(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6083048
(24)【登録日】2017年2月3日
(45)【発行日】2017年2月22日
(54)【発明の名称】蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20170213BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20170213BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20170213BHJP
【FI】
C09K11/08 JCQD
C09K11/64CQG
H01L33/00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-557357(P2013-557357)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2012070395
(87)【国際公開番号】WO2013118333
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-26607(P2012-26607)
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中原 史博
(72)【発明者】
【氏名】市川 恒希
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晋
(72)【発明者】
【氏名】伏井 康人
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−261512(JP,A)
【文献】
特開2007−070445(JP,A)
【文献】
特開2008−019407(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/129429(WO,A1)
【文献】
特表2012−500313(JP,A)
【文献】
再公表特許第2010/110457(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
H01L 33/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長455nmの光励起でのピーク波長590nm以上604nm以下、蛍光強度185%以上210%以下の酸窒化物蛍光体(A)としてαサイアロンと、
440nm以上460nm以下の波長で光励起したときに生じるピーク波長615nm以上625nm以下の窒化物蛍光体(B)としてSCASNと、を有し、
前記αサイアロンと前記SCASNとの配合割合が各々4質量%以上12質量%以下、前記αサイアロン及び前記SCASNの合計の配合量が10質量%以上24質量%以下である、白色発光装置用蛍光体。
【請求項2】
請求項1記載の前記蛍光体の配合比が、前記αサイアロン及び前記SCASNの配合割合をa及びbとしたときに、0.33≦a/b≦3である白色発光装置用蛍光体。
【請求項3】
残部として波長440nm以上460nm以下の光で励起される緑色蛍光体及び/又は黄色蛍光体を含む請求項1又は2に記載の白色発光装置用蛍光体。
【請求項4】
前記緑色蛍光体はEuを付活したβサイアロンである請求項3に記載の白色発光装置用蛍光体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する白色発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)に用いられる蛍光体及びLEDを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置に用いられる蛍光体として、βサイアロンと赤色発光蛍光体の組み合わせがあり(特許文献1参照)、特定の色座標を有する赤色発光蛍光体と緑色発光蛍光体を組み合わせた蛍光体がある(特許文献2参照)。赤色蛍光体としては、CASNやSCASNと称される窒化物蛍光体を用いる技術があり(特許文献3参照)、広く普及している。この赤色蛍光体は、用途によって使い分けられており、演色性を重要視する場合には、ピーク波長630〜650nm程度の長波長品を用い、明るさを重要視する場合には、ピーク波長610〜630nm程度の短波長品を用いる。また、赤色蛍光体は、高温下での使用や長期間使用した際の輝度低下が少ない高信頼性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−180483号公報
