽極の上方に設けられた、有機発光材料を含む発光層と、前記発光層および前記配線の上方に共通して設けられた中間層と、前記発光層および前記配線の上方に前記中間層を介して共通して設けられ、電子注入性または電子輸送性を有する有機機能層と、前記発光層および前記配線の上方に前記有機機能層を介して共通して設けられた陰極と、を備え、前記中間層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択された第1金属のフッ化物と、当該第1金属のフッ化物における第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属とを含む、ことを特徴とする。
【0012】
また、前記有機発光装置において、前記第1金属のフッ化物は、NaFおよびLiFのいずれかであってもよい。
【0013】
また、前記有機発光装置において、前記第2金属は、Baであってもよい。
【0014】
また、前記有機発光装置において、前記第2金属は、電子注入性または電子輸送性を有し、前記有機機能層は、前記第2金属と同じ種類の金属を含んでもよい。
【0015】
また、前記有機発光装置において、前記陽極と前記配線とは同じ材料で構成されてもよい。
【0016】
また、前記有機発光装置において、前記陽極が、ITOおよびIZOのいずれかで構成されてもよい。
【0017】
また、前記有機発光装置において、前記陰極が、透明導電材料で構成されてもよい。
【0018】
さらに、前記有機発光装置において、前記透明導電材料は、ITOであってもよい。
【0019】
また、前記有機発光装置において、さらに、前記陽極と前記発光層との間および前記配線と前記中間層との間に共通して設けられた正孔注入層を備え、前記正孔注入層は、WO
xおよびMoO
xのいずれかで構成されてもよい。
【0020】
また、前記有機発光装置において、前記有機機能層の厚みは、25nm以上45nm以下であってもよい。
【0021】
また、前記有機発光装置において、前記有機機能層の厚みは、30nm以上40nm以下であってもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る有機発光装置の製造方法は、陽極および当該陽極と離間して並設される配線を形成する工程と、前記陽極上方に、有機発光材料を含む発光層を形成する工程と、前記発光層および前記配線の上方に、中間層を形成する工程と、前記発光層および前記配線の上方に前記中間層を介して、電荷輸送性または電荷注入性を有する有機機能層を共通して形成する工程と、前記発光層および前記配線の上方に前記有機機能層を介して、陰極を共通して形成する工程と、を含み、前記中間層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択された第1金属のフッ化物と、当該第1金属のフッ化物における第1金属とフッ素との結合を切る第2金属とを含む、ことを特徴とする。
【0023】
また、前記有機発光装置の製造方法において、前記中間層を形成する工程は、前記発光層および前記配線の上方に、前記第1金属のフッ化物を堆積した後、前記第2金属を堆積する工程、を含んでもよい。
【0024】
以下、具体例を示し、構成、作用、および効果を説明する。
【0025】
なお、以下の説明で用いる実施の形態は、本発明の一態様に係る構成、作用および効果を分かりやすく説明するために用いる例示であって、本発明は、その本質的部分以外に何ら以下の形態に限定を受けるものではない。また、数値範囲を示す際に用いる符号「〜」は、その両端の数値を含む。
<<実施の形態>>
1.有機EL表示パネルの構成
以下、実施の形態に係る有機発光装置の一例である有機EL表示装置の構成について
図1、
図2を用いて説明する。
【0026】
図1は、有機EL表示パネル100の一部拡大断面図である。本実施の形態では、1つの画素が、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)にそれぞれ対応する3つのサブ画素で構成される。有機EL表示パネル100は、同図上側を表示面とする、いわゆるトップエミッション型である。
【0027】
有機EL表示パネル100は、基板11、層間絶縁層12、陽極13、配線14、正孔注入層15、隔壁層16、正孔輸送層17、発光層18R,18G,18B、中間層19、有機機能層20、陰極21、および封止層22を備える。基板11、層間絶縁層12、正孔注入層15、中間層19、有機機能層20、陰極21、および封止層22は、有機EL表示パネル100が備える複数の画素に共通して形成されている。以下、有機EL表示パネル100の各部構成を説明する。
【0028】
<基板>
