特許第6082945号(P6082945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6082945
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】車両の電動制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20170213BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20170213BHJP
【FI】
   B60T13/74 G
   B60T8/17 B
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-173835(P2013-173835)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-40027(P2015-40027A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 由行
(72)【発明者】
【氏名】児玉 博之
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−149798(JP,A)
【文献】 特開2002−178900(JP,A)
【文献】 特開2000−312444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
B60T 7/12− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に固定された回転部材と、
前記車両の車輪側に設けられた電気モータと、
前記電気モータの駆動トルクを利用して前記回転部材を押圧して、前記車輪に制動トルクを発生させる摩擦部材と、
前記車両の車体側に設けられ、前記電気モータに給電する車体電源と、
前記車両の車輪側に設けられ、前記電気モータに給電する車輪電源と、
前記車両の運転者による制動操作に基づいて前記電気モータの通電目標値を演算し、前記通電目標値に基づいて前記電気モータを制御する制御手段と、
を備えた、車両の電動制動装置であって、
前記制御手段は、
前記通電目標値が第1しきい値未満の場合には、前記車体電源のみを用いて前記電気モータを駆動し、
前記通電目標値が前記第1しきい値以上の場合には、前記車体電源、及び、前記車輪電源を用いて前記電気モータを駆動するように構成された、車両の電動制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の電動制動装置において、
前記制御手段は、
前記電気モータから前記摩擦部材までの制動トルクの発生に関係して運動する力伝達機構の慣性の影響を補償する慣性補償通電量を演算し、前記慣性補償通電量に基づいて前記通電目標値を演算するように構成され、
前記制御手段は、
前記通電目標値が増加しながら前記第1しきい値に達した時点から、その後において前記通電目標値が減少しながら前記第1しきい値よりも小さい第2しきい値に達した時点から所定時間が経過した時点までの間、前記車体電源、及び、前記車輪電源を用いて前記電気モータを駆動するように構成された、車両の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「一の電源が故障した場合にも各車載用電気機器に所要の電力を供給することが可能な車両用電源供給装置を提供する」ことを目的に、「車体に搭載された一の電源から第1の所定の車載用電気機器へ第1の電気エネルギを供給する第1の系統と、車体に搭載された他の電源から第2の所定の車載用電気機器へ第2の電気エネルギを供給する第2の系統と、前記第2の電気エネルギを前記第1の電気エネルギに変換して前記第1の系統に供給する変換供給手段と、を備える」ことが記載されている。
【0003】
さらに、特許文献1には、「前記一の電源及び前記他の電源のそれぞれの電気エネルギ残存量を検出する残存エネルギ検出手段と、各電源の電気エネルギ残存量に基づいて前記一の電源又は前記変換供給手段の何れか一方を選択して前記第1の系統へ接続する電源選択手段と、を備える」ことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、「車体側と車輪側とを電気的に接続する電力線のコストを低減し、安価なブレーキ装置を提供する」ことを目的として、「通信回路、制御回路、及びモータを駆動する駆動回路を備えた駆動制御装置を車輪側に設置し、車体側から2本の電力線を介して駆動制御装置に電力を供給して車輪に搭載されたモータを駆動し、制動力を発生する」ことが記載されている。
【0005】
特許文献1に例示される複数の電源を備えた車両において、特許文献2に例示される電動制動装置が採用されると、その装置には2系統の電力線が必要とされる。また、その装置の最大出力に応じた電力が電力線を介して供給される場合においても電力線の両端間の電圧降下を極力小さくするためには、或る程度太い(断面積が大きい)電力線が必要となる。電力線が太いと、電力線が屈曲し難くなる。車輪は、サスペンションを介して、車体に対して相対的に変位する。従って、電動制動装置において、車体側と車輪側とを電気的に接続する電力線が屈曲し易い構成が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−312444号公報
【特許文献2】特許第4154883号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車体側と車輪側とを電気的に接続する電力線が屈曲し易い電動制動装置を提供することにある。
【0008】
本発明に係る車両の電動制動装置は、車両の車輪(WHL)に固定された回転部材(KTB)と、前記車輪(WHL)側に設けられた電気モータ(MTR)と、前記電気モータ(MTR)の駆動トルクを利用して前記回転部材(KTB)を押圧して、前記車輪(WHL)に制動トルクを発生させる摩擦部材(MSB)と、前記車両の車体(BDY)側に設けられ、前記電気モータ(MTR)に給電する車体電源(BBD、ALT)と、前記車両の運転者による制動操作に基づいて前記電気モータ(MTR)の通電目標値(Imt)を演算し、前記通電目標値(Imt)に基づいて前記電気モータ(MTR)を制御する制御手段(CTL)と、を備える。
【0009】
この装置の特徴は、前記車輪(WHL)側に設けられ、前記電気モータ(MTR)に給電する車輪電源(BWH)を備え、前記制御手段(CTL)が、前記通電目標値(Imt)が第1しきい値(imx)未満の場合には、前記車体電源(BBD、ALT)のみを用いて前記電気モータ(MTR)を駆動し、前記通電目標値(Imt)が前記第1しきい値(imx)以上の場合には、前記車体電源(BBD、ALT)、及び、前記車輪電源(BWH)を用いて前記電気モータ(MTR)を駆動するように構成されたことにある。
【0010】
これによれば、制動トルクの応答性が、然程、必要とされない通常の制動要求時(Imt<imx)には、車体電源BBDのみから電力が供給されて、電気モータMTRが駆動される。一方、制動トルクの応答性が要求される急制動の要求時(Imt≧imx)には、車体電源BBDに加えて、車輪電源BWHからも電力が供給されて、電気モータMTRが駆動される。換言すれば、電気モータMTRに多大な電力が必要な場合には、車輪電源BWHから電力が補助される。従って、車体電源BBDからの多大な電力が「車体側と車輪側とを電気的に接続する電力線」を介して電気モータMTRに供給される事態を想定する必要がない。この結果、前記電力線として、比較的細い配線(断面積が小さい導線)が採用され得る。この結果、電力線(配線)の屈曲性が確保され得る。
【0011】