【特許文献2】特開2008−166825号公報
【特許文献3】特開平10−242513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら演色性と明るさをバランスさせた赤色蛍光体が求められている。本発明の目的は、信頼性を損なうことなく、演色性、信頼性を改善するために特定の橙色蛍光体を特定の割合配合した赤色蛍光体を提供することであり、さらに、演色性及び信頼性の改善された赤色蛍光体を用いた白色発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
波長455nmの光励起でのピーク波長590nm以上604nm以下、蛍光強度185%以上210%以下の酸窒化物蛍光体(A)と
してαサイアロンと、
440nm以上460nm以下の波長で光励起したときに生じるピーク波長615nm以上625nm以下の窒化物蛍光体(B)
としてSCASNと、を有し、
αサイアロンとSCASNとの配合割合が各々4質量%以上12質量%以下、
αサイアロン及び
SCASNの合計の配合量が10質量%以上24質量%以下である
白色発光装置用蛍光体である。
【0006】
前記
白色発光装置用蛍光体は、
αサイアロン及び
SCASNの配合割合をa及びbとしたときに、0.33≦a/b≦3が好まし
い。更に好ましくは、
残部として、波長440nm以上460nm以下の光で励起される緑色蛍光体及び/又は黄色蛍光体を含み、該緑色蛍光体はEuを付活したβサイアロンである。
【0007】
本願の他の観点からの発明は、前述の蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する
白色発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性を損なうことなく演色性と明るさをバランスさせて改善することできる蛍光体を提供することができ、この蛍光体を用いた白色発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ピーク波長590nm以上604nm以下、蛍光強度185%以上210%以下の酸窒化物蛍光体(A)と、ピーク波長615nm以上625nm以下の窒化物蛍光体(B)を有し、酸窒化物蛍光体(A)、窒化物蛍光体(B)の配合割合が各々4質量%以上12質量%以下、酸窒化物蛍光体(A)及び窒化物蛍光体(B)合計の配合量が10質量%以上24質量%以下である蛍光体である。
【0010】
本発明は、橙色蛍光体を赤色蛍光体に配合することで、視感度を改善して明るさを向上させるものであるが、橙色蛍光体としてαサイアロンを用いる。αサイアロンは高信頼性で発光効率が高いため、高信頼性の赤色蛍光体の調製に適した素材である。また、SCASNと称されるピーク波長620nm程度の蛍光体は、αサイアロンとピーク波長が比較的近く、青色励起で発光させた際に、相互作用による発光の減衰が少ないため、両者の組み合わせは好適である。
【0011】
酸窒化物蛍光体(A)のピーク波長を590nm以上604nm以下としたのは、ピーク波長615nm以上625nm以下の窒化物蛍光体(B)と組み合わせた際に、その視感度を改善しながら、相互作用による減衰を小さくして発光効率の低下を抑制するためである。両者のピーク波長があまり近いと窒化物蛍光体(B)に対して視感度の改善効果、即ち明るさの改善効果が小さくなってしまい、余り離れていると酸窒化物蛍光体(A)の発光の内、窒化物蛍光体(B)の励起に使われる割合が高くなって、混合物の量子効率が下がり、輝度が低くなる。
【0012】
本発明においては、酸窒化物蛍光体(A)と窒化物蛍光体(B)の配合比率は、1:3〜3:1の範囲が適切であるが、両者を組み合わせて赤色蛍光体として用いるので、それ以外に配合する蛍光体によって最適値は異なる。青色光で励起して目的の白色光を得るためには、緑(および/または)黄色蛍光体と組み合わせるが、酸窒化物蛍光体(A)と窒化物蛍光体(B)との合計配合量は10から24質量%の範囲が適性である。酸窒化物蛍光体(A)又は窒化物蛍光体(B)個別の配合量としては、4質量%以上、12質量%以下となる。
【0013】
本発明の蛍光体において、酸窒化物蛍光体(A)の蛍光強度を185%以上210%以下としたのは、現在入手可能な中で最も発光効率が高いレベルであるためである。窒化物蛍光体(B)のピーク波長を615nm以上625nm以下としたのは、現在入手可能な窒化物蛍光体では、最も波長が短いレベルであるためである。すなわち、高効率橙色を短波長赤色蛍光体と組み合わせることにより、演色性と輝度を両立させた蛍光体が得られる。更に、酸窒化物蛍光体(A)と窒化物蛍光体(B)とは共に高信頼性であるが、信頼性については、相互作用の影響を殆ど受けないため、両者の混合物も高信頼性となる。