基板11は、基材111と、TFT層112とを含む。基材111は、絶縁性材料からなる。基材111の材料として、例えば、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレン、ポリエステル、シリコン系樹脂等を用いることができる。また、基材111としてガラス基板を用いてもよい。TFT層112には、TFTで構成される駆動回路(不図示)がサブ画素毎に形成されている。
【0029】
<層間絶縁層>
層間絶縁層12は、基板11上に形成されている。層間絶縁層12は、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。層間絶縁層12は、例えば、ポジ型の感光性材料からなる。ポジ型の感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂を用いることができる。
【0030】
<陽極>
陽極13は、層間絶縁層12上にサブ画素毎に形成される。陽極13は、例えば、光反射性導電材料と、透明導電材料との積層構造からなる。光反射性導電材料として、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、モリブデン(Mo)、APC(銀、パラジウム、および銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、および金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムとの合金)、MoW(モリブデンとタングステンとの合金)、NiCr(ニッケルとクロムとの合金)等を用いることができる。透明導電材料として、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)等を用いることができる。陽極13は、光反射性導電材料の単層構造としてもよい。
【0031】
なお、この断面図では現れないが、層間絶縁層12には、コンタクトホールがサブ画素毎に形成されている。また、当該コンタクトホールにはTFT接続配線が埋め込まれている。陽極13は、層間絶縁層12のコンタクトホールに埋め込まれたTFT接続配線を介して、TFT層112に形成された駆動回路と電気的に接続されている。
【0032】
<配線>
配線14は、陽極13と離間して、層間絶縁層12上に並設されている。配線14は、光反射性導電材料と、透明導電材料との積層構造からなる。光反射性導電材料として、銀、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデンを用いることができる。透明導電材料として、ITO、IZO、ZnO等を用いることができる。陽極13と配線14とは同じ材料で構成されている。そのため、共通の工程で陽極13と配線14とを形成でき簡便である。なお、陽極13と配線14とは、異なる材料で構成されてもよい。具体的には、配線14は、銀やアルミニウムなどの高導電材料の単層構造からなってもよい。
【0033】
以下、陽極13と配線14とのレイアウトについて説明する。
図2に示すように、陽極13は矩形状に形成され、配線14はライン状に形成されている。陽極13は、同図縦方向に並んで配置されている。2つの配線14は、陽極13からなる列を3列挟むように配置されている。このように配線14が形成されることにより、
図1に示す配線14から陰極21における配線14と対向する部分に電圧を印加することができる。
【0034】
<正孔注入層>
正孔注入層15は、陽極13から発光層18への正孔の注入を促進させる機能を有する。そのため、正孔注入層15は配線14上に形成しなくてもよい。例えば、正孔注入層15は、金属酸化物で構成される。正孔注入層15の形成は、例えば、スパッタリング法で行われる。正孔注入層15材料である金属酸化物としては、酸化タングステン(WO
x)、酸化モリブデン(MoO
x)や、銀(Ag)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)等の酸化物を用いればよい。また、正孔注入層15は、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)やポリアニリン等を用いてもよい。この場合、正孔注入層15は、インクの塗布および乾燥により形成される。インク塗布の工程には隔壁層が必要となるため、インク塗布による正孔注入層15の形成は、隔壁層16形成後、正孔輸送層17形成前に行われる。また、正孔注入層15は、スパッタリング等で形成される層と塗布で形成される層とを組み合わせてもよい。
【0035】
<隔壁層>