この装置では、前記制御手段(CTL)が、「前記電気モータ(MTR)から前記摩擦部材(MSB)までの制動トルクの発生に関係して運動する力伝達機構」の慣性の影響を補償する慣性補償通電量(Ikt)を演算し、前記慣性補償通電量(Ikt)に基づいて前記通電目標値(Imt)を演算するように構成され得る。この場合、前記制御手段(CTL)は、「前記通電目標値(Imt)が増加しながら前記第1しきい値(imx)に達した時点」から、「その後において前記通電目標値(Imt)が減少しながら前記第1しきい値(imx)よりも小さい第2しきい値(imy)に達した時点(t3)から所定時間(tx)が経過した時点(t5)」までの間、前記車体電源(BBD、ALT)、及び、前記車輪電源(BWH)を用いて前記電気モータ(MTR)を駆動するように構成されることが好適である。
【0012】
前記力伝達機構(特に、電気モータMTR)の慣性を補償する制御(以下、「慣性補償制御」と呼ぶ)が実行される場合を想定する。慣性補償制御の詳細については後述する。この場合、Imt≧imxの条件が満足される場合には、慣性補償制御が終了された後に(即ち、Imt<imy(<imx)となった後に)、再度、Imt≧imxの条件が満足される蓋然性が高い(後述する図5(a)を参照)。上記構成は係る知見に基づく。上記構成では、Imt<imyとなった時点(t3)では車輪電源BWHからの給電補助が終了されず、その時点から所定時間txが継続された時点(t5)にて車輪電源BWHからの給電補助が終了される。この結果、電力の供給元となる電源の煩雑な切り替えが抑制され得る。なお、第2しきい値imyは、第1しきい値imxよりも小さい値に設定されるため、目標通電量Imtが、値imx近傍で微少に変化する場合における、判定のハンチング(乱調)も抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置の全体構成図である。
図2図1に示した電子制御ユニット、車体電源、及び、制動手段の全体構成図である。
図3】ブラシ付きモータが採用される場合の駆動手段の機能ブロック図、及び、電気回路図である。
図4】電気モータへの電力の供給について説明するための図である。
図5】車輪電源による給電補助について説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電動制動装置の車両への搭載状態を示す。電動制動装置は、運転者の制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作量に応じて、車輪に制動トルクを与えることによって車輪に制動力を発生し、走行中の車両を減速する。
【0016】
車体電源(第1電源)BBDが、車体BDYに設けられる(固定される)。車体電源(蓄電池、Battery)BBDは、電子制御ユニットECU、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKに電力を供給する。さらに、オルタネータALTが、車体BDYに設けられる。車体電源BBDは、オルタネータALTによって充電される。
【0017】
電子制御ユニットECUが、車体BDYに設けられる(固定される)。電子制御ユニットECUでは、制動操作量Bpaに基づいて電気モータMTRの駆動信号が演算され、信号線(例えば、シリアル通信バス)SCBを介して、BRK内の駆動手段(MTRを駆動する電気回路)DRVに送信される。電気モータMTRを駆動する電力は、車体電源BBDから、ECU、及び、車体電力線PBDを介して、DRVに供給される。
【0018】
駆動手段DRVが、キャリパCPR内に設けられる(固定される)。駆動手段DRVは、電気モータMTRを駆動するための駆動回路(電気回路)であり、制御手段CTL、スイッチング素子(例えば、MOS−FET)にて構成されるブリッジ回路HBR、ノイズ低減回路NIZ、及び、車輪電源BWHにて構成される。DRV内にプログラムされる制御手段CTLでは、ECUから送信されるMTRの駆動信号(例えば、目標押圧力Fbt)に基づいて、スイッチング素子が駆動され、MTRの回転方向、及び、回転動力が制御される。
【0019】
通常の制動要求時(後述するImt<imxの場合)には、電気モータMTRを駆動するための電力は、車体電源(第1電源)BBDからDRV(即ち、スイッチング素子を経由してMTR)に供給される。この給電は、ECU、及び、車体電力線PBDを介して行われる。また、急制動の要求時(後述するImt≧imxの場合)には、電気モータMTRへの給電は、車体電源BBDに加え、車輪電源(第2電源)BWHによって行われる。
【0020】
車輪電源(第2電源)BWHは、車体電源(第1電源)BBDからの通電によって、通常走行時(制動が要求されない時)に充電される。この充電(BBDからBWHへの給電)は、ECU、及び、車体電力線PBDを介して行われる。信号線(例えば、シリアル通信バス)SCB、及び、車体電力線PBDを総称して「配線(ワイヤハーネス)」と称呼する。
【0021】
車体電力線PBDが、信号線(通信線)SCBとしても利用される電力線通信が採用され得る。この場合には、SCBはPBDに統合され(即ち、SCBが省略され)、電気モータの駆動信号はPBDに重畳されて、DRVに送信される。ここで、電力線通信は、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)とも称呼される。電力線通信の採用によって、電源配線PBDを利用して高速なデータ通信を行う通信システムが得られる。
【0022】
サスペンションアーム(例えば、アッパアームUAM、ロアアームLAM)は、一方側が、車両の車体BDYに取り付けられ、他方側がナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAは、サスペンションアーム、又は、ナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAによって、車輪WHLは、車体BDYに懸架されている。サスペンションアーム、SPR、NKL、及び、SHAは、公知の懸架装置を構成する部材である。
【0023】
ハブベアリングユニットHBUは、ナックルNKLに固定される。ハブベアリングユニットHBU内のハブベアリングにて、車輪WHLが支持される。車輪WHLには、回転部材(ブレーキディスク)KTBが固定され、KTBはWHLと一体となって回転される(即ち、KTBの回転軸とWHLの回転軸は同軸である)。
【0024】
マウンティングブラケットMTBは、ナックルNKLに、締結部材(例えば、ボルト)TK1、TK2(図示せず)によって、固定されている。キャリパCPRが、スライドピンGD1、GD2(図示せず)を介して、MTBに取り付けられる。ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。具体的には、スライドピンGD1、GD2がマウンティングブラケットMTBに固定され、GD1、GD2に沿って、キャリパCRP内の押圧部材(ピストン)PSNが回転部材KTBに向けて、電気モータMTRによってスライドされる。
【0025】
<電子制御ユニットECU、車体電源BBD、及び、制動手段BRKの全体構成>
図2に示すように、この電動制動装置を備える車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、車体電源(蓄電池等)BBD、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが備えられる。ここで、ECUとBRKとは、ECU側コネクタCNB、及び、BRK側コネクタCNCを介して、信号線(シグナル線)SCB、及び、車体電力線(パワー線)PBDによって接続される。BRKにはECUから、MTRの駆動信号、及び、電力が供給される。
【0026】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。BPの操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。
【0027】
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。
【0028】
従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。なお、Bpaは、他の電子制御ユニットにて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスを介して、ECUに送信され得る。