【0014】
蛍光体の蛍光強度は、標準試料(YAG、具体的には三菱化学株式会社製P46Y3)のピーク高さを100%とした相対値を%表示して示したものである。蛍光強度の測定は、株式会社日立ハイテック製F−7000形分光光度計を用い、以下の方法で行った。
<測定法>
1)試料セット:石英製セルに測定試料及び標準試料をそれぞれ充填し、測定機に交互にセットして測定した。充填は、相対充填密度35%程度になるようにしてセル高さの3/4程度まで充填した。
2)測定:455nmの光で励起し、300nm乃至800nmの最大ピークの高さを読み取った。測定を5回行ない、最大値、最小値を除いて残りの3点の平均値とした。
【0015】
蛍光体のピーク波長は、蛍光強度の測定時に最大強度の波長であり、その測定にあっては、大塚電子社製のMCPD−7000瞬間マルチ測定システムにより、HALMA Company製のlabsphere(登録商標)スペクトラロン標準反射板(99%、2.0“×2.0”)を標準試料として行なった。測定方法は、アルミナ製の石板の中央部φ16mmに3mm厚さに試料を充填し、石英板で軽く押しつけ、すり切ってセットし、455nmの光で励起し、300nm乃至800nmのピーク高さを読み取った。ピーク波長の測定値は、5回の測定値の最大値、最小値を除いた残り3点の平均値とした。
【0016】
本発明における酸窒化物蛍光体(A)は、ピーク波長590nm以上604nm以下、蛍光強度185%以上210%以下の酸窒化物蛍光体である。具体的には、αサイアロンがあり、より具体的には、電気化学工業株式会社アロンブライト(登録商標)のうち、YL−C190、YL−C200、YL−595a、YL−595A’、YL−595A、YL−600a、YL−600A’、YL−600Aがある。これらは現在入手できるαサイアロン蛍光体としては高いピーク強度を有する従来にない蛍光体材料である。
【0017】
本発明における窒化物蛍光体(B)は、ピーク波長615nm以上625nm以下の窒化物蛍光体である。具体的には、SCASNと略されてエスカズンとよばれる赤色蛍光体であり、より具体的には、三菱化学株式会社BR−102D(ピーク波長620nm)がある。この窒化物蛍光体(B)には、ピーク波長の調整用としてIntematix社R6436(ピーク波長630nm)やR6535(ピーク波長640nm)、三菱化学株式会社のBR−102C、BR−102F(ピーク波長630nm)又はBR−101A(ピーク波長650nm)を混在させても良い。
【0018】
酸窒化物蛍光体(A)及び窒化物蛍光体(B)は青色光で励起して白色光を得るために、緑又は黄色の蛍光体とともに用いられるが、本発明の蛍光体の特性を活かすためには、高輝度、高信頼性の蛍光体が好ましい。具体的には、緑色蛍光体としては、Euを付活したβサイアロンやCeを付活したLuAG(ルテチウムアルミニウムガーネット)、黄色蛍光体としては、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)であり、これらを基本構造として改良を加えた蛍光体であっても構わない。また、BOS(バリウムオルソシリケート)を基本構造とするシリケート系の蛍光体を緑色蛍光体に加えることで、演色性を高めることもできるが、シリケート系の蛍光体は信頼性に劣るため、その添加量は少なくすることが好ましい。本発明の酸窒化物蛍光体(A)及び窒化物蛍光体(B)、更に他の蛍光体との混合手段は、均一に混合又は希望する混合度合いに混合できれば、適宜選択できるものである。この混合手段にあっては、不純物が混入したり、蛍光体の形状や粒度が明らかに変わったりしないことが前提である。
【0019】
本願の他の観点からの発明は、上述のように、混合した蛍光体と、当該蛍光体を発光面に搭載したLEDとを有する発光装置である。LEDの発光面に搭載される際の蛍光体は、封止部材によって封止されたものである。封止部材としては、樹脂とガラスがあり、樹脂としてはシリコーン樹脂がある。LEDとしては、最終的に発光される色に合わせて赤色発光LED、青色発光LED、他の色を発光するLEDを適宜選択することが好ましく、青色発光LEDの場合、窒化ガリウム系半導体で形成され、ピーク波長は440nm以上460nm以下にあるものが好ましく、さらに好ましくピーク波長は、445nm以上455nm以下である。LEDの発光部の大きさは0.5mm角以上のものが好ましく、LEDチップの大きさは、かかる発光部の面積を有するものであれば適宜選択でき、好ましくは、1.0mm×0.5mm、更に好ましくは1.2mm×0.6mmである。