隔壁層16には開口部16a、16bが設けられる。隔壁層16は、陽極13および配線14の上面の一部の領域を被覆し、陽極13および配線14の上面の残りの領域を露出している。各陽極13上に各開口部16aが1対1で対応して設けられているため、各開口部16aが各サブ画素に対応することになる。
【0036】
隔壁層16は、発光層18をウェットプロセスで形成する場合に塗布されたインクがあふれ出ることを抑制する機能を有する。一方、隔壁層16は、発光層18を蒸着法で形成する場合に蒸着マスクを載置するための構造物としての機能を有する。隔壁層16は、例えば、ポジ型の感光性材料からなる。具体的には、隔壁層16の材料として、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂等を用いることができる。
【0037】
<正孔輸送層>
正孔輸送層17は、正孔注入層15から注入された正孔を発光層18へ輸送する機能を有する。そのため、正孔輸送層17は配線14上に形成しなくてもよい。正孔輸送層17の形成は、有機材料溶液の塗布および乾燥により行われる。正孔輸送層17材料である有機材料は、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物を用いることができる。また、正孔輸送層17はトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体で形成されてもよい。特に好ましくは、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物等を用いてもよい。この場合、正孔輸送層17は、真空蒸着法により形成される。
【0038】
<発光層>
発光層18R,18G,18Bは、正孔と電子との再結合により、それぞれR、G、Bの各色の光を出射する機能を有する。以下、区別の必要が無いときには、発光層18R,18G,18Bを「発光層18」と総称する。発光層18は、陽極13の上方であって隔壁層16に設けられた開口部16aに形成されている。発光層18は、有機発光材料を含む。有機発光材料として、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等の蛍光物質を用いることができる。また、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の公知の燐光物質を用いることができる。また、発光層18は、ポリフルオレンやその誘導体、ポリフェニレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物等、もしくは前記低分子化合物と前記高分子化合物の混合物を用いてもよい。この場合、発光層18は、有機材料溶液の塗布および乾燥により形成される。
【0039】
<中間層>
中間層19は、発光層18、隔壁層16、および配線14の上方に共通して設けられている。すなわち、中間層19は複数の画素に共通に設けられている。中間層19は、第1金属のフッ化物と、第2金属とを含む。第1金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属からなる群から選択される。第1金属のフッ化物は、水や酸素を通さない性質を有する。そのため、中間層19は、発光層18に含まれる水や酸素が、有機機能層20や陰極21に侵入することを抑制できる。第1金属のフッ化物としては、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)等を用いることができる。第2金属は、第1金属のフッ化物の第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する。第2金属としては、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)等を用いることができる。
【0040】
<有機機能層>
有機機能層20は、発光層18、隔壁層16、および配線14上方に中間層19を介して共通して設けられている。すなわち、有機機能層20は、複数の画素に共通に設けられている。また、有機機能層20は、陽極13の上方における発光層18と陰極21との間、および配線14の上方における中間層19と陰極21との間に存在している。有機機能層20は、例えば、有機機能層20は、陰極21から注入された電子を発光層18へ輸送する電子輸送層としての機能を有する。有機機能層20は、例えば、電子輸送性を有する金属を含む有機材料からなる。電子輸送性を有する金属を含むことで、有機機能層20の電子輸送性を向上できる。有機機能層20の有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)等を用いることができる。有機機能層20に含まれる金属は、例えば、バリウム、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、セシウム(Cs)、ナトリウム、ルビジウム(Rb)等を用いることができる。なお、有機機能層20は、電子輸送性を有する有機材料のみで構成されてもよい。