【0029】
車体電源(第1電源)BBDは、車体BDYに固定される電源である。車体電源BBDによって、車体側に設けられる電子制御ユニットECUへの電力供給が行われる。車体電源BBDとして、充電可能な二次電池(蓄電池、又は、充電式電池とも称呼される)が採用され得る。ここで、二次電池は、物質の化学的なエネルギを化学反応によって直流の電力に変換する電池(化学電池)の1つであり、充電を行うことにより電気を蓄え、繰り返し使用され得る。
【0030】
具体的には、二次電池は、放電過程では内部の化学エネルギが電気エネルギに変換され、放電時とは逆方向に電流を流すことによって、電気エネルギを化学エネルギに変換して、エネルギが蓄積される。車体電源BBDは、その蓄電量(蓄積エネルギ)が減少した場合には、オルタネータ(発電機)ALTによって充電される。
【0031】
電子制御ユニットECUは、電気モータMTRを駆動するための目標値(駆動信号)Fbtを、駆動手段DRVに出力する。また、MTRを駆動するための電力が、ECUを経由してDRVに供給される。具体的には、ECUには、コネクタCNBが設けられ、シリアル通信バスSCB、及び、車体電力線PBDが、CNBを介して、駆動手段DRVに接続される。そして、電子制御ユニットECU内にプログラムされる目標演算手段TRGによって目標値(目標押圧力)Fbtが演算され、FbtがSCBを通して、DRVに送信される。また、車体電源BBDからの電力(電流)が、ECU経由で車体電力線PBDを通り、駆動手段DRVに供給される。
【0032】
〔目標演算手段TRG〕
制動手段BRKの目標値(目標押圧力)Fbtを演算するための目標演算手段TRG(制御アルゴリズム)が、電子制御ユニットECU内にプログラムされている。
【0033】
目標演算手段TRGは、制御アルゴリズムであって、指示押圧力演算ブロックFBS、アンチスキッド制御ブロックABS、トラクション制御ブロックTCS、車両安定化制御ブロックESC、及び、目標押圧力演算ブロックFBTにて構成される。
【0034】
指示押圧力演算ブロックFBSでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された指示押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの指示押圧力Fbsが演算される。Fbsは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。
【0035】
アンチスキッド制御ブロックABSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のアンチスキッド制御(Anti-skid Control)を実行するための目標押圧力Fabsが演算される。即ち、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabsは、車輪ロックを防止するための押圧力の目標値である。
【0036】
トラクション制御ブロックTCSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のトラクション制御(Traction Control)を実行するための目標押圧力Ftcsが演算される。即ち、トラクション制御用目標押圧力Ftcsは、車輪スピン(過回転)を抑制するための押圧力の目標値である。
【0037】
車両安定化制御ブロックESCでは、車両挙動取得手段(例えば、ヨーレイトセンサ、図示せず)の取得結果(ヨーレイト)に基づいて、公知の車両安定化制御(Vehicle Stability Control)を実行するための目標押圧力Fescが演算される。即ち、車両安定化制御用目標押圧力Fescは、過度な車両のアンダステア、及び/又は、オーバステアを抑制するための押圧力の目標値である。
【0038】
目標押圧力演算ブロックFBTでは、指示押圧力Fbs、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、車両安定化制御用目標押圧力Fescに基づいて、最終的な目標押圧力Fbtが演算される。具体的には、Fabs、Ftcs、及び、Fescのうちから1つが選択されて、選択されたものによってFbsが修正されてFbtが演算される。Fabs、Ftcs、及び、Fescの選択順位は、車両の走行状態、及び、車輪の状態に基づいて決定される。なお、該当する車輪が駆動車輪でない場合(ドライブトレインに接続されない場合)には、Ftscは演算されない。
【0039】
目標演算手段TRGにて演算された目標押圧力(信号)Fbtは、ECU側コネクタCNB、及び、信号線(シリアル通信バス)SCBを通じて、車輪に固定される制動手段BRK(具体的には、駆動回路DRV)に送信される。
【0040】
〔制動手段BRK〕
制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、ブレーキキャリパ(浮動型キャリパ)CPR、押圧部材(ブレーキピストン)PSN、電気モータ(ブラシモータ、又は、ブラシレスモータ)MTR、位置検出手段MKA、減速機GSK、シャフト部材SFT、ねじ部材NJB、押圧力取得手段FBA、及び、駆動手段(MTRの駆動回路)DRVにて構成されている。
【0041】
ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPR内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。キャリパCPRには、キー溝KYMが、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸Jsf)方向に延びるように形成される。
【0042】
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材KYAが、押圧部材PSNに固定される。キー部材KYAが、キー溝KYMに嵌合されることによって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸の方向(キー溝KYMの長手方向)の直線運動は許容される。
【0043】
電気モータMTRは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けるための動力を発生する。即ち、電気モータMTRは、押圧部材PSNを駆動する。具体的には、電気モータMTRの出力(モータ軸Jmtまわりの回転動力)は、減速機GSKを介して、シャフト部材SFTに伝達され、SFTの回転動力(シャフト軸Jsfまわりのトルク)は、運動変換部材(例えば、ねじ部材)NJBによって、直線動力(押圧軸Jps方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進又は後退される。このPSNの移動により、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLに制動力が調整され、例えば、走行中の車両が減速される。電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。
【0044】
電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電気モータMTRの出力は、目標演算手段TRGにて演算される目標通電量Imtに基づいて決定される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。また、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの回転動力が決定される。即ち、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きく、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクは小さい。
【0045】