【実施例】
【0020】
本発明に係る実施例を、表及び比較例を用いて詳細に説明する。
【0021】
【表1】
【0022】
表1に示した蛍光体は、本発明の蛍光体における酸窒化物蛍光体(A)及び窒化物蛍光体(B)とその比較例及びこれらと混合して用いるその他の蛍光体である。表1の酸窒化物蛍光体(A)のうち、P2だけがピーク波長590nm以上604nm以下、蛍光強度185%以上210%以下の条件を満たす蛍光体である。表1の窒化物蛍光体(B)のうち、P4のみがピーク波長615nm以上625nm以下の条件を満たす蛍光体である。
【0023】
これら蛍光体を表2の割合で混合して、実施例、比較例に係る蛍光体を得た。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例1の蛍光体は、酸窒化物蛍光体(A)としての表1のP2の蛍光体を4.0質量%、窒化物蛍光体(B)としての表1のP4の蛍光体を6.0質量%、その他の蛍光体として表1のP7の緑色蛍光体を90.0質量%配合したものである。表2での蛍光体の構成におけるP1乃至P8の値は質量%である。蛍光体同士の混合にあっては、合計2.5gを計量してビニール袋内で混合した上、シリコーン樹脂(東レダウコーニング株式会社OE6656)47.5gと一緒に自転公転式の混合機(株式会社シンキー製「あわとり練太郎」ARE−310(登録商標))で混合した。表2のa+bは、酸窒化物蛍光体(A)の実施例であるP2の配合割合をa、窒化物蛍光体(B)の実施例であるP4の配合割合をbとしたときの値である。但し、bは、P4の配合量を超えない場合には、P5を含む。
【0026】
LEDへの蛍光体の搭載は、凹型のパッケージ本体の底部にLEDを置いて、基板上の電極とワイヤボンディングした後、混合した蛍光体をマイクロシリンジから注入して行なった。蛍光体の搭載後、120℃で硬化させた後、110℃×10時間のポストキュアを施して封止した。LEDは、発光ピーク波長448nmで、チップ1.0mm×0.5mmの大きさのものを用いた。
【0027】
表2で示した評価について説明する。
表2の初期評価として、演色性の評価を採用した。演色性の評価には色再現範囲を採用し、色座標におけるNTSC規格比の面積(%)で表した。数字が大きいほど演色性が高い。評価の合格条件は68%以上である。一般的に、70%以上は優れた色再現性、66%未満は色再現性に劣るとされ、これは一般的なLED−TV向けに採用されている条件である。
【0028】
表2の輝度は25℃での光束(lm)で評価した。電流100mAを10分間印加した後の測定値を取った。評価の合格条件は、28.4lm以上である。この値は測定機や条件によって変わるため、実施例との相対的な比較するために、(実施例の下限値)×90%として設定した値である。
【0029】
表2の高温特性は、25℃の光束に対する減衰性で評価した。50℃、100℃、150℃での光束を測定して、25℃を100%とした時の値である。評価の合格条件は、50℃で97%以上、100℃で95%以上、150℃で90%以上である。この値は、世界共通の規格値ではないが、現状、高信頼性の発光素子の目安と考えられている。
【0030】
表2の長期信頼性は、85℃、85%RHにおいて、500時間(hrs)及び2,000時間放置した後、取り出して室温で乾燥した際の光束を測定し、初期値を100%としたときの光束の減衰値である。
評価の合格条件は、500hrsで96%以上、2,000hrsで93%以上である。これは高信頼性の蛍光体でなくては達成できない値である。
【0031】
表2に示すように、本発明の実施例は、比較的良好な色再現性、光束値を示し、且つ高温や高温高湿下で長期保存した際の光束の減衰も比較的小さい。
これに対して比較例1、2、4、5、6、7、8は演色性に劣り、比較例2、3、5、9では光束値が小さい。また、シリケート系蛍光体(表中のP6)を酸窒化物蛍光体(A)又は窒化物蛍光体(B)の配合量を超えて多量に配合した用いた比較例5、7、9では、高温特性、長期信頼性に劣り、信頼性の低いLEDパッケージとなって、テレビやモニターなどの製品に適用することは到底望めない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の蛍光体は、白色発光装置に用いられる。本発明の白色発光装置としては、液晶パネルのバックライト、照明装置、信号装置、画像表示装置に用いられる。