【0041】
<陰極>
陰極21は、発光層18、隔壁層16、および配線14上方に有機機能層20を介して、共通して設けられている。陰極21は、複数の画素に共通に設けられている。陰極21は、例えば、透明導電材料からなる。透明導電材料で陰極21が構成されることにより、発光層18で発生した光を陰極21側から取り出すことができる。陰極21の透明導電材料として、例えば、ITO、IZO等を用いることができる。これ以外にも、例えば、陰極21は、MgAg(マグネシウム銀)を用いることができる。この場合、陰極21の厚みを数10nm程度とすることで、光を透過させることができる。
【0042】
<封止層>
陰極21の上には、封止層22が設けられている。封止層22は、基板11と反対側から有機機能層20や陰極21への水や酸素の侵入を抑制する機能を有する。封止層22は、例えば、光透過性材料からなる。光透過性材料としては、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)等を用いることができる。
【0043】
<その他>
なお、
図1には図示しないが、封止層22の上にカラーフィルタや上部基板を載置し、接合してもよい。上部基板の載置および接合により、水分および酸素等から、発光層18、有機機能層20の保護が図られる。
2.有機EL表示パネルの製造方法
次に、有機EL表示パネル1の製造方法の一例を、
図3〜
図5の断面図を用いて説明する。
【0044】
図3(a)に示すように、層間絶縁層12が積層された基板11を形成する。
【0045】
図3(b)に示すように、層間絶縁層12上に陽極13および配線14を形成する。
【0046】
図3(c)に示すように、陽極13および配線14上に正孔注入層15を形成する。ただし、正孔注入層15は配線14上に形成しなくてもよい。また、正孔注入層15を塗布プロセスで形成する場合には、隔壁層16を形成後、正孔輸送層17形成前に形成する。
【0047】
図4(a)に示すように、開口部16a、16bが設けられた隔壁層16を形成する。
【0048】
図4(b)に示すように、陽極13および配線14上に正孔輸送層17を、開口部16aに、発光層18を形成する。ただし、正孔輸送層17は配線14上に形成しなくてもよい。正孔輸送層17および発光層18は、それぞれ有機材料を含むインク塗布し、さらに、インクを焼成(乾燥)することで、形成する。なお、正孔輸送層17および発光層18は、ウェットプロセスに限らず、例えば、真空蒸着法により形成してもよい。
【0049】
図4(c)に示すように、発光層18、隔壁層16、および配線14上に共通してフッ化ナトリウム層19aを堆積する。具体的には、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いてフッ化ナトリウム層19aを堆積させる。
【0050】
次に、
図5(a)に示すように、発光層18、隔壁層16、および配線14上に、中間層19を形成する。中間層19の形成は、
図4(c)で示したフッ化ナトリウム層19a上にバリウムを堆積することで完了する。バリウムは、フッ化ナトリウム層19a上に堆積されると、フッ化ナトリウム層19aの内部に侵入すると考えられる。これにより、フッ化ナトリウムとバリウムとを含む中間層19が形成される。これは、バリウムが、フッ化ナトリウムにおけるナトリウムとフッ素との結合を切る性質を有するためである。そのため、中間層19において、バリウムが、フッ化ナトリウム層19aの一部でナトリウムとフッ素との結合を切り、フッ化ナトリウム層19aの一部はそのままフッ化ナトリウムが残る。なお、バリウムの堆積は、具体的には、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて行う。
【0051】
図5(b)に示すように、中間層19上に、バリウムを含む有機機能層20を形成する。具体的には、真空蒸着法を用いて、有機機能層材料およびバリウムを堆積させることで、バリウムがドープされた有機機能層20を形成する。有機機能層20は、中間層19に含まれる第2金属と同じ種類の金属であるバリウムを含むため、準備する材料の種類を減らすことができ、製造上簡便である。
【0052】
最後に、
図5(c)に示すように、有機機能層20を介して、陰極21および封止層22を形成する。具体的には、まず、ITOを、真空蒸着法、スパッタリング法等により成膜して、陰極21を形成する。さらに、SiNをスパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等を用いて成膜して、封止層22を形成する。