位置取得手段(例えば、回転角度センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(例えば、回転角)Mkaを取得(検出)する。位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部であって、回転子、及び、整流子と同軸に配置される(即ち、MTRと同軸であって、モータ軸Jmt上に設けられる)。
【0046】
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。即ち、MTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
【0047】
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSKから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。シャフト部材SFTの端部は、球面状に加工され、ユニバーサル継手として機能する。このユニバーサル継手によって、摩擦部材MSBが摺動する際に生じる押圧部材PSNの揺動(首振り運動)の影響が補償される。
【0048】
ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、直線動力に変換する動力変換部材である。即ち、ねじ部材NJBは、回転・直動変換機構である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもち)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、制動トルクが増加される場合(押圧力Fbaが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、シャフト部材SFTから押圧部材PSNへ動力が伝達される。逆に、制動トルクが減少される場合(押圧力Fbaが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、押圧部材PSNからシャフト部材SFTへ動力が伝達される(逆効率が「0」よりも大きい)。
【0049】
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。
【0050】
また、上記の滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。なお、ねじ部材NJBに代えて、回転運動を直線運動に変換するための動力変換部材として、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
【0051】
押圧力取得手段FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。FBAには、起歪体が形成され、その歪が、歪検出素子によって検出され、Fbaが取得される。例えば、歪検出素子として、電気抵抗変化によるもの(歪ゲージ)、超音波によるもの等が用いられ得る。FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCPRとの間に設けられ、キャリパCRPに固定されている。検出された押圧力Fbaは、駆動手段DRVに入力される。
【0052】
駆動手段DRVは、キャリパCPR内に固定され、目標押圧力Fbtに基づいて、電気モータMTRを駆動し、制御する。DRVは、制御手段CTL、車輪電源BWH、ブリッジ回路HBR等にて構成される。DRVの詳細については、後述する。
【0053】
〔コネクタCNB、CNC、及び、配線SCB、PBD〕
コネクタCNCが、キャリパCPRの表面に設けられる。ここから、電気モータMTRの駆動電力、及び、MTRの駆動信号(目標押圧力Fbt)が、駆動手段DRVに取り込まれる。なお、目標信号Fbtは信号線SCBによって、電力は車体電力線PBDによって、BRK側コネクタ(車輪側コネクタ)CNCにまで、夫々、供給される。
【0054】
駆動手段DRVと同様に、コネクタCNBが電子制御ユニットECUに設けられる。ECU側コネクタ(車体側コネクタ)CNBを介して、信号線SCB、及び、電力線PBDが、ECUと接続される。即ち、ECU側コネクタ(車体側コネクタ)CNB、及び、BRK側コネクタ(車輪側コネクタ)CNCによって中継される配線(信号線SCB、及び、電力線PBD)を介して、電子制御ユニットECU(車体BDYに配置)と、駆動回路DRV(車輪WHLに配置)とが接続される。換言すれば、信号線SCBは、コネクタCNB、CNCを介して、目標押圧力FbtをECUからDRVに送信する。また、電力線PBDは、コネクタCNB、CNCを介して、通常時には、電気モータMTRを駆動する電力を、ECUからDRVに供給する。PBDとして、2本の電線がねじり合わされて形成されるツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable)が採用され得る。
【0055】
<駆動手段DRV>
次に、図3を参照しながら、駆動手段(駆動回路)DRVの詳細について説明する。駆動手段DRVは、目標押圧力Fbtに基づいて、電気モータMTRへの通電状態を制御し、MTRの出力(即ち、制動手段BRKが発生する制動トルク)を調整する。図3は、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される場合の駆動手段DRVの一例である。駆動手段DRVは、車輪電源BWH、制御手段CTL、複数のスイッチング素子(パワートランジスタ)S1〜S4で形成されるブリッジ回路HBR、ノイズ低減回路NIZ、通電量取得手段IMA、及び、コネクタCNCで構成される。
【0056】
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される。ブラシ付モータは、整流子電動機(Commutator Motor)とも称呼され、該電気モータでは、電機子(巻線による電磁石)に流れる電流が、機械的整流子(コミュテータ)CMT、及び、ブラシBLCによって、回転位相に応じて切り替えられる。即ち、整流子CMT、及び、ブラシBLCによって、機械的な回転スイッチが構成され、巻線回路への電流が交互に反転される。ブラシ付モータでは、固定子(ステータ)側が永久磁石で、回転子(ロータ)側が巻線回路(電磁石)で構成される。そして、巻線回路(回転子)に電力が供給されるように、ブラシBLCが整流子CMTに当接されている。ブラシBLCは、ばね(弾性体)によって、整流子CMTに押し付けられ、CMTが回転することにより電流が転流される。
【0057】
〔車輪電源BWH〕
駆動手段DRVには、車輪電源(第2電源)BWHが設けられる。即ち、車輪電源BWHは、車体電源(第1電源)BBDとは別個に、車輪側(制動手段BRKの内部)に設けられる電源である。車輪電源BWHは、車輪電力線PWHによって、ブリッジ回路HBR(即ち、電気モータMTR)に接続される。BWHとHBRとは隣接するため、車輪電力線PWHとして、バスバー(Bus Bar、導電体として機能する金属製の棒)が採用される。このため、配線抵抗による電圧降下が僅かであり、効率良く電気モータMTRが駆動され得る。さらに、バスバーには、絶縁被覆が不要であるため、放熱性が高く、大電流化への対応が容易になり得る。
【0058】
車輪電源BWHは、車体電源BBDから駆動手段DRVへの給電状態が不足する可能性がある場合(Imt≧imx)に、DRVへの電力供給を補助する。BWHは補助的な電源であるため、エネルギ容量(蓄電容量)が、BBDのそれと比較して、小さいものが採用される。BBDが正常である場合における電気モータMTRへの給電パタンは、BBD単独による給電パタン、及び、BBD及びBWHによる給電パタンの2種類である。即ち、MTRが、BWHのみから給電されて、駆動されることはない(BWH単独の給電パタンは存在しない)。なお、BWHは、非制動要求時に、BBD(又は、車両のオルタネータALT)によって充電される。非制動要求時とは、車輪への制動トルク付与が要求されていない場合であり、例えば、運転者によって制動操作部材BPが操作されていないとき(即ち、Bpa=0のとき)である。
【0059】
車輪電源BWHとして、電気2重層キャパシタ(ウルトラ・キャパシタ、又は、スーパ・キャパシタとも称呼される)が採用され得る。電気2重層キャパシタ(EDLC、Electric Double-Layer Capacitor)では、陽極と陰極の表面付近で生じる電気2重層(荷電粒子が比較的自由に動ける系に電位が与えられたとき、電場にしたがって荷電粒子が移動した結果、界面に正負の荷電粒子が対を形成して層状に並んだもの)が利用される。電気2重層キャパシタは、内部抵抗が小さいため、充電・放電が急速に行われるため、BWHに適している。
【0060】
〔制御手段CTL〕
制御手段CTLは、目標押圧力(目標値)Fbtに基づいて、電気モータMTRへの実際の通電量(最終的には電流の大きさと方向)を制御する。制御手段CTLの一部は、制御アルゴリズムであり、これは、DRV内のCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)にプログラムされる。CTLは、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIFT、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、スイッチング制御ブロックSWT、及び、電源管理手段DGKにて構成される。
【0061】
指示通電量演算ブロックISTは、目標押圧力Fbt(TRGから送信)、及び、予め設定された指示通電量の演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2に基づいて、指示通電量Istを演算する。Istは、電動制動手段BRKが目標押圧力Fbtを達成するための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。Istの演算マップは、電動制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成される。特性CHs1は押圧力を増加する場合に対応し、特性CHs2は押圧力を減少する場合に対応する。そのため、特性CHs2に比較して、特性CHs1は相対的に大きい指示通電量Istを出力するように設定されている。
【0062】
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
【0063】
押圧力フィードバック制御ブロックIFTは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、実押圧力(実際値)Fbaに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iftを演算する。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、電動制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの間に誤差(定常的な誤差)が生じる場合がある。押圧力フィードバック通電量Iftは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算され、上記の誤差を減少するように決定される。なお、実押圧力Fbaは、後述する押圧力取得手段FBAによって取得(検出)される。
【0064】
慣性補償通電量演算ブロックIKTは、目標押圧力Fbtに基づいて、「電気モータMTRから摩擦部材MSBまでの制動トルクの発生に関係して運動する力伝達機構」(制動手段BRK。特に、電気モータMTR)の慣性(イナーシャ)の影響を補償するための慣性補償通電量(目標値)Iktを演算する。ここで、慣性は、回転運動における慣性モーメント、又は、直線運動における慣性質量である。具体的には、慣性補償通電量Iktは、電気モータが停止、或いは、低速で運動している状態から、運動(回転運動)が加速される場合、及び、電気モータが運動(回転運動)している状態から急減速して停止していく場合に演算される。Iktによって、MTRの加速時には、押圧力発生の応答性が向上され、MTRの減速時には押圧力のオーバシュートが抑制され、その収束性が向上され得る。
【0065】
慣性補償通電量演算ブロックIKTでは、慣性補償通電量Iktが、目標押圧力Fbtの2階微分値に基づいて演算される。FbtはMTRの回転角Mkaに比例し、MTRを起動するトルクは、Mkaの2階微分値に比例することに因る。また、Iktは、Fbtの時間変化量、及び、予め設定される演算マップに基づいて、演算され得る。そして、Iktは、MTRが加速される場合には通電量を増加し、MTRが減速される場合には通電量を減少するように演算される。
【0066】
通電量調整演算ブロックIMTは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtを演算する。IMTでは、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Ift、及び、慣性補償通電量Iktによって調整され、目標通電量Imtが演算される。具体的には、MTRが加速されるときには、指示通電量Istに対して、フィードバック通電量Ift、及び、慣性補償通電量Iktを加えて、これが最終的な目標通電量Imtとして演算される(Imt=Ist+Ift+Ikt)。一方、MTRが減速されるときには、指示通電量Istに対して、フィードバック通電量Iftが加算され、慣性補償通電量Iktが減算されて、最終的な目標通電量Imtが演算される(Imt=Ist+Ift−Ikt)。そして、目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向(押圧力が増加する正転方向、又は、押圧力が減少する逆転方向)が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。
【0067】
パルス幅変調ブロックPWMは、(通常時)目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)を行うための指示値(目標値)を演算する。具体的には、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(ON/OFFの時間の割合)を決定する。併せて、PWMは、Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいてMTRの回転方向を決定する。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(電源電圧)、及び、デューティ比Dutによって最終的な出力電圧が決まるため、PWMでは、MTRの回転方向と、MTRへの通電量(即ち、MTRの出力)が決定される。
【0068】
パルス幅変調ブロックPWMでは、所謂、電流フィードバック制御が実行され得る。この場合、通電量取得手段IMAの検出値(電気モータMTRへの実際の通電量で、例えば、実電流値)Imaが、PWMに入力される。そして、目標通電量Imtと、実際の通電量Imaとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
【0069】
スイッチング制御ブロックSWTは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子(S1〜S4)に駆動信号を出力する。この駆動信号は、各スイッチング素子が、通電状態とされるか、非通電状態とされるか、を指示する。具体的には、デューティ比Dutに基づいて、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、S1及びS4が通電状態(ON状態)、且つ、S2及びS3が非通電状態(OFF状態)にされるとともに、Dutに対応する通電時間(通電周期)で、S1及びS4の通電/非通電の状態が切替られる。同様に、MTRが逆転方向に駆動される場合には、S1及びS4が非通電状態(OFF状態)、且つ、S2及びS3が通電状態(ON状態)に制御され、S2及びS3の通電状態(ON/OFFの切替周期)が、デューティ比Dutに基づいて調整される。そして、Dutが大きいほど、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がMTRに流される。例えば、Dut=100%が指示される場合には、該当するスイッチング素子は常時通電され、Dut=0%が指示される場合には非通電状態とされる。