【0053】
以上の工程を経ることにより有機EL表示パネル100が完成する。なお、有機EL表示パネル100のようなトップエミッション型の有機発光装置では、光取り出し効率を大きくするために、陰極の厚みを小さくすることがある。陰極の厚みを小さくした有機発光装置では、陰極のパネル面内での電圧のばらつきが生じやすいため、特に配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値を抑制することが有用である。
3.中間層に関する検討
有機EL表示パネル100における中間層19では、バリウムが、フッ化ナトリウム層19aの一部で結合を切り、フッ化ナトリウム層19aの残部で結合がそのまま残っている。そのため、陽極13上方において、結合が残ったフッ化ナトリウムにより発光層18から有機機能層20および陰極21への水や酸素の侵入を抑制できる。一方、中間層19は、簡便のために、複数の画素に共通に形成される。ここで、中間層19に含まれるフッ化ナトリウムは電気抵抗率が大きいという性質を有する。この構成では、中間層19に含まれるバリウムがフッ化ナトリウムのうち一部のナトリウムとフッ素との結合を切るため、中間層19に含まれるフッ化ナトリウムが少なくなる。これにより、配線14と陰極21における配線14と対向する部分との間の電気抵抗値を抑制できる。その結果、パネル面内での陰極21の電圧のばらつきを抑制できる。以下、これについて、実験を行い検証した。
(フッ化ナトリウムの分解性の解析)
実施例1と比較例1とのサンプルをそれぞれ作製し、SIMS(二次イオン質量分析法)で分析を行った。実施例1は、シリコン基板、フッ化ナトリウム層20nmおよびバリウム層2nmからなる中間層、有機材料のみからなる有機機能層20nm、およびアルミニウム層50nmを順に積層して形成した素子である。一方、比較例1の構成は、実施例1に対して、中間層をフッ化ナトリウム層20nmのみで構成し、その上部に成膜すべきバリウムを有機機能層中にドープさせ、バリウムとフッ化ナトリウムとの接触量を著しく低下させた素子である。また、実施例1の中間層におけるフッ化ナトリウム層およびバリウム層の厚みは、フッ化ナトリウムおよびバリウムを層状に成膜すると仮定した場合での厚みである。以下の測定に用いた素子についても同様である。
【0054】
図6(a)に実施例1の分析結果を、
図6(b)に比較例1の分析結果それぞれを示す。同図は(a)、(b)のいずれも、横軸がスパッタ深さを示し、縦軸がスパッタにより飛び出したイオンの強度を示す。
【0055】
図6(b)に示すように、比較例1において、スパッタ深さ0nmで酸素1s軌道のピークが現れ、スパッタ深さ0nm〜40nmでアルミニウム2s軌道が現れる。また、スパッタ深さ60nmで炭素1s軌道のピークが現れ、スパッタ深さ40nm〜80nmでバリウム3d5軌道が現れる。さらに、スパッタ深さ50nm〜100nmでフッ素1s軌道およびナトリウム1s軌道が現れる。加えて、スパッタ深さ80nm以上でシリコン2p軌道が現れる。
【0056】
一方、
図6(a)に示すように、実施例1において、酸素1s軌道、アルミニウム2s軌道、炭素1s軌道、およびシリコン2p軌道が現れるスパッタ深さは、比較例1とほぼ同じである。しかしながら、実施例1において、バリウム3d5軌道、フッ素1s軌道、およびナトリウム1s軌道が現れるスパッタ深さは、比較例1と比べて異なる。具体的には、バリウム3d5軌道が、比較例1ではスパッタ深さ40nm〜80nmで現れ、実施例1ではスパッタ深さ50nm〜90nmで現れる。さらに、比較例1ではバリウムの強度は小さいことから、含有されるバリウム量は小さく、バリウムがフッ化ナトリウムと接触する割合が小さくなっていることがわかる。また、フッ素1s軌道およびナトリウム1s軌道は、比較例1では50nm〜100nmで現れ、実施例1ではスパッタ深さ50nm〜120nmで現れ、実施例1におけるフッ素1s軌道およびナトリウム1s軌道の強度は、比較例1よりもどちらも小さくなっている。これは、実施例1においてフッ素、およびナトリウムが、各層の積層方向に拡がったことを示している。このフッ素およびナトリウムの拡散については、フッ化ナトリウムの上に成膜したバリウムがフッ化ナトリウムと反応し、一部のナトリウムとフッ素との結合を切ったためと考えられる。また、ここでは、実施例1の中間層がフッ化ナトリウム層20nmおよびバリウム層2nmからなる、としていたが、実際には中間層内にフッ化ナトリウムおよびバリウムが混在している状態であり、層構造にはなっていないと考えられる。