【0070】
電源管理手段DGKは、電気モータMTRへの給電状態を管理するとともに、車輪電源BWHの状態を監視し、その充電状態を適正に維持する。電源管理手段DGKは、切替手段(スイッチ群)SWX、充電状態量取得手段JDA、及び、判定演算ブロックHNTにて構成される。切替手段SWX(電気回路の一部)は、電気回路において接続状態を切り替えるための複数のスイッチ(SWc等)で構成される。充電状態量取得手段JDAは、BWHの充電状態の実際値Jda(例えば、実際の電圧値)を取得(検出)する。判定演算ブロックHNT(制御アルゴリズム)は、各種状態量(Imt、Jda等)に基づいて、SWXの接続状態の調整によって、ブリッジ回路HBRへの給電状態を制御するとともに、BWHの充電状態を管理する。
【0071】
判定演算ブロックHNTは、目標通電量Imtに基づいて、切替手段SWXを切り替えてブリッジ回路HBRへの給電元(即ち、MTRの電力供給源)を調整する。具体的には、HNTによって、目標通電量Imtが第1しきい値(予め設定される所定値)imx未満である場合(Imt<imx)には、「HBRがBBDとは接続されるが、BWHとは接続されない」ように電気回路接続が構成され、Imtがimx以上である場合(Imt≧imx)には、「HBRがBBD及びBWHの両方に接続される」ようにSWXが切り替えられる。即ち、通常の制動状態(Imt<imxの場合)では、電気モータMTRは車体電源BBDのみによって給電(BBDによる単独給電)されるが、急制動でMTRへの給電不足が予測される場合(Imt≧imxの場合)には、車体電源BBDと車輪電源BWHとによって給電(BBD及びBWHによる複合給電)が行われる。
【0072】
目標通電量Imtは、その符号によって電気モータMTRの正転/逆転を指示するが、Imtの符号を考慮すると、大小関係が複雑となる。このため、説明において、大小関係は、その絶対値(値の大きさ)で表現される。したがって、「Imt<imx(imy)」の判定条件は、「Imtが±imx(imy)の範囲内」と等しく、同様に、「Imt≧imx(imy)」の判定条件は、「Imtが±imx(imy)の範囲外」と等価である。
【0073】
電源管理手段DGKは、充電状態量取得手段JDAによって車輪電源BWHの蓄電状態を監視し、蓄電状態が低下した場合には、車輪電源BWHへの充電を行う。例えば、充電状態量取得手段JDAによって、車輪電源BWHの電圧Jdaが検出され、Jdaが電圧しきい値(予め設定される所定値)よりも低下した場合には、BWHへの充電が開始される。充電開始の条件には、「制動操作部材BPが操作されていない(非制動状態が肯定される)こと」が条件として付け加えられる。この条件は、「制動操作量Bpaが所定値bpx未満であること」に基づいて判定される。或いは、制動操作部材BPにストップスイッチSTP(ON/OFFスイッチ)が設けられ、その信号Stpに基づいて(StpがON状態を示すことによって)判定され得る。車輪電源BWHは、運転者が制動操作を行っていない場合(非制動要求時)に、BBD(又は、車両のオルタネータALT)からの給電によって充電される。
【0074】
〔ブリッジ回路HBR、及び、ノイズ低減回路NIZ〕
スイッチング素子S1乃至S4は、電気回路の一部をON(通電)/OFF(非通電)できる素子である。例えば、スイッチング素子として、MOS-FET、IGBTが用いられる。スイッチング素子S1乃至S4によって、ブリッジ回路HBRが構成される。ここで、ブリッジ回路は、双方向の電源を必要とすることなく、単一の電源で電気モータへの通電方向が変更され、電気モータの回転方向(正転方向、又は、逆転方向)が制御され得る回路である。このブリッジ回路は、Hブリッジ回路、或いは、フルブリッジ回路とも称呼される。スイッチング素子S1〜S4は、制御手段CTL(スイッチング制御ブロックSWTからの信号)によって駆動される。夫々のスイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向(正転方向、逆転方向)と出力トルク(通電量の大きさ)とが調整される。ここで、MTRの正転方向は、摩擦部材MSBを回転部材KTBに近づかせ、制動トルクが増加され、走行中の車両の減速度が増加される回転方向であり、MTRの逆転方向は、MSBをKTBから引き離し、制動トルクが減少され、走行中の車両の減速度が減少される回転方向である。
【0075】
電気モータMTRに大出力が要求される場合には、スイッチング素子S1乃至S4に大電流が流される。このとき、スイッチング素子S1〜S4には発熱が生じるため、放熱板(ヒートシンク)が、S1〜S4に設けられ得る。具体的には、熱伝導のよい金属板(例えば、アルミニウム板)が、S1〜S4に固定され得る。
【0076】
駆動回路DRVには、供給電力を安定化する(即ち、電圧変動を低減する)ためのノイズ低減回路(安定化回路)NIZが設けられる。ノイズ低減回路NIZは、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)であり、少なくとも1つのインダクタ(コイル)IND、及び、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)CNDの組み合わせによって構成される。例えば、NIZとして、第1、第2コンデンサCND1、CND2、及び、インダクタINDが組み合わされてローパスフィルタ(π型フィルタ)が形成される。具体的には、π型ローパスフィルタは、ラインに並列な2つのコンデンサCND1、CND2と、1つの直列インダクタとで構成されるフィルタで、所謂、チェビシェフ・ローパスLCフィルタである。一般的に、インダクタは、コンデンサ(キャパシタ)よりも高価であるため、π型フィルタが採用されることで、部品コストが抑制され、良好な性能が得られる。また、ノイズ低減フィルタNIZとして、π型ローパスフィルタに代えて、T型ローパスフィルタ(2つの直列インダクタ、及び、1つの並列コンデンサにて構成)が採用され得る。
【0077】
駆動回路DRVには、通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが設けられる。通電量取得手段IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(例えば、実際に電気モータMTRに流れる電流)Imaを取得(検出)する。
【0078】
〔電気モータMTR〕
電気モータMTRとして、ブラシ付モータに代えて、ブラシレスモータが採用され得る。ブラシレスモータは、無整流子電動機(ブラシレスDCモータ:Brushless Direct Current Motor)とも称呼され、該電気モータでは、ブラシ付モータの機械式整流子CMTに代えて、電子回路によって電流の転流が行われる。ブラシレスモータでは、回転子(ロータ)が永久磁石に、固定子(ステータ)が巻線回路(電磁石)とされる構造で、ロータの回転位置Mkaが検出され、Mkaに合わせてスイッチング素子が切り替えられることによって、供給電流が転流される。回転子の位置Mkaは、電気モータMTRの内部に設けられる位置取得手段MKAによって検出される。
【0079】
ブラシレスモータが採用される場合、駆動手段DRVのブリッジ回路HBRは、6つのスイッチング素子によって構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、パルス幅変調ブロックPWMが決定するデューティ比Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子の通電状態/非通電状態が制御される。
【0080】
ブラシレスモータでは、位置取得手段MKAによって、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、スイッチング制御ブロックSWTでは、実際の位置Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子が制御される。スイッチング素子によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、MTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
【0081】
<車体電源BBD、車輪電源BWH、及び、電源管理手段DGK>
次に、図4を参照しながら、車体電源BBDと車輪電源BWHとの電気的接続、及び、各電源BBD、BWHを管理する電源管理手段DGK(制御手段CTLの一部)について説明する。
【0082】
車体電源(第1電源)BBDが、車体BDYに設けられる。さらに、BDYには、電力を生み出し、BBDを充電するオルタネータALTが設けられる。オルタネータALTは、発電機であり、エンジン等の動力源によって駆動される。車体電源BBDの蓄電量(充電量)が低下した場合には、ALTによって発電された電力が、ダイオードDaを介して、BBDに供給され、BBDが充電される。また、ALT、及び、BBDからの電力(電流)は、ダイオードDbを介して、駆動回路DRVに常時供給される。したがって、オルタネータALTは車体電源の一部である。オルタネータALTが発電している際には、この電力もDRVに供給されるため、BBD、及び、ALTが、DRVへの電力(電流)の供給源(車体電源)となる。
【0083】
車体電源BBD等から駆動手段DRVへの電力供給は、車体電力線(パワー線)PBDによって行われる。ここで、パワー線PBDとして、ツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable、2つの対で撚り合わせた電線)が採用され得る。また、PBDは、ECUに設けられるコネクタ(車体側コネクタ)CNBを介して、駆動手段DRVに接続される。
【0084】
駆動手段(駆動回路)DRVが、車輪WHLに固定されるキャリパCPR内に設けられる。駆動手段DRVには、コネクタ(車輪側コネクタ)CNCが設けられ、CNCを介して、電力(電流)がDRVに導入される。駆動手段DRVには、制御手段CTLがプログラムされるとともに、ノイズ低減回路NIZ、ブリッジ回路HBR(S1〜S4)、車輪電源BWH、DC−DCコンバータ(単に、コンバータともいう)DCC、及び、これを管理する電源管理手段DGK(CTLの一部)が設けられる。これらの全ては、CPR内に設けられる(車輪側に固定される)。
【0085】
車輪電源BWHは、車輪電力線(パワー線)PWHを介して、MTRへ電力を供給する。例えば、BWHとして、電気2重層キャパシタ(単に、キャパシタともいう)が採用される。キャパシタは、2次電池(蓄電池)に比べ、内部抵抗が低いため、短時間での充放電が可能である。BWHからMTRへの電力供給経路である、車輪電力線PWHとして、バスバーが採用され得る。バスバーの採用によって、複雑な端子処理が不要で、組み付けが容易になるとともに、大電流の供給にも適する。
【0086】
DC−DCコンバータDCCは、直流電圧を制御するものであり、或る電圧の直流電流を、異なる電圧の直流電流へ変換する(昇圧、又は、降圧する)。即ち、コンバータ(電圧変換手段)DCCによって、車輪電源BWHの出力電圧が、電気モータMTRの駆動に適した電圧に変更される。DC−DCコンバータDCCとして、チョッパ制御式、スイッチング制御式、及び、シリーズレギュレータ式の各方式のうちのいずれか1つが採用され得る。
【0087】
電源管理手段DGKは、各電源(BBD、ALT、及び、BWH)とブリッジ回路HBRとの接続状態を制御する。電源管理手段DGKは、切替手段SWX(スイッチSWc、SWeの総称)、判定演算ブロックHNT、及び、充電状態量取得手段JDAにて構成される。切替手段SWX(SWe、SWc)は、ON/OFFスイッチであり、切替手段(スイッチ)SWeはブリッジ回路HBRへの電力補助のために、また、切替手段SWcは車輪電源BWHの充電のために、夫々、用いられる。切替手段SWXは、判定演算ブロックHNTでの演算結果(信号Csc、Cse)に基づいて、閉状態(通電状態)と開状態(非通電状態)とを切り替える。なお、スイッチSWcは、車輪電源BWHが充電される場合には、閉状態(接続状態)にされるが、それ以外の場合には、開状態(非接続状態)にされている。
【0088】
通常の制動要求時(後述する急制動が要求されない場合)には、車体側の電力供給源(車体電源BBD、及び、オルタネータALTのうちの少なくとも1つ)のみから、ブリッジ回路HBR(電気モータMTRに電力供給する回路)に給電が行われる。判定演算ブロックHNTにて、目標通電量演算ブロックIMTから送信される目標通電量Imtに基づいて、スイッチSWeの駆動信号Cse、及び、スイッチSWcの駆動信号Cscが出力され、スイッチSWe及びSWcの接続状態が制御される。具体的には、目標通電量Imtが通電しきい値imx未満の場合には、スイッチSWeが開位置(非通電状態)とされ、車輪電源BWHとブリッジ回路HBRとの接続が遮断される。この場合、HBRへの給電は、車体電力線PBDを介して、車体に設けられる電源(BBD、ALT)によって行われる。Imt<imxの場合のような通常の制動要求時(例えば、車両の減速度において0.3G未満のとき)には、MTRへの通電量は、然程大きくはないため、車輪側の電源BWHは使用されず、車体側の電源BBD、ALTのみによって電力供給が行われる。
【0089】
一方、急制動の要求時には、車体側の電力供給源に加えて、車輪側の電源も利用されて、ブリッジ回路HBRに給電が行われる。具体的には、目標通電量Imtが通電しきい値(所定値)imx以上の場合には、スイッチSWeが閉位置(通電状態)とされ、車輪電源BWHとブリッジ回路HBRとが接続される。即ち、コンバータDCCで電圧が調整されることによって、BWHから、ダイオードDc、及び、スイッチSWeを介して、電力がHBRに供給される。このとき、スイッチSWcは開状態(非通電状態)にされ、BBD等からの電流が、車輪電源BWHへ流れ込むことが防止される。ブリッジ回路HBRへの給電が車体電力線PBDからに限られると仮定する場合、急制動要求時(例えば、車両の減速度が0.3G以上のとき、又は、減速度の時間変化量が大きいとき)には、車体電力線PBDに大電流を流すことが要求される。PBDには僅かではあるが抵抗があるため、大電流が流される場合には、電圧低下の影響が現れるとともに、発熱による抵抗増加も発生し得る。このため、急制動要求時には、車体電力線PBDを通した車体電源BBDからの電力供給が、車輪電力線PWHを介した車輪電源BWHからの電力供給によって補助(補充)される。この結果、車体電力線PBDの断面積が増大される必要がなく、PBDの屈曲性が確保され得る。
【0090】
充電状態量取得手段JDAは、車輪電源BWHの充電状態(蓄電状態)を表す状態量(充電状態量)Jdaを取得(検出)する。例えば、充電状態量取得手段JDAは、車輪電源BWHの電圧を、充電状態量Jdaとして取得する。さらに、JDAは、BWHの温度を、Jdaとして取得する。また、充電が開始された時点からの経過時間が、Jdaとして取得され得る。
【0091】
電源管理手段DGKは、充電状態量Jdaに基づいて、車輪電源BWHを充電する。BWHの蓄電量は、自己放電によって、電気が時間の経過にともなって失われる。そこで、判定演算ブロックHNT(DGKの一部)は、運転者が制動操作部材BPを操作していない場合(例えば、Bpa<bpx(所定値)の条件によって判定)に、BBD(又は、ALT)からBWHに電流を流し、BWHに電荷を蓄積する(充電する)。具体的には、HNTからの駆動信号Cse、Cscによって、スイッチSWe及びSWcが閉位置(接続状態)にされ、車輪電源BWHと、車体電源BBD、及び、オルタネータALTとが接続される。そして、HNTは、BWHに電荷が十分に蓄えられた状態(満充電)になった時点で、充電を終了する。即ち、HNTによって、SWcが閉位置(接続状態)から開位置(遮断状態)に切り替えられることで、BWHと、BBD及びALTとの接続が遮断される。