(配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値低減効果)
次に、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値の低減検証を行った。具体的には、反射電極と第1透明電極とからなる配線、フッ化ナトリウムと金属とを含む中間層、有機機能層、および第2透明電極を積層した有機発光装置を作製して、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値の測定を行った。サンプルは12種類作製し、いずれのサンプルも、反射電極、第1透明電極、有機機能層、および第2透明電極が積層されている。反射電極の厚みは400nmであり、第1透明電極の厚みは5nmであり、有機機能層の厚みは35nmである。各サンプルにおける、中間層および有機機能層の組成は、
図7の表に示す通りである。また、各サンプルにおける配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は
図8のプロットに示している。同図における横軸はサンプル番号であり、縦軸は配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値を示す。
【0057】
中間層がフッ化ナトリウムのみを含むサンプル1における電気抵抗値は、1.4E+06Ωである。一方、中間層がフッ化ナトリウムとアルミニウムまたはバリウムとを含むサンプル2〜12における抵抗値は、サンプル1の配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値1.4E+06Ωよりも小さい。これにより、中間層がフッ化ナトリウムに加えてアルミニウムまたはバリウムを含むことで、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなると言える。中間層がバリウムを含むことで配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなる原因は、
図6に示したように、電気抵抗率の大きいフッ化ナトリウムにおけるナトリウムとフッ素との結合が切られ、中間層に含まれるフッ化ナトリウムが少なくなったためと考えられる。中間層がアルミニウムを含む場合も同様であると考えられる。中間層がバリウムやアルミニウムを含む場合、その金属材料を成膜する際の熱エネルギーによって、フッ化ナトリウムにおけるナトリウムとフッ素との結合が切られると考えられる。なお、サンプル2〜6およびサンプル7〜12を比較すると、アルミニウムを用いた方が、バリウムを用いた場合よりも配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなる傾向がある。これは、アルミニウムの方がフッ化ナトリウムをより分解しやすいためと考えられる。
【0058】
図7、
図8に戻って、サンプル2とサンプル4とでは、フッ化ナトリウムの厚みが、それぞれ4.0nm、1.0nmと異なる。サンプル2における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は5.8E+05Ωであり、サンプル4における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は1.4E+05Ωである。これにより、フッ化ナトリウムの厚みが小さい方が、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなると考えられる。また、サンプル3、5、6の比較、サンプル7、9の比較、サンプル8、10の比較によっても、同様のことが言える。金属の厚みについても同様で、例えば、サンプル7とサンプル8とでは、バリウムの厚みがそれぞれ、0.5nmと1.0nmと異なる。サンプル7における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は1.2E+06Ωであり、サンプル8における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は8.1E+05Ωである。これにより、バリウムの厚みが大きい方が、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなると考えられる。Ba濃度についても同様で、例えば、サンプル2とサンプル3とでは、バリウム濃度がそれぞれ、20wt%と5wt%と異なる。サンプル2における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は5.8E+05Ωであり、サンプル3における配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は7.3E+05Ωである。これにより、バリウム濃度が大きい方が、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値が小さくなると考えられる。以上のことから、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値は、中間層におけるフッ化ナトリウムの膜厚、金属の厚み、金属の種類、電子輸送層の金属のドープ濃度で制御することができ、大きく低減することが可能である。
(高温保管後の電気抵抗値)
有機EL表示パネルは駆動中に高温になることが考えられる。また、有機EL表示パネルには、長期間の保管後にも輝度むらが抑制されることが求められる。そこで、準備直後および高温保管後の有機EL表示パネルにおいて、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値を測定した。具体的には、3つのサンプルを準備し、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値を測定した。さらに、3つのサンプルを80℃で240時間保管した後、当該電気抵抗値を再び測定した。サンプル1は、反射陽極と透明電極とからなる配線、フッ化ナトリウム層4.0nmのみからなる中間層、バリウムが20wt%でドープされた有機機能層35.0nm、透明電極を積層した素子である。サンプル2は、サンプル1に対し、中間層がフッ化ナトリウム層4.0nmとバリウム層1.0nmとを含む素子である。サンプル3は、サンプル1に対し、中間層がフッ化ナトリウム層1.0nmとバリウム層0.5nmとを含む素子である。
【0059】
図9は、素子構成を変化させたときの、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値の変化について示すグラフである。同図における横軸はサンプル番号を示し、縦軸は配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値、および高温保管後における当該電気抵抗値の劣化度を示す。各サンプルの棒グラフの左側がサンプル準備直後の電気抵抗値であり、右側が高温保管後の電気抵抗値である。丸形のプロットは電気抵抗値の劣化度を示している。なお、劣化度は、サンプル準備直後の電気抵抗値に対する高温保管後の電気抵抗値の割合である。
【0060】
サンプル1において、初期の電気抵抗値は1.4E+06Ωであり高温保管後の電気抵抗値は2.3E+06Ωである。このことから、フッ化物のみを中間層として挿入するだけでは、配線と陰極における配線と対向する部分の高温耐性は不十分であることがわかる。一方、サンプル2において、初期の電気抵抗値は1.0E+06Ωであり、高温保管後の電気抵抗値は1.1E+06Ωであることから、高温保管後の電気抵抗値の増加を抑制できることがわかる。サンプル3において、初期の電気抵抗値は5.6E+05Ωであり高温保管後の電気抵抗値は8.0E+06Ωである。サンプル1に対して劣化度は改善しているものの、依然劣化は確認された。これは、中間層の膜厚が薄いために、劣化成分のブロック性が低下したためと考えられる。このように、有機EL表示パネルにおいて、中間層がフッ化ナトリウムとバリウムとを含むことで、配線と陰極における配線と対向する部分との間の電気抵抗値を低下させるとともに、温度ストレスによる電気抵抗値の増加も抑制することができる。その結果、パネル面内の輝度むらを抑制できる。特に、サンプル2のような構成の場合に、その効果は顕著である。
(電子電流の測定)
次に、当該中間層をEL発光部に導入した場合の陽極と陰極との間の電気抵抗値について検証する。具体的には、電子オンリー素子を作製し、電子電流を測定して検証を行った。測定に用いた電子オンリー素子である実施例2は、反射陽極、第1透明電極16.0nm、発光層110.0nm、フッ化ナトリウム層4.0nmとバリウム層0.2nmとからなる中間層、有機機能層35.0nmおよび第2透明電極を積層したものである。また、比較例2、実施例2では、中間層がフッ化ナトリウム層4.0nmのみからなる点で異なる。
【0061】
図10が電子電流を示すグラフである。同図における横軸は電子オンリー素子に印加した電圧を示し、縦軸は電流密度を示す。なお、実施例2についてのサンプルを作製しそれぞれ測定を行った結果を、それぞれ丸形のプロットで示す。また、比較例2についてのサンプルを作製しそれぞれ測定を行った結果を、いずれも菱形のプロットで示す。
【0062】
実施例2における電圧に対する電流密度は、比較例2における電圧に対する電流密度よりも大きく、電流密度が立ち上がり始める電圧も低くなっている。ここで、測定に用いた素子は電子オンリー素子なので、同図に示される電流密度は電子電流の密度である。そのため、実施例2において中間層がフッ化ナトリウムとバリウムとを含むことで、有機機能層から発光層への電子注入性が向上したと言える。
(高温保管後の発光効率)
配線と陰極における配線と対向する部分と同様に、発光部でも温度ストレスによる性能の低下が考えられる。そこで、構造の異なるサンプルを高温保管したときの素子の効率比を測定した。具体的には、3つのサンプルを80℃で15日〜20日保管したときの素子の効率比を、サンプルの準備直後から数日おきに測定した。ここでいう効率比とは、サンプルの準備直後の単位投入電流当たりの輝度に対する、高温保管後の単位投入電流当たりの輝度の割合である。実施例3は、ガラス基板に、酸化インジウム亜鉛50nm、ホール注入層5もしくは35nm、ホール輸送層10nm、発光層50nm、フッ化ナトリウム層4nmとバリウム層2nmとからなる中間層、バリウムを5wt%でドープした有機機能層35nm、およびアルミニウム120nmを積層した素子である。比較例3(1)は、実施例2に対し、中間層がフッ化ナトリウム層4nmのみからなるものである。比較例3(2)は、実施例2に対し、中間層を含まないものである。
【0063】
図11は、素子の高温保管日数と素子の効率比とを示すグラフである。同図における横軸は高温保管日数を示し、縦軸は効率比を示す。三角形のプロットは実施例3を示し、四角形のプロットは比較例3(1)を示し、菱形のプロットは比較例3(2)を示す。
【0064】
比較例3(1)、3(2)を比べると、フッ化ナトリウムのみからなる中間層を設けることで、効率比の低下量が小さくなっていることがわかる。さらに、実施例3と比較例3(1)とを比べると、フッ化ナトリウムとバリウムとを含む中間層を設けることで、フッ化ナトリウムのみからなる中間層を設けた場合よりも効率比の低下量がさらに小さくなっており、ほとんど変化していないとことがわかる。比較例3(2)において、有機EL表示装置の単位投入電流当たりの輝度は、水や酸素などの不純物により、有機機能層や陰極に含まれる金属が酸化することで、変化すると考えられる。
【0065】
以上のことから、当該中間層は配線と陰極における配線と対向する部分の電気抵抗値の低減ならびに温度ストレスに対する耐性を高めるだけでなく、EL発光部の電子電流量の増加ならびに温度ストレスに対する耐性を高める効果を有する。これにより有機ELパネルの輝度むらを大きく抑制することが可能である。
【0066】
(有機機能層の膜厚)
なお、有機機能層の厚みは、25nm以上45nm以下であることが好ましい。この範囲では、ピーク光取出し効率に対して80%の光取出し効率が確保できる。また、有機機能層の厚みは、30nm以上40nm以下であることが望ましい。この範囲では、ピーク光取出し効率に対して90%の光取出し効率が確保できる。
<<変形例>>
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することが出来る。
1.配線
上記実施の形態では、配線の形状は、ライン状であった。しかしながら、これに限らず、配線の形状はメッシュ状など他の形状であってもよい。
2.上部基板
上記実施の形態では示していないが、封止層上に上部基板を載置し、接合してもよい。これにより、水分および酸素が、基板と反対側から有機機能層や陰極に侵入することをさらに抑制できる。
3.電子注入層
本発明の実施の一形態に係る有機発光装置は、有機機能層として電子注入層を設けてもよい。電子注入層は、陰極から発光層への電子の注入を促進させる機能を有する。電子注入層は、例えば、リチウム、バリウム、カルシウム、カリウム、セシウム、ナトリウム、ルビジウム等の低仕事関数金属、およびフッ化リチウム等の低仕事関数金属塩、酸化バリウム(BaO)等の低仕事関数金属酸化物等を用いて形成されている。
4.正孔注入層および正孔輸送層
本発明の実施の一形態に係る有機発光装置は、陽極と発光層との間に設けられた正孔注入層および正孔輸送層を備えていたが、これに限らず、正孔注入層および正孔輸送層の一方のみを備えてもよい。また、有機発光装置は、正孔注入層および正孔輸送層を備えなくてもよい。
5.構成
上記実施の形態では、基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型であったが、これに限らず、ボトムエミッション型であってもよい。ボトムエミッション型である場合には、陽極を透明導電材料の単層構造とすればよい。
6.その他
上記実施の形態では、有機発光装置として有機EL表示パネルを例示した。しかしながら、有機EL表示パネルに限らず、照明装置等にも、本発明の有機発光装置を適用できる。