【0092】
充電終了(満充電)のタイミングは、車輪電源BWHの充電状態量Jdaに基づいて決定される。例えば、充電状態量Jdaとして、BWHの電圧が検出され、BWHの電圧の変化に基づいて、満充電状態が検知され得る。さらに、BWHの容量、充放電時間に基づいて、判定演算ブロックHNT内にプログラムされた演算処理によって満充電が判別され得る。さらに、電源管理手段DGKでは、充電方法として、−ΔV方式充電、温度制御方式充電、dT/dt制御方式、パルス充電、及び、トリクル充電のうちで、少なくとも1つが採用され得る。−ΔV方式充電では、満充電状態を超過して充電されるときに、電池の電圧が僅かに低下する現象を利用し、この電圧変化に基づいて充電が行われる。温度制御方式では、充電状態量Jdaとして、車輪電池BWHの温度が検出され、電池の温度上昇に基づいて充電が行われる。dT/dt制御方式充電では、電池BWHの温度(上昇)の微分値(Jdaの時間変化量dJda)が検出され、dJdaに基づいて充電が行われる。パルス充電法では、定電流充電により所定の電圧に達した後、パルス電流により充電が継続される。パルス充電では、セル電圧が極短時間だけ所定の電圧を越えることを容認され、セル電圧が細かく監視されることで、過充電が抑制され、急速充電がなされ得る。トリクル(Trickle)充電法は、電池特性に負荷、及び、影響を与えない程度の微弱電流が常時供給されることによって、満充電の状態が維持される。
【0093】
車輪電源BWHは、車体電源BBDの電力供給状態が不適切になった場合に、電気モータMTRに電力を供給する。電源管理手段DGKは、ブリッジ回路HBRへの供給電圧を監視し、その電圧が所定電圧未満になる場合に、車体電源BBDの不調状態を判定する。判定演算ブロックHNTによって、スイッチSWeが開状態から閉状態に切り替えられ、車輪電源BWHからブリッジ回路HBRへの電力供給が開始される。ダイオードDbによって、車輪電源BWHから、車体電源BBDへの電流は遮断されている。車輪電源BWHは、車体電源BBDの電力供給能力が低下する緊急的な状況において、補助的に電力を供給する。
【0094】
<本発明の時系列作動>
次に、図5を参照して、2つの状況(慣性補償制御、アンチスキッド制御)を想定して、本発明の時系列における作動と、その効果について説明する。
【0095】
図5(a)は、運転者のよって急制動が行われる場合の時系列線図である。時点t0にて、運転者によって制動操作が開始され、制動動作量Bpaに基づいて演算される指示通電量Istが増加され始める。Istに応じて、電気モータMTRへの通電が、車体電源BBDから行われる。このとき、スイッチSWeは開状態(非通電位置)にあり、車輪電源BWHはブリッジ回路HBRとは接続されていない。即ち、電気モータMTRは、車体電源BBDのみによって給電されている。
【0096】
時点t1にて、慣性補償制御が必要であることが判定され、指示通電量Istに、(斜線部で表す)慣性補償通電量Iktが上乗せされて目標通電量Imtが急激に増加される。ここで、慣性補償通電量Iktは、制動手段BRK(特に、MTR)のイナーシャ(慣性モーメント)を補償するための通電量の目標値である。時点t2にて、Imtが通電しきい値(第1しきい値)imx以上の条件(Imtが±imxの範囲外)を満足し、スイッチSWeが開状態(非通電位置)から閉状態(通電位置)に変更される。ここで、第1しきい値imxは、SWeを開位置から閉位置に切り替えるためのしきい値である。SWeが開位置から閉位置に切り替えられることによって、ブリッジ回路HBRは、2つの電力源(BBD及びBWH)からエネルギ供給を受ける。BBDからの給電が、BWHからの給電によって補助されるため、車体電力線(パワー線)PBDとして、細い配線(屈曲性は高いが、通電能力に限界がある)が採用されても、目標通電量Imtに応じて十分な通電量が確保され得る。なお、車輪電源BWHからブリッジ回路HBRへのパワー線(車輪電力線)PWHとして、バスバーが採用され得る。バスバーは、電気抵抗が小さいため、より多量の電流が流され得る。
【0097】
時点t3にて、目標通電量Imtは通電しきい値(第2しきい値)imy未満の条件(Imtが±imyの範囲内)を満足するが、SWeは、直ちには閉位置から開位置へは切り替えられない。ここで、第2しきい値imyは、第1しきい値imxよりも小さい所定値であり、SWeの閉状態から開状態へ切り替えるためのしきい値である。SWeの閉位置から開位置への切り替えは、Imt<imyの条件が満足された時点t3から、所定時間txが経過する時点t5にて行われる。時点t3にて、直ちに給電補助が終了されるのではなく、その時点(t3)から所定時間txが継続された時点t5で給電補助が終了される。慣性補償制御が実行されるような急制動においては、慣性補償制御が終了された後に、再び、Imtがimxを超過する蓋然性が高いことに因る。SWeが、開位置から閉位置に切り替えられた後は、Imtがimyよりも小さくなった時点から、所定時間txを経過した時点で、閉位置から開位置に戻されるため、煩雑な電源の切り替えが抑制され得る。さらに、第2しきい値imyは、第1しきい値imxよりも小さい値に、予め設定されているため、目標通電量Imtが、値imxの近傍で微少に変化する場合における、判定のハンチング(ON/OFFが繰り返される現象)が抑制され得る。
【0098】
図5(b)は、車輪スリップを抑制するアンチスキッド制御が実行される場合の時系列線図である。運転者による急制動で、慣性補償制御によって電気モータMTRが急加速されている場合に、アンチスキッド制御が開始される状況が想定され得る。この場合、制動トルクを減少させるために、正転方向に加速されているMTRが、急減速され、さらに、逆転方向に駆動されることが要求される。
【0099】
時点t0にて、運転者が制動操作部材BPの操作を開始し、目標通電量Imtがゼロ(非制動状態)から増加される。時点t1にて、慣性補償制御が開始される。目標通電量Imtがしきい値imx以上とはならないため、スイッチSWeは開位置(非通電状態)に維持されている。時点t6にて、アンチスキッド制御が開始され、電気モータMTRを正転方向から逆転方向に駆動させるため、マイナス方向にImtが増加される。このとき、Imtがimx以上(符号を考慮すると、Imtが±imxの範囲外)の条件が満足され、SWeが開位置から閉位置に切り替えられる。車体電源BBDからの電力供給に加えて、車輪電源BWHからの電力供給分が補充されるため、電気モータMTRの戻し遅れ(制動トルクのオーバシュート)に起因する車輪スリップの増大が抑制され得る。SWeの開位置への切り替えは、上記と同様に、Imtが±imyの範囲内に入った時点から所定時間txを経過した後に行われる。また、アンチスキッド制御には、SWeは閉位置に維持され、制御終了後に、開位置に切り替えられ得る。
【0100】
電気モータMTRを利用して、アンチスキッド制御が行われる場合には、一旦、正転中のMTRを停止させ、さらに、逆転方向に駆動することが必要となるため、大電流が要求される。この場合にも、切替手段SWeが開位置から閉位置に切り替えられることによって、車体電源BBD、及び、車輪電源BWHの2つの電力源から、ブリッジ回路HBRに給電される。さらに、車輪電源BWHからブリッジ回路HBRへは、電気抵抗値が小さいバスバーPWHを介して、電力供給され得る。このため、細い車体電力線PBDが採用される場合であっても、十分な電流が電気モータMTRに供給され得る。
【0101】
上記の実施態様では、スイッチSWeの切り替えが、目標通電量Imtに基づいて実行されるが、Imtは制動操作量Bpaに基づいて演算されるため、Imtに代えて、他の状態量が採用され得る。即ち、演算過程において、制動操作量Bpaから、目標デューティ比Dutに到るまでの状態量(例えば、Fbt、Imt)のうちで少なくとも1つの状態量に基づいて、スイッチSWeの切り替えが実行され得る。
【符号の説明】
【0102】
MSB…摩擦部材、KTB…回転部材、MTR…電気モータ、BBD…車体電源、BWH…車輪電源、CTL…制御手段、Imt…通電目標値、Ikt…慣性補償通電量
図1
図2
図3
図4
